映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「時の娘」ジョセフィン・テイ 

2024年05月13日 | 本(ミステリ)

リチャード三世は本当に悪逆非道だったのか?

 

 

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薔薇戦争の昔、王位を奪うためにいたいけな王子を殺害したとして
悪名高いリチャード三世。
彼は本当に悪逆非道を尽くした悪人だったのか? 
退屈な入院生活を送るグラント警部は、
ふとしたことから手にした肖像画を見て疑問を抱いた。
警部はつれづれなるままに歴史書をひもとき、
純粋に文献のみからリチャード三世の素顔を推理する。
安楽椅子探偵ならぬベッド探偵登場! 
探偵小説史上に燦然と輝く歴史ミステリの名作。

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先に英国のリチャード三世に関連する映画「ロスト・キング」を見たのですが、
それに関連して、同じくリチャード三世を扱っている本作を読んでみました。

本作は1951年に発表されたものですが、
いまだに愛され、読み継がれている作品です。

 

「ロスト・キング」の中でも言われていますが、
リチャード三世というのは1400年代、まだ子どもの甥2人を殺害して王位に就いた、
悪逆非道な王、というのがイギリス人の多くの人の常識とされています。

骨折で入院中のグラント警部が、ふとしたきっかけからリチャード三世の肖像画を目にして、
この人物が本当に悪逆非道・残忍な人物であったのか?
と疑問を覚え、リチャード三世を調べ始めるのです。

入院中でしかも600年も前のこと、
協力者を得て様々な文献をあたるというのが最大できること。

・・・ということで、著者は「小説」という枠組みの中で、
実際の文献をあたり、歴史に刻まれた悪評高いリチャード三世の実像に迫っていくのです。

 

例えば日本だったら、「明智光秀はなぜ織田信長を裏切って本能寺の変が起きたのか」
という永遠の命題を解き明かす、
みたいな話を小説仕立てにする・・・という感じですね。

 

リチャード三世が亡くなってから人からの伝言などを記録したものは、参考にしない。
あくまでもリチャード三世存命の折、リアルタイムで記録したと思われる文献のみを参考にする。
そのようなコンセプトで調べてみれば、
そもそも幼い王子たちが行方不明になったり殺害されたという記録がない。

リチャード三世の醜聞はどうも後の王、ヘンリー7世側のねつ造らしい・・・というのです。
歴史好きにはたまらなく魅力的。

映画「ロスト・キング」の主人公の女性などは、
リチャード三世に肩入れするあまり、彼の墓所を探し始め、
ついに突き止めるという偉業を成し遂げました。
もしかすると本作も、そんな彼女の動機づけの一つだったのかも知れません。

 

ところで本作、私は初め図書館から文庫を借りたのです。
ところが、古い文庫本のなんと活字の小さいこと!!
む、ムリ・・・。
無理矢理読めないこともないけれど、ストレスばかりが大きくなりそう。
ということで、結局文庫を購入して読みました・・・。
グスン。
古典的作品でも新しい版であればちゃんと活字は大きくなっているので、
ありがたいことでございます。

 

「時の娘」ジョセフィン・テイ 小泉喜美子訳 早川書房

満足度★★★★☆


「コールド・リバー 上・下」サラ・パレツキー 

2024年03月22日 | 本(ミステリ)

コロナ渦中、地元を巡る陰謀に立ち向かう

 

 

 

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ヴィクが救出した火傷を負った少女は病院から姿を消した。
少女から渡されたものをよこせと、警察は執拗にヴィクに迫るが……。

サラ・パレツキー、「V・I・ウォーショースキー」シリーズの最新作。
シリーズ長編21作目。

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ヴィクの元気な姿を見ると、ホッとします。

とはいえ、このシカゴも現実世界と地続きのようで、
ちょうどコロナ禍にさらされていて、ようやく人々が少し動き出したような頃。
ヴィクもしっかりマスクをつけて活動しています。

 

ヴィクは海岸で1人の瀕死の少女を救い出すのですが、
その少女は翌日には病院から姿を消してしまう・・・。
どうやら、少女が持っていた「何か」を狙う者たちがいる様子。

ヴィクは、そしてまた別の所で、今度は川に落ちた少年を救出。
これまた少年が持っていた「何か」を狙い、
追い回している連中がいるらしい。

少年少女を守るのは自らの使命とばかりに、
ヴィクが体を張ってこの地を巡る陰謀に立ち向かっていきます。
警察官すらも敵という、なかなか厳しい状況です。

 

