映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

パリ、嘘つきな恋

2019年05月30日 | 映画(は行)

ケーハク男だけど

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パリ、大手シューズ代理店社長のジョスラン(フランク・デュボスク)は、
軽薄なプレイボーイで、女と見ればテキトーな話をでっち上げて、
とにかくモテようとします。
ある日、他界した母の家に残されていた車椅子に腰掛けていたところへ
訪ねてきた美女ジュリー(キャロライン・アングラード)の気を引くために、
あえて彼女に足が不自由と思われたままにしてしまいます。
やがてジョスランはジュリーから姉のフロランス(アレクサンドラ・ラミー)を紹介されます。
フロランスは以前事故にあって車椅子の生活をしています。
彼女は世界中を駆け回るバイオリニストであり、
また車椅子テニスの名プレイヤーでもある快活な女性。

ジョスランは次第にそんな彼女に惹かれていくのですが、
最初の嘘を引きずったまま、実は立って歩けるのだということを打ち明けることができません・・・。
彼女を騙していることに心苦しくなっていき・・・。

小洒落たフランスのコメディ作品・・・とはわかっていながらも、
あまりのジョスランの軽薄ぶりになんだかなあ・・・と思ってしまいました。
しかし本作の主演であり監督も務めているフランク・デュボスク氏は、コメディアンなんですね。
だからこそ、そこまでおバカで調子が良いという役柄に
ならざるを得ないということのようです。
まあ、しかたないか。
テーマがちょっと深刻なところを軽く笑い飛ばしてしまおう、
そういう作品だと思ったほうが良さそうです。
車椅子を実際に体験してみなければ、フロランスの本当の素晴らしさに
ジョスランは気づかなかったかも知れません。
・・・というか、そうでなければ、いつもの女性のように口説きかけることもしなかったかも。
どんなところに、出会いや理解のチャンスが待ち受けているかわからない。



さて、こんな男ではあるけれど、友人思いの友や上司思いの部下もいて、
なんと恵まれていることか・・・。
そんなところは見ていて楽しかったです。

そして一つ意表を突くのが、ある日のジョスランの家での食事シーン。
そこだけ、何やら夢のようでした・・・。


<シネマフロンティアにて>
「パリ、嘘つきな恋」
2018年/フランス/107分
監督・脚本:フランク・デュボスク
出演:フランク・デュボスク、アレクサンドラ・ラミー、キャロライン・アングラード、エルザ・ジルベスタイン
ケーハク度★★★★☆
満足度★★★.5


マイナス21℃

2019年05月29日 | 映画(ま行)

酷寒のサバイバル

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5月というのに猛暑に見舞われた北海道。
そんなときに見るべきなのはまさにこれ。
酷寒の雪山で壮絶なサバイバルをした、
元アイスホッケー選手でありスノーボーダーでもあるエリック・ルマルクの実話を映画化したものです。

米カリフォルニア州、シエラネバダ山脈のスキー場で
スノーボードを楽しんでいたエリック(ジョシュ・ハートネット)は、
つい立入禁止区域に入り、吹雪が襲ったこともあり道に迷い遭難してしまいます。
水も食糧もなく、山岳装備もない。
低体温症、空腹、オオカミ、凍傷、脱水症状・・・
あらゆる困難が彼を襲う中、8日間が過ぎて・・・。

身も心も凍りつきます・・・。
気温がマイナス21℃・・・? 
少し雪を掘ったところに身を横たえるだけで夜明かしをします。
人はそんなところでも生きながらえることができるのか・・・? 
テントや寝袋もなし。
普通の人なら一晩だけで凍死してしまうのかも知れません。
エリックは若く人並み外れた強靭な体を持ち合わせていたのでしょう・・・。
だからこそ、足に重度の凍傷を負いながらも生きながらえた。
でも私なら、そんな孤独と苦しみを味わうくらいなら、さっさと凍死してしまいたいかも。



エリックは山に行く前に、たまたまある人から
「雪を食べてはいけない」という話を聞くのです。
雪山で遭難しても、とりあえず雪があるから水分補給だけはできるはず、と思いますよね。
けれど雪を食べると低体温症を引き起こすので、非情に危険なのだそうです。
暑い日にアイスクリームを食べるのとは全然状況が違うわけだなあ・・・。
そのことを覚えていたエリックは、たまたま持っていたビニール袋に雪を詰め、
体温で溶かしてから飲むのです。
しかしそのビニール袋には実は麻薬が入っていたのです。
生きるために、彼は麻薬を捨てて、雪を詰める。
こうなると彼が麻薬に浸っていたことも逆に幸いなことに思えてくる。
人生はミラクルですねえ・・・。



彼は雪山をさまよいながら過去の様々な自分の挫折のシーンを思い出します。
父親に否応なく仕込まれたアイスホッケー。
しかしそのアイスホッケーも、ある程度実力が認められるようになたものの、
些細なことがきっかけでやめてしまった・・・。
思い出すのは自分にとっていやなシーンばかり。
そういうことから逃れたくて、麻薬を使うようになっていたわけですが・・・。
逆にこの時彼は、自分を芯から見つめ直すことができたのかも知れません。
現状には何も希望的なものはないにしても、
それでも生きてきっと未来を開く!というふうに思えるのがすごいと思うのです。
散々な人生だった、もうどうでもいいや・・・とならないのが、すごい。
心身ともに、強い人なんだなあ・・・。
そういう人もいるのですね。
感嘆。

