映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「残穢」小野不由美

2015年08月12日 | 本(ホラー)
オススメしません!!

残穢 (新潮文庫)
小野 不由美
新潮社


* * * * * * * * * *

この家は、どこか可怪しい。
転居したばかりの部屋で、何かが畳を擦る音が聞こえ、背後には気配が…。
だから、人が居着かないのか。
何の変哲もないマンションで起きる怪異現象を調べるうち、
ある因縁が浮かび上がる。
かつて、ここでむかえた最期とは。
怨みを伴う死は「穢れ」となり、感染は拡大するというのだが
―山本周五郎賞受賞、戦慄の傑作ドキュメンタリー・ホラー長編!


* * * * * * * * * *

小野不由美さんは好きなので、迷わず手にとったのですが・・・
怖すぎです。
このじわじわと来る不気味さ・・・、
おススメはしません。
やめておいたほうがいいですよ・・・。

小説家である「私」のもとに、
一般の方から怪異的現象の体験談が集まってくる。
そんな中で、ある一人の体験談が紹介されます。
住んでいるマンションの和室で、何かが畳を擦るような音がする・・・と。
気になってその体験談を寄せた女性と共に、近辺のことを調べてみるのですが、
同じマンションで何故か居住者が次々と入れ替わる部屋がいくつかある。
また隣接する一戸建ての団地の中にも、同じようなことが・・・。
この曰く有りげな土地の由来を時をさかのぼって調べていくと、
ある不気味な事件に行き当たるのですが・・・。


この話の不気味なところはそうした「穢れ」は、
どんどん感染し拡大していく・・・ということで、
結局この本を読んでいる自分にまで累が及んでくるような、
いや~な感じに囚われてしまうところなのです。
本作の語り手の名前は書かれておらず「私」とだけあって、
ドキュメンタリーのような体裁になっています。
必然的に小野不由美さん本人の体験談のように読めてしまいます。
そのため、妙なリアリティがあるのが余計始末におえない。
どこまでが実際にあった話なのやら、
いやそれとも始めからフィクション? 
それについてはなんの説明もありません。
怪異を語ると余計に怪異を呼ぶ・・・そんな記述もあり、
じゃ、こんな物語を書くのもなしでしょう!!
と言いたくなってしまいます。
全くのフィクションであったとしても、
書き手の体調が変になりそうな感じ・・・。


確かに借家などでは、「何か」があった部屋は警戒されたりしますが、
その土地自体の歴史まで調べることってあまりないですよね。
でもそれだって一体いつまで遡ればよいのやら・・・。
霊感など何もなく、怖い目にあったこともない私。
特別このような話を信じる方ではありませんが、
やはり不気味。
避けられるものなら避けたい。


そして本作、なんと映画化されるそうですが(橋本愛+竹内結子)、
私は絶対見ません!!


実はこの文庫とほとんど時を同じくして
同じく小野不由美さんの「鬼談百景」の文庫が出ています。
私はそちらも買ってあるのですが、
本作と合わせるとちょうど百話になってしまうそうで・・・。
危険です。
そちらはしばらく読まないことにします・・・。

「残穢」小野不由美 新潮文庫
満足度★★★★☆
インパクトは★★★★★ですが怖すぎるのでマイナス1!

「静かな黄昏の国」 篠田節子

2012年05月04日 | 本(ホラー)
狂っているのは世界か、人間か、自分か?

静かな黄昏の国 (角川文庫)
篠田 節子
角川書店(角川グループパブリッシング)


                 * * * * * * * * * 

篠田節子さんの短篇集です。
どれもひんやりと、どこか他人事ではない恐ろしい事象が語られています。


「子羊」
静かで清潔な場所で満ち足りた生活を続けてきた"神の子"であるM24。
外の世界は貧困と争いと病気に満ちた恐ろしい場所と聞いているけれども、
彼女らは実際にそれを見たことはない。
外界とは隔絶されたこの世界で、
彼女らはひたすら16歳の"生まれ変わり"の日を待つ。
実の所"その日"の自分たちの行く手を、彼女らはわかっていないのですが。
やがて、恐ろしい事実がわかってきます。
これは、カズオ・イシグロの、「わたしを離さないで」の世界とよく似ています。
クローン技術がより発展した未来の成れの果て・・・。
単なる空想の物語であって欲しいですね。


