映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

地獄の花園

2022年05月31日 | 映画(さ行)

本気でバカ

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バカリズムさん特集でもう一つ。

何気ない日常会話からゆるーくストーリーが進んでいく、
と言うこれまでの作品とは異なっていて、これはものすごく攻めています。
あり得ない過激なストーリーなのですが、
どこか目が離せなくて、そして大いに笑ってしまう。
まあ、よくある学園ものヤンキーもののパロディと思えばいいでしょうか。

 

社内の派閥争いをかけてOLたちが喧嘩を繰り広げているという架空の世界。
そんな中で、直子(永野芽郁)はどの派にも属さないカタギのOLとして、
のどかな日々を送っています。
ある時、中途採用されたOL・蘭(広瀬アリス)は、
その日のうちに社内の3つの派閥を押さえ込み、トップの座に立ちます。
ヤンキーの仁義としてカタギには手出しをしない。
そんなわけで蘭は直子と妙に気が合い、
友情を深めてランチを共にしたりするようになります。

ところが、蘭の入社をきっかけに、この会社が全国のOLたちのターゲットとなってしまいます。
そして大手会社のOKチームが蘭と対決するために、
直子を人質に取ってしまいます・・・。

蘭オネーサン、ステキ、かっこいい、ついていきます!!と思った矢先、
なんとも意外な展開になってドッキリ!! 
まさかそういうことだったとは・・・。

ヤンキーものは私にとっては守備範囲外で、
どちらかというと避けているくらいなのですが、
でも、このパロディ的作品は大いに楽しめました。

この社内の3派閥のトップは、菜々緒さん、川栄李奈さん、そして大島美幸さんです。
なんとも迫力のあるヤンキーぶり。

そして、最終対決相手のヤンキーOLには、もう男女の垣根も軽く飛び越えて、
遠藤憲一さんが演じていたりします。
トップは小池栄子さん。

実際あり得ない馬鹿馬鹿しい設定ながらも、どこまでも本気。
「まじめに不真面目」なんて映画を先日見たけれど、
本作も「本気でバカ」だと思います。
そのバカさに拍手!!

<WOWOW視聴にて>

「地獄の花園」

2021年/日本/102分

監督:関和亮

脚本:バカリズム

出演:永野芽郁、広瀬アリス、菜々緒、川栄李奈、大島美幸、遠藤憲一、小池栄子

 

おバカ度★★★★★

ユーモア度★★★★★

満足度★★★★☆


架空OL日記

2022年05月29日 | 映画(か行)

飾らない日常感

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2017年に放送された連続ドラマの劇場版。

バカリズムさんが06年から3年間銀行勤めのOLのフリをしてネット上につづり、
働く女性の心理や日常がリアルに描かれていると話題を集めたブログを書籍化した
「架空OL日記」が原作です。

WOWOWでバカリズムさんの特集を組んでいたので
「殺意の道程」に続いて見てみましたが、ちょっとクセになりそうです。

月曜の朝、銀行員OLの“私”(バカリズム)は、眠い中やっと起きて家を出て、
満員電車に揺られて職場の銀行へ。
そのロッカールームでの女子のおしゃべりが一日の始まり・・・。

始め、OLとして登場する“私”はバカリズムさんそのままなのでちょっと驚きます。
確かに女性の服装ではあるのですが、
髪はそのまま、胸にパットを入れている風でもなく、
つまりいわゆる「女装」ではないのです。
でも、周囲の人も普通のOLとして扱っている。
つまり、この人は男性に見えるけれど、一応普通のOLだとみなしてね、
と、そういうお約束なんですね。
でも、そのことが変に飾らず、ごく当たり前の日常感を生み出していて、
ほとんどだらだらとした会話ばかりなのだけれど
わずかなストーリーを生み出していく、
これぞバカリズムさんの真骨頂。

そしてOLの会話と言えば人の悪口とか恋バナとかを思い浮かべるのですが、
そういうのとはまた違う。
確かに、気に入らない上司の悪口はみんなで盛り上がったりするけれど、
どこかあっけらかんとして楽しいし、
陰湿ないじめとかお局様みたいのがなくてサバサバしている感じ、
こういう職場で働いてみたい。

OL仲間に三浦透子さん、シム・ウンギョンさんがいたのがウレシイ。

 

<WOWOW視聴にて>

「架空OL日記」

2020年/日本/100分

監督:住田崇

原作・脚本:バカリズム

出演:バカリズム、夏帆、臼田あさ美、佐藤玲、山田真歩、三浦透子、シム・ウンギョン

 

日常度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


劇場版 殺意の道程

2022年05月28日 | 映画(さ行)

