映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

滝野すずらん公園2016年5月 パンジー編

2016年05月31日 | 札幌散歩
色とりどりのパンジー達



滝野すずらん丘陵公園で、
「パンジー・ビオラCollection 2016」ということで
色とりどり、様々なパンジー・ビオラの展示がありました。
6月19日(日)まで。東口広場にて。


艶やかな紫系




かわいいピンク系




黄色系でもちょっとシック


柔らかなクリーム色


ちょっぴりグリーンがかって、なんとも変わり種


本当は一つ一つ素敵な名前が付いているのですが、
記録してこなかったので、お許しを・・・
今度からちゃんと分かるようにしよう・・・


こんなものもありまして・・・
かわいい!!
この豚さんは、発泡スチロールで出来ているそうです。





「依頼人は死んだ」若竹七海

2016年05月30日 | 本(ミステリ)
葉村晶シリーズのの始まり

依頼人は死んだ (文春文庫)
若竹 七海
文藝春秋


* * * * * * * * * *

念願の詩集を出版し順風満帆だった婚約者の突然の自殺に苦しむ相場みのり。
健診を受けていないのに送られてきたガンの通知に当惑する佐藤まどか。
決して手加減をしない女探偵・葉村晶に持つこまれる様々な事件の真相は、
少し切なく、少しこわい。
構成の妙、トリッキーなエンディングが鮮やかな連作短篇集。


* * * * * * * * * *

若竹七海さんの女探偵・葉村晶シリーズ、
本作が第一弾なのですが、私は第3弾から逆行して読んできました。
本巻は連作の短編集。


次巻で辛い展開となる相葉みのりと葉村晶の関係は、ここではまずまず。
相葉みのりが婚約者を亡くし、二人で住むはずだったマンションに
葉村が居候しているということになっています。
もともと二人とも思ったことをズケズケ言う遠慮のない仲だったようです。
本巻中には、この相葉みのりが探偵役を務めるという興味深い一作もあり。
だけれど、私は後の展開を知っているためか、
どうもこの女性はあまり好きになれないのでした。
一つの物語中に似たような気の強い女性は必要ない。
…だからこそ後々、相葉みのりは舞台から退場していくのかもしれません。


表題の「依頼人は死んだ」は、
「検査の結果、あなたはガンです」
という告知文を受けてしまった女性からの相談を葉村が受けます。
そもそも、健診すら受けていないのに!!
「再検の案内ならまだしも、いきなりガンの告知はあり得ない。
これは何かの間違いか、誰かのいたずら。」
という葉村の言葉に依頼人はすっかり安心して帰ったはずなのですが・・・。
翌日その依頼人が、「ガンを苦に自殺」してしまうのです。
いったい、なぜ???


本巻の葉村晶は一度も怪我も入院もしていません。
まだ、ハードボイルドにはないっていないのですね。
けれど、多少自虐的にコミカルに語られる部分がない。
そういうメリハリの点では、やはり後作のほうが読み応えがあるようです。


「依頼人は死んだ」若竹七海 文藝春秋  図書館蔵書にて
満足度★★★☆☆


世界から猫が消えたなら

2016年05月29日 | 映画(さ行)
「泣き」を売りにしてはいけない



* * * * * * * * * *

「病気の女の子のストーリーは見ない」という信条の私、
本作は「女の子」ではないけれど、まあ、通常ならパスすべきところですが、
何しろ佐藤健さんだし(!)、
そして函館が舞台なので、やはり見てみようかな、と。


ある日突然、脳腫瘍で余命わずかと宣言されてしまった青年(佐藤健)。
呆然としていると、自分そっくりの「何者か」が現れて言うのです。
「この世から『何か』を消す代わりに、一日の命を与えよう」と。
彼はパセリが嫌いなので、まずパセリなら消えてもいいな、と思うのですが、
自分では選択権はないんだって・・・。
なんだ、そうなの・・・。



で、いきなり「電話」が消えてしまいます。
そして、映画、時計・・・。


電話は、自分と彼女(宮崎あおい)が付き合うきっかけになった大切なもの。



映画は親友(濱田岳)ができたきっかけになったもの。


そして時計は、父親(奥田瑛二)が時計店を営んでいるので、かけがえのないもの。



これらが一つずつ消えていくと、その思い出も消え、
その人との繋がりも消えていってしまうのです。
とすれば、その人達の中にあった自分の思い出も消えていってしまう。
つまり、これらが消えていくことは、
すなわち自分の存在が消えていってしまう=死、なんじゃないのかな。
もしこのままこれらのアイテムが在り続ければ、
自分の体は消え果てても、彼女、彼らの中には自分は生き続ける
・・・そういうことなのかもしれません。



そしてついにあと一日で世界から「猫」が消えるという時、青年は一つの決断を下します。
猫の思い出に象徴される人物とは・・・?



