映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

弟とアンドロイドと僕

2023年01月31日 | 映画(あ行)

私は、いますか?

* * * * * * * * * * * *

ぼーっとしては見られない作品。

孤独なロボット工学者・桐生薫(豊川悦司)は、
古色蒼然とした元病院の洋館に一人住んでいます。
大学教員の仕事の傍ら、自分そっくりな
「もう一人の僕」のアンドロイド開発に没頭しているのです。

ある日、ずっと会っていなかった腹違いの弟(安藤政信)が訪ねてきます。
父が危篤であることを告げ、そしてこの土地・建物を売却処分したいと、
勝手なことを言いますが・・・。

終始陰鬱な画面。
いつも雨です。

桐生は、なぜかときおり右足がいうことを聞かなくなり、
歩くのにも不自由してしまう。
授業はいつも黒板にひたすら難解な数式を書くばかりで、
最後に「字が汚くてすみません」と一言だけ言って帰ってしまう。
さすがに、大学当局からも苦言を入れられてしまいます。
しかしつまり、桐生の情熱はすべてアンドロイド開発に向けられているのです。

作中に登場する心理カウンセラーが言うことには、
自分の体なのに、自分の体ではないように思えてしまう人がいる。
まるで死んでしまった物体のように、自分自身が生きている感覚が薄い。
だから、自分の足も動かせなくなってしまう。

それが正解かどうかは分からないけれど、
それでも気力を振り絞って、なんとか足を動かすこともできる桐生。
でもそれはつまり、自分の体ではない「物」であっても、
自身の「動かそうと思う力」で、動くのではないか???

桐生が作ろうとしているアンドロイドの原理は作中では語られませんが、
私は勝手にこのような想像をしてしまいました。

桐生の住んでいる家は、巨大な岩壁を削って作ったらしき小さなトンネルをくぐり抜けた先にあります。
まるで、異界へ通じるトンネルのようでもある。

大正か昭和初期のような時代がかった病院の光景と、最先端テクノロジーのアンドロイドの研究。
まるでフランケンシュタインを作り出そうとしているようでもあります。

2020年に完成済みながら、コロナ禍により2022年に公開になったという本作。
なんとも不思議でほの暗い雰囲気にあふれる作品。

 

<WOWOW視聴にて>

「弟とアンドロイドと僕」

2020年/日本/94分

監督・脚本:阪本順治

出演:豊川悦司、安藤政信、風祭ゆき、本田博太郎

不可思議度★★★★☆

満足度★★★★☆


イニシェリン島の精霊

2023年01月30日 | 映画(あ行)

諍いの話

* * * * * * * * * * * *

1923年。

アイルランドの小さな孤島イニシェリン島は、全員が顔見知りの小さな島です。

パードリック(コリン・ファレル)とコルム(ブレンダン・グリーソン)は、
いつもパブでムダ話をしながら楽しく時を過ごしていたのですが、
ある日突然、パードリックはコルムから絶縁を言い渡されてしまいます。
おまえの話は退屈だ。
自分の貴重な時間が潰されてしまった。
残された人生、これからは有意義な時間を過ごす。
と、コルムはいうのです。

きのうまで仲良くしていたのに、あまりにも突然のことで、
わけが分からないパードリック。
なんとか修復を図ろうとするのですが、コルムはかたくなに拒否。
これ以上自分に話しかけたら、自分の指を切り落とす、とまで言うのです。
そして二人の行動は次第に過激になっていき、
周囲の人々にも影響を与え始める・・・。

一体このストーリーはどこへ行こうとしているのか。
予測不能でドキドキします。

これ以上自分に話しかけたら、自分の指を切るというコルムの発言。
相手の指を切るのではなく、自分の指を切るというのがなんとも不穏です。
しかも、それは口先だけのことではなかった・・・。
いかにも決然とした意志を感じさせます。
しかしそれでもなおつきまとうパードリックに対しては、
始め私は同情していたけれど、次第にそういう気持ちも冷めてきて・・・。

さてさて、見ているうちに次第に腑に落ちてくるのです。
これは小さな島の二人の間の出来事ではあるけれど、
つまりは“戦争”についての話なのだと。

一見仲良く付き合っていたように見える二者。
けれどある日ほとんど理不尽のような行き違いから不信感が高まる。
それはどちらにも相応の言い分があって、どちらが悪いとも言い切れない。
そのように互いに不満を持ち合うところに、ちょっとした偶発的な事件が起こり、
不信感は憎しみへと変わっていく。
そしてついには過激な応酬が始まってしまう。
それは時によって隣接する地域であったり、国であったり、民族であったり・・・。
そしてその諍いは周囲の者にも何かしらの影響を与えていく・・・。

これが戦争でなくて何でありましょう。
そしてこれが戦争というものの本質だとしたら、
この先もおそらく戦争がなくなることはないのだろう・・・
とまで思えてしまい、切なくなりました。

折しも、この島の対岸に見える本島アイルランドでは内戦が起こっていて、
その砲撃の音が聞こえてくるのです。

のどかで平和そうな美しい小さな島の、恐ろしい物語。
胸の奥底に響きます。

<シアターキノにて>

「イニシェリン島の精霊」

2022年/イギリス/114分

監督・脚本:マーティン・マクドナー

出演:コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン、ケリー・コンドン、バリー・コーガン

 