非日常と日常ディティールの妙

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WOWOWのオリジナルドラマ「殺意の道程」全7話の再編集劇場版です。
WOWOWのドラマは割と見ているのですが、本作は見ていませんでした。

小さな会社社長が取引先社長・室岡(鶴見辰吾)の裏切りが原因で自殺します。
息子の窪田(井浦新)は、いとこの吾妻(バカリズム)とともに、室岡への復讐を決意。
キャバクラ嬢このは(堀田真由)、ゆずき(佐久間由衣)の協力を得て、
計画を練っていきます。

とまあ、サスペンスのようでありつつも、
バカリズムさんの脚本なのでそう単純ではありません。
極めて日常的なあるある会話が軸となって話は進行していくのです。

たとえば、殺人のための道具をホームセンターに買いに行く。
黒いニット帽、黒いジャンパー、包丁、ロープ、バール・・・
ニット帽に、変なロゴマークが付いていたりするのはどうなのか、とか。
穴あきの包丁ではダメなのか、とか。
ロープの太さや長さはどれくらいがいいのだろうと、
その場で首を絞める動作をやってみたりして。
しかし、これらをかごに入れてレジに行く前に気がつく。
これでは殺人を犯そうとしていることが丸わかりではないのか? 
そうだ、他のものも一緒に買って紛らわしてしまおう・・・。

つい笑ってしまいますが、実際その場になったらこんな風に考えるだろうなあ、
と、変な風にリアルでもあるのですね。
いや、殺害方法を決めてから買えばいいのに、とは思うけれど。

実際のサスペンスドラマではこういう場面は全くカットされているわけなんですね。
こんな、ちょっととぼけてユーモラスな進行ながら、
着々と実行準備が整っていきます。

殺人という非日常と、生活感あふれる日常のディティールがまぜこぜになり、
なんともステキな味わいになっています。

それでいて、終盤意外な展開があり、そしてラストはどんでん返し。
みごとなミステリに仕上がっている。
やられますねえ。
面白かった。

<WOWOW視聴にて>

「劇場版 殺意の道程」

2021年/日本/120分

監督:住田崇

脚本:バカリズム

出演:バカリズム、井浦新、堀田真由、佐久間由美、鶴見辰吾

 

日常感★★★★★

ミステリ度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「ドアを開けたら」大崎梢

2022年05月27日 | 本(ミステリ)

現れたり消えたりする遺体

 

 

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マンションで発見した独居老人の死の謎に
中年男と高校生のコンビが挑む、心温まるミステリー。

鶴川佑作は動揺を隠せなかった。
引っ越しの準備をする佑作がマンションの同じ階に暮らす串本を訪ねると、
彼はこと切れていたのだ。
来客対応中だったらしい。
老齢ながら彼は友人だった。
通報もせず逃げ出す佑作。
だが、その様子を高校生の佐々木紘人に撮影され、部屋に戻れと脅迫される。
翌朝、動画の消去を条件に佑作は紘人と再訪するが
――今度は遺体が消えていた!

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マンションで起こる“事件”を描きます。

中年・独身・失業中の鶴川が、同じマンションに住み親しくしている老人・串本を訪ねてみると、
串本は部屋で倒れ、こと切れていました。
通報もせず逃げ出した鶴川。
しかしその後また引き返してみると、遺体は消え失せていた!!

串本の背中にナイフがつき立っていたりはせず、
死因は間違いなく心臓疾患の突然死。
ということでマンション内の連続殺人事件などではないのにホッとしますが、
それにしてもあったはずの遺体が消失というのはなかなかにショッキングです。

鶴川は同マンションの祖母の家に身を寄せているという高校生・紘人と共に
この謎を解くことになります。

死体はその後、串本の姪が訪ねてきたときにまた発見されました。
1度消えてまた戻ったわけですね。
謎が深まりますが、とりあえずはその間の謎は表沙汰にならず、無事に葬儀が行われることに。
ところが、どう見ても気のいい穏やかな老人串本が、
マンション内で“変質者”と思われているらしいことも発覚。
それにはそれなりの根拠もあるのですが、
彼がそんな行為をするとは鶴川には信じられない。
今度は串本の行動について、調べ始めます。

 

ということでこの物語、一人の老人が気づき、
その後を継いでその友人鶴川が、大きな事件を解き明かすという流れになっているわけです。

中年男と高校生のへんてこコンビも良いのですが、
次第にマンション内の人々が連携していくのもいい感じ。

学校や職場でたとえうまくいかなくても、
同じマンション内住民のコミュニティが居場所になるというのはいいですね。
いろいろな人がいて、時には助け合う。

今時、となりにどんな人が住んでいるのかも分からないということも多いのですが、
こうしたつながりを大事にしていくように変わっていくのもいいと思う。

<図書館蔵書にて>

「ドアを開けたら」大崎梢 祥伝社

満足度★★★★☆

 


