映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ボーダーライン

2016年09月30日 | 映画(は行)
世界の実情を、鋭く描く



* * * * * * * * * *

エリートFBI捜査官のケイト(エミリー・ブラント)は、
米国防総省の特別部隊に加わるよう要請されます。
巨大化するメキシコの麻薬カルテルの撲滅を図る極秘作戦を行おうとしているのです。


私、本作はこのケイトが大変危険な目に会いながらも、
タフな心で任務をやり遂げる話かと思っていました。
でも、それとはちょっと違う。



このチームに参入したのはいいのですが、彼女には何の説明もないまま、
チームは米国とメキシコの国境地帯、なんとも危険な街フェレスに向かいます。
そこは死が日常と隣り合わせ。
殆ど麻薬密売組織が支配している街でありながら、
裏切りや気に入らない動きがあれば躊躇なく抹殺されてしまう、無法地帯。
警官さえ、多くが組織に買収されていて全く信用ならないのです。
ケイトには真の作戦も明かされないまま、
チームは白昼堂々組織の重要人物を襲撃したりするのです。
法も何も無視した荒っぽいやり方に、彼女はただ呆然とするばかり。
狙いは真の組織のボスをあぶり出すことではあるのですが・・・。



普通に持つ正義感では対処できないのです。
ケイトはただ立ちすくみ成り行きを見届けるのみ、
そういう役目でした。
つまり本作の題名「ボーダーライン」とは、国境のことであり、
また、善と悪の境界のことも指しているわけですね。
この作戦で先頭に立つのは、謎の男、アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)。

彼の規範は善でも悪でもない。
しいて言えば私憤ということになりましょうか。
世間で言う善も悪も区別がつかなくなった時、
頼るのは個人の主観のみ。
これも一歩間違えば、味方のはずが敵に回る可能性もあり、
実はとても危険なことではあります・・・。



なんだか、女の出る幕なんかないよ、と言われているようで、若干面白くない。
が、ここで彼女が平然と敵を殺しまくるのだったら、
やっぱりそれでは単なるヒーローものになってしまいますもんね・・・。



作品中、麻薬組織に加担する警官の私生活、
息子とのやり取りのシーンが挿入されます。
それは、こんなひどい街でも、ごく普通の生活が営まれているのだ、ということを表しています。
それなのに、サッカーの練習をするそばで、銃撃の音が聞こえてくる。
そういう現実が、実際にあるわけです。
これも世界の問題の一つ。

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エミリー・ブラント,ベニチオ・デル・トロ,ジョシュ・ブローリン
Happinet


「ボーダーライン」
2015年/アメリカ/121分
監督:ドゥニ・ビルヌーブ
出演:エミリー・ブラント、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン、ビクター・ガーバー、ジョン・バーンサル

緊迫感★★★★☆
満足度★★★☆☆

「ナルニア国ものがたり4 銀のいす」 C・S・ルイス 

2016年09月29日 | 本(SF・ファンタジー)
「真実」を見出すこと。信じること。

銀のいす―ナルニア国ものがたり〈4〉 (岩波少年文庫)
ポーリン・ベインズ,C.S. Lewis,瀬田 貞二
岩波書店


* * * * * * * * * *

級友のユースチスにさそわれ、願いのことばを唱えてナルニアにきた少女ジルは、
長いあいだ行方不明になっている、航海王カスピアンの息子、
リリアン王子をさがしだすよう、アスランから命じられます。
ジルとユースチスは、沼人の泥足にがえもんといっしょに、
北へ北へとつらい旅をかさねることに。
巨人族のすむ北方の荒れ地国で、
また地霊たちのすむ地下の国で、
三人はいく度となく、おそろしい目にあい、ゆくてを見失いそうになります。


* * * * * * * * * *

ユースチスがナルニアの東の果ての大冒険から戻って、ほんの数カ月後のことです。


ユースチスは同じ学校の女の子ジルと共に、再びナルニアへやってきます。
ナルニア国ではあれから数十年が過ぎてしまっていました。
そしてカスピアンの息子、リリアン王子が行方不明となってしまっているのです。
ユースチスとジルはアスランの命によって、そのリリアン王子を探す旅に出ます。
前回は東へと向かう旅ですが、今度は北へ向かう旅です。
おりしも秋も遅く冬に向かう季節。
この地の事情には全く詳しくない二人のために
「泥足にがえもん」という沼人が助っ人として共に旅をしてくれます。
ジルはアスランからこの任務のために4つのすべきことを聞いたのですが、
ことごとくミッションに失敗してしまうのです。
それでもなんとか巨人族の住む土地から更には地底へと目的に近づいていくのですが・・・


薄ら寒い北への旅、そしてさらに地底への旅
・・・ということで、前回の開放感のある旅に比べるとなんとも陰鬱。
はじめから苦難が予想される雰囲気です。
でも、ユースチスとジルは時々喧嘩をしながらも、
だんだんいいコンビになっていきます。
二人のお供をする「泥足にがえもん」というのがなんともユニークでナイスなキャラクター。
考え方がばかにネガティブなんですが・・・
しかし、考え深く勇気があって、そしていつも正しい。
というか、彼の心のなかにはいつもアスランがいるのでしょう。


