映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「13・67」陳浩基

2021年05月31日 | 本(ミステリ)

逆年代記!

 

 

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華文(中国語)ミステリーの到達点を示す記念碑的傑作が、ついに日本上陸!

現在(2013年)から1967年へ、1人の名刑事の警察人生を遡りながら、
香港社会の変化(アイデンティティ、生活・風景、警察=権力)をたどる
逆年代記(リバース・クロノロジー)形式の本格ミステリー。
どの作品も結末に意外性があり、犯人との論戦やアクションもスピーディで迫力満点。

本格ミステリーとしても傑作だが、雨傘革命(14年)を経た今、
67年の左派勢力(中国側)による反英暴動から中国返還など、
香港社会の節目ごとに物語を配する構成により、
市民と権力のあいだで揺れ動く香港警察のアイデンティティを問う
社会派ミステリーとしても読み応え十分。

2015年の台北国際ブックフェア大賞など複数の文学賞を受賞。
世界12カ国から翻訳オファーを受け、各国で刊行中。
映画化権はウォン・カーウァイが取得した。
著者は第2回島田荘司推理小説賞を受賞。
本書は島田荘司賞受賞第1作でもある。

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私は、順不同でしたが先に「網内人」を読み、痛く感動したため、
それに先んじて出ていた本作を手に取りました。
単行本は一冊ですが、文庫は上下2巻となっているとおり、
かなりボリュームはありますが、じっくりと堪能しました。

 

そもそも、この題名。
これだけ見ると意味不明ですが、つまり1967年から2013年までの、
香港の歴史を舞台とするミステリです。
名探偵役はクワンという警察官。

2013年の彼は、なんと病院のベッドの上。
いまわの際にいます。
そんな彼が、彼を最も理解している部下、ローの手を借りて
ある事件の解決を図ります。

 

この本、連作短編なのですが、なんとここから時代を遡っていくのです。
2作目が2003年、3作目は1997年・・・という具合。
クワンは次第に若返り、階級も下がっていきます。
そして、香港の近代の歴史が次第に浮かび上がってくる、というのが興味深いところ。
「警察」というのは民衆を守るものとはいいながら、
常に権力の下にあって、必ずしも民衆の「味方」というわけではありません。
権力と民衆の狭間にある「警察」という立場で、
あくまでも正面から犯罪と向き合おうとするクワンの姿勢が心強い。
そしてクワンは、その鋭い推理力で私たちを魅了します。
周囲の多くの人が彼と同じものを見聞きしているのに、
彼だけがその鋭い洞察力で、まるで手品のように真相を突き止めます。
一篇一篇は、そうした確かな本格ミステリ。
そして全体を眺めればこれはしっかりとした社会派ミステリ。

そして、最終話1967年は、新米の警察官だったクワンが、
英国で本格的に警察のあり方を学ぶ決意をするきっかけとなる話だったのですが、
なんと第一話の登場人物に関連する人物が登場・・・。
なんて心憎い構成。
全く、うなってしまいたくなります。
拍手喝采!

 

図書館蔵書にて

「13・67」陳浩基  訳天野健太郎 文藝春秋

満足度★★★★★

 

 


名も無き世界のエンドロール

2021年05月30日 | 映画(な行)

ヨッチはどこへ行った?

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行成薫さんの同名原作は、小説すばるの新人賞受賞とのこと。
読んではいませんが、この著者に興味はわきました。

親がいない、ということで自然に親しくなり、
いつも3人で支え合ってきた幼なじみ、
キダ(岩田剛典)、マコト(新田真剣佑)、ヨッチ(山田杏奈)。

あるとき、キダとマコトの前に政治家令嬢でトップモデルのリサ(中村アン)が現れ、
マコトは彼女に強い興味を抱きます。
しかし、リサには全く興味を持ってもらえない。
「住む世界が隔てられている」とつぶやいたマコトは
その後忽然と姿を消してしまいます。

2年後、裏社会に潜り込んでいたキダは、
リサにふさわしい男になるため必死でお金を稼いでいたマコトと再会。

そしてクリスマスイブ。
マコトはキダの力を借りてプロポーズを決行しようとしますが・・・。

幼なじみ3人の様子が回想シーンとして合間に挿入されます。
でも、キダとマコトがリサと出会うあたりから、
ヨッチが登場していないことに気づいていきます。

男女3人の幼なじみなので、何らかの愛情のもつれは想像できるのですが、
そうなるとマコトのリサへの執着になんだか違和感を覚えるわけです。
ヨッチはどうして出てこないのか・・・?
実はそこのところが、本作のバックボーン。
予想外の展開には、驚くばかりでした。

マコトの10年をかけた計画。
スゴイ!

でもラストはちょっとロマンチックに過ぎたかな?