ヴィクと恋人のピーター・サンセンの仲は順調のようで何より。
というか、本巻の事件中、ピーターは考古学の発掘のためにずっと離れたところにいて、
ときおり電話で話をするのみ。
まあ、それが無難です。
目の前でヴィクが危険な体験をするのを見たら、
やはり怖じ気づいてしまうかも知れないので・・・。

とりあえず、ミスタ・コントレイラスとミッチとペピーが
いつまでも元気でいてくれることを願うのみ。

 

さて、しばらく見なかった検屍官シリーズの最新刊が出ていたのですね! 
気づいていなかった・・・!
でも、読者レビューがなかなかによろしくない・・・。

あえて読まなくても良いかなあ・・・などと思っているところでもあります。
高いし・・・。

 

「コールド・リバー 上・下」サラ・パレツキー 山本やよい訳 ハヤカワ文庫

満足度★★★★☆

 


「ローズマリーのあまき香り」島田荘司

2024年03月08日 | 本(ミステリ)

幽霊が踊った?

 

 

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講談社世界中で人気を博す、生きる伝説のバレリーナ・クレスパンが密室で殺された。
1977年10月、ニューヨークのバレエシアターで上演された
「スカボロゥの祭り」で主役を務めたクレスパン。
警察の調べによると、彼女は2幕と3幕の間の休憩時間の最中に、
専用の控室で撲殺されたという。
しかし3幕以降も舞台は続行された。
さらに観客たちは、最後までクレスパンの踊りを見ていた、と言っていてーー?

名探偵・御手洗潔も活躍、島田荘司待望の長編新作!

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島田荘司さんの新作・・・って、昨年の4月に出ていたのか!!
気づいていなかったとは!

 

さてさて、いつものごとく「なぜこんなことに?」という
不可思議な事件からストーリーは始まります。
600ページを超すボリューム。
この読み始めのワクワク感がたまりません。

 

1977年ニューヨークのバレエシアターで、
主演を演じたバレリーナ、クレスパンが専用の控え室で撲殺されます。
しかしそこは密室。
中から鍵がかけられており、もちろん死体発見時に部屋の中に他の人物は誰もいなかった。
ビルの50階、窓はすべてはめ殺し。
おまけに部屋の外の通路には見張りの人物がずっといて、
クレスパン以外にこの部屋に出入りしたものは誰もいないという。

そしてさらに、検屍によりクレスパンの死は2幕と3幕の間の休憩時間であるとされたのに、
彼女はその後の3幕と4幕に出演し、見事にすべて踊り終えたという・・・。

そんなバカな! 
彼女はなんとしても舞台をやり終えたいという強い意志で、
幽霊となって踊りを続けていたのか・・・?

 

私、てっきりこれは御手洗潔のシリーズではないと思って読んでいたのですが、
中盤くらいになってやっぱり御手洗氏が登場してびっくり。
でも、そりゃそうですよね。
こんな変な事件を解けるのはミタライだけ。

正確には、この20年後にミタライはこの事件に興味を持って、
滞在中のスウェーデンからニューヨークを訪れ、もつれた糸を解きほぐします。

 

クレスパンはユダヤ人収容所の中で生まれたということから、
ユダヤの民の歴史が語られているのがなかなか興味深かった。
国を追われたユダヤ人の一部が東へ東へと移動していって、
やがて日本にたどり着いて権力を持つようになるというところも面白いなあ・・・。
真偽のほどはわからないまでも、そういう想像の翼を広げるのは楽しい。

また、ウクライナの戦争や新型コロナウイルスのことなど
予言的な話をしているのも面白い。
ま、これは後出しじゃんけんですけれど。

 

そしてまた、ミタライが訪れる少し前のニューヨークで起きた、
これまた変な事件が、20年前の事件ともほんの少し関係している
というあたりもお見事。

さすがに、島田荘司さん!!
堪能しました。

 

<図書館蔵書にて>

「ローズマリーのあまき香り」島田荘司 講談社

満足度★★★★.5

 


「可燃物」米澤穂信

2024年02月24日 | 本(ミステリ)

警部補の名捜査

 

 

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2023年ミステリーランキング3冠達成!
(「このミステリーがすごい!」第1位、「ミステリが読みたい!」第1位、
「週刊文春ミステリーベスト10」第1位)

余計なことは喋らない。
上司から疎まれる。
部下にもよい上司とは思われていない。
しかし、捜査能力は卓越している。
葛警部だけに見えている世界がある。

群馬県警を舞台にした新たなミステリーシリーズ始動。

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毎年のミステリーランキング常勝の米澤穂信さん。
私も年初に氏の受賞本を読むのが恒例になっているような気がします。

本巻「可燃物」は、ミステリ短編集。
群馬県警捜査第一課、葛警部補が推理を巡らす物語です。

 

冒頭「崖の下」は、スキー場で起きた殺人事件。
問題は凶器が見つからないこと。
状況から見て、凶器を処分することは不可能。
一体、どうやって・・・?

