映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「村田エフェンディ滞土録」 梨木香歩

2007年05月31日 | 本(SF・ファンタジー)

「村田エフェンディ滞土録」  梨木香歩  角川文庫

さて、まず、この題名の解説からはじめなければならないでしょう。
そもそも、時代は100年前。明治時代です。
日本からトルコへ留学した青年の物語。
彼は、トルコではエフェンディと呼ばれましたが、それは尊称で、「先生」くらいの意味。
それでつまり、「村田先生のトルコ滞在記録」というわけです。


私自身、これまであまりこの作家の作品は読んでいないのですが、ファンタジーの作家ですよね。
この題名からすると歴史物?と思えるのですが、やはりこれはファンタジーと分類すべきかも知れません。
ただし、荒唐無稽な想像の産物というものではありません。

まず、1899年。
明治政府のもと、多くの面で世界に立ち遅れた日本を何とかヨーロッパレベルまで引き上げようと必死になっていた時代。
時代設定も特異ながら、その時代のトルコとなると、これまで小説の題材としてもほとんどなかったのではないでしょうか。
トルコは西洋、東洋の交わる場所。
トルコ人・ユダヤ人・アルメニア人・ギリシャ人、人種もさまざまなら、宗教もさまざま。
そんな中で、帝国主義の欧州から自国を守らねばならないという複雑で大変な状況下にある。
村田は、このトルコに考古学の勉強をしにきているという設定です。
このようなきちんとした時代考証の中で、想像を自由に膨らませ、登場人物たちが個性豊かに活き活きと生活しているのは、魅力的です。

同じ宿舎に住むギリシャ人のディミトリスは言います。
「(日本の)善き貧しさを保つことだな。
西の豊かで懶惰な退廃の種を、君たちが持ち帰らないようにすることだ。」
それに対する、村田の思い。
「---豊かな退廃など、私は今の日本に想像すらできなかった。
祖国が少しでも豊かになってほしいとの思いで必死、いつくるか分からぬ危険な豊かさへの懸念など、まるで寄せ付けなかった・・・。」
このあたりは、今、まさに「豊かな退廃」に埋もれている日本からすると、ぐっと来ますね。
確かに、当時の日本人はこのような思いで必死だったのだろうと、なんとなく時代の空気が分かる気がしました。

それから、この悠久の歴史を持つ地で、村田はさまざまな不思議な出来事を体験します。
夜彼の部屋の壁にに不思議な映像が浮かび上がったり、
部屋にお稲荷さんの狐の根付を持ち込むと、もともとそこの主であった牡牛の神と追いかけあっている音が聞こえたり、
そこへエジプトのアヌビス像が加わるともっとひどい騒ぎになったり・・・、
それが恐ろしいことではなく、よくあることのように淡々と語られるのが、また、魅力。
単なる物体でも、長年人の想いがこめられて行くと、それもまた、意識を持つようになる・・・、それが神の正体。
これはとても日本的な解釈かも知れないのですが、これは村田の専門である考古学とも非常につながりのあることなのです。
彼は言います。
「消えていった者の声は、遺跡から発掘される壷や皿のかけらにわずかに残存し、誰もいないとき資料室の倉庫で耳を傾ければ、ざわざわとした囁きで部屋中が震えるように緊張して行くのを、過去私は何度体験したことだろう。」
ストーリーと共に想いが100年前へ、さらには果てない過去へとめぐらされる、余韻の深い作品でした。


モーツァルトとクジラ

2007年05月28日 | 映画(ま行)


「パール・ハーバー」以来気になる俳優、ジョシュ・ハートネットが出ているこの作品「モーツァルトとクジラ」。

ジョシュ演じるドナルドは、アスペルガー症候群。
映画のチラシ曰く「知的障害のない自閉症」、ということで、つまり人とのコミュニケーションがうまく取れない。
同じ障害を持つイザベラと出会い、お互いに惹かれあいます。

ドナルドは、自分を引け目に感じ、からに閉じこもりがち。
一方イザベラは、思ったことをすぐ口にしてしまうけれど、明るく、自由奔放。
こんな2人だから逆に惹かれあったのでしょう。

近頃よくこのアスペルガー症候群という言葉を見かけますが、私はよく内容をわかっていませんでした。
この映画は、その実情をよく語っています。
一般的な人との付き合いの中で、なんだか変わっている、時々突拍子もないことを言ったり、急に感情の爆発があったりする、そんな人がいたりします。
そんな人たちは、なかなか人の輪に入っていけない、入ってもいつの間にか仲間はずれにされているという状況があります。
この作品では、そんな孤独なみんなを何とかしようと、ドナルドが同じ障害のある人たちのサークルを作っています。
障害というよりは、かなり強い個性なのかも知れません。
このようなことを理解すれば、もっと私たちは、彼らとうまくつきあえるはず。
こんなことを考えるきっかけになる作品です。

さて、でも、ここまでは前フリで・・・、

この物語は単にアスペルガー症候群の障害者の物語ではないと思いました。

例えば、どこか自分は他の人と違う感じ、うまく人となじめない、うまく思ったことを伝えられない。(恋をしたときには特にね!)
そんな気持ちは、多かれ少なかれ誰しも持ったことがあるのではないかな。

恋人との気持ちのすれ違いも・・・。

だから、これは人の気持ちのゆれ幅の振幅が普通よりもっと大きい、いわば象徴的な物語と言えるかもしれません。
障害者が、どうのこうの・・・、と、難しく考える必要はなくて、誰にでもある普通のラブストーリーという受け止め方でいいと思います。

ハロウィンにデートの待ち合わせをしたけれども、出かけていく勇気がないドナルド。
あ~、もう遅刻だ、どうしようどうしようと、あせっているんだけれど、時間だけが過ぎていく。
こんな感じ。誰もが共感できるところです。