 

ヨッチは「人から忘れられるのがイヤだ」と言っていました。
でも、何故か彼らの通った学校は廃校となり、
マコトとキダの働いていた板金工場もなくなっている。
まるで自分たちの「生きた」痕跡がなくなっているようでもあり・・・、
という副テーマもまた、よく練られています。

 

<WOWOW視聴にて>

「名も無き世界のエンドロール」

2021年/日本/101分

監督:佐藤祐市

原作:行成薫

出演:岩田剛典、新田真剣佑、山田杏奈、中村アン、柄本明

 

驚きの展開度★★★★☆

満足度★★★★☆

 

 


朝が来る

2021年05月28日 | 映画(あ行)

望まれない妊娠の果て

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栗原夫妻(井浦新、永作博美)には、長年子どもができず、
子どもを作ることは諦めたのですが、特別養子縁組により男の子を迎え入れることにします。
生後まもなく引き取ったその子は朝斗と名付けられ、順調に成長。
そしてその6年後、朝斗の生みの親「片倉ひかり」を名乗る女性(蒔田彩珠)から、
「子どもを返して欲しい、それがダメならお金が欲しい」という電話が・・・。

辻村深月さん原作で、監督は河瀬直美さん。
というわけで、独特の陰りを帯びた作品となっています。

ここでは、ある女性(浅田美代子)が、広島のとある島に施設をつくり、
望まれない子どもを妊娠した女性が、出産までの間滞在できるようにしたのです。
そして赤子は出産直後に、養子縁組を望む人たちに受け渡される。
妊婦たちは数ヶ月の間同じ境遇の人々と共同生活を送り、
ある意味満ち足りた時間を過ごします。



朝斗の生みの母、ひかりもそうでした。
彼女はなんと初恋の同級生との間で妊娠してしまった14歳。
世間体を気にし、困り果てた親の勧めでここへやって来ました。
出産し、子どもを養父母に渡すときには、
生まれた子どもへの手紙を養父母に託す、心優しげで純真に思えた、ひかり。

ところが、その後単身で実家に戻った彼女に、家族たちは冷たい。
人生の道を踏み外した厄介者としか見られていないことに失望し、
ひかりは家を出るのですが、当然生活はキビシイ。

髪を金色に染め、はすっぱな物言いをする少女を、
栗原夫妻はとてもあの時の少女だとは思えなかったのです・・・。

本来出産は祝福されるべきもの。
けれど状況によってこんなに忌むべきことになってしまうというのは切ないですね。

 

私は想像します。もし、ひかりの家族が世間体など気にせず、
この赤ん坊の誕生を祝うことができたら・・・。
家族みんなで、笑顔で子育てを楽しむことができたら・・。
そういうあり方だってあったわけですよね。
今時、子どもは貴重ですからね。
そうだったら良かったのに・・・。

ともあれ、栗原夫妻はなかなかできた人たちのようなので、
今後はひかりへの心のケアも期待できるのでは・・・なんてね。

見応えのある作品でした。

 

 

蒔田彩珠(あじゅ)さんは、清楚で意志の強そうな美少女。
あ、朝ドラ「おかえりモネ」の主人公の妹役ですね! 
うーむ、きっと何年か後に今度は主人公に抜擢されそうな気がします。

若葉竜也さんと青木崇高さんが、ヤクザの借金取りで出てきたのには、笑った。

 

Amazonプライムビデオにて

「朝が来る」

2020年/日本/139分

監督:河瀬直美

原作:辻村深月

出演:永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子

 

社会問題度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「彼方の友へ」伊吹有喜

2021年05月27日 | 本(その他)

胸の思いは、なお鮮明に

 

 

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平成の老人施設でひとりまどろむ佐倉波津子に、
赤いリボンで結ばれた小さな箱が手渡された。
「乙女の友・昭和十三年 新年号附録 長谷川純司 作」。
そう印刷された可憐な箱は、70余年の歳月をかけて届けられたものだった――
戦前、戦中、戦後という激動の時代に、
情熱を胸に生きる波津子とそのまわりの人々を、
あたたかく、生き生きとした筆致で描く、著者の圧倒的飛躍作。

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時は平成。
老人施設で暮らす佐倉波津子が若かりし頃の自分を回想します。

 

昭和12年。
16歳波津子は、少女向け月刊誌「乙女の友」編集部、
有賀主筆付きの雑用係として働き始めます。
波津子は以前、多少暮らし向きも良かったのですが、
今は父親がほとんど音信不通で経済的に苦しく、小学校しか出ていません。
本当は歌で身を立てたかったのだけれど、音楽学校に通えるわけもなく、
歌の先生のところで女中働きをしながら少しレッスンを受けていた程度。
そして、「乙女の友」は大好きな雑誌だったのが、もう本を購入することもできず、
ときおり印刷工場に勤めている幼なじみが届けてくれる
試し刷りの「乙女の友」の断片を大事に眺めるのみ・・・。
そんなだから、この編集部に勤めないかという話が来たときには舞い上がりそうになり、
しかしいざとなると学のない自分がこんなところで働くことができるのだろうかと、
恐ろしくて仕方がなくなってしまう・・・。

 

