映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

帰ってきたヒトラー

2016年06月30日 | 映画(か行)
世界は大丈夫か



* * * * * * * * * *

ドイツのベストセラー小説を映画化したもの。
あのヒトラーがタイムスリップして現代に蘇る・・・。
私はもっとコミカルな作品かと思っていたのですが・・・。



TV局をリストラされたファビアン・ザバツキは、
服装も顔もヒトラーにそっくりな男を見出し、
なんとかこの男を利用してまたTVマンとして返り咲こうとします。
男は、カメラの前で堂々と過激な演説をし、
視聴者は圧倒されてしまいます。
誰もが、彼はヒトラーのモノマネをしていると思っているのですが、
実はタイムスリップしてきたホンモノ。
その過激な発言にリアルさを感じ、特に若い人に気に入られてSNSで人気沸騰。
次第に同調を示す人も増えてきます・・・。



本作、セミドキュメンタリーとなっていまして、
このヒトラーに扮したオリバー・マスッチ氏と、
ファビアン役のファビアン・ブッシュ氏が、実際にドイツ中を車でまわり、
街の人々と交流したシーンが使われています。
多くの人が、“ヒトラー”氏と自撮りをしたがったのだとか。
もちろん「そっくりさん」とわかっていて、面白がって、ということでしょうけれど、
それにしてもヒトラーの行ったことの大きさを考えれば、
不愉快に思い、顔をしかめる人が多くて当然のようにも思うのですが・・・。



特に気になったのは、ドイツの方も、
難民など外国人が多く国内に入り込んでくることを危惧している方が多いこと。
人々はそう思っているけれど、ヒトラーの事があって、
その思いを声高に言えないというジレンマもあるようです。
そんな中、外国人や異宗の人々を排斥しろと、ヒトラーは何のためらいもなく宣言する。
テレビやインターネットは、
ヒトラーの実際に生きた時代よりももっと簡単に効率よく、
人々をそれに同調させてしまうのです。


全然笑い事じゃない。
終始私は怖い思いでいっぱいでした。
で、この日帰宅して知ったニュースが、
英国の国民投票でEU脱退が決まったということ・・・。
なんだか複雑な心境になってしまいました。
世界は大丈夫なのでしょうか・・・・。



ヒトラー役のオリバー・マスッチさんは、ほとんど無名の舞台俳優だそうです。
ヒトラーに似せて特殊メイクをしているそうですが、
凄いと思ったのは、この方の目つきが終始怖い!
まことに、恐るべき作品でした。


「帰ってきたヒトラー」
2015年/ドイツ/116分
監督:デビッド・ベンド
出演:オリバー・マスッチ、ファビアン・ブッシュ、クリストフ・マリア・ヘルプスト、カーチャ・リーマン、フランツィスカ・ウルフ

危機感度★★★★★
満足度★★★★☆

野火

2016年06月29日 | 映画(な行)
何と戦っていたのだろう



* * * * * * * * * *

第二次世界大戦末期、フィリピン戦線におけるレイテ島。
物語はいきなりジャングルの中で、物資が極端に不足し、
疲弊した軍隊の様子が描き出されます。
結核を患った田村一等兵(塚本晋也)は、使いものにならないということで
部隊を追放され、野戦病院に送られます。
しかし、食料不足として入院を拒絶されるのですが、
部隊に戻っても受け入れられません。
カメラは、空腹と孤独を抱えジャングルをさまよい歩く田村の姿を追います。
暑さと空腹でふらふらのところへ不意に敵軍の銃弾を浴びたりもします。
やはりここは戦場なのです。
道端に転がる友軍の死体。
すでに見慣れてしまって、感情も麻痺しています。
ついに田村も行き倒れかと思われた時に、顔見知りの兵が現れ、
「猿の肉だ」と言って、食べるようにと差し出すのですが・・・。



人の極限状態を描いているわけです。
すべてが狂気のようでもある。
でもこのような中で、正気でいられる方がおかしいという気もします。
実際にこのような体験をし、生き延びた人は、
無事家族のもとに戻っても決してその体験を語ることはないだろうと思います。
だからPSTDを抱えてしまう。
今でこそ「PTSD」という言葉とその症状は市民権を得ていますが、
敗戦直後の日本で、そのような言葉はなく、
生還してなお、苦しみを抱えた人が大勢いたのだろうなあ・・・。