ところが更に恐ろしい未来の日本の姿を描いたのが表題作。

「静かな黄昏の国」
この黄昏の国、というのはまさに日本です。
化学物質に汚染され、もはや草木も生えなくなった老小国日本。
葉月夫妻は終の棲家として、ある森の中の施設にやってきました。
そもそも、日本中探しても、森など殆ど無い。
それなのにこの施設は格安で、毎日新鮮な野菜が食卓に上ったりする。
野菜などは全く手の届かない高級食品だというのに。
そしてなぜか、ここにやってきた人の余命は3年だという。
いえ、3年というのも、多めに見すぎている。
あっという間に体調を壊し、弱って死んでいく住民たち。
彼らの体を蝕んでいるのは・・・。
まさに今日的話題で、怖いストーリーです。
3.11後、著者が2012年版として補遺したもの。
今や身近な話となってしまっただけにいっそう怖いです。


人によって捻じ曲げられた自然が牙をむく・・・。
狂っているのはこの大自然なのか、人間なのか、それとも自分自身?

「静かな黄昏の国」篠田節子 角川文庫
満足度★★★★☆

「九月が永遠に続けば」 沼田まほかる 

2011年11月11日 | 本(ホラー)
出口のない闇・・・けれど夜明けはくる

九月が永遠に続けば (新潮文庫)
沼田 まほかる
新潮社


              * * * * * * * * * *

第5回ホラーサスペンス大賞受賞作であるこの本は、
著者のデビュー作で平成17年に刊行されたもの。
そして文庫化されたのが平成20年。
にもかかわらず、未だに賑々しく書店の店頭に並べられているというのは、すごいです。
ただ、私はそういう賑々しさには逆に反応してしまうあまのじゃくなタイプなので、
今まで読んでなかったのです。
でも、食わず嫌いはダメでしょう、と思い直してこの度ようやく読んでみた次第。


主婦佐知子は、夫の雄一郎とは8年前に離婚。
高校生の一人息子文彦と暮らしています。
別れた夫は精神科医で、元患者の亜沙実と再婚。
冬子という高校生の連れ子がいます。
佐知子は、自動車学校の教官犀田と愛人関係にありますが、
実はその犀田は冬子の恋人でもある。
ある夜、文彦がゴミを出すために家を出たまま、突然の失踪。
さらに、その翌朝、犀田が駅のホームで何物かに突き落とされ死亡。
佐知子は焦燥に駆られながら、
文彦の失踪の原因や行き先を必死に探ろうとします。
そんなおり、犀田の事件には冬子がからんでいる様相も見え始め・・・。
物語が進めば進むほどに、錯綜した人物関係が重くのしかかってきます。
根源は亜沙実の忌まわしい過去にあるのですが、
考えてみるとそれ以外には「ホラーサスペンス」というほどの陰惨な描写はないのですね。
そして誰もがきちんとした優しさを持っている。
しかし、だからこそなのでしょうか、
誰もが苦しみ、出口のない闇に沈んでいるように見受けられます。
このどうにもならない重苦しさは、どうみても悲惨なラストを予感させます。
実際一つの大きな悲劇はあるのですが・・・。
でも、夜明けは来ます。
それはひとえに文彦の若さが持たらすものなのかも知れません。
踏まれてもまた立ち上がるしなやかさ、強さ。それが救いです。


ということで、ベストセラーも一応納得・・・という作品でした。
ここに登場する、ご近所のオジサン、文彦のガールフレンドであるナズナの父が、なかなかいい味なのです。
始めは厚かましくてやたらに浪花調で、どうもいけ好かないイメージだったのですが、
何というか、次第にその裏のない癒やし系の人柄が見えてきまして、何だかホッとするのです。
冬の夜にであったお汁粉みたいな・・・。
うーん、でも、“とても好き”と思うにには、今一歩。
作品自体も、おもしろくはありましたが、
個人的には、絶対的自信を持って皆様におすすめ!というほどではないかなあ・・・と。

しかしまた、特筆すべきなのは、これを書いた当時の著者の年齢が56歳とのこと。
56歳にして、デビュー作での大賞受賞。
これは、すごい話ですね。
なにごとも、チャレンジに年齢制限なんかない!!

