映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

キングコング 髑髏島の巨神

2017年08月30日 | 映画(か行)
島を守るコングが、頼もしい



* * * * * * * * * *

アメコミものや、派手なCGアクション作品が苦手だなどと言いながら、
やはり見たいものはあるもので・・・。
本作はさほど期待はせずに見たのです・・・。
でも、我ながらどこがツボなのかかよくわからないのですが、
結構気に入りました!



南太平洋のある島。
冒頭、二次大戦中の空中戦で、アメリカ機と日本機が墜落。
パラシュートでかろうじて生き延びた日米のパイロットは
そこでもなお戦闘を続けようと、殺し合いを始めるのですが、
なんとそこに巨大な生物の手が!!
このツカミがなんとも度肝を抜いてステキです。
そこからいきなり時は過ぎて、
でも現代ではなくて、ベトナム戦争からアメリカが撤退したという1970年代。
あえてこの時代を舞台にしたところが興味深い。
衛星写真により、南太平洋の未知の島の存在が確認され、
未知の生物探索を目的として調査隊が派遣されます。
地質調査のためヘリから爆弾を投下し始めたところ、
巨大なコングが現れ、ヘリを攻撃。
次々とヘリが振り落とされていきます。

ヘリコプターはすべて墜落。
かろうじて生き延びた人々のサバイバルが始まります・・・。



さて、この島はキングコングだけではなく、様々な巨大生物の住む島だったのです。
「ロスト・ワールド」を思い出します。
はじめキングコングを見ると
この巨大生物が生きるためにはどれだけの食料が必要か・・・?
などと思ったのですが、
これだけ巨大な生物がいるのなら、まあ、大丈夫なのか・・・と納得したりして。
それで、実はこの島で一番凶暴なのはコングではなく
ナゾの爬虫類と言うか宇宙生物じみてもいる、見るからに気味悪く怖いヤツ。

コングはこの怪物から島の住民たちを守ってくれていたのでした!!
ただの怪物ではなくてハートのあるキングコング。
いいですよね~。
そして、「ヒロインと心を通わせるキングコング」
という定石もちゃんと踏まえています。



一方、このコングよりもよほど好戦的な人物も描かれています。
この調査隊の護衛役できている大佐は、
ベトナムからの撤退で自らの役目がなくなったことに失望していたのですが、
この度の任務についたことで息を吹き返します。
そこでよほど隊を守り活躍するに違いないと思われたのですが、
皆が「コングはこの島の守り神なのでそっとしておこう」と言うのに
「あいつのために多くの者が死んだから復讐しなければ」との一点張り。
そんなメンツのために、余計犠牲が多くなるという・・・
ベトナム戦争の再現なんですねえ。
それで、本作中には「地獄の黙示録」を彷彿とさせるシーンが所々にあるのです。
こんなところが実に面白い!!



そうそう、冒頭シーンに思わせぶりに登場した米パイロットが、
ほぼ30年を島の原住民の村で生き延びていた、という設定も良いのだわ―。
あまり期待が大きくないところで、
意外と面白かったというパターンでした。



キングコング:髑髏島の巨神 ブルーレイ&DVDセット(初回仕様/2枚組/デジタルコピー付) [Blu-ray]
トム・ヒドルストン,ブリー・ラーソン,サミュエル・L・ジャクソン,ジョン・C・ライリー
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント


「キングコング 髑髏島の巨神」
2017年/アメリカ/118分
監督:ジョーダン・ボート=ロバーツ
出演:トム・ヒドルストン、ブリー・ラーソン、サミュエル・L・ジャクソン、ジョン・グッドマン、ジン・ティエン
JCOMオンデマンドにて
巨大生物の表現度★★★★☆
ストーリー性★★★★☆
満足度★★★★☆

「街道をゆく38/オホーツク街道」司馬遼太郎

2017年08月29日 | 本(解説)
オホーツク文化の担い手は、どこから来て、どこへ行ったのか

新装【ワイド版】 街道をゆく (38) オホーツク街道
司馬 遼太郎
朝日新聞社


* * * * * * * * * *

私どもの血の中に、
北海の海獣狩人の血がまじっていることを知っただけで豊かな思いを持った。
――流氷寄せる北海道の海辺に、足跡を印して消えた狩猟民族。
その謎を追いつつ、日本人とはなにかを地球規模で考える。
10.5ポイントという大きな活字によって身近になった司馬遼太郎の世界。
詳細な地図や当時の雰囲気を表す写真を多数収録。
巻毎の索引など、特色あふれる編集による新シリーズ。

* * * * * * * * * *

北海道に住みつつ、北海道の成り立ちを知らない私。
少し学習してみたくなりました。
この本は文庫本でも出ていますが、
私が読んだのは「ワイド版」ということで、中高年の目にも優しい、嬉しい本です。


北海道といえばアイヌの土地。
私にはずっと古代からアイヌ民族が住んでいたのだというような
漠然とした思い込みがありました。
しかしアイヌ文化が起こったのはせいぜい鎌倉時代くらいとのことです。
ではそれ以前はどうだったのか。


かつて日本列島全域で暮らしていたのが、縄文人。
それが稲作をする弥生人の侵入によって東北以北に追いやられる。
そして南では沖縄。
東北や北海道は食料となる木の実や生物が豊富で、
あえて稲作などする必要がなかったのだと。
日本の歴史で語られる蝦夷と言うのは、この縄文人たちの末裔。
「征夷大将軍」などという言葉にも現れているように、
東北以北には別の文化を持つ民族が暮らしていたわけですよね。
それが東北地方からも追いやられて北海道に残るのみとなって・・・
アイヌ民族となったようです。
南に向かっても同じような動きがあったらしく、
アイヌの人々と沖縄の人々の特徴に似ている点が多い、というのも興味深いです。
ただ一つ、誤解のないように言っておくべきなのは
縄文人の末裔だからといって決して「未開」という意味ではありません。
それはそれで、尊重すべき一つの文化。
このことについてはまた、別の本で学ぶ予定です!!