寓話性★★★★★

満足度★★★★★


AWAKE アウェイク

2023年01月28日 | 映画(あ行)

棋士への道はあきらめたけれど

* * * * * * * * * * * *

2015年に実際に行われた棋士VSコンピュータの対局に着想を得たもの。

幼少期から棋士を目指した清田英一(吉沢亮)。
大事な対局で同世代の天才棋士・浅川陸(若葉竜也)に敗れたことで
プロの道をあきらめ、普通の大学に入ります。
これまでずっと将棋のことしか考えてこなかった英一は、
目標を失い、友人もできずに孤立しています。
しかしある時、コンピュータ将棋に心奪われ、AI研究会に入部。
変わり者の先輩・磯野(落合モトキ)に手ほどきを受けながら、
将棋のプログラム開発にのめり込みます。
そしてついにAWAKEという将棋のプログラムを創り上げ、
さらに優秀なものへと進化させていきます。

英一と陸は少年期からのライバル同士。
しかし、親しく話をしたことも、互いに励まし合ったこともない。
始めた頃は英一が勝つこともあったのに、陸は次第に力をつけ、
そのために英一は将棋の道に見切りをつけたのです。
双方ガチガチに意識しながら、ついに心の内を明かし会うこともなく道を違えてしまう。

そんな2人が、棋士対AWAKEのプログラムの対局という
世間も大注目の場面で再会することになるのです。

緊迫した対局シーン。
ドキドキさせられました。

本作で大事なのはこの2人の関係性で、
吉沢亮さんと若葉竜也さんが、見事にその緊張感のある2人を演じてくれました。

特に、プロ棋士を目指して励むけれどなかなか芽が出ない、
ちょっとオタクっぽい感じもある暗い青年の吉沢亮さん、
やっぱり力のある役者さんですね~。
瞬く間に一からプログラミングを学んで身につけていく姿もかっこよかった・・・! 
そしてこの将棋のプログラムは彼だからこそできたものなのでしょうし、
とすれば少年の頃から寝ても覚めても将棋漬けだったこともムダではなかったと言うことで。

いい感じのドラマでした。

 

<Amazon prime videoにて>

「AWAKE アウェイク」

2019年/日本/119分

監督・脚本:山田篤宏

出演:吉沢亮、若葉竜也、落合モトキ、寛一郎、馬場ふみか

 

ライバル度★★★★★

満足度★★★★☆

 


「ミステリと言う勿れ 12」田村由美

2023年01月27日 | コミックス

富山のご当地ミステリ、始まり~!

 

 

* * * * * * * * * * * *

観察力の高さゆえに、トラブルや事件に巻き込まれがちな大学生・久能整。

ある日、とある事件で整を取り調べたことのある刑事・風呂光のもとに不穏な知らせが届き…!?

新たな謎が浮かび上がる新エピソード、開幕!

* * * * * * * * * * * *

「ミステリと言う勿れ」新刊です。

新エピソード。

風呂光刑事の元に、富山の祖母から連絡が入ります。
風呂光も親しかったある女性が亡くなり、警察は事故死としたのだけれど、
祖母はそんなはずはない、と言うのです。
誰かに殺されたのかもしれないから、調べてほしい、と。

管轄も違うし、すでに事故と断定されたのなら、風呂光が出る幕はありません。
けれどやむなく、一般人としての立場で富山に向かうことにした風呂光。
そして、整くんの協力を仰ぐことに・・・。

と言うことで、富山が舞台のご当地ミステリの始まり始まり~!

整くんは本巻始めでは岐阜のスキー場にいるのです。
以前知りあい、家庭教師をすることになった三つ子の別荘に招かれたとのことで。
整くんとスキーなんて、なんとも意外な組み合わせだけれど、
整くんは子どもの頃北国で暮らしたことがあるので、スキーは少しできるという。
ところが、普通なら3ターンくらいで降りてくるところを
何度も何度も折り返してなかなか降りてこられない・・・。
いやあ、ここのところでは私、個人的に大いにウケました。
私と全く同じなんですもん。
やっぱり、スピードが恐いのよね・・・。

 

風呂光のお祖母さんは、以前教師をしていて、
今もなお多くの教え子達が彼女を慕ってやって来ます。
厳しくも子ども思い。
大抵の物語ならこんな時、お祖母さんをひたすら優しくいい人に描くと思うのですが、
整くんの観察眼はもっと鋭い。

「立場が強い人、言葉が強い人は、本人の知らないうちに他人を屈服させてる時があります。
ところが、屈服させた相手をそんな弱いことでどうするんだ、
って責めることがあるんです」

自分の母と祖母がうまくいっていないことに思い当たる風呂光。
自分が警察官なのだから、整くんを名探偵にして自分がワトソンになってはダメだ、
と祖母に言われてしまった彼女ですが、
自分で納得し、前へ進み始めます。

作中ほんの小さな一コマだけれど気になるところがありまして、
風呂光が雑誌ライターの青年と親しげに話しているところを見てしまった整くんに生じた「?」。
何? この感情は何? 
ううむ・・・・。

 

それはさておき、本巻中最も感動的な場面は、
整くんが富山の雨晴駅近くの海岸から眺めた光景。
海岸に立ちながら雄大な立山連峰が眼前に迫っている。
そばには義経伝説の残る岩。

この壮大な光景を、整くんはスマホのビデオ通話でライカさんに送ります。
こんな風景をライカさんと一緒に見たいと思っていたところに、
彼女から電話がかかってきたのです。
見開きページの整くん。
素晴らしー!!

