映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

かぞく

2023年12月30日 | 映画(か行)

いき詰まった男たち

* * * * * * * * * * * *

2012年に43歳で急逝した漫画家、土田世紀による
未完の絶筆「かぞく」を実写映画化したもの。

 

主に4人の男性のことを交互に描いていきます。
4人それぞれが、生きる気力もなくすくらいにいき詰まり、
どうにもならない状況にあるのです。

★父が多額の借金を残して失踪したマコト(吉沢亮)。
 母と二人で住み慣れた町を離れ、新しい土地で暮らそうとしています・・・。

★内縁の妻ハルカと密やかに生活しているケンジ(永瀬正敏)。
 ハルカにはある秘密があるのですが、そのためにすべての意欲も失われているかのようです・・・。

★妻を亡くし、妻の連れ子二人をひとりで育てているタケオ(小栗旬)。
 めずらしく子どもたちと海へドライブに出かけます・・・。

★久々に実家に帰ってきたユウイチ(阿部進之介)。
 母には言えませんが何かがうまくいかずすっかり自信をなくしているようでもある。
 そんな時、自分の名を呼ぶ女性に、森の中へ誘われます。

すっかり生きるための心の火が消えかけている男たち。
再び灯がともることはあるのか・・・?

 

結局彼らに再生の力を与えるのは「かぞく」なのかも知れません。
それは血のつながりとは関係がなく、その存在だけ、あるいは思いだけでも十分。
豪華メンバーでありつつとても静かで地味な作品ですが、私は好きです。

吉沢亮さんは、やっぱりいいなあ・・・♡

 

<Amazon prime videoにて>

「かぞく」

2023年/日本/83分

監督・脚本:澤寛

原作:土田世紀

出演:吉沢亮、永瀬正敏、小栗旬、阿部進之介、鶴田真由、副島リラ、秋吉久美子

 

静謐度★★★★☆

喪失度★★★★☆

再生度★★★☆☆

満足度★★★☆☆


禁じられた遊び

2023年12月29日 | 映画(か行)

生と死のはざまにあるもの

* * * * * * * * * * * *

中田秀夫監督によるホラーであります。

 

愛する妻・美雪(ファーストサマー・ウィカ)、息子・春翔と共に
新居で幸せに暮らす井原直人(重岡大毅)。
ところが突然の事故で、妻が帰らぬ人になってしまいます。

直人の元同僚、映像ディレクターの倉沢比呂子(橋本環奈)は、
7年前の会社にいた頃、そして今、怪異に襲われていました。
比呂子が直人の家を訪ねてみると、
庭の盛り土に向かって「エロイムエッサイム」と呪文を繰り返し唱える春翔の姿が。

以前、「トカゲの尻尾を埋めて呪文を唱えると、トカゲが生き返った」と春翔は言い、
もう少しで、ここから母も再生して出てくると信じているのだと、
直人は言いますが・・・。

 

7年前、直人はすでに既婚者ですが、
比呂子は職場の同僚としてほのかな恋心を抱いていたのです。
しかしそのころ、彼女は恐ろしい出来事に何度も遭遇。
どうも彼の妻に恨まれているらしいと思い、
彼女は退社し、別の道を歩んでいたわけです。

比呂子は直人に恋心を伝えたわけでもなく、ただ思っていただけ。
具体的な接触すらなかったというのに・・・。
しかもコレは美雪が生きているときのこと。
すなわち生き霊ですね。

好きになっただけで祟られるなんて・・・
コワイコワイ・・・。

しかし、いざその美雪が亡くなると、事態はもっと恐ろしくなってきます。

とある霊能者は言う。
恐ろしいのは死者ではない。
生と死のはざまにあるものだ・・・。

いかにも適当でインチキそうな有名霊能者が、
実はやはりかなりのウデを持っていた・・・という意外なところがナイスでした。
が、この度はそれが彼の命取り・・・。
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・。

さて、ホラー作品でいつも思うのはその「魔物」とか「怨霊」が、
見えるか見えないかのときが本当に恐い。
でも終盤、それがくっきりと姿を現すと、途端に滑稽なものになってしまう・・・。
少なくとも、私はそのように思ってしまうのです。

だから結局なんだかなあ・・・という感じで。

だからほら、
「恐ろしいのは、目に見えるものではない。
見えると見えないのはざまにあるもの」
なんでしょうね。

 