ちなみに、この映画題名は、ハロウィンの日に2人がした仮装です。
音楽好きのイザベラがモーツァルト。
ドナルドのクジラは、大きくてゆったりと人を見守っているというイメージ。
かわいい2人連れでした。

&冒頭、ドナルドの運転するタクシーに乗って、ずっと仕事の話をしていた2人の日本人のオジサンにはちょっと笑えました。

2004年/アメリカ/94分

監督:ベター・ネス
出演:ジョシュ・ハートネット、ラダ・ミッチェル

 

モーツァルトとクジラ
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ロナルド・バス
アートポート

パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド

2007年05月27日 | 映画(は行)

え~、疲れました。
2時間50分あったんですね。まあ、退屈はしないけれども、すごいシーンの連続で、さすがに疲れるという。
はじめは、シンガポールのシーン。猥雑で怪しげ、よくあんなセットを作るもんだと、感心してしまいます。
さすがにチョウ・ユンファは存在感ありました。
いきなり、オーランド・ブルームが水がめの中から登場したのにはびっくり。おいおい、いつから潜らされてたんだっ!!
もう。そんなのは序の口ですから。
東インド会社と、それぞれの海賊が手を組んだり、裏切りあったりの繰り返しで、何がなんだかわからなくもなるなあ・・・。
基本的には、ベケット卿=デイビー・ジョーンズ(タコ怪人)。対して、ジャック・スパロウ=ウィル=エリザベス。一筋縄では行かないけど、このような構図と思えばいいよね。
前回、クラーケンに襲われて死んでしまったと思われるジャック・スパロウ船長の救出が初めの難関。・・・世界の果て?
あんなのが世界の果てなら、だんだん海の水がなくなってしまいそうだなあ・・・。
いやいや、ジャックがいた場所からもわかるように、あれは四次元的な存在なんで、その心配はないのかと・・・。
あの滝のふちがその世界への入り口になっているのでしょう・・・。
なかなかシュールでしたねえ。
ジョニー・デップが何人もいたり・・・(結局彼の妄想のようでしたが)。
あのカニさんは、素敵でした。ただの白い石かと思えば・・・。
砂の上を、船が行く・・・・。
「世界の果て」から、この世に戻る方法も奇想天外。
やっと、この世に戻れば、次はデイビー・ジョーンズとの決戦。これは前作からの引き続きの確執ですから・・・。
あの、タコ怪人はそれにしてもすごいよねー。
あんなキャラ、よく考えつきますよね~。
まあ、便利ですけどねえ、結構器用だし。
お腹がすいたら、お刺身にして食べてもいいしね。
最後の決戦は、本当にもう、すごかったです!
どうやって、あんなシーンを作るのかと、そのほうが気になっちゃうくらい。
ちょっと、そんなこと気にしてないで集中しなさいよ。
戦闘中に、結婚までしちゃうのよ、あの二人。絶対別れるって思ったのに。
何を期待してるんだか・・・。
未練はありながらも、見守るジャック。いいじゃないの。
おちゃらけているくせに、そういうとこ、妙に思いやりのある、大人のジャックなんだよねえ。
まあ、ジャックが誰かのものになってしまったら、ファンからブーイングだからさ。
それもそうだね。それから、この作品には、ジャックの父親まで登場するという、サプライズ。
ローリング・ストーンズのキース・リチャーズなんだね。ジョニー・デップが彼をイメージして役作りをしたというので、特別出演というわけですね。
その他大勢のキャラにもなかなか楽しい人がいろいろいました。9人の海賊たちや、ブラック・パール号の手下たち。
私はおサルのジャックが気に入りました!あの、氷の海を行くときの寒そうな演技!すばらしい!
毎回出てくるワンコこもかわいいしねっ。
最後は思いきり、意外でショックでしたが・・・。
ウィルがあんなことになるなんてねえ。あの箱に、彼の心臓が入っていたということ・・・。エリザベスが夜な夜な彼を思い出してスリスリするという・・・。
ばかな想像するのはやめなさいっ!!
でもでも、絶対いえるのは、エンドロールの終わりまで、お見逃しなくってことです!!
はい、そのとおり。きちんと見ないと一生の損ですよ~。

2007年/アメリカ/170分

監督:ゴア・ヴァービンスキー
製作:ジェリー・ブラッカイマー
出演:ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ、チョウ・ユンファ

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ジョニー・デップ,オーランド・ブルーム,キーラ・ナイトレイ,ステラン・スカルスゲールド,ビル・ナイ
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札幌シルバリー男声合唱団のこと

2007年05月26日 | コンサート

2007年5月26日、札幌共済ホールにて、札幌シルバリー男声合唱団のコンサートがありました。
平均年齢74歳という男性合唱団。
ほとんどの人が、退職後初めて歌ったという方々です。
実はうちの父もその一人。
だから、まあ、身びいきな話にしたいとは思いつつ、私、プロの演奏は聞きなれておりますので、正直、レベルはそれほど高くはないです。

この合唱団は今年で結成15周年。
うちの父も割と早い時期から加わっており、2年に一度のこのコンサートには、いつも狩り出されております。
観客は早い話が、それぞれの身内がほとんどなんですけどね・・・。
初めて、聞いたときには意外と素敵じゃない!?と思いました。
おじいちゃんばかりですから、もっと、いい加減なものかと、実は思ってしまっていたので・・・。
ところがですよ、回を増すごとに、このレベルが低下していく・・・。
なんだか、よれよれになっていく。
少しずつ新しいメンバーも入っているようなのですが、ほとんど、同じメンバー、つまり、全体にどんどん老化が進んでいく。
悲しいことですが、声も出にくくなり、歌詞も覚えにくくなっているというのが実態のようです。
年をとるというのはそういうことなんだなあ・・・、と思わず実感してしまうのですね。
いや、でも、その割には皆さん、ボケもせず、かくしゃくとしているのは、このように定期的に集まり、歌っているからに違いありません。
体が動く限りは、がんばってほしいものだと思います。