流浪の月

2022年05月26日 | 映画(ら行)

密かに輝きながら、さまよう2人

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本作は先日原作を読んだばかり。
だから本来見なくても良かったのですが、
松坂桃李さんがどのように文(ふみ)を演じているのか、見たくなってしまいました。

雨の公園でびしょ濡れになっていた10歳の少女・更紗に、
19歳大学生の佐伯文(松坂桃李)が傘を差し掛けます。
叔母の家に引き取られて暮らしていた更紗は家に帰りたくなくて、
文の家に付いていきます。
そこで二人は2か月を気ままに遊び暮らすのですが、
その間叔母にも連絡は入れていなかったため、更紗には捜索願が出されていました。
そしてついに文は更紗を誘拐した罪で逮捕されてしまいます。

ロリコン男に誘拐され、いたずらされたあげく、洗脳されてしまったかわいそうな女の子。

汚らわしいロリコンの誘拐魔。

事実とは全く裏腹に、世間からはそのような烙印を押されてしまった二人。

 

そしてそれから15年が過ぎて、二人は再会します・・・。

更紗(広瀬すず)は、亮(横浜流星)と同棲しており、
亮は結婚を望んでいるのですが、更紗はあまり気が進まない様子。
文はひっそりと喫茶店を営んでいます。
恋人もいる様子・・・。

文と出会ったときにはあんなに気ままで自由でいた更紗が、
今はいつも人の思惑を気にして小さくなっているように思われます。
更紗の子どもの頃の事件はネットなどで周囲の人も知っていて、
常に同情的な目で見られてしまいます。
どんなに自分はひどい目になんかあっていないと言っても
周囲の人は信じず、洗脳されてそう思い込まされている気の毒な人、
と思われるだけなのです。
そんな彼女が、安心して自分らしくいられるのはやはり、文の元にいるときなんですよね。

そして、ロリコンなどではない文の真実が、最後に明かされます。
私には、セックスなどを介さない、ただ心のつながりがすべての2人の関係が
より崇高なもののように思われるのですが・・・。
昨今少し話題になっているアセクシュアルとか、アロマンティックのことも
考え合わせてみるとよいと思います。

松坂桃李さんはこの役にかなり体重を落として臨んだそうです。
確かに、この役はなかなか難しい。
実体験として想像するのが難しそうなので。
でも、本を読んで私が思い描いていた“文”のイメージにかなり近かったと思います。
さすがです。

それと、横浜流星さんが、これまでにないイヤな男の役どころ。
これもまた良かったですねえ。

 

原作はこちら→「流浪の月」

 

<シネマフロンティアにて>

「流浪の月」

2022年/日本/150分

監督・脚本:李相日

原作:凪良ゆう

出演:広瀬すず、松坂桃李、横浜流星、多部未華子、朱里

 

理不尽度★★★★★

満足度★★★★☆

 


ウエスト・サイド・ストーリー

2022年05月25日 | 映画(あ行)

劇場の大画面で見たかった

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1961年にも映画化された名作ブロードウェイミュージカル「ウエスト・サイド物語」。
それをスピルバーグ監督が再び映画化したものです。

ということで、私は予習怠りなく61年版を再視聴し、
本作を楽しみにしていたのですが、
コロナ自粛に励んでいるうちに見そびれてしまいました。
この度早くもネット配信開始となり、やっと見ることができました。
でもやっぱりこれは劇場の大画面で見たかったですねえ・・・。

1950年代、ニューヨーク、マンハッタンのウエスト・サイド。
夢や成功を求めて、世界中から多くの移民が集まっています。
若者たちは、同胞の仲間と集団を作り、各グループは対立し合っています。
特にヨーロッパ系の移民ジェッツとプエルトリコ系の移民シャークスは、
その対立が激化して一触即発状態。
そんななか、ジェッツの元リーダー・トニー(アンセル・エルゴート)と、
シャークスのリーダーの妹マリア(レイチェル・セグラー)が運命的な恋に落ちます・・・。

とまあ、今さらストーリー紹介は必要ないくらいでしょうか。
元がシェークスピア「ロミオとジュリエット」ですので、ストーリーは鉄板。
そして、音楽がやっぱりいいですよね。
音楽によって心が浮き立ったり、胸がキュンとしたり、
悲しみに沈んだり、揺さぶられ続けます。