<Amazon prime videoにて>

「禁じられた遊び」

2023年/日本/110分

監督:中田秀夫

原作:清水カルマ

脚本:杉原憲明

出演:重岡大毅、橋本環奈、ファーストサマー・ウィカ、正垣湊都、堀田真由、倉悠貴

 

恐怖度★★★.5

怨念度★★★★☆

満足度★★★.5


To Leslie トゥ・レスリー

2023年12月27日 | 映画(た行)

落ちぶれ、ボロボロになった先に

* * * * * * * * * * * *

テキサス州西部に暮らすシングルマザーのレスリー(アンドレア・ライズボロー)。
宝くじに当選し高額の賞金を手にするのですが、
数年でそのお金を酒で使い果たしてしまいます。

住む場所も行き場も失い、疎遠だった息子のところに転がり込みますが、
相変わらず酒に溺れる姿にあきれられ、追い出されてしまいます。

そして故郷の町、かつての友人を頼りますがそこでもすぐに追い出されるハメに。
そんな中、スウィーニーというモーテルの従業員と知り合い、
拾われてモーテルの清掃の仕事を得ますが・・・。

アンドレア・ライズボローは第95回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされています。
確かに、このレスリーの落ちぶれ方、生活の荒れ方は、息をのむようです。

ちなみにレスリーがこのときに当てたのが19万ドル。
つまり約2500万円。
億ならともかく、これは使おうと思えばあっという間に使い果たせる金額ですよね・・・。
しかし気持ちばかりが大きくなってやがて酒浸りのアルコール依存。
無一文になったばかりか、実はもっと酷いことをしていたのは終盤に明かされます・・・。

こんなことをしていてはダメだ。
なんとかやり直しなさい。

もちろん周囲の人々はそう忠告します。
でも、誰に何度言われてもダメで、
こういうことは本人が自分で気づくほかないのでしょう。

レスリーは閉店間際のバーでひとりぼっちで古い曲を聴きます。
「今いるのは本当に自分が居たかった場所なのか?」
そう問いかける歌詞が、突然レスリーの心に刺さるのです。

ほんの些細な、偶然のようなきっかけで大きく心が動くことがある。
そういう所に、私はリアリティを感じました。

また、そんな時にもやはり1人の気持ちだけではダメで、
たった1人でもいい、寄り添ってくれる人が必要なわけです。

いい物語でした。

<WOWOW視聴にて>

「To  Leslie トゥ・レスリー」

2022年/アメリカ/119分

監督:マイケル・モリス

出演:アンドレア・ライズボロー、アンドレ・ロヨ、オーウェン・ティーグ、スティーブン・ルート、マーク・マロン

アルコール依存度★★★★★

気づき度★★★★☆

再生度★★★★☆

 


市子

2023年12月26日 | 映画(あ行)

あらゆるマイナーな環境を背負って

* * * * * * * * * * * *

戸田彬弘監督が自信の主催する劇団チーズtheaterの旗揚公演として上演した
舞台「川辺市子のために」を映画化したもの。

川辺市子(杉咲花)は3年間一緒に暮らした恋人長谷川義則(若葉竜也)から
プロポーズを受けますが、その翌日、忽然と姿を消してしまいます。

途方に暮れる長谷川の前に、市子を探しているという刑事後藤(宇野祥平)が現れ、
彼女について、信じがたい話を告げます。

長谷川は市子の友人、幼馴染み、高校時代の同級生などを訪ね、話を聞きます。
そして市子がかつて違う名前を名乗っていたことを知ります・・・。

プロポーズを受けた市子は芯から幸せそうで、嬉しそうでした。
それなのになぜ、すぐに姿を消してしまったのか・・・。

市子は、いわばこの世に存在しない人物。
ただ共に暮らすだけならよかったのに、
「結婚」という制度に乗ろうとすることはできないのです・・・。

貧困、ネグレクト、性的虐待、ヤングケアラー、無戸籍・・・
あらゆるマイナーな環境を背負う市子ですが、
それをも果敢に1人で乗り越えようとする強さに、
いつしか引き込まれて行きます。

特にラストにはゾッとさせられる一方、
喝采を送りたいような気にもなってしまう・・・。

本当の名前はやはりアイデンティティを表出するもの。
別人の名を名乗らなければならなかった日々は、思い出したくない過去。
市子として生きたいと思い、そうして生きてこられた長谷川との日々は
彼女の生涯の中で最も輝く日々だったかも知れません。