こんな経緯が詳しく描かれていて、読み手である私もすっかり波津子の気持ちと同調してしまいます。
「乙女の友」は実在した「少女の友」がモデルとなっていて、
そこで一躍名を馳せた中原淳一は、長谷川純司として登場します。

もとより憧れの有賀の指導によって、ろくに漢字も書けなかった波津子が
どんどん職業人として成長していく。
そして憧れは次第に恋へと変化していくのですが・・・。

時代は日中戦争から太平洋戦争へ。
戦局は次第に悪化し、純司も有賀も戦地へ送られていく。
少女の夢をかき立てるロマン色濃い小説やイラストは、当局から禁止され、
「乙女の友」は内容もボリュームも、かつての面影をすっかり失っていくのです・・・。

 

こうした「乙女の友」の運命、そして波津子の人生が絡まって、
とても読み応えのある内容になっているのです。
一人、老人施設でほとんど夢を見ているように昔を回想する波津子には、
今は彼女を見舞う家族もいない様子。
編集社に勤める一人の女性としての人生を極めて力強く生きてきたことはうかがえるのですが、
結局有賀とはどうなったのか、次第にそのことが気になってきます。
そして、思いがけないラストには涙があふれます。
すべては夢のような出来事。
けれど、確かにかつてあったできごと。
人の思いは時を超えて飛び込んでくる・・・。

 

図書館蔵書にて

「彼方の友へ」伊吹有喜 実業之日本社

満足度★★★★★


新解釈 三国志

2021年05月26日 | 映画(さ行)

ねばぎば

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1800年前、中国大陸での中華統一を巡り、
「魏」「蜀」「呉」の三国で繰り広げられる群雄割拠劇・・・、
ということで、おなじみの三国志ですが、“新解釈”というところがミソ。

本作、劇場で見たかったのですが、見そびれていました。

現在も私、緊急事態宣言下ということで、映画館通いを自粛しておりまして、
またいくつかの見逃しが発生しそう・・・。
でもまあ、半年もすればネット配信に乗りますもんね・・・。

さて本作、大泉洋さん他豪華キャスト出演という期待作。
三国志でも、「赤壁の戦い」を大きく取り上げています。
殿方は「三国志」好きの方が多いと思いますが、私はさっぱりで、
有名と思われるエピソードもほとんど知りません・・・。
でも映画の「レッドクリフ」を思い出しました。
そうか、あの「場」ですね。

大泉洋さん演じる劉備は、ちーっともやる気がなくて、適当。
けれど、酔うといかにもいいことを蕩々としゃべり出すので、
周りの人はすっかりそれにほだされて、
いつの間にか彼を武将として仰ぎ、付き従う人々が集まってしまった・・・
などという次第。
そんな彼が参謀として孔明(ムロツヨシ)を迎えることとなって、
やがて赤壁の戦いで曹操(小栗旬)と対峙することになる・・・。

終始ちゃらんぽらんで、戦闘にも加わろうとしない劉備は、
ここでも敵陣で疫病が発生したと知るや、さっさと戦線離脱してしまう、
という下りが実に自然。
だからこそ、その後の展開で意表を突かれるというわけで、
なかなかうまい作りだと思います。

ともあれ、それぞれのシーンがコントのようで、とにかく笑えます。
このような重苦しい毎日の中で、
手放しにあっけらかんと笑えるこんな作品は貴重ですね!

渡辺直美さんの着ぐるみを脱いで現れる美女とは・・・?
いやはやwww

<Amazonプライムビデオにて>

「新解釈 三国志」

2020年/日本/113分

監督・脚本:福田雄一

出演:大泉洋、ムロツヨシ、小栗旬、賀来賢人、岡田健史、岩田剛典、
   山田孝之、城田優、西田敏行、橋本環奈、山本美月

コミカル度★★★★☆

新解釈度★★★★☆

満足度★★★★☆


恐怖の報酬

2021年05月25日 | 映画(か行)

緊張感ハンパなし

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本作、77年の全米公開時、「スター・ウォーズ」が大旋風を起こした影響で、
興行的に大失敗となってしまいました。
78年、日本や北米以外の国では、
監督に無断で大幅にカットされた92分の短縮版が上映されたとのこと。
そして2013年、監督自身の手により121分オリジナル版の4Kデジタル修復が行われ、
日本でも18年11月に「オリジナル完全版」として、劇場公開された、
ということで話題になった作品です。
その時に興味があって、みたいと思ってはいたのですが、
なんとなく見そびれて、この度の視聴となった次第。
旧カット版の方は確かテレビの洋画劇場かなにかで、見た記憶はあるのですが・・・。

南米のジャングル。
油田の火災を鎮火させるため、大規模な爆破を行う必要が生じます。
そこで1万ドルの報酬と引き換えに、危険なニトログリセリン運搬を
4人の男たちが請け負うことになります。
ジャングルや崖道、まともではない道路を、
ひたすら大きな振動を与えないように、手に汗を握る運搬が始まる・・・。

