映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「廃墟の白墨」遠田潤子

2021年12月30日 | 本(その他)

幻想的かつ美しく残酷

 

 

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ミモザの父・閑に一通の封筒が届いた。
白い線で描かれた薔薇の絵のモノクロ写真が一枚入っていて、
裏には「四月二十日。零時。王国にて。」とあった。
病床の父は写真に激しく動揺し、捨てろと彼に命じる。
その姿を見たミモザは春の夜、余命短い父のために指定された明石ビルに向かう。
廃墟と化したビルの最上階には三人の男たちが待っていた。
男たちは過去を語りはじめる。
白墨の王国だったこのビルの哀しく凄まじい物語を―。

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私には初めての作家さん。
いや、それにしても、まだまだ未読の本が大海のように広がっているものですね。

 

ちょっと変わった建物に住んでいた人々が織りなす物語。
その建物は、中央の中庭を取り囲んで作られている、5階建ての古めかしいビル。
スペインのパティオをイメージしてあるらしい。
・・・と、この作りは、よくミステリに登場するのであります。
そこに住んでいた一人の女と、その娘、そして4人の男たち。
そこで起きた凄惨な事件・・・。

そして約30年を経て、廃墟となったこのビルに関係者が集まる。
30年前に起こった出来事とは一体何だったのか・・・。

 

本作、ジャンルわけをするとしたら何になるのでしょう。
ファンタジー? 
ミステリ? 
幻想的で残酷な物語ながら、最後に真相が語られるのはミステリ的。
私が今までに読んだ中では、篠田真由美さんのムードに近いかも知れません。
この一種独特な雰囲気、好きですねえ・・・。

ちょっと魅せられまして、この著者の本をもう少し読んでみようかな、
という気になりました。

 

図書館蔵書にて

「廃墟の白墨」遠田潤子 光文社

満足度★★★★☆

 


約束のネバーランド

2021年12月29日 | 映画(や行)

残酷な運命を背負う子どもたち

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原作のコミックもアニメも見ていませんが、どんな話か興味はあったので拝見。

人里離れた自然の中、楽園のような孤児院「グレイス=フィールドハウス」が舞台です。
子どもたちは母親代わりの優しいイザベラ(北川景子)を「ママ」と呼んで親しみ、
いつか里親に引き取られる日を待って過ごしています。

ある日、年長者エマ(浜辺美波)とノーマン(板垣李光人)は、
自分たちが園を出る日は、鬼の食料として命を奪われる日である
という恐ろしい真実を知ってしまいます。
ここは楽園ではなく、鬼のための食用児を育てる農園であり、
ママは飼育監だったのです。
この2人に、同じく年長者のレイ(城桧吏)も加わり、
自分たちだけでなく孤児全員を引き連れて脱出する計画を立て始めます。

 

何かの目的のために育てられる孤児たち、といえば、
カズオ・イシグロ氏の「わたしを離さないで」を思い出します。
同じ方向ではありつつも、さすがにこちらは原作がコミック。
直接的に「食用」に飼育されるという残酷な運命を子どもたちは背負っています。

ストーリーが進んで、この外の世界の有様が語られると、
その残酷な世界観に心震えてしまいます。
鬼と人間との密約によって、平和的に鬼の「食用児」を供給するシステムができあがっている。
関係者以外の大多数の人間は、鬼のことも知らず、
ましてや食用にされる子供のことも知らず、
平和な日常を過ごしているというのですね。
鬼と人間の果てしなく不毛な闘いを止めるための手段であったようなのですが・・・。

まあ、とすれば万一子どもたちが皆脱走することが出来れば、
他の人々に紛れて生きていくことは可能なのかもしれません。
が、本作中ではその先のことまでは描かれていません。

 

本作では子どもたちが知恵と勇気をふりしぼって、どう生き抜き、ここを脱出しようとするのか、
というところがメインとなっています。
ストーリーとしては、まあ楽しめましたが・・・。
お子様向けの感は拭いきれない。

<WOWOW視聴にて>

「約束のネバーランド」

2020年/日本118分

監督:平川雄一朗

原作:白井カイウ、出水ぽすか

出演:浜辺美波、城桧吏、板垣李光人、渡辺直美、北川景子

 

怖さ★★☆☆☆

自己犠牲度★★★★☆

満足度★★★☆☆


世界で一番美しい少年

2021年12月28日 | 映画(さ行)

美少年の50年

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ルキノ・ビスコンティ監督による「ベニスに死す」(1971)で、
主人公を破滅に導く美少年・タジオ役を演じた、ビョルン・アンドレセンの50年を描きます。

「世界で一番美しい少年」と賞賛された彼は、当時15歳で、
スウェーデンのオーディションで監督に見出されました。
そのオーディション時の映像もちゃんとありまして、これはすごく貴重です。
監督に上半身を脱いで欲しいといわれ、若干躊躇する彼に、リアルな15歳を見ました。
その表情がまた、すごく良かったりするなんて思うことこそ不謹慎なのかも、
と思ったりもしますが・・・。

さて、映画が公開されると、彼のその美貌は世界中で賞賛のマトとなり、
日本でも熱狂的に迎えられます。
なんと日本でCM撮影をしたり、日本語で歌いレコ-ディングまでしたのですね。
作中でその曲が流されましたが、そういえば、うっすらと聞き覚えがあるような・・・。
今そのレコードを持っていたら、ちょっとしたお宝モノでしょうか?