でも結局、彼女は「市子」を捨ててもなお、自由を選んだのか・・・?
まさに圧倒され、ことばを無くすような物語。

<シアターキノにて>

「市子」

2023年/日本/126分

監督・原作:戸田彬弘

出演:杉咲花、若葉竜也、森永悠希、倉悠貴、中田青渚、渡辺大知、宇野祥平、中村ゆり

 

不幸度★★★★★

たくましさ★★★★★

満足度★★★★☆


「ふしぎの国のアリス」ルイス・キャロル

2023年12月25日 | 福音館古典童話シリーズ

無意味でナンセンスではあるけれど

 

 

* * * * * * * * * * * *

チョッキを着たへんてこなウサギのあとを追って、
不思議な世界に迷いこんだアリスが経験する、奇妙なできごと……。
ナンセンスとユーモアにあふれた永遠の古典童話です。

* * * * * * * * * * * *

福音館古典童話シリーズ 第4巻。

古典童話としては最も有名なものの一つかも知れません。
これも私、幼い頃にダイジェスト版の絵本でしか読んだことがなかったかも。
一冊としては意外な薄さでした。

特に内容を紹介する必要もないと思いますが、
でも読んでみるとことさらに無意味でナンセンスに思われます・・・。

 

本作が描かれたのは、1865年。
意外にも、先日読んだ「ピノッキオの冒険」よりも前ではありませんか!!
つまり、当時の物語というのは「ピノキオ」のように教訓的なものがほとんど。

そんなところに登場したこの物語。
独創的で画期的。
全く現実的ではない、空想の、つじつまの合わない物語。
訳者が後書きで言っていますが
「子どものためになることを教え、大人の世界に組み入れようとする、
わざとらしい意図から離れた、純粋な空想の世界」
が、ここにあります。
当時、どれだけ子どもたちの心を刺激したことでしょう。

そして、私自身このような空想世界を楽しむ柔軟な心を
かなり損なってしまっていることにも、この度気づかされてしまいました・・・。

ヤレヤレ・・・。
教訓的な話はイヤで、かといって空想的過ぎる話もダメなのね・・・。

まあしかし、このような話の意義を再確認できたということで、
ヨシとしましょう。

 

それと、訳者が言っていることで、もう一つ納得してしまったのは、
原文の作者特有の「かばん語(ふたつの単語を一つに重ねて作る言葉)」、
なぞなぞや語呂合わせ、造語の類いが日本語にしにくいこと。
そのために面白さが半減してしまうのだ、と。
分ります。
そうですよね。
これを楽しむには、うんと英語を勉強して原文を読むほかありません!!

でもまあしかし、本巻は、挿絵を原本初版時のものを
そのまま製版して用いているとのことで、これぞアリス、チェシャ猫
・・・という本物をじっくり味わえるのは、幸いなことです。

 

それと、著者ルイス・キャロルは、文学者ではなく数学教授であったとのことで・・・。
本作の構成も見ようによっては数学的な意図や配列があるやもしれず・・・、
そんなことでいまだに様々な分野で研究材料になっているようです。

図書館蔵書にて

<福音館古典童話シリーズ>
「ふしぎな国のアリス」

ルイス・キャロル 生野幸吉訳 福音館書店

満足度★★★☆☆


キャンディ・ケイン・レーン

2023年12月23日 | 映画(か行)

クリスマスイルミネーションの町

* * * * * * * * * * * *

カリフォルニア州のエルセグンド、キャンディ・ケイン・レーンに住むクリス・カーヴァー(エディ・マーフィー)。
妻と子ども3人、平和で幸せな日々。

クリスマスが近づき、いつものように
庭にイルミネーションやオーナメントの飾り付けを始めています。

ところがそんな時、急に職を失ってしまいました。
そこで、高額の賞金が出るというクリスマスの飾り付けコンテスト優勝をかけて、
熱意を燃やします。

そして、見慣れぬクリスマス用品の店で、あくどいエルフに騙されて契約を結んでしまい、
大変なことに・・・。

 

カーヴァー家の一家5人の一致団結、円満な家庭が微笑ましい。
とは言え、途中で一波乱もあるのですが・・・。

そして本作の見所、エルフの店にあったクリスマス村の住人たち。
小さな人型人形なのですが、彼らが動き出し、ことばをしゃべるのです。
彼、彼女たちも、エルフに騙されて人形にされてしまっていたのでした。
エルフの出した命題、「金のリングを五つ探し出すこと」を達成できなければ、
クリスも人形にされてしまうのです。

 

コミカルに描かれるクリスマス物語。
この時期、よいのでは?