重いです。
大変重要なメッセージなのですが、やはり重い。
そして残酷。
まあ誰にでもおススメはできません。
が、こういう作品は特に若い方に、一度は見て欲しいですね・・・。
二度までは見なくてもいい・・・。



田村を演じる役者さんに見覚えがないと思ったら、
なんと本作の監督ご本人だったんですね。
そもそも皆顔がドロドロに汚れていて、誰が誰やら、判別がつきにくいですが、
声でやっとわかったのが、リリー・フランキーさんでした。

野火 [DVD]
塚本晋也,リリー・フランキー,中村達也,森優作
松竹


「野火」
2014年/日本/87分
監督・脚本:塚本晋也
原作:大岡昇平
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、森優作
極限状態度★★★★☆
満足度★★★☆☆

「愛の夢とか」 川上弘美

2016年06月27日 | 本(その他)
一時の夢を共有する二人

愛の夢とか (講談社文庫)
川上 未映子
講談社


* * * * * * * * * *

あのとき、ふたりが世界のすべてになった―。
ピアノの音に誘われて始まった女どうしの交流を描く表題作「愛の夢とか」。
別れた恋人との約束の植物園に向かう「日曜日はどこへ」他、
なにげない日常の中でささやかな光を放つ瞬間を美しい言葉で綴った七つの物語。
谷崎潤一郎賞受賞作にして著者初の短編集。


* * * * * * * * * *

川上弘美さんの短編集です。


表題の「愛の夢とか」
「愛の夢」はリストのピアノ曲。
"わたし"は、隣家の老婦人と知り合いますが、テリーと呼ぶように言われます。
間違いなく日本人なのだけれど。
そこで自分のことは「ビアンカ」と呼んでもらうことにする。
"ビアンカ"である"わたし"は、“テリー”の家に足繁く通い、
彼女のピアノの挑戦に付き合うことになります。
「愛の夢」を一度もつかえずに最後まで引き終わること。
時は、あの大震災後の夏。
ほんのささやかな日常も、人の命も、何かの一瞬で消えてしまうことがある。
そんな思いを味わい、しかし、毎日の生活の中でそんな思いも薄れていったころ。
同じ所をつかえながらも、何度も何度も繰り返し引くピアノ曲。
それは二人がすでに忘れかけた少女時代の夢とロマンなのかもしれないし、
過ぎゆく者たちへの祈りなのかもしれない。
そして、ついに完璧にすべてを弾き終えた時―――。
夢の様な時間はいつか終わらせなければならない。
ほんのいっとき共有した美しい想いは、
まるで、どんなに美しく清らかに咲いたバラも散る時が来るかのようでした。


ラストの「十三月怪談」
時子はまだ十分に若いと言える妻。
ところが、不治の病を得てあっけなく他界してしまいます。
残された夫は、しばらくは呆然としたまま悲しみに沈み、
しかし時が次第に心を癒していく。
そして、しばらくして、再婚。
夫は新たな結婚生活を始める。
・・・ところがです。
ここまでは妻の意識で書かれています。
彼女は死後、誰にも見えない姿で、夫のそばに残り続け、
夫の「その後」を見ている。
しかし、その次に夫の意識でまた別の彼の「その後」が始まります。
それはまた全く別のストーリー。
妻の妄執は、死後もまたありつづけるのか。
サスガ怪談というだけあって、ちょっぴり怖いのでした。

「愛の夢とか」川上弘美 講談社文庫
満足度★★★★☆

ロイヤル・ナイト 英国女王の秘密の外出

2016年06月26日 | 映画(ら行)
ロマコメの王道



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エリザベス女王が19才の王女時代、
非公式に一夜の外出が許されたという実話を元にしています。
そう、あの「ローマの休日」のようなストーリーですが、
これがまた、とてもロマンチックで面白い。



1945年5月8日。
6年続いた戦争が終わる、ヨーロッパ戦勝記念日。
英国王女、姉・エリザベス(サラ・ガドン)と妹・マーガレット(ベル・パウリー)は
お忍びでバッキンガム宮殿を後にし、
国を挙げてのお祝いでお祭り騒ぎの街に繰り出します。