この4人の男たちは、テロ犯罪や巨額の負債などから逃れ、身を隠すために
このジャングルの油田にたどり着き、過酷な労働に耐えながら生きていたのです。
その一人一人の事情が本作のほとんど前半を用いて描写されています。

それぞれの男たちが、それぞれの事情で自身の暮らしていた社会から逃亡せざるを得なくなり、
お金もなくにっちもさっちもいかなくなっている。
この過酷な地で朽ち果てるしかないのか・・・と思い始めたようなときに、
この、恐ろしくも旨い話が舞い込むわけです。
そんなわけで、緊張に満ちた「爆発物の輸送」という予告編やら前触れを見た人にとっては、
前半、やや冗長に感じるかもしれません。
だからこそ、この部分が多分カットされてしまったのだろうなあ・・・と、
納得できるところでもあります。
でも、そうしたシーンでも、それぞれの逃亡は危機一髪のタイミングであったりして、
退屈というわけでもないのですが。

それでも、いざニトログリセリンの運搬が始まったときには、
とにかく緊張感の連続で、もうカンベンシテ・・・と言いたくなるくらいでした。

断崖絶壁の細い道、朽ちかけた揺れる吊り橋・・・、
ただ通るだけでも怖いのに、極力振動を抑えなければならないなんて、恐ろしすぎます。
そうしてたどり着いた先には、大木が横たわって道を塞いでいる。
・・・さあ、どうする!?

そしてまた、一難去った後というのがまた危ない。
ふっと緊張が緩んだその時・・・。

たたみかけるようにやってくる困難、苦難。
一見の価値はあります。

<シネマ映画.comにて>

「恐怖の報酬」

1977年/アメリカ/121分

監督:ウィリアム・フリードキン

出演:ロイ・シャイダー、ブルーノ・クレメル、フランシスコ・ラバル、アミドウ、ラモン・ビエリ

緊張感★★★★★

満足度★★★★.5


「あの日、君は何をした」まさきとしか

2021年05月24日 | 本(ミステリ)

息子にのめり込みすぎる母親が・・・

 

 

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北関東の前林市で暮らす主婦の水野いづみ。
平凡ながら幸せな彼女の生活は、
息子の大樹が連続殺人事件の容疑者に間違われて事故死したことによって、一変する。
大樹が深夜に家を抜け出し、自転車に乗っていたのはなぜなのか。
十五年後、新宿区で若い女性が殺害され、
重要参考人である不倫相手の百井辰彦が行方不明に。
無関心な妻の野々子に苛立ちながら、母親の智恵は必死で辰彦を捜し出そうとする。
捜査に当たる刑事の三ツ矢は、無関係に見える二つの事件をつなぐ鍵を掴み、
衝撃の真実が明らかになる。
家族が抱える闇と愛の極致を描く、傑作長編ミステリ。

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主婦いづみは、夫と長男長女がいて、過不足ない生活をしていました。
その日、息子大樹の大学入学祝いを家族団らんで過ごし、
自分はなんと幸せなんだろうと思う。
しかし、その息子が深夜に家を抜け出し、殺人事件の容疑者に間違えられて事故死してしまう。
悲嘆に暮れ、ほとんど正気をなくしてしまういづみ・・・。
ここまでが第一部です。

 

そして、第二部はその十五年後。
全く別の登場人物で話は始まります。

ここでは、とある女性の殺人事件とその容疑者である男性の行方不明が描かれるのですが、
第一部で語られたストーリーとは同じ名前がなかなか出てこず、
この物語がどう終息しようとしているのか、読者としてはかなりのめり込みます。
そして全く意外な形で、時を超えた二つの事件が絡み合うのでした。

さらに本作のいちばんの謎、あの日大樹はどうして深夜に家を抜け出し、
事故を起こすようなことになってしまったのか、
それがまた予想外の真実を魅せるのです。
ミステリとしては、一級品。

 

だけれども、私はこのいづみのようなほとんど狂的な女、特に母親像がどうも苦手なのです・・・。
息苦しくなって、いたたまれなくなってしまう。
もしかすると自分の中にそれほどの母性愛がないことの裏返しなのかもしれないと思ったりもしますが・・・。

というわけで地元作家さんでベストセラー図書ではありますが、
個人的にはあまり好きではない・・・。

 

「あの日、君は何をした」まさきとしか 小学館文庫

満足度★★★☆☆

 


少女

2021年05月22日 | 映画(さ行)

不安定な少女たちの成長

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高校2年、由紀(本田翼)と敦子(山本美月)は親友同士。
由紀は「ヨルの綱渡り」という小説を書き、
敦子はいじめに遭ったトラウマから過呼吸を繰り返す。
ふとしたことから気まずくなった二人は、
連絡も途絶えたままそれぞれの夏休みを過ごします。
由紀は小児科の病棟で、敦子は老人ホームでボランティア。
それぞれの場所で、問題を抱えた人と向き合うことに。

