映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「不思議の扉/時間がいっぱい」 大森望編

2010年04月30日 | 本(SF・ファンタジー)
時間の不思議に浸ろう

不思議の扉 時間がいっぱい (角川文庫)
大森 望
角川書店(角川グループパブリッシング)


            * * * * * * * *

アンソロジーシリーズ「不思議の扉/時をかける恋」に気をよくして
この第2弾も読んでみました。
こちらも時間に絡んだ興味深いストーリーの数々ですが、
ラブストーリーよりは、時間の不思議さ、奇妙さにメインがあります。
著者は大槻ケンヂ、筒井康隆、フィッツ・ジェラルド、星新一など
実にバラエティに富んでいまして、
確かに、こういう本ででもなければまず読みそうもないものも多いので、
こういうチョイスはうれしいですね。


さて、この本で気づいたのは、時間ループものが結構多いということ。
つまり、同じ時間がぐるぐるとエンドレスでつながってしまうという事象です。


時間のループが10分で一回りしてしまい、
しかし、記憶だけはきちんとあるというのが筒井康隆の「しゃっくり」。
まさに時間のしゃっくりのような反復。
10分というのはあまりにも短いですね。
しかし、永遠にこの10分が繰り返されるというのはやりきれない。
違う行動をすることは出来るのですが、所詮は10分。
たとえばバイクで思い切り遠くまで行っても、
10分後はまたスタート地点に戻ってしまうのです。
これでは発狂者も出ますよね。


谷川流の「エンドレスエイト」。
こちらは夏休みの終わりの2週間が繰り返し繰り返し永遠に続くというストーリーです。
しかし、こちらは記憶もリセットされてしまう。
なんとこのストーリーでは、15498回繰り返したというすさまじいことになっています。
さすがにみなさん不思議な既視感に襲われている。
う~ん、でも永遠に夏休みならいいのにって、ちょっと思うことはありますよね。
しかしさすがにここまで繰り返すのでは嫌になりそうだ・・・。
どうすればこのループから抜け出せるのか。
そこが問題なわけです。


そして星新一「時の渦」。
この作品では、ある一日が永遠に繰り返されます。
つまり未来が無くなってしまった。
この場合人々の記憶は残るのです。
しかし、夜になり、朝が来るとまた同じ一日が始まる。
天気はいつも晴れ。
季節は変わらない。
冷蔵庫の中のモノをいくら食べても、いくらお金を使っても、
翌朝にはすべてリセットされていて、元の通り。
一見ステキなようにも思えますが、買った物もなくなってしまう訳なので・・・、
じきにやる気をなくしますね。
どんなに働いてもムダ。
明日が無い。
さてそんな中でさらに不思議なことが起こるのです。
この同じ日が続いた2日目には二日前に死んだ人が、
3日目には3日前に死んだ人がよみがえる。
次第に人が増えていって・・・。
これがまた意外な展開を見せるので、油断できません。


このほか、まるで映画「BALLAD 名もなき恋のうた」のような、
大槻ケンヂ「戦国バレンタインデー」。
これも映画でおなじみフィッツ・ジェラルド「ベンジャミン・バトン」など、
お楽しみいっぱいです。
ベンジャミン・バトンは映画の方がよりロマンチックに脚色されていたようです。
原作はもっと淡々と年月が過ぎ、
ひたすらに若くなり続けるベンジャミン・バトンは、
誰に愛されることもなく、孤独の内に子供に返って行きます。
実は奥さんもいて、息子までいたんですね!

満足度★★★☆☆

「美晴さんランナウェイ」 山本幸久

2010年04月29日 | 本(その他)
破天荒な叔母、27歳を少女が語る

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美晴さんランナウェイ (集英社文庫)
山本 幸久
集英社

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この物語の語り手は、中学生の世宇子。
けれど、ストーリーの中心になるのは彼女自身ではなく、
彼女の家に同居している叔母の美晴、27歳。
世宇子の視点でこのユニークな叔母のことを語っています。


美晴は世宇子のお父さんの妹で、27歳独身。
時々バイトするだけのお気楽な生活。
家族は彼女の破天荒な行動にしばしば混乱させられるけれども、どうにも憎めない。
ある意味中学生の世宇子よりよほど子供なんですね。
でも、世間の規範に縛られないその生き方は、魅力的でもあるわけです。

美晴は始め、なにやら軽そうな男と付き合っていたのは、だめになった様だ。
世宇子のお母さんは、何とか美晴をさっさとお嫁に行かせたくて、
お見合い話を次々に持ってくる。
とうとう美晴がお見合いを承諾した相手はムキムキのマッチョマン。
でも、その当日・・・。

さて、美晴の本命は誰なのか。
そして世宇子のほのかな思いは・・・。


この家族の風景はちょっと小路幸也を思わせるんですね。
核家族がほとんどの昨今、三世代同居・・・などと言うだけでもちょっとレトロな感じがする。
でも、こんなふうに、いつも仲むつまじいとまで行かないまでも
家族の物語は、なんだか懐かしくほっこりとします。


また、この文庫には最後に追加の書き下ろしの一篇が加えられています。
それはこの本の物語から20年以上を経た後日譚。
なんとここでの語り手は世宇子の弟の翔。
彼は小説家になっていたのです!
つまり、「美晴さんランナウェイ」は
翔が、実在の叔母を題材にして書いた小説だったということで・・・。
最後のこんなエピソードも楽しい。