本巻は「信じること」の大切さがテーマのような気がします。
魔女が「ナルニアなどない、アスランなんかいない」と子どもたちの心を打ち負かそうとしたり、
椅子に縛り付けられている軽薄で信用ならない男が
「この銀の椅子から解き放してくれ」と懇願するとき。
子どもたちは何を真と信じ、何をウソと見破るのか。
確かに宗教色は強いですが、でも大切なストーリーだと思います。


リリアン王子の登場の仕方も意外だし、
また、地底の国の描写もSF好きにはたまらない設定。
こういうストーリー性で、全然飽きずにどんどんと読み進んでしまいました。

「ナルニア国ものがたり4 銀のいす」C・S・ルイス 岩波少年文庫
満足度★★★★☆


レッドタートル ある島の物語

2016年09月27日 | 映画(ら行)
人と、命あるすべてのものに向けて



* * * * * * * * * *

スタジオジブリが制作した、初の海外作家のアニメ。
高畑勲氏がアーティスチックプロデューサーを務めています。



嵐で荒れ狂う海に放り出された男が、無人島に漂着。
彼は島の木を利用して筏を作り、島からの脱出を試みるのですが、
何度やっても何者かに筏を破壊されてしまいます。
そんな時、一匹の赤いウミガメが彼の前に現れます。



始めはこの男の無人島サバイバルの物語かと思いました。
けれども、そうではありません。
一種幻想的とも思える展開を見せます。
本作中には言葉がありません。
思わず男が漏らす感嘆の声や叫びがあるだけ。
他には説明もなし。
だからこの物語は見る人によっていろいろな意味が見いだせるのではないかと思います。



このポスターには
「どこから来たのか、どこへ行くのか、いのちは?」
とありますね。
つながっていく命の物語? 
もちろん大きな意味では、そうなのかもしれません。
でも、私にはこれは男と女の人生の物語のように思えました。
結婚という名の物語。



女が「結婚」に踏み切るための“痛み”がそこにはあるような。
まあ、今となっては古い概念かもしれないけれど、
結婚して男のものになる、本来の自分とは違うものになる、という意味で。
けれど、それは決して不幸なことではないのです。
夫とともに生き、子を生み育てることには確かな充足もある。


またそんな中では、平和な営みを破壊する思いもよらないことがあったりもするのです。
そして成長した子どもは、いつしかこの平和な島では飽き足らなくなり、
外の世界へ旅立っていく。


この地球上で、連綿と繰り返されてきたことですね。
人間に限らず、すべての生物が。
壮大な叙事詩のようでもあります。


無人島という余計な要素のない限定された舞台で、
シンプルにそれを歌い上げていると思います。


彼らの生活に寄り添うカニさんたちがユーモラスで可愛らしいのですが、
そのカニですらも、思いがけないことで命を落としていく。
登場するカニの数が一匹ずつ減っていくのがちょっぴり切ない。



余韻の深い、まさに大人のアニメです。


「レッドタートル ある島の物語」
2016年/日本・フランス/81分
監督・原作・脚本:マイケル・デュドク・ドゥ・ビット

静謐さ★★★★☆
満足度★★★★☆

幸せをつかむ歌

2016年09月26日 | 映画(さ行)
メリル・ストリープありき



* * * * * * * * * *

リッキー(メリル・ストリープ)54歳。
ロックスターの夢を追い、夫と子どもたちを捨てカリフォルニアに出てきました。
しかし、大きく成功することはなく、小さなライブハウスで歌う日々。

スーパーのレジで働き、やっとの暮らしをしています。
そんな時、もと夫から電話があり、
娘ジュリー(メイミー・ガマー)が離婚をして落ち込んでいるから
様子を見に来てほしいというのです。
飛行機代を工面するのもやっとでしたが、
20年ぶりに彼女は家族の元へ。
しかし予想通り、その娘ジュリーも、息子二人も、彼女には冷たい視線を投げかけます。
夫も再婚し、新しい妻がいるのです。
近く、息子の一人が結婚するというのですが、
彼女を招待しようなどとは全く思っていない様子・・・。
とりあえず、ジュリーとは幾分関係を修復しながらも、
失意のうちに、いつもの生活に帰るリッキーでしたが・・・。



リッキーが思わず言ってしまう言葉があります。

「男なら家族を捨てて音楽に打ち込んでも認められる。だけど女は・・・」

本当に。
ここまで女性の社会進出が進んでも、
やっぱりそうした旧来の“常識的なこと”は相変わらず根強いですよね。
故郷で、リッキーは近所の人などにすっかり事情を知られているわけですから、
その人々の彼女を見る視線のなんと痛いこと。
だけれども、自分で選んだ道。
それでもなおその道を行こうとするリッキーが、
ちょっぴり眩しく感じられるラストでした。



なんといっても本作のウリは、
ギターをバリバリに弾きこなし、歌いまくるメリル・ストリープ。
女優というのも大変ですね。
バックバンドにはホンモノの有名所ミュージシャンを起用、
音楽だけでもたっぷり聴かせる作品になっています。
また、娘のジュリー役をしていたメイミー・ガマーは実の娘ということで、
メリル・ストリープありきの作品。



「幸せをつかむ歌」
2015年/アメリカ/101分
監督:ジョナサン・デミ
出演:メリル・ストリープ、ケビン・クライン、メイミー・ガマー、オードラ・マクドナルド、セバスチャン・スタン

音楽性★★★★☆
満足度★★★☆☆

ミモザの島に消えた母

2016年09月25日 | 映画(ま行)
美しい光景、過去のロマン、衝撃の真相



* * * * * * * * * *

アントワーヌ(ローラン・ラフィット)とアガット(メラニー・ロラン)の兄妹は、
30年前ミモザの咲く島で母を亡くしました。
正確にはフランス大西洋岸にあるノアールムーティエ島。
アントワーヌはその時まだ10歳で、当時のことはあまり記憶にありません。
それで父や祖母に母のことを訪ねても頑なに口を閉ざすばかりで、
何も話そうとしません。

ついにはそのことで父親と言い争いになったりもします。
そういう反発もあって、アントワーヌは独自で母の死の真相を探ろうと、島を訪れます。
そしてアントワーヌは、隠された母の一面や、
そのことをひた隠しにしてきた人々の事情を知るようになりますが・・・。



ノアールムーティエ島には、引き潮のときにだけ現れる道がある美しい島です。
このいかにも平和な島で、過去何が起きたのか。
アントワーヌは、その時、母だけがここの別荘に来ていたと今まで思っていたのですが、
自分と妹も共に来ていたことを思い出します。
それなのに、そんなことすら隠していた父。
う~ん、なんだか嫌な予感がしてきますね。
こんな風に、少しミステリアスなタッチでストーリーは展開していきます。



嫁と姑の仲違いというのはやはりどこにでもあるのですね。
更にまた、今でもやはりタブー視されると思われる母親の秘密。
それが30年前ならどんなにか、と思わずにいられません。
けれどそのお母さんがまた、切なくも美しいですよねえ・・・。
美しい光景と過去のロマン、そして衝撃の真相。
こういうの、私は好きです。



「ミモザの島に消えた母」
2015年/フランス/101分
監督:フランソワ・ファブラ
原作:タチアナ・ド・ロネ
出演:ローラン・ラフィット、メラニー・ロラン、オドレイ・ダナ、ウラディミール・ヨルダノフ、ビュル・オジェ
ミステリ度★★★☆☆
ロマン度★★★★☆
満足度★★★★☆

「キアズマ」 近藤史恵

2016年09月23日 | 本(その他)
人と人との交差

キアズマ (新潮文庫)
近藤 史恵
新潮社


* * * * * * * * * *

ふとしたきっかけでメンバー不足の自転車部に入部した正樹。
たちまちロードレースの楽しさに目覚め、頭角を現す。
しかし、チームの勝利を意識しはじめ、エース櫻井と衝突、中学時代の辛い記憶が蘇る。
二度と誰かを傷つけるスポーツはしたくなかったのに
―走る喜びに突き動かされ、祈りをペダルにこめる。
自分のため、そして、助けられなかったアイツのために。
感動の青春長編。


* * * * * * * * * *

近藤史恵さんの自転車ロードレース、シリーズ第4弾。
とは言え、前の物を読んでいなくても続きの話ではないので、ぜんぜん大丈夫です。


本作はこれまでロードレースのことなど何も知らなかった正樹が、
ふとしたきっかけで自転車部に入部、というところから始まるので、
ロードレースについては丁寧な説明があり、正に初心者向きとなっています。
私も、このシリーズを読むまではロードレースのことなど何も知らなかったのですが、
非常に興味深く読めました。
そして今もよくわかっているとは言いがたいので、
久しぶりに読んだ本作、初心者向けの設定で助かりました。


正樹がロードレースに目覚め、そしてメキメキと力をつけていくさまが心地良いのですが、
でもそう単純な物語ではありません。
現自転車部のエース、櫻井は関西弁のヤンキーで喧嘩っ早いし、
正樹自身も過去のある事件で鬱屈を抱えています。
対人関係が苦手だと自覚する正樹が、
どんなふうに仲間との絆、そして旧友との絆を築いていくのか、
そういうところが見どころとなっています。


ほんの一箇所だけですが、本シリーズに以前登場した方が登場するのも、
ファンにとっては嬉しいところ。
多分、正樹は将来その方の誘いに乗りますね!
ついに最期まで、豊からのメールの文面は紹介されないままなのが、なんとも残念。
もちろん、それは正樹が思う通りのものだと思うのですが、
それにしても、知りたかった・・・。
近藤史恵さんのいじわる!


ところで、「キアズマ」とはギリシャ語で交差という意味。
何かと何かの出会いを表す言葉です。
私たちは生きているうちに様々な人と交差していくわけですが・・・。
正樹が交差する人々のためにどう変わっていくのか、ということなのでしょう。
そういえばはじめての正樹と櫻井の出会いも、バイクと自転車の実際的な接触、
つまり交差から始まったと言うのも象徴的です。


「キアズマ」近藤史恵 新潮文庫
満足度★★★★☆


シンドラーのリスト

2016年09月22日 | 映画(さ行)
モノクロの効果



* * * * * * * * * *

本作、ずっと「見なくては!」と思っていたのに、
ついに今まで見ないでいたというのは、この長さのためなのですが・・・
195分。
考えてみたらそれくらいの長さの映画ならざらにありますね・・・。
ともあれ、この度やっと年貢の納め時という感じで見ました。
しかし1993年の作品?
もう20年以上前なんですね。
道理でリーアム・ニーソンも若いはずだ・・・。
ベン・キングスレーなんかはじめ誰だかわからなかったワ~。


1939年、ポーランドにドイツ軍が侵攻。
ユダヤ人がゲットーでの居住を強制されます。
そんな頃、ドイツ人オスカー・シンドラー(リーアム・ニーソン)が、
戦争の需要品を生産・販売することで一旗揚げようと
ポーランド南部、クラクスの街にやってきます。
彼は、金に物を言わせて軍の幹部に取り入り、ユダヤ人を雇用する許可を得ます。
ユダヤ人だと賃金が格安なのです。
シンドラーはユダヤ人イザック・シュターン(ベン・キングスレー)を会計士に据え、
軍用ホーロー容器の事業を始めます。


この時のシンドラーは、女好きで商売第一、かなりの俗物というイメージです。
まもなく、ゲットーは解体。
ユダヤ人たちは収容所へ入れられますが、
それでも、ユダヤ人たちは工場で働き続けます。
しかしこの収容所にアーモン・ゲート(レイフ・ファインズ)という所長が赴任。
彼はやや性格破綻者のように思われるのですが、全く気まぐれにユダヤ人を射殺。
この、人を人とも思わないアーモンの行動に、怒りを感じ始めるシンドラー。
そして更に戦局が厳しくなってきた頃、
ここのユダヤ人もアウシュビッツの収容所へ送られることになりますが・・・。


シンドラーはチェコに工場を移すということにして、ユダヤ人労働者を要求。
必要な人員の「リスト」を作ります。
そしてそのために多額の私財を賄賂として軍の高官に差し出すのです。
結局、このリストのおかげで、1200名のユダヤ人を救い出すことができたのです。


本作は実話を元にしていて、全編モノクロ。
当時の時代性を表すことに成功しています。
しかし、ごく一部に、色が付いているところが。
それはユダヤの女の子のコートの赤い色。
ゲットーでドイツ兵がユダヤ人を拘束し収容所へ送ろうとするシーンです。
一人の女の子が兵のすきを見てこっそり建物の中に入っていこうとするシーン。
それをシンドラーは目撃してしまうのですが、
モブシーンなのになぜか私たちもその子に目が行ってしまう。
なぜかといえば、その子のコートだけが赤い色。
私は、なぜそこに目が行くのか・・・と考えてから、はじめてそこにだけ色が付いていることに気付きました。
そしてこの赤い色をシンドラーと私たちは、
また後で実に悲惨な場面で目にすることになります。
この演出にはちょっとやられました。
そしてもう一つ、色がついていたのはユダヤの祈りのシーンで灯されるろうそくの炎。
なるほど、モノクロというのはこういう効果を出す事もできるんですね。


始めはただ単に安上がりだから、ということでユダヤ人を徴用していた。
けれども、少なくともシンドラーの工場にいれば彼らは安全だと確信し、
次第にユダヤ人の救出が彼の責務であるようにシンドラーは思い始めるのです。
こういう変化が丁寧に描かれていたと思います。


でも本作、実際はシンドラーを美化しすぎているのかもしれません。
ではあっても、この映画は一つの悲惨な過去を十分に私たちに伝えています。
結局は「エンタテイメント」なのかもしれないけれど、でも知らないよりはマシです。
こういう入り方でもいい。
若い人たちが戦争やホロコーストをきちんと知るきっかけとなればいいんじゃないかな、
と私は思います。

シンドラーのリスト スペシャル・エディション [DVD]
リーアム・ニーソン,ベン・キングズレー,レイフ・ファインズ
ジェネオン・ユニバーサル


「シンドラーのリスト」
1993年/アメリカ/195分
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:リーアム・ニーソン、ベン・キングスレー、レイフ・ファインズ、キャロライン・グッドオール

歴史発掘度★★★★★
満足度★★★★☆

ニュースの真相

2016年09月21日 | 映画(な行)
真実が霞んでしまう、過激な報道



* * * * * * * * * *

2004年アメリカで実際に起こった、
スクープ報道が広げた波紋の一部始終を描きます。



ジョージ・W・ブッシュ米大統領が再選を目指している2004年。
CBSテレビの敏腕プロデューサー、メアリー・メイプル(ケイト・ブランシェット)と、
伝説的アンカーマン、ダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)が
ブッシュの軍歴詐称疑惑のスクープを報道します。
しかし、その証拠について、保守派から偽造と断定され、
世間からの集中非難を浴びてしまいます。
周囲の冷たい視線はまるで針のむしろのよう・・・。
そんな中でもメアリーはなんとか自分を保ち立ち向かおうとしますが・・・。



メアリーは作中こんなことをいいますね。

「証拠がニセモノかホンモノかばかりが注目され、
肝心のブッシュの軍歴詐称のことが忘れられている。」

どう考えても何者かの陰謀で罠にハマったという状況。
私はそうした、強大な「権力」がよほど怖い。
なんて恐ろしい世界なのか、
政治とか報道とか・・・。
私たちの身近なところでも、影の何者かの「意図」で、
こんな風にテレビで特定の情報だけが大げさに伝えられているのではないか・・・
とか、なんだか勘ぐってしまうのです。
一般庶民としてはテレビ等の報道を信じるしかないわけなので、
どうかあまり過激にならず、事実のみを淡々と述べてほしい。



まあ考えてみればブッシュ問題も、結局は人の「あら捜し」。
本当にスクープすべき内容だったのかななどと思わなくもない・・・。
面白くなくはないのですが、
やっぱり私は政治ネタとかそれに類する話は苦手だ・・・
という認識をまた改めてしまった作品かも。
ここまで年齢を感じるR・レッドフォードもあまり見たくはなかったし。


「ニュースの真相」
2015年/オーストラリア・アメリカ/125分
監督:ジェームズ・バンダービルト
出演:ケイト・ブランシェット、ロバート・レッドフォード、エリザベス・モス、トファー・グレイス、デニス・クエイド

陰謀度★★★★☆
満足度★★★☆☆

「ナルニア国ものがたり3 朝びらき丸東の海へ」 C.S.ルイス 

2016年09月19日 | 本(SF・ファンタジー)
東の果てにあるものは・・・

朝びらき丸東の海へ―ナルニア国ものがたり〈3〉 (岩波少年文庫)
ポーリン・ベインズ,C.S. Lewis,瀬田 貞二
岩波書店


* * * * * * * * * *

いとこのユースチスの家に来ていたエドマンドとルーシィは,
その部屋の額の絵の中に,いとこもろとも吸い込まれます.
絵の中はナルニアの外海.かれらは,朝びらき丸という美しい船にのり,
カスピアン王子とともにこれまで探検されたことのない東の海へ進み,
竜の島,死水島,声の島,くらやみ島を通って東のはてにゆきつきます.


* * * * * * * * * *

ナルニア国第3弾。
ここまでは映画化されていて、私には割と印象深いところだったのですが、
かなり原作を変えてあったのではないかと思います。
…それとも私の記憶が怪しいのか??


いずれにしても印象深いのはこの巻から登場する、ペベンシー兄弟のイトコであるユースチフ。
なんともひねくれ者でいじわるで、はじめの方ではどうにも好きになれません。
しかし、エドマンドとルーシィはこのユースチフとともに、
ナルニアの海へいきなり飛び込んでしまいます。
彼らはすぐにカスピアン王子の乗る船に救い上げられました。
ナルニアでは前作から3年が過ぎたところでした。
カスピアンは以前東の海へ旅だったまま消息を絶った7人の諸侯たちを探しに行くところだったのです。
この7人はカスピアンの亡くなった父王の忠実な友人たちで、
カスピアンも彼らには恩義を感じているのです。
そこで彼らは、カスピアンの航海に同行し、大冒険をすることになります。


日の昇る東へ東へ・・・。
その果てにはアスランの国があると言います。
7人の諸侯を探しつつ、できることならばその果てまで行ってみたいと彼らは思っているのです。
ところが、竜の島ではユースチフが大変なことに・・・!!
しかしこの事件でユースチフは身も心も大きく変貌を遂げる。
彼は自分が傷つくまいと、まとっていた心の鎧を脱ぎ捨てたということなのかもしれませんね。


その後も、行方不明の諸侯の足取りをたどりながら幾つかの島に上陸し、
大変な目にあったり、素晴らしい光景を見たり・・・。
なんとも心が沸き立つ冒険の旅。


地球は丸い。
それはもちろんですが、どうやらナルニア国の世界はそうではないようなのです。
平らなこの世界に果てがあって、その東の果てがアスランの国。
その周辺の光景が素晴らしいのですよ。
いつの間にか海水は澄んだ真水に変わっていて、真っ白いスイレンが水面を覆い尽くしています。
正に天国のような・・・。
ひっそりとして厳粛なこの光景が、いつまでも胸の中に残ります。


彼らが通った一つ一つの島には、
それぞれ心の奥底の様々な問題と結びつく象徴的なものが表されているのかもしれないのですが、
まあ、ここではあまり理屈っぽく考えるのはやめておきましょう。
無心に愉しめばいい。


ここで、エドマンドとルーシィは
「もうこの先二度とナルニアへ来ることはない」とアスランに言われてしまいます。
もうじき二人は子どもの年齢をとおりこしてしまうから。
というわけで、次巻では、ユースチフがペベンシー兄弟の冒険を引き継ぎます。
本巻のラストがまた素敵で、すっかり様子が変わってしまったユースチフに対して、
彼のオバサンが言うのです。
「ユースチフがばかにあたりまえになり、たいくつになってしまった。」と。
著者は本当は普通に良い子よりも、
ちょっぴりひねくれたはみ出しっ子が好きなのだろうなあ、と伺わせます。


「ナルニア国ものがたり3 朝びらき丸東の海へ」 C.S.ルイス 岩波少年文庫
満足度★★★★★

僕だけがいない街

2016年09月18日 | 映画(は行)
時をさかのぼり、やり直し



* * * * * * * * * *

藤沼悟(藤原竜也)には、不思議な力があります。
それを「リバイバル」と彼は呼んでいるのですが、
自分の周囲で危険な事故や事件が起こりそうになると、自動的にその数分前に戻り、
その原因を取り除くまで何度もその場面を繰り返す、という能力。
能力というべきなのでしょうか、自分の意志ではなく、自然にそうなってしまうのですけれど。


さてある日、覚の母親が何者かに殺害されてしまいます。
そこで「リバイバル」が起こるのですが、なんと18年前、小学生の自分に戻ってしまった。
その当時、悟の同級生が被害者となった連続誘拐殺人があったのですが、
どうやら母親の死はその事件と関係がありそうなのです。
コナンくんじゃないけれど、小学生の悟が大人の頭脳で、
身の回りの出来事の細部を見て推理をめぐらします。


彼がそこで見たのは、親から暴力を受けている同級生の女の子でした。
実はこの少女は、連続誘拐殺人の被害者だったのです。
そこで、悟は母やクラスの友人の助けを得て、
彼女を親の暴力と誘拐犯の手から助けようと奮闘します。
悟はそれまであまり人と関わろうとしない、
友人もいない子供であり、また青年でもあったのですが、
18年前に戻り自らの使命を果たすために、人と深くかかわらざるを得なくなるのです。

また、悟が好きになりかけた愛梨(有村架純)ですが、
彼が18年前に遡り歴史を変えたことで、二人の現在の関係も変わってしまうというのも切ないのでした。



周りの出来事も変わっていきますが、彼自身も変わっていく。
なかなか良く練られたストーリーです。



真犯人は狡猾で、常に自分以外の人物に疑いがかかるように罠を仕掛けます。
怪しい人物は何人かいるのですが・・・
きゃ~、それだけはなしにして欲しかった。
イイ感じの人物だったのに~。



ということで、タイムスリップものと、ミステリとロマンも楽しめる
なかなかのおすすめ作品でした。

僕だけがいない街 スタンダードエディション [DVD]
藤原竜也,有村架純,及川光博,石田ゆり子,杉本哲太
KADOKAWA / 角川書店


「僕だけがいない街」
2016年日本/120分
監督:平川雄一朗
原作:三部けい
出演:藤原竜也、有村架純、石田ゆり子、杉本哲太、及川光博、鈴木梨央、中川翼

SF度★★★★☆
ミステリ度★★★★☆
ロマンス度★★★☆☆
満足度★★★★☆


生きうつしのプリマ

2016年09月17日 | 映画(あ行)
何を思い、秘密を守り通したのか



* * * * * * * * * *

ゾフィは、父に呼ばれて父の家に行くのですが、
そこで1年前に亡くなった母エヴェリンとウリふたつのオペラ歌手カタリーナの
ネット上の写真を見せられます。

父はカタリーナのことを知りたいので、調べるようにと
強引にゾフィをニューヨークへ行かせます。
ゾフィはカタリーナと会いますが、カタリーナにとってもエヴェリンは見知らぬ人。
ゾフィはカタリーナの母を訪ねますが、認知症で要領を得ません。
しかしなお調べていくうちに、母エヴェリンの隠された秘密が浮かび上がってきます。



問題は、ゾフィの父とその兄(ゾフィの伯父)、兄弟の相剋というところにあったわけですが・・・
その二人の板挟みとなったエヴェリンが一生守り通した秘密というのも凄いですね。
深刻な話ではあるのですが、どこかユーモラスでもあります。
ラスト付近、老いた兄弟が取っ組み合いの喧嘩を始めるのですが、
それを見てゾフィが笑い出してしまいます。
まるで子どものようだと、彼女は思ったのでしょう。
今さらどうにもならないことなのに。
しかしこれはゾフィの年齢が物をいいます。
もしもっと若かったら、母親の秘密には傷ついたのではないでしょうか。
しかしすでに自分自身も酸いも甘いも噛み分けるくらいの分別を持った年齢。
だから、そのへんは冷静に受け止められたのではないかと思うのです。
ラスト、亡霊のように登場する母・エヴェリンの表情に注目です。



彼女は本当のところ、何を思い秘密を守り通したのか。
なんだかちょっと怖い気がしてきました・・・。



「生きうつしのプリマ」
2015年/ドイツ/101分
監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ
出演:カーチャ・リーマン、バルバラ・スコバ、マティアス・ハービッヒ、グンナール・モーラー、ロバート・ジーリゲル

謎度★★★★☆
満足度★★★.5


「昔話の深層 ユング心理学とグリム童話」河合隼雄

2016年09月15日 | 本(解説)
グレートマザー!

昔話の深層 ユング心理学とグリム童話 (講談社+α文庫)
河合 隼雄
講談社


* * * * * * * * * *

人間の魂、自分の心の奥には何があるのか。
"こころの専門家"の目であのグリム童話を読むと…。
生と死が、親と子が、父と母が、男と女が、そしてもう一人の自分が、
まったく新しい顔を心の内にのぞかせる。
まだまだ未知に満ちた自分の心を知り、
いかに自己実現するかをユング心理学でかみくだいた、人生の処方箋。


* * * * * * * * * *

私たちの無意識の世界には何が潜んでいるのか。
本著はユング心理学をもとに昔話、特にグリム童話を読み解き、
私たちの心の奥底を探っていきます。
最近まともに読み始めたファンタジーの世界を考えるためにも役に立つのではないかと、
この本を読み始めました。
色々と示唆に富んだ内容で、引きこまれてしまいました。


まず、なぜ昔話かということなのですが、
人間の無意識の深層は人類に共通の普遍性を持つのではないかということ。
個人がなんらかの原型的な体験をした時、それが人間の心の普遍性に繋がるものであれば、
多くの人に受け入れられ時代を超えて存在し続ける。
それが昔話なのではないかと言うのです。
そのため、異なった場所に類似の物語があったりする。
ただし、同じ原型的な表象にしても
時代や文化の影響を受けて、それぞれの特徴を有すると言います。


・・・という前置きで、具体的な話になっていくのですが、
始めに「グレートマザー」というところで少し驚きました。
母、すなわち母性は、生命の源泉で守り包み込むようなイメージを私は持っていたのですが、
植物が土から生まれ育ちまた土に還るように、
生だけではなく死をも合わせ持つのです。
産み育てる肯定的な面と、すべてを飲み込んで死に至らしめる否定的な面、
両面を持つのが母性だと。
例えば日本神話のイザナミは、日本の国を生み出した母の神だけれども、
黄泉の国を統治する死の神でもある。
う~む、言われてみれば確かに。
ということで、この否定的面を強く持つ母性が「グレートマザー」であり、
グリム童話などによく出てくる魔女はそれを象徴したもの。
私たちは自立のために「グレートマザー」に打ち勝たなければならないということなのです。
現代も、グレートマザー的母親のために、子供が損なわれている例が多い
・・・というのにはちょっとギクリとさせられますが・・・。


また、男性の心のなかの女性像の原型「アニマ」、
女性の中の男性像の原型「アニムス」のことなどもとても興味深く読みました。
もう少し河合先生の本を読み込んで、
自分の中で噛み砕けるように勉強したい気がしてきました。


「昔話の深層 ユング心理学とグリム童話」河合隼雄 講談社+α文庫
満足度★★★★☆

ひつじ村の兄弟

2016年09月14日 | 映画(は行)
寡黙で頑固なお年ごろ



* * * * * * * * * *

アイスランド辺境の小さな村。
隣同士に住む老兄弟グミー(弟)とキディ(兄)は、
似たような顔立ちと体型、似たようなセーター、独り者、そして同じく羊飼いなのですが、
なんと40年間全く口を利いたことがないという不仲。

そんなある日、キディーの羊が伝染病にかかっていることが発覚。
村全体の羊を殺処分しなければならなくなってしまいます。
しかし、この地伝来の優良な羊を守るため、
この兄弟が図らずも歩み寄り、協力しあうことになっていく・・・。



不仲でなくても、寡黙で頑固なお年ごろ(?)の二人。
どうしても伝えておかなければならないことがあるときには、犬に手紙を届けさせたりします。
どうにも意地っ張りの二人なのだけれど、
見ているとなんともいえないおかしみが湧いてきてずっと見ていたくなってしまいます。
一体なにが原因でこのようなことになってしまったのか。
作中で詳しくは触れられていませんが、
この二人の父親との確執が何かあったように伺えます。

ともあれ、双方羊が大好きで、羊が全てというところは同じ。
だからこそ。
羊を守るためなら、背に腹は代えられない。
お互いに歩み寄りもするのです。
けれど結局、二人は誰よりも互いを意識してこれまで生きてきたわけなのでしょう。
互いに触れ合うぬくもりで、この40年の氷結が解けていくようでした。



剣呑な二人の仲も、もふもふした羊達に囲まれていると、
なんだか少し癒やされていくような気がします。
それにしても伝染病、恐るべし。
殺処分だなんて、なんてイヤなことばでしょう。
しかし、家畜全体の運命を考えるとやむを得ないことでもあります。
時々ニュースなどでこのような話を聞きますが、今後はなんだか他人事ではなく思えてきそうです。



素朴でユーモアがあって、大好きな作品です。

ひつじ村の兄弟 [DVD]
シグルヅル・シグルヨンソン,テオドル・ユーリウソン,シャルロッテ・ボーヴィング,ヨーン・ベノニソン,グヅルン・シグルビョルンスドッティル
ギャガ


「ひつじ村の兄弟」
2015年/アイスランド・デンマーク/93分
監督・脚本:グリームル・ハウコーナルソン
出演:シグルヅル・シグルヨンソン、テオドル・ユーリウソン

田舎度★★★★★
頑固度★★★★☆
満足度★★★★★

太陽のめざめ

2016年09月13日 | 映画(た行)
母親的なもの、父親的なもの



* * * * * * * * * *

フローランス(カトリーヌ・ドヌーブ)は、家庭裁判所の判事です。
ある日、彼女のもとに6才の少年マロニーが連れられてきました。
2ヶ月も学校を休んでいるということで母親と共に呼びだされたのですが、
学校でもマロニーは乱暴で持て余されている様子。
話の最中に母親は逆上し、子どもを置いて立ち去ってしまいます。
それから10年。

学校にも通わず非行を繰り返すマロニー(ロッド・パラド)が
またフローランスのもとに連れられてきます。
まるで手負いの狼のように、マロニーは周りの誰かれ構わず噛みつき、暴れまくります。
フローランスにはそれが母親のネグレクト、育児放棄に根があることがよく分かる。
なんとかこの少年を救いたいと思い、
マロニーと似た境遇にありながら更生したヤン(ブノワ・マジメル)を教育係とし、
ひとまず更生施設に彼を送ることにします。
しかし、その後も反省の色を見せず、
マロニーは何度も判事のもとに送られてきます。
フローランス判事の差し伸べた手の意味を、
マロニーが理解するときは来るのでしょうか・・・?



私は本作を見て、つい最近読んだ河合隼雄先生の著書の中の
「グレートマザー」という言葉が思い出されてなりませんでした。
母性の原形の否定的な面を指す言葉です。
マロニーはこの「グレートマザー」の強大な力に支配されてしまっているのです。



彼の母はいつでもマロニーに冷たいわけではない。
ベタあまにかわいがることがあるかと思えば、全く構わないこともある。
気まぐれです。
彼女は子どもではなく自分の「男」にしか関心がない。
通常乳幼児期にあるべき「母子一体」の期間がなかったわけですね。
マロニーは口汚く母をののしることもあれば、16歳にして母親が恋しくて泣くことすらある。
…やっぱり普通ではありません。
だからマロニーはどこかでこの「グレートマザー」を乗り越える必要があるのですが、
本作では、それはフローランスの力というよりは、
母親に替わる別の女性テスの力であったように思います。
フローランスはむしろ、「父性」を感じさせる存在であったように思います。
マロニーにとっては、はじめから父親が不在だったわけですから、
父性に触れることも必要だったのですね。
また河合先生の受け売りですが、母の一体化するはたらき対して
父は「分割・分離する」ものだと言っています。
善と悪・光と闇など世界を分化し、そこに秩序をもたらす。
これって、判事の仕事そのものですよね。



いろいろ考えさせられる作品ですが、
いずれにしても諦めず、辛抱強く、いつも寄り添ってその子のための最善の道を探そうとすること、
それが大切なのでしょうね。



ところでこのマロニー役のロッド・パラドは、
本作のためのオーディションを受けて俳優デビューしたそうですが、
素晴らしい存在感、しっかりした演技、そしてはまり役でした。
リヴァー・フェニックスの再来などと言われているようですが、
確かにそういう雰囲気です。
今後が楽しみだなあ・・・。

「太陽のめざめ」
2015年/フランス/119分
監督:エマニュエル・ベルコ
出演:カトリーヌ・ドヌーブ、ロッド・パラド、ブノワ・マジメル、サラ・フォレスティエ、ディアーヌ・ルセール

グレートマザー度★★★★★
非行度★★★★★
満足度★★★.5

「ナルニア国ものがたり2 カスピアン王子のつのぶえ」 C・S・ルイス

2016年09月11日 | 本(SF・ファンタジー)
いずこも同じ、跡目争い

カスピアン王子のつのぶえ―ナルニア国ものがたり〈2〉 (岩波少年文庫)
ポーリン・ベインズ,C.S. Lewis,瀬田 貞二
岩波書店


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ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシーの4人がナルニアを去ってから、
長い長い年月がたち、アスランも去った今のナルニアは、すっかり変わってしまいました。
戦闘的なテルマール人の侵略と支配によって美しい国は破壊され、
生き残ったナルニア人は、森の奥深くへ逃れ、息をころして暮らしています。
伝説の角笛を吹いて、ナルニアを救うのはだれか?
ナルニアの最後の希望は、一人の王子の手に握られていたのです。


* * * * * * * * * *

ここのところも、映画で見たのですが、私には一番印象が薄いところで、
ストーリーも何も覚えていなかったのですが、
読んでみるとなかなかミラクルな展開となっていたのですね。
4人の兄弟がナルニア国で王として過ごし、こちら側の世界の洋服ダンスに戻ってきてからおよそ1年後。
今度は4人がある鉄道の駅にいる時に、突然吸い込まれるようにしてナルニア国に来てしまいます。
しかし始め彼らはそこがどこかはわかりませんでした。
あたりはうっそうとした森。
しばらくさまよった挙句、廃墟のような場所に出たのですが、
なんとそこが以前彼らが過ごしていたケア・パラベルの城。
ナルニア国ではあれから1300年が過ぎ去っていたのです!!


度肝を抜く展開。
タイムトラベル好きの私にはたまりません。
巻頭に説明があるのですが、ナルニア国物語で語られるナルニア国の時系列は、
年代順になっておらず、順不同。
いろいろな出来事の因果関係を、読みながら紐といていくというのも楽しそうです。


さてこの時のナルニア国は、テルマール人という人間オンリーの種族が支配しており、
ものを話す動物たちや、巨人、森の妖精たちはひっそりと森の奥深くに隠れるように暮らしています。
カスピアンはこの王国の王位継承者。
現在の王はカスピアンの叔父に当たるミラース。
彼には子がないので、甥のカスピアンを次の王にしようと思っていました。
ところが予期せず彼の子供ができてしまった! 
そうなると甥のカスピアンがじゃまになるのです。
身の危険を感じたカスピアンは、単身城を抜け出します。
なんだかこの辺は聞いたことがあるような話ですねえ。
洋の東西を問わず、跡目争いというのはあるんですね。


そしてカスピアンはかつてから憧れた昔のナルニア国、
人と動物や様々な生きもの、妖精たちが共存する国を再建しようとします。
しかし、テルマール国の追手は迫る。
そこで彼は角笛を吹くのです。
それはかつてスーザンが持っていた宝物。
それを吹けば救いの手が現れるという、伝説の角笛でした。
だからこそ、4人兄弟はその角笛に呼ばれて、この世界に現れたというわけなのです。


まあ、結果まではお話するまでもないと思いますが、
このような筋立てを実に興味深く読みました。
ところで、もちろん1300年を経たナルニアには、
先のストーリーに登場した人物が残っていようはずもありませんが、
ちゃんとアスランだけはいるのです。
時を経て衰えることもない、やはり絶対的な存在。
続きが楽しみです。

「ナルニア国ものがたり2 カスピアン王子のつのぶえ」 C・S・ルイス 岩波少年文庫
満足度★★★★☆