さて、そんな中で、ラストの唱歌メドレーにはちょっと心揺さぶられました。
日本の懐かしい童謡ですが、
「うさぎ追いしあの山・・・」おなじみの「故郷」から始まって、
春の小川、朧月夜、鯉のぼり、茶摘、夏は来ぬ、
・・・・つまり、少しずつ季節が変化していくのです。
春、夏、秋、冬・・・。
じっくり、歌詞に耳を傾けてみました。
こんなにゆったり、唱歌を聴くのも久しぶりかもしれません。
誰かの言葉ではありませんが、「美しい日本」がそこにあります。
今はもう幻かもしれない、美しい日本。
これを歌っているおじいちゃん方も、いろいろな感慨がありそうに思えました。
ご自分の懐かしい故郷の風景、子供の頃の情景などを思い浮かべたかも知れません。
そして、最後にはもう一度「故郷」。
止めを刺された感じですね。
郷愁の念。思わず、涙がこぼれました。
この情感は、やはり、年齢をかさねたこのチームだからこそ、出せたのではないかと思います。

ヨレヨレなんていってごめんなさい。
また、この次も聞きに行きますので、よろしくお願いいたします。


「1ポンドの悲しみ」 石田衣良

2007年05月26日 | 本(恋愛)

「1ポンドの悲しみ」 石田衣良 集英社文庫

短篇集。しかもすべてラブストーリーです。
「スローグッドバイ」に続く恋愛短篇の第二集ということなのですが、残念ながらそちらのほうは読んでいませんでした。
この本に登場する女性たちは皆30代前半。
もう、うきうきとはじけるような恋をする年でもないし、容姿も、絶頂を過ぎてきている頃。
う~ん、でも30代は私から見ればぜんぜん若くて、はつらつとしていますけどね。
未婚、既婚、立場はさまざまですが、微妙に揺れる女心を、実に素敵に描いていると思います。

私が気に入ったのは、「11月のつぼみ」という作品。
夫とまだ幼い息子もいる英恵は、花屋に勤めている。
そこへ必ず週一回訪れて花を買っていく客の芹沢。
ほんの少し、会話を交わすだけなのだけれど、なぜかいつもそれが楽しみになっていることに気がつきます。
やんちゃ盛りの息子と、仕事ばかりで一日にほんの数分も自分をちゃんと見ようとしない夫。
このままでは生活に疲れ、どんどん乾いていってしまう、と思う英恵にとっては、きちんと正面から自分を見て話しかけてくれる芹沢が、好ましく思えたのです。
あるとき、実は芹沢も彼女を気に入って、毎週花を買いに来ていたということがわかります。
そこで二人は初めて”デート”の約束をするのですが、待ち合わせた公園の池の周りをしばらく歩いただけでした。
お互いの気持ちは十分に通じ、分かり合いながらも、それぞれの生活を壊してまでもというところまでは行かない。
最後に指先を握り合っただけの、はかない恋。
芹沢は転勤が決まって、これが最初で最後のデートとなりました。
愛ともまだ呼べない、けれど、友情ではなくて、やはり、男女の心の物語なのですね。
咲くことのなかった、つぼみ。そんなしずかな物語です。


さて、こんなふうで、これは思ったより、ピュアな恋愛ものなのか?
と、思いきや、次第に濃密さを増していきまして、この表題の「1ポンドの悲しみ」は思い切りベッドシーン満開です。
私は、朝の通勤バスでこれを読み始めて、思わず、あたりを見回してしまいました。
ううっ、いくらなんでも、朝からこれは濃すぎる!!
心残りながらも、途中で閉じましたが、これは遠距離恋愛で、一ヶ月ぶりにあった男女のお話。
けれど、結局読後感はさほどいやらしい印象がない。
このように濃密な描写をこんなにきれいに描けるのも、すごいなあ・・・と、改めて思ってしまいました。
お勧めの一冊です。


「ダンテ・クラブ 上・下」 マシュー・パール

2007年05月23日 | 本(ミステリ)

「ダンテ・クラブ」上・下 マシュー・パール  鈴木恵訳 新潮文庫

この本の帯『「ダヴィンチ・コード」著者ダン・ブラウン絶賛!!』の言葉につられて買いました。歴史スリラーということで・・・。
しかしそもそも私は翻訳ものは大変苦手なのです。
特にあの日本語離れした、こなれない日本語にはイライラさせられるし、カタカナ名前は覚えられないし・・・、
でもまあ、一昔から見ると最近の本はずいぶん読みやすくなっているとは思います。

ところが、この本の読み始めから、早速行き詰ってしまった・・・。
問題はこのダンテですね・・・。
ダンテの「神曲」。
遠い昔に歴史の授業で名前だけ聞いた覚えはある・・・。
しかし、そんなもの、読んだことがあるわけない!! 