本作には池田理代子さんまで出演していて、
あの「ベルサイユのばら」のオスカルのモデルが、
ビョルン・アンドレセンであることを明かしています。
確かにそう聞くと、若き日の彼はもう、オスカルにしか見えてきません。

ただただ、少年が大人の都合で引き回されていただけだと思うのですが、
彼の中では日本にはイヤな印象がないようで、そこだけは救いでした。

それにしても、ただでさえ多感な年頃、世界中からの注目と賞賛の渦のなか、
本当の自分を見失って行くのは無理もありません。
それで高飛車になれるようならまだ良かったけれど、
映像の中の彼はただ戸惑っていたように見受けられます。

人は彼の容姿ばかりをみて勝手に盛り上がる。
女性ばかりでなく、成人男子の絡みつく視線もまた、
耐えがたいモノだったでしょう・・・。
彼は、誰も彼の内面を知ろうとしないことに絶望と孤独を感じていたのかも知れません。

15歳という大人と子供の狭間、ほんの一時の一番繊細で美しい時間。
それはそういう瞬間だったのでしょう。
その時が過ぎれば、途端に世間は彼に無関心になってしまう。
彼のその後の苦しみについて、本作は多くは語っていませんが、想像にはあまりあります。

 

本作は次に彼のおいたちについて語っていきます。
彼の母はシングルマザーで、父親のことは未だに全く分かっていません。
そしてその母はビョルンがまだ子どもの頃に突然家を出て行方不明となり、
後に死体となって発見されます。

その後、彼は祖母に育てられたのですが、この祖母が目立ちがりやで、
言ってみればステージママならぬステージグランマでしょうか、
率先してまだ少年の彼を「仕事」につかせたのです。
もしこのときに、しっかりとした両親がついていて彼のことを護っていれば、
彼の人生はまた違ったモノになったのかも知れません。

これも作中で言っていたわけではありませんが、
世間に忘れられほとんど世捨て人のようになった彼を
スクリーンにまた引っ張り出したのが、最近の「ミッドサマー」というホラー作品。
この作品、当ブログでも取り上げていますが、
残念ながらビョルン・アンドレセンについては言及していません。
でも、彼が出演していて、どんな役だったかはちゃんと覚えていますよ!

ここで再び注目されて、このドキュメンタリー制作の運びになったのでは、
と私は思うのですが、実のところはよく分かりません・・・。

たしかに15歳の美しさは、とうに失われている。
けれど、誰にとっても同じく年月は流れるわけで・・・、
50年ですか。
いやはや、この方私と同年生まれですから!! 
自分の老化を棚に上げて人のことなんか言えないです。
でも、私だって50年前なら誰も注目はしなかったと思うけれど、
それなりに輝いていただろうと思いますよ・・・。
若さって、そういうモノですよねえ・・・、と、しみじみ。

むしろ彼はこの年でもお腹に脂肪がたっぷりついたりせず、
スリムでシャッキリしている。
カッコイイです。
まだまだお元気で頑張れそうですね。

 

<シアターキノにて>

「世界で一番美しい少年」

2021年/スウェーデン/98分

監督:クリスティーナ・リンドストロム、クリスティアン・ペトリ

出演:ビョルン・アンドレセン

 

時の流れ度★★★★★

栄光と破滅の軌跡度★★★★★

満足度★★★★☆

 


るろうに剣心 最終章The Beginning

2021年12月27日 | 映画(ら行)

剣心の「はじまり」の物語

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「るろうに剣心」シリーズ、完結編二部作の第2弾。
前作「The Final」は見たのに、こちらを見そびれていました。
剣心が不殺の誓いを立てるに至るまで、
そして、頬に刻まれた十字傷の謎に迫ります。

 

時は幕末。
「人斬り抜刀斎」と呼ばれ、恐れられていた男がいました。
多くの者を非情に惨殺するこの男こそ、緋村剣心(佐藤健)。
彼は、長州藩・桂小五郎(高橋一生)のもと、
影の暗殺者として佐幕派の者を倒す仕事をしていたのです。

あるとき、雪代巴(有村架純)という女に暗殺現場を見られてしまい、
他言されては困るため、そばに置き様子を見ることになります。

にこりともせず不思議な雰囲気をまとう巴。
一方剣心は最近、生きようとする執念の凄まじい男を倒し、
その男に頬に傷をつけられてからは、おのれの仕事に若干疑問を抱き始めていました。
剣心と巴は微妙な緊張感を持って対峙するのですが、
次第にかすかな安らぎのようなものを覚えるようになるのです。
決して人前で眠り込むことのない剣心が、巴のいる場所で、まどろむようになる・・・。