ところが、付添人が目を離した隙に、マーガレットは見知らぬ男性とバスに乗って行ってしまう。
エリザベスもその後を追い、別のバスに乗り込みます。
しかし、バスに乗るのもはじめてで、お金も持ち合わせていない。
たまたま同じバスに乗り合わせたジャック(ジャック・レイナー)という青年が
彼女にバス代を差し出しますが・・・。
もちろん彼は彼女が王女であることは知りません。
エリザベスに請われるまま、二人はマーガレットを探し、
どんちゃん騒ぎの街を歩き回ることに・・・。



王女様がお忍びで出かける一夜のほのかな恋。
なんだか自分がおばちゃんであることもしばし忘れて、
少女趣味のロマンティックに浸りました。
これは「英国王のスピーチ」で描かれた王室の6年後。
この夜もエリザベスの父であるジョージ6世が、国民に向けてラジオの生放送で語りかけるのです。
王がスピーチを苦手なことは家族もわかっていて、
だからこの夜のスピーチのこともちょっと心配のようでした。
エリザベスは、下町の酒場でジャックとともに父王のスピーチを聞くことになります。
こんなことも知っているといないとでは、興味の持ちようが変わりますね。


ジャックは空軍兵ですが、実は隊を脱走してきていたのです。
エリザベスも窮屈で自由にならない身の上から逃げ出してきている。
そんな二人がいつしか共感を覚え惹かれていくという設定がいいですね。
しかし、二人とも自分がいるべきところに戻らなければならないことはよくわかっている。
その上で
「二人でこのままパリに行こう。
エッフェル塔やモンマルトルや・・・。
二人ならなんとかやっていけるよ・・・」
しばし夢を語るこのシーンがなんとも切なく素敵でした。


戦争が終わったことで街は浮かれているけども、
この戦争で命を失った人や空襲で家を破壊された人、
多くの貧しい人々・・・
そういう現実をもエリザベスは実際に自分の目で見るわけです。
押さえるべきところもちゃんと押さえてありますね。
特に女性にはおススメです。

「ロイヤル・ナイト」
2015年/イギリス/97分
監督:ジュリアン・ジャロルド
出演:サラ・ガドン、ベル・パウリー、エミリー・ワトソン、ルパート・エベレット、ジャック・レイナー


ヒトラー暗殺 13分の誤算

2016年06月25日 | 映画(は行)
もし暗殺が成功していれば・・・



* * * * * * * * * *

実話を元にしています。
1939年11月8日。
ミュンヘンのビアホールで演説を行ったヒトラー。

予定よりも早く切り上げて会場をあとにしました。
その13分後、ホールに仕掛けられていた時限爆弾が爆発したのです。
実行犯として捕らえられたのは田舎の家具職人、
ゲオルク・エルザー(クリスティアン・フリーデル)。
当局はこの爆破行為の背後の組織や黒幕を聞き出すために、
ゲオルクに拷問や、恋人と引きあわせて脅すなど、あらゆることをするのですが、
ゲオルクはあくまでも単独犯を主張。
実際に、時限爆弾の詳細な図面まで書いてみせたため、
単独犯であることは認めざるをえないようでした。
家具・時計職人で、音楽とダンスを愛し、どの政党にも所属していないゲオルク。
なぜこの一介の男がこのような行為を行うに至ったのか。
本作は、その過酷な取り調べの様子と交互に、
ゲオルクのこれまでのことが描かれています。



このヒトラー暗殺を単独で企てた男のことは、
何故か長年の間、政府により封印されていたそうです。
この時の爆破で、無関係の人の命までも奪われたということで、
ヒーローと呼ぶのはふさわしくないかもしれませんが、
もしこの暗殺が成功していれば、世界の歴史は大きく変わっていたかもしれません。
そしてまた、本作を見ると
どのように人々がナチに心酔し同調していったのかもよくわかります。
そんな中で、常にナチズムに対しての危機感を持ち、
単独ですべてをやり遂げたというのは、全く恐るべきことです。
こんなことになる前に、私たちは気をつけねばなりません。
時には痛快に感じてしまうこともあるのかもしれないヘイトスピーチ。
自分の心をしっかり持って受け止めなければ・・・。