これが、その答えには唖然とさせられます。
そんなことがあっていいのか・・・?
でもいかにも米澤穂信さんだなあ・・・と感じるところでもあります。

 

表題作「可燃物」は、連続放火事件とおぼしき犯人の動機が問題。
これもまた、そんなことがあっていいのか・・・?
と思う解答。
いやはや、人の心は予測不能ですね・・・。

 

葛警部補は、ごく綿密な捜査を展開します。
彼は警部補なので部下をフルに活用。
時には、こんな捜査に意味があるのかと部下は思わないこともないのですが・・・。
けれど仕事熱心な彼らはきっちりと捜査し、綿密に報告を上げます。

そのような膨大なデータの中から、警部が「真実」を拾い上げる。
・・・と、おおよそそのような組み立てになっています。

名探偵のやり方とはちょっと違うけれど、これもなかなか良い感じです。
もっと続いていきそうですね。
楽しみです。

 

「可燃物」米澤穂信 文藝春秋

満足度★★★★☆


「卒業生には向かない真実」ホリー・ジャクソン

2023年10月14日 | 本(ミステリ)

顔面蒼白

 

 

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大学入学直前のピップに、不審な出来事がいくつも起きていた。
無言電話に匿名のメール。
首を切られたハトが敷地内で見つかり、
私道にはチョークで首のない棒人間を書かれた。
調べた結果、6年前の連続殺人事件との類似点に気づく。
犯人は服役中だが無実を訴えていた。
ピップのストーカーの行為が、この連続殺人の被害者に起きたことと
似ているのはなぜなのか。
ミステリ史上最も衝撃的な『自由研究には向かない殺人』三部作の完結編!

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「自由研究には向かない殺人」から始まる、ピップの物語。
3部作の完結編ということで、かなりのボリュームですが、
途中からは一気読みでした。

何しろ、「うそっ!!」という衝撃の展開。
あまりのことに顔面蒼白。
お願いだから、これはピップの夢だと言って・・・
と願いつつ読んでいったのですが・・・。

 

何しろ本巻は始めから波乱含み。

第一巻目は元気な女子高生の奮闘の物語だったのですが、
2巻目では事件は解決したものの、ピップの心には暗い影がよぎります。
そして本巻ではその気持ちを引きずったまま、
夜は眠ることができず、もはや医師の処方箋も得られなくなっているので、
怪しげな所から闇で薬を入手。
大学進学も決定し、周囲には元気なように見せかけているのですが・・・。

そんな中、彼女に不審な無言電話があったり、
周囲で首を切られたハトが見つかったり、不気味な落書きが見られたり・・・、
ストーカーめいた人物の影が。
そしてまた、これらの行為が6年前の連続殺人事件と類似していることにも気づいてしまう。

 

もともとこれらの物語は著者の「刑事司法制度やその周辺の実態」への
失望と怒りが源流であるといいます。
事実は当事者にとっては明らかなのに、
「証拠不十分」ということだけで無罪となってしまうような実態。
そしてまた、一度下された判決は簡単には覆らないという実態。

ピップはそのためにこそ、本ストーリーで痛ましい決断を下し実行してしまう・・・。

 

いや、まさかまさかの衝撃的な展開でした。

本当にこれでいいのか・・・、読後感も複雑です。

 

「卒業生には向かない真実」ホリー・ジャクソン 服部京子訳 創元推理文庫

満足度★★★☆☆

 


ナイフをひねれば

2023年10月02日 | 本(ミステリ)

著者自身が殺人犯???

 

 

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「われわれの契約は、これで終わりだ」
探偵ホーソーンに、彼が主人公のミステリを書くのに耐えかねて、
わたし、作家のホロヴィッツはこう告げた。
その翌週、ロンドンで脚本を手がけた戯曲の公演が始まる。
いきなり酷評する劇評を目にして意気消沈するわたし。
ところがその劇評家が殺害されてしまう。
凶器はあろうことかわたしの短剣。
逮捕されたわたしには分かっていた。
自分を救えるのは、あの男だけだと。
〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズの新たな傑作登場!

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アンソニー・ホロヴィッツによる、〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズ最新刊。
着々と新刊が出るのが嬉しいですね。

 

本巻では驚きの出来事が!