ところで、本作はこのようなアイヌの人々の来歴を語ってもいますが、
それ以前、北方から北海道に渡ってきた人々についても語っています。
網走にあるモヨロ貝塚。
大正2年、考古学にはシロウト(ただし、人並み以上に研究心旺盛)の床屋さんが、
これを発見しました。
縄文系とは全く異なる遺跡。
明らかに独自の「オホーツク文化」の痕跡がそこにあります。
けれどこのオホーツク文化を担うオホーツク人は
どこからやってきて、そしてどこへ消えてしまったのか。
それはやはりわからないまま。


えーとこの本は、1992年に週刊朝日に連載されたもの、ということなので、
今はもっと研究が進んで、色々なことがわかっているのかもしれません。
この本を読んでいる最中、
礼文島で新たなオホーツク文化の遺跡が発見されたというニュースがありました。
ふだんなら見過ごしてしまいそうな記事ですが。
遺跡巡りや、研究者たちのこと、訪れた北の地こと、同行した安野光雅画伯のこと、
楽しい紀行文でもあります。
北海道にいても知らないことばかり。
学習させていただきました。


この司馬遼太郎氏による「街道をゆく」のシリーズは全43巻ありまして、
日本国内はもちろん、アイルランド、オランダ、ニューヨークなどもある・・・。
これがもう、素晴らしい知識量で語られるので、圧倒されます。
他の巻も読んでみたいところではありますが、
それだけの根気が私にはなさそう・・・。

「街道をゆく38/オホーツク街道」司馬遼太郎 朝日新聞社
満足度★★★☆☆

エル ELLE

2017年08月28日 | 映画(あ行)
バイオレンスと陶酔



* * * * * * * * * *

ゲーム会社のCEOミシェル(イザベル・ユペール)は、
ある日、自宅に侵入してきた覆面男に暴行を受けてしまいます。
しかし彼女は警察にも届けず、
犯人は身近にいる誰かと見当をつけ、自分でその正体を突き止めようとします。



ミシェルは夫とは離婚し、目下一人暮らし。
自分を暴行した相手と思しきは、
会社の部下の男、同僚の夫、別れた夫、隣家の男・・・
誰もが怪しいけれど、この答えは最後の最後までとっておいたりせず、
中盤であっさりわかってしまいます。
ところが、その男との関係性が意外な展開を見せていく。



つまり本作、その犯人を突き止めるまでのミステリではなく、
ミシェル自身の物語。
私たちは、何やらしたたかで貪欲な彼女に、魅入られたようになってしまいます。
ミシェルの父は過去に凶悪な事件を起こしており、
そのことがトラウマとなってミシェルの人格形成に暗い影を落としている・・・と、
そうしたことも次第にわかってきます。



どうやら私たちは心の奥底に暴力性や性衝動を隠し持っているらしい・・・。
そうでなければ本作なども、
「何このいかがわしさ。もう二度と見たくない。」と切り捨ててしまうのではないでしょうか。
だけれども、何故か惹きつけられて止まないのは、
どこか私にも彼女と同質のものがある・・・ということなのだろうなあ。
そんなことを目の前に突きつけられるようで、
ちょっと怖い作品でもあります。



イザベル・ユペールの汚れ役というのも珍しいですが、
珍しいを通り越した存在感、さすがでした。
しかしこんな強権的な母に育てられると、息子はダメになる・・・。
そんなものかもしれませんね。

<シアターキノにて>

「エル ELLE」
2016年/フランス/131分
監督:ポール・バーホーベン
原作;フィリップ・ディジャン
出演:イザベル・ユペール、ローラン・ラフィット、アンヌ・コンシニ、シャルル・ベルリング、ビルジニー・エフィラ

バイオレンス度★★★★☆
エロチック度★★★★☆
満足度★★★★☆

歌声にのった少年

2017年08月27日 | 映画(あ行)
コンテンストの前段階こそが苦難の道



* * * * * * * * * *

パレスチナ、ガザ地区出身の歌手ムハンマド・アッサーフの実話をもとにしています。



紛争の絶えないパレスチナ、ガザ地区。
少年ムハンマドは姉ヌール、友人2人とバンドを組み、町で歌っていました。
姉は、ムハンマドの声と才能を信じ、
「いつかカイロのオペラハウスに出る」と夢を語ります。
しかしその姉は病に倒れてしまい・・・。
そして時は流れて青年となったムハンマド。
相変わらず町は紛争の中にあり、瓦礫の山。
難民の彼らは自由にこの町を出ることができません。
けれど姉との誓いを諦めきれないムハンマドは、ある決心をします。