私はトニーとマリアがパーティ会場で初めて出会うシーンが好きです。
雑踏の中、二人は離れて遠い位置にいるのですが、
ふと目が合って、それからはまるで吸い付けられるように目を離すことができない。
いつしか、会場のもの影で対峙する2人。
う~ん。
こんな年でもこんなロマンチックな出会いをしてみたいものだなんて思ったりして。
キュンですね。

ストーリー、音楽共に元々いいところへ、
この度さらにパワーアップしたダンス、そしてカメラワーク。
舞台背景の街並み、人々の服装についても50年代の再現度がハンパない。
文句なく楽しませてくれる作品なのでした。

バレンティーナ役のリタ・モレノは、61年版でアニタ役を務めていた方なんですね。
しゃれた演出です。

 

<Amazon prime videoにて>

「ウエスト・サイド・ストーリー」

2021年/アメリカ/157分

監督:スティーブン・スピルバーグ

出演:アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、アリアナ・デボース、
   デビッド・アルバレス、マイク・ファイスト、ジョシュ・アンドレス

 

音楽・ダンス★★★★★

情動度★★★★★

満足度★★★★★

 


シン・ウルトラマン

2022年05月23日 | 映画(さ行)

元祖ウルトラマン世代こそ見るべき

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私が小学生の頃にTV放映された初代ウルトラマンは、
もちろん大好きで、夢中になってみていました。
むしろその後にぞろぞろ出てきた他のウルトラファミリーは良く知りませんけれど。
ではあるけれど、今さらこの年で「ウルトラマン」を見てもねえ・・・
というためらいはありました。
でも、斎藤工さんに西島秀俊さんですよ。
これは見ないではいられません。
なんだかんだいって「シン・ゴジラ」も見ましたしね。

 

謎の巨大生物が次々と現れ、その存在が日常となっている日本。
通常兵器が通じない禍威獣(本作中は「怪獣」ではなく「禍威獣」と表記されます)に対応するため、
スペシャリストを集めて「禍威獣特設対策室専従班」(=通称「禍特対」)が設立されます。
班長には田村(西島秀俊)。
作戦立案担当として神永(斎藤工)。

そんなある時、突如空から銀色の巨人が出現、
暴れていた禍威獣を倒してまた消え去ります。
果たしてこの巨人はどこから来た何者なのか・・・?

巨人対策として新たに分析官浅見(長澤まさみ)が配属され、
神永とバディを組むことになりますが、
なぜか神永は単独行動が多くてほとんどいない・・・。

そんなところへ、新たな外星人が登場し政府に接触を図るが・・・。

 

いまさら怪獣とウルトラマンの戦いを見たってしょうがないと思ってはいたのですが、
これが意外と“ちむどんどん”してしまいました。
なんでしょう、自分のなかに眠っていた憧れスイッチが入ってしまったのかも知れません。
各所に初代ウルトラマンへのリスペクトが見られて、
私のような年代にはまさにどストライクで響くのです。
若い方はどうか分かりませんが、これは見て良かったと、図らずも思いました。

「はみだし映画工房」のなかで、中井圭さんがおっしゃっていたのですが、
斎藤工さんはそのままで「宇宙人」っぽい、と。
確かに~。
何かそのたたずまいも言動もどこか人間離れしているというか、謎めいているというか、
そういう所がありますね。
だからこのたびの神永役がドンピシャリ。
変身カプセルを持つときの手の角度などもずいぶん研究されたそうでして、
その甲斐あって、カッコイイです。

田村班長の西島秀俊さんもまた、こういう上司のもとで働きたいと思わせる人物。
いいですよね~。

思わぬ人が巨大化するシーンもあるのですが、誰がそうなるかは秘密。
お楽しみにどうぞ。

単に怪獣対ウルトラマンという昔ながらの発想ならのんきに見ていられるけれど、
さらに一歩進んでこれが軍事利用の話になってくると、妙に身につまされる感じがします・・・。

<シネマフロンティアにて>

「シン・ウルトラマン」

2022年/日本/112分

監督:樋口真嗣

企画・脚本:庵野秀明

出演:斎藤工、西島秀俊、長澤まさみ、有岡大貴、早見あかり、山本耕史

 

初代ウルトラマンリスペクト度★★★★★

満足度★★★★☆


「みんなのふこう 葉崎は今夜も眠れない」若竹七海

2022年05月22日 | 本(ミステリ)

しかし、ココロちゃんはメンタル強い 

 

 

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葉崎FMで放送される「みんなの不幸」は、
リスナーの赤裸々な不幸自慢が人気のコーナーだ。
そこに届いた一通の投書。
「聞いてください、わたしの友だち、こんなにも不幸なんです……」。

海辺の田舎町・葉崎市を舞台に、疫病神がついていると噂されながら、
どんなことにもめげない17歳のココロちゃんと、
彼女を見守る女子高生ペンペン草ちゃん、
周囲の人々が繰り広げる、泣き笑い必至の極上コージーミステリー!