 

エルセグンドのキャンディ・ケイン・レーンは実際に存在していて、
一般家庭の家々ながらその庭のクリスマスの飾り付けは、
華々しくてステキだそうですよ!

 

<Amazonオリジナル>

「キャンディ・ケイン・レーン」

2023年/アメリカ/120分

監督:レジナルド・ハドソン

出演:エディ・マーフィー、トレイシー・エリス・ロス、ジリアン・ベル

 

華々しさ★★★★☆

ドタバタ度★★★★☆

満足度★★.5


ノッティングヒルの洋菓子店

2023年12月22日 | 映画(な行)

親友の夢を引き継いで

* * * * * * * * * * * *

パティシエのサラと親友イザベラは、
長年の夢だった自分たちの店をオープンするところです。
店舗も借りて、いよいよ準備に取りかかろうとするとき、
サラが突然の事故で他界してしまいます。
悲しみと喪失感で何をする気にもならないイザベラと、サラの娘・クラリッサ。

しかしやがて彼女たちは、疎遠になっていたサラの母・ミミをも巻き込んで、
再び開店に向けて動き始めます。
しかし、肝心のパティシエがいない・・・。
そんな時、ミシュラン星二つレストランで活躍するシェフ・マシューが現れます。
かつて恋人だったサラから逃げた男・・・。
イザベラの反感を買いつつも、パティシエとして協力することに。

クラリッサは、もしかするとマシューが自分の父親なのでは?と思いますが・・・。

本作の原題は「Love Sarah」なのですが、
「ノッティングヒルの洋菓子店」とはよくしたもので、うまい邦題だと思います。
何しろノッティングヒルといえばあの名作なので、
つい興味を引かれてしまいます。

ロンドンの人気デリ「オットレンギ」の全面協力を得たそうで、
本当にどれもおいしそうで、見ているだけなのがつらく感じるくらいです。

さて、最愛のかけがえのない人を失った時の喪失感・・・。
どんな場合もそれはつらいですね。
しかも全く予期せぬ突然のことであれば。
けれど、そんなこともないわけではない、というのが現実というもの。

残された人々は、一時はもう立ち上がることもできないように思われるのですが、
けれど人生は否応なく続いていくので、それでも生きなければならないのです。

サラ1人分の穴を、関係する娘と母と元恋人が補い、
彼女らはサラの夢を引き継いで立ち上がる。

でも、この近所には同じような店が何軒もあって競合しており、客足は鈍いのです。
そこで、店の特色を出すアイデアが・・・、
というところもひねりがあって楽しいですね。

ロンドンも様々な国の人々が住み、多様化しているということなのでしょう。
日本人が好むお菓子というのも出てきてビックリ。
うーん、でもここは「どら焼き」くらいにしてほしかったな。
日本由来のものではあるかもしれないけれど、
海外でわざわざ食べたいものではない・・・。

ともあれ心温まる一作であります。

 

<Amazon prime videoにて>

「ノッティングヒルの洋菓子店」

2020年/イギリス/98分

監督:エリザ・シュローダー

脚本:ジェイク・ブランガー

出演:セリア・イムリー、シャノン・ターベット、シェリー・コン、
   ルパート・ペンリー=ジョーンズ、ビル・パターソン

立ち直り度★★★★☆

食べたい度★★★★★

満足度★★★★☆


ALIVEHOON アライブフーン

2023年12月20日 | 映画(あ行)

ドリフトレースって何?という方に

* * * * * * * * * * * *

本作は少し特殊な舞台でありまして、それは、日本発祥の「ドリフトレース」の世界。
正直私にとってはナニモノ?というところではありましたが、
これが、CGに頼らない実写を用いた撮影であったということで、
確かに迫力はありました。

内向的で人付き合いが苦手な大羽紘一(野村周平)。
しかし、驚異的なゲームの才能を持っており、
eスポーツの世界で日本一のレーサーになっています。
ある日紘一は、解散の危機に陥ったドリフトチームにスカウトされます。
ゲームではなく、実車のレースに出るようにというのです。
紘一は実車でもその才能を発揮し、活躍し始めますが・・・。