この本の舞台は、アメリカ、1865年。南北戦争が終わった頃。
アメリカの有名な詩人ヘンリー・ワーズワース・ロングフェローが、同じく詩人ジェイムズ・ラッセル・ローウェル、ウェンデル・ホームズなどの協力を得て、アメリカ初のダンテ『神曲』の全訳を完成させようとしている。
これらの人々の集まりが「ダンテ・クラブ」。
この時点でもう誰が誰やらわからないのですが、全て実在の人物で、ダンテ・クラブも史実です。
そもそも、このダンテの「神曲」自体が難解。
もちろん、このストーリーはダンテを読んだことがなくても(読んだことある人のほうがめずらしいよっ)十分解るようになっていますが、
なにしろ、これらの状況把握までに、いやになって、途中で投げ出そうかと思ってしまった・・・。
そこをこらえたのは、やはり、この異様な猟奇殺人の状況・・・。
それが気になって、途中では止められません。
まあ、こんな調子で、始めは戸惑うのですが、ある程度まで行くと登場人物にも親しみがわき、そして、事件・犯人が気になるので、途中からはノンストップでした。

始めに、体中に蛆がたかり、食い破られた死体が発見されます。
普通見られるハエは、死んだ組織にしか卵を産まないので、この人物は死後、ハエがたかったとおもわれるのですが、発見者のメイドは、彼女の腕の中で、彼の断末魔のうめき声を聞いたという・・・。
このような、体中蛆が食い尽くしている状況で生きながらえていたというのか・・・・、相当おぞましい状況です。
第二の死体は、穴にさかさまに埋められ、足だけ地面に突き出て死んでいた人物。しかし、その足だけ、黒焦げに焼き尽くされていた。
状況を見ると、生きたまま足だけ焼かれたようだ・・・。
これもまた、生々しくは想像したくない状況。

ダンテ・クラブの面々はこれらの事件が、ダンテの「神曲」をなぞっていることに気がつきます。
この「神曲」というのは、ダンテが地獄を旅する物語なのです。
地獄では罪を犯したものが、際限ない苦しみの罰を受けている。
その中の地獄の描写とそっくり同じ状況の事件が連続して起こっているのです。
下手をすると、自分たちが犯人だと思われかねない状況の中、彼らの真犯人探しが始まります。

もう一人、準主役的な人物がいて、それは、白人と黒人の混血という設定のニコラス・レイ巡査。
何しろ、奴隷解放直後という時代ですから、偏見、差別が露骨です。
警察の制服をきることすらも許されていない。
しかし、彼はそれを淡々と受け止めつつ、頭脳の冴えをみせる。
なかなか、いい感じの役どころとなっています。
終盤はダンテ・クラブと共同で事件解決に向かいます。

この作品は、マシュー・パールの処女作で2003年出版とともにベストセラー。
この年の話題作の一つ。
最大の話題作といえないのは、同じ年に「ダヴィンチ・コード」が出たから、ということです。
結果としては大変読み応えのある、ミステリ好きも満足の作品でした!!


日の名残り

2007年05月20日 | 映画(は行)

イギリス在住のカズオ・イシグロ小説の映画化。
何の予備知識もなかったのですが、たまたまレンタルの棚で見かけて、ヒュー・グラントの名前が目に留まり、見てみました。
これはなかなか、じっくり見せる上質の作品です。

舞台はイギリス。
主人公スティーブンスは名門貴族ダーリントン卿の屋敷の執事。
二次大戦前後のことで、屋敷で、非公式の国際会議が開かれることになります。
貴族の屋敷のことなど、それこそ映画やテレビドラマでしか知りませんが、この映画では、使用人からの視点で描かれているので、その実情が見えて、なかなか興味深いものがあります。
貴族の邸宅というのは、そのままホテルのような機能になるのですね。
そこの執事となると、ホテルの総支配人といった役どころ。
食事やお客の世話、スタッフの手配、備品調達などなど、全てを把握し、仕切らなくてはならない。
スタッフの人数も、相当なもの。

このスティーブンスは、父親も有能な執事であり(ただし、この作中ではもう年老いて、息子を手助けするために副執事を務めるけれども、ミスを重ねてしまう)、執事であることに誇りを持ち、プロ意識に徹している。
自分の感情も意見も押し殺し外に出さない、あくまでも、屋敷の中では影の存在というところ。
会議でどんな話がされようとも、聞いていないフリ。
自分の意見は決して出さない。

同じ屋敷に女中頭のケントンが勤めています。
あまりにも生真面目一辺倒のスティーブンスをあきれながらも次第に心惹かれていくのですが、そもそも、そんな恋心を受け入れてくれそうな人物ではない。
ある日他の男性からプロポーズされ、スティーブンスに相談してみるのですが、職務に徹する彼からは、儀礼的に祝福の言葉が返ってきただけ。
その態度に絶望した彼女は屋敷の仕事をやめ、結婚してしまうのです。

20年後、屋敷はアメリカの富豪ルイスの手に渡りますが、スティーブンスはそのまま執事として残りました。
人手不足のため、また、ケントンを呼び戻そうと、20年ぶりに逢うことになるのですが・・・。
「日の名残り」。
この題名は、お屋敷で大きな会議が開かれたその頃が、もっとも華やかで輝いていた・・・と、後になって回想する事から来ています。
回想するのは黄昏時。
その日の明るい日差しはもう戻っては来ない、懐かしく回想するだけ・・・ということで、この映画のラストは収まるべくして収まった、と思います。
悲しく、思い通りに行かない人生ですが、現実はそんなことの繰り返しなのかもしれないなあ、と、しみじみ思ったりします。

このお屋敷のダーリントン卿は、人格は大変高潔なのですが、いささかお人よしに過ぎ、ナチスドイツに肩入れをして、後に世間の非難を浴び、寂しい晩年を迎えます。
そのような主人の没落にも淡々と寄り添い、支えていく。
執事というのはまた、自分の人生をも主人に預ける、大変な仕事なんですね。

さて、注目のヒュー・グラントは、このダーリントン卿の甥という役どころで、ちょい役ながら、なかなかチャーミングでした。
彼のまだまだ下積み時代ですよね。
それから、アメリカ人富豪役のクリストファー・リーブって、スーパーマンですよね!
ちょっと古い映画を観てみるのも、こんな楽しみがあって良いです!