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若竹七海さんの「葉崎シリーズ」、
先日読んだ「パラダイス・ガーデンの喪失」が10年ぶりということだったので、
本作を見てアレ?と思ったのですが、
2013年にポプラ文庫ピュアフルとして刊行されたものの、
新装版とのことで、納得です。
最後の一章のみ書き下ろし。

 

さて、本作に登場するココロちゃん、17歳。
家族も住むところも、もちろんお金もないばかりでなく、
その上あきれるほどの不運続きという特異な人物なのであります。

 

はじめ、葉崎FMに寄せられたココロちゃんの友人の投書で、
ココロちゃんのことが紹介されたのですが、
それで彼女のことが評判を呼んだのです。
終盤の方で、わざわざ本文にココロちゃんの不幸ぶりが要約されております。

 

本人もそうとうなオッチョコチョイであるうえに、
母親には捨てられる、
物置に住まわされて大麻を育てさせられて逮捕される、
キノコや貝で食中毒、
バイトはクビになる、
新しく清掃会社で働きだしたら掃除中の家が崩れる、
しまいには保険金目当てに6回も殺されかける・・・・

 

がしかし、なぜかこの不幸は本人だけにとどまらず、
彼女に関わり、彼女に危害を与えた人物もまた
巻き添えを食ったかそれとも呪われたかのように、
悲惨な出来事に遭遇するという、
それが「みんなのふこう」たる所以であります。

 

始めはミニFMのラジオ局、
次には病院内の貸本スペースを運営する「友の会」、
そして葉崎警察署、
視点を移しながらも、ココロちゃんのその後が語られて行くというのがとても面白い。

「パラダイス・ガーデンの喪失」に登場した二村警部補がここにも出てきているのもウレシイ。
楽しめました。

 

「みんなのふこう 葉崎は今夜も眠れない」若竹七海 ポプラ文庫

満足度★★★★☆


ゴジラvsコング

2022年05月21日 | 映画(か行)

特に言うべきことはないけど

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本作は、過去いくつかの作品から繋がったストーリーになっています。

2014年「GODZILLA ゴジラ」

2017年「キングコング 髑髏島の巨神」

2019年「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」

 

実のところ2019年版で、あんまりな「怪獣まつり」ぶりに、
もうハリウッド版ゴジラはたくさんと思ったのでしたが、
キングコングは好きでもあり、
とりあえず暇つぶしくらいにはなるでしょうということで拝見。

モンスターの戦いで壊滅的被害を受けた地球。
特務機関モナークは、巨大怪獣のルーツの手がかりをつかもうとしていました。
地球内部に巨大な空洞があり、そこに巨大怪獣がすんでいるのではないか、というのです。

そんな時、深海から再びゴジラが出現。
その対抗措置として、髑髏島からコングを連れ出すことになります。

 

とかなんとか、まあ、ストーリーはどうでもいい感じで、
ゴジラ対キングコングのバトルが始まる・・・と思いきや、
なんとメカゴジラまで登場。
三つ巴の戦いとなります。

映像的には確かに迫力はありますが、
もともとそういうドッカン・ガッチャンのバトルシーンには興味がない私なので、
そこは早送りでいいからさっさと結末を見せて、と思ってしまいます。

しかしまあ、おなじみのゴジラとキングコングのバトル。
話のタネとしてもみておいて損はないのかも。

キングコングで好きなところは、彼が人間と意思疎通ができるところ。
この度のお相手は、手話を使う少女。
しかし、少女とコングの大きさの対比がすごいですね。
こんな小さな少女が手話を使ったとして、
コングに見えるのだろうかと私は心配になってしまった。
少なくとも老眼だとダメですね・・・。

それと今回興味深かったのは、地球内部空洞説。
まあSFにはよくある話ですが、この設定をうまく生かせば
もっとマシなストーリー展開にできたのでは?という気がしました。

小栗旬さんは怪しい中国人に見えた。

<WOWOW視聴にて>

「ゴジラvsコング」

2021年/アメリカ/114分

監督:アダム・ウインガード

出演:アレクサンダー・スカルスガルド、ミリー・ボビー・ブラウン、
   レベッカ・ホール、ブライアン・タイリー・ヘンリー、小栗旬

満足度★★★☆☆

 