本作の前段、少年時代のシーンがいいのですよ。
特に、姉、ヌールの生き生きとした表情が忘れられません。

彼女は聡明で実行力に富んでいて、
そして何よりも弟を大事に思っています。
この地では女性が前面に出ることはタブーなのですが、
それでも彼女は負けていない。
夢も大きい。
しかしその彼女が腎臓を患ってしまうのです。
移植手術する費用もない・・・。
この少女の喪失の痛手は大きい・・・。



カイロのテレビ番組として、勝ち抜きの歌唱コンテストがあるのです。
しかしそのカイロに行くまでが大変なわけで・・・。
でも誰が聞いても一目瞭然の才能と言うのは確かにあるものなのですね。
あの、スーザン・ボイルやポール・ポッツのように。
その才能が瞬く間に人々に受け入れられ認められていくさまは、
いずれにしても感動的です。
ましてや、このような困難な状況の中では。



現実であるからこそ、素晴らしいストーリーでした。



歌声にのった少年 [DVD]
ハニ・アブ・アサド,サメホ・ゾアビー
アルバトロス


「歌声にのった少年」
WOWOW視聴にて
2015年/パレスチナ/98分
監督・脚本:ハニ・アブ=アサド
出演:タウフィーク・バルホーム、ナディーン・ラバキー、ムハンマド・アッサーフ
世界を知る度★★★★★
満足度★★★★★

「ダンジョン飯 5」九井諒子

2017年08月26日 | コミックス
生きて帰るまでが冒険だ

ダンジョン飯 5巻 (HARTA COMIX)
九井 諒子
KADOKAWA / エンターブレイン


* * * * * * * * * *

炎竜(レッドドラゴン)を倒し、ついに妹のファリンを救出したライオス。
ホッとしたのも束の間、彼らの前に、迷宮の主・狂乱の魔術師が現れる……!
果たして、ライオス達は生きて迷宮を脱出できるのか!? 
生きて帰るまでが冒険だ! 食事もストーリーも怒涛の第5巻!


* * * * * * * * * *

さて、新刊です。
前巻でようやくライオスの妹ファリンを救い出したところでしたが、
迷宮の主・狂乱の魔術師とやらが現れて、再び見失ってしまいます。


これまで本作のストーリーはワリと単純だったのです。
ファリンを救出するために、魔物を倒しながら、
そして時としてそれを食しながら、地下の迷宮を下へ下へと進んでいく。
しかし、前巻あたりから話が複雑になってきまして、
本巻でも新たな登場人物やら新たな挑むべき敵がドッと登場。
正直、私にはわけがわからなくなってきました。


このように雑誌連載しながらコミックが追加されていく状況で、
初めの方はとても楽しみに読んでいたのだけれど、
途中から登場人物が入り組んで
(人物の見分けが難しい・・・みんなおんなじ顔してるから・・・)
めんどくさくなって、どうでも良くなって
読むのを止めてしまうというパターンが時々あるのです・・・。
進撃の巨人とか・・・。
それでこの巻の途中あたり、この話も同じ運命を辿りそうな、
いや~な予感がし始めたのですが、
マルシルが石化して解けたあたりから少し気を取り直しました。
始めのうちはこんなに連載が長くなる予定ではなかったのでしょうね。
それが意外と人気が出たから登場人物を増やして話を伸ばそう・・・というのがミエミエ。
それで成功する場合もあるけど、ダメになる場合も多いと思います。
ナントカ頑張って、この拡張期を乗り切って充実させてほしいと願っておりまする・・・。


そう、「生きて帰るまでが冒険だ!!!」
この分ではまだまだ帰れそうにありません。


「ダンジョン飯5」九井諒子 カドカワハートコミックス
満足度★★★☆☆

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

2017年08月24日 | 映画(あ行)
私にはTVドラマの改悪に思える。



* * * * * * * * * *

1993年、同名で放映された岩井俊二監督によるテレビドラマをもとにしています。
私、このドラマには痛く感動し(見たのは割と最近なのですが)、
ぜひこのアニメも見なくては!と思った次第。
公開初日、北海道もまだ夏休み期間中で若い人がいっぱいの劇場は、
ちょっと私には敷居が高かったのですが・・・。



海辺の町の夏休み。
花火大会の日。
登校日に久しぶりに会った中学生たちは
「花火は横から見たら丸いのか?平べったいのか?」
という話題で盛り上がっています。
なずなは、母親の再婚でこの日限りで転校しなければならないことになっています。
なずなに密かに思いを寄せる典道は、
なずなに「駆け落ちしよう」と誘われますが・・・。
典道の行動は裏目に出るばかりですが、
ある秘密の「玉」の力で、時間を巻き戻し、新たな行動を起こすことに・・・。



これは原作のドラマを知らないほうが良かった。
私にはどうしてもテレビドラマと弾き比べてしまって、
見劣りするところばかりが目についてしまいました。


原作では登場する少年たちは小学生です。
だから花火が丸いか平べったいか気になって、確かめるために「冒険」する。
そして、なずなは小学生にしては早熟。
ボーイたちはまだ子供で、なずなにはちょっとついていけない。
けれどなずなの半分大人の女性になりかけたところに
何やらムズムズした感情が湧き上がる。
こうした、思春期の入り口のほんのひと時を切り取った夏休みのできごとを、
素晴らしくみずみずしく描いているのがTVドラマでした。


ところが、このアニメではそうしたところはバッサリ・・・。
ファンタジー性があってより「アニメ」向きになっているというだけで、
思春期の感性を表現する作品ではないような・・・。
プールサイドに寝そべるなずなの首元をはうのはアリじゃなければいけません。
トンボが止まっているだなんて、問題外。