湊かなえさん原作なので、テイストは手放しの感動作という風ではありません。

「少女」らしく純粋で、過敏で、残酷で、そして不安定。
ある転校生が親友の死体を見たと話すのを聞き、
自分も人の死を目撃したいと思ったりする。
不安定であるが故に、死への憧れもある・・・。

ということで、ちょっと私が苦手の
「負への感情の振れ幅が異常に大きい女子」
たちの話ではあるのですが、
しかし、この二人はそれぞれの夏の経験を踏まえて、
ちゃんと「生」へのまなざしと互いへの信頼を取り戻していくという、
なかなかステキな物語なのです。

苦手シーンも乗り越えて、最後まで見て良かった~。

このときまだ「真剣佑」名義の新田真剣佑さんと、
稲垣吾郎さんの出演も嬉しいところ。

中年男が女子高生に、
自分のパンツと女子高生の今はいているパンティを一緒に手洗いしろ、
と強要するのが最大のセクハラ・・・?
ちょっとここは笑ってしまった。
でもJKは確かに、イヤだろう・・・。

<WOWOW視聴にて>

「少女」

2016年/日本/119分

監督:三島有紀子

原作:湊かなえ

出演:本田翼、山本美月、新田真剣佑、児嶋一哉、菅原大吉、稲垣吾郎

 

少女の成長度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


ハワーズ・エンド

2021年05月21日 | 映画(は行)

皮肉な愛憎劇

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第65回アカデミー賞関連作。

20世紀初頭、イギリス。
中流階級のシュレーゲル家と実業家ウィルコックス家は旅行中に親しくなり、
そんな縁で、次女ヘレン(ヘレナ・ボナム・カーター)が、
ウィルコックス家の田舎の別荘「ハワーズ・エンド」に招かれます。
そこでヘレンは次男ポールに一目惚れするのですが、
行き違いがあって両家は気まずい関係になってしまいます。

けれども、長女マーガレット(エマ・トンプソン)は
ウィルコックス家の老婦人ルースと交流を続けていて、信頼関係を築いていました。
やがて、ルース夫人は「ハワーズ・エンドは、マーガレットに譲る」
という遺言を残して、他界します。
しかし、ウィルコックス家当主ヘンリー(アンソニー・ホプキンス)や
他の家族たちはそれが面白くなく、
遺言はもみ消されて、なかったことにされてしまいます。
そしてその後、マーガレットがヘンリーの元に後妻に入ることになり・・・。

本作のキーパーソンとして一人の貧しい青年が登場します。
ヘレンは青年とふとしたことで知り合いますが、
ヘンリーが「彼の勤める銀行はまもなく倒産するので、転職した方がいい」
というので、その通り青年に忠告。
青年はそれを信じて別の銀行に勤めることができたのですが、
まもなく人員整理でクビになってしまいます。
ヘンリーはほんの思いつきで口走ったことなど後には覚えてもいません。
失業し、妻を養うのもつらくなって困り果てた青年に、
ヘレンは深く同情してしまうのですが、
もちろんヘンリ-は責任をとろうともしません。

こんなわけで、この両家には愛情ある絆と共に、
深い憎しみの谷もある、というなんとも面倒な状況に・・・。

私が本作を見ていちばん納得できなかったのは、
ヘンリーからのプロポーズにマーガレットが待ってましたとばかりに、すぐさまOKしたこと。
妹が彼を嫌っていることも無理はないとわかっているはずなのに・・・、
やっぱりお金の力なのかと、ちょっと失望。
まあ確かに、その時シュレーゲル家の住まいは契約が切れて
明け渡さなければならないことになっており、
その先の住居に困っていたという事情はあるのですが・・・。

でも最後まで見ていくと、結局この物語は、
純真で親切そうに見えるマーガレットの、
生きていくたくましさを描いたものだったような気がします。
老婦人と親しくなったのも、結婚も、そしてハワーズ・エンドのことも、
実はすべて彼女の計算ずくだったと言われても納得できる気がしてきました。
逆に、欲もなにもない天然お人好しのマーガレットが
いちばん得をする、という話のようでもある・・・。
どちらと思うかで、その人の人柄がわかる・・・
ということなら、私はやはり人が悪いということになるな・・・!

ハワーズ・エンドは豪華邸宅ではなくて、片田舎の古くさい、けれども美しい
花に囲まれた小さなお屋敷なのです。
この家を巡る人々の皮肉な愛憎劇。
見応えがあります。

 

<WOWOW視聴にて>

「ハワーズ・エンド」

1992年/イギリス・日本/143分

監督:ジェームズ・アイボリー

原作:E・M・フォースター

出演:アンソニー・ホプキンス、バネッサ・レッドグレーブ、ヘレナ・ボナム・カーター、エマ・トンプソン、ジェームズ・ウィルビー

 

愛憎度★★★★☆

英国の時代性★★★★★

満足度★★★★☆

 


「クララとお日さま」カズオ・イシグロ

2021年05月20日 | 本(その他)

祈りと奇跡の物語

 

 

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ノーベル文学賞 受賞第一作

カズオ・イシグロ最新作、

2021年3月2日(火)世界同時発売!