「9月が永遠に続けば」沼田まほかる 新潮文庫
満足度★★★★☆

「ホーラ-死都-」 篠田節子

2011年03月05日 | 本(ホラー)
頽廃の都市ホーラが呼び起こすもの

ホーラ―死都 (文春文庫)
篠田 節子
文藝春秋


            * * * * * * * *

このストーリーの舞台はエーゲ海に浮かぶ小島。
何だかロマンを感じますね。
そこへ十数年不倫の関係を続ける二人が訪れます。
ヴァイオリニストの亜紀と建築家の聡史。
しかし、篠田節子作品ですから・・・
ただのロマンのはずがない。

その島にはかつて繁栄した都がありました。
今は崩れ去り建物の土台だけがかすかに残る廃墟。
そのかつての都市ホーラは、文化が爛熟し、
頽廃の限りを尽くした町であったという。
亜紀は、そこでかすかに町の喧騒のような物音を耳にする。
人々が行き交う気配。
ロバの足音。
さらには町の汚物の悪臭・・・。

そんな体験の後、彼女の手のひらから血がにじみ出る。
どこも怪我などしていないというのに。
これは神の奇蹟なのか、それとも・・・。
また、運転が慎重な聡にはほとんどあり得ないような事故を起こし、
聡はにわかに体調が崩れてくる。
これは「不倫」という罪の罰なのだろうか・・・。
亜紀は思わず教会で祈ってしまいます。
「もう二度と聡とは逢わないから、彼を助けてください・・・」
ふだん神を信じているわけでもないのに、
そう祈ってしまうことに滑稽さを感じながら。


この街自体の頽廃の記憶が、
彼等二人を呼び寄せたのかもしれない。
このストーリーの特筆すべきは、結局神はなんの助けにも成らないというところ。
主人公が敬虔なクリスチャンであれば、
神は救いの手をさしのべるたのかもしれない。
けれど、私同様、無宗教の彼女がすがることができるのは、やはり自分自身。
そういう潔さが、私には心地よいのです。

今時「不倫」にさほどの罪の意識などないのではないかと思っていました。
この作品のラストには罪というよりも強い悲哀を感じます。
ほぼ完璧に関係を隠し続けてきた二人。
でもひとたび片方に万一のことがあると、その関係はそこでぷっつりと途切れてしまう。
彼は彼の家族のものであり、もうその彼の片鱗にふれることも許されない。
きついですね・・・。
みなさま、まっとうな恋をしましょう・・・。

「ホーラ-死都-」篠田節子 文春文庫
満足度★★★☆☆

「遺品」 若竹七海

2010年09月25日 | 本(ホラー)
今は亡き女優にまつわるコレクション

遺品 (光文社文庫)
若竹 七海
光文社


             * * * * * * * *

若竹七海氏のミステリ、というよりはホラーです。
失業中の"わたし"に、金沢のホテルから仕事が舞い込んだ。
そのホテルの創業者は、ある伝説的女優にして作家、曾根崎繭子のパトロン。
曾根崎繭子はこのホテルで、最後のひとときを過ごし、
自殺したのですが、
このパトロンは、繭子にまつわる膨大なコレクションを残していたのです。
"わたし"は、この度そのコレクションを整理し、
展示室を作る仕事を任されました。
ところが、実際に見てみると、
そのコレクション、半端な量ではない。
しかも内容は、彼女がまとったドレスはもちろん、
果ては下着や毛髪、彼女が使った割り箸、
これはもう、病的としかいいようがない。
そして彼女がホテルに住み込み、忙しく準備を進めるうちに、
数々の不気味な出来事が・・・。


繭子の幽霊らしき姿も怖いですが、
このホテルの創業者の変質的な行為が何よりも怖いですね。
そうしてまで囲われていた繭子が、幸福であったはずがありません。
しかし、なにやらエキセントリックで孤高の雰囲気の漂う繭子という存在が
とても魅力的で、全体に不思議な雰囲気を漂わせています。


ところで、この"わたし"は、元々学芸員であったわけですが、
このコレクションの整理と展示という仕事におもしろみを感じて、
熱中していくのですが、その面白みが私にもよくわかります。
展示プランの決定、
展示品の選択、
パネルの作成、
パンフレットの原稿書きと印刷発注・・・。
う~ん、こういう仕事、実は私も好きだな・・・。
そんな仕事につきたかったな・・・と、
相当手遅れなんですがそんな風に感じてしまいました。


ラストはまさにミステリではなくホラー風なオチとなりますが、
それもまた良しですね。
私は彼女の弟子的存在となる、ぶっきらぼうで粗野なタケル君がお気に入りでしたが、
ハッピーエンドにはならなくて残念。
読み出したら止められない一冊ではあります。

満足度★★★☆☆

「Another」 綾辻行人 

2010年01月22日 | 本(ホラー)
Another
綾辻 行人
角川書店(角川グループパブリッシング)