函館の坂道や路面電車、寂れた映画館、雰囲気はバッチリ。
でもなぜいきなり南米の滝なのか、よくわからない。
「最後の決断」って、それはもう他には考えられないわけですし・・・。
第一、映画はともかく、電話も時計もなかったら、文明は破滅です!!


TVのCMでは「泣ける」ことを売りにしていましたが、私はちっとも泣けなかったですし。
どこで泣けばよいのやら、なんだかとらえどころがない。
まあ、これはたまたま私の「ツボ」にはまらなかっただけなのでしょうけれど。
でも「泣ける」ことを売りにするのは、ナシじゃないでしょうか。
泣けなければそれで失敗のように思えてしまう・・・。



あ、そうだ。
でもこのストーリー後のお父さんの気持ちを考えると気の毒で、気の毒で・・・、
これは泣ける!!
せっかくの佐藤健さんだったのですが、なんだか残念な作品でした。
猫ちゃんは文句なくカワイイ!

「世界から猫が消えたなら」
2016年/日本/103分
監督:永井聡
原作:川村元気
出演:佐藤健、宮崎あおい、濱田岳、奥田瑛二、原田美枝子

お涙度★★☆☆☆
満足度★★☆☆☆

岸辺の旅

2016年05月28日 | 映画(か行)
生と死はとても近く交じり合っている



* * * * * * * * * *

3年前失踪した夫がある日突然帰宅し、「俺、死んだよ」と妻に告げる。
そんなところから始まる、不思議なストーリーです。


夫優介(浅野忠信)は、「一緒に来ないか」と、
妻瑞希(深津絵里)を旅に誘います。
この妻は、死んだという優介を特別驚きもせず、また怖がりもせず、
淡々と受け入れます。
3年のうちに心の整理がついていたのかもしれません。
でも、優介は幽霊とも少し違うのですね。
しっかり触ることができるし、ものも食べる。
その姿は瑞希にだけしか見えないのかと思えば、誰にでも見える。
つまり、生きているのとほとんど同じじゃありませんか!!
けれども、死んでいるのは確かなので、
いつか「あちら」の世界へ行く定めのようです。



そんなわけで、二人は旅に出るのですが、
それは優介が失踪からの3年間、お世話になった人々を尋ねる旅。
ところがそれぞれの行き先にもまた、実は「死んで」いる人々が現れます。
どうも自分が死んだことに気づいていないようで・・・。
私たちの身の回りにも本当は「死んで」いる人が紛れているのかと思うと
ちょっぴり怖いですが。
またある人は、亡くした人のためにできなかったことが悔やまれて、
ずっと苦しい思いを抱えている。
そもそも、優介がそういう人たちのもとにしばらく暮らしていたというのも、
何かが優介をそこに呼んだからなのかもしれません。
結局この旅は、優介と瑞希がそれぞれの人々の魂を浄化する旅であったようなのです。
どこもちょっぴり懐かしいような田舎の光景。
もう運転免許がないから、と言って、
各駅停車の電車やバスに乗っての旅。
主役のお二人が、こういうムードにピッタリでした。



岸辺の旅と言うのは、
この世とあの世を隔てる川の岸辺ですね。
優介は、妻に何も言わずに去ってしまったことを申し訳なく思い、
そして、この川を渡ることができないでいる人々のことも気になっていたのでしょう。
生と死は、全く断絶して相容れないものではなくて、
実はとても近くに交じり合っているのかもしれません。



しんみりと優しさに包まれる一作でした。



岸辺の旅 [DVD]
深津絵里,浅野忠信,小松政夫,村岡希美,奥貫薫
ポニーキャニオン


「岸辺の旅」
2015年/日本・フランス/128分
監督:黒沢清
原作:湯本香樹実
出演:深津絵里、浅野忠信、小松政夫、村岡希美

満足度★★★★☆

滝野すずらん公園2016年5月チューリップ編

2016年05月27日 | 札幌散歩
100万本のチューリップ



滝野すずらん丘陵公園へ行ってきました。
仕事をやめたので、夫と二人、平日にお出かけできるのがウレシイ!!
この日はお天気もよく、チューリップは正に見ごろ。
見事でした。


単色を集めて並べているゾーン









チューリップというよりもバラの花のようなものもあります。




このくらいの色が、私のお気に入り


混色のゾーン
印象派の絵のようです。




この度より、「札幌散歩」というカテゴリを増やしました。
すずらん公園は、この後、「パンジー編」「ロックガーデン編」が続く予定。
季節によってまた別の花が楽しめるので、是非また行きたいところです。