AIロボットと少女との友情を描く感動作。

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時代は近未来でしょうか。
AIロボットである「クララ」は、店のショーウィンドウに立ち、
やがて少女ジョジーの家に買われていきます。
病弱なジョジーとクララは友情を育んでいきますが、
いよいよジョジーが体調を崩していき・・・。

 

私にはこの世界が、「私を離さないで」の世界と地続きであるように感じられました。
肥大した科学技術がいつしか人の人間性を剥奪し、
それが「当たり前」と見なされている一種残酷な世界。

しかし、クララはAIであるが故に、
人の「理想」ともいうべき人間性、やさしさや純粋性を保っているのかもしれません。

 

クララらAIロボットは太陽の光エネルギーを充電して作動するのです。
そのためクララは日の光を浴びると元気が出て幸せな気持ちになる。
だから、ジョジーの病も太陽の光を浴びることできっと良くなる、とクララは考えます。
クララにとっては太陽こそが「神」のようなもの。
人とロボットと、「祈り」は同質のものなのだろうか。
「祈り」、それは科学と相容れないものであるならば、
「奇跡」は人とロボットにかかわらず、起こりうる・・・?

 

「鉄腕アトム」を読んで(漫画ですが)育った私には、
心を持ったロボットはとてもなじみ深く、あっても当たり前のように思えるのです。
AIがうんと発達して複雑な思考を成し遂げることが可能になれば、
「心」も発生するのではないかな・・・。

 

それにしてもこの世界、詳しい説明はないのですが、
どうやら知能をアップさせる為に、
子どもにある処置を行うということが一種のステイタスになっているのです。
しかし、この処置は健康上にリスクが大きい。
そしてまた、主義や金銭的事情でこの処置を受けなかった者は、
将来の社会的地位を望めない・・・という格差を生んでいる。

カズオ・イシグロ氏はさらっとエグい世界を描き出しますね。
この世界でジョジーの母親が、クララを使ってやろうとしていたことがまた、おぞましい・・・。

 

「クララとお日さま」カズオ・イシグロ 早川書房

満足度★★★★☆

 


エイブのキッチンストーリー

2021年05月19日 | 映画(あ行)

文化・宗教のはざまで

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12歳のエイブはパレスチナ人の父、イスラエル人の母と暮らしています。
片やムスリム、もう片やユダヤ。
文化・宗教の違いは時に対立を起こします。
そんな中で、エイブは料理を作ることが唯一の心のよりどころ。
あるとき、世界各地の味を掛け合わせた「フュージョン料理」を作るブラジル人シェフのチコと出会い、
親には内緒で彼の店で料理の修業をすることになりますが・・・。

エイブは父方・母方それぞれの祖父母らが大好きです。
それぞれとても優しいし、いろいろなことを教えてくれる。
エイブはどちらの文化にも興味があって、
豚肉は食べないようにしているし、断食も経験してみたいと思う。
ところが、何かのおりに双方の親族が集まることになると、
途端に喧嘩が始まってしまうのです。

エイブがどちらの伝統の味をも組み合わせ、腕を振るって料理を作った感謝祭の日にも、
やはりいざかいが始まってしまいました。
しまいにはこんな結婚が間違っていた、子どもなんか作るんじゃなかった、
などと言い始める始末。
目の前でそんなことを言われたら、それは傷つきますよね。
エイブにとってはどちらの宗教を選ぶかという以前の、
アイデンティティに関わる問題なのです。

宗教や文化の違い、同じ家族内でもこんなにもめてしまうのだから、
地域や国同士のいざかいは、へたをすれば戦争にまで発展してしまう、
ということなのでしょう。

12歳エイブは、SNSを発信する現代っ子。
そんな彼がいにしえからの文化伝統の狭間で
なんとか新しい道を模索していく姿には、見習うところがあると思います。

少なくとも、若い人や子どもたちには、
柔軟でしなやかな心を持って進んでいってほしいと切に思います。

<シネマ映画.comにて>

「エイブのキッチンスト-リー」

2019年/アメリカ・ブラジル/85分

監督:フェルナンド・グロスタイン・アンドラーデ

出演:ノア・シュナップ、セウ・ジョルジ、ダグマーラ・ドミンスク、アリアン・モーイエド

異文化交流度★★★★★

満足度★★★★☆

 

 


幕末青春グラフィティ Ronin  坂本竜馬

2021年05月18日 | 映画(は行)

懐かしのメロディにのせて

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35年も前の作品。
見てはいなかったのですが、とても懐かしい感じのする作品であります。

 

1866年、佐幕も勤王も興味のない坂本龍馬(武田鉄矢)は、
ただお金を儲けて黒船を買い、みんなでアメリカへ行きたいという夢を持っていました。
そのため、土佐藩を抜け、長崎で亀山社中を起こし、お金儲けに励んでいたのです。

そんなあるとき、武器を求めに来た長州藩のために、
大量の武器を買い付け、長州に届けることに。
そして、高杉晋作(吉田拓郎)率いる長州軍と幕府軍の戦闘が幕を開け・・・。

 

懐かしの吉田拓郎さんの歌などが流れ、戦闘シーンであってもなんとなく牧歌的。
つまりは題名通り、自らの思想を信じ、命を燃焼し付くそうとする若者たちの
「青春グラフィティ」というのが主題でありましょう。
あ、これ脚本が武田鉄矢さん自身だったんだ!