ホーソーンの事件簿的な本を書くのは3冊まで、
という当初の約束だったはずなので、
3冊目までのめどが付いた(実際にはすでに3冊出ています)ので、
もうこれ以上は書かない!!と、ホーソーンに宣言したホロヴィッツ。

そんな矢先、ホロヴィッツが脚本を手がけた戯曲の公演がロンドンで始まります。
しかし初日を終え、関係者一同はいきなりの酷評を目にしてしまいます。
すっかり意気消沈してしまったホロヴィッツ。

ところが、その酷評をした評論家が殺害され、
あろうことか、ホロヴィッツに殺人犯の疑いがかけられてしまうのです。

 

凶器はホロヴィッツの短剣。
アリバイを証明できる者もいない・・・。

逮捕される寸前にホロヴィッツは逃走、ホーソーンを頼りにすることに。
実のところ、ホーソーンが本当に力になってくれるかどうかも
心配ではあったのですが・・・。

 

・・・ということで、今回二人はタイムリミットありの、
かなり切実な調査をすることになります。

相変わらず親しみを見せず、つっけんどんな態度のホーソーンではありますが、
でもきっと頼りになる、ということはこれまでのことで分かっております。

そんな中でもほんの少しずつ、ホーソーンの秘められた人生の一端を垣間見る・・・。

 

著者自身が殺人犯の疑いをかけられて窮地に立たされる。
さぞかし、著者も楽しんでこれを書いているのでしょうね。

ホーソンとホロヴィッツ、この腐れ縁は、まだまだ断たれませんね。

 

「ナイフをひねれば」アンソニー・ホロヴィッツ 創元推理文庫

満足度★★★★☆

 

 


「死神の棋譜」奥泉光

2023年08月26日 | 本(ミステリ)

狂おしいほどの勝負への傾倒

 

 

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第69期名人戦の最中、詰将棋の矢文が見つかった。
その「不詰めの図式」を将棋会館に持ち込んだ元奨励会員の夏尾は消息を絶つ。
同業者の天谷から22年前の失踪事件との奇妙な符合を告げられた
将棋ライターの〈私〉は、かつての天谷のように謎を追い始めるが――。
幻の「棋道会」、北海道の廃坑、地下神殿での因縁の対局。
将棋に魅入られた者の渇望と、息もつかせぬ展開が交錯する傑作ミステリ!

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奥泉光さんの将棋をテーマとしたミステリ。
いえ、ただのミステリではなく、幻想ミステリとでも言うべきでしょうか。

 

語り手となる北沢は、かつて将棋界のトップを夢見ていたものの、あえなく挫折。
今は将棋関係のライターをしています。

とある名人戦の最中、かつての北沢のライバル夏尾が
謎の詰将棋の図面を将棋会館に持ち込むが、その後失踪。
北沢は同業者の天谷から、22年前にも同様の失踪事件があったと聞き、
かつての天谷のように、その謎を追い始める・・・。

ということで北沢が向かったのは、北海道のとある廃坑。
そこで北沢は戦慄の体験をして・・・。

 

将棋盤の奥中に、魔の基盤が潜んでいて、
そこではまさに命がけの勝負が繰り広げられる・・・と言った、
不気味でおぞましく、そして力強くもあるというこの雰囲気こそが本作の真骨頂。
結局この魔界は、北沢の脳内で繰り広げられるだけではありますが、
あながち狂いかけた個人の妄想と一蹴しきれないような、
妙なほの暗いリアリティがあります。
真の将棋の勝負の世界は、こうしたものなのかも知れないと思わせるような。
世に名を残す名棋士は皆この魔の将棋を知っている、
というようなことにも不思議に納得が行くような。

正直、私は将棋音痴ではありますが、
本作の面白みは十分に伝わりました。

このイマジネーションを創り上げた著者には感服します。
よほど将棋がお好きなのでしょうね。

 

「死神の棋譜」奥泉光 新潮文庫

満足度★★★★☆


「捜査線上の夕映え」有栖川有栖

2023年08月16日 | 本(ミステリ)

コロナ禍中の火村とアリス

 

 

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「臨床犯罪学者 火村英生シリーズ」誕生から30年!
最新長編は、圧倒的にエモーショナルな本格ミステリ。

大阪の場末のマンションの一室で、男が鈍器で殴り殺された。
金銭の貸し借りや異性関係のトラブルで、容疑者が浮上するも……。

「俺が名探偵の役目を果たせるかどうか、今回は怪しい」

火村を追い詰めた、不気味なジョーカーの存在とは――。
コロナ禍を生きる火村と推理作家アリスが、
ある場所で直面した夕景は、佳き日の終わりか、明日への希望か――。

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有栖川有栖さんの火村英生シリーズ最新作。
といってもこれは刊行してからもう1年半も経っているのを
今回やっと読むことができました・・・。

それにしても、このシリーズが始まってからもう30年も経っているというのには驚きです。
普通に読み続けて、30年・・・。
私も歳をとるはずですねえ・・・。
アリスも火村氏も同じままで若くてうらやましい・・・。

 

さて本作。

コロナ禍の時代が背景。
人々の会話時にソーシャルディスタンスを意識したり、マスクを意識したり。
最もディープなコロナ禍時のことをちょっとばかり懐かしく思い出します。
とりあえずそんな日々が過去の物になったことに安堵・・・。
まだまだマスクを無しにはできませんが。

まあ、そんなことの影響もあるのかどうか。
今回の事件は割に地味。

とあるマンションの一室で、スーツケースに詰められ、クローゼットに押し込められた
男の死体が発見されます。
なんとも決め手に欠く事件。
事態はなかなか進展しないのですが・・・。

途中からガラリと様相が変わって、火村とアリスがとある旅に出ます。
瀬戸内海に浮かぶ離島を訪れる旅。
果たして二人はそこで何をつかむのか・・・?

 

これまで普通にレギュラー出演者として出てきた、とある人物の過去が
ちょっとばかりあかされ、それがこの事件に影を落としているのです。

 

火村とアリスの長い歴史の中、コロナ禍中の数年を記念する作品となるでしょう。
それにしても、ススキノのホテルで首ナシ死体が発見されるとか、
現実の方が小説を超越している昨今ですねえ・・・。

 

<図書館蔵書にて>

「捜査線上の夕映え」有栖川有栖 文藝春秋

満足度★★★.5

 

 


「よろずを引くもの お蔦さんの神楽坂日記」西條奈加

2023年05月20日 | 本(ミステリ)

小粋な祖母と孫の物語

 

 

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多発する万引きに町内会全体で警戒していた矢先、
犯人らしき人物をつかまえようとした菓子舗の主人が
逃げる犯人に突き飛ばされて怪我をしてしまった!
正義感に駆られる望と洋平は、犯人の似顔絵を描こうと思い立つが……
商店街を巻き込んだ出来事を描いた「よろずを引くもの」を始め、
秋の神楽坂を騒がす事件の数々を収録。
粋と人情、そして美味しい手料理が味わえる大好評シリーズ、
待望の最新作!

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西條奈加さんの神楽坂日記シリーズ4巻目。
本巻は連作短編となっています。

若かりし頃、芸者をしていたお蔦さんは、料理男子の孫・望と同居しています。
この家族とご近所商店街で起こる謎や事件をひも解いていく物語。

 

表題作「よろずを引くもの」は、その言葉通り、「万引き」の話。
ご近所でも、万引きの被害が大きいとウワサしていた矢先に、
とある菓子舗の主人が逃げる犯人に突き飛ばされて怪我をしてしまった!
望とその親友洋平は、その犯人の似顔絵を描いて、
犯人を突き止めようとします。

万引きをする側の心理・事情にも触れていく作品。
それにしても、あまりにも万引き被害が大きくて
閉店までせざるを得なくなるということもあるという・・・。
困った世の中です。

いつものごとく、少年達の純粋な正義感と行動力、
そして経験を積んで小粋な老婦人のコンビネーションが楽しい。

この先も楽しみですね。

 

「よろずを引くもの お蔦さんの神楽坂日記」西條奈加 東京創元社

満足度★★★★☆


「森江春策の災難 日本一地味な探偵の華麗な事件簿」芦辺拓

2023年02月11日 | 本(ミステリ)

探偵は地味だけど

 

 

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日本推理作家協会賞・本格ミステリ大賞ダブル受賞記念 緊急出版決定!

《森江法律事務所》にかかってきた敏腕女性検事・菊園綾子からの電話は、
花村カオルという札付きのワルが身辺をかぎ回っているようだから
気をつけろと警告するものだった。
その数分後、コート姿の怪しい人物が《森江法律事務所》に入ってゆき、
直後に死体で発見される。
果たして、森江春策の事務所でいったい何が起きたのか?
一風変わった犯人当てである表題作をはじめ、
森江春策がヘンリー・メリヴェール卿と共演する「密室法廷」や
神津恭介、星影龍三とともに密室について語り合う「架空座談会」、
鉄人28号の物語世界へと読者をいざなう「寝台特急あさかぜ鉄人事件」、
舞台劇の脚本として書き下ろされた「探偵が来なけりゃ始まらない――森江春策、嵐の孤島へ行く」
など、日本一地味な探偵・森江春策が活躍する十三編の異色な事件簿!
「年譜・森江春策事件簿〔第二版〕」も特別収録!

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芦辺拓さんの森江春策シリーズは、私も長く愛読しております。
「日本一地味な探偵」、まさに、華々しく語られることはないけれど、
息が長い地道な探偵さんであります。

作中でも、見た目がイカす風貌ではないように語られていましたが、
本作の表紙を見て納得。
・・・これ、濱田岳さん? 
が、モデルかどうかは定かではありませんが、
なるほど、こういうイメージかもしれません。

 

本作は舞台も時代も、自由自在。
こういうのも地味な探偵だからこそ、どこにいてもすっと溶け込めてしまうわけで。

が、実のところ今回私は自分の脳みその硬化を感じてしまいました。
なんだか読み進むのが苦痛で、あまり楽しめない。
本巻は特に変化球が多すぎるような・・・。
この独特の世界感にハマることのできない、
自分の年齢の限界?みたいなものを感じてしまい・・・。

確かに、近頃は派手なCG多発のSFアクション的な作品は滅多に見なくなりましたし、
年齢による変化は如何ともしがたいのかな?

と、若干淋しい思いも感じながら・・・。

 

<図書館蔵書にて>

「森江春策の災難 日本一地味な探偵の華麗な事件簿」芦辺拓 行舟文化

満足度★★★☆☆

 


「殺しへのライン」アンソニー・ホロヴィッツ

2023年02月06日 | 本(ミステリ)

ご当地ミステリ?

 

 

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『メインテーマは殺人』の刊行まであと3ヵ月。
プロモーションとして、探偵ダニエル・ホーソーンと
わたし、作家のアンソニー・ホロヴィッツは、
初めて開催される文芸フェスに参加するため、
チャンネル諸島のオルダニー島を訪れた。
どことなく不穏な雰囲気が漂っていたところ、
文芸フェスの関係者のひとりが死体で発見される。
椅子に手足をテープで固定されていたが、なぜか右手だけは自由なままで……。
年末ミステリランキング完全制覇の
『メインテーマは殺人』『その裁きは死』に続く、
ホーソーン&ホロヴィッツシリーズ最新刊!

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アンソニー・ホロヴィッツによるホーソーン&ホロヴィッツシリーズの第3弾。

この度の2人は、事件の調査ではなく、
文芸フェスに参加するために、チャンネル諸島のオルダニー島を訪れます。
ところが、そこで不可解な殺人事件に遭遇し、犯人捜しを始めるという、
まあ、いつもの展開になっていきます。

殺されるのは大富豪メジュラー。
ムダにルックスがよくいかにも尊大、どうにも人には好かれそうではなく、
この度も関係者がみな彼に殺意を抱く理由を持っている。
ほとんど全員容疑者・・・。
そして、ホーソーンはこの島で過去に因縁のある人物、デレク・アボットと対面します。
そこでホーソーンの過去も少し明るみに出ます。

 

2人がどのように犯人を突き止めていくか、もちろんそこのところが大事ですが、
私が本シリーズで面白いと思うのは、この2人の関係性。

ホロヴィッツは2人でチームとして働いていると思っているのですが、
いつまでも心を開かず、内心を明かそうとしないホーソーンに苛立ち、
そのことで傷ついてもいるのです。
そしていつも出し抜かれたりするので油断ならない。
でもどこか放っておけない感じもあって、結局やはり彼のことをもっと知りたくなる。

実のご本人アンソニー・ホロヴィッツの仕事のことも絡めて、
こうした心情がすごくリアルに語られて行くのはなんとも興味深い。
やめられませんねえ。

 

チャンネル諸島のオルダニー島は、イギリスとフランスの間に実在する風光明媚な島。
かつてナチスに占領され、人々にも大きな被害があったと言う歴史も紹介され、
ちょっと行ってみたくなりました。
このシリーズは今後ご当地サスペンスになるのか・・・?

 

すでにシリーズ次巻の刊行が決定しているという、楽しみなことです!

 

「殺しへのライン」アンソニー・ホロヴィッツ 山田蘭訳 創元推理文庫

満足度★★★★☆

 


「儚い羊たちの祝宴」米澤穂信

2023年02月01日 | 本(ミステリ)

ほの暗く、耽美

 

 

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夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。
夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。
翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。
優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。
甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、
最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。
米澤流暗黒ミステリの真骨頂。

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米澤穂信さんの本はあらかた読んでいるつもりでしたが、
平成20年に刊行されていた本作はまだ読んでいませんでした。
かなりブラックな味わいの強い短編集です。

資産家のお屋敷のお嬢様と、そのお嬢様に仕える貧しい家の出の娘、
と言うような構図で語られるストーリーが多い。
その味わいは、耽美。
そして甘美。
けれど、底辺に流れるのは残酷。
一種独特なムードに魅了されます。

5篇のストーリーはそれぞれにバラバラなのですが、
キーワードのように「バベルの会」というのが登場します。

良家の夢見がちなお嬢様方が集う読書サークル「バベルの会」。
ラストに収録される「儚い羊たちの祝宴」で、その「バベルの会」に襲いかかる運命!!
いやはや・・・、心震えます。

 

羊たちとはすなわちアミルスタン羊。
私は聖書か何かに登場する名前なのかと思ったのですが、
そうではなくて、アメリカの推理小説家スタンリイ・エリンの短編、
「特別料理」の中に登場する名前だそうで。
つまり、それと同じ内容です。
迷える子羊・・・。


<図書館蔵書にて>(単行本)

「儚い羊たちの祝宴」米澤穂信 新潮文庫

満足度★★★★☆

 


「ペインフル・ピアノ 上・下」サラ・パレツキー

2022年12月30日 | 本(ミステリ)

かつての歌姫に何が起こったのか

 

 

 

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おもちゃのピアノを鳴らすホームレスの女性。
声を失った元アーティストの彼女は、殺人の目撃者だった。
ヴィクは捜査を行うが……

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探偵ヴィクのシリーズ、最新刊です。
最近「検屍官」シリーズは出ないけれど、こちらは順調に続きが出るのがありがたい。
著者は今年75歳でしょうか? 
まだまだ頑張って、ヴィクの活躍を続けさせてほしいものです。

 

さて、本巻。

ヴィクはとある公園で、ホームレスの女性がおもちゃのピアノを鳴らしているのを耳にします。
一見めちゃくちゃのようなその調べは、よく聞いてみるとかつてのヒット曲。
なんとそのホームレスは、かつて一世を風靡した歌姫、リディア・ザミーアだったのです。

彼女は4年前に行われた野外コンサートで、銃乱射事件に巻き込まれたのです。
丘の上から犯人が放った銃弾で17人が死亡。
そのうちの一人が彼女の最愛の人、エクトルでした。

リディア自身は無事だったものの、事件と恋人の死のショックで精神が壊れてしまい、
言葉を発することもなくなり、ついにはホームレスとなってしまった。
もちろん彼女を知る人は彼女を病院へ入れて静養させようとしたのですが、
リディアはすぐに病院を飛び出し、さまよい歩くようになってしまったのです。

 

こんな出会いが一つ。
その後、同じこの公園で一人の青年の他殺死体が発見される。
この事件を目撃したかも知れないリディアは行方不明。
そっとリディアを見守っていた男クープは、
突然彼の飼い犬をヴィクのところに押しつけて、彼もまた失踪してしまう。
なにやら、この地区の再開発を巡る動きが根底にあるらしいのだけれど・・・。

いくつかの無関係と思われる出来事が、どこかで繋がっているように思えてならないヴィクは、
例によって満身創痍となりながら調査を続けます。

 

いつもながら浮かび上がってくるのは、資産家や権力者の思い上がった利己的な行動。
まっすぐな正義心を持ってそれに対峙するヴィクは、いつもかっこいいなあ・・・。

 

この度のヴィクは、前作から付き合い始めた考古学者・ピーター・サンセンと
まだうまくいっています。
まだ・・・なんて言うのは悪いけれど、いつもあまりにも仕事にのめり込み、
自分の危険も顧みない彼女の激しさに、男性の方がついて行けなくなってしまうのですよね・・・。
でもまあ、当分は大丈夫でしょう。
ミスタ・コントレーラスと2匹の愛犬も付いていることですし。

 

次作の予告によれば、パンデミックによるロックダウンを経て
日常に戻りつつあるシカゴが舞台とのことですよ。
これも楽しみです。

 

「ペインフル・ピアノ 上・下」サラ・パレツキー 山本やよい訳 ハヤカワ文庫

満足度★★★★☆

 


「僕が死んだあの森」ピエール・ルメートル

2022年11月19日 | 本(ミステリ)

僕が殺した

 

 

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母とともに小さな村に暮らす十二歳の少年アントワーヌは、隣家の六歳の男の子を殺した。
死体を隠して家に戻ったアントワーヌ。
だが子供の失踪に村は揺れる。警察もメディアもやってくる。
やがてあの森の捜索がはじまるだろう。
じわりじわりとアントワーヌに恐怖が迫る。
――その代償がアントワーヌの人生を狂わせる。

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ピエール・ルメートルによるミステリ。

本作はちょっと風変わりです。
まずはじめに、主人公・12歳の少年アントワーヌが、
隣の家の6歳の男の子を殺してしまうのです。

彼に殺意があったわけではないのですが、
思わず感情が高ぶった末に暴力を振るってしまったというのは確かなこと。
アントワーヌはそのことが明るみに出ることを恐れるあまり、
遺体を森の奥に隠して、何食わぬ顔で帰宅するのです。

本作はこのアントワーヌが犯した罪と、
その罪が暴露される恐怖に追い詰められていく様子を
緊張感を持って描いていきます。

死んだ子の遺体は、その後に村を襲った大嵐の災害により、
捜索も半ばで打ち切られ、荒れて誰も足を踏み込まない森の奥で放置されたまま、
年月が流れていきます。

そして10年以上の後、医学生となっていたアントワーヌは重大な決断を迫られる・・・。

 

罪の償いは、何も刑務所に入ることだけではないというラスト。
実のところ自業自得の犯罪で、いかに苦しくても主人公が逃げ切ってしまうのはどうか・・・
と思いながら読んでいったのですが
(ただし、読者はアントワーヌにすっかり同調して、共に恐怖を味わうことになるのですが)、
しかし、こういう結末もアリか、とずいぶん納得してしまいました。

さすが物語の名手、ピエール・ルメートルでありました。

 

題名、「僕が死んだあの森」ですが、死んだのは男の子で、僕ではありません。
けれどその時に、その後の人生を楽しむべき「僕」は死んだのですね。

 

「僕が死んだあの森」ピエール・ルメートル 橋明美訳 文藝春秋

満足度★★★★.5

 


「探偵は友人ではない」川澄浩平 

2022年09月29日 | 本(ミステリ)

でも、友人と言いたい

 

 

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わたし、海砂真史(うみすなまふみ)の幼馴染み・鳥飼歩(とりかいあゆむ)は
なぜか中学校に通っておらず、頭は切れるが自由気儘な性格で、素直じゃない。
でも、奇妙な謎に遭遇して困ったわたしがお菓子を持って訪ねていくと、
話を聞くだけで解決してくれた。
彼は変人だけど、頼りになる名探偵なのだ。
歩の元に次々と新たな謎
――洋菓子店の暗号クイズや美術室での奇妙な出来事――
を持ち込む日々のなかで、ふと思う。
依頼人と探偵として繋がっているわたしたちは、友人とは言えない。
だけど、わたしは謎がなくても歩に会いたいし、友人以上に大切に思っているのに……。
札幌を舞台に贈る、青春ミステリ第2弾!

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札幌を舞台とする青春ミステリ2巻目。

中学生・海砂真史の身の回りでおこるちょっとした出来事の謎を、
彼女の幼なじみである鳥飼歩が解き明かしていきます。

この鳥飼少年、中学校には通っておらず、頭は切れるけれども全く素直じゃない。
そして無類の甘いのも好き。
早い話が変人。

真史は、何か謎を解いてもらいたい時に「依頼人」として歩を訪ねて行くのです。
そして探偵はみごとに期待に応えてくれる。
これはあくまでも依頼人と探偵の関係であって、
わたしたちは「友人」とは言えないのかな?・・・と、
真史は少し淋しい気がしてしまうのです。
そして、単に顔を見て話をしたいだけなのに、
あえてささやかな「謎」を持って行ったりして。
ちょっぴり甘酸っぱい香りがしてきましたね。

しかし歩の方はそんなことには無頓着のように見えたのですが・・・。

終盤、アメリカ帰りの歩が、仙台帰りの真史と
ちょうど同じ頃に千歳空港に着くので落ち合うというシーンがあります。
しかし実はここにはトリックがあって・・・。

なかなか「めんどくさい」歩の性格の発露の場ではありますが、
それがまた、なかなか良かったです。
青春ですなあ・・・。

 

前作同様本作の舞台は札幌で、
しかもかなり私の生活圏に近いところが出てくるので、
親近感沸きまくりなのです。

どうか皆様も、この二人を応援してくださいませ。
・・・と、勝手に身内のような気がしてしまって困る。

あ、ちょうど文庫も出たところです。

<図書館蔵書にて(単行本)>

「探偵は友人ではない」川澄浩平 東京創元社

満足度★★★★☆