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綾辻行人新作。このボリュームに、わくわくしてしまいますね。
著者は本格推理の作家として名を馳せていますが、ホラー系も多いですね。


夜見山北中の3年3組には不可解な言い伝えがある。
何も知らずにそのクラスに転校してきた榊原恒一は、
ある不思議な存在感を持つ少女に興味を覚える。
しかし、クラスの他のものにはその少女が見えていない様なのだが・・・。
そんな中、クラス委員長の少女が悲惨な死を遂げる。
でもそれは、後の謎と恐怖のほんの幕開けにしか過ぎなかった。


学校の七不思議とはよく耳にしますが、
これはそのスケールをさらに押し広げたものになっています。
夜見山というここの地名は「黄泉」につながっている・・・。
死にとても近いのです。
うう・・・、いやな設定ですよね~。

ことの始まりは26年前。
3年3組のある生徒が急死。
ショックを受けたクラスメイトの1人が、
「いや、死んでなんかいないよ。ほら、ちゃんとそこにいる。」
・・・と言ったことに端を発して、
クラスの皆はまるで本当にそこに本人がいるようにふるまって一年間を過ごし、
卒業したのだという。
そして、その卒業の集合写真の中には、
くっきりと亡くなったその生徒が一緒に写っていた・・・。

黄泉の世界との通路ができたとでも言うのでしょうか・・・。
それ以来、この学校の3年3組に時折降りかかる災難。
"それ"が始まった年には、3組の生徒やその家族に死者が続出するという、
これは単に『伝説』と言ってすませられない恐怖。
恒一は、この恐怖とどのように向き合って行くのか。
この年の「余計な1人」とはいったい誰なのか・・・。


このボリュームにもかかわらず、どんどん読まされてしまいます。
地下の人形館の中で突然出くわす、少女。
・・・いやあ、ドキドキしますね。
これは「呪い」というよりは、「現象」なのだという。
もうすでに人智の及ばない怪異・・・。
けれども、ここはさすが推理作家、理論の通るところは通す。
そして何より、作者が私たちに仕掛けた罠もちゃんとあって、
本格推理ファンも納得・満足の仕上がりとなっています。


さて、読後に考えてみれば、この現象は、とりあえずこのたびの決着はついたわけですが、
すべてが終わった訳ではないですね。
新年度の新しい3年3組では、また同じことが起こる可能性がある・・・。
いや、対処方法はわかっているのです。
・・・でも、本当にそれをするのでしょうか? 
考えるとこれも怖いです・・・・。
この学校は早く廃校にした方がいい。
あ、生徒数の減少で2組までになっちゃったと言うのが一番の解決策かな。
ま、余計なお世話ですが。

満足度★★★★★

「コミュニティ」 篠田節子 

2009年08月24日 | 本(ホラー)
コミュニティ (集英社文庫)
篠田 節子
集英社

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篠田氏デビュー当時から約10年間に発表された秀作短編集。
ジャンルは一応ホラーというべきなのでしょうか。
ただ、ホラーの枠には収まりきれないものも。

表題作「コミュニティ」は、ある夫婦が、さびれた団地に越してきて、
その地域の信じがたいような濃密な人間関係に巻き込まれていく話です。
ほとんど一つの地域共同体。
これは新しい家族の枠か?
宗教か?
単なるおぞましい話なのか?
しかしまた逆にある意味これも悪くないかも・・・とも思えてしまう。
でも、気をつけなければならないのは、
こういう場所ではひとたびその枠を外れると
大変なことになってしまうということ。

ここまで極端ではないにしても、
ごく小さな、このようなコミュニティなら、
実は身の回りにもあるのかも、と思えてきました。
人間の築く社会は、実は何でもありなんでしょうね。


また、この本の解説、吉田伸子氏が絶賛していますが、
「夜のジンファンデル」は、私も気に入りました。
ジンファンデルというのは、ワインを造るのに適したブドウの品種名。
互いに結婚している男女の、大人の恋愛小説となっております。
互いの思いをわかっていながら、最後まで一線を越えないという、
甘く切ないこの物語には、ワインのブドウが良く似合います。

「大人の恋愛とは、耐える恋であり、叶わぬ恋なのだ。
決して実ることのない恋なのだ。」
と、彼女は言うのですが、実はそういうのは私も大好き。
このストーリーのラストには思わずうなってしまいます。
実らないままに終わる恋こそ、
一生密やかに、胸に抱いていけるような気がします。