ゲームでのカーレースは、
ハンドル操作等すべて実車と同じ仕組みの運転装置を用いて行うのです。
だからゲーマーが実車に乗り換えても、
そこそこ同様に駆動することができるというのには納得。
でもゲームなら操作をミスっても身体に危険はありませんが、
実際の車であれば、これは命がけ・・・。
恐いですねえ・・・。

で、結局ドリフトレースの採点の仕組みとかがよくわからなかったのですが、
まあ、それでもその醍醐味はわかりました。

世の中にはいろいろなことに熱中する人がいるんだなあ・・・。

<WOWOW視聴にて>

「ALIVEHOON アライブフーン」

2022年/日本/120分

監督:下山天

出演:野村周平、吉川愛、青柳翔、福山翔大、陣内孝則

 

ドリフトレース紹介度★★★★☆

野村周平の魅力度★★★★☆

満足度★★.5


鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎

2023年12月19日 | 映画(か行)

絶滅寸前の一族の末裔

* * * * * * * * * * * *

水木しげる生誕100周年記念作品。

「ゲゲゲの鬼太郎」シリーズの原点である目玉おやじの過去と、
鬼太郎誕生にまつわる物語を描く長編アニメです。

いま、アニメを見るなら「トットちゃん」でしょう・・・
(私の中で「ウィッシュ」は問題外)と思いつつ、
先日こちらの予告編を見たら、かなり大人向けの雰囲気だったので、
見てみたくなりました。

昭和31年、鬼太郎の父(若かりし日の目玉おやじ)が、
行方不明の妻を探しに哭倉村へやって来ます。
そこは日本の政財界を裏で牛耳る龍賀一族が支配する山奥の村。

一方、血液銀行に勤める水木は、一族の当主の死の弔いのため、この村を訪れます。
が、弔いというのは建前で、実はある密命を受けていたのでした。

そんな水木と鬼太郎の父(水木が「ゲゲ太郞」と命名)が出会い、
次第に協力関係を結ぶことになります。

さて、当主の後継を巡って、一族に醜い争いが巻き起こりますが、
そんな中、村の神社で後継者の第一候補とされる者が惨殺されます。
そして引き続き起こる事件・・・。
水木とゲゲ太郞は、この家の繁栄の秘密を探り始めます。

ちょっとゾクゾクします。
水木はかつて南方の戦線に駆り出されて、
日本兵は意味もなく玉砕させられるような中、
かろうじて生き残り帰ってきたという経歴を持っています。
ちょっと水木しげる氏を想起しますね。

人の無残な死をいやというほど見てきた彼だからこそ、
人間ながらもゲゲ太郞や妖怪の存在に少し近いところにいるのでしょう。

結局、妖怪も恐ろしいけれど、さらに恐ろしいのは人間の欲望ということになりましょうか。

金銭欲。
名誉欲。
支配欲・・・。

世の政治家が道を踏み外すのは、こういう所が多いですねえ・・・。

さてこの作品、私、この11月末に札幌のすすきのにオープンした
「ココノすすきの」内の「TOHOシネマズ札幌」に初めて行って見ました。
新しくて心地よいです。
しかし、本作は「轟音シアター」という特別室で上映されていて、
追加料金がかかりました!! 
いや、確かに迫力ある音ではありましたが、別に普通のでいいのに・・・。
シネマフロンティアで見ればよかったと思ったりして。
今後は、そういう所も注意しながら場所を選ばなくては・・・。

(ロビーにゴジラがいました!)

<TOHOシネマズ札幌にて>

「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」

2023年/日本/104分

監督:古賀豪

原作:水木しげる

脚本:吉野弘幸

出演(声):関俊彦、木内秀信、種崎敦美、小林由美子、沢城みゆき、野沢雅子

鬼太郎の謎度★★★★☆

ゾクゾク度★★★★☆

満足度★★★★☆


「『死ね、クソババア』と言った息子が55歳になって帰ってきました」 保坂祐希

2023年12月18日 | 本(その他)

理解不能

 

 

* * * * * * * * * * * *

75歳、両親が遺した鎌倉の家に一人暮らしの晴恵。
一人息子の達彦は、大学進学をめぐる意見の食い違いから
「死ね、クソババア!」と捨て台詞を残して家を出て以来、
ほとんど音信不通。
終活を意識し始めた晴恵の元に、55歳になった達彦が突然、
非の打ちどころのない嫁を捨てて帰ってきた!