そんなわけで今ちょっと気になっているのが、公開中の「帰ってきたヒトラー」。
タイムスリップして現代にやってきたヒトラーが、
ヒトラーのものまね芸人として人気を得てしまうのですが、
人々が次第に彼の力強い演説に引きこまれてしまうというお話・・・。
コメディではありますが、ありそうな話なので怖いですね。
何にしても話題になってしまうヒトラー・・・


「ヒトラー暗殺 13分の誤算」
2015年/ドイツ/114分
監督:オリバー・ヒルシュビーゲル
出演:クリスティアン・フリーデル、カタリーナ・シュトラー、ブルクハルト・クラウスナー、ヨハン・フォン・ビューロー、ダービオ・ツィンマーシート

はまなすの丘公園 2016年6月

2016年06月24日 | 札幌散歩
どこまでもハマナスの野原



はまなすの丘公園があるのは、札幌のお隣、石狩市。
石狩川河口のところにある、海浜植物の生い茂る公園です。
冒頭の写真は、木道のところから見た石狩灯台とビジターセンター。

まずはやはり、この鮮やかな紅色が目を引きます。
駐車場で車を降りた時から、ハマナスの甘い香りが風にのってきました。




ハマエンドウ


エゾスカシユリ


エゾカワラマツバ




視界の範囲はずーっとこんなふう


ハマヒルガオ


コウボウムギ


ハマボウフウ


ハマニガナ


この近くのビーチでは砂の像が展示されていました。








それで、これはなんだと思いますか?

ゴジラの足跡、ということなのですが・・・
中には入れないし、比較するものがないから大きさがわかりませんね。
実際は、かなりの大きさなんですが。


最近は海水浴に行くこともないので、
久々に海辺を楽しみました。

「ダンス・ダンス・ダンス 上・下」村上春樹

2016年06月23日 | 本(その他)
全てはつながっている

ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)
村上 春樹
講談社


ダンス・ダンス・ダンス(下) (講談社文庫)
村上 春樹
講談社


* * * * * * * * * *

『羊をめぐる冒険』から四年、
激しく雪の降りしきる札幌の街から「僕」の新しい冒険が始まる。
奇妙で複雑なダンス・ステップを踏みながら「僕」はその暗く危険な運命の迷路をすり抜けていく。
七〇年代の魂の遍歴を辿った著者が八〇年代を舞台に、
新たな価値を求めて闇と光の交錯を鮮やかに描きあげた話題作。(上)


失われた心の震えを回復するために、
「僕」は様々な喪失と絶望の世界を通り抜けていく。
渋谷の雑踏からホノルルのダウンタウンまで―。
そこではあらゆることが起こりうる。
羊男、美少女、娼婦、片腕の詩人、映画スター、そして幾つかの殺人が―。
デビュー十年、新しい成熟に向かうムラカミ・ワールド。(下)


* * * * * * * * * *


『羊をめぐる冒険』の続編となっています。
なんだかやっと村上春樹さんの文章とかスタイルにすっかり馴染んだようで、
どのシーンもすごく興味深く楽しんで読めた気がします。
楽しんで・・・と言っても、内容はなかなかハードなのですが。


物語は、前作の4年後から始まります。
「僕」は、
「見失っているし、見失われている。混乱している。どこにも結びついていない。」
そのような虚ろを抱えたままのある時、あの"キキ"の夢を見ます。
何度も繰り返して。
「僕」は、キキが呼んでいるような気がするのですが、行方が全くわからない。
手がかりを探しに、札幌の"いるかホテル"にやってきます。
ところが行ってみて驚いた。
同じ場所に「ドルフィンホテル」はあったのですが、新しい巨大な豪華ホテルが建っている。
あの、羊の博物館のあった古いホテルはすでに無く・・・。
やむなくそこに宿泊した「僕」は、
それでも自分とつながっている不思議な場所へと導かれ、"羊男"と再会します。
羊男はいいます。
「踊るんだ、踊り続けるんだ。音楽のなっている間はとにかく踊り続けるんだ。」