「君の名は」で、可愛らしいお目々ぱっちりキャラのいかにも今時アニメを少し見直したのですが、
これでは・・・。
あ~、なんだかひどい言い方ばかりになってしまいましたが、
まあ、TVドラマを知らない方なら、そこそこ楽しめるのではないかと・・・。
そうそう、風にそよぐ白い花の群れはとても美しい情景でしたが、
夏休みなのになぜ“ぺんぺん草”?
と思ったのですが・・・
なるほど、「なずな」だからですよね。
だからどうした、ってことですが。


でもぜひ、TVドラマ版を見てほしい・・・。
→「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」

「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」
2017年/日本/90分
総監督:新房昭之
監督:武内宣之
原作:岩井俊二
出演(声):広瀬すず、菅田将暉、宮野真守、松たか子

満足度★★★☆☆

RANMARU 神の舌を持つ男 鬼灯デスロード編

2017年08月23日 | 映画(ら行)
絶妙なおバカ加減がニクイ



* * * * * * * * * * 

「神の舌を持つ男」・・・、
TVドラマは見ていなかったので、グルメドラマかと思っていたのですが、
ミステリだったんですね!
軽妙なボケとツッコミのノリ、
こんなに楽しいならテレビドラマも見ておけばよかった、と思ってしまいました。
さて、本作本当は題名に以下の文章もつづくのです。

「酒蔵若旦那怪死事件の影に潜むテキサス男とボヘミアン女将、
そして美人村医者を追い詰める謎のかごめかごめ老婆軍団と
三賢者の村の呪いに 
2サスマニアwithミヤケンとゴッドタン、ベロンチョアドベンチャー!
略して…蘭丸は二度死ぬ。鬼灯デスロード編」

ほとんど破れかぶれですね。
全く意味不明。



さて、「絶対舌感」という特殊能力を持つ朝永(向井理)は、
失恋の痛手でさまよい歩いた末、
山奥の鬼灯(ほおずき)村というところにたどり着きます。
そこは、湧き水が豊かで、また温泉もある鄙びた場所。
しかしこの温泉は影で「子殺しの湯」などとも言われているらしく、
次々と不吉なできごとが起こり始めます・・・。



本作、初めから「八つ墓村」をガチガチに意識していて、
旧来の言い伝えなどに縛られた村の何やらおどろおどろしい雰囲気が漂います。
しかし、そのわざとらしさには思わず笑ってしまうのですが。
それで蘭丸も、あえて金田一耕助風の出で立ちで登場。
小出しのおバカ加減と程よいコミカルさ、
多少無理矢理っぽいこの村の古くからの因習と意外に新しいナゾ。
向井理さんのおとぼけ加減とチョッピリのかっこよさ、
色々なものが絶妙なバランスで、私はこういうの好きだわ~。



蘭丸はキスをすると相手の口から微細な化学成分を導き出してしまい、
具合が悪くなってまともに恋はできない・・と、
そういう前提があるのも面白いですね。
テレビドラマでは、唯一全く成分を感じられない相手がいて、
その人に恋をする、という設定だったようなのですが、
しかしその原因がわかることで失恋。
そこから本作に続いているのです。
すると、本作ではキスをした相手の口中の成分はしっかりわかるのに、
全く具合悪くもならず平気、という相手に遭遇します。
そこでやはり、蘭丸は彼女にほのかな思いを抱くのだけれど・・・。



わたし、このナゾは読めてしまいましたけれど・・・、
それにしても面白い。
また続きがあれば是非みたいです。



RANMARU 神の舌を持つ男 ~中略~ 鬼灯デスロード編 [DVD]
向井理,木村文乃,佐藤二朗,市原隼人,黒谷友香
松竹


「RANMARU 神の舌を持つ男 鬼灯デスロード編」
2016年/日本/105分
監督:堤幸彦
脚本:櫻井武晴
出演:向井理、木村文乃、佐藤二朗、木村多江、市原隼人、財前直見
コミカル度★★★★☆
満足度★★★★☆

「かたづの!」中島京子

2017年08月22日 | 本(その他)
もう一つの“女城主”物語

かたづの! (集英社文庫)
中島 京子
集英社


* * * * * * * * * *

遠野の羚羊の片角には霊妙な伝説がある。
慶長五年、根城南部氏当主直政の妻・祢々は片角の羚羊と出会う。
直政と幼い嫡男・久松が立て続けに不審な死を遂げた直後から、
叔父の三戸南部氏・利直の謀略が見え隠れしはじめた。
次次とやってくる困難に祢々は機転と知恵だけで立ち向かう。
「戦でいちばんたいせつなことは、やらないこと」を信条に
波瀾万丈の一生を送った江戸時代唯一の女大名の一代記。
河合隼雄物語賞(第三回)、歴史時代作家クラブ賞作品賞(第四回)、
柴田錬三郎賞(第二十八回)、王様のブランチブックアワード2014大賞受賞作!!