1993年/アメリカ/134分
監督:ジェームズ・アイヴォリー
出演:アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソン、クリストファー・リーブ、ピーター・ボーガン、ヒュー・グラント

日の名残り
日の名残り コレクターズ・エディション [DVD]
イスマイル・マーチャント,マイク・ニコルズ,ジョン・カリー
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

シザーハンズ

2007年05月19日 | 映画(さ行)

ジョニー・デップファンとして、やはりこれを見ていないのはまずいでしょう、ということで、見てみました。
以前テレビでやっていたのをチラッと見たことはありましたが、きちんと見るのははじめて。
「泣けるホラー」とか言う触れ込みだったのではないでしょうかね、当時。
ジョニーデップの出世作ではあるけれど、どこか変な役という方向性を決定付けられてしまった作でもある、と思う。

エドワードはある天才学者が作り上げた人造人間。
ただし、なぜか両手が鋏!!
これは不便極まりない。
触るもの全て、自分自身をも傷つけてしまう・・・。
彼自身は純粋無垢。
しかし、人から見れば、不気味、凶暴。
これはあの、フランケンシュタインにも似ているかもしれない。
なにしろ、これはまあ、明らかにファンタジーというかおとぎ話の類なので、拾い上げるべきいくつかの点を触れてみよう。

人の気持ちの熱しやすさ、さめやすさ。
始め人々は、エドワードがものめすらしく、植木の手入れを頼んだり、ヘアカットを頼んだり。
勝手に祭り上げておいて、状況が変われば一転して離れていき、逆に憎みさえする。
なんて自分勝手な人間たち・・・。

自分と違うものを受け入れない、排他性。
普通に付き合えばいいだけのことなのに、妙にに持ち上げるか、排除するか。
どちらかになってしまう。

しかし、彼を受け入れた一家の心の広さは救いでもある。
母、娘。つい上記のように陥りがちな人の気持ち。
だけど、きちんと広い気持ちで受け入れることも出来る、ということだ。
キムの優しい心はエドワードの見つけた宝物で、その思い出一つで、後の長い孤独にも耐えられたのだろう。

山の上の古びたお城の庭で、彼は氷を刻み、下界に雪を降らせる。
かつて、雪の中で舞っていたキムにプレゼントを贈るように。
ほろりときます。
終始、不気味な無表情のジョニー・デップ。
どう見ても、ステキ・・・とは程遠いけど、でも、これが出世作なんですねえ。
このエドワードは、子供の頃芸術的才能を持ちながら、周囲の人となじめない、ティム・バートンの自身がモデルということです。

この町の家並みや、人々の衣装が、ポップ調の色彩で、ファンタジーっぽさを盛り上げています。どこまでも俗っぽい人々の集まる、象徴的な町。
そこに現れるジョニーデップがあくまでもモノクロ。
所詮、溶け込めないということなんだなあ。


「シザーハンズ」

1990年/アメリカ/105分。

監督:ティム・バートン
出演:ジョニー・デップ、ウィノナ・ライダー、ダイアン・ウィースト

シザー・ハンズ

シザーハンズ (特別編) [DVD]
ジョニー・デップ,ウィノナ・ライダー,ダイアン・ウィースト
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

「ヒメママ」玖保キリコ

2007年05月17日 | コミックス

「ヒメママ」 玖保キリコ マガジンハウス

単純化された絵ながら、実に深い味がある、というのは、「バケツでごはん」でも感じたところです。
ちょっとシニカルな視線のようでいて、実は温かい・・・という、この感じがすきなんですよね。
このストーリーは、強烈にわがままな、お姑さんに振り回される家族の物語。
何しろ、わがまま、自己チュウ。
ほとんど芸術的と思えるほど。
だからこそ、「ヒメ」なのです。
その長男、ハルオは、子供の頃からの付き合いに、ほとんどあきらめの境地。
その妻ハナが,一番大変な役どころながら、何とかうまく付き合っている。
私はこの、ハナさんを尊敬します!!
リサ(お姑さんの名前!)のわがままにうんざりさせられながらも、それを許容し、極力望む方向へと、がんばってみる。
これはなかなか出来ることではないですよ~。
少なくとも、私はムリだと思う。

さて、このリサさんは・・・・
年をごまかし、少しでも若く見られようとする。
いくつになってもおしゃれ。
孫にも、「おばあちゃん」と呼ばせない。
ヤングの洋服売り場ではちょうど合うサイズが無く、お客のニーズを考えてないと、怒る。
本当はミセス向けのフロアへ行けばあるのだけれど、そんなバアサン服売り場へは、行きたくない。
う~む、わがままって言うけど、一種共感できる部分あるよねえ。
これって、普通の女の気持ちを代弁してるだけなのかも知れない、という気もします。
これだけ、いいたいこと言えれば、ストレスもたまらなさそうだし。
なんだかちょっとかわいい部分も感じられたりして。
いつの間にか、リサちゃんのファンになってたりして。
ハナさん、申し訳ないですが、このわがままリサちゃんにお付き合いくださいませ・・・。

さて、この向かうところ敵無しに見えるリサの天敵は、妹のルリ。
何と、イギリス貴族と離婚後、フランス人大富豪と結婚。
パリで優雅に暮らしているという。
黒柳徹子に酷似したこの妹に、負けたくないけどかなわない、というユニークな設定。
この先一波乱も二波乱もありそうですね!!