幕府の行く末やら尊皇思想やらはどうでも良くて、
とにかくアメリカへ渡ってみたいという好奇心に突き動かされるような竜馬像は、
嫌いじゃありません。

 

今本作を見るべき観点は、実のところ、そうした幕末の歴史ではなくて、大勢の出演者たち。
35年前ということで、武田鉄矢さんも吉田拓郎さんはもちろんなのですが、
今俳優さんの中でも重鎮の多くの皆さんの若い姿を見つけるのがなんとも楽しい!

 

敬称略で・・・柴俊夫、竹中直人、川谷拓三、伊武雅刀、原田大二郎。
女優さんでは、原田美枝子、浅野温子、南果歩、菊池桃子・・・皆若くお美しい。

 

<WOWOW視聴にて>

「幕末青春グラフィティ Ronin  坂本竜馬」

 

1986年/日本/116分

監督:河合義隆

脚本:武田鉄矢

出演:武田鉄矢、吉田達郎、柴俊夫、竹中直人、川谷拓三、伊武雅刀、原田大二郎、
   原田美枝子、浅野温子、南果歩、菊池桃子

 

青春度★★★☆☆

満足度★★★☆☆

 

 


「竜と流木」篠田節子

2021年05月16日 | 本(その他)

人は自然を支配できる?

 

 

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太平洋に浮かぶ美しい島ミクロ・タタに、
泉の守り神である愛くるしい両生類が棲んでいる。
ジョージはその生物に魅入られるが、
隣りの島に移したところ、夥しい数の死体となってしまった。
同じ頃、父や同僚たちが真っ黒で俊敏なトカゲのようなものに襲われ、ショック状態に。
口中に細菌を持っているのだ。
広がり続ける被害。
しかしこれは始まりに過ぎなかった…。
美しい島を襲うバイオハザード。
名手が描く生物パニックミステリー!

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いつもながら、篠田節子さんのゾッとするストーリー。

太平洋の美しい島、ミクロ・タタに、この島固有の愛くるしい両生類ウアブが生息しています。
ジョージ(日米ハーフ)は、このウアブに魅入られブログなどで広めています。
ところがミクロ・タタの開発のため、ウアブの生息している泉がなくなってしまうことに。
そこで、ウアブを近くの島、メガロ・タタへ移すことになります。
メガロ・タタはリゾート地としても開けている比較的大きな島で、
なんとそこのホテルの人工池にウアブを放つことになったのです。
むしろ人工池の方が水も循環させていて、環境も良いだろうということで・・・。

 

しかし、よかれと思ったにせよ、人が自然の営みに介入するとろくなことにならない。
というのが本作のテーマでありましょう。
なんと、愛くるしいはずのウアブが、思いも寄らない“怪物”に変化してしまうのです。
それは、口中に細菌を持っており、
人が噛まれれば激烈な感染症状を起こし、死に至ります。
しかもその真っ黒なトカゲのような生き物は、とてつもなくタフで、大繁殖を始める・・・。

一体、どのようにこんな事態を収束させようと言うのか、
全くもってハラハラさせられます。

 

人はしょせん大自然の営みに手出しをすべきではない、
人間は自然を管理なんかできない。
できると思うのは思い上がり。
そしてまた、人が作り出し垂れ流すゴミやら薬品もまた
大いなる大自然への介入になっているわけで・・・。
こんなことの警鐘としては実に雄弁な物語。

 

この地球上のほんの片隅で発生したある種のウイルスが瞬く間に全世界に広がり、
多大な人の命を奪う・・・、
そんなリアルな現状で、この物語はかなりキツイ!!

 

「竜と流木」篠田節子 講談社文庫

満足度★★★★☆

 

 


この世界に残されて

2021年05月15日 | 映画(か行)

ホロコーストを生き延びた二人

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ハンガリー、1948年。

ホロコーストを生き延びたものの、家族を失った16歳クララは、
唯一の肉親である叔母と暮らしています。
しかしそれまで疎遠だったのであまり親しみは感じていません。
そんな彼女が42歳の寡黙な医師アルドと出会います。
アルドもまたホロコーストで家族を失っていました。