* * * * * * * * * * * *

本作、題名を見たところで、ありがちな家族の深刻な問題を
ちょっとコミカルに描くものかと思ったのですが、意外と重くシビアでした・・・。

75歳、一人暮らしの晴恵の元に、大学進学時に意見が食い違い
「死ね、クソババア!」と言って出ていったきりだった、
ひとり息子・達彦55歳が突然帰ってくるのです。
離婚することになったからと・・・。
しかしその理由も、今後の見通しも全く語ろうとしない自分勝手な息子。
これでも一応大学の准教授なのですが・・・。

母の元に転がり込んでくる息子というのは、
大抵は職を失って収入もなく仕方なく帰ってくるものですが、
この場合は職を失ってはいない。
ただし大きな問題を抱えてはいるのですが・・・。

 

私、この母晴恵の思考回路や判断はとてもよく分り、共感します。
でもこの息子の行動はどうにも理解できない。
離婚するとはいうものの、妻にその理由を全く話しておらず、
完全に一方通行の思いだけ。
母に対しても同じです。
少なくともこの家に世話になろうというのなら、すべてを話すのが道理でありましょう。
よくこんなので今までやってこれたなあ・・・とあきれるばかり。
つまり学者バカであったようです。

そんなバカ夫に対する妻の行為も、
できすぎというか都合よすぎでリアリティに欠ける。

ということで、私にはあまり響かない物語でした・・・。

 

<図書館蔵書にて>

「死ね、クソババア」と言った息子が55歳になって帰ってきました 保坂祐希 講談社

満足度★★☆☆☆

 

 


スイート・マイホーム

2023年12月16日 | 映画(さ行)

オカルトか? 狂気か?

* * * * * * * * * * * *

「齊」藤工さん監督作品。
俳優として活動するときは「斎」藤工と、サイの字を使い分けるのですね。
この度初めて知りました・・・。

と言うことで、本作、齊藤工さんは監督に徹し、出演していません。

スポーツインストラクターの清沢賢二(窪田正孝)は、
妻と幼い娘のために念願の一軒家を購入します。
地下の巨大な暖房設備により、家全体を暖める「まほうの家」というウリの家。
冬は寒冷な長野県では理想的。
マイホームでの幸せな生活をスタートさせた清沢一家。

ところが、妻がこの家には誰かがいて、いつも見張られている・・・と、言い出します。

実は賢二の実家にはほとんど引きこもりの兄がいて、
なぜかこの兄も「敵」がいつもこの家を狙っているので、自分が見張っているのだ・・・と、
半ば心が壊れた様子で主張するのです。

狂気は伝染するのか、それとも・・・?

オカルトなのか、狂気なのか、それとも? 
というところがなかなか興味深い作品なのです。
賢二はただよき夫、パパではなくて、実は浮気をしていたりするダメなヤツなのですが、
それがために、追い詰められたりもしていきます。
そしてどうも閉所恐怖症らしき彼の根底には、
とある過去の出来事が関係しているらしい・・・。

いかにも幸せそうなマイホームの、実のところの様々な暗い事情・・・。
恐くて興味深い作品でした。

奈緒さん、やっぱりこういう役ね・・・。

<Amazon prime videoにて>

「スイート・マイホーム」

2023年/日本/113分

監督:齊藤工

原作:神津凛子

脚本:倉持裕

出演:窪田正孝、蓮佛美沙子、奈緒、中島歩、窪塚洋介

 

狂気度★★★★☆

ホラー度★★★☆☆

満足度★★★.5


丘の上の本屋さん

2023年12月15日 | 映画(あ行)

少年と老人が本を通して語り合う

* * * * * * * * * * * *

「イタリアの最も美しい村」の一つに数えられるチビテッラ・トロントが舞台となっています。

イタリアの風光明媚な丘陵地帯を見おろす丘の上に小さな古書店があります。
店主のリベロは、店の外で本をながめていた移民のエシエンに声をかけます。

好奇心旺盛なエシエンを気に入ったリベロは、彼に次々と店の本を貸して、
本を返しに来たエシエンの感想を聞くのを楽しみにします。
二人の間に年齢や国籍を超えた友情が芽生えていきます。