「はるひのの、はる」加納朋子

2016年05月26日 | 本(その他)
会うことの叶わない懐かしい人に会いたければ・・・

はるひのの、はる (幻冬舎文庫)
加納 朋子
幻冬舎


* * * * * * * * * *

ある日、僕の前に「はるひ」という女の子が現れる。
「未来を変えるために、助けてほしい」と頼まれた僕は、
それから度々彼女の不思議なお願いを聞くことになり…。
時を越えて明かされる、温かな真実。切なくも優しい連作ミステリー。


* * * * * * * * * *

「ささらさや」、「てるてるあした」に次ぐ加納朋子さんの
「ささら」シリーズ第3弾。


例によって、前作の内容は殆ど忘れてしまっているものの、
忘れていても全然大丈夫という内容なので、OKでした。
ただし、ここに登場するユウスケくんには覚えがあります。
「ささらさや」で、ゴーストとなって登場する夫の、忘れ形見の赤ん坊。
この子には、普通の人に見えない「何者か」が見えるのです。
そしてその彼が成長する過程で、時折現れる「はるひ」という少女の謎。
幽霊が見える彼ですが、「はるひ」は幽霊ではなく、しっかりと実態を持った女性なのです。
そしてその少女はユウスケに不可解なお願いをする。
けれども彼女はその後掻き消えたように姿を見せなくなり、
何年もたってからまた現れる。
そしてユウスケが高校へ上がった時に、
クラスに「はるひ」そっくりの少女がいたのですが、
彼女は全く別の名前で、「はるひ」のこともユウスケのことも知らないというのです。


同じ人物が登場するのに、微妙にずれていくエピソード。
ゴーストストーリーに若干SF風味も載せていく展開は、とても興味深いです。
時空をも超えてゆく"人の想い"に、幻惑され、
そして深い感動に導かれます。


ユウスケくんを始め登場する少年少女たちの成長ぶりを
つぶさに見ることができるのが存外の幸せ。
今はもう会うこともかなわない懐かしい人に会いたければ、
この佐々良の町に行ってみると良いかもしれません。



「はるひのの、はる」加納朋子 幻冬舎文庫
満足度★★★★☆

ヘイル・シーザー

2016年05月25日 | 映画(は行)
ヘボ役者が実は名探偵



* * * * * * * * * *

1950年代、ハリウッドの映画製作現場のストーリーです。
コーエン兄弟監督作品なので、一筋縄では行きません。



超大作映画「ヘイル・シーザー」の撮影中、
主演俳優の大スター、ウィットロック(ジョージ・クルーニー)が
何者かに誘拐されてしまいます。

スタジオの「何でも屋」(ジョシュ・ブローリン)が、事実を他の人々には伏せたまま、
誘拐犯の要求に応えて大金を用意しますが・・・。
他にミュージカル作品や、恋愛ドラマの撮影風景を交えながら、
悲喜こもごもの厄介事を片付けていく、
何でも屋の煩わしくもめまぐるしい3日間を描きます。



映画「ヘイル・シーザー」は、実はキリストの物語で、
本来キリストを捕らえる側のあるローマ兵が、キリストの言動に感化され、
磔にされたキリストを見て神の意図に打たれる・・・というようなストーリーのようです。
ちょっと面白そうですね。
予告編を見た限りでは、
このジョージ・クルーニー扮する大物俳優は実はヘボ?のように思えてしまっていたのですが、
イヤ、さすがに彼は実力のあるちゃんとした俳優なんですよ。
で、彼の誘拐を目論んだのは、共産主義の脚本家達。
彼らはスタジオの経営者ばかりが儲けて
自分たちにはろくな取り分がないのに不満を持っていて、このような暴挙に出た。
米国で赤狩りのあった時代ですね・・・。
映画製作者の中にも共産主義者として投獄された者もあったはず。
そんなことに皮肉を込めたストーリーなわけです。



さて一方、西部劇のカウボーイ役で人気が出始めたアクション俳優(オールデン・エアエンライク)は、
次に恋愛ドラマに抜擢されるのですが、なんとも訛りがひどいし、演技がド下手。
そんな撮影風景にはつい笑ってしまいます。
アクションだけが得意のお馬鹿・・・?と、思わせておいて、
実は鋭い推理と洞察力で、ウィットロックの行方を突き止めたりするのです。
なんとも意外でユニーク。



それからチャニング・テイタム演じる人気ミュージカルスター、
そのミュージカルの一シーンが素晴らしい。
なんともレトロ感たっぷりな歌と踊り、たっぷり楽しませてもらいました。
・・・が、しかし、この男が後にまた意外なところに登場したりする!!