ダンスをしろというわけではないんですよ。
流れ続ける音楽に合わせること、
すなわち周りの状況のままに、タイミングを逃さず、やるべきことをせよ!ということ。
その時から、「僕」は様々な人と出会います。
ホテルの精のような女性、
母親に忘れられた美少女、
娼婦、片腕の詩人、
中学の時同級生だった二枚目スター。
なんと警察で幾日も事情聴取を受けたりします。
また、ハワイでののどかな二週間もあったりするのですが、
でもそれは大事なヒントを掴むためのものでもあったのです。
「僕」は、音楽に合わせて見事に踊った!!


そして、ものすごくショッキングな真相も現れてきます。
すべてはつながっている。
驚かされて、そして「僕」の味わう苦悩に恐れおののく・・・。

五反田くん・・・!!

今さらですが、私、村上春樹ファンになりました!!
これまではそうじゃなかったのかって?
嫌いではなかったけれど、のめり込むほどでもなかったかな、と。
でも本作で、完全にのめり込みました。

「ダンス・ダンス・ダンス 上・下」村上春樹 講談社(図書館蔵書にて)

満足度★★★★★

64(ロクヨン) 後編

2016年06月22日 | 映画(ら行)
父親の執念を見よ!



* * * * * * * * * *

「64」お待ちかねの後編です。
先の昭和64年の誘拐事件とそっくりな誘拐事件が勃発。
単なる模倣犯か、それとも・・・?



本作の見所は、先の誘拐事件で娘を殺害された雨宮(永瀬正敏)と
三上(佐藤浩市)が語り合うシーン。
雨宮が警察の広報官である三上に向かって「あなたは大丈夫ですか」と言うのです。
そこまでに、公私にわたって憔悴しきった三上。
つまりその時、雨宮は三上の家庭の事情を何故か知っていた、という訳です。



今回もまた、広報室は新聞記者たちに責めぬかれますが、
少なくとも地元の記者たちは多少同情的だったのが救いでした。
これこそが、前編で感動の演説を行った三上の成果なのであります。
あれで、多少なりとも記者クラブの面々と広報室に
ある種の連帯感が生まれたわけですね。



さて、この後編については、私は意外と感動の波は高くはなく・・・。
前編の演説の盛り上がりに圧倒されすぎたせいかもしれません。
なんとなく、ああ、こんなもんだよね・・・といううちに終わってしまいました。
しかし、考えてみると、本作の中の最も感動すべきキモが、雨宮がとった行動についてなのですが、
ここのところがさすがの私も本で読んで忘れられなかったので、
だから私としては盛り上がれなかったわけなのです。
本を読んでいない方ならきっと、このことには驚かされるはず。
この、なりふり構わない父親の執念に、
三上も圧倒され、自分の「父親度」を考えなおすことになるのです。


 
あ、だから決してつまらないわけではないので、是非ご覧下さいね。



昭和64年に取り残されたのは雨宮だけではなかった。
昭和64年を終わらせるために今度の誘拐事件は起きた。
やはりこの原作が素晴らしい!

「64(ロクヨン) 後編」
2016年/日本/119分
監督:瀬々敬久
原作:横山秀夫
出演:佐藤浩市、永瀬正敏、綾野剛、榮倉奈々、夏川結衣、緒形直人
満足度★★★☆☆

起終点駅 ターミナル

2016年06月21日 | 映画(か行)
最果ての釧路はそれだけで絵になる



* * * * * * * * * *

北海道在住の桜木紫乃さん原作の作品は、やはり気になります。
本作は映画を見たかったので、本の方は未読でした。



学生時代に愛した人(尾野真千子)と再開したものの、今は妻子ある身。
不倫の果てに、相手を自殺に追いやってしまった鷲田完治(佐藤浩市)。
以後25年間、妻子とは別れ釧路で国選弁護士としてひっそりと暮らしてきました。
己を罰するかのように・・・。
そんなある時、椎名敦子(本田翼)という若い女性の弁護を担当したことをきっかけに、
彼女が自宅を訪ねてくるようになります。
完治の止まっていた時間が少しずつ流れ始める・・・。