ビーチ・バム まじめに不真面目

2022年05月20日 | 映画(は行)

不真面目を貫くのも大変だ・・・

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放蕩の詩人と呼ばれるムーンドッグ(マシュー・マコノヒー)。
かつて一冊だけ出版した詩集が大成功を収め、天才と賞賛されました。
しかしその後は、富豪の妻に頼りパーティ三昧。
酒とマリファナと女に溺れる生活を続けています。


そんな彼が、娘の結婚式のために、妻のいる家に久々に戻ってきます。
ところが、あろうことか事故で妻が亡くなってしまう。
莫大な妻の遺産相続要件として
「新しい詩集を出版しなければならない」ということになっていました。
当面無一文になってしまったムーンドッグは・・・。

 

心を入れ替えて、詩作に励んだりはしません・・・!
相変わらず飲んだくれて、騒ぎを起こし、更生施設送りになったりする。
しかしおとなしくそんなところに入っている彼ではありませんが・・・。
元々自由気ままで、自堕落な放蕩生活を歌ったものが彼の詩だったわけです。
妻と結婚して、お金の心配がなくなり、遊び暮らす時には
詩を作ろうなどという気も起こらなかったのかも知れません。

しかし、彼の不真面目さは筋金入り。
お金も住むところもなくても、自堕落を押し通すところがすごい。
まさに、不真面目さにおいて「まじめ」なのです。
そしてこのときようやく彼の中に「詩」が生まれてくる。

めちゃくちゃならめちゃくちゃなりのスジとでも言いましょうか、
そこを通すところがある意味すごい、男の物語なのでした。

 

<WOWOW視聴にて>

「ビーチ・バム まじめに不真面目」

2019年/アメリカ/95分

監督:ハーモニー・コリン

出演:マシュー・マコノヒー、スヌープ・ドッグ、アイラ・フィッチャー、ステファニア・ラビー・オーウェン

 

不真面目度★★★★★

筋金入り度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


オードリー・ヘプバーン

2022年05月19日 | 映画(あ行)

忘れ得ぬオードリー

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オードリー・ヘプバーンが63歳で亡くなってから30年とのこと。
え~、もうそんなにもなるのですね。
本作はそのオードリー・ヘプバーンの知られざる素顔に迫るドキュメンタリーです。

幼少期、父親が家族を捨てて出て行ってしまい、
ナチス占領下のオランダという過酷な環境で育ったオードリー。
バレエを学んでいて、夢はバレリーナだったけれども、
戦時下レッスンができず、完璧な技術が身についていなかったということで、
ちょっとした端役で映画などに出演しはじめます。
そして、初主演作「ローマの休日」でアカデミー主演女優賞を受賞。
映画スターとして輝かしいキャリアを築いていきます。
そんな傍ら、何度も結婚と離婚を繰り返していきます・・・。

幼い頃に父親が出ていってしまったこと、
その孤独と喪失感が彼女の中にいつまでもつきまとっていたのかもしれません。
結婚ではそんな気持ちが満たされることはなかったのか・・・。

また、ナチス占領下のオランダでは食糧事情も最悪。
彼女はこのときに飢えも経験しています。
そんな経験があったためか、彼女はユニセフの親善大使を務め、
飢餓に苦しむ地域を回ったりもしていますね。

ともあれ、オードリー・ヘプバーンの子どもの頃の事情はこの度初めて知りまして、
そういう歴史の生き証人的な時代の人だったんだー、と改めて認識した次第。

でもデビュー後の結婚や離婚を繰り返すような話は、
多くの女優さんが経験することでもあるし、
特に目新しい話でもなかったかなあ・・・と。

ちょうど同日、テレビで「ローマの休日」を放映していまして、
ここでの初々しくキュートなヘプバーンを見るだけで、彼女を忍ぶことができるし、
それで十分な気がしてしまいました。

<シアターキノにて>

「オードリー・ヘプバーン」

2020年/イギリス/100分

監督:ヘレナ・コーン

出演:オードリー・ヘプバーン、ショーン・ヘプバーン・ファーラー、
   エマ・キャスリーン・ヘプバーン・ファーラー、クレア・ワイト・ケラー

 

満足度★★★☆☆


「祝祭と予感」恩田陸

2022年05月17日 | 本(その他)

蜜蜂と遠雷 スピンオフ

 

 

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コンクール入賞者ツアーのはざま、
亜夜とマサルとなぜか塵が二人の恩師・綿貫先生の墓参りをする「祝祭と掃苔」。
菱沼が課題曲「春と修羅」を作曲するきっかけとなった
忘れ得ぬ教え子への追憶「袈裟と鞦韆」。
幼い塵と巨匠ホフマンの永遠のような出会い「伝説と予感」ほか全6編。
最終ページから読む特別オマケ音楽エッセイ集「響きと灯り」付き。