義経伝説のあるこの場所に整くんを立たせたのは、
著者、絶対に菅田将暉さんを意識していますよね。

あー、このシーン映画で見たい。
(今進められている映画は、このエピソードではなくて広島編なのだけれど)

 

それと今回、整くんが時々レンくんを思い出したりしているのもよい感じです。
どんどん広がっていく整くんの世界。

今回の謎は、実は深まるばかりでちっとも解決に向かっておらず、
次巻が非常に待ち遠しい!!

 

「ミステリと言う勿れ 12」田村由美 フラワーコミックスα

満足度★★★★★


映画 おそ松さん

2023年01月26日 | 映画(あ行)

シェ~!!

* * * * * * * * * * * *

ギャグ漫画「おそ松さん」をSnow Manの主役で実写映画化したもの。

Snow Manの人気を当て込んで作った作品であることは一目瞭然ですが、
見事にそれにつられて見てしまいました。
まだ無料にもなっていないのに・・・。

私は、少年サンデーに掲載されていた元祖の「おそ松くん」を愛読していた(!)のではありますが、
最近のアニメ「おそ松さん」は見たことがないのです。

 

本作は、「おそ松くん」たちが成長して20歳を過ぎている、と言う設定。

松野家の6つ子は、20歳を過ぎても定職に就かず、
親のすねをかじって暮らす童貞のニートたちになっています。
その日も朝、親に起こされた6人は、パチンコ屋の開店前の行列に並んでいる。

さてある日、長男おそ松が、ある老紳士と出会います。
彼は大企業アプリコッツのCEOで、
事故で亡くした息子とおそ松がうり二つなので、養子にしたいというのです。
おそ松がうり二つなら、6つ子の自分たちも同じだろう、ということで、
他の5人も養子候補に名乗りを上げ、他の兄弟を蹴落とす骨肉の争いを始めることに。

しかしなぜか、「養子になる」という本来の目的を離れ、
自分が主人公の自分の物語をそれぞれに突っ走り始める6つ子達。
次第にめちゃくちゃなストーリーに・・・

 

「オレらが6つ子って、さすがに無理があるでしょ。」

「でもまあ、実写版だから、こんなもんじゃね?」

 

などと始めから会話で暴露する彼ら。
6つ子とはいっても、性格はかなりバラバラです。

配役は

おそ松・・・向井康二

カラ松・・・岩本照

チョロ松・・・目黒蓮

一松・・・深澤辰哉

十四松・・・佐久間大介

トド松・・・ラウール

で、6つ子を割り振ると3人余ってしまうわけですが、暴走する物語を止める役柄として、

エンド・・・渡辺翔太

クローズ・・・阿部亮平

ピリオド・・・宮舘亮太

という3人が登場します。

 

純愛ラブストーリー、裏社会に足を踏み入れたホストの話、
モノクロの時代劇、殺人ゲームの話
・・・それぞれの話に没入していく当たりは非情に楽しく見ていたのですが、
終盤ほとんどストーリーがめちゃくちゃのごちゃ混ぜになっていくのには疲れました・・・。

Snow Manのファンの方にはオススメですが、そうでない方はムリして見る必要はありません。

あ、今気づきましたが、チビ太役の桜田ひよりさんは佐倉想君の妹だ!

 

<Amazon prime videoにて>

「映画 おそ松さん」

2022年/日本/111分

監督:英勉

原作:赤塚不二夫

出演:Snow Man、高橋ひかる、前川泰之、桜田ひより

 

こんぐらかっちゃう度★★★★★

Snow Manの魅力度★★★★☆

満足度★★★☆☆


天才ヴァイオリニストと消えた旋律

2023年01月25日 | 映画(た行)

民族の思い。友への思い。

* * * * * * * * * * * *

1938年。
ロンドンに住む9歳マーティンの家に
ポーランド系ユダヤ人の少年ドヴィドルが同居することになりました。
ドヴィドルはたぐいまれなヴァイオリンの才能を持ち、
家族の元を離れ、ここでさらに学ぶことにしたのです。

兄弟のようにして育ったマーティンとドヴィドル。
彼らが21歳の時、ドヴィドルのデビューコンサートが開かれることに。
ところがその当日、ドヴィドルはいきなり姿を消して、
その後行方が分からなくなってしまうのです。

その35年後。
ある音楽コンクールの審査員をしていたマーティン(ティム・ロス)は、
出場した青年がヴァイオリンを弾くときのある仕草に気づきます。
それはあのドヴィドルの仕草とそっくり。
それがきっかけとなって、マーティンは長い沈黙を破り、ドヴィドルを探す旅に出ます。

あの日、彼に何が起こったのか。
そして今、彼はどこにいるのか・・・?

1938年ということで、ナチスがその力を増大させていく時代。
ユダヤ人であるドヴィドルの家族は、ポーランドで大変な苦難に見舞われていたのです。
やがて終戦となっても、家族の状況は依然として分からないままでした。

当時のユダヤ人の受難のことは数多く語られていて、分かっているつもりではありますが、
実のところ「ユダヤ教」のことはあまりよく知らない私。

ドヴィドルは家族の受難を思い、一度ユダヤ教を捨て去ったのです。
ユダヤ教故に差別や苦難を受ける。
しかしその神は、教徒を救わないことに絶望したのでしょう。

けれど、あのコンサートの日、
彼はユダヤの神の存在を信じるに足る出来事に遭遇してしまったのです。
それは自分が最も大切にしてきたヴァイオリンの道をあきらめてもなお、
信じるに足る出来事なのでした。
奇跡のように人々がつないできたユダヤの人々の「思い」。
感動作です。

でも、ドヴィドルを大事に思い育んだマーティンの父親の思いも、切なかった・・・。

ドヴィドルのために、惜しげもなく高額なヴァイオリンを買い与え、
多大なコンサートのキャンセル料を支払い身の破滅を招いた。
そしてその直後に亡くなったという・・・。

父を亡くしたその後のマーティンの生活も決して楽ではなかったでしょう。
兄弟であり親友でもあったドヴィドルが、
自分に何も告げずにいなくなってしまったことに深く傷ついていたマーティン。

 

どうしようもなく食い違ってしまった2人の道。
35年後の決着は・・・?

 

<WOWOW視聴にて>

「天才ヴァイオリニストと消えた旋律」

2019年/イギリス・カナダ・ハンガリー・ドイツ/113分

監督:フランソワ・ジラール

原作:ノーマン・レブレヒト

出演:ティム・ロス、クライブ・オーウェン、キャサリン・マコーミック、
   スタンリー・タウンゼント、ミシャ・ハンドリー、ルーク・ドイル

ユダヤの歴史度★★★★☆

満足度★★★★★

 


モリコーネ 映画が恋した音楽家

2023年01月24日 | 映画(ま行)

幸せな時間をありがとう

* * * * * * * * * * * *

「ニューシネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレ監督が、
師であり友でもある映画音楽の巨匠、エンニオ・モリコーネに迫ったドキュメンタリー。

エンニオ・モリコーネは1960年代以来500作品以上の映画・テレビの音楽を手がけ、
2020年7月に亡くなっています。

本作のように直接カメラの前でモリコーネが自身を語るというのは極めて稀なこと。
それも、ジュゼッペ・トルナトーレ監督だからこそ、だったのでしょう。

モリコーネは、本来は父の後を継いで、トランペット奏者を目指していたそうです。
しかし音楽学校での成績は凡庸。
教師が、作曲の方が向いているのでは?と言うので、
そちらの道を歩み始めたのだとか。
・・・等々、モリコーネの映画音楽との出会い以前の話もたっぷり語られたそのあとに、
いよいよ映画との出会いがあって、
そしてあの、「荒野の用心棒」のテーマ曲が流れた時には思わず泣きそうになりました。
なんとも独特で鮮烈。
当時大ヒットとなったのも無理はありません。
ついでにそこで映し出された若き日のクリント・イーストウッドも、
シビれるほどにカッコいいなあ・・・!! 
また、見たくなってしまいました。

他にもニューシネマ・パラダイス、アンタッチャブル等々、
45作品の傑作から選ばれた名場面が紹介されています。
そして、それぞれの著名な監督やプロデューサー、音楽家へのインタビューを通じて、
モリコーネの偉業を振り返ります。

驚くべきはモリコーネの作曲風景。
ピアノなんか使わないのですね。
ペンと五線紙さえあればいい。
音楽家とはそういうモノなのか・・・

ところがモリコーネは、全世界の人々にその音楽を愛され、その名を馳せながらも、
アカデミックの音楽界からはほとんど無視されていたとのこと。
人気がありすぎるが故の妬みもあったのかもしれません。
そんな音楽は正当な「音楽」ではない、外道だ・・・などと、
いかにも“権威” ある者が言いそうです。
そのため、モリコーネにも若干の劣等感があったようで・・・。

でも現在、モリコーネの音楽が様々なアーティストにアレンジされて演奏されたり、
また、サブスクの影響もあるのでしょう、
若い人たちにもどんどん受け入れられているといいます。
今や音楽はジャンルも時代も超えてボーダーレス。
やっと時代がモリコーネに追いついたのかも知れません。

モリコーネの音楽と映像の結びつきがどれほどわたし達の心を揺り動かしたことか。
幸せな時間をありがとう、と言いたい。

結構長い作品なのですが、退屈はしません。

<シアターキノにて>

「モリコーネ 映画が恋した音楽家」

2021年/イタリア/157分

監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ

出演:エンニオ・モリコーネ、クリント・イーストウッド、クエンティン・タランティーノ、ウォン・カーウァイ

映画音楽のきらめき度★★★★★

映画の歴史発掘度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「田舎のポルシェ」篠田節子

2023年01月22日 | 本(その他)

ポンコツロードノベル、発進!

 

 

* * * * * * * * * * * *

「田舎のポルシェ」…実家の米を引き取るため大型台風が迫る中、
強面ヤンキーの運転する軽トラで東京を目指す女性。
波乱だらけの強行軍。

「ボルボ」…不本意な形で大企業勤務の肩書を失った二人の男性が意気投合、
廃車寸前のボルボで北海道へ旅行することになったが――。

「ロケバスアリア」…「憧れの歌手が歌った会場に立ちたい」。
女性の願いを叶えるため、コロナで一変した日本をロケバスが走る。

* * * * * * * * * * * *

篠田節子さんのロードノベル、3篇を収録した本です。

 

表題作「田舎のポルシェ」

岐阜に住む女性が実家の米を引き取るために、
軽トラを運転手込みで手配し、東京を目指します。
ところがその運転手は紫のツナギ、坊主頭に手ぬぐい巻き、喉元には金鎖のネックレス。
どう見てもヤンキーで、びびってしまう翠(みどり)。
しかも折悪しく台風が迫る。
こんなアブナイ道行きを行く二人の物語。

東京とは名ばかりの昔ながらの風習の残るど田舎出身の翠。
女には教育なんか要らないといわれ、
ひたすら男達に尽くすことばかりを強要されるのがイヤで、
高校を出てからは家を出て、自立をめざし頑張ってきた。
・・・なんだかこんな話をつい最近読んだような、と思ったのですが、
「アンのゆりかご」で語られる村岡花子さんの実家の様子ですね。
こちらはもちろんフィクションだけれど、
こういう家父長制度的考えが今もまだ根強いところがあるのだなあ
・・・と感じ入った次第。

本作では、二人の旅の中でこの二人のこれまでの人生が明かされて行きます。
強面ヤンキーの瀬沼はこれでなかなかの苦労人。
バツイチ。
見た目とは裏腹に仕事は丁寧で、心優しいところもある。
台風で道がふさがり、なんと山の中の火葬場で一夜を明かすことになったりもしながら、
二人には次第に「同士」のような親しみが・・・。

好きな物語です。

 

「ボルボ」は、引退したおじさま2人の優雅な北海道を巡るドライブ
のストーリーかと思ったのですが、
意外にもパニック映画みたいな展開になってドッキリ。
篠田作品だから、ただののんびり旅行話のわけはありませんでした・・・。

 

「ロケバスアリア」はコロナ禍で起こった日常の変化を強く物語る作品です。

 

好きな一冊となりました。

 

図書館蔵書にて

「田舎のポルシェ」篠田節子 文藝春秋

満足度★★★★.5

 


マイ・ブロークン・マリコ

2023年01月21日 | 映画(ま行)

遺骨を抱いた一人旅

* * * * * * * * * * * *

ブラック会社の社員、シイノトモヨ(永野芽郁)。
ある日、親友のイカガワマリコ(奈緒)が亡くなったことをテレビのニュースで知ります。
マリコは幼い頃から実の父親に虐待を受けていました。
そんなマリコのことが不憫で、シイノは父親の元からマリコの遺骨を奪い取ります。
そして、以前マリコが行きたいといっていた小さな海辺の町へ旅することに。

マリコは父親から虐待を受け、長じて父親の元を離れれば、
今度はろくでもない男と付き合っては
また別のクズ男と付き合い始めるということを繰り返し始めます。
彼女の心はとうに壊れていたのかも知れません。
そんなマリコは、唯一シイノにだけは心を許し、
まるで子犬のようになついてすり寄ってきたものでした。

シイノは若干メンドクサイと思いながらも、慕われていることに悪い気はしません。
そして考えてみれば、自分自身もマリコ以外に心を許せる友人はいないのでした。
しかし、そのマリコが自分に何も告げずに自死してしまったということに、
シイノは傷ついてしまうのです。

遺骨を胸に抱いたシイノは、2人のこれまでのことを思い返しながら、
電車やバスに揺られて旅をします。
無断欠勤した会社の「クソ上司」からの電話も無視。

行き着いた海辺の田舎町ではひったくりに遭って、
遺骨以外の荷物をすべて奪われたりもするのですが・・・。

そこで彼女を助けてくれた青年・マキオ(窪田正孝)がいかにもワケあり、お人好しの感じ。
いい味出てるな~。
見てるだけで癒されます。

とにもかくにも、シイノの抱えた悲しみやら鬱屈やら・・・
それらが浄化されていく物語。

いいものを見た、という感じです。

 

<Amazon prime videoにて>

「マイ・ブロークン・マリコ」

2022年/日本/85分

監督:タナダユキ

原作:平庫ワカ

出演:永野芽郁、奈緒、窪田正孝、尾美としのり、吉田羊

 

マリコのブロークン度★★★★☆

シイノの威勢の良さ★★★★☆

マキオの癒やし度★★★★☆

満足度★★★★☆


映画 イチケイのカラス

2023年01月20日 | 映画(あ行)

巨大な壁を突き破れ!

* * * * * * * * * * * *

例によってテレビドラマの劇場版。
やっぱり好きだったドラマの映画版は見てしまいます。
面白いことは保証付きなので。

本作では入間みちお(竹野内豊)は、岡山県瀬戸内の長閑な町に異動していて、
若手ホープ防衛大臣(向井理)に対する傷害事件を担当します。
その事件の背後には、イージス艦の衝突事故があり、
国家機密の厚い壁が入間の前に立ちはだかります。

一方、坂間千鶴(黒木華)は、裁判官他種経験制度により、弁護士として働き始めます。
配属先は偶然にも(?)入間みちおのいる隣町。
千鶴は、人権派弁護士・月本信吾(斎藤工)と知り合い、
共に小さな事件にも全力に取り組もうと、意欲を燃やします。


そんなある日、町を支える地元大企業に、ある疑惑が・・・。
環境汚染を企業が隠しているのではないか・・・?

大企業や国家権力、そしてさらに意外な強敵に千鶴や入間は立ち向かうことになる。

さすがに劇場版は、対する相手が大きい。
入間と千鶴もなかなかの苦戦です。

特筆すべきは、千鶴が月本弁護士に抱くほのかな感情。
確かに、一見イイ奴なんですよ、月本。
しかし、実は・・・! というところがミソです。
斎藤工さんのファンでもある私には実に美味しい展開。

入間周辺の人々が、入間がメンドクサイ奴と思いつつも、
実は大好きであることもうかがわれます。
こうした人間関係を一から説明しなくても済むところが劇場版のよいところ。

テレビドラマが好きだった方なら文句なく楽しめます。

<シネマフロンティアにて>

「映画 イチケイのカラス」

2023年/日本/119分

監督:田中亮

原作:浅見理都

出演:竹野内豊、黒木華、斎藤工、山崎育三郎、柄本時生、西野七瀬、吉田羊、向井理

 

立ち向かう相手の強大度★★★★★

ラブ度★★★☆☆

満足度★★★★☆


神々の山嶺(いただき)

2023年01月19日 | 映画(か行)

納得のアニメ

* * * * * * * * * * * *

夢枕獏の小説を谷口ジローが漫画化した山岳コミックを
フランスでアニメーション映画化したもの。

私、夢枕獏さんのこの原作に、かつてものすごく心震わせられました。
2016年には「エヴェレスト 神々の山嶺」として実写映画化されています。
このときの主演が岡田准一さんと阿部寛さん。
でも実のところ、それを見たときには「心震える」ほどの感動は得られず、
まあ、こんなものかな・・・と思った記憶が。

そしてこの度は、アニメ作品。
しかも日本ではなくてフランスによるもの、と、なんとも予想外のアニメ化でした。
そんなわけで、本作には結構期待感があったのですが、
劇場公開時には見損ねて、ようやくこの度配信視聴です。

記録上、エヴェレストの初登頂は1953年。
けれどイギリスの登山家ジョージ・マロリーが1924年6月に
エヴェレスト山頂付近で消息を絶っていることから、
マロリーが初登頂だったのかも?と言う説があります。
この話が、本作の下敷きになっています。

さて、ネパールのカトマンズを訪れた雑誌カメラマンの深町。
彼が、マロリーの遺品と思われるカメラを手に持ち、去って行く男の姿を目撃します。
その男は、長らく消息を絶っていた孤高の登山家・羽生だったのです。

マロリーの謎に興味を持つ深町は、羽生の行方を探すことにします。
そのため、深町は羽生の人生をたどることになりますが、
彼の山への執念に魅了されていきます。

そしてやがて、2人の運命が交差することに・・・。

実写ではなく、アニメであることの必然性がくっきりと浮かび上がりました。

羽生はこのとき、「冬季エヴェレスト南西壁、無酸素単独登頂」を目指していたのです。
ほとんど無謀とも言える挑戦。
なぜそんな危険を冒してまで山に登るのか。
答えのない問いに、羽生は自らの行動で回答を示しているようでもあります。

この広大で厳しく、人を拒絶しようとする山。
これを表現しようとすると、実写ではどうしても難しい。
アニメだからこそできることが確かにあるものですね。
しかしアニメだからといって、超人的な動きになっているわけではなく、
あくまでもリアルです。

そしてまた、山の表現の素晴らしさもさることながら、
日本の街や居酒屋などの光景がまた、すばらしい!! 
空気感そのまま。
やるものですねえ・・・。

実に、納得のアニメ!!

 

<Amazon prime videoにて>

「神々の山嶺(いただき)」

2021年/フランス・ルクセンブルク/94分

監督:パトリック・インバート

原作:夢枕獏、(画)谷口ジロー

出演(声):堀内賢雄、大塚明夫、逢坂良太、今井麻美

 

山の威圧感★★★★☆

孤高の登山家度★★★★★

満足度★★★★☆

 


「介護のうしろから『がん』が来た!」篠田節子

2023年01月18日 | 本(エッセイ)

節ねえの闘病記

 

 

* * * * * * * * * * * *

直木賞作家として第一線で仕事を続けながら、
認知症の母親を自宅で介護してきた著者。
症状が進行し介護施設に入所させた直後に、
自身の「がん」が見つかる。
母親を優先した生活で、自分の健康は後回しだった。
医師のアドバイスはもちろん、周囲の温かな思いも受けて、
納得のいく治療を進めようとする。
だが、入院中も母が心配で……。
介護と闘病に奮闘する日々を克明かつユーモラスに綴る名エッセイ。

* * * * * * * * * * * *

篠田節子さんの闘病記。

篠田節子さんは、自宅で認知症のお母様の介護を続けていたそうなのですが、
病状が進行して介護施設に入所。
その直後、多少時間にゆとりができた著者が久しぶりに健診を受けてみようと、
受診したところで、乳がんが見つかります。
そのため、初期のうちに発見できたわけで、
劇的なタイミングではあったのですね。

本巻では乳房の温存か、切除かの選択のこと。
そして再建のこと。
差し迫った選択に著者が決断を下していく様子が実に詳細に描かれています。

でも、悲壮感はない。
サバサバと肝が据わっていて、しかもユーモラスでもある語り口、
さすがに私のかねてから敬愛する篠田節子さんではあります。
これはぜひ「節ねえ」とお呼びしたい!
(あらやだ、調べてみたら私と同い年だった・・・!!)

そしてまた、その手術が終わった頃に、
今度はお母様の介護施設を移らなければならず、
その行き先を決めるのにもまた奮闘。
しかしそんな中で海外旅行にまで行っているというのがなんともすごいです。

そしてまた、このバタバタの日々の中で吉川英治文学賞受賞の知らせが入ります。
なんとも劇的ですねえ。
私は何も知らずにその受賞作「鏡の背面」を読んだわけです。

 

現在もお元気な「節ねえ」、
今後もワクワクドキドキの著作を楽しみにしています!!

 

「介護のうしろから「がん」が来た!」篠田節子 集英社文庫

満足度★★★★★

 


月の満ち欠け

2023年01月17日 | 映画(た行)

美しい愛のファンタジーなのか?

* * * * * * * * * * * *

佐藤正午さんの直木賞受賞作の映画化。

実は私この原作「月の満ち欠け」のストーリーがあまり好きではなくて、
本作は見なくてもいいかな?と思っていました。
しかし、やはり結局目黒蓮さんにつられて見てしまいました。

そうなんです、いつの間にか大泉洋さんだからではなくて、
めめだから、ということになってる!!

 

小山内堅(大泉洋)は、妻(柴崎コウ)と娘、3人で幸せな日常を送っていました。
ところが、不慮の事故で最愛の妻と娘を同時に失ってしまいます。
生きる意欲もなくした小山内は故郷八戸へもどり、老いた母と暮らしています。

ある時そこへ、三角(目黒蓮)と名乗る男が訪ねてきます。
彼はあの事故の当日、小山内の娘・瑠璃が面識もない三角に会いに来ようとしていた、といいます。
そして三角は、娘と同じ「瑠璃」という名を持つ
かつて自分が愛した女性(有村架純)について語り始めます。

 

あまり詳しく言うとネタバレなのかな? 
まあつまりこれは、転生というか生まれ変わりの物語なのですが・・・。
でも私は原作を読んだときに、どうもこれが美しい愛のストーリーとは思えず、
納得いきませんでした。
そして本作を見て、その思いが一層強まってしまいました。

例えば、もうほとんどいいオジサンの年齢に達した男性の元に幼女が訪ねてきて、
「私はあの時に愛し合った○○よ」などと言ってにっこり笑ったとしたら・・・。
それはもうファンタジーというよりはホラーじゃないですか。
少なくとも私は、不気味としか思えない。

原作中では書きようでそこまで感じないよう、色々と工夫はされていたと思うのですが、
2時間という映画の中では、そんな面がダイレクトに出てしまった感じがします。
本作中、大泉洋さんの役柄が、
そうは口にしないけれども、そんな思いを持っていたような気がします・・・。

ラストでの「2人」の対面シーンが、
あえて有村架純さんと目黒蓮さんの対面にすり替えられていたことでも、
危惧感があり得ることを白状しています。
これが実の2人の対面シーンだったら見られたものではありません。

とはいえ、有村架純<瑠璃>と学生の三角のシーンは、
どれも切なく美しく素晴らしかった!! 
心打ち震える年上の女性との恋。
他はいらない。
ここだけ何回も見たい。
めめ、完璧!!

原作はこちら→「月の満ち欠け」

 

<シネマフロンティアにて>

「月の満ち欠け」

2022年/日本/128分

監督:廣木隆一

原作:佐藤正午

出演:大泉洋、有村架純、目黒蓮、伊藤沙莉、田中圭、柴崎コウ

 

ファンタジー度★★☆☆☆

切ない恋愛度★★★★★

満足度★★★☆☆

 


1640日の家族

2023年01月16日 | 映画(さ行)

家族のタイムリミット

* * * * * * * * * * * *

生後18か月のシモンを里子として迎え入れたアンナ(メアリー・ティエリー)と夫・ドリス(リエ・サレム)。
夫妻の実の子どもたちとシモンは実の兄弟のように育ち、4年半の幸せな月日が流れます。

そんなある日、シモンの実父エディ(フェリックス・モアティ)が
息子を引き取り、手元で育てたいと申し出ます。
そんなことは予想していなかったアンナは狼狽してしまいますが、制度上拒否はできません。
シモンはしばらくの間、週末を実父と共に過ごすことに。
アンナら家族がシモンと家族でいられる時間にもタイムリミットが迫ります。

本作は、監督自身の幼少期に両親が里子を迎えて
4年半一緒に暮らした経験を元にしているとのこと。

幼子を家族として迎え入れて共に暮らす。
よい話です。
1歳から5歳くらいといえば物心が付く一番大切な時期。
特にアンナにとっては、シモンは実の2人の子ども以上に気にかけ、
庇護しなければならないとの意識が強いように思われます。
確かに、一番小さいし、かわいいですもんね・・・。
ところが突然実父が現れて、この家族を引き裂こうとする・・・。

制度というのはなんと非情なモノか・・・と、思いながら見ていたわけですが、
でも途中で一概にそうも言えない気がしてきました。

本作、アンナの視点から描かれているわけですが、
実父・エディの視点で見るとどうでしょう。

思いがけず最愛の妻を亡くしてしまう。
その衝撃が強すぎて、まだ手のかかる赤ん坊の世話まで気が回らない。
やむなく人に預けることにして、しばらくして気持ちが落ち着いてきたら、
やはり我が子と暮らしたいと思う。
最愛の妻の忘れ形見でもあるし。

ところがこの里親が、あまりにも息子をかわいがりすぎて手放したがらない。
息子がなついているのをいいことに、
こちらが引き取ることを「横暴」であるかのように思っている。

エディからアンナを見るととんでもなくイヤな女、と見えるでしょうね。
双方、シモンを愛し大切に思っているだけで、どちらが悪いわけでもない。
こんな、人の感情だけではどうにもならない問題に対しては、
やはり「制度」をよりどころにするほかないのでしょう。

こんなストーリーもあれば、育児放棄とか虐待の問題も世間にはあふれています。
単純には割り切れない親と子の関係。

とにかく子どもが笑顔でいられればいい。
そういう世の中でありたいです。

<WOWOW視聴にて>

「1640日の家族」

2021年/フランス/102分

監督・脚本:ファビアン・コルジュアール

出演:メラニー・ティエリー、リエ・サレム、フェリックス・モアティ、ガブリエル・パビ

家族愛度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


わたし達はおとな

2023年01月15日 | 映画(わ行)

リアルなヒリヒリ感

* * * * * * * * * * * *

私の推し、藤原季節さん出演作品。

大学でデザインを学ぶ優実(木竜麻生)は、知人の演劇サークルのチラシ作成をきっかけに
直哉(藤原季節)と出会い、恋人関係になります。
ある日、自分が妊娠していることを知った優実。
でも、子どもの父親が直哉であるという確信がありません。
優実は悩みながらも、正直に直哉に打ち明けますが・・・。

優実の妊娠のもう1人の原因というのは、単に行きずりの男。
けれど、そうなってしまったのには直哉にも原因があるのです。
というのも、同棲を始めた直後に直哉はモトカノの元に戻ってしまい、
優実が捨てられてしまったから・・・。
そこで若干優実は自暴自棄になってしまっていたのですね。
しかしその後にまた、直哉が戻ってきたのです。

いやしかし、いずれにしても男の側に「避妊」の必要性を意識していないという
全く身勝手な振る舞いがあったことは確か。
そんな行為が結局は女の身も心もボロボロにしていくわけで・・・。

さて、直哉は自分の子どもではない可能性があると言われながらも、
優実に生むように言い、自分は演劇関係の道をあきらめて就職する、と言います。
ここまでは、なんとも優しい、頼りがいのある男。

だがしかし、自分でそう言っておきながら、
その後も彼の気持ちはぐらぐらと揺れ動くのです。
そもそも、彼がそんなことを言ったのは、以前に似た失敗経験があったから。

けれど、自分の子でなかったとしたら、
そもそも自分の夢をあきらめる必要があるのだろうか・・・とか、
いろいろ考えてしまうのはムリもないことかもしれません。
優実に胎児のDNA鑑定を受けようなどと言い出します。

ラスト近くの2人の言い争いのシーンが、なんともリアルなヒリヒリ感。
直哉の言葉は一見冷静で相手を思いやっているかのようでもあるのですが、
いや、やはりそれはどうにも利己的。
この勢いで語られたら、恐いです。
実の夫婦げんかをのぞき見ているような感覚です。

なんとも、息詰まる作品。

 

少し前に劇団「た組」加藤拓也さん作・演出で、藤原季節さんが出演する
「ドードーが落下する」という演劇を見ました。
珍しく、札幌でも公演があったのです。
加藤拓也&藤原季節さんのコラボ、今後も楽しみにしています。

 

<Amazon prime videoにて>

「わたし達はおとな」

2022年/日本/108分

監督・脚本:加藤拓也

出演:木竜麻生、藤原季節、菅野莉央、清水くるみ

 

ヒリヒリ度★★★★☆

対立度★★★★☆

満足度★★★★☆