「ワーキング・ガール・ウォーズ」柴田よしき

2007年05月16日 | 本(その他)

「ワーキング・ガール・ウォーズ」 柴田よしき 新潮文庫

37歳女性。
未婚。
総合音楽企業の企画部係長。
それがこの本の主人公の一人。
勝ち組。されど、負け犬。・・・という設定。
この言い方はどちらも、好きではありませんけどね。
色々なジャンルを手がける柴田よしきさんですが、これは社会派問題?と思いきやちょっぴりミステリ的要素も絡めつつ、働く女性たちのリアルな本音と弱気が描き出されています。
主人公翔子は、仕事は好きで、面白いと思っている。
けれど、職場の人間関係が、なかなか難しい。
他の若いOLには、すっかりお局さま扱いで嫌われている(と、本人は思っている)。
上司は能無し。
多分同年代の男性が感じる以上のストレスを抱えつつ、女性は奮闘しているわけです!
もう一人の主人公は、オーストラリアの旅行会社勤務。
折角留学し英語を見につけたのに、就職先が全然ない。
やっと見つけた今の仕事も、正採用ではないし、日本から来るツアー客のお守り役に神経をすり減らされる毎日。
いつまで、こんなことを続けるのか・・・悩んでいる。

私は結婚という一般的とされる女の落ち着きどころに収まらず、奮闘する女性は大好きです。
私自身はさっさと結婚しつつ、仕事も持っている、というちょっとずるいかもしれない立場なのですが、正直、主婦兼仕事持ち、はしんどいですよ・・・。
いまどきの若い夫婦なら、結構家事は夫と分担しているようですが。
しかし、団塊世代のわが夫は、男子は厨房に入るものではないと心得ているらしい・・・・。
夜、ちょっと遅くなっても気兼ねするし。(その割にはしょっちゅう遅い・・・。)
こんなのなら、いっそ、独身で自分の面倒だけ見てるほうがどんなに気が楽か・・・と、よく思ってしまいます。
だから、私はむしろ、独身OLに、がんばってもらいたい!!
結婚は、幸せのゴールではないですよ。といいたくなっちゃうのです。

この本の女性たちが、結婚を夢見てじたばたしていないところが気に入りました。
現状に不安を抱きながらも、がんばって、そして、なおかつ人間的にも成長していこうとする。
これぞ、現在がんばっている全ての女性たちへのエールとなるでしょう。

オーストラリアにて、2人の女性がペリカンが元で取っ組み合いの大喧嘩。
このシーンが、最高です。


こわれゆく世界の中で

2007年05月14日 | 映画(か行)

アンソニー・ミンゲラ。「リプリー」、「コールド・マウンテン」でジュード・ロウとは相性のいい監督です。
人生・愛、そのありようを深く静かに描き出す監督ですが、今回はロンドンが舞台。

キング・クロス地区。
大規模な再開発のプロジェクトにかかわる建築家のウィル。
長年一緒に暮らしている恋人リヴとは、何かしっくり行かないものを感じ始めている。
「最近見つめあったことがない・・・」というモノローグから、この映画は始まります。
もう、ずいぶん長く一緒に暮らしているのに、結婚はしていない2人。
リヴには、心の病をもつ娘がいる。
その娘を守ろうとするあまりに、彼女自身心を閉ざしているようにも思える。
その2人の輪から、阻害されているような気がして、踏み込めないでいるウィル。
そんな閉塞感は、実は長く暮らしている夫婦なら普通にあることかもしれません。
最近見つめあったことがない・・・?
わが身について言えば,ご同様かな・・・残念ながら。

でも、ドラマでは、事件がおこります。
ある日、ウィルは事務所に泥棒に入った少年を尾行し、その母リヴに心惹かれます。
彼女は服の仕立てをしていて、わざとに用事を作って近づいていくウィル。
リヴは、ボスニアの戦火を逃れて移民してきた未亡人。
愛を求め、満たされない2人が次第に心を寄せ合っていくのですが、ようやく心が触れ合ったと思ったその瞬間から悲劇が始まります。
ウィルは、窃盗をした少年ミロをどうしようとも思っていなかった。
でも、リブは、息子の窃盗を黙っている見返りに、自分の体を求められたと誤解してしまうのです。
これは救いようのないすれ違いです。
一瞬でも、心がつながったと思えた後だからこそ、見ているほうも、切なさ、残酷さに、胸がふさがるようでした・・・。
最後には、ウィルがある決断を迫られます。
それは辛く、また、人をも傷つけてしまう事なのですが、その自らの殻を破ったときに、本当の愛が生まれるということなんですね。
切なくも感動のラストでした。

欧米では、常に夫が妻に向かって「愛してるよ」とささやきますね。
日本ではあまりないなあ・・・。
そんなこと、言わなくても解るだろう、ということなのか。
単に、気恥ずかしいだけなのか。
大切なことは、そう簡単に口にすべきでないという文化なのか。
けれど、やはり、気持ちは言葉にしないと伝わらないのですよ!!
それを怠るから、夫が退職したとたんに妻から離婚を突きつけられる。
でも、それって妻にも問題ありますね。
そこまで我慢してないで、普段から言いたいことを言ってみればいい。
と、えらそうに言ってみても、やはりうちも、最近見つめあうことがない夫婦なんだなあ・・・。
こんな夫婦の倦怠は、やはり洋の東西を問わないということか。
すみません、映画から外れてしまった。


さて、この、リヴの息子役、ラフィ・ガヴロンは、オーディションで選ばれた新人だそうですが、この、バネ・敏捷さ、すばらしいですねっ!
その身の軽さに見とれてしまいました。
絶対、また別の作品で見たいです!!

それから、この作中でユニークだったのは、あの、娼婦役。
彼女が絡むシーンはとてもユーモラスで、勝手に人の車に乗り込んできて、誘惑。
その香水の残り香がリヴに浮気と誤解されそうになったので、リヴと同じ香水をプレゼントし、これを付けろというウィルも、なんだかおかしい。
また、彼女はちゃっかり車を盗んでしまったはずなのに、結局そのまま返して、しかもCDとキツネの襟巻き付、っていうのもおかしい。
深刻なシーンの多い中で、ここはつい、クスリと笑ってしまうシーンです。

この映画を観た後では、あの「ホリデイ」ではジュード・ロウがかなりのオーバーアクションであったことがよくわかりました。
ここではかなり抑え目で、自然な演技です。
ふと伏目がちの、憂いを帯びた表情・・・も~、たまりませんねえ。