舞台はこの書店の内部と、表の通りのみ。

書店を訪れる人々も描写されていきます。
中でも隣のカフェ店員の青年、ニコラは
用があってもなくてもちょくちょくやって来て、話をする気のイイ奴。

いつもゴミ箱から拾った本を売りに来て小遣い稼ぎをする男、
怪しい思想の持ち主らしき者、
本当に本が好きで本を買いに来る人は少ないくらい(?)ではありますが。

ゆったりと流れる時間の中で、特にエシエンが来るとフレッシュな風が巻き上がります。
最初は漫画の本。
次は「ピノキオ」、「イソップ物語」、そして「白鯨」。
リベロの選ぶ本は読書の入門にピッタリですね。

例のゴミ箱から拾ってきたという本のなかに、古い日記帳がありまして。
リベロはそれを少しずつ読んでいきます。
それは1950年代の若い女性、とあるお屋敷の小間使いをしているらしい女性が、
新たな希望を見出していくまでが描かれていて、それもまたステキです。

気になるのはリベロはかなりのご高齢で体調があまりよくないようなのですが・・・。

美しい物語でした。

 

<WOWOW視聴にて>

「丘の上の本屋さん」

2021年/イタリア/84分

監督・脚本:クラウディオ・ロッシ・マッシミ

出演:レモ・ジローネ、コッラード・フォルトゥーナ、ディディー・ローレンツ・チュング、ピノ・カラブレーゼ

のどか度★★★★☆

老人と少年の交流度★★★★★

満足度★★★★★


映画ネメシス 黄金螺旋の謎

2023年12月13日 | 映画(な行)

メネシスか? ネメシスか?

* * * * * * * * * * * *

テレビドラマシリーズの映画化。
横浜の探偵事務所ネメシスを巡る物語。
私はテレビドラマも見ていましたが、残念ながら関心は薄く、
映画版も軽くスルーしていました。
そもそも、「メネシス」なのか、「ネメシス」なのかもいまだによく覚えておらず、
この度映画検索で「メネシス」と打ったら出てこなかった・・・。

さて、本作。
相変わらずの探偵事務所。
社長・栗田(江口洋介)、天才探偵(?)風真(櫻井翔)、
探偵助手アンナ(広瀬すず)は健在ですが、
近頃依頼がめっきり減って、誘拐されたペットの犬を探し出してほしいという依頼に飛びつく始末。

そんな頃、アンナは親しい人々が次々に殺害されていくという
悪夢を繰り返し見るようになります。

ゲノム解析による操作によって誕生したというアンナのディープな秘密と、
そのデータのことが根底にある事件が始まります・・・。

ストーリーは悪くはなくて、出演者も豪華。
これがなぜさほど受けないのか・・・?
それが最大の謎ではあります。

思うに、探偵事務所の3人の役割づけが中途半端というか、
天才探偵は実はポンコツなのに、ポンコツになりきれていない。
では社長の役割は?と言えば、よく分からない。
アンナの特殊能力も生かし切れていない・・・。
つまり人材を使い切れていないのかも。

テレビドラマもさほど人気があったわけでもないのに、映画化というのも謎の一つ。

 

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」

2023年/日本/99分

監督:入江悠

脚本:泰建日子

出演:広瀬すず、櫻井翔、江口洋介、勝地涼、真木よう子、橋本環奈、佐藤浩市

 

満足度★★.5

 


あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら

2023年12月12日 | 映画(あ行)

お国のために命をかける意味を問う

* * * * * * * * * * * *

汐見夏衛さんベストセラー小説の映画化。


親にも学校にも不満を抱える高校生、百合(福原遥)。
進路を巡って母親とケンカになり、家を飛び出して、近所の防空壕跡で一夜を過ごします。

翌朝目を覚ますと、そこは1945年6月の日本。
通りがかりの青年、彰(水上恒司)に助けられ、
軍の指定食堂に連れて行かれた百合。


彼女はそこでおかみのツル(松坂慶子)や、彰と同じ隊の青年たちと出会います。
しかし彼らは特攻隊員で、間もなく出撃する運命にあるのです。
この地で彰の誠実さ、やさしさに惹かれていく百合ですが・・・。

散々語られ尽くした感のある戦争物、しかも特攻隊員の話ではありますが、
ストレートにではなくて、タイムスリップものとして表わされています。
というのはやはり、現代の若い人たちに入りやすくするという狙いでありましょう。