禁門の変により京を追われた長州藩の面々には、
しばらく潜伏の期間が訪れます。
そのとき剣心と巴は、農村で穏やかな二人だけの時を過ごします。
ほんのつかの間、二人に笑顔が浮かぶ平和なとき。
しかし・・・。

二人の間の緊張感、そしてそれが次第にほぐれていく様、
すごく繊細に描かれていました。
このシリーズが始まってから約10年。
佐藤健さんの演技の深まりを感じるところでもあります。
迫力満点の殺陣のシーンもさることながら、
私、こういう所にシビれて、感動しました。

2人の暮すあばら屋は、室内でも息が白く見える寒々としたところ。
この空気感がまた良かったです。
そんな中で、2人は互いのぬくもりを幸せに思いながら過ごしていたのですね・・・。

時は新選組の活動も華々しい幕末。
斎藤一(江口洋介)との対面シーンや、沖田総司(村上虹郎)との対決シーンもあって、
見所でもあります。
野球少年の村上虹郎さんもいいですけれど、沖田総司ときたか、カッコイイ!!

前作で、巴の弟・縁(えにし)がなぜそんなに剣心を嫌うのか、
ということにつながるスト-リーでもあり、
なるほど・・・と思うところでもあります。
ここの時系列が逆になっているところがまたいいのですよね。
まさに、Beginninng、剣心の始まりの物語が一番最後に描かれる。
なんてしゃれているのでしょう。
そして私は本作が一番好きかも知れません。

さっさと見れば良かった・・・。

 

「るろうに剣心 最終章The Beginning」

2021年/日本/137分

監督・脚本:大友啓史

原作:和月伸宏

出演:佐藤健、有村架純、高橋一生、村上虹郎、江口洋介、安藤政信

 

物語の完結度★★★★★

満足度★★★★★

 


「信長の原理」 垣根涼介

2021年12月26日 | 本(その他)

働く者の法則

 

 

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何故おれは、裏切られ続けて死にゆくのか。信長の内面を抉る革命的歴史小説

織田信長の飽くなき渇望。
家臣たちの終わりなき焦燥。
焼けつくような思考の交錯が、ある原理を浮かび上がらせ、
すべてが「本能寺の変」の真実へと集束してゆく――。

まだ見ぬ信長の内面を抉り出す、革命的歴史小説!

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織田信長の、これまでにない切り口から描かれたストーリー。

子供時代、いつも1人で野山を歩き回っていた信長は、
アリの巣穴を飽きもせずに眺めて、あることに気がつきます。

せっせと食物を集めては巣穴に運び込んでいるように見える、アリの行列。
しかしそれはよく見ると、本当にせっせと仕事をしているのは全体のほんの2割程度。
そして6割は、のらりくらりと働いているような、サボっているような、
いい加減なものたち。
そして、残りの2割はハナから全くやる気のない役立たず。

信長が長じて合戦に加わるようになると、
兵士たちの動きがこのアリの集団と同じであることに気がつくのです。
必死で先頭に立って闘い、成果を上げるのが全体の二割。
6割は逃げ腰で、さしたる戦果は揚げられない。
そして、残りの2割はやはり、役立たず。

そして信長はアリを使ってある実験を試みます。
全体のうちのよく働く2割だけを使って、同じくエサを運ばせてみる。
すると、予想に反してその中でもエリートは2割だけ。
適当なのが6割。
ダメなのが残り2割。

この中のエリート集団だけを使って同じ実験をしても、
優秀なのはやはり2割だけ。

 

神も仏も信じない信長ですが、世の中には神とは別の何かの“ことわり”があるらしい、
と信長は思います。
どう頑張っても集団の中での働きぶりは1:3:1。

こんなことから信長は、
優秀な家臣が5人いれば、必ずそのうちの1人はダメな家臣、
つまり自分を裏切る者になるのではないか、と思うようになるのです。

 

それにしても、どうしてこのような割合になってしまうのか。
すべてが役に立つ者にはなぜならないのか・・・。
信長がその答に気づくのは、なんと本能寺の炎の中でした・・・。
すべてが“ことわり”通り。
ただし、自分はその相手を読み間違えていた・・・。
「是非もなし」という信長のセリフが、みごとにハマります。

 

明智光秀が謀反を決意し、実行に移すまでの描写がさすがに圧巻でした。

本作の姉妹作というべきなのか、「光秀の定理」という作品もありまして、
こちらもぜひ読まなくては、と一瞬思い、
でもよく考えたら数年前に読んでいました。
確かそちらは「確率」に関係する話だったような・・・。
うろ覚ならもう一度読んでもいいのですけどね・・・。

<図書館蔵書にて>
「信長の原理」垣根涼介 角川書店

満足度★★★★☆

 


ラスト・クリスマス

2021年12月24日 | 映画(ら行)

不思議な青年・トムとは

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時節柄、クリスマスものを・・・。

ロンドンのクリスマスショップで働くケイト(エミリア・クラーク)。
仕事に身が入らず、乱れがちな生活。
同居人から追い出されても、折り合いの良くない実家には帰る気が起きません。

そんなある日、ケイトの前に不思議な青年・トム(ヘンリー・ゴールディング)が現れます。
彼はケイトの問題を見抜き、答を導き出します。
しかし、ケイトがそんなトムとまた会いたくなっても、
彼はケータイを持たず、連絡がとれません。
何日か姿が見えないと思ったら、不意に現れたりするのです。
果たしてトムの真実とは・・・?

ケイトは少し前に大病をしたらしいと分かって来るのですが、
その後ケイトは生きる実感や目的を見失ってしまっているようです。
その秘密とトムの正体が明かされるとき、
私たちは深い感動に包まれます。

まさにクリスマスの奇跡。

ステキな物語です。
クリスマスに、ぜひ。

<WOWOW視聴にて>

「ラスト・クリスマス」

2019年/アメリカ/103分

監督:パール・フェイグ

脚本:エマ・トンプソン、ブライオニー・キミングス

出演:エミリア・クラーク、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ヨー、エマ・トンプソン

 

クリスマスの奇跡度★★★★☆

ハート・ウォーミング度★★★★☆

満足度★★★★☆

 

 


音楽

2021年12月23日 | 映画(あ行)

アニメの可能性はどこまでも

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漫画家・大橋裕之さんの「音楽と漫画」をアニメ化したものです。
実写の動きをトレースする「ロトスコープ」という手法で
7年をかけて映像化したとのこと。

さてそれにしても、素っ気ない「音楽」という題名。
そして恐そうな無表情のオニーサンたちのポスター
・・・ということであまりそそられず、見るつもりはなかったのです。
でも先日WOWOWの「映画工房」で
斎藤工さんと板谷由夏さんがオススメしていたので、拝見。
いや~。
百聞は一見にしかず。
先入観に囚われず、見てみるものです。

楽器も触ったことがない不良高校生3人が、思いつきでバンドをスタートさせます。
研二は、ベースとギターの区別もつかなかったし、
コードなんて知る由もありません。

しかし同じ高校のフォークソング部・森田は、
なぜか彼らの演奏に原始的な息吹を感じ取り、
次の町内野外フェスに出ないかと誘います。
物怖じしない彼らは一も二もなく出場することにしますが、
肝心の研二は「飽きた」といって、練習にも出てこなくなり・・・。

そしていよいよフェス当日・・・。

一見地味で気弱な森田くんが、研二たちの演奏に「ガ~ン」と打たれ、
新たな世界を見つけたような映像が素晴らしかった。
気に入りました。
そしてまた、フェスの日には金髪で現れた森田くんの確かな音楽力。
すっかり私は彼のファンになりましたですよ。

そしていよいよ研二たち「古武道」の演奏シーンは、
なるほど、ここでこそ「ロトスコープ」の威力爆発。
シビれます。
もっとずーっと見て聞いていたかった・・・。

 

登場人物たちは皆無表情で一見魅力はありませんが、
だからこそ、アニメの表現力が引き立つのだと思います。
うんとかわいかったり凜々しかったり、リアルだったり・・・
そういう方向を極めるのもアニメの魅力ではありますが、
こんな風に単純化しつつも、より心を動かすという方向性も忘れてはいけませんね。

だまされたと思って、皆さんもぜひ見てみてください。

<WOWOW視聴にて>

「音楽」

2019年/日本/71分

監督・脚本:岩井澤健治

原作:大橋裕之

声:坂本慎太郎、前野朋哉、芹澤興人、駒井蓮、平岩紙、竹中直人

 

音楽性★★★★☆

満足度★★★★★


私は確信する

2021年12月22日 | 映画(わ行)

思い込みの危うさ

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2000年、フランスで実際に起こった未解決事件
「ヴィギエ事件」を題材とした裁判サスペンスです。

スザンヌ・ヴィギエが3人の子どもたちを残して姿を消しました。
数々の証言や疑惑から、大学教授の夫・ジャックが妻殺害の容疑者となります。
ジャックの無罪を確信するシングルマザーのノラは、
敏腕弁護士のデュポン=モレッティに弁護を依頼。
自らもアシスタントとなって調査を進めます。
そんな中、別の人物の疑惑が浮かび上がり、
ノラはその人物が真犯人と思うようになりますが・・・。

ヴィギエ夫妻の仲は冷え切っており、
スザンヌにはほとんど公認の恋人・デュランテがいました。
またジャックはヒッチコックの映画が好きで、
学生たちへの講義で「完全犯罪は可能だ」と言っていたこともあったのです。
そんなことから、ジャックに“真犯人フラグ”が立ってしまったわけです。
マスコミや世間からすっかり妻殺害の犯人扱いされてしまったジャック。

でも一番大事なことは、そもそも妻の遺体が発見されたわけでもない。
ジャックの犯行を裏付ける証拠も何一つない。
そんななかで、殺人罪を疑われるということがあり得るなんて・・・。
全く馬鹿げた話です。

まさに、いまやっているTVドラマによく似ていますね。
でもさすがにドラマ中では、世間のウワサだけで夫を逮捕したりはしない。
そこが救いです。

さて一方ノラは、デュランテの通話記録のテープ起こしを続けていたのですが、
デュランテが関係者たちに、ジャックの犯行を疑わせるような証言をするよう
誘導していることに気がつくのです。
そのためデュランテこそが真犯人と確信し、
息子のことも仕事も放りだして、狂ったように調査をし続ける・・・。
これこそが「正義」という思いで彼女は突き進んでいるわけですが、
デュランテが犯人ということの証拠も、もちろんないのです。

どちらにしても、思い込みだけで行動することの危うさ、
それを表わしているところがいいですね。
実話に基づきながらも、このノラというキャラクターは創作だそうです。
映画の作り手の思いが浮かび上がるよい設定でした。

 

結局、回りの思惑に振り回されず、ただ事実だけを見つめた弁護士の言葉が、
陪審員たちの心を落ち着けたように思います。

とても力のある作品です。

 

<WOWOW視聴にて>

「私は確信する」

2018年/フランス・ベルギー/110分

監督:アントワーヌ・ランボー

出演:マリナ・フィオス、オリビエ・グルメ、ローラン・リュカ、フィリップ・ウシャン

 

思い込みの危うさ★★★★★

満足度★★★★☆


私はいったい、何と闘っているのか

2021年12月21日 | 映画(わ行)

どうしても闘わなければいけませんか?

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スーパーのウメヤで働く、45歳、伊澤春男(安田顕)。
勤続25年にして万年主任。
信頼する店長の「春男はこの店の司令塔」という言葉にやる気をかき立てられて、
せっせと仕事に励みます。
いつか自分も店長になることを夢見て。
しかし彼のやる気や一生懸命さはいつも空回り。
結局結果は出ずに落ち込むようなことばかり・・・。

そんな彼のもう一つの生きがいは、家族。
妻・律子(小池栄子)と2人の娘と息子。
この4人は、こんなぱっとしない春男のことをよく分かっていて、
でも大好きのように見えます。

愛する家族とのかけがえのない生活。
そして、念願の店長への道。

そういうもののために、春男は闘っている・・・らしい?

目指す頂点がスーパーの店長というささやかなあたりが、
ごく庶民的でいいですよね。

気が利いて人望もありそうな春男は、お人好しでもあり、
それが結局彼の足を引っ張ることになります。
娘が連れてくる彼氏には、せいぜい威厳のあるところをみせたいと思うのですが、
やっぱりそれもうまくはいかない・・・。

さてところが、実はこの家族には私たちには明かされない「事情」があったのです。
そこが最後に明かされるところがミソですな。

結局彼は何と闘っていたのか。
いや、闘わずとも彼は始めからそれを持っていたのかも知れない。
そんな気がします。

いつも冷静に春男を見ていた、
スーパー店員・高井(ファーストサマーウイカ)がこんなことを言います。

「女性活躍とか、世間では言うけれど、私は別にえらくなりたいわけじゃない。
普通に仕事が出来ればいいんです」

私は思わず、「そう、ソレソレ」と深くうなずいてしまいました。
男性は社会の中でトップを目指そうとしますが、
女性はそうではないんじゃないかな・・・と思うことが多いです。
もちろん個人差はありますが、相対的に言って・・・。
女は群れのリーダーでなくても、自分の落ち着くポジションがあって平和にすごせるのなら、
それでOK。

女性の権利を主張する方ならこんなことを言うと、
女性はそう思わされている、というかな? 

でもだからといって、女性でトップの地位にいる人を否定するわけでは全然ないです。
適材適所というものもありますし。
むしろ女性の方が、偉くなりたいから、ではなくて、
私じゃなければこれが出来ないから、
という思いで前に立つ人が多いような気がします。

権力の座を争ってあれこれ画策するようなTVドラマや、
実際に「○○のドン」などと呼ばれる人をみたりすると、
なんでそんなに偉くなりたいのか、私には全然分からない・・・。
そしてその人の妻には絶対なりたくないと思う・・・。

ま、個人の感想です。

 

<サツゲキにて>

「私はいったい、何と闘っているのか」

2021年/日本/114分

原作:ツブヤキシロー

出演:安田顕、小池栄子、岡田結、ファーストサマーウイカ、SWAY、金子大地

 

奮闘度★★★☆☆(本当に、何と闘っていたのだろう)

家族愛度★★★★★

満足度★★★★☆

 


「夢見る帝国図書館」中島京子

2021年12月20日 | 本(その他)

図書館の最大の敵は戦争

 

 

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「図書館が主人公の小説を書いてみるっていうのはどう?」
作家の〈わたし〉は年上の友人・喜和子さんにそう提案され、
帝国図書館の歴史をひもとく小説を書き始める。

日本で最初の図書館をめぐるエピソードを綴るいっぽう、
わたしは、敗戦直後に上野で子供時代を過ごし
「図書館に住んでるみたいなもんだったんだから」
と言う喜和子さんの人生に隠された秘密をたどってゆくことになる。

帝国図書館と喜和子さんの物語はわたしの中で分かち難く結びついていく……。

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本作は、二つの物語を同時に楽しめるステキに楽しい本でした!!

作家の<わたし>が、上野で知り合った年上の女性・喜和子さんに
「図書館が主人公の小説をかいてみない?」と言われて、
帝国図書館の歴史を紐解く小説を書き始めます。
その、時代を追った小説が少しずつ進行していくのです。

そしてまた一方、風変わりなこの喜和子さんのことが語られて行きます。
子どもの頃、上野のバラックで二人のお兄さんと暮していて、
毎日のように図書館に通っていた、という。
不思議な喜和子さんの人生が、まるでミステリのように提示され、
少しずつその秘密が解き明かされていきます。

 

まずは国立図書館の話。
単に、年表のような歴史ではなく、まるで図書館自身が語っているかのような、
思いのこもった歴史なのです。
とても興味深い。

明治の人々の、欧米の図書館に負けないような立派な図書館を作りたいという熱い思い。
その思いが政府に届き、なんとか実現しそうというときに、
いつでも立ちはだかるのは予算の問題。
とにかく予算がない。
いつも何かしらの「戦争」が起きて、予算は戦費に回されてしまう。
「ペンは剣よりも強し」とはいうけれど、
ここの図書館については、いつでも剣の方がペンよりも強いというわけなのでした・・。

また、この図書館を訪れたであろう数々の文豪たちの様子が描かれているのも楽しい。

 

帝国図書館は、現在の「国際子ども図書館」となっていますね。
いつか東京へ行くことがあったら、寄ってみたいです。

 

また、喜和子さんという女性の一生は実は辛い物語なのに、
そこを飄々と生き抜いた、いさぎよい一人の女性の物語でもあり、
深い感慨を覚えます。

読み応え満点の本でした。

 

図書館蔵書にて

「夢見る帝国図書館」中島京子 文藝春秋

満足度★★★★★


クワイエット・プレイス 破られた沈黙

2021年12月18日 | 映画(か行)

少女の知恵と勇気

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音に反応して人類を襲う“何か”によって文明社会が崩壊した世界を描く
「クワイエット・プレイス」、その続編です。

前作で命を落とした夫。
妻・エヴリン(エミリー・ブラント)は、生まれたばかりの赤ん坊と、
耳が不自由な娘・リーガン(ミリセント・シモンズ)、
息子・マーカスを連れて、新たな避難場所を探して旅立ちます。

本作は、前作の直後から続くストーリーです。
でも冒頭に、“何か”が空から振ってきた第一日目の出来事が描かれています。
その中で、夫の友人で、家族ぐるみで親しくしていたエメット(キリアン・マーフィ)が登場し、
リーガンから、ある一つの「手話」を教わるシーンがあります。
なんと、これが後々の伏線になっていたのには、しびれました!

エヴリンたちは、家族を亡くし単独でサバイバルしていたエメットに出会うのです。
そしてその場所で、ラジオ放送を受信する。
つまりどこかにまだ生き残っている人がいて、放送を流しているわけですね。
リーガンはその発信場所がここからほど近い島であることを突き止め、
ぜひそこに行ってみようと思います。
家族らには止められますが、単身密かに抜け出して、島を目指すリーガン。

と言うことで、この先は知恵と勇気にあふれる少女リーガンの冒険。
こういう展開は大好きです。
特に昨今は、あえて少年ではなく、少女が活躍する物語が多いですよね。

しかし、生き残った人々が集まって暮す場は、思った以上にすさんでいます。
音を立てられない社会は、もはやこれまでの文明を維持できない。
そして、人と人との関係も、崩壊していったものと思われます。
くわばらくわばら・・・。
どうかコロナウイルスが文明崩壊まで引き起こしませんように・・・。

全体的に、音を立てないようにと静かに静かにストーリーは進行するのですが、
ときおり大きな音が響くと、本当にビックリさせられます。
映画館で見たかった・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」

2021年/アメリカ/97分

監督:ジョン・クラシンスキー

出演:エミリー・ブラント、キリアン・マーフィ、ミリセント・シモンズ、
   ノア・ジュプ、ジャイモン・フンスー

 

少女の知恵と勇気★★★★★

満足度★★★★☆

 


ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実

2021年12月17日 | 映画(ら行)

一人一人の、終わらない戦争

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実話に基づいています。

1999年、アメリカ。
空軍省に勤務するハフマン(セバスチャン・スタン)は、
30年以上請願されてきた、ある兵士の名誉勲章授与についての調査を開始します。
それは、その時から30年以上前のベトナム戦争下のこと。
1966年、米国の陸軍史上最悪の日とも言われる、多くの死傷者を出した日のことです。

敵の奇襲を受け孤立した陸軍中隊の救助に、空軍落下傘救助隊が向かいました。
ヘリコプターで現地に向かいましたが、着地できるような場所もありません。
第一、地上では激しい銃撃戦が繰り広げられているさなかです。
しかしピッツェンバーガーは、果敢に単身で地上に降り立ちます。
彼は銃弾の飛び交う中、負傷兵を集め、的確な治療を施していきます。
彼によって、多くの兵が一命を取り留めたのですが、
結局ピッツェンバーガー自身は銃弾に倒れ、帰らぬ人となったのです。

このことの調査担当となったハフマンは、
30年も前の、しかもすでに亡くなっている下級兵への名誉勲章授与
と言うこと自体に興味が持てませんでした。
出世街道まっしぐらに歩みつつある彼にとっては、
とんでもない寄り道、時間の無駄に思えたのです。
これまでの担当者も、適当にお茶を濁しつつ、
次の担当者にバトンタッチしてきたに過ぎない。
けれど、ハフマンは、当時ピッツェンバーガーに救助された
退役軍人たちの証言を集めるうちに、心が動かされていきます。

彼らは30年経った今でも、当時の心の傷を抱えたままでいる。
その時の恐怖、絶望感はもちろんのこと、
自分のちょっとした判断ミスが犠牲者を増やしてしまったのではないかという後悔。
そして、多くの死者を尻目に自分が生き残ってしまったことの罪悪感・・・。
PTSDで未だに精神が不安定の者もいます。

そんな彼らが、命がけで自分たちを救おうとしたピッツェンバーガーが
名誉勲章を受けることで、自分たちの戦争もピリオドが打てるのではないか・・・
そんな風な気持ちになっていったのかも知れません。

ところが、30年ものあいだこの名誉勲章授与の話が進展しなかった裏には、
実は「不都合な真実」があったから・・・。
どうも、政治的な圧力で握りつぶされていたらしいと知ったハフマンは、
もはや出世の道も断たれる覚悟で、真実を突き詰めます。

なんとも感動の物語。
心打たれ、悲しいシーンではないのに泣けました。

退役軍人たちには、豪華キャストがあてられています。
エンドロールに、「ピーター・フォンダに捧げる」という一文がありました。
遺作だったそうです。
そして、今年2月に亡くなったクリストファー・プラマーも、
遺作かどうかは分かりませんが出演しています。

 

<WOWOW視聴にて>

「ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実」

2019年/アメリカ/116分

監督:トッド・ロビンソン

出演:セバスチャン・スタン、クリストファー・プラマー、ウィリアム・ハート、
   エド・ハリス、サミュエル・L・ジャクソン、ピーター・フォンダ、ジェレミー・アーバイン

 

歴史発掘度★★★★☆

感動度★★★★★

満足度★★★★★


あなたの番です 劇場版

2021年12月16日 | 映画(あ行)

今度は誰が犠牲者に?

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言うまでもなく、2019年のヒットTVドラマ「あなたの番です」の劇場版。
ドラマ、見ていたもんで、つい。

それは、都内のマンションで新婚生活を始めた夫婦が
住民たちの交換殺人ゲームに巻き込まれていくというドラマでした。
本作は、その続きではなくて、もし始めの住民会に出席したのが
妻ではなく、夫だったなら、交換殺人ゲームは起こらなかった・・・
として始まるパラレルワールドです。

従って、テレビドラマで次々に命を失っていった住人たちが、皆元気で再登場。
テレビドラマを見ていた人にとっては、
おなじみのよく知った人たちが出てくるので、わかりやすく、入りやすい。

交換殺人の起こらなかったマンションに越してきて
2年目の手塚菜奈(原田知世)と翔太(田中圭)は、
住民たちを招待し、船上でウエディングパーティを開きます。
その逃げ場のない船内で、連続殺人事件が巻き起こる・・・。

一応平和に過ぎていた2年間ではありますが、
人々の生活環境や性格が変わったわけではない。

相変わらず管理人さんは感じ悪いし、
尾野ちゃんは不気味で何を考えているのか分からない(しかも妊娠している!!)。
嫁と姑の関係は最悪のまま。
しかし隠し部屋に閉じ込められていた少年はとりあえず外に出て歩み始めたらしい。
そしてなりをひそめてはいるものの、サイコパスはサイコパスのまま・・・。

まあ、これで事件が起こらない方が不思議なくらいです。

そして本作の真犯人、まあ、単独犯ではなく雪崩式に連鎖してはいるわけですが、
まさに、一番怪しくない人が犯人というセオリーには合致しています。

まずまず、楽しめました。

でもまあ、わざわざ劇場版でなくても
お正月特番かなんかでも良かったなあ・・と思わなくもありません。

 

<シネマフロンティアにて>

「あなたの番です 劇場版」

2021年/日本/142分

監督:佐久間紀佳

企画・原案:秋元康

出演:原田知世、田中圭、横浜流星、西野七瀬、浅香航大、奈緒、
   袴田吉彦、片桐仁、門脇麦、田中哲司

 

混迷度★★★★☆

面白さ★★★★☆

満足度★★★.5

 


「夏を取り戻す」岡崎琢磨

2021年12月15日 | 本(ミステリ)

子どもたちの「社会」への反旗

 

 

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団地に住む小学生が失踪しては数日で戻ってくる事件が立て続けに発生している。
ついては解明に力を借りたい――
そんな匿名の情報提供を受けたゴシップ誌の若手編集者・猿渡は、
フリー記者の佐々木とともに城野原団地で取材を開始した。
状況から子供たちの意図的な計画であることは明らかだったが、
猿渡らがその真意をつかめぬうちに、
別の子供が授業中の視聴覚室から姿を消してしまう。
子供たちはなぜ順番に失踪しているのか?
俊英による傑作長編、待望の文庫化。

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私、子どもたちの冒険物語が大好きで、
本作もそういうことを期待して読み始めました。

ところが、塾通いでほとんど夏休みを満喫できなかった団地の子どもたちが、
何やら大人たちを困らせることを計画し、実行するのです。
それは彼らが一人ずつ失踪して、2~3日後に何食わぬ顔で戻ってくるというもの。
このおかしな状況を調査するのはゴシップ誌記者二人。

・・・ということで、子どもたちの悪ふざけを大人が本気で調べていくという、
なんとも興味のそがれるストーリーに、
途中で読むのを止めたくなってしまいました。

ところが、です。
子どもたちがこんなことを始めることになったその原因こそが問題なのでした。
それは少し前の夏。
キャンプに行った子どもたちが火事に遭って、
その中の一人の女の子が意識の戻らぬまま今も眠り続けている。

二つに引き裂かれた地域の人々の現状や、
大人たちの事なかれ主義という根っこの問題に、
子どもたちが反旗をひるがえした、と言ってもいい。

なるほど、なかなか読み応えのあるストーリーでした。
途中で止めないで良かった・・・!!
子どもたちの意図を、途中で投げ出さずに最後まで突き止めた記者2人にも、拍手。

・・・って、つまりそのうちの1人には、
最後まで突き止めなければならない事情もあったわけですが。

 

「夏を取り戻す」岡崎琢磨 創元推理文庫

満足度★★★★☆

 


くれなずめ

2021年12月14日 | 映画(か行)

懐かしくて切なくてむなしい

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松井大悟監督が自身の体験を基に描いたオリジナル舞台劇の映画化。
私の好きな俳優さん目白押しなので、これは見逃せない!というわけで・・・。

高校時代に帰宅部としてつるんでいた6人の仲間たち。
いつもくだらないことをだべっては笑い合っていました。

その十数年後、友人の結婚披露宴で余興をするために、5年ぶりに集合。
本番の余興は、高校時代に文化祭でやった赤ふんどしのダンスで、
だだスベりでなんとも恥ずかしい結果に・・・。
その後、披露宴と二次会の間の妙に長い時間を持て余しながら、
彼らはこれまでのことを思い出します・・・。

えーと、始まってまもなく作中でもネタばらしがありますので、
ここでも秘密を明かしてしまいましょう。
この6人のうちの1人、吉尾(成田凌)は5年前に亡くなっているのです。
けれど普通に余興のためにここに来ていて、他の5人と会話をしている。
5人は彼が亡くなっていることを知っていて、葬儀にも出ている。
けれど、この仲間の集まりで彼がいないなんてあり得ないとでも言うように、
ごく自然に吉尾を受け入れているのです。
本人が「もしかして俺、死んでるんじゃ・・・?」というのにも、
あえて知らないフリ。

この扱いは幽霊ではないですよね。
ここにいるのが当たり前の吉尾を、彼らは本当に見ている。

舞台演出家の欽一(高良健吾)、舞台俳優の明石(若葉竜也)、
後輩気質の会社員大成(藤原季節)、唯一家庭持ちとなっているソース(浜野謙太)、
地元のネジ工場で働くネジ(目次立樹)。
今は職業もバラバラだけれど、いつもつるんでバカを言い合っていた仲間。
その中の1人が今はもういないなんて、未だに信じられない。

懐かしくて、切なくて、むなしい。
相変わらずバカを言って笑い合いながらも、
ときおり蘇るそんな感情を彼らは持て余します。

今後も生きていく限りはこんな思いを何度も味わうのかも知れない。
残された者たちの悲哀というのは、確かにあるものですね。

優柔不断だけれども心優しい吉尾の、
意中の人(前田敦子)のことも、ステキなエピソードでした。

<Amazon prime videoにて>

「くれなずめ」

2021年/日本/96分

監督・脚本:松井大悟

出演:成田凌、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹、高良健吾、前田敦子

 

くれなずみ度★★★★★

満足度★★★★☆