50年代のハリウッドなど私でも知るはずはありませんが、
でもその雰囲気はしっかり感じられる。
面白い! 
つい、ニマニマとしてしまうシーンたっぷり。
私は好きです。


「ヘイル・シーザー」
2016年/アメリカ/106分
監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
出演:ジョシュ・ブローリン、ジョージ・クルーニー、オールデン・エアエンライク、レイフ・ファインズ、スカーレット・ヨハンソン、チャニング・テイタム、ティルダ・スウィントン

時代性★★★★★
ユニーク・ユーモア度★★★★☆
満足度★★★★☆

サイの季節

2016年05月24日 | 映画(さ行)
革命に翻弄される運命



* * * * * * * * * *

クルド人詩人、サデク・カマンガルをモデルに描く作品。


1979年イランイスラム革命の際、詩人であるサヘルは政治犯として投獄されました。
妻ミナは、夫の帰りを待ち続けていましたが、
夫が獄中で死亡したと聞かされ、トルコのイスタンブールで新たな生活をスタートさせます。
しかし、サヘルは実は生きていて、
30年もの投獄の後やっと自由の身となり、ミナの行方を探します。



この2人は愛と信頼で結ばれた仲の良い夫婦であったのですが、
そこに横恋慕する一人の男の影。
ミナの美しさに心奪われ、求愛をしても一笑に付されてしまう。
以来、この夫婦に異常に嫉妬心を燃やすのです。
革命側に身を置く彼こそが、二人の悲劇の元凶なのでした・・・。



このようにストーリーを書いてみるとメロドラマっぽいですね。
でも本作はそうではなくて、詩人を描く作品らしく、
物静かで若干陰鬱な雰囲気もある、まさに詩的映像に支えられた作品です。
どの世界でも革命と言うのは、それまでの支配する側、される側が入れ替わる劇的な出来事。
特別な罪を犯したとも思えないサヘルが、
ある日突然それまでの生活何もかもを奪われ、投獄されてしまう。
なんとも理不尽極まりない。
でも、実際そういうことがあるんですね・・・。



「サイの季節」と言うのは、モデルとなったサデク・カマンガルの詩の一つのようです。
砂漠やサイの皮膚のように、乾いてザラザラした感触。
そんな心象を歌った詩。
本作では、彼の詩を刻んだタトゥーが大きな意味を持つので、
要注目です。



革命に翻弄される人の運命、
そして「愛」だけが、そんな運命に翻弄される人を支えていく。
帰るべき場所を奪われた詩人の言葉。
「国境に生きるものだけが新たな祖国を作る」。
納得できてしまいます。
切ない人間のドラマです。



サイの季節 [DVD]
ベヘルーズ・ヴォスギー,モニカ・ベルッチ,ユルマズ・エルドガン,べレン・サート
ポニーキャニオン


「サイの季節」
2012年/イラク・トルコ/93分
監督・脚本:バフマン・ゴバディ
出演:ベヘローズ・ボスギー、モニカ・ベルッチ、ユルマズ・エルドガン、ベレン・サート
歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★,5

プリーツのバッグ

2016年05月23日 | 工房『たんぽぽ』
かわいいんだけど・・・


先にご紹介した「favori 」4月号のキットを制作しました。

たたんでおくとこうですが、


物を入れると広がってこうなる。



地道にミシン掛けをして、思ったほどの手間ではなかったのですが・・・。
このバッグは袋の口がこれ以上広がらないので、
ものの出し入れがしづらいと思います。
中袋は伸びないので、見た目ほどはあまりモノが入らないし・・・。
自分で作っておいてなんですが
あまり実用に向きそうにありません(T_T)

「娘と嫁と孫とわたし」藤堂志津子

2016年05月22日 | 本(その他)
不協和音の女達

娘と嫁と孫とわたし (集英社文庫)
藤堂 志津子
集英社


* * * * * * * * * *

息子の嫁・里子と孫の春子と暮らす65歳の玉子。
里子との生活は穏やかだが、
実の娘の葉絵は40歳近くなっても反抗期の真っ最中。
巻き起こる騒動と女性の本音をコミカルに描く全3編


* * * * * * * * * *

娘と嫁と孫とわたし・・・ということで
「わたし」である玉子65才の心情を中心に描かれている本作。
一見のどかなホームドラマっぽいのですが、
そこは藤堂志津子さん作品なので、ちょっぴりシニカルです。
娘も嫁も孫も、そしてもちろん「わたし」も女性。
うまくいくこともありますが、ダメなこともありそうです。
嫁がいるくらいなら、その婿つまり玉子の息子はどうしたのかというと、
これが事故で亡くなっているのです。
一人息子を亡くし、生きる支えを失った玉子が心配で、
嫁・里子と孫娘が同居するようになったのです。
というわけで、嫁・姑の仲はまあまあよろしい。
では何が問題か。
それは、すでに結婚している実の娘・葉絵と母である玉子がうまくいかないのです。


葉絵は、玉子が兄ばかりを可愛がり、自分は心理的虐待を受けていたと、
今になって母をなじるのです。
そこまで母を信頼していないのなら、来なければいいと思うのですが、
ちょくちょくやってきては、キレて母を罵倒する。
つまりはこれも甘えなのでしょうね・・・。


血が繋がっていればいいというものではない。
その血のつながりが断ちがたいからこそ、厄介なこともある。
そうしたものです。
だから、玉子は実の娘が来るとつい緊張して身構えてしまう。
さて、そこでまた一人の不在に気がつくのですが、
それは玉子の夫です。
はじめの方では全く登場しないので、すでに亡くなっているのかと思いきや、
実はちゃんと生きている。
二人の一人息子が亡くなった時に、彼もまた
「思い出の詰まったこの家にいるのは耐えられない」
と言って、妻を残して出て行ってしまったのです。
妻だってよほどダメージを受けているというのに、そんなことには全く思い至らない。
妻を見下し、自分本位。
いや全く鼻持ちならない。
そんな元夫が、病に犯され、この家に戻りたいという・・・。
はてさて・・・。


不協和音いっぱいの女達でしたが、
こんな、てんやわんやのうちに少しずつ「同士」のような連帯感が芽生えてきますね。
そういうところがやはり家族の物語なのです。
本作は残念ながら孫である春子の心情にはあまり触れられていないのですが、
春子目線でこのストーリーを見れば、また違う発見がありそうです。

「娘と嫁と孫とわたし」藤堂志津子 集英社文庫
満足度★★★.5


殿、利息でござる!

2016年05月21日 | 映画(た行)
無私の心



* * * * * * * * * *

江戸中期、仙台藩で実際にあったことを元にしたストーリーです。


寂れた宿場町の吉岡宿。
ここでは、お上の物資を隣の宿場から受け取り、次の宿場へ運ぶ
「伝馬(てんま)役」が課せられていました。
このための馬を買って育てたり、人足を雇ったりという経費は
まるごと住民で負担しなければなりません。
この重税に耐え切れず、破産や夜逃げが相次ぎ、
そうすると住民が減ってますます一人あたりの負担が大きくなるという悪循環。
この状況をなんとかしなければと、
造り酒屋の穀田屋十三郎(阿部サダヲ)は考えていたのです。
そんな時、お茶づくりをしている菅原屋篤平治(瑛太)が
「大金を藩に貸し付ければ、その利息で伝馬役の費用がまかなえる」
と思いつきます。
けれども、それだけの利息を生み出すためには千両(=約3億円)を貸し付けなければならない。
そんな大金があれば苦労しない。
夢の様な話・・・。
篤平治は笑い話で終わらせようと思ったのですが、
十三郎は本気になってしまった。
一人ならムリだけど、何人かで出し合えばいいんじゃないか、と。



しかし、利息を伝馬役に回すのであれば、いくら出資したとしても自分の懐には全く入ってこないのです。
寄付したのと同じですね。
寄付控除もないし・・・。
そんなお人好しがいるわけない・・・と普通思うのですが、
いやいや、いるんですよ、申し出をする人が。
しかも、自分の名を売るために出資するわけではないから、出資者の名前は公表しない
という約束まであるのに。
この辺り、西村雅彦さんなど、いかにも不服そうだったんですけどね。
そして意外にも町で一番のドケチ・守銭奴と噂されている金貸しの浅野屋甚内(妻夫木聡)が、
あっさりと大金を差し出した。
実はこの男は十三郎の実の弟。
十三郎は長男なのに養子に出されていたわけですが、
そのことに少なからずこだわりを抱いていたのです。
だから自分の発案なのに弟があっさりと自分より多くのお金を差し出したことが面白くない。
単に資金集めのストーリーではなくて、この家族の確執というところがまた重要なポイントなのです。
ラストに明かされる浅野屋の秘密には驚かされ、そして胸が熱くなります。



足りなければ自分の家の家財を売り払ってでも資金を差し出す。
みな必死。
「無私」の心は尊いです。
しかしつまりは宿場町が潰れてしまえば、自分たちの生活も成り立たない。
だから、実は共同体を生かし自分も生きるということですよね。



財政不足の藩が銭(銅銭)を作った。
その銭を作るためにも費用がかかる。
また、多量な銭が流通すると金(=小判)の価値が変わってしまう、
という経済学のお勉強もさせていただきました。
江戸時代を生きるのにも、そういう知識が必要だったのか・・・。
私はダメだワ・・・。



出資者の名前は明かさないという決まりは守られたのですが、
お寺の文書に記録があって、それで、今ではその方々の名前がわかっているのです。
穀田屋さんの家は今も酒屋さんを営んで残っているとか。
いやあ、歴史ですねえ・・・。
そうそう、仙台藩のお殿様役は、仙台出身お馴染みの羽生結弦くん。
最後のチョイ出なので、さほどの演技力も必要なしということで、
心憎いキャスティングでした!!


「殿、利息でござる!」
2016年/日本/129分
監督:中村義洋
出演:阿部サダヲ、瑛太、妻夫木聡、竹内結子、寺脇康文、きたろう、西村雅彦、松田龍平、羽生結弦、

歴史発掘度★★★★☆
無私度★★★★★
満足度★★★★.5

ミケランジェロ・プロジェクト

2016年05月20日 | 映画(ま行)
美術品と人の命、どっちが重い?



* * * * * * * * * *

ナチスドイツが各国を侵攻した時に略奪した
歴史的に重要な美術品を取り戻そうとする、実話に基づいた作品です。



しかし本作は、米国においても日本においても公開が延期され、
上映も危ぶまれたといういわくつきの作品。
ネットによるウワサでは、ナチスが略奪した美術品の行方について、
これ以上余計な憶測を広げたくない何か(どこか?)の圧力があったのだ、と言います。
実際ドイツ軍敗退のどさくさに紛れて、
本来の持ち主でないところに流れていってしまった高価なものがかなりあるということなのかもしれません・・・。
本作中にも、連合軍側の彼らチームが発見するより先に
ソ連軍が美術品を発見した場合には、
ソ連がそれを勝手に持って行ってしまうというシーンもありましたから・・・。
(チームが発見した美術品は、元の持ち主に返したということになっていましたが、
必ずしもそうでなかったのかも・・・?)



さて本作、この略奪された美術品を取り戻すために結成されたチームというのが、
ハーバード大学附属美術館長フランク・ストークス(ジョージ・クルーニー)をはじめとする美術の専門家たち。
軍隊の経験などない7名。
この7名が軍服に身を包み、あの激戦地、ノルマンディーに上陸します。
時はドイツが連合軍に押しまくられ、本国へと徐々に戦線を縮小していく頃。
ドイツ軍が出て行ってしまえば美術品は残るだろうと思ったら大間違い。
彼らは、美術品を渡すくらいなら燃やしてしまえ!という暴挙に出ます。
だからドイツ軍が逃げ出してしまってからでは遅いのです。
何としても、美術品の隠し場所を突き止め、
彼らがそれを「処分」する前に取り戻さなければ・・・。
ということで、彼らは危険な地域にも踏み込まなければならず、
2名の戦死者を出してしまいます。



美術品は人の命よりも大切なものだろうか? 
それを守るのに命をかける価値があるのか? 
まさに、究極の命題であります。


それにしても、本来ユダヤ人のものだった美術品や家具も、
ものすごく膨大な量がありました。
樽に入った大量の金ピカの粒状のもの、それは「金歯」だったというのには言葉を失います。
でも、アメリカならではのちょっぴり楽天的な話の運びが、逆に救われるような気がしました。
あまりシリアスなら暗すぎるし、怖すぎます。
そんなわけで、隠れた歴史を知る上でもいい作品だったと思うのですが、
ジョージ・クルーニー監督作品というセールス・ポイントを持ちながらも、
何故か地味~に上映されてしまったというのがとても残念です。

ミケランジェロ・プロジェクト [DVD]
ジョージ・クルーニー,マット・デイモン,ビル・マーレイ,ジョン・グッドマン,ジャン・デュジャルダン
松竹


「ミケランジェロ・プロジェクト」
2014年/アメリカ/118分
監督:ジョージ・クルーニー
出演:ジョージ・クルーニー、マット・デイモン、ケイト・ブランシェット、ビル・マーレイ、ジョン・グッドマン
歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★☆

「東京すみっこごはん 雷親父とオムライス」成田名璃子

2016年05月19日 | 本(その他)
核家族から「共同」家族へ

東京すみっこごはん 雷親父とオムライス (光文社文庫)
成田 名璃子
光文社


* * * * * * * * * *

年齢も職業も異なる人々が集い手作り料理を食べる"共同台所"には、
今日も誰かが訪れる。
夢を諦めかけの専門学校生、妻を亡くした頑固な老人、勉強ひと筋の小学生。
そんな"すみっこごはん"に解散の危機!?
街の再開発の対象地区に含まれているという噂が流れ始めたのだ。
世話好きおばさんの常連・田上さんは、この事態に敢然と立ち向かう。
大人気シリーズ、待望の続編!


* * * * * * * * * *

4月から仕事に出なくなって、
映画は殆どこれまでと同じペースで見ているのですが
さすがに時間はあるので、本を読む機会は多くなりました。
そのため、「本」のブログ記事がダブつき気味。
特におススメなものを紹介していくことにしましょうか。
特につまらない本の記事も 実は面白かったりするんですけど・・・。
なんだかんだと言って、毎日更新になっているこの頃。

* * * * * * * * * *

さて、前巻を読んで間もないのですが、もう続編が出ました。
本巻には前巻で紹介された常連さんたちにまた、何人かの新人さんが加わりながら、
相変わらず賑やかに食卓を囲んでいます。


短編の連作となっていますが、本巻を貫いているのは、
この「すみっこごはん」のある界隈の再開発のこと。
今は古い商店街のこの辺り、再開発の計画があって、
もしかすると「隅っこごはん」の存続が危ういかもしれない・・・。
そんな不安を絡めながら、ストーリーは進んでいきます。


私が一番好きだったのは、やはり表題となっている「雷親父とオムライス」。
雷親父と言うのは、この短編のひとつ前、「失われた筑前煮を求めて」で初登場する有村老人です。
妻に先立たれて、わびしい一人暮らし。
しかしご近所ではおせっかいで口うるさい頑固オヤジと思われているようです。
ある日すみっこごはんに迷い込んだ彼は当番にあたって筑前煮を作ったのですが、
下準備が適当なので大失敗。
・・・という印象深い登場をしたオジイサン。
そして本作「雷親父とオムライス」では秀樹くん、10歳が初登場。
両親はいつもケンカをしていて不穏。
しかし母親は異常なくらい教育熱心で、
いい学校に入って、いい会社に入るか医者になるか、と
息子秀樹への期待は高く、野菜は無農薬野菜しか使わない。
母親はそのように熱心な割にいつもでかけていて、
一人ぼっちで夕食を食べることも多い秀樹くん。
そんな彼が「すみっこごはん」ではじめて、母親に押し着せられた以外の世界を知ります。
特に、雷親父こと有村氏には本当の祖父のように色々なことを教わります。
少年のしなやかな心と、ぐんぐん成長していくさまが心地よい。
が、しかし、せっかく好印象となってきた有村氏が・・・!
切なくはありますが、なんといっても子供の伸びる力に救われる、ステキな一作。

→「東京すみっこごはん」

「東京すみっこごはん 雷親父とオムライス」成田名璃子 光文社文庫
満足度★★★★☆


「何者」浅井リョウ 

2016年05月18日 | 本(その他)
本当の悩みや夢は書けない

何者(新潮文庫)
朝井 リョウ
新潮社


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就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。
光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。
瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、
理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。
だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、
本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。
直木賞受賞作。


* * * * * * * * * *

まさに現代を生きる若者たちの「就活」をめぐるドラマですが、
それは清々しい青春物語では決してありません。
若者たちは自らの就活の進捗状況を逐一ツイッターで発信していきます。
友人たちのツイッターと実生活を見ている拓人は、
そのツイッター文の虚しさを指摘しながら、
彼の目線で物語は進んでいくのですが・・・。


自分をひたすらかっこよく見せたり、
あるいはあえて失敗談で笑いを取ってみたり、
それでも彼らは自分の思いを発信せずに入られない。
だけれども本当に悩んでいることや、本当は夢見ていることは、
書かないし、書けない。
分かる気がします。
拓人はそういうことをしっかり分析していきます。


でも本作で気がつくのは、拓人自身のツイッターがほとんど出て来ないということ。
彼はそういうことをしない人間なのかというと、そうでもなさそう・・・。
実はここに罠があった。
若干衝撃的ラストに、驚かされました。


表面の顔と裏の顔。
こういうのを使い分けて生きていくのはいかにも大変そうだ・・・。
そんなにヒリヒリしないで、もっと自然体で行こうよ・・・。
唯一、光太郎くんのポジティブで正直な有り様が救いでした・・・!!