彼は元裁判官で、旭川の裁判所に単身赴任。
2年ほどで東京へ戻れるはずで、法曹界の出世街道まっしぐらだったのです。
けれど結局自分が愛する人を殺してしまったという思いを捨て去ることができず、
自分の幸せを放棄してしまったのですね。
その行き先が地の果て釧路・・・。
あ、釧路にお住まいの方、ごめんなさい。
同じ北海道とはいえ、札幌に住んでいる私から見ても、
釧路はいかにも地の果て感たっぷり。
そこで通常の弁護士としてではなく、国選弁護の仕事しかしないと心に決め、
慎ましい借家でわびしい一人住まい。
慙愧に堪えない彼の気持ちも痛いくらいにわかりますが、
潔いそこまでの決意に、胸を突かれます。
完治は、殆ど葉室麟さんの描く武士のようでもあります。
が、あまりにも頑なであるのも確かで、
その心に張り巡らせた壁をこじ開けるのが敦子の役割。
何よりもその若さが初老の男の心に風を吹き込みます。



完治が料理をするシーンが多くありまして、
ザンギやイクラ、北海道ならではなんですが、実際美味しそう!! 
ザンギって何?と道外の方は思うでしょうけれど、
つまりは鶏の唐揚げです。
けれど作中で、敦子の
「鶏の唐揚げなんて言ったら、なんだか味がしみてなさそう・・・」
というセリフがあります。
確かに、その通り。
ザンギはやっぱりザンギでしょ!
これにビールがあればもう言うことなし!!
(完治は禁酒もしていたようです。どこまでもストイックなお方・・・)



地の果ての「終点」は、けれども「始発」駅でもある。
だからこそ舞台が「釧路」であることに意義がある。
幣舞橋を、買い物袋をぶら下げてとぼとぼ歩く佐藤浩市さん。
いいわ~。

「起終点駅 ターミナル」
2015年/日本/11分
監督:篠原哲雄
原作:桜木紫乃
出演:佐藤浩市、本田翼、中村獅童、泉谷しげる、尾野真千子

釧路度(?)★★★★★
佐藤浩市さんのうらぶれ度★★★★☆
満足度★★★★☆

宮丘公園 2016年5月

2016年06月20日 | 札幌散歩
ホームグラウンドへようこそ



札幌市西区にある宮丘(みやのおか)公園は、市内でも全然有名じゃない小さな山地に作られた公園ですが、
我が家にほど近いので、私のいつもの散歩道となっています。

広い緑の広場があるほかは特に何もないのですが、
遊歩道には手付かずの草花があり、四季折々にいろいろな花を発見するのが楽しみの一つ。
この度私も時間ができて、毎日のように通うようになると
これまで幾度も行ったことがあるにもかかわらず、はじめて気がついた花も多いのです。
最近の私は、朝ドラ「とと姉ちゃん」に出てきた「葉っぱの兄ちゃん」みたいに
足元の草花に目を凝らす日々。


冒頭のミズバショウは、5月ではなくて4月の中旬に撮ったもの。
今年は特に花が早いようでした。
そのミズバショウが、5月の末くらいにはこんなふうになります。
葉に迫力があります。



ヤマブドウの新芽がほんのり赤く、可愛らしい。




マイヅルソウ


ニリンソウ


タチツボスミレ


ツボスミレ


クルマバソウ




ギンラン


エゾエンゴサク
「エゾ・・・」というくらいなので、道外にはあまりないのでしょうか?


マムシグサ
図鑑には「コウライテンナンショウ」とあって、なんだか少し高貴な感じがするのですが
「マムシグサ」というと、急におどろおどろしくなってしまいますね。
でも実際、有毒なのだそうです。

マムシ3兄弟


ヒトリシズカ


オオカメノキ


6月編も乞うご期待!