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恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」のスピンオフ短編集。
あの時のおなじみメンバーの過去であったり未来であったりの
出来事を楽しく読むことができます。

というか、例によってすでに誰が誰やら記憶も薄れていたのですが、
それでも一つ一つのエピソードがステキに仕上がっているので、
「蜜蜂と遠雷」自体知らない方でも意外と楽しめるのではないかと思います。

私はコンクール課題曲の「春と修羅」のところが好きでとても印象に残っていたので、
それと絡んだストーリー「袈裟と鞦韆(ぶらんこ)」があるのが嬉しかった。

短編それぞれの題名がユニークで、

祝祭と掃苔

獅子と芍薬

袈裟と鞦韆

竪琴と葦笛

鈴蘭と階段

伝説と予感

以上6編ですね。

そしてこの本の題名が「祝祭と予感」
おわかりですね。
なんとも心憎い。

 

それから本巻には特別オマケ音楽エッセイ集「響きと灯り」も付いています。
ただしこちらはかなりガッツリのクラシック音楽談義なので
私にはついて行きにくかった・・・。
とすればつまり、「蜜蜂と遠雷」がいかにクラシック音痴の人にも
楽しく読めるようにできているかという、すごいことの証明かもしれません。

 

映画で風間塵役を演じていた鈴鹿央士さんが、
最近テレビドラマなどで活躍し始めたのも嬉しいところです♡

 

「祝祭と予感」恩田陸 幻冬舎文庫

満足度★★★.5


「アンジュと頭獅王」吉田修一

2022年05月16日 | 本(その他)

時空を超えて歩み出すふたり

 

 

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吉田修一の新境地ともいえる本書は、
誰かのために生きる時代を模索する今だからこそ蘇る、二十一世紀版山椒太夫。
古典の名作『山椒太夫』をベースに、上古も今も末代も、
慈悲の心の尊さとはいかに、を現代に問う問題作だ。

 あの安寿と厨子王が千年の時空を超えて繰り広げる、
善の執着と悪の執着を描く大冒険は、
文字を追うごとに、思わず声に出して読みたくなる圧巻の言葉とリズムにあふれている。

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吉田修一さん作品というにはかなりの異色です。

物語は、あの「安寿と厨子王」の物語を元にしています。
森鴎外の小説「山椒大夫」として著名な物語ですが、元々は仏教説話ですね。
私は子どもの頃に絵本で見た記憶があります。
緻密な日本画調の絵で、最後に盲目の老婆となったお母さんと巡り会うシーンだけ、
なんとなく覚えていました。

 

紹介文に「声に出して読みたくなる」とあるのですが、
確かに、朗々と歌い上げるようなリズムのある言葉。
力がありますねえ。

主人公はまだ年端もいかぬ姉・アンジュと、その弟・頭獅王なのですが、
なんとも過酷で残酷な運命をたどります。

父親が濡れ衣の罪を着せられ流刑となり、
その妻と子どもたち(姉・弟)が事実を訴えるために京へ向かうことにします。
しかしその途中で人買いにだまされ、母と子どもたちは別れ別れに売られてしまいます。

山椒大夫の元に買われたアンジュと頭獅王は、
これまで下働きも力仕事等したことがない。
そこへいきなり辛い労働をあてがわれ途方に暮れて泣くばかり。
逃げだそうとしたことがバレて、額に焼きごてをあてられたりもする・・・。
それでも姉は自分の身を挺して弟を逃がすのですが、
弟の行方を話せと拷問され、ついには命を落としてしまう。

ひ~。
なんともひどい話であります。

しかし信心深い彼らには御仏のご加護がある。
ここからが本作の真骨頂でありますが、
アンジュと頭獅王は獅子にまたがり千年の時空を超えて旅をします。
この現代日本にも立ち現れてしまうアンジュと頭獅王。
なかなかシュールです。
シビれます。

このヒグチユウコさんの表紙イラストもステキですねえ。
不思議な魅力のある本です。

中に、こんな文章があります。
大きな文字で1ページを費やして。

 

仇(あだ)を仇にて報ずれば、

燃える火に薪(たきぎ)を添えるようなもの。

逆に仇を慈悲にて報ずれば、

これは仏と同格なり。

 

まさに、「戦争」もこういうことなんだなあ・・・と思いました。
でも、「慈悲にて報じ」てもますますつけあがる相手には、どうすればいいんだろう・・・

 