「何者」朝井リョウ 新潮文庫
満足度★★★.5

64 ロクヨン

2016年05月17日 | 映画(ら行)
中間管理職は、つらいよ



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本作はすでに本で読んでいて、しかも苦手な前・後編、ということで、
ややためらっていたのですが、それにしてもこの出演陣の豪華さはどうよ・・・って、
見れば見るほどこれは見逃せないという気持ちになってきました。
それに、確かに読んだのですが、程よくストーリーも忘れかけていますし・・・(^_^;)



昭和64年、年頭のわずか一週間の間に起こった少女誘拐殺人事件、通称ロクヨン。
この事件が未解決のまま14年が過ぎた平成14年。
時効が目前に迫ったこの時が本作の舞台です。



かつて刑事部の刑事としてロクヨンの捜査にもあたった三上(佐藤浩市)は、
今は警務部の広報官を務めています。
しかし、記者クラブとの確執や刑事部と警務部の対立の矢面に立ち、
神経をすり減らしているのです。
おまけに個人的には一人娘が家出し行方不明。
仕事でも家庭でも心休まらないヒリヒリした毎日を、しかし、三上は真摯に立ち向かっていく。
そうそう、本を読んだ時にも感じたこの重圧感、
組織の中で生きる男性はキビシイなあ・・・と、つくづく思うのでした。
中間管理職は特に・・・。



この前編は記者クラブとの対立を中心に描いていきますが、
64の事件との関連では、なんと14年前の事件の時に、
捜査側に大きなミスがあったことを隠蔽し続けていたということがわかります。
そんなこともあって、殺害された少女の父親(永瀬正敏)は
警察に対しても心を閉ざしているのです。



本編の見どころはなんといっても、ラスト近くにある記者クラブの前での三上の語り。
三上を敵視している面々は始めのうち、聞くのも嫌だという顔をしています。
今さら言い訳めいたことなど聞きたくもない、と。
しかし、とつとつと語り始めた三上に次第に皆引きこまれ、
最後の方では感動を隠せず涙ぐむものもいるほど。
いや、私も少し泣けました。
独り語りなので佐藤浩市さんのセリフはすごく長いです。
でも、ものすごく気持ちのこもった説得力のある話。
後ほど解説を読んで知りましたが、ここのところは
やはりノーカットの長回しで一気に撮影したそうなのです。
画面的には回想シーンも入るので、実はカットを入れても大丈夫なところなのですが、
佐藤浩市さん自身の希望で、ノーカットで撮影したとのこと。
まさにその効果だと思います。
素晴らしいシーン、佐藤浩市さんの底力を見せられるシーンでもあります。
その場には今人気上昇中の若手の俳優さんも大勢いたわけですが、
すごく刺激になったのではないかと思います。



警察も新聞記者も、つい自分たちの論理で物事を考えます。
けれども、自分たちも記者も、もっと被害者に寄り添うべきなのではないかと、
つまりそういう話だったのだと思います。
この事については、三上自身も始めからそう思っていたわけではない。
けれども本作中での色々な苦い経験を経て、
その答えにたどり着いたのです。



さてそんなわけで、ようやく記者クラブとの関係が緩和された矢先、
なんとロクヨンを模倣した誘拐事件が発生?! 
というところで「つづく」・・・。
ひゃ~、これは見ないわけには行きません。
私の苦手とする前・後編ものではありますが、
でもこれは、この気持ちの変化を表現するためには、
やはりじっくりと順を踏んで描かなければダメだったろうということがよくわかります。
まあ、一ヶ月後には続きも見られるので、
さすがにそれまでに忘れ果てることはないでしょう・・・。



それにしても、豪華出演陣もダテではなく、
素晴らしいキャスティングですね。
主役佐藤浩市さんはもちろんですが、
彼を補佐する若手青年に綾野剛。
引きこもりになってしまう技師に窪田正孝、
記者クラブの先鋭に瑛太、
誘拐殺人を受けた少女の父親に永瀬正敏、
いかにも現場を知らなさそうなキャリアの県警本部長に椎名桔平、
ものすご~く嫌な上役、警務部長に滝藤賢一・・・。
滝藤賢一さんは、いじめを受けて精神が危うくなってしまう気弱な男の役も似合っていましたが、
こういう徹底した嫌われ役もまたこなせちゃうんだなあ・・・・。


文句のない力作。
後編が楽しみです。

「64 ロクヨン」
2016年/日本/121分
監督:瀬々敬久
原作:横山秀夫
出演:佐藤浩市、綾野剛、瑛太、永瀬正敏、榮倉奈々、瑛太、夏川結衣、窪田正孝、筒井道隆、坂口健太郎、滝藤賢一、椎名桔平、

中間管理職の悲哀度★★★★★
熱演度★★★★★
満足度★★★★★