* * * * * * * * * *


女大名一代記といえば、ちょうど今年やっている大河ドラマ「女城主直虎」。
そんな歴史物語かと思えば、本作、全く違ったアプローチの仕方をしています。
というのも、語り手が羚羊(カモシカ)で、しかもその角(つの)! 
なにやら初めからおとぎ話かファンタジーめいていますが、
それもそのはず、本作の舞台は遠野でありました。
だからといって、物語がファンタジックかというと決してそうではありません。
史実に基づいた熾烈な女の一代記です。


始まりは八戸。
根城南部氏当主直政の妻・祢々は
夫と幼い嫡男を立て続けに亡くしてしまいます。
それというのも、ここの宗主の三戸南部氏・利直で、
祢々にとっては叔父に当たる人物ですが、
彼は何とかして根城南部氏の家を取り潰して
己の支配するところにしようと躍起になっているのです。
それで、この度の当主と嫡男の死は、利直の陰謀によるものではないかと噂されます。
根城南部氏唯一の男子を亡くし、
祢々は次の後継者ができるまでの間、ツナギに自らが当主を務めることにします。
髪を落とし尼となって・・・。


うーん、この展開、まさに大河ドラマと同じ。
女は自らの意にそまない結婚を拒むためには、
死ぬか尼になるかしか道がないということですね。
さもなくば、宗主の手中の人物を婿に押し付けられるだけなのです。
この本は2014年に刊行されたもので、決してNHK大河ドラマに影響されたわけではありません。
作中に女が当主を務めた例として、井伊直虎の名が挙げられているくらいです。


祢々は尼僧となって「清心さま」と呼ばれるようになりますが、
その後も利直の執拗な根城南部いじめは続きます。
そしてその最大だったのが、なんと八戸から遠野への移封。
すなわち、先祖代々受け継いできた豊穣な八戸の地を捨てて、
新たに遠野を治めよ・・・ということなんですね。
海もない山の中の、未開の人心荒れ果てた地へ行くくらいなら、
三戸に討ち入って死んだほうがマシ・・・と、はやる家臣たちを説得し、
自ら泣く泣く新たな地へと旅立つ清心・・・。
その道のりも大変に困難なものでしたが・・・。


そしてまたそこは思いの外美しく豊かな土地ではあったのですが、
土着の武士たちと八戸から移住した武士たちとの相克や、
伊達との境界にある金山での揉め事など、
困難なできごとは果てしなくつづくのです。
運命に翻弄されながらも自分らしい生き方を貫いた女性。
素晴らしい物語でした。
そして遠野にふさわしい、片角や河童たち、
絵から抜け出したぺりかんなどの登場が、
重苦しさを和らげています。
まだ人と自然界のなりわいが一つであった昔・・・、
そういう雰囲気がまたひなびた味わいを醸し出し、魅力を発揮しています。


「かたづの!」中島京子 集英社文庫
満足度★★★★★


夜明けの祈り

2017年08月21日 | 映画(や行)
忌まわしいできごとの末に・・・



* * * * * * * * * *

1945年12月、ポーランド。
赤十字で医療活動に従事するフランス人女性医師マチルド(ルー・ドゥ・ラージュ)のもとに、
一人の修道女が助けを求めてやってきます。
修道院へ行ってみると、ソ連兵の暴行により妊娠した修道女が7名もいて、
すでに臨月に達しているのです。
信仰と現実の間で揺れる修道女たち。
激務の合間を縫って秘密裏に修道院に通い、
診察を続け、お産の手助けをするマチルド。
修道女たちは次第に彼女を信頼し頼るようになってきます・・・。



本作、実話に基づいているというところが凄いです。
予告編で、ソ連兵が尼僧を蹂躙したことを知ったときには、
憤りにかられて止みませんでした。
ポーランドの歴史は蹂躙の歴史。
この頃ポーランドは一度ソ連に占領され、後にドイツが乗り込んでくる。
二次大戦のドイツ敗退により再びソ連の占領下となる・・・
この時のことなんですね。
少なくともドイツの占領時にはそのようなことは起こらなかったということで、
なんとも皮肉です。
しかしよりにもよって尼僧を襲うとはなんという破廉恥な・・・。
言葉もありません。
そしてその上、妊娠までしてしまうということで、
彼女たちには何の罪もないのに、罪悪感にかられてしまう。
また、このことが外に知られれば、修道院は閉鎖されてしまうだろうし、
自分たちの行き場もなくなる・・・。
だからひたすら隠し通すしかない、ということで、
ポーランド人の医師を呼ぶこともできなかったわけです。



しかし本作のテーマはそのような非道な行いの問題ではなく、
「命」の問題なのです。
このように忌まわしいできごとの末に生まれてきた赤子でありながら、
それはなんと汚れなく無心に生きようとしていることか。
この小さな命こそを貴重と思い、
守ろうと必死の努力をするマチルドの姿が、光ります。



「以前のように祈っても心が休まらなくなってしまった」と語る尼僧。
まさに、妊娠を免れた者にとっても大変な心の傷を残すできごとです。
このようなときにでもやはり神を信じることができるのかどうか・・・。
これこそが神の試練と言うのは簡単ですが、
難しいですね・・・。


でもこの重くつらいストーリーの末の結末が、実にいい。
このラストに救われた思いがします。
やはり子供たちは未来を感じさせてくれるからいいですね。


静謐な修道院の中の映像がステキです。
薄く積もった雪の森を行く修道女の映像がなんとも言えず美しい。

「夜明けの祈り」
2016年/フランス・ポーランド/115分
監督:アンヌ・フォンテーヌ
原作:フィリップ・メニヤル
出演:ルー・ドゥ・ラージュ、アガタ・ブゼク、アガタ・クレシャ、ザンサン・マケーニュ
歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★★

ターザン:REBORN

2017年08月20日 | 映画(た行)
脱いだらスゴいんです。



* * * * * * * * * *

先日、「ジャングルブック」を見たので、
ついでというノリで、またジャングルの物語・・・。



しかしジャングルブックは子供向けですが、
こちらはもう少し大人向けかもしれません。



ターザンといえば、ジャングルでツタにぶら下がって「ア~ア~ア~!」と雄叫びを上げる、
そのイメージばかりが先行して、
昔の「ターザン」の映画自体を見たことがあったのかなかったのか、
記憶も定かではありません。
がつまり、その昔のイメージすら知らない若い人たちに向けて・・・
ということなんでしょうね。



本作はロンドンで裕福に暮らしている
ジョン・クレイトン3世(アレクサンダー・スカルスガルド)のところから話が始まります。
彼は赤ん坊のときにコンゴのジャングルの中でゴリラに拾われ、育てられたのです。
が、実は英国貴族の子供だったということで、
色々あって、今はロンドンでジャングル育ちのヒーローとして有名で、
一目置かれる存在となっている・・・と。
こうした過去のできごとは、
思い出として、ストーリーの合間に切れ切れに挿入されています。
詳しく知りたい人は過去のターザンシリーズ作品を見てね、ということなのでしょう。
コンゴのダイヤやオパールを掘り出すために、
ベルギー政府がコンゴ原住民を奴隷として働かせようという・・・、
そんな陰謀を阻止するために、
ジョン・クレイトンは再びターザンとしてコンゴに舞い戻る・・・というわけです。



ターザンが実は貴族の子供で、
今はロンドンで優雅な暮らし・・・という設定は、あまり気に入りませんな。
貴族の特権意識が鼻につく。
まあ、そうではありますが、アレクサンダー・スカルスガルドの優雅な貴族ぶりと、
ターザンとしての“脱いだらスゴい”感じのギャップが半端なくステキなので、
そんなことはどうでも良くなってしまいます・・・。

ジャングルのツタに捕まっての移動とか、
高所の木の枝を伝い走るところ、
崖から躊躇なく飛び降りたり・・・そういう疾走感も、
素晴らしくワクワクさせられます。
彼の妻、ジェーンもまたジャングル育ちなので、
ただおとなしく人質になっていたりしないところも、
まあ、昨今では当たり前ではありますが、実に爽快!
ターザンと、米国人ジョージ(サミュエル・L・ジャクソン)の友情もまたなかなかいいですし。
なんだかんだ言いながら、結構楽しんでしまいました。



ターザン:REBORN [DVD]
アレクサンダー・スカルスガルド,マーゴット・ロビー,サミュエル・L・ジャクソン,クリストフ・ヴァルツ
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント


「ターザン:REBORN」
2016年/アメリカ/110分
監督:デビッド・イェーツ
出演:アレクサンダー・スカルスガルド、サミュエル・L・ジャクソン、マーゴット・ロビー、ジャイモン・フンスー、クリストフ・ワルツ、ジム・ブロードベント
疾走感★★★★☆
満足度★★★★☆



「遠い唇」北村薫

2017年08月18日 | 本(その他)
ほんのり何気ないラブストーリーがおすすめ

遠い唇
北村 薫
KADOKAWA


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コーヒーの香りとともに蘇る、学生時代の思い出とほろ苦い暗号。
いまは亡き夫が、俳句と和菓子に隠した想い。
同棲中の彼氏の、"いつも通り"ではない行動。
―ミステリの巨人が贈る、極上の"謎解き"7篇。

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北村薫さんの短編集です。


やはり一番のおすすめは表題作で巻頭の「遠い唇」。
大学教授が、コーヒーの香りから、
ふと学生時代に姉のように慕っていた先輩のことを思い出します。
遠い昔、その彼女から受け取ったハガキには不可解なアルファベットが並んでいた・・・。
結局その時にはどういう意味かも全然わからなかったのですが、
今改めて見てふと気がつくことがあり・・・。
それはやはり巧みな暗号だったのですが、
解読するといかにも切ない・・・。
コーヒーの香りと遠い昔の切ない感情がこみ上げる秀作。


それから「パトラッシュ」
パトラッシュというと、まさか・・・と思ったのですが、
やはりあのアニメ「フランダースの犬」に登場する大きな犬の名前のことでした。
主人公翆(みどり)は、少し辛いときに、
大きな犬にすがりつき「パトラッシュ」とつぶやくイメージで、
癒される感じがするのです。
それで、今共に住んでいる彼氏が、彼女にとっての「パトラッシュ」。
そんな翆が仕事で遅くなった夜帰宅すると、
バスルームに、自分しか使わないボディスクラブの香りが残っていた・・・。
もしや自分がいない間に女が上がり込んで・・・と
一瞬想像してしまった翆ですが・・・。
翆の想像上の謎を解く日常のミステリとも言えるかもしれません。


こんなふうな、本当に何気ないほんのりしたラブストーリーが、
この本での私のお気に入り。
宇宙人カルロロンが登場する、北村作品とは思えない怪作もあります。


「遠い唇」北村薫 角川書店
満足度★★★★☆
図書館蔵書にて

ビニー 信じる男

2017年08月17日 | 映画(は行)
不屈の男、再び



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交通事故から奇跡のカムバックに挑んだ実在のプロボクサー、ビニー・パジェンサの物語。
「セッション」のマイルズ・テラーが、再び「不屈の男」を演じます。



ビニーはボクシングの世界タイトルを獲得した矢先、
自動車事故で首を骨折してしまいます。
医師からは選手生命の終わりを告げられ、周囲の人々も離れていきます。
しかしビニーは自らの復活を信じ、頭の固定具をつけたまま
トレーナー、ケビンのもとで命がけのトレーニングに励み、王座奪還を図ります。



とにかくこの、まるで拷問具のように見える固定具が恐ろしい。
頭蓋骨にボルトをねじ込んで固定してあるのですよ・・・。
まあ本作はこれがおどろおどろしいだけで、
筋立てとしてはありがちな復活のストーリー・・・。
いえ、実話なので、確かにスゴいとは思いましたが。



でも人の生きる道は様々。
もし彼がボクシングで復帰できないとしても、
他のことでやりがいを見つけることはできただろうと思うのです。
ただビニーは、
「ボクシングのない人生なんて、生きるに値しない」
と思ったわけで、人の信念は時には奇跡を生み出すわけですねえ・・・。



でも私は、「セッション」のドラマーのほうが、
本作のボクサーよりも、より「闘っている」感じが伝わりました。
挑むものは全く別物ですが、
やっぱり同じ人物の二番煎じみたいなのはどうなのかな、と思ってしまった・・・。



「ビニー 信じる男」
2016年/アメリカ/117分
監督:ベン・ヤンガー
出演:マイルズ・テラー、アーロン・エッカート、ケイティ・セガール、キアラン・ハインズ、テッド・レビン

不屈度★★★★☆
満足度★★.5

エレファント・マン

2017年08月16日 | 映画(あ行)
人権は守られているか



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往年の名作ながら、見たことがなかったのです。
この度ようやく視聴。
1980年作品にしてモノクロ。
というのも舞台は19世紀末ロンドンなので、
その時代の雰囲気がよく現れています。
実在した奇形の青年ジョン・メリックの物語。


外科医トリーブス(アンソニー・ホプキンス)は、
見世物小屋でエレファント・マンとしてさらし者になっている青年を見出し、
研究材料として、自分の勤めている病院へ連れてきます。
その青年ジョン・メリック(ジョン・ハート)は、
始めのうち知的障害かと思われていたのですが、
唇の変形のため言葉がうまく発音できないだけで、
読み書きもでき、聖書を愛読する温厚な青年であることがわかります。
ただ病のためのそのあまりにも得意な容貌のために、
人間扱いされず、悲惨な人生をこれまで送ってきていたのでした。
しかし病院でも医師会で実験動物のように衆目に晒されたり、
貴族たちの自慢のために多くの人と面談をさせられたり・・・。


まだ今のような“人権”意識の希薄な、こんな時代があったわけですね・・・。
ただし、法律はともかく、
私たちの意識は当時とあまり変わらないのかもしれません。


作中では、この病院の婦長さんがステキでした。
彼女は初めから彼の容貌にはこだわらず、
通常の入院患者と同様にジョンに接します。
ある時は、トリーブスに
「彼はサーカスのときと同じように、病院でも見世物になっていますよ」
と苦言を呈するのです。
いいですよねえ。
こういう人。


このような実話に対して、今の社会は本当に少しでも良くなっているのか・・・? 
そんなことを意識しながら見たい作品です。
また、ジョン・メリックと対面したときの人の反応やその対応に、
もろにその人の人間性がでますよね。
そんなところが少し怖い。


蛇足ながら、実際のジョン・メリックについて少し調べてみました。
出生時には身体に異常はなかったのですが、
生後21ヶ月頃から異常が発生。
変形した容貌ながらも小学校までは出たそうです。
読み書きができるのは当然ですね。
その後、体の変形のため仕事につくこともままならくなり、
救貧院に入るのですが、そこでの待遇があまりにもひどく、
22歳のときに自ら奇形者の見世物興行に入ったとのこと。
作品と同じく外科医に見出され、社交界でも有名な存在となります。
27歳没。
その後の調べでは自殺というわけではなさそうだ・・・と。
現在の医学では「プロメテウス症候群」であろうと解明されています。


「エレファント・マン」
1980年/アメリカ・イギリス/124分
監督:デビッド・リンチ
原作:アシュリー・モンタギュー
出演:ジョン・ハート、アンソニー・ホプキンス、アン・バンクロフト、フレディ・ジョーンズ
WOWOW視聴にて
人間性発露度★★★★★
満足度★★★★☆

「神さまたちの遊ぶ庭」宮下奈都

2017年08月15日 | 本(エッセイ)
勇気ある滞在記

神さまたちの遊ぶ庭 (光文社文庫)
宮下 奈都
光文社


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北海道のちょうど真ん中、十勝・大雪山国立公園にあるトムラウシ。
スーパーまで三十七キロという場所へ引っ越した宮下家。
寒さや虫などに悩まされながら、
壮大な大自然、そこで生きる人々の逞しさと優しさに触れ、
さまざまな経験をすることになる。
『スコーレNo.4』の宮下奈都が「山」での一年間を綴った感動エッセイを文庫化。
巻末に、「それから」を特別収録。


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本屋大賞「羊と鋼の森」の宮下奈都さんの
北海道、トムラウシの一年間の滞在記。


場所が北海道だけに、興味を持ちました。
しかし、トムラウシとは・・・。
札幌に住んでいる私でも、これ以上の雪や寒さはゴメンだ・・・と思っているので、
トムラウシに住もうなどとは思いもよらないのですが、
宮下家、ご主人のたっての希望で、
中学生2名と小学生1名の子供たちの山村留学という形で
家族5人で移住してきたそうです。


トムラウシといえば、まだご記憶にある方もいらっしゃるのでは? 
真夏の登山ツアーで低体温症による大規模な遭難事故があった、あの山。
しかし、アイヌの言葉では「カムイミンタラ」すなわち「神々の遊ぶ庭」と言われる
圧倒的に美しい場所でもあります。
まあもちろん、そこまで山奥に住むわけではあありませんけれど・・・。
その山の麓の小さな集落に、まだまだ雪の残る4月、
はるばる福井からやってきた勇気ある宮下家。


多分いくらご主人が希望しても、
奥様や子供たちが反対すれば実現することではありません。
でも、子供たちは乗り気。
著者も渋々ながら・・・と言いつつ、
ずいぶん楽しみであったようにも見受けられます。
つまりは、皆さまとにかく大自然がお好きなようで。


学校は小中併置で、小学生10名、中学生5名(そのうち3名が宮下家の子どもたち)。
学校の職員や地域の住民、
宮下家と同じく子供の山村留学のために移住してきた人々・・・
このコミュニティが素晴らしく魅力的。
私、実のところそういうのは苦手だなあ・・・という気持ちもあるのですが、
本作を読むと、これも悪くないかも・・・と思えてきます。
なにかある都度、集まってバーベキューをしたり、宴会になったり・・・。
こういう土地だからこそ協力し合わないとやっていけないという事情はありそうです。
これを読んでいると、学校はいつも何かの行事の準備に一生懸命で、
本当にちゃんと決められたカリキュラムをこなしているのだろうか???
などと疑ってしまったりもしますが、
しかし、殆どの授業はマンツーマンに近いわけだから、
落ちこぼれが出ようもなく、普段の授業はかなり効率が良いのかもしれません。


けれど必ずしも良い点ばかりではなく、
例えばここで小中9年間を過ごした子が大規模な高校へ入学したときに、
ダメージを受けてしまうというような・・・そんな問題もあるようです。


本作にも度々出てくる、集落よりも少し上にある温泉「東大雪荘」は
私も行ったことがありまして、本当によいところですよ~。
鹿やキツネが特に珍しくもなく家の近辺を歩き回っている
なんて状況は私も憧れます・・。
クマは嫌だけど・・・。


貴重な体験記でした。
お子さんたちがみな独立したら、またご夫婦で、ぜひ北海道へ移住してくださいな・・・。
そうそう、札幌在住北大路公子さんも登場するシーンあり!!

「神さまたちの遊ぶ庭」宮下奈都 光文社文庫
満足度★★★★☆

しあわせな人生の選択

2017年08月14日 | 映画(さ行)
人生の選択、というより終末の選択



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カナダに住むトマス(ハビエル・カマラ)は、
スペインに住む長年の友人・フリアン(リカルド・ダリン)が
病のため余命わずかと聞き、フリアンのもとを訪れます。
本作はトマスが帰るまでの4日間のストーリー。



フリアンは、いずれにせよ死ぬ運命ならば、
無理な治療は必要ないとして化学的治療は拒否。
身辺整理を始めたところです。
一番の気がかりは愛犬トルーマンのことなので、新たな飼い主を探しています。
そして、アムステルダムの大学に通う息子の誕生日を祝うため、
オランダへトマスとともに旅をしたり・・・。



トマスはフリアンの性格をわかっているので、
無理に治療を勧めたりはしないのでしょう。
ひたすらフリアンに寄り添って、彼のしたいことをさせて、見守ります。
実際どのように言葉をかければよいのか
わからないだけのようにも見受けられますが。



フリアンは離婚していてひとり暮らし。
女友達はいるようですけれど・・・。
こうして最期の時を迎えようとする時、
親しい人がそばにいるということだけでもどんなに心が休まることでしょう。
決して病や死の不安・恐怖は口にしない彼だけれども。
例え死んでも、この人の心の中で自分は生き続ける・・・
と思えるだけで十分。
そう思ったのかもしれません。


こんなだから、余命宣告を受けた男の物語としても、
あまり重苦しさはありません。
ただ、最後にやりたいことをやって、穏やかな時を友と過ごしたい・・・
できるなら、そんな風に自分自身も最期の時をむかえたいなあ
・・・と私も思う。



トルーマンもかなりの老犬のようで、
そのけだるい感じが、フリアンの状態とピッタリですね。
結局誰がその犬を引き取ることになるのか、
うん、そこはやはり予想通りでした。



トマス役のハビエル・カマラ、
「アイム・ソー・エキサイテッド」等にも出演していましたが、
私が印象に残っていたのは、
ジュード・ロウがローマ教皇役をしていたTVドラマ
「ピウス13世 美しき異端児」に出演していた彼。
なんだかよくわからない作品ではありましたが、
ハビエル・カマラ、いい役柄を演じていて、
だからこそ、本作を見ようという気になった次第です。


「しあわせな人生の選択」
2015年/スペイン・アルゼンチン/108分
監督:セスク・ゲイ
出演:リカルド・ダリン、ハビエル・カマラ、ドロシス・フォンシ

幸せな最期度★★★★☆
満足度★★★★☆