<図書館蔵書にて>

「アンジュと頭獅王」吉田修一 小学館

満足度★★★★☆

 


真夜中乙女戦争

2022年05月15日 | 映画(ま行)

絶望の中の光

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はい、永瀬廉さん目当てに見たミーハー視聴です。
でもこれ、全然アイドル映画ではありません。

上京し一人暮らしを始めた大学生の“私”(永瀬廉)。
友だちも恋人もできず、鬱屈した毎日。

何気なく「かくれんぼ同好会」の募集が気になり、入会します。
そしてそこで出会った聡明でちょっと冷たい感じのする“先輩”(池田エライザ)に惹かれていきます。

そしてまた“私”は、謎の男“黒服”(柄本佑)とも出会う。
“黒服”は、生きることは無意味と考え、社会への反逆を実行していきます。
“私”もそんな彼の思想に同調していきますが、
圧倒的カリスマ性を持つ“黒服”には他にも付き従うメンバーが増えていき、
次第に大きな組織になっていきます。
始めはほんのいたずら程度のものだったのが、
やがて「東京破壊計画」すなわち“真夜中乙女戦争”を目指すようになっていく・・・。

大学の一コマの講義は計算すると3000円。
だからそれだけの価値のある講義をしてくれないと困る、と教師に詰め寄る“私”。
経済的に厳しいところを、バイトをしながら学ぼうとする“私”は、
しかし、講義にも友人関係にも何も希望が見いだせない。
大学生活どころか自分のこの先の人生までもが絶望的に退屈で、
しかも底辺から抜け出せないように思われる。
そんな彼が“黒服”に傾倒していくのは当然のように思われます。
けれど、そんな暗黒の思想に真っ正面から立ち向かおうとするのが、“先輩”なんですね。

彼女自身、決して無垢な正義の味方ではない。
むしろ人よりも世界を斜めに見ているようでもあるのですが、
でもまっすぐに生きようとしている。
そんなまっとうさから、“私”は、目をそらすことができない・・・。

何やら不思議なムードのある作品です。
柄本佑さんの、ほの暗い感じも悪くないですね。

 

<Amazon prime videoにて>

「真夜中乙女戦争」

2022年/日本/113分

監督・脚本:二宮健

原作:F

出演:永瀬廉、池田エライザ、柄本佑、篠原悠伸、安藤彰則、山口まゆ

 

虚無感度★★★☆☆

満足度★★★☆☆

 


サンドラの小さな家

2022年05月14日 | 映画(さ行)

それでも生きていこう

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原案・脚本共に主演のクレア・ダンが務めています。

二人の幼い娘を連れてDV夫の元から逃げ出したサンドラ。
公営住宅は長い順番待ち。
やむなくホテルでの仮住まい生活を続けています。
そんな時に彼女は小さな家を自分で建てるアイデアを思いつきます。
サンドラが清掃人として働いている家の庭を提供してもらえることになり、
建設業者エイドの協力を得て建築に取りかかります。
そんな中でも、週一回の面会のため、子どもたちを夫の元へ届けなければなりません。
でも夫には家の建築のことは内緒です。
しかし下の子が父の元に行くのを嫌がるようにもなり、
夫のサンドラのへの嫌がらせが続きます。

小さな家とはいっても女手一つとエイドだけではやはり無理。
けれど幾人か手伝ってくれる人が集まるようになり、
皆は「物作り」の楽しさを味わうようにもなっていきますね。
なんだか楽しそうでもあります。
でも、これを始めたきっかけが夫のDVというのはあまりにも切ない。

こんな状況でも、夫には子どもたちとの面会権があるというのが意外です。
まあ実際、子どもに対して暴力はなかったようですし、
幾ばくかの養育費も出しているということなんですね。
それにしても、妻に対する態度や仕打ちはあまりにもひどい。

とにかく早く子どもたちと自分だけが安心して住める家が欲しかった、
そのサンドラの一心だったわけです。

ところが・・・!
終盤の展開には唖然とさせられてしまいました。
そ、そんなあ・・・、という感じです。

それでもなお、未来は続いていく。
どんな人生にも、こんなことはあるものです。
それでも生きていく、生きていこう、ということですね。

<WOWOW視聴にて>

「サンドラの小さな家」

2020年/アイルランド、イギリス/97分

監督:フィリダ・ロイド

出演:クレア・ダン、ハリエット・ウォルター、コンリース・ヒル、
   イアン・ロイド・アンダーソン、ルビー・ローズ・オハラ

 

母の奮闘度★★★★★

DV夫度★★★★★

満足度★★★★☆