自分がいかに恵まれているのかも気づかず不満ばかりを抱えていた百合が、
戦時中の日本のただ中でどのようなことを思うのか、そこが眼目であります。

身元も分らず奇妙な服装をした百合を、
こんなにもスンナリと受け入れる食堂のおかみさんというのは
いかにもご都合主義過ぎる気がするけれど、まあ、それを言っては始まらない。

いくら何でも彼女は1945年の夏には日本が負けて戦争が終結すると知っています。
けれども特攻隊の若き青年たちは、勇んで旅立っていく。
彼女にとってはそれは全くムダな行為なのですが、
まもなく日本が負けて戦争が終わると言っても誰も聞く耳を持たないし、
「非国民」と呼ばれ危ない目にもあってしまいます。

そしてついには愛する彰の出発の日が・・・。

戦争のむなしさを強く訴えますね。
二人が白い百合でいっぱいの丘にたたずむシーンが、なんとも切なく胸に残ります。

そして、タイムスリップをいかしたラストシーンにもまた、涙、涙・・・。
それに続いての、福山雅治さんの「想望」にもシビれてしまう。

やはり子どもたちや若い方々に見てもらいたい作品です。

<シネマフロンティアにて>

「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら」

2023年/日本/127分

監督:成田洋一

原作:汐見夏衛

出演:福原遥、水上恒司、伊藤健太郎、松坂慶子、中島朋子

 

タイムスリップ度★★★★☆

戦争を考える度★★★☆☆

満足度★★★★☆

 


「ピノッキオのぼうけん」C.コルローディ

2023年12月11日 | 福音館古典童話シリーズ

子どもは学んで人間になる

 

 

* * * * * * * * * * * *

世界中の子どもたちに愛されている、あやつり人形の物語の完訳。
丸太棒から生まれたとたんにいたずらをはじめ、失敗ばかりくり返す
――ピノッキオはまさに子どもの原型です。

* * * * * * * * * * * *

福音館古典童話シリーズ 第3巻。
ディズニーの映画を見たことがあるくらいで、これまでまともに読んだことはありません。

この度読んでみると、実のところ楽しくない・・・。
あまりにも、ピノッキオが無知で愚か。
そのほとんどゼロの状態から成長していく物語なので仕方のないことではありますが、
その過程もあまりにも教訓的で、気が乗りません。
無知で何も知らないピノッキオの姿=「子ども」ということなんですね。

 

この「ピノッキオのぼうけん」は、「ピノキオ」として1940年にディズニーでアニメ化、
そして同じくディズニーで2022年に実写映画化されていまして、
ということは子どもたちにはそれなりに人気があるのでしょうか。

原作は、1881年イタリアの作家コルローディによって新聞の連載小説として書かれました。
本来は途中で終わっていたものの、子どもたちの人気があって、
続きをせがまれ、今日の形となったそうで。

怠けてばかりのピノッキオに、子どもたちはうんと親近感を持ったのかも知れません。

 

作中で私が驚いたのは、ピノッキオが悪いキツネとネコに騙され、
大切な金貨を盗まれてしまったのに、
なぜかいきなり牢屋へ入れられて数ヶ月を過ごす、というところ。

不条理の物語・・・?

いやいやつまり、無知で自分で考えもせず
簡単に人に騙されてしまうことこそが「罪」であるということなのかも知れません。

 

学校へ行って知識を身につけ、自分で考え、労働して自分や親の面倒を見ること。
これこそがあるべき正しい姿です。
ピノッキオはあちこちで誘惑に負けて大きく道をそれてしまうのですが、
それでも紆余曲折のすえようやく念願の「人間」になることができます。

すなわち、未熟な子供はまだ人間ではない。
いろいろなことを身につけ自立することでようやく「人間」となる。

・・・というのは西洋的子供観で、日本ではちょっと違うかもしれませんね。

 

ともあれ、あまり面白くないといいながらも、
終盤は感動してしまいましたので、さすがの物語の力と言えましょう。

ディズニー作品はかなり内容をアレンジしているでしょうし、
原作とどう違うのか比べながら見てみるというのも一興かも知れません。
私はやりませんけど・・・。

あ、それと私が読んだのは1970年に初版発行されたものですが、
今で言う「差別用語」がわんさか出てきます。
今ではほとんど見聞きしなくなった言葉・・・。
言葉は消えても実態は根強く残っているのですが。
時の流れを感じます。

 

図書館蔵書にて

<福音館古典童話シリーズ>

「ピノッキオのぼうけん」C.コルローディ 安藤美紀夫訳

満足度★★.5