家族を失った喪失感と孤独。
そしておそらく自分だけが生き残ったことの罪悪感。
こんな悲痛な思いは経験した人でなければわからない。
おそらく、この同じ心の欠落が二人を寄り添わせたのでしょう。
クララはアルドを慕い、いつも共にいたいと思う。
アルドも少女から父親のように慕われることに戸惑いを見せながらも、
共にいると安らいだ気がするのです。
やがて、クララはアルドとほとんど家族のように
二つの家を行き来して暮らすようになります。

また一方、ハンガリーではソ連のおよぼす力が大きくなっており、
そうした関係者からは二人の関係を邪推する者もいて・・・。

これぞ「愛」でしょう、という気がしますね。
胸の痛みを共有し、共に暮らし、互いを癒し合う。
家族の本来のあり方なのかもしれません。

ユダヤ人の受けた悲惨な出来事については、数多く語られていますが、
大抵は第二次世界大戦直後、収容所から解放されるあたりで終わってしまいます。
そこを生き延びた人たちが、その後どれだけのトラウマを抱えながら生き続けたのか、
そういうことはこれまであまり語られていなかったように思います。

社会主義国家においては、また別の意味の
制約された暮らしのはじまりでもあったわけなのでしょう。

おとぎ話ではない現実の世界は、めでたしめでたしでは終わらず、
やがてまた新たな苦難が始まるわけなのですね・・・。

ではあるけれど、人の世にはまた新たな友愛や絆が生まれ育っていく。
そうしたところまで描かれているので、
本作後味は悪くなくて、ほっとできるのがいい。

シネマ映画.comにて

「この世界に残されて」

2019年/ハンガリー/88分

監督:バルナバーシュ・トート

出演:カーロイ・ハイデュク、アビゲール・ゼケ、マリ・ナジ

家族愛度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


サイレント・トーキョー

2021年05月14日 | 西島秀俊

う~ん・・・

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西島秀俊さん出演作品なので、私たちの出番でーす!

常ならば本作、絶対劇場で見たはずのものだよね。

そうそう。でも、コロナ感染拡大の時期だったので、映画館は開いていたけど、
 自主的に映画館通いを自粛した時期に公開だったので、見逃しちゃいました・・・。

この度Amazonプライムで配信されてたので(有料だけど)、ようやく拝見というわけね。

 

クリスマスイブの東京。
 恵比寿に爆弾を仕掛けたと言う一本の電話がテレビ局に入ります。
 中継に向かったテレビ局契約社員(井之脇海)と、
 買い物にきていた主婦(石田ゆり子)が、爆破犯人から利用されてしまうハメに。
 彼らは犯人に成り代わり、次の犯行声明を発信する。
 テレビ生放送で首相との対談が果たせない場合、
 18時に渋谷ハチ公前付近で爆発を起こす、と。
 刑事・世田(西島秀俊)らが、必死に犯人の動きを追います。

えーと、ここでの犯人の狙いは、本当の戦争の悲惨さ怖さも知らず、そしてそのことを考えようともせず、
 安穏と暮らす日本人へ向けての警鐘ということなんだね。

そうなんだけどね、私、そこのところがなんだか納得いかなかった・・・。

 だってね、犯人たちは自身で戦争の悲惨さを体験し、平和の大切さを身にしみて願っているわけでしょ。
 そういう人たちが、こんな不特定多数の人を殺傷するようなテロを起こすかなあ・・・って。
 矛盾しすぎ。

うーん、一人が精神を病んでそのように思い込んでしまったと言うのならまだしも、
 一人じゃなかったし。

この根幹が無理スジなので、なんだかピンと来ない作品になってしまった気がする。

それと、場所も日時もわかっている爆破場所に、物見遊山で常以上に渋谷が若者で賑わってしまった、
 というのが、実は「そんなバカな」と思うところでもあるのだけれど・・・

いやそれがね、いま、これまで以上のコロナ感染拡大となっているにもかかわらず、
 集まって飲み会してる若者像が伝えられているのを見ると、
 あながち絵空事とも言えない気がしたよ・・・。

あまりにも危機感覚が欠如している本作の若者像、でもこれがリアルなのかも・・・。

ネタバレになるから言えないけど、ラストで石田ゆり子が語る、
 夫との間の出来事も、いかにも無理スジ。
 「愛していたから」というセリフには思わずのけぞって笑える。

いや、そこまでは言いすぎかもしれないけどね・・・。

豪華キャスト、無駄遣いでした。

えーと本作は、ジョン・レノンとオノヨーコによる
 Happy Xmas(War Is Over)にインスパイアされ執筆されたという
 秦建日子さん作品の映画化なんだね。

だから、エンディングはこのカバー曲で、これはすごく良かった。
 作品のなんだかピンとこないところを凌駕して、ま、いいかと思わせる力のある曲でした。

Amazonプライムビデオにて

「サイレント・トーキョー」

2020年/日本/99分

監督:波多野貴文

原作:秦建日子

出演:西島秀俊、石田ゆり子、佐藤浩市、中村倫也、広瀬アリス、井之脇海、毎熊克哉

西島秀俊の魅力度★★★★☆

サスペンス度★★★☆☆

満足度★★★☆☆