マイナス21℃ [DVD]
ジョシュ・ハートネット,ミラ・ソルヴィノ
松竹



<WOWOW視聴にて>
「マイナス21℃」
2017年/アメリカ/98分
監督:スコット・ウォー
出演:ジョシュ・ハートネット、ミラ・ソルビノ、セーラ・デュモント、ジェイソン・コットル

酷寒度★★★★★
サバイバル度★★★★★
満足度★★★.5


オンリー・ザ・ブレイブ

2019年05月28日 | 映画(あ行)

命がけの仕事

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巨大な山火事に命がけで立ち向かった消防士たちの実話を基にした作品。



学生寮で堕落した日々を送っていた青年ブレンダン(マイルズ・テラー)。
恋人の妊娠をきっかけに生き方を改めることを決意し、
地元の森林消防隊に入隊します。
地獄のような日々の訓練が続く中、
チームを率いるマーシュ(ジョシュ・ブローリン)や他の仲間たちに
もまれながらも、絆を深めていきます。
そんなある日、大規模な山火事が発生し・・・。

実話を基にしているとは、そういうことか・・・と、
思いがけない結末に驚かされました・・・。
山火事の消火は、単に水をかけるだけでなく、逆に火を放つという方法もあるのですね。
樹を切り倒したり、溝を掘ったり、延焼を防ぐ手はずを取るわけです。
けれども自然相手のことなので、予想外、想定外のことも起こり得る・・・。
そう考えると実に危険な仕事です。
森林消防隊に限ったことではありませんけれど。



本作は、入隊初心者、ブレンタンの視点から訓練や隊の様子、
仕事のことなどを描いているので、とてもわかりやすく感情移入しやすいです。
そして、このような仕事で家族がいるときに、
その仕事と家庭との折り合いもまた大きな問題です。
不在がちで、危険性が大きいということで妻にとっては不安大。

でも正直、日本の昭和生まれとしては、危険性は別としても、
父、あるいは夫が仕事のため不在がちなんていうのは当たり前過ぎて、
なんでそこまでこだわるかな・・・と、つい思ってしまうのです・・・。
古い女、なんだなあ・・・。

オンリー・ザ・ブレイブ [DVD]
ジョシュ・ブローリン,マイルズ・テラー,ジェームズ・バッジ・デール,ジェフ・ブリッジス,テイラー・キッチュ
ギャガ

<WOWOW視聴にて>
「オンリー・ザ・ブレイブ」
監督:ジョセフ・コジンスキー
出演:ジョシュ・ブローリン、マイルズ・テラー、ジェームズ・バッジ・デール、ジェフ・ブリッジス、ジェニファー・コネリー、テイラー・キッチュ

危険度★★★★☆
満足度★★.5

 


空母いぶき

2019年05月27日 | 西島秀俊

あくまでも、専守防衛

* * * * * * * * * *

待ってました、「空母いぶき」!
ジャンル的にはちょっと守備範囲外のような気がするけど・・・
そうは言っても西島秀俊さん出演なので、見ないわけには行きません。


ストーリーは・・・
 日本の最南端沖で国籍不明の軍事勢力が領土の一部を占拠。
 海上保安庁の隊員を拘束してしまいます。
 そこで日本政府は初の航空機搭載型護衛艦「いぶき」を中心とした護衛艦群を現場へ派遣。
 するといきなり敵潜水艦からミサイル攻撃を受けてしまう。
 その事により政府は「防衛出動」を発令。
 果たして自衛隊はどのように闘うのか・・・。


これ、派手な戦闘シーンを期待して見た方は、ちょっと期待はずれなのではないかな。
そうなんだよね。
 本作のテーマは、「専守防衛」を旨とする自衛隊が、
 もし実際に敵の攻撃があった場合に何ができるのか、というシミュレーションなんだよね。
まずは相手が先に攻撃してこなければ何もできない。
 そんなわけだからどうしてもさほど派手な攻撃シーンは出てこない。
そして常ならば、出撃シーンなどは、艦長の悲壮な“絶叫”がお約束のような気がするのだけれど、
 西島秀俊さんの艦長は、常に沈着冷静。

それというのも、すぐ頭に血が上って攻撃しまくるような人では、
 「専守防衛」を貫くことができないからなんだよね。
ミサイルには迎撃ミサイル。
 でもこちらで対処できないくらいの艦隊が現れたときにはどうする・・・?
それはもちろん、こちらからもミサイル攻撃すればよいし、
 現にその装備もあるのだけれど・・・
それで相手の船を撃沈してしまった場合の死者は数百人にもなる。
「戦闘と戦争は違う」、と秋津はいうね。
 一般人をも巻き込むのが「戦争」だと。
だから彼は今、戦闘状態にはあるけれど決して「戦争」にしてはならない、と思う。
 そのため極力相手の被害も最小限に・・・。
ということで、秋津の立てた作戦になるほど~、と思ったよ。
 というのも、今読んでいる「坂の上の雲」の日露戦争の海戦のあたりの解説で、
 魚雷が当たれば船はあっという間に沈むけれど、
 砲弾は当たっても船は滅多には沈まない、とあったもので・・・。
ふむふむ。どこでどんな知識が役に立つかわからないね。

 

それから本作は実に豪華キャストが目白押しだったね。
いぶき艦長の秋津(西島秀俊)と副長新波(佐々木蔵之介)は考え方が逆のようで、
 でも根っこのところは同じ。
 こんな設定に、この二人の配役もぴったりでした。
秋津氏は悲壮な場面でも口元がどこか微笑んでいるようにも見える。
 まるで菩薩のようでありました・・・。

佐藤浩市さんの総理大臣もよかった。
 若干彼のスピーチが物議を醸したらしのだけれど・・・。
それは考えすぎだよね。
 作品を見たら自衛隊へ向けた思想は理想的な総理大臣で、
 逆立ちしたって現実の総理大臣がかなうはずもなし。
 いちいちスピーチで皮肉ったりなんかしないよ。あほらし。

一応ヒロイン的存在なのが本田翼さん。
 たまたま取材でいぶきに乗っていたネットニュースの新米記者で、
 思いがけずこの戦闘が始まってしまった、という設定。
秋津との対面シーンはほんのわずか。
 でも、こういうときの報道のあり方がすごく難しいとは実感させられるところです。

この戦闘が24時間の出来事ということで、あるコンビニの24時間も挿入して描かれるのだけれど
 ここの店長(中井貴一)が、何も気づかず、ひたすらずっと
 クリスマスのサンタの長靴にお菓子を詰め続けていたというのが面白いエピソードでした。


ねえ、「自衛隊」としてこんなことができるのなら、
 あえて憲法を改正しなくてもいいような気がするなあ・・・。
「戦闘」はするけれど、決して「戦争」をしないということでね・・・。
 でもさ、実際は日本に空母はないし、秋津さんもいないんだよ。
あ~あ。


話はぜんぜん変わるけれど、今、西島秀俊さんといえば「きのう何食べた?」だよね。
そうなのよ~。面白いよねえ。
 ごくごく普通の生活の物語で、これが男女のカップルなら全然面白くないと思う。
ゲイのカップル、というだけでどうしてこんなに面白いのでしょ。
 西島さんはゲイの役でもすてきだわあ・・・。
でもそれ以上に内野聖陽さんがこれまでのイメージを突き破る、素晴らしい表現をしてるよねえ・・・。
 これまでいかにも偉そうな役が多かったものね・・・。
二人が楽しそうに食事してるシーンがもう、最高!


それと吹替版の「名探偵ピカチュウ」のピカチュウの声が西島秀俊さんなんだな。
それなんだよ。声だけでも楽しんでみたいじゃない。
 3D・もふもふのピカチュウもぜひ見てみたいし。
でもねえ・・・、おばちゃん一人で見るのはあまりにも敷居が高いわあ・・・。
誰か孫をレンタルして・・・。

<シネマフロンティアにて>
「空母いぶき」
2019年/日本/134分
監督:若松節朗
原作:かわぐちかいじ
出演:西島秀俊、佐々木蔵之介、本田翼、佐藤浩市、市原隼人、戸次重幸、高嶋政宏、堂珍嘉邦、中井貴一
シミュレーション度★★★★☆
満足度★★★.5
西島秀俊の魅力度★★★★☆


「北海タイムス物語」増田俊也

2019年05月26日 | 映画(は行)

熱血お仕事小説・・・?

北海タイムス物語
増田俊也
新潮社



* * * * * * * * * *

平成2年。
全国紙の採用試験にすべて落ち、北海道の名門紙・北海タイムスに入社した野々村巡洋。
縁もゆかりもない土地、地味な仕事、同業他社の6分の1の給料に4倍の就労時間
という衝撃の労働環境に打ちのめされるが…
会社存続の危機に、ヤル気ゼロだった野々村が立ち上がる!
休刊した実在の新聞社を舞台に、新入社員の成長を描く熱血お仕事小説。
『七帝柔道記』の"その後"を描く感動作。

* * * * * * * * * *


「北海タイムス物語」。
なんだか地味―な社史か何かの本かと思えば、そうではなくて、
まあ、熱血お仕事小説。
著者が実際にこの北海タイムス社で働いていたことがあり、
おそらくその時の体験が元になっていると思われます。

平成2年。
全国紙の採用試験に全て落ち、かろうじて受かった北海道タイムスに入社した野々村。
はじめての北海道。
4月とはいえまだ雪の舞う寒々しい入社式の日から物語は始まるのですが・・・。
研修期間を終えて彼が配属されたのは「整理部」。
颯爽とした新聞記者を夢見ていたのに・・・。
同期採用のうち一人だけこんな地味なところに回されて、
彼はすっかりやる気を失ってしまいます。
しかもじきにわかってきたのは、とんでもない低給料に、長時間労働。
平成2年の話なのでブラック企業という言い方はまだないのですが、
まさに、ブラックもいいところ。


さて整理部というのは、紙面の割付とか見出しをつけたりするような仕事らしい。
それはそれで、熟練にはとてつもなく時間と経験を要する、
そしてもちろん欠くことのできない仕事なのですね。
ところが野々村の担当についた先輩・権藤は、
野々村を叱るばかりで何一つ教えようとしない。
やるせなく、一人トイレで涙を流す日々・・・。
生活は給料だけでは足りず、サラ金でカバー。
東京の彼女とも別れることになり・・・。


うーん、どんどん読むのが辛くなってきました。
このワーキングプアーぶり、辛いと言うよりは私の中では憤りとなってきます。
というのもこの会社がフィクションではなく、実在したものなので・・・。
創立時はいかにも華々しく、北海道の文化をすら支えた面もあったようなのですが、
様々な事情から大赤字を抱えたこのころ、
内情がそんなふうだとは私も全然知りませんでした。
本作中ではそこまで描かれていないのですが、
結局北海タイムスは1998年に休刊(実質上廃刊)となっています。


物語はあるきっかけを経て、野々村が真摯に仕事に取り組み
急成長を遂げていくわけですが、実のところ給料も労働時間も変わるわけではないのです。
そしていかにもな体育会系のストーリー。
根性だけでは世の中は回らないぞ・・・と私は思ってしまい、
手放しで感動はできませんでした・・・。

図書館蔵書にて
「北海タイムス物語」増田俊也 新潮社
満足度★★★☆☆


ハナミズキ

2019年05月24日 | 映画(は行)

絶望的遠距離恋愛

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一青窈の大ヒット曲「ハナミズキ」をモチーフにしたラブストーリー。
2010年作品なので、今より素敵に若い新垣結衣さん、生田斗真さんを拝めます。


北海道。
道東の町で母(薬師丸ひろ子)と暮らす紗枝(新垣結衣)は、
東京の大学に進学したいと思っています。
そして、漁師の跡取りで水産高校に通う康平(生田斗真)と出会い恋に落ちる。
地元の灯台の下で甘やかにデートをする二人は、
かつて紗枝が幼い頃行ったことがあるというカナダの灯台の写真を眺めます。
いつか二人で行ってみたいね、と言いながら。
やがて紗枝は大学に合格し東京へ。
二人は遠距離恋愛となりますが・・・。

 

東京の女子大生と、北海道の漁師。
う~ん、この遠距離恋愛は絶対に無理だなあ・・・とハナから思ってしまいますね。
地理的にはもちろんのこと、互いの環境があまりにも違いすぎる。
紗枝のところにはさっそく、親しいイケメン(向井理)の影・・・。
それでも、なんとかつなぎとめようとする二人の心がいじましい。
しかし障害は更に発展。
康平の家では借金が返せなくなり、船を手放し、ついには破産・・・。


本作の二人の出会いから、最終シーンまで、ほとんど10年近くが過ぎ行きます。
互いを忘れがたく思いながらも、自分の生き方は変えられず、別々の人生を歩む二人。
そして互いに別の人と愛し合うようにもなるのですが・・・。


カナダの灯台での奇跡的なシーンも素敵ですが、
そこでは結果が出ないというのもまた洒落ている。
最後はやはり、ハナミズキの咲く、紗枝の実家の庭でなくてはね・・・ということでしょう。


それにしても向井理さんが、いいとこ独り占めって感じでした。
そしてつい、涙を誘われるシーンもあり、浸りました・・・。
なんだかわざとらしくもある北海道弁も、ま、いっか。
これが今の作品なら、必ずチームナックスの誰か一人くらいは出演するはずなんですけどね・・・^^;

 

ハナミズキ スタンダード・エディション [DVD]
新垣結衣,生田斗真,向井理,薬師丸ひろ子,蓮佛美沙子
TCエンタテインメント

<WOWOW視聴にて>
「ハナミズキ」
2010年/日本/128分
監督:土井裕美
出演:新垣結衣、生田斗真、蓮佛美沙子、薬師丸ひろ子、向井理
遠距離恋愛度★★★★☆
満足度★★★★☆


轢き逃げ 最高の最悪な日

2019年05月23日 | 映画(は行)

最高の・・・?

* * * * * * * * * *

水谷豊さんの長編映画監督第2作。
完全オリジナル脚本です。



車を運転していた秀一(中山麻聖)と助手席に乗っていた森田(石田法嗣)は、
秀一の結婚式の打ち合わせのため先を急いでいました。
渋滞を避け、抜け道の狭い道を行く途中、若い女性を轢いてしまいます。
気が動転し、このことで起こるゴタゴタが恐ろしく、
森田のそそのかしもあって、そのまま逃走してしまう秀一。

そしてその後二人は、テレビのニュースで被害者が死亡したことを知ります。
いつ轢き逃げのことが明るみに出るのか、そのことに心おののきながらも、
二人は表向き何食わぬ顔をして、秀一の結婚式も終えるのですが・・・。



意外とあっさり警察の捜査は進んで、秀一は逮捕されてしまいます。
本作の見所はその先にある。



水谷豊さんは監督と合わせて出演もしていまして、
轢き逃げで亡くなった娘の父親役です。
一人娘の死に意気消沈する父は、犯人が捕まってもなお、
娘の事をもっとよく知りたいと思い、彼女の身の回りのことを独自に調べ始めます。
特に、彼女の携帯が見当たらないことに不審を覚えたのですね。

実のところ私、真相は予測がついてしまいました。
でも、轢き逃げ犯としてつかまるのか否かというような通常のサスペンスを超えた展開は
なかなか興味深いものでした。
でも、真相が割れた後の人々の心境などを見せる部分は
やや蛇足のように思いました。
ここは真相が割れるところでブッツリと終了させてしまったほうが、
見る者が空に放り出されるような不安感を強調させられたのではないかと・・・。


「最高の最悪な日」・・・どう見てもただの「最悪の日」だろうと思えるのですが、
つまりある人物にとっては「最高の日」だったということなんですね。

<シネマフロンティアにて>
「轢き逃げ 最高の最悪な日」
2019年/日本/127分
監督・脚本:水谷豊
出演:中山麻聖、石田法嗣、小林涼子、水谷豊、檀ふみ、岸部一徳
不気味さ★★★★☆
満足度★★★☆☆


「坂の上の雲 二」司馬遼太郎

2019年05月22日 | 本(その他)

日露戦争前夜

新装版 坂の上の雲 (2) (文春文庫)
司馬 遼太郎
文藝春秋

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この十九世紀末というのは、地球は列強の陰謀と戦争の舞台でしかない。
―日清戦争の勝利にわく日本。
しかし、思惑が複雑にからみながら列強の干渉は強まる。
秋山好古は対コサック騎兵作戦を、秋山真之は対バルチック艦隊戦略を着々とたてはじめる。
そして正岡子規はその最後の情熱をかきたて、文学にむかう。

* * * * * * * * * *

本巻は、日露戦争前夜とも言うべき時代背景で、
当時のロシアの状況なども詳しく描かれています。
ロシアという土地の民族的変遷とでもいいますか、
そういう視点でロシアの国を見たことがなかったので、
なんだか目から鱗が落ちるような感じがしました。
ともあれ、西欧諸国の産業革命と植民地政策に遅れをとっていたロシアが、
ここに来て急に焦って南下を始めたわけです。
満州、朝鮮を射程圏内に収め、このままでは日本まで手を伸ばしそうだ・・・。
だからこそ、対ロシアとの戦争をすべきだという声が上がってきたのですが、
意外にもそれは庶民の側からの声。
政府上層部は、とにかく予算がないし、
いくらなんでも大国ロシアと戦って勝てるわけがないという思いが強く、
なんとか戦争を避ける道を模索していたようです。


明治30年度の軍事費は国家予算の55%というのには全く驚かされます。
奇跡的に勝利した日清戦争後、軍艦など装備の薄さを痛感した日本は、
なりふり構わず最新鋭の軍艦を増やしたり、軍人を留学させて海外の技術を取り入れたり・・・、
結果、国内はかなり貧しい状況だったのでしょうねえ。


そんな中で、秋山兄弟は着々と己の技量を高めていく。
好古は、ロシアの軍事施設を見学する機会を得たり、
真之は、アメリカの艦船で実際の戦闘を目の当たりにする機会を得たりします。
当時の日本人の海外からの知識や技術の吸収力、ものすごいです!


そうそう、本巻には新札の肖像画として今話題の渋沢栄一氏も登場しました。
すでに日本財界の大御所となっていて、やはり財政上から非戦論者として。


さて、一方正岡子規ですが・・・。
なんと本巻にて病没してしまいます。
まだ2巻なのに・・・。
残念。
しかし、死の間際まで俳句にかける彼の情熱には、鬼気迫るものがあります。
この辺のくだりは、伊集院静「ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石 上・下」のほうが
むしろ詳しく描かれていますので、興味のある方はそちらを読んでみてもいいかも知れません。


図書館蔵書にて
「坂の上の雲 二」司馬遼太郎 文藝春秋
満足度★★★★☆


フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法

2019年05月21日 | 映画(は行)

夢の国のすぐ外にある現実

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フロリダ・ディズニーワールドのすぐそばにある、安モーテルが舞台です。
失業し、定住する家のないヘイリー(ブリア・ビネイト)と
6歳の娘ムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)は、
安モーテル「マジック・キャッスル」で、その日暮らしをしています。

大人たちは見通しの立たない生活に不安を抱いているのですが、
そこで暮らしている大勢の子どもたちは皆、たくましく元気。
ムーニーは仲良しのスクーティやジャンシーとともに悪ガキぶりを発揮し、
管理人のボビー(ウィレム・デフォー)を困らせます。

やがて次第にヘイリーの収入も途絶え始め、
週ごとに支払わなければならない家賃にも困るようになってきて・・・。

世界最大の夢の国であるリゾート地のすぐ外にある貧困という現実。
なんとも皮肉です。
マジック・キャッスルはなんとも素敵な名前で、
きれいな薄紫のペンキで飾られてはいるけれど、実はオンボロの安モーテル。
実際に旅行者が泊まることもあるけれど、
ほとんどは低収入の人々が、定住に近い形で暮らしているのです。
でも子供のムーニーにとってはこの世界がすべて。
友だちがいて、ママがいて、遊ぶ時間がたっぷりあればそれで幸せ。
けれど、そのほんの僅かの幸せの材料すらも、失われて行くことになるわけです・・・。

でも、ここの管理人さんの存在が、ストーリーに救いを与えています。
彼は仕事に忠実。
家賃の取り立てはマニュアル通りで、多少の遅れを大目に見たりはしてくれません。
でも決して意地悪ではないし、良識をわきまえている。
子どもたちにも厳しくはあるけれど、実はよく見ている。
ホントは子供好きのようでもあります。
実に、ちゃんとした「大人」なのです。
こういう人、いそうであまりいないです。
特に映画の中なんかには。
この人がいなければ本作はひたすら暗くなるしかなかった。



しかし実際、こんな貧困生活の中からどのように這い上がって行けばいいのやら・・・。
お金はあればあるだけ増えていくけれど、ないところにはないまま・・・、
この格差をどうにかしなければ本当にヤバイですよ・・・。

フロリダ・プロジェクト  真夏の魔法 [DVD]
ウィレム・デフォー,ブルックリン・キンバリー・プリンス,ブリア・ヴィネイト,ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
TCエンタテインメント

<WOWOW視聴にて>
「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」
2017年/アメリカ/112分
監督:ショーン・ベイカー
出演:ウィレム・デフォー、ブルックリン・キンバリー・プリンス、ブリア・ビネイト、バレリア・コット、クリストファー・リベラ
悪ガキ度★★★★☆
満足度★★★★☆


居眠り磐音

2019年05月20日 | 映画(あ行)

日本刀は本当に刃物だ・・・

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3年間の江戸勤番を終えた坂崎磐音(松坂桃李)は、
幼馴染の小林琴平(柄本佑)、河出慎之輔(杉野遥亮)ととも
に九州・豊後関前藩に戻ってきました。

琴平の妹・舞は慎之輔の妻となっており、
また、その妹・奈緒(芳根京子)は、近く磐音と祝言をあげることになっています。
ところが帰る間もなく、舞が不貞を犯したという噂を耳にした慎之輔が舞を切り捨ててしまい、
それに激昂した琴平が慎之輔を斬り殺してしまったのです。
騒ぎを起こした琴平を打ち取るよう命じられた磐音は、
やむなく琴平を斬ることに・・・。
小林の家は断絶となり、奈緒との縁談も破断となった磐音は、
絶望し、関前を去り、江戸の長屋で浪人生活を送りますが・・・。

まずはじめにあるこの壮絶な事件が、後の磐音に深く影を落とします。
と言っても、もともと何やらほんわかした印象の磐音。
まるで居眠りしてスキだらけのようにも見える磐音の構えを称して
人は「居眠り磐音」と言ったものですが、
その彼が敵と対峙する時、凄まじい切れのある動きをする。
松坂桃李さん、カッコよかったです!!



そして江戸での物語は、磐音は両替商の用心棒に雇われることになり、
何やらストーリーは「半沢直樹」的展開に・・・。
イヤ、でもここも面白かったです。



そしてこの時代、お家断絶となった武家の娘の生きるすべといえば・・・。
これはもう涙涙の展開になってしまいまして・・・。


斬り合いだけではなく、様々な側面がそれぞれに見ごたえがあって、
なかなか楽しめる作品なのでした。


刀が本当に「刃物」なんだなあ・・・と感じさせるリアルな描写もあって、
ゾクゾクしました。

柄本明さんが悪役なのですが、この方は、
息子さんたちが活躍するようになってから更に演技に凄みが出てきたような気がします。
息子なんかに舐められてたまるか、という意地のようなものがあるのかも。
とにかく、最近はどの出演作を見ても、その存在感に唸らされます。


そして、本来はピエール瀧さんも出演していたのですが、奥田瑛二さんが変わって出演しています。
それほど出番は多くないのですが、やっぱりピエール瀧さんを見てみたかったかも。



たまたまですが、上映初日に見まして、おまけにこんな冊子をいただきました。
原作者佐伯泰英さんによる短編「闘牛士トオリ」と、本編の脚本、
そして松坂桃李さんと本木克英監督の対談が収められています。

<シネマフロンティアにて>
「居眠り磐音」
2019年/日本/121分
監督:本木克英
原作:佐伯泰英
出演:松坂桃李、木村文乃、芳根京子、杉野遥亮、柄本佑、谷原章介、柄本明

ストーリー性★★★★☆
満足度★★★★☆


歓びのトスカーナ

2019年05月18日 | 映画(や行)

いてくれてよかった

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ベアトリーチェ(バレリア・ブルーニ・テデスキ)は、トスカーナの精神を病んだ人々が集う診療施設にいます。
彼女は虚言と妄想癖があり周囲を振り回しつつも、おしゃべりで陽気。
ある日、新しい入所者、ドナテッラ(ミカエラ・ラマツォッティ)に興味をいだき近づいていきます。
うつ症状を表していたドナテッラも少しずつベアトリーチェに心をひらいていきます。
ある時、ベアトリーチェはドナテッラを連れ出して施設を逃亡。
あてのない逃避行を始めますが、そんな中で、次第に二人は固い絆で結ばれていきます。
そして一つ、ベアトリーチェはドナテッラのためにしてあげたいことがあったのです。

車を盗んだり、無銭飲食をしたり、ベアトリーチェのめちゃくちゃぶりに、ヒヤヒヤさせられますが、
始め彼女に反発していたドナテッラが心を許していくのがなんだか納得できるのです。
二人でドナテッラの母親に会いに行ったシーン。
母親は自分のことばかり喋りまくるという、つまり、ベアトリーチェとそっくりだったのです。
それだから、反発も感じるし、けれどすぐに慣れ親しんでいったのかも知れません。



二人が親しくなったからといってすぐに病が回復するわけではありません。
けれど、二人が互いに「いてくれてよかった」と思う時、
同時に自分も生きていていいのだ、という気づきにつながったのでしょう。
自分が自分のままで生きていていいのだという思いは、
通常でも得難いけれどこのような病であればなおさらのこと。

施設の中で医師や看護師たちが、ひとりひとりの状況を見極めながら
今後の方針についてディスカッションするようなシーンもあり、これはなかなか貴重でした。
通常よくあるみたいに、ただひたすら患者を管理しようとするのではないところが見えたのです。
けれど全体の秩序も保たなければならないというところで、実際大変のようです。
逃亡した二人を必死になって探し出し、連れ帰ろうとする職員たちを、
私は嫌いにはなれません。


歓びのトスカーナ [DVD]
ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ,ミカエラ・ラマッツォッティ,ヴァレンティーナ・カルネルッティ,トンマーゾ・ラーニョ,ボブ・メッシーニ
TCエンタテインメント

<WOWOW視聴にて>
2016年/イタリア・フランス/116分
監督:パオロ・ビルツィ
出演:バレリア・ブルーニ・テデスキ、バレンティーナ・カルネルッティ、ミカエラ・マッツォッティ、トンマーゾ・ラーニョ、ボブ・メッシーニ
狂騒度★★★☆☆
満足度★★★★☆


「しびれる短歌」東直子 種村弘

2019年05月17日 | 本(解説)

実に興味深い、短歌の今

しびれる短歌 (ちくまプリマー新書)
東 直子,穂村 弘
筑摩書房

* * * * * * * * * *


恋、食べ物、家族、動物、時間、お金、固有名詞の歌、
そして、トリッキーな歌…。
さまざまな短歌について、その向こうの景色や思いを語る。
歌人の二人による楽しい短歌入門。

* * * * * * * * * *

この頃私、なんだか短歌に惹かれます。
かつて俵万智さんが「サラダ記念日」で短歌界になんとも新鮮な風を吹き込みました。
おや、それがもう30年以上も前のことなんですね、びっくり。
これじゃ若い方に「サラダ記念日」なんて言っても通じないのか。
でもこの頃私が気になるのが、蝶や花、自然を読み込んだものとか愛だの恋だのではなくて、
もっと生活に密着した、ほんの些細な心の驚きを表したもの。
本作は「しびれる短歌」というだけあって、かなり個性的かつ
これまでの「短歌」のイメージを突き破るような作品が紹介されています。


俳句では季語の必要上、ハメを外すのもなかなか難しいし、
さすがに17文字では言いたいことを言い尽くせないことも。
けれど短歌は季語という制約もないし、31文字になればかなり可能性も広がる。
俳句以上にその人の個性が出ますね。
本巻には多くのしびれてしまう短歌が紹介されています。
まえがきの一番始めに紹介されているのが

したあとの朝日はだるい 自転車に撤去予告の赤紙は揺れ   岡崎由美子

「したあと」って、やっぱりアレですよね。
それが「うれしはずかし朝帰り♪」などというノーテンキなものではなくて、
実体験がにじむようで、なんともリアル。
「放置された自転車と自分の姿が重なり、虚しくて寂しくて悲しい」とあります。
実に納得。

家族の誰かが「自首 減刑」で検索をしていたパソコンまだ温かい  小坂井大輔

一体家族の誰が・・・? 
よくわかっているはずの家族のことが、実は何もわかっていなかったと思わせ、
うそ寒い気持ちにさせられる。
けれどもありそうな・・・まさにしびれる短歌。

えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい  笹井宏之

ひと目ではよくわからずじっくり見直してしまいますよね。
「永遠解く力」を繰り返していっているだけなのですが。
この作者は若くして亡くなっていまして、
そう知ると余計になにか胸に迫るものがあります。
ちくま文庫で「えーえんとくちから」という文庫の歌集も出ています。

その他、お金の歌、固有名詞を使った歌、トリッキーな歌・・・、
ユニークな章立てで興味深い作品が多く紹介されていて、
短歌の「今」を知るのにうってつけとなっています。

「しびれる短歌」東直子 種村弘 ちくまプリマー新書
満足度★★★★☆


ゲティ家の身代金

2019年05月16日 | 映画(か行)

ドケチの見本!

* * * * * * * * * *


アメリカの大富豪、ジャン・ポール・ゲティの孫が誘拐されるという、
1973年に実際にあった事件を基にしています。



17歳ポール(チャーリー・プラマー)はイタリアのローマで誘拐され、
母ゲイル(ミシェル・ウィリアムズ)のもとに1700万ドルという巨額の身代金を払うよう要求が届きます。
ゲイルはゲティ家の息子である夫とは離婚し、
養育費も何も受け取らない代わりにポールの親権を得ていました。
そのため、彼女には到底そのような巨額の身代金を払うことなどできません。
そこでやむなくポールの祖父であるゲティ氏(クリストファー・プラマー)に、援助を求めます。
そもそもこの大富豪の孫だからこそ誘拐されたわけですし・・・。

ところが、ゲティ氏はとんでもない吝嗇家、つまりドケチだったのです。
当然のように身代金の支払いを拒否。
ゲイルは元CIAの交渉人であるフレッチャー(マーク・ウォールバーグ)とともに、
なんとか息子ポールを取り戻そうと奮闘しますが・・・。

実話と知らなければ、なんと不出来なストーリーかと思ってしまうところです。
少なくとも本作中でゲティ氏は孫息子であるポールを結構気に入っていたようなのです。
しかるに、その命がかかっているというのに、
しかもお金など有り余っているというのに、身代金を出そうとしない・・・。
そんなさなかでも、彼が超高額な絵画を安々と購入する場面などもあって、
腹立たしいと言ったらありません。



ゲティ氏は、ポールがまだ幼いときに、
ある遺跡から発見された貴重なものだと、小さな像をプレゼントします。
ポールの身代金に窮した母はそのことを思い出し、
それを売ってお金にしようと思ったのですが・・・。
私ははじめからその像のことを思い出せばいいのに、と思って見ていたのですが、
なんとその思いをも裏切られる、ゲティ氏のどケチさには呆れさせられるばかり。
ホテルのルームサービスを頼むのがもったいないと言って、自分で洗濯をしたり、
来客に電話を貸すのも嫌なので、屋敷内に公衆電話を設置してみたり・・・、
徹底して節約して、どうするつもりだったのかな。
あの世に持っていけるわけでもなく、
結局高価な絵画を抱きしめて眠りにつくくらいしかできなかったのに・・・。



「お金は持てば持つほど余計に欲しくなる」と誰かが言っていました。
私はそこまでお金を持っていなくて幸い、と思うべきなのでしょうね・・・。

ゲティ家の身代金 [DVD]
ミシェル・ウィリアムズ,マーク・ウォールバーグ,クリストファー・プラマー
KADOKAWA / 角川書店

<WOWOW視聴にて>
「ゲティ家の身代金」
2017年/アメリカ/133分
監督:リドリー・スコット
出演:ミシェル・ウィリアムズ、クリストファー・プラマー、マーク・ウォールバーグ、ロマン・デュリス、チャーリー・プラマー

どケチ度★★★★★
満足度★★★★☆


幸福なラザロ

2019年05月15日 | 映画(か行)

人々の幸福は何処にありや

 

* * * * * * * * * *


社会と隔絶した小さな村。
純朴な青年ラザロや村人たちは、
領主の侯爵夫人から小作制度の廃止も知らされず、
昔のまま、タダ働きをさせられていました。
ある時、夫人の息子タンクレディの偽装誘拐騒ぎがもとで、
夫人の搾取の実態が世間に知られることになります。
村人は初めて外の世界へ・・・。
しかしその時ラザロの姿が見当たりません・・・。

1980年代初頭、イタリアで実際にあった詐欺事件から着想を得ているという本作、
私ははじめのうちこれは社会派ドラマか?などと思いながら見ていました。
タンクレディの言い出した偽装誘拐ですが、
きっとラザロが犯人にされて大変な目に合うのではないか
・・・などと思って、ハラハラ。
しかし意外にもそういう展開にはならず、
物語は現実を離れてファンタジーのようになっていきます。


どこまで言ったらネタバラシになってしまうのか、
判断に悩むところではありますが・・・。



冒頭のシーンは1980年代くらいが舞台。
それなのに、村の人々は電気がやっと通じた時代くらいの、
時代がかってしかも貧しい生活をしています。
かつての災害で交通も遮断された村で、村人は何も知らないまま、
侯爵夫人から搾取されるままになっていた。
そんな中でラザロは人一倍真摯に働くので、
余計人々からは気楽に使われてしまうのです。
しかし彼はそれを疑問にも不満にも思わない。
人を疑うことを知らず、無垢なのです。



ここでは全員が一つの家族のようになっていて、
ラザロは彼自身の父母が誰なのかも知らないし、聞いたこともない。
そこへ現れた公爵夫人の放蕩息子であるタンクレディが言うのですね。
もしかしたら、自分たちは兄弟かも知れない、と。
自分だけの「家族」を持たないラザロはその「兄弟」という言葉が嬉しくて、
すっかりタンクレディに親しみを覚えてしまうわけです。


さて、ラザロというのは、聖書にある死から蘇ったという聖ラザロと同じ名前。
それだからこそ、彼も蘇りを果たすことになるのですが・・・。

しかしその蘇り方がユニークなんですよ。
なぜか、時を超えて・・・。
これもつまりラザロがタンクレディに会いたい、
その執着のなせる技のような気がしますが・・・。



そして、ラザロが体験する2つの世界、
文化未発達の自然とともにある生活と、文化の進んだ殺伐とした都会。
人々の幸福は何処にありや、という問いを発しているような気がしました。


全く先の読めないストーリー展開、けれど悲壮感はなくどことなくほんわかしている。
なんだかぼーっと余韻を噛みしめてしまう作品でした。


<ディノスシネマズにて>
「幸福なラザロ」
2018年/イタリア/127分
監督:アリーチェ・ロルバケル
出演:アドリアーノ・タルディオーロ、アニエーゼ・グラツィアーニ、アルバ・ロルバケル、ルカ・チコバーニ、トンマーゾ・ラーニョ

無垢度★★★★☆
満足度★★★★★


「鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース」島田荘司

2019年05月14日 | 本(ミステリ)

サンタクロースと、殺人事件と

鳥居の密室―世界にただひとりのサンタクロース―
島田荘司
新潮社

* * * * * * * * * *

完全に施錠された少女の家に現れたサンタ、殺されていた母親。
鳥居の亡霊、猿時計の怪。
クリスマスの朝、少女は枕もとに生まれて初めてのプレゼントを見つけた。
家は内側から施錠され、本物のサンタが来たとしか考えられなかったが
―別の部屋で少女の母親が殺されていた。
誰も入れないはずの、他に誰もいない家で。
周囲で頻発する怪現象との関連は?

* * * * * * * * * *

本作は御手洗潔シリーズなのですが、残念ながら石岡くんは登場せず。
というのもこれは二人がまだ知り合う前の物語。
若き御手洗は京大医学部の学生で、
親しくしている予備校生の<ぼく>の視点で語られます。


事件は、完全密室である少女の家にサンタが侵入し、
そして母親が殺害されていたこと。
また別の話ではあるけれど、壊れていたはずの古い時計が
ネジを巻いてもいないのに突然動き始めたこと・・・。
いつものごとく御手洗は科学的根拠により謎を解き明かしていきます。

鳥居の上部両端が、道を挟んだ家の壁を突き抜けているという光景、
私、割と最近テレビで見ました。
本当にあるのですね! 
著者も多分それをヒントにしたのでしょう。


御手洗シリーズとしてはややボリュームが少なくて、
エピソードの一つの紹介、といったところです。
やはり石岡くんが登場して、スリルもボリュームもたっぷりの
ガッツリした謎解きを待ちたいところです。

図書館蔵書にて

「鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース」島田荘司 新潮社 
満足度★★★☆☆