一篇一篇が、思わぬ方向に進展してゆく、興味の尽きない作品集です。

満足度★★★★☆

「禍家」 美津田信三

2007年11月20日 | 本(ホラー)

「禍家」 美津田信三 光文社文庫

ホラーミステリです。
ホラーは普段あまり近づかないようにしているジャンルなんですけどね。
新聞の書評の推薦により、読んでみました。

主人公は12歳の少年貢太郎。
両親を亡くし、祖母と二人である町の大きな一軒家に越してくる。
しかしなぜか光太郎はそのあたりの風景に強い既視感を覚える。
そしてまた、夜になるとこの家でおこる、恐怖の怪異現象。

怖いです・・・・。

感動してしまうのは、この少年。
祖母に心配をかけまいと、この恐怖体験も決して語らず騒ぎ立てず、自分で対処しようとするところ。
・・・すごいです。
それから、すぐに友達になった、礼奈。
彼女が、きちんと彼の話を聞き、信じて、一緒に考えてくれる、こんなところも救われるのですね。
調べるうちに、以前、この家で大変な事件があったということがわかってきますが・・・。

なんと、このような心霊現象だけのストーリーではなく、土壇場で、生きた人間のとんでもない「悪意」が登場。
ホラーというだけでなく、仕掛けられた、ミステリでもあったのかと、ここでようやく気づきました。

結局、幽霊より、生きた人間の方が怖い・・・。
そういうことかも・・・です。

この本の中では、家に鉤の手に曲がった廊下があったり、
くの字に曲がった道、九十九折の道があったり、
まっすぐ見渡せない、曲がった道がよく出てきます。
「曲がる」ことと、「禍々しい」ことが関連して、意識されているようです。
まっすぐ見通せない、その曲がった先。
何か恐ろしいものが潜んでいるように思えるその先。
怖いのだけれど、確かめずにはいられない、その先。
そういう恐怖心をテーマとしているように思います。

満足度★★★★


禁じられた楽園

2007年04月12日 | 本(ホラー)

「禁じられた楽園」 恩田 陸  徳間文庫

恩田陸の作品を揚げればキリがありませんが、一番最近読んだものの紹介ということで・・・。
「幻想ホラー」と、この本の帯では称しています。
恩田陸の物語では時々出てくる迷宮が、そこにあります。
若き天才芸術家、烏山(からすやま)響一。
その怪しい魅力に、引き寄せられるように、熊野の山奥を訪ねることになる、登場人物たち。
熊野は、古来より日本の一種の霊場のような場所ですね。
その山奥に、いくつもの山をそのまま利用しつくられた、プライベートミュージアムがある。
テーマパークのようなその場所は、どんどん人を呼び寄せ、収益を上げるというようなことは、全く考えていない。
いったい何のためにそんなものが・・・。
謎は最後の最後に明かされることになります。

さて、注目すべきはその、野外美術館ですね。
断崖絶壁にかけられた透明アクリル板の橋。
私なら、もうそこでギブアップです。
でもそこはほんの入り口。

原色モザイクの丘。
よく見るとそれはたくみに遠近感を利用して作られた大きなドームの中の投影映像。

ゴムのカーテンの迷路。
微妙にゆがみ、たわみ、めまいをおこしそうになる。

はるか果てまで、全てレンガの石段で埋め尽くされた丘、また、丘。

などなど・・・。
このように書くと、それは何かしら、一度は行ってみたい体験型テーマパークのように感じられますが、
このストーリーの怖いところは、その道を行く人の、もっとも恐怖を感じること、感じたことが、さらに傷を押し広げるように、執拗に繰り返し繰り返しリアルに再現されてしまうのです。
だから体験する恐怖は、個人個人で異なる。
う~ん、私なら何でしょう。
幸い平凡な人生?を送っておりまして、そこまでの大きなトラウマやら、恐怖を感じたことがないかな・・・。
というか、そもそも、そんな人物は、この山には招かれるはずもないのでした・・・。

最後には意外な展開があり、思いがけないエンディングとなるのですが、ちょっとそこは出来すぎのような気もします。

それにしても、実際時々いますよね。
一種近寄りがたいオーラというか雰囲気を持つ人。
この本では、「日本人離れというより人間離れ」と表現していますが、人間離れして爬虫類や獣に近づいちゃう人もいるので、それもちょっとちがうかな。

とりあえず、カラスの絵のなかに入り込みそうな気がしたときには、気をつけることにしましょう。