2006年/イギリス/119分 原題 Breaking & Entering
監督 アンソニー・ミンゲラ
出演 ジュード・ロウ、ジュリエット・ビノシュ、ロビン・ライト・ペン、ラフィ・ガヴロン

こわれゆく世界の中で
こわれゆく世界の中で [DVD]
ジュード・ロウ.ジュリエット・ビノシュ.ロビン・ライト・ペン.マーティン・フリーマン.レイ・ウィンストン.ヴェラ・ファーミガ.ラフィ・ガヴロン.ポピー・ロジャース.ジュリエット・スティーヴンソン
ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント

「砂の城の殺人」谷原秋桜子

2007年05月12日 | 本(ミステリ)

「砂の城の殺人」 谷原秋桜子 創元推理文庫

谷原秋桜子、「天使が開けた密室」、「龍の館の秘密」に続く3冊目。
今作は新作書下ろしです。
このシリーズは高校生美波が、いつも「武熊」さんに怪しげなバイトを押し付けられ、とんでもない事件に巻き込まれる、というパターンになっています。
今回は、廃墟専門カメラマンの撮影助手。

廃墟。
かつては人であふれた施設やテーマパーク。
それが、廃業などで放置されたまま、ほこりをかぶり、朽ち、崩壊寸前となっていく。
ただでさえ人気もなく、幽霊でも出そうだけれど、実際、湿気などで朽ちており、崩壊の危険があることなど、知らなかったことの説明もあって結構興味深く読めました。
とにかく人が入らない建物は急速に痛んでいくもののようです。


今回の事件現場は、放置されたままの、ある一軒家なのですが、そこで発見されたミイラ化した死体!
しかもそれはなぜか移動する! 
次々に死んでいく関係者・・・。
この謎を、今回は、美波の友人直海がするすると解いていくように見えるのですが、実はそれは穴だらけの推理で、結局いつものように、大学生修矢が、最終的には解決に導くことになります。
「雪の山荘」的、閉ざされ、他の人の出入りの状況がない、つまり、犯人は必ずこの中に居る、という、ミステリの王道を行く、まさに、本格ミステリ。
ウ~ん、でも、正直言って、状況がちまちましすぎてて、ちょっとイライラしちゃったかな。
もっと、大胆な謎を、ばっさりと一刀両断で解き明かす、みたいな、そんなのが本当は好きなんだけどね。

表紙のイラストがかわいいので、つい、手が出て買ってしまったというシリーズでありました。


スパングリッシュ

2007年05月10日 | 映画(さ行)

ハウスキーパーとして勤めるメキシコ人フロールとその娘クリスティーナ、そして勤め先の家族の物語。
ここで、「フロール」は思い切り巻き舌で発音すべし!

アメリカはロサンジェルス。
アメリカ国内でも結構英語が通じないところがあるんですね。
フロールとクリスティーナはメキシコからロスにやってきてもスパニッシュ系の居住地に住んでいたため、母親はスペイン語のみで、全く英語がわからない。
娘の方はやはり学校で習うのでしょう、英語もOK。
でも、ハウスキーパーとして働くために、こちらは全くスペイン語がわからないアメリカ人の家にやってきた。

ここで、文化・価値観の相違による様々な軋轢がドラマになっていきます。
フロールは、自分の価値観にとても忠実で、勤め先の家族がそれを犯すことも見過ごせない。
我慢できずにずけずけと口にしてしまうのですが、それが通じないのが、もどかしくもおかしい。
でもイキイキと、くるくる働く姿は魅力的です。
大人の話を娘に通訳させるのもまずい、と、一念発起して、英語の猛勉強を始めます。
一方、この家のアダム・サンドラー演じるご主人は、レストランのシェフ。
しかも相当腕のいいシェフで、新聞のレストラン評で、ほとんど最高といっていい4つ星を受けてしまう。
しかし彼は本当は、あまりいい評価を受けたくなかった。
店が忙しくなって、家族と過ごす時間が少なくなってしまうし、何ヶ月も前から予約を入れないと来られないような店ではなく、ふらりと来て入れるような、そんな店にしたいと思っていたから。
こういう価値観、なんかいいなあ、と思うのです。
さて、家庭においては、この妻が結構独善的。
彼女も自分の価値観にはうるさいほうなのですが、どうも一人よがり。
子供をしかるときは、夫婦共同戦線を張るべき、ということで、自分がしかった後、しからないで許してしまう、夫を責める。
また、自分の娘はほったらかしで、クリスティーナばかりかわいがる。
しかしこのような妻をも包み込む包容力が夫にはあって、なんかいいよなあ、こういう人、結婚するなら、こういう人だよなあ・・・と、思ってしまうわけです。
その妻は、何とそのような夫がいながら浮気!!いい加減にしなよね~。
まあ、そんなだから、なんとなく、彼とフロールはお互いにに惹かれあってしまうわけですが・・・大人の映画でした。
夫婦が元のサヤに納まり、フロールは仕事を止めるというエンディング。
言葉の壁にまつわるストーリー。
いやこれは、「バベル」よりよほどわかりやすかったかも・・・、楽しいし。

2004年/アメリカ/131分
監督:ジェームズ・L・ブルック
出演:アダム・サンドラー、ティア・レオーニ、パズ・ベガ、クロリス・リーチマン

スパングリッシュ
スパングリッシュ [DVD]
ジェームズ・L・ブルックス,ハンス・ジマー
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

「C-blossom」福井晴敏

2007年05月09日 | 本(その他)