残念なのは世宇子さんは今どうしているのか。
従兄弟の自由君は・・・?
そこも語って欲しかったのですが、
まあ、言わぬが花、ということもありましょうか。

満足度 ★★★☆☆

バグダッド・カフェ/ニュー・ディレクターズ・カット版

2010年04月28日 | 映画(は行)
受け入れてくれる人が居れば、どこででも生きていける

バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版 Blu-ray

紀伊國屋書店

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1987年「バグダッド・カフェ」のディレクターズカット版です。
旧版をDVDレンタルで見たいと思っていたのですが、
なかなか回ってこないので、ミニシアター上映中のこの機会に見に行きました。


アメリカ西部の砂漠にあるモーテル兼カフェ。
そこへ1人のドイツ人女性が大きな荷物を持ってやってきます。
彼女は夫と旅行中、大げんかをして車を降りてきてしまったのです。
それにしても、いかにも寂れてゴミだらけで、殺伐とした店・・・。
こちらも大げんかの末、夫が出て行ってしまい、
残された女主人ブレンダが切り盛りしているのです。
こんな砂漠にたった一人で着替えも持たずに現れたジャスミンを
うさんくさく思うブレンダでしたが・・・。
この2人の女性が次第に親交を深めていきます。
特別大きな事件が起こるわけでもない。
砂漠のけだるくゆるい時間が流れていく。
しかし、ジャスミンの存在が、どんどん周りを変えていくのです。
いかにも寂れ、殺伐としたその店が、
彼女だけに心地よいのではなく、みんなにとっても居心地のよい空間に変わっていく。
いつしか賑わい、繁盛しているバグダッド・カフェ。

ふとっちょのドイツ女性ジャスミンと
黒人のブレンダという取り合わせもなかなかユニークですよね。
ジャスミンは実は黒人が珍しいのです。
初めブレンダを見て、自分が大きな壺でゆでられて、
その周りを、ゆであがるのを待って踊っている
未開のアフリカ原住民の光景などを想像してしまったりする。
好奇心旺盛で、働き者。
彼女の存在感がすばらしい。
こんな何もない砂漠の映像で、でも何故か癒されてしまうのですよ。
生きていく場所はどこにでもあるんだなあ・・・。
自分を受け入れてくれる人が居れば。
こんな中であくせくしないで生きていくのもいいなあ・・・。
特に多忙な昨今だから、ますます惹かれてしまいます。

また、ここに登場する他の人たちも、特に何をするでもなく、皆さんブラブラしてますねー。
いつもピアノを弾いているブレンダの息子。
ハリウッドで働いていた画家。
ブーメランをあやつる青年。
おまけに、家出をしたのはいいけれど行く当てもないのか、密かにブレンダを見守る夫! 
これで生きていけるのなら、これがいいなあ。


主題歌「コーリングユー」は、私でもよく知っている曲でした。
この映画の曲だとも知らずに・・・。
ちょっぴりけだるくもの悲しいこの曲。
とてもよくマッチしています。

2008年(1987年)/ドイツ/108分
監督:パーシー・アドロン
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、CCH・パウンダー、ジャック・パランス、クリスティーネ・カウフマン

「ソロモンの犬」 道尾秀介

2010年04月26日 | 本(ミステリ)
著者の仕掛けた罠にご用心

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ソロモンの犬 (文春文庫)
道尾 秀介
文藝春秋

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秋内たち4人の大学生は、彼らの幼い友人、陽介の亡くなった事故現場に居合わせました。
陽介はかわいがっていた愛犬に引きずられて道路に飛び出してしまい、
トラックに轢かれてしまったのです。
その現場の様子にどうも納得できない秋内は、
動物生態学に詳しい間宮助教授に相談に行くのですが・・・。


ストーリーは、何故か陰気な喫茶店にずぶ濡れで入ってくる秋内のシーンから始まります。
すると待ち合わせをしたはずもないのに友人3人もやってきて、
この事故のことを始めから見直すことになるのですが、
それにしても、何か漂う暗い雰囲気。
実はこのシーンの秘密は最後で明かされます。
まさに予測不可能・・・。
とあおると、それこそ考えすぎて、逆につまらなくなってしまうので、
まあ、とてもおいしい仕掛けがある、というくらいにしておいた方がいいですね。


ここで陽介の愛犬オービーは、なかなかつらい立場です。
もちろん犬に悪意があろうわけもなく、
たまたま起こってしまった不幸な出来事だったわけですが。
事故現場から姿を消してしまったオービーは、
何日も後に、なんと陽介が搬入された病院の生け垣で衰弱して見つかったのです。
彼のパートナーを心配してのことだったのです。
泣かせます。
でも、陽介の母は、犬に責任があるとは思わないけれども、
とてもこのままオービーを飼い続ける気にはならない。
その犬の行く末を心配する秋内はなかなかステキなヤツなんですよね。

どうしてこんなことになってしまったのか。
ソロモンの指輪があれば、直接オービーから話を聞けるのに。
と、このことがこのストーリーの題名の由来です。
陽介にとてもなついていたオービーは、
やはり動物行動学の必然からこんな事故を招いたようです。
犬好きの方なら、より楽しめる一篇。
そして、ちょっぴりほろ苦い青春小説でもありますね。

満足度★★★★☆

映画に愛をこめて~アメリカの夜

2010年04月25日 | 映画(あ行)
映画を愛する人に捧げる群像劇
<何度見てもすごい50本より>

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映画に愛をこめて アメリカの夜 特別版 [DVD]

ワーナー・ホーム・ビデオ

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フランソワ・トリュフォー監督が、映画を愛するものたちに捧げた群像劇。
映画の制作シーンがそのままストーリーになっています。
その劇中劇の映画監督こそ、フランソワ・トリュフォー監督ご本人。
舞台はフランス、ニースのスタジオ。
「パメラを紹介します」という映画を撮っているところなのです。
そのスタッフやキャスト、それぞれの人間模様。
撮影シーンはとても興味深いですね。
何度も同じシーンを取り直す。
ある女優がセリフをとちったり、ドアと間違えて戸棚をあけてしまったり、
何度やってもうまくいかないなんてシーンは見ものです。
また、監督業のなんといそがしいこと。
ただ、映画の内容だけ考えていればいいというわけではないのですね。
次から次へといろんな人が彼の判断を仰ぎにやってくる。
キャストやスタッフのスケジュール調整。
撮影の手順。
保険のこと。
セリフの書き換え。
女優が妊娠していたり、
男優が彼女に逃げられて引きこもってしまったり。

ありとあらゆるアクシデントや予算やタイムリミットとの戦い。
始めにあった情熱は消えていって、ただ「終わらせること」だけが目標になる。
実際の監督だから言える言葉です。
けれど、それをやり通すのはやっぱり映画への愛があればこそ。
いろいろな人が一つの作品のために一定期間集中して仕事をする。
そういうことのおもしろみも感じました。


劇中劇の愛想劇と現実のキャスト・スタッフの愛憎劇が相まって
面白い効果を生み出しています。
ヒロイン、ジャクリーン・ビセットはなんてキレイなんでしょう。
ほとんどパーフェクトな美貌ですねえ・・・。
ため息が出ます。


「アメリカの夜」というのはカメラレンズにフィルターをかけて、
夜のシーンを昼間に撮影すること。
映画を作るための様々な工夫を象徴している言葉ですね。
劇中劇のラストシーンの雪。
何か同様のうまい言い方はないのでしょうか。
さしずめ、「ニースの雪」。
そんなところかな。

1973年/フランス・イタリア/115分
監督・脚本:フランソワ・トリュフォー
出演:ジャクリーン・ビセット、バレンティナ・コルテーゼ、ジャン=ピエール・レオ、ナタリー・バイ、スランソワ・トリュフォー

オーケストラ!

2010年04月24日 | 映画(あ行)
“のだめ”だけがオーケストラドラマじゃない!!



                * * * * * * * *

おりしも、ちょうど「のだめカンタービレ最終章」が始まったところですが、
そちらは少し置くことにして、こちら、「オーケストラ!」を観ました。


かつて、ソ連のボリショイ交響楽団で指揮者を務めていたアンドレイ。
しかし、そのソ連の圧政により地位を奪われ、今では劇場の単なる清掃員。
ある時、パリのシャトレ劇場からの出演依頼ファックスを偶然目にしてしまう。
彼は同じくクビになったかつての楽団仲間を集めて、
ニセのオーケストラを結成し、
パリの公演に出演してしまおうと決意します。
人集めに資金の調達。
楽器を手放してしまった人が居たり、
そもそもビザを持っていない人も・・・。
さて、この大胆なもくろみはうまくいくのでしょうか!?
また、アンドレイがソリストとして指名したのは
パリ在住の若き美人バイオリニスト、アンヌ=マリー・ジャケ。
アンドレイはなにやら彼女と因縁がありそうなのですが・・・。
いったいその関係とは?



呼び集められたかつての楽団員たちの多くは、
東欧ユダヤ人やロマと呼ばれる流浪の民。
陽気で、たくましい人たちばかり。
何とかパリにたどり着いた彼らは、
自由を謳歌するために、練習も放りだしてさーっとどこかへ姿をくらましてしまいます。
本番にきちんと皆戻ってくるのでしょうか。
また、本物のボリショイ交響楽団の団長がなんと休暇でパリに来ている!
アンヌは、練習にも集まらないこの楽団やアル中のアンドレイに愛想を尽かして、
共演をキャンセルすると言い出す。
このいくつもの困難。
全くハラハラさせられますねえ。
ユーモアも挟み込みながら、気がもめる中、開演の時間が迫ります。



アンヌ役のメラニー・ロランは本当にキレイ。
この方は、「イングロリアス・バスターズ」に出ていたのでしたっけ。
ああ、あの、燃え上がるスクリーンに映った印象的なアップ。
今、人気急上昇中ですね。

さて、アンドレイが絶対に成功させたいと願うのは、
30年前かつてKGBに中断させられてしまった因縁の曲、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。
期待が高まった上で演奏されるその曲には、いたく感動させられました。
この情熱的なヴァイオリンの調べと至上のハーモニー。
いいものですねえ・・・。
クラシックの魅力を語るのは何も“のだめ”だけではない、と。




ところで、このボリショイ交響楽団で、
かつてユダヤ人の楽団員が連行され、それに反対した者が解雇されたというのは
実際にあったことなのだそうです。
芸術の世界も、政治にはいろいろと翻弄されるものなのですねえ。
いえ、その政治が、芸術を利用するのですね。
もてはやしてみたり、弾圧してみたり・・・。
このバックボーンがほろ苦く、でもユーモアにくるんで感動の頂点へ導きます。
きちんと大人に向けたオーケストラのドラマとなっています。
クラシックだからと言って、ちっとも堅苦しくはありません。
オススメです。



2009年/フランス/124分
監督:ラデュ・ミヘイレアニュ
出演:アレクセイ・グシュコブ、ドミトリー・ナザロフ、メラニー・ロラン、フランク・ベルレアン

「百鼠」吉田篤弘

2010年04月23日 | 本(その他)
雷に導かれる3編

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百鼠 (ちくま文庫)
吉田 篤弘
筑摩書房

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何かと楽しみな吉田篤弘氏作品。
この本は3つの物語からなっていますが、どれも断片的で、起承転結には欠ける気がしたのです。
それなりに引き込まれて、もう少し読んでみたかったと思わせる。
ところが驚いたのは本の最後のところ。

「三つの序章-あとがきにかえて」
・・・とありまして、
なんとこれら3編はある日いきなり3つのタイトルが思い浮かび
3つのストーリーを平行して書いたというのです。
そしてこれらはそれぞれ完結しておらず、いわば第一章・・・序章であると。
続きはそのうちまたお目にかけましょう・・・、
ということで、それぞれ、起承転結に欠けるのはあたりまえだったのですねえ・・・。
ただし、これら三編はいずれも「雷」が登場すること、
一人称と三人称が密かなテーマとなっていること
という共通項があります。
それでいて実に全く別々のストーリーというのも、すごいですね。


「一角獣」は空き地にうち捨てられた自転車をひろうモルト氏のストーリー。
この自転車には何故か角(つの)がある。
この自転車に乗ると、初めて自転車に乗った6歳の頃の自分がよみがえる。
モルト氏とその妹、恋人とその兄。
モルト氏を中心としながら彼らの日常を描いていきますが、
どこか現実離れしたメルヘンのような語り口。
キーワードは「水面下」。


次が表題の「百鼠」
百匹のネズミの話・・・ではなかったですね。
天上で暮らす<朗読鼠>は、
地上の作家が三人称で小説を書く時に、第三の声となってサポートするのが仕事。
ある日担当する作家が急に一人称小説を書き始めてしまい・・・。
この3作中では最もメルヘンっぽい設定ではありますが、
とても象徴的な物語だと思います。
朗読鼠、といっても、ネズミの姿では無いのです。
ここで言う<鼠>とはネズミ色、つまりグレーのことなんですね。
白と黒が混ざった色。
銀鼠、桜鼠、鉄鼠・・・江戸の昔にはたくさんのネズミ色の命名があった。
贅沢を禁じられた当時、許されたネズミ色にほんのひとたらし他の色を加えて、
実に微妙なネズミ色を作り出し、着物を作った。
この百の様々なネズミ色のことを指しているわけです。
この<朗読鼠>くんが、地上に旅するシーンはなかなか印象的ですよ。


最後の「到来」は、最も現実的なストーリー。
大学生の「わたし」と、彼氏の中村屋君、作家のお母さん。
そういう日常を描いていますが、
「わたし」はお母さんの描く女性が
すべて自分の言ったこと、したことがモデルになってしまっていることに嫌悪を感じている。
やわらかな語り口ながら、ちょっぴり苦さもあり、
私としてはこの3作の中では最も続きが気になる作品です。


「一角獣」はその後「小さな男*静かな声」という作品で、
多少姿を変えて長編として完成したそうで、
他の2作は、今後どうなるのか未定とのこと。
是非続きを書き上げていただきたいものです。


満足度★★★★☆

ダーティハリー 5

2010年04月21日 | クリント・イーストウッド
俺と組むと、死ぬか大けがをするぞ

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ダーティハリー5 [DVD]

ワーナー・ホーム・ビデオ

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さて、かなり間を開けながらも続いていた、ダーティハリーの5作目。
一応これが最後です。
相変わらず、過激なキャラハン刑事ですが、
これまではその過激さ故に、市民からも警察内部からも非難を受けることが多かったのですが、
今回は、ある大物逮捕の功績で絶賛されているというところから始まります。
でも、その人気が命取り・・・ということになるんだね。
はい。有名な歌手や映画評論家の連続殺人事件。
それは「デッド・プール」という死亡予想ゲームの名簿に載せられた人物だった。
そして、その名簿の中にはハリー・キャラハンの名前も・・・。
いかにも怪しいのは、B級ホラー映画監督のピーター・スワン。
けれども次第に、彼は誰かに罪をなすりつけられているとわかってくる。
さて、真犯人は・・・。


今回ハリーと組むのは中国系のクワン。
カンフーの達人だね。
「俺と組むと死ぬか大けがをするぞ」と最初から警告をするハリー。
しかし、クワンは十分それに耐えられる人物であったわけだ。
・・・よかったねえ。
また、今回のカーチェイスは、なんとラジコンカーとの追跡劇。
プラスチック爆弾搭載のラジコンカーだね。
うーん、現実には、実際の車が軽く逃げ切っちゃうだろうという気はするけどなあ。
ちょっと映像的にも迫力が欠けました。
でも、やっぱりあのサンフランシスコの坂道のカーチェイスっていいなあ。
ムードがありますね。


特に印象に残るほどの出来ではないと思うんだけれど・・・
そうだね。これは、監督はイーストウッドではないし。
でも、マスコミの過剰な報道の問題に触れていたし、
今回の犯人像は、いわばサイコパス、心の病。
より現代的な世相に近づいてきている感じはする。


イーストウッド作品、ずいぶん見てきたけれど、
これでまだ20年以上も前の作品なんだねえ。
まだまだ、先があります。楽しみですね。
ねえ、考えてみたら、最近の公開作品は普通の記事で、
カエル・ヒヨコシリーズになっていないじゃん。
あ、気がつきましたか。
せっかくイーストウッドのカテゴリを作って並べたら、ちぐはぐになっていたってわけですが。
まー。いいんじゃないのお~
で、済ますところがやっぱりO型だよね。


1988年/アメリカ/92分
監督:バディ・バン・ホーン
出演:クリント・イーストウッド、パトリシア・クラークソン、エバン・C・キム、リーアム・ニーソン

「ボトルネック」 米澤穂信

2010年04月20日 | 本(ミステリ)
二つの世界の違いの元。ビターな解答。

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ボトルネック (新潮文庫)
米澤 穂信
新潮社

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亡くなった恋人を追悼するために、東尋坊を訪れたリョウ。
ふとその断崖から墜落してしまった
・・・のだけれど、気がつくと見慣れた金沢の街にいる。
家に帰ってみるとそこには見知らぬ女性が。
彼は、「姉」が生まれ、「自分」が生まれてこなかった、別の世界に入り込んでしまっていた。
こう言うと、かなりSFチックな作品に思えるのですが、
これはそのような設定が特異というだけで、
実は非常に厳しい自己認識に関わる青春のストーリーなのです。


何しろ、元々のリョウの世界は悲惨です。
好きだったノゾミは東尋坊で事故死。
両親の不和。
事故で植物状態だった兄はとうとう息を引き取ったところ。
ところが、リョウが迷い込んだ世界ではノゾミも兄も健在。
微妙に元の世界とは異なるこの世界。
どこが違うのか・・・まるで間違い探しの様なのだけれど
・・・そもそもその差異はどこから来るのか。
物語のラストでリョウはその答えを見つけるのですが、それは非常に苦い物なのです。

終章は 「昏(くら)い光」となっていまして、
私たちはそのラストに戸惑い、呆然とさせられるでしょう。


この著者の作品、そう多くは読んでいません。
一番始めに読んだのが「さよなら妖精」で、
これはむしろ著者の作品群では異色ですね。
その後に読んだのが「春季限定いちごタルト事件」。
この題名と表紙のかわいいイラストから予想した内容とは裏腹に、ビターな作品でした・・・。
なんというか、鋭利で冷たいナイフを首筋にあてがわれたみたいな、
ひりひりする感覚があります。
仲良しこよしとか正義とか、もちろん愛とか恋とかは置き去り。
ほとんどお気楽読書で通している私には、
やや苦手感が残っていまして、その続き、夏・秋は読んでいません。

この本では、やはりその感覚が呼び覚まされるのですが、
それにしても、読まされてしまいますね。
著者の才能をもろに感じますが、
あまり深入りしたくない・・・というのも正直なところです。

満足度★★★★☆

第9地区

2010年04月19日 | 映画(た行)
本当に恐ろしいのはエイリアンではなく・・・



              * * * * * * * *

巨大な宇宙船が突然やってきた・・・。
ニューヨークでもワシントンでもシカゴでもなく、何故か南アフリカのヨハネスバーグ。
まあ、これはこの映画の監督、ニール・ブロムカンプの出身地であるからなのでしょうけれど。
その宇宙船は空に浮かんだきり、動きを見せない。
しびれを切らした地球人がのりこんでみると、
なんと中には息も絶え絶えで気力をなくした無数のエイリアンたちが・・・。
やむなく地球では彼らを難民として地上に受け入れることにします。

さてそれから20数年が経って・・・
エイリアンはますます数を増し、彼らの居住地第9地区はスラム化。
彼らは地球人からは差別の対象となっており、彼らを追い出そうとして暴動も起こる。
難民の管理組織MNUは、
彼らを都市部からもっと離れた第10地区へ移住させようとの計画が立ち上がる。
そのチーフに選ばれたのがヴィカス。
しかしそれがヴィカスの受難の始まりだったのです・・・・。




いやあ、文句なく面白かった!
大都市の空に浮かんだきりの巨大宇宙船。
この映像にまず度肝を抜かれますね。
そして全体がドキュメンタリー調なのもしゃれています。
難民のエイリアン・・・。
笑えるけど、笑えないですよね。
世界各地で起こっていることと同じ。
そしてこの当の南アフリカでも、
つい先頃までアパルトヘイト政策によってスラムが出来ていた。
だからこれはそういう社会風刺の作品なのかと言えば、
それはやはり違うのだろうと思います。
これはあくまでもエンタテイメントと見た方がいい。
多分に皮肉を効かせてはありますが。
エイリアンの好物が猫缶だなんてね・・・。
その猫缶を売りつけて、彼らの武器と交換するなんて狡い商売を始める輩まで出る始末。
しかし、彼らの実に強力な武器は、彼らエイリアンのDNAでしか反応しない。
つまり地球人にとってはただのガラクタだ。
でも、この武器を何とか使いたいと願う武器商人たちがいるわけですよねえ・・・。
それで俄然物語におもしろみが出てくるわけです。



それにしてもスラムのエイリアンの暮らしは、いかにも不潔で匂い立つ感じ。
これまで宇宙船だなんて言うと、銀色に光り輝いてチリ一つない清潔なイメージでしたが・・・。
生活感ありすぎです。
でもだからこそ、ドキュメンタリータッチに妙にマッチしていますよねえ。
あれだけ姿形が違うのに、思考方法や感情が人間とほとんど変わらないというのもすごい。
だから、私たちは始め嫌悪感で彼らを見てしまうのですが、
映画を見ているうちにだんだん、彼らを好きになってしまいますね。
特に子供のエビは・・・。
実際この映画で恐ろしいのはエイリアンでなく、人間の方なんです。
人間性というのは姿形ではわからないと、そういうことですね。



よく考えてみると、実はエイリアンたちはとても平和的だ。
あれだけの武器がありながら、人間を襲おうともせず、あんな生活に甘んじている。
彼らにとっての快適な居住環境というのが、地球人とは違うというのが正しいのかも。
まあこれは映画中の解説によれば、
彼らは働きバチに似ていて、母船からの指令がなければ特に何も出来ない
・・・ということでしたっけ? 
ではあの父子は、ちょっと特異な個体だったということなんですね。
お母さんはどうしたんでしょ??
何故かとりあえず言葉はお互い通じるようなので、
もし現実なら、20年もあれば、私はもっとエイリアンとの交流が進むのではないかと思います。
あるエイリアンはTV出演して人気者になるかもしれないし、
自分たちの権利を守るために政治進出する者が出るかもしれない。
それから、武器なんかより、あの宇宙船の反重力装置(?)の構造を解明すべきではないかと思ったり
・・・・いろいろ想像するとより楽しいですね。



とにかくこの作品、始めは社会問題を鋭くえぐると見せかけ、
中で思い切りSFアクションを見せつけ、
そしてなんとハートウォーミング劇へ着地というアクロバットを成し遂げる。
B級的見せ場もたっぷり。
何とも楽しませてくれる作品でした!!

2009年/アメリカ/111分
監督:ニール・ブロムカンプ
出演:シヤルト・コプリー、デビッド・ジェームズ、ジェイソン・コープ、バネッサ・ハイウッド

シャッターアイランド

2010年04月18日 | 映画(さ行)
嵐の孤島に封じ込められた秘密



              * * * * * * * *

舞台はちょっと古い1954年。
濃い霧の中に浮かび上がるフェリーの映像から物語は始まります。
米連邦保安官のテディ・ダニエルズとその相棒チャックが、ある島に向かうところ。

その島には、犯罪者用の精神病院があり、
そこに収監されたレイチェルという女性が忽然と姿を消してしまったという。
その謎を探るべくやってきた2人なのですが、
テディには別の目的があったのです。
それは、自分の妻子が亡くなった火事に関わりのある
アンドルー・レディスという男を捜すこと。
何もかも怪しい島の様子、職員たち。
おりしも島には大嵐が迫っていて・・・・




ラストの衝撃的事実という売り。
マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオの名コンビネーション。
ミステリアスな冒頭シーンに、
仰々しすぎるほどに盛り上げる音楽。
嫌が応にも期待は高まってしまうのですが・・・、
結局、ちょっと肩すかしを食らった感じです。
確かに、ムードはよかったのですが。
映画好きを自称する方なら、この結末は予想できると思います。
細部までは考えは及びませんが、何となく構図は想像がつく・・・。
というか、それしかないでしょう。
これは「衝撃的結末」とか、「脳にだまされるな」とか・・・、
そういう方面のPRが行きすぎたと思います。
もっと普通のミステリを装ってくれた方が、
ラストで、「え?これってこういう映画だったのか・・・!」と驚くことが出来たのに。




赤狩りやロボトミー手術とか、
二次大戦後の記憶もまだ生々しいところで、ナチスのユダヤ人収容所のこととか
・・・こういう時代背景がとてもよく生きていましたね。
そしてまた嵐の孤島は、ミステリには定番のシチュエーションなので、
実によくできた作品ではあると思うのですが、
返す返すも宣伝の仕方が失敗でした。


私たちは自分で理解しがたい物が“怖い”のですよね。
だから幽霊も怖いけれど、狂気も怖いのです。
通常の理性でははかりしれないから・・・
エイリアンもこわいけれども、
人間と同じ思考の仕組みや感情があるとわかれば、さほど怖くはない。
・・・・というところで、「第9地区」に行ってみよう!

2010年/アメリカ/138分

監督:マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ、マーク・ラファロ、ベン・キングスレー、ミシェル・ウィリアムズ、エミリー・モーティマー

きみがぼくを見つけた日

2010年04月16日 | 映画(か行)
不思議で切ないタイムトラベラーの恋の物語



               * * * * * * * *

時空を超えるラブストーリー。
先日読んだ「不思議の扉/時をかける恋」とリンクするようなチョイスなのですが・・・、
まあ、たまたまです。


ヘンリーは不思議な能力の持ち主。
それはタイムトラベル。
しかし、それは自分の意志とは関係なしに起こり、過去も未来も定まらない。
ある日彼の勤める図書館で、
初対面の女性が彼を見るなり顔を輝かせて言うのです。
「ヘンリー。なんて若いの。
私は6歳の時から時々あなたと会っていて、あなたにあこがれていたのよ。」



まだ幼かった彼女、クレアのところに、
未来からヘンリーが時々やってきて話をしていた。
だから彼の特殊な能力のこともよく知っているのだけれど、
リアルタイムのヘンリーと会うのはこれが初めて、ということだったのですね。
定められたように、二人は恋に落ちて結婚するのですが・・・。
相変わらず、予期せぬ時にタイムリープしてしまい、
しばらく戻ってこなかったりする。
そんなヘンリーにいらだちを隠せないクレア。
そんなある日、クレアは妊娠をするのですが、まもなく流産してしまう。
これはその胎児がタイムリープしてしまうためなのではないか・・・。



相変わらずこの時の織りなすミステリアスな物語は、私を魅了します。
クレアから見ると、小さな頃から時々現れ、自分の成長を見守ってくれる不思議なおじさん。
けれど、これではクレアが彼にあこがれるのは当然で、他に選択肢が無い。
半ば強制的に好きにさせられてしまった・・・と、
クレアが恨み言のように言うのにもちょっとどきりとさせられます。

ここのあたりの原点は言うまでもなく「ジェニーの肖像」ですね。
そちらは主人公の元に時々現れるジェニーが
幼い子供から少女へ、そして大人の女性へと短期間で成長してゆくというストーリー。
こちらはいわば逆バージョンです。


あり得ないからこそ、想像力が余計にかき立てられる。
不思議で切ないタイムトラベラーの恋の物語です。
初めてリアルタイムのヘンリーと出会うクレアの表情が最高によかった。
また、タイムトラベルが彼女とだけの秘密ではなくて、
それを知った男性が友人となるところもなかなかいいのです。
始めはそんな怪しいヤツと付き合うのはよせとクレアに言っていた彼なのですが。


さてさて、しかし、
ヘンリーのタイムトラベルには非常にやっかいな問題が・・・。
それは、タイムトラベルするのは彼の肉体だけ。
衣服はそこに取り残されるんですよ・・・。
つまり、タイムリープした先では素っ裸。
何が問題って、これが最大の問題ですね~。
変態だし、寒いし・・・。
始め、素っ裸で幼いクレアにあったヘンリー。
人が見ていたら、たちまち犯罪者扱いですよね。
大変リアルな設定ではありますが、
こんな能力があったら自分を呪ってしまいますね。
タイムトラベルを楽しむどころではない。
もっとも、この時クレアにだけは常に森の中に衣服を用意しておくようにと話をするので、
彼女の元に通う時だけは、大丈夫なんですよ。
そしてこのことがラストのちょっと切ない結びの伏線になっています。

そういえば、ターミネーターも未来から過去へやってきたときは素っ裸だったなあ・・・。
下手すると、ミステリアスもロマンスも、ギャグになっちゃいますね。
このタイムトラベルの能力はDNAの異常であるというような解説がありました。
ふーむ。
一種の障害?というわけ・・・。
この作品ではタイムトラベルがあまりポジティブな能力と見なされていないのは、
そういうところからもきていますが、
自分の未来が見えてしまうというのは、
すなわち死期も見えてしまうと言うことで、
やはり、ない方がいい能力なのかもしれません。

原題 time travelers wife は、あまりにもそのままなので、
この邦題はとてもいいですね。

2009年/アメリカ/110分
監督:ロベルト・シュベンケ
出演:レイチェル・マクアダムス、エリック・バナ、アーリス・ハワード、ロン・リビングストン
原作:オードリー・ニッフェネガー



きみがぼくを見つけた日 [DVD]

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「不思議の扉 時をかける恋」 大森望編

2010年04月15日 | 本(SF・ファンタジー)
空想好きで夢見がちなあなたへ

           * * * * * * * *

アンソロジーなのですが、これは私の大好きな時間が絡んだ不思議な物語。
しかもロマンス物と来れば、見逃す手はありません。


「美亜へ贈る真珠」
時をかける恋、という表題で、まず私は梶尾真治の「美亜へ贈る真珠」を連想したのですが、
やはり、この本のトップを飾るのがまさにこの作品でした。
時間の流れる早さを8万5千分の1にしたタイムマシンに乗る彼と、
外から見守るだけの彼女。
彼女の一生は、彼にとってほんの一瞬にしか過ぎない。
さて、ここに表される「真珠」の意味する物は・・・。
瑞々しい著者のデビュー作です。


「Calling You」
乙一作品です。
これが実に切ない。
いつも学校でひとりぼっちの彼女は、
かけてくる相手も居ないので、ケータイを持っていない。
でもある日、頭の中で電話が鳴る。
それは同じ寂しさを抱えた少年からの電話。
実在する二人だけれど、何故か二人の電話には1時間ほどのタイムラグがあって・・・。
実際に会おうと決めたその日・・・。


「浦島さん」
この本の中では異色、太宰治作品です。
だれもが知る浦島太郎のストーリーを彼なりの解釈で再現したものですが、
これがなかなか面白い。
最後の玉手箱の意味が問題です。
太宰はこのように言っていますよ。
「三百歳になったのは、浦島にとって、決して不幸では無かったのだ。
・・・・・・・・・・・・・・
年月は、人間の救いである。
忘却は、人間の救いである。
・・・・・・・・・・・・・・
浦島は、乙姫から無限の許可を得ていたのである。」


「エアハート嬢の到着」
恩田陸、「ライオンハート」からの一篇。

この本を読むには、まずロバート・ネイサンの「ジェニーの肖像」が必読です。
ある青年の元に、一人の少女が現れる。
それは小さな女の子なのですが、まもなくまたあったその子は少し大きくなったようだ。
・・・何故か時々現れるその少女は、
短期間にも関わらず会うたびに成長し、
女の子から少女に、そして大人の女性へと変貌してゆく、
という不思議なストーリー。

「ライオンハート」は、恩田陸がこの「ジェニーの肖像」にオマージュを捧げた作品です。
「ジェニーの肖像」は、過去にもいろいろな方が漫画化したり、
オマージュ作品を描いたりしています。
かなり古いですが、水野英子さんや、
石森(あえて石ノ森とは言わない)章太郎さん作品で、
私もこの原典を知ったのです。
題名は忘れましたが、萩尾望都作品にもこういうのがあったな。
まあ、こんな物のせいで、私も空想好きで夢見がちな少女となってしまったので・・・。
いずれにしても、
不思議でロマンがかきたてられる、大好きな作品です。

満足度★★★★★


不思議の扉 時をかける恋 (角川文庫)
大森 望
角川書店(角川グループパブリッシング)

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マイレージ、マイライフ

2010年04月14日 | 映画(ま行)
バックパックに入らない荷物は背負わない



               * * * * * * * *

この物語の主人公ライアンはリストラ請負人。
全く第三者の立場で会社からの依頼を受けて、
リストラ対象者にクビを宣言するというすさまじい仕事です。

これで思い出すのは垣根涼介さんの「君たちに明日はない」ですね。
同じく、リストラ対象者にクビを言い渡すという職業の青年のストーリー。
やっぱりあるんですねえ。
自分の会社の人にはとてもクビとは言えないので、
部外者に言わせてしまおう、ということなんですね。


さて、ライアンはこの道超ベテラン。
あちこちひっぱりだこで日々飛行機で全米を飛び回り、航空会社のマイレージはたまる一方。
彼は飛行機こそ我が家と思っており、
マイレージ1000万マイル達成を夢見ている。
そんなある日、コスト削減のおり、出張はいらないといわれます。
パソコンの画面で話せば十分だ・・・と。
またそんなとき、
同じく全米を飛び回るキャリアウーマンに心惹かれていくのですが・・・。



ライアンは「バックパックに入らない荷物は背負わない」ということをモットーにしています。
いつでも自分の身一つ。
自由できまま。
人とのしがらみは煩わしいし結婚なんて論外。
飛行機が家と思っている彼は、自分の住居さえも必要ない・・・。




けれども、出張が無くなり、生活パターンが変わるとき、
彼の主張も意味を失ってゆきます。
彼の生き方は、いつも人に囲まれながらも、結局他の人とはつながっていない。
そのことがくっきりと見えてくるんですね。
家族であれ、恋人であれ、友人であれ・・・そういう人とのつながりの中で、
働き、生きる意欲は培われていくものなのでしょう。
これはライアンのそういう気づきの物語なのですが、
現実は気づけばそれでいいというわけではない。
気づきはしたんだけれど、やっぱりひとりぼっち。
これは、今までそういう生き方をしてきたことの帰結なんですよ。
厳しいことに。
・・・・でも、まだ手遅れではないですよね。

自分が変われば人も変わる。
これからはマイレージも、ためること自体が目的などと言わず、
どんどん人と共有して使えばよいのです!!

原題はUp in the Air
珍しく、邦題の方がしゃれているような気がします。
マイレージ・マイライフ。
頭韻になっていますし、内容にもマッチしていて。


それにしても、仕事を持つ身としてはこんなリストラはたまらないですね。
ある日突然、クビを言い渡される。
今日中に荷物をまとめて引き払うように・・・などと言われても・・・。
生活に困るのはもちろんですが、
これまでの人生を否定されたような気になってしまいます。
やはり、「君たちに明日はない」ではないですが、
この仕事は人材バンクと連携した方がいい。
そしてこんなときに支えになってくれるのは、やはり家族なんでしょうね。
いろいろ身につまされてしまう、ストーリーです。

2009年/アメリカ/109分
監督:ジェイソン・ライトマン、
出演:ジョージ・クルーニー、ベラ・ファーミガ、アナ・ケンドリック、ジェイソン・ベイトマン

「ポジティブ転勤術」 たんぽぽ

2010年04月13日 | インターバル
「ポジティブ転勤術」 たんぽぽ エア新書



・・・っていう本があったら、是非読みたい。
という気持ちでこんな物を作ってしまいました。
エア新書」。おもしろいですね、もっといろいろ作りたくなってしまいました。


さて、というのも、この4月1日から新しい職場に異動になりまして。
仕事内容は同じなので、配置転換というべきかもしれませんが。
3月末は各仕事の締めと引き継ぎのための整理。
4月からは、いつものことながら新年度の諸々の事務。
しかしこれが、書類のありか、物のありかがとにかくよくわからない。
やりたいことは山のようにあるのに、ちっともはかどらない。
新しい職場で、見知らぬ人たちの中に入った、ということよりも
やはりこのような仕事のストレスの方が大きいと思います。
あまり具体的に説明できないので、ご理解も難しいかもしれませんが、
そういう職種なんです・・・。


嫌でもおよそ5年に一度はこういう目に遭ってしまう。
もうヤダー!というのが正直なところです。
若い頃はもう少し順応力があったかもしれない。
年をとればとるほど、新しい環境にはなじみにくいですね。


しかし、です!
嫌だ嫌だと言っていても仕方がない。
新しいところのシステム、これまで自分では気づかなかった方法
そういうことに気づくいいチャンスです。
また、いろいろな人と出会うのも楽しいですし
新たなやりがいも生まれてくるはず・・・
と、無理矢理でもポジティブに自分を納得させるほかないですよね。
だから、「ポジティブ転勤術」。


まあ、なんだかんだ言っても
この土日はきちんと休めているし
映画も見に行けているので
まだまだ恵まれているというべきでしょう。


今度の職場は家から2キロメートルくらいなんです。
運動不足解消にはちょうどいいので、歩くことにしました。
ところが一つ難点が。
これまではバスで15~20分くらい。
たかがこれだけの時間なんですが、
読書にはもってこいの時間だったんですよ。
往復だと、結構使えます。
この貴重な読書時間が消えてしまった。
二宮金次郎じゃあるまいし
歩きながら読書は無理ですよね・・・。
平日、ねる前の読書は、本を開いて10ページも見ないうちに寝てしまう、
というのがいつものパターンです。
そんなわけで、読書のペースがすっかり落ちてしまいました。
残念・・・。


歩きながら出来ることは・・・音楽を聴くことくらいかな?
まあ、そのうちいい活用方法が見つかるでしょう。
そう、ポジティブ、ポジティブにね。