おまけ・・・タンポポの綿毛も、よく見ると美しい



「潮鳴り」 葉室麟 

2016年06月19日 | 本(その他)
落ちた花が再び咲くとき

潮鳴り (祥伝社文庫)
葉室麟
祥伝社


* * * * * * * * * *

俊英と謳われた豊後羽根藩の伊吹櫂蔵は、役目をしくじりお役御免、
いまや"襤褸蔵"と呼ばれる無頼暮らし。
ある日、家督を譲った弟が切腹。
遺書から借銀を巡る藩の裏切りが原因と知る。
弟を救えなかった櫂蔵は、死の際まで己を苛む。
直後、なぜか藩から出仕を促された櫂蔵は、弟の無念を晴らすべく城に上がるが…。
"再起"を描く、『蜩ノ記』に続く羽根藩シリーズ第二弾!


* * * * * * * * * *

『蜩ノ記』に続く、葉室麟さんの羽根藩シリーズ第二弾ということですが、
直接の関係はないので、『蜩ノ記』を読んでない方でも大丈夫です。


伊吹櫂蔵は、ある役目のしくじりで弟に家督を譲り、
その後することもなくおんぼろの番屋に寝泊まりする毎日。
実家から多少の生活費をもらいますが、
博打であっという間に使い果たしてしまう体たらく。
人からは「襤褸(ぼろ)蔵」と呼ばれ蔑まれるまでに・・・。
そんなところへ、弟が訪ねてきます。
弟は父の後妻との間の子で、特別に親しいわけではありません。
何よりもその後妻である「母」が厳しい人なので、
だからこそ、櫂蔵は家にいられないのです。
弟は、家のものを多少売却することの許可を受けに来たのです。
そしてその見返りとして3両を置いていくのですが、
なんとその翌日、弟が切腹をしたとの知らせが入る。
せっかくの3両も、いつものようにあっという間に博打で使い果たしてしまった櫂蔵は
激しく後悔しますが・・・。
亡き弟に替わり藩に出仕することになった櫂蔵は、
弟の切腹の裏の事情を探っていきます。
ある豪商と癒着した上役の汚職・・・。


襤褸蔵とまで呼ばれた櫂蔵の高潔な決意と再生。
彼の真をみて、協力していくようになる周りの人々。
彼と心を通わせた女性・お芳の悲しい一節もありますが、
清々しい思いに満たされる一作。


櫂蔵は、下手をすれば弟と同様、
切腹に追い込まれるような危ない立場にもあったのですが、
彼は絶対に切腹はしない、と決意します。
襤褸蔵と呼ばれた時代、それは彼にとって死んだも同然のとき。
落ちた花を再び咲かせようと思ったからには、切腹などできないのです。
『蜩ノ記』の、「死を前提とした生」とは対局と言えましょう。
私は、こちらのほうが好きかも。

「潮鳴り」葉室麟 祥伝社文庫
満足度★★★★★

探偵ミタライの事件簿 星籠(せいろ)の海

2016年06月18日 | 映画(た行)
こんなはずでは・・・



* * * * * * * * * *

島田荘司ミステリを愛し、またその中でも御手洗潔シリーズの大ファンである私は、
本作を楽しみにしていました。
ところが・・・、どうやったらこんなに面白くなくなるんだっ!
というくらいに悲惨な作品と、私には思えてしまいました。


瀬戸内海の小さな島に半年間で6体もの身元不明死体が流れ着いた、
ということに興味を持ったミタライ(玉木宏)は、現地に赴きますが、
その死体が広島県福山市から流されたこと突き止めます。
その後も幾つか不可解な事件が続きますが、
ミタライが絡みあう事件の真実を探っていきます・・・。



すみません、まともにあらすじをお話する気にもならず・・・。
と言うかこれ、原作は上下2巻のかなりのボリュームのものなんですよ。
それを無理やり2時間足らずにしようとするから、
まるでダイジェスト版みたいになってしまっている。
まともに描こうとしたら、「64」ではないけれど、前後編が必要です。
こんなに端折ってしまうから“人物”が全く描かれておらず、
誰に感情移入すべきなのかもわからない。
おまけに、ミタライが言葉だけで長々と状況を説明するシーンには、眠気がさしてしまう。
…私、一応玉木宏さんのファンではあるのですが、
これでは彼の魅力も何もあったものではない。



そうそう、最大の失敗は「石岡くん」を登場させなかったことです。
(声だけ出てきたけど)。
本作のパイロット作品的に以前TVドラマ特番で
ミタライシリーズが放映されました。
それにはちゃんと石岡くんが登場し、まずまずの掛け合いをやっていました。
この時の石岡くんは堂本光一さんで、
昔からの御手洗シリーズファンとしては違和感もありましたが、
でもそう悪くはないかとも思ったのです。
だからこの映画にも当然出てくるものと思ったのですが、
なんで出ないことにしちゃったのでしょう??? 
この二人が出てくるからこそ面白いのに、なんで広瀬アリスなんでしょうかねー。
男二人では花がない?
イヤイヤ、今時、イケメン男子の二人の掛け合いのほうが
女子には絶対受けるのに。
しかも広瀬アリスはキャンキャンとうるさいし。



星籠の歴史に絡む謎の部分も、ほんの付け足し的扱いで、
意味がよくわからない方もいたのでは・・・? 
原作には少年が登場していて、この鞆の浦の美しい海と、
星籠という言葉の意味を実感させてくれるのですが・・・。
また、ラストの御手洗が船を追うシーンは、
原作ではシリーズでもまれなスペクタクルシーンなのですが、
映画にしたほうが、全然スペクタクルじゃなくなってしまっているというのも皮肉です。



ミステリに興味がある方はこんな映画を見てはいけません。
是非、本の方を読んでください。
玉木宏か広瀬アリスがよほど見たいという方は仕方ないですけどね。


原作→「星籠の海」

「探偵ミタライの事件簿 星籠の海」
2016年/日本/107分
監督:和泉聖治
原作:島田荘司
出演:玉木宏、広瀬アリス、石田ひかり、要潤、谷村美月

満足度★★☆☆☆

ぼくらの家路

2016年06月17日 | 映画(は行)
ドイツ版「誰も知らない」



* * * * * * * * * *

ドイツ版「誰も知らない」のような作品。
10歳ジャックと6歳マヌエルの兄弟は、シングルマザーの母と3人暮らし。
しかし常にいろいろな男が出入りしています。
ある事件があり、ジャックは施設に預けられることになってしまいます。
他の仲間とはなかなか打ち解けられず、
彼を目の敵にしていじめる奴もいる。
そんなだから、ジャックは施設に馴染むことができず、
ひたすら家に帰ることができる夏休みを心待ちにしていたのです。
ところがいよいよ夏休みに入るというその日、
母から「迎えに来られなくなった」との電話。
落胆したジャックは、施設を飛び出し、夜通し歩いて我が家に帰り着きます。
しかし母は不在。
鍵がないので家には入れません。
ケータイも留守電のままでつながらないのです。
翌日、弟の預け先から弟を引き取ったジャックは、
母の仕事場や以前の母の男の元を訪ね歩きますが・・・。



母親は、実際にそばにいれば明るく優しい母なのです。
しかし、保護者としての責任感が著しく欠如している。
平気で子どもを置いて家を空ける。
これがネグレクトであるという自覚もないのでしょう。
この母の姿は、「誰も知らない」の母親にとても良く似ています。
母の行先は新たな男の元だということも。



それにしても、ジャックのたくましい「生きる力」に打たれます。
こんな母だから、そうならざるを得なかったわけですが。
彼は実によく弟の面倒を見ます。
実際はまだまだ自分自身が母親に甘えたい年齢なのに・・・。
これも、母親がまったく頼りにならないということの裏返し。



本作ラストでは、兄弟はようやく帰ってきた母親と平和な一夜を明かすのですが、
その時のジャックの決断。
これが凄い。


お金も食べるものもなく、幼い弟を連れ歩き、野宿をして・・・
そうして少年は大人にならざるを得なかった。
そしてその時、
母親自身が大人になりきらない「子ども」であることが見えてしまったかのようです。


ぐさりと心に刺さる作品です。

ぼくらの家路 [DVD]
ネレ・ミュラー=シュテーフェン,エドワード・ベルガー
アルバトロス


「ぼくらの家路」
2014年/ドイツ/103分
監督:エドワード・ベルガー
出演:イボ・ピッツカー、ゲオルグ・アームズ、ルイーズ・ヘイヤー、ネル・ミュラー=ストフェン、ビンセント・レデッキ
児童虐待度★★★★☆
少年の生きる力★★★★★
満足度★★★★.5