「C-blossom case729」福井晴敏作 霜月かよ子画 講談社文庫

コミックなんですが、講談社文庫だし、前作「6ステイン」の続きのようなものなので、ジャンル・カテゴリーとも、「本」とさせてもらいました・・・。

さて、先日の「6ステイン」6つの染みに続きがありまして、7つ目の染みがこれ。
何と、これはコミックです。
別に買わなくてもいいかなあ、と思ったのですが、よく見れば、これは前作7番目の続きの物語で、如月行くんが出ているではありませんか。
これは外せない!!
主役は、前作で防衛庁の巨額横領事件の犯人とされた、松宮氏の娘、香奈。
女子高生ですが、父の事件により、これまでの学校に居られなくなってしまい、転校したものの、友人も出来ず、孤立。
そんなところへ現れたのが、如月行と名乗る教育実習生。
ウ~ン、なんかちょっと違うなあ、イメージが・・、
と思いつつ読み進めば、何とこれは偽者。
その後出てきた本物は、確かに、彼のイメージそのもので、なかなかよいと思います。
この偽者というのが、ダイス時代、常に、如月行をライバルとして意識していた、東谷芳樹。
しかし如月くんの方は全くそのような気はなくて、これはほとんど片思いして無視された状況に近い。
だから、余計ににくさを増し、必ず、如月を陥れてやろうと燃える男、東谷。
しかしこれがまたなかなか壮絶なラストへと続くのであります。


如月くんは、香奈の護衛の任務に付くのですが、防衛庁の複雑な利害関係により、香奈のみならず、自らの命をもかけた決断を迫られることになるのです。
もとより、彼は自分の命よりも、上からの命令を守ることを規範として生きている。
いったいどのような選択が・・・、と息詰まるシーンでもあります。


もともと、福井氏の作品はコミックやアニメ向きだと思うので、これはナイスな企画でした。でも、欲を言えばもっとメジャーな作家に書いて欲しかった。
例えば・・・?うーん、実は最近の作家って、あまりよく知りません。
いっそ、吉田秋生さんなどいかが?


スパイダーマン3

2007年05月07日 | 映画(さ行)

さて、まず、とにかく楽しんだことは確かですよね。
そうですよ、こういうのは四の五の言わずに楽しむほかないでしょう。
あの、スピーディなアクション。
正直、何がなんだかわからなかったりする。
いつもながら、苦悩するヒーロー。
ほんっとに、どうしてこう要領が悪いのか・・・というか、今回は慢心が失敗の元でしたね。スパイディーとか呼ばれちゃったりして。
たまたま、映画を見に行った日の夜に、テレビで「1」をやってまして、また見ちゃったですよ。
結局パターンは同じだよねー。
そう、MJが高所から落ちそうになって助けを求める。スパイダーマンは敵と戦いつつ、彼女を救わなければならない・・なんて、おんなじシーンばっかし。MJも、少しは懲りればいいのにねえ・・・。
「1」で、新聞社のフリーカメラマンになったピーターは「3」でも、結局正社員にはなれてないし。
だから、あれだけの活躍をしつつ、やっぱりビンボーで,ドアの開かないあんな部屋に住んでるし。
「2」ではピザの宅配してませんでした?


それでねえ、今回はちょっぴり疑問があるですよ。
はいはい。
まず、あの、サンドマン誕生の実験施設って、本当は何するところだったんでしょう?
えーと、公式サイトの解説によれば、分子融合の実験をする放射能の試験施設だって・・・・
だって、あそこは彼が入り込む前はホントに砂しかなかったよね・・・。分子融合って?核融合とはちがうのか?あんなオープンな施設で、超危険じゃん!! で、彼のDNAと砂が融合しちゃって、ああなったんだって~。
だはははは!
それから、許せないのは、あのハリーの家の執事のおっさんだよ。
なんで?
だって彼は、ハリーの父ちゃんがスパイダーマンが直接殺したのではなくて、誤って自分の武器で死んでしまった事をわかっていたというのに、何であんな最後の最後まで黙ってるのさ。ハリーの誤解がなければ、けっこう彼もいい奴なのにー。あの時点で言っても、手遅れもいいとこだよー。第一ハリーを、ラストでああいう終わり方させることないじゃないのさ!
それから、最後のほうの戦いのシーンは、スパイダーマンのマスクがほとんど取れてましたよね。
あんな衆人環視の中の戦いでね、もう、顔も何もばればれじゃん。どう考えても、カメラやら望遠鏡やらで、顔はばれてると思うぞ!
それと、気の毒なのはMJね。彼女は結局女優として芽が出ず、また下積みなのねー。美人だ、ステキだと、ほめてくれるのはピーターだけだよ・・・、もうあきらめたほうがいいのでは・・・?
それから、気になるのは、サンドマンの行方・・・。結局、風とともに去って行っちゃったけどね。この先どうするんでしょ。彼の娘の手術はどうするのさ。
つまり、お金を手に入れようとする手段が間違っているから、ことごとくスパイダーマンに邪魔されるんだよね。
わかった。こんな体にされた、ということで、例の施設から、慰謝料をがっぽりふんだくる、というのはどうかな。
それ、いいかも。
でなければ、砂を運ぶバイトだね。自分で飛んで行けばいいんだから。
そりゃー、地道な日雇い仕事っぽいなー。
いや、こつこつ仕事することは大切よ。


てな訳で、いろんな意味で(?)楽しめちゃう作品ですねー。
個人的にはチョイ悪スパイダーマンも、嫌いじゃないけどね。
そう、チョイ悪ピーター君はカッコよかったよ。MJへの態度はサイアクだったけど、いつもアレくらい自信持てばいいのにね。
なんにしても、やはり彼はまだまだメイおばさんの手のひらから、抜け出せません!

2007年/アメリカ/140分

監督:サム・ライミ
出演:トビー・マグワイア、キルステン・ダンスト、ジェームズ・フランコ、トーマス・ヘイデン・チャーチ

スパイダーマン3
スパイダーマンTM3 デラックス・コレクターズ・エディション(2枚組) (初回限定豪華アウターケース付) [DVD]
トビー・マグワイア,サム・ライミ,キルスティン・ダンスト,トーマス・ヘイデン・チャーチ
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント