映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

風にそよぐ草

2012年06月30日 | 映画(か行)
夢か、幻か、妄想か。結局は恋なんてそんなもの?



* * * * * * * * * 

初老の男女の運命的?な恋の物語。
う~ん、ラストのシーンに同じく、
宙返り飛行でぽ~んと空に投げ出されてしまったような心持ちのするストーリーです。
なんじゃこりゃ??
と投げ出してしまうのも悔しいので、ちょっと掘り下げて振り返って見ることにしましょう。


歯科医のマルグリットは、ひったくりに遭い、
バッグを持ち去られてしまいます。
そしてジョルジュが、駐車場の片隅に捨てられた彼女の財布を拾います。
その中には、しかめっ面の顔写真の身分証明書と、
すごくいい顔で写った写真の小型飛行機操縦免許が入っています。
ジョルジュはこのマルグリットに非常に興味を惹かれてしまい、
結局は警察を通じてですが、彼女と連絡を取ることができました。
しかしマルグリットは予想した以上にそっけない。
そこでジョルジュのほとんどストーカー?というような行動が始まります。
長い手紙を送りつける。
しつこく電話をする・・・。
そりゃー、気持ち悪いですよね。
マルグリットは拒否反応を示すのですが・・・。



ところがある時点から、この二人の立場が逆転。
マルグリットの方が彼のことが気になって仕方がなくなってくるのです。
少なくとも恋の駆け引きにおいては、逃げるほうが勝ちなんですね。
一人暮らしのマルグリットとしては、しつこいくらいに迫る相手がふといなくなってしまったら、
気になるのは当然だし、なんだか寂しくなってしまう。
そういうことは確かにあると思うのです。
結局人の気持ちなんて、風にそよぐ草と同じ。
その時その時でコロコロ変わる。
確固としたものなんてない。
まあ、だから人生は面白い、
と、そういうまとめにしておきましょう。


それにしても、ジョルジュってナニモノなんでしょうね。
妙に後ろ暗い過去があるような思わせぶりがありましたが、
結局そこの説明はなかったですよね?
(私が見逃しただけでしょうか?)
しかも始めは娘?とも思える若い(若く見える)奥さん。
このジョルジュにはもったいないくらいの、まともでいい感じの女性なんですが、
何故にこんな人がこの人の妻?
・・・謎は深まります。



結局のところ、財布を拾ったところだけが事実で、
あとはすべてジョルジュの夢か幻か、はたまた妄想・・・。
そうであってもおかしくない気がしてきます。
まるで狐か狸に化かされたような・・・。
なんともユニークでした。


2009年/フランス/104分
監督:アラン・レネ
出演:サビーヌ・アゼマ、アンドレ・デュソリエ、アンヌ・コンシニ、エマニュエル・ドゥボス、マチュー・アマルリック

「ほろにがいカラダ 桜ハウス」 藤堂志津子

2012年06月29日 | 本(その他)
群れない女たちの“城”

ほろにがいカラダ 桜ハウス (桜ハウス) (集英社文庫)
藤堂 志津子
集英社


* * * * * * * * * 

藤堂志津子さん、"桜ハウス"シリーズの第3弾。
・・・あれ? 
第一弾は面白く読んだ覚えがあるのですが、
もしかすると第2弾は読み逃していたかも知れません。


かつて"桜ハウス"でルームシェアしていた女たちの、その後のストーリー。
一番初めのところからは15年ほど経っています。

市役所に勤める独身の蝶子50歳。

シングルマザーの遠望子45歳、

離婚ほやほやの綾音40歳、

独身生活を楽しむバツイチの真咲35歳。


性格も年齢もまちまちの彼女たちが、
お互いの生活を認めながら、時には集まってその時々の愚痴やらなにやらを語り合う。
巻末の解説で吉田伸子氏が述べていますが、
彼女たちが"群れない"のがいい。
女同士の付き合いは、親密過ぎて息苦しくなってしまうということもありがちです。
そんなところから仲間はずれができたり、
別れればそれっきりになったり・・・。
けれど彼女たちの付き合い具合は、付かず離れず。
お互いに踏み込むべきところとそうでないところの間合いが実にいい。
こんな人達とならルームシェアも悪くない。
以前私は、そうした女たちの城で老後を過ごせたらいいな・・・などと
ちょっぴり憧れていたものですが。
"老後"に限りなく近づいてきた今は、
それはそれでまた様々な問題がありそうで、
単純に憧れてもいられない心境・・・。
(いや、そもそも、それは未亡人になった時の話だし・・・。)


さて、今作はこの4人に順にスポットがあてられた4篇から成っています。
冒頭は、50歳蝶子の「しのぶ恋」。
あまり色恋沙汰には縁がないと思われている蝶子ですが、
実は7年前にわかれた恋人が・・・。
彼には妻子があり、その罪悪感から無理やり終わらせた恋でしたが、
50歳を機にもう一度だけ声が聞きたいと思い電話。
二人の思いはたちまち7年前のように求め合い、燃え上がりますが・・・。
独身で通した蝶子は、今更"結婚"にはこだわらなくなっているのですが、
相手の思いはそうではなかったようで。
7年間心の底に持ち続けた恋の結末はいかに。


それから、巻末の「あのひとの妻」が、鮮烈な印象を残します。
真咲の物語ですが、彼女のところに週に一度通ってくる女性。
なんとそれは彼女が付き合っている人の妻アヤメ。
アヤメは夫と愛人の馴れ初めを
納得の行くまで話を聞きたいと通いつめているのです。
なんとも息詰まる話です・・。
そうしてまでも妻の座を明け渡したくないという執念。
不倫の後ろめたさ故に、それを拒否できない真咲と彼の心境もわからなくはありませんが・・・。
私には全く理解できないアヤメの行動ですが、
それにしてもその情念。
女ながら、強烈に印象に残りました。
そしてその後のこの夫妻のことにも。


「ほろにがいカラダ」藤堂志津子 集英社文庫
満足度★★★☆☆

ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬

2012年06月28日 | 映画(さ行)
今度のイングリッシュは、手強い。ドジだけど。



                 * * * * * * * * * 

ローワン・アトキンソンの、“ジョニー・イングリッシュ”シリーズ第2弾です。


英国諜報機関“MI:7”の諜報員ジョニー・イングリッシュは、
仕事でヘマをおかし、チベットの僧院で修行を積んでいる、
というところから始まります。
この修業姿はなかなか精悍ではありませんか。

スタイリッシュなタイトルにニンマリさせられて、
さて、始まり始まり~。
諜報部に英中首相会談に出席予定の中国首相を暗殺する動きが報告されます。
イングリッシュはチベットから呼び戻され、暗殺計画阻止の命令が下される!




イングリッシュの助手となるのはタッカーという新米青年。
前回もそうでしたが、こんなヤツの指導を受けて大丈夫なのか~?と思ってしまいますが、
なぜか、学ぶべきところは学び、反面教師とすべきところはする。
まともに成長していくところが奇跡ですよねー。
しかし、さすがチベットの修行は無駄ではない。
部分的?にはカッコイイところもありまする。
イングリッシュがビルの屋上に敵を追い詰めれば、
敵はビルの工事で組んだ足場を伝って地上へ降り始める。
イングリッシュは、のんびりエレベーターに乗って、地上で彼と出会う・・・。
いかにも、多くのアクション映画を逆手に取っていますよね。
今作では、イングリッシュが二重スパイの汚名を着せられ、
追われる身になったりもします。
彼が二重スパイだなどという複雑な任務を遂行できるとは、
とても思えないでしょうが。
超高速の車椅子でのカーチェイス。
いいんじゃないでしょうか。



そして何度も登場する、中国人殺人オバサンもなんとも可笑しくて、
このオバサンにはイングリッシュはドジの上塗りをさせられるばかり。
サスペンスと脱力の微妙な配分に、堪能しました。
こんな人物がスパイでも通用する社会というのは
案外平和で、良いのじゃないでしょうか。



ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬 [DVD]
ローワン・アトキンソン,ジリアン・アンダーソン,ドミニク・ウェスト,ロザムンド・パイク
ジェネオン・ユニバーサル


「ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬」
2011年/イギリス/101分
監督:オリバー・パーカー
出演:ローワン・アトキンソン、ジリアン・アンダーソン、ドミニク・ウエスト、ロザムンド・パイク、ダニエル・カルーヤ


ワン・デイ 23年のラブストーリー

2012年06月26日 | 映画(わ行)
心のつながりの強さと美しさ



* * * * * * * * * 

それは、大学卒業の7月15日から始まります。
真面目でしっかりもののエマ(アン・ハサウェイ)と、
自由奔放で恋多きデクスター(ジム・スタージェス)。
二人は、恋人でなく友人として付き合うことにするのです。
それから、二人の毎年の7月15日のことが順に映し出されていきます。


まるで時間の定点観測。
あるいは人生の早送り。
でも、確かにこういうのは今までなかったですね。
時代が移り変わり、年令を重ねていく二人のさまを追うのは、大変に興味深いものがありました。



23年間変わらないのは、エマの思い。
実は彼女はそれ以前からデクスターに憧れていたのです。
けれども、彼女が恋人でなく友人の立場に留まろうとしたのは成功。
もしあそこで「恋人」になってしまったら、
他の多くの女性と同様にあっという間に別れて忘れ去られていたでしょう。
しかし、この選択は、非常に辛い選択でもありました。
彼女はこの思いを断ち切ろうと、他の男性と付き合ったりもするのですが・・・。


一方、デクスターの年齢の重ね方は、なかなかドラマチックです。
彼は若くして、あるTV番組の司会者として脚光を浴びました。
しかし、それはいかにも低俗な番組で、おバカな司会者として見放されるのも早い。
お酒と女に溺れ、身を持ち崩してヤサグレていくデクスター。
こういうストーリーだと、女性が大きく変わっていく事の方がありがちに思うのですが、
今作は、男性のほうが大きく変わりますね。
彼はまあ、それまで人生順風満帆。
なんでも思う通りに進んできたのでしょう。
けれど、大きな挫折を経験してひと周り大きくなります。
そしてそんなさまを、時には苦言を呈しながらも
じっと見守ってくれたエマの真の価値に気づくようになる。
彼がエマを本当に必要に思うのは、エマよりも随分後なのではないかと思います。
そんな気持ちを持ったまま別の女性と結婚してしまったから、
うまくいくわけもないのですよね。


23年間ひたすらに彼を思う気持ちを持ち続けたエマの、
いじらしくはかなげなのに強い有りようが、ひたすら胸をつくのです。
年令を重ねてますます美しくなっていくエマ。
いいですよね。
しかしまた、終盤の思いがけない出来事に胸が塞がれる・・・。
デクスターに同調して、ただただショック。



そして、どん底から立ち上がった時のデクスターは、
なんだか突き抜けたようにこざっぱりしていて、ああ、いいなあ、と思いました。
この長い年月の中では一番いい。
またここで一皮むけて変身してしまうデクスター。
人生って深いです。
余韻たっぷりのラストもよし。
堪能しました。


「ワン・デイ 23年のラブストーリー」
2011年/アメリカ/107分
監督:ロネ・シェルフィグ
原作:デビッド・ニコルズ
出演:アン・ハサウェイ、ジム・スタージェス、パトリシア・クラークソン、ケン・ストット、ロモーラ・ガライ



「矢上教授の午後」 森谷明子

2012年06月25日 | 本(ミステリ)
都会に生じた、“絶海の孤島”

矢上教授の午後 (祥伝社文庫)
森谷 明子
祥伝社


                        * * * * * * * * * 

先にこの著者の「千年の黙 異本源氏物語」を読みました。
古典物を書く方かな?と思っていましたが、これはしっかり現代モノです。


ある大学のおんぼろ研究棟が舞台。
夏の午後、急な嵐が到来し、停電が起きてしまいます。
そのためエレベーターは使えなくなり、
非常階段からの出口の扉が、なぜか開かなくなってしまっています。
なんと、都会の真ん中で、
「雪の山荘」や「絶海の孤島」のような、閉鎖空間が出来上がってしまったのです。
となれば、当然そこで起こるのです・・・殺人事件が。
夏休み中のことなので、棟にいたのは僅かな人々。
誰も出入りができないとなれば、当然この中の誰かが犯人。
ミステリ好きの矢上教授(実は非常勤講師)が、この事件の謎を解きます。


夏休み中、閑散としているのだけれど、
レポートの締め切りが迫り焦っている院生とか、
あくまでに研究にいそしむ人、
外部からの来客など、構成員は雑多。
埃っぽくてかび臭くて薄暗そうな雰囲気が、実にうまく現されています。
この研究棟は主に生物総合学部で占められており、
生物に関わる話が出てくるのも興味深いところ。
屋上の温室にはバナナが実り、
廊下にはフェレットのケージが置いてあったりする。
何があっても変ではないのが学校というところなのかも。


また、何故かここを訪ねてきた男性の後をつけてきた青年は、
停電のエレベーターに閉じ込められてしまい、
その彼の取る行動がとても面白い。


ユーモアめいたその語り口の下で、なかなかシビアな推理が繰り広げられます。
楽しい一作でした。



「矢上教授の午後」森谷明子 祥伝社文庫
満足度★★★☆☆

グレイティスト

2012年06月24日 | 映画(か行)
喪失感から立ち直れない家族を癒す風

                  * * * * * * * * * 

日本未公開作品です。
長男ベネットを交通事故で亡くしたブリュワー一家。
まもなくローズという女性がベネットの子を妊娠していると言って訪ねてきます。
行き場のない彼女を一家はとりあえず迎え入れ、同居することになりましたが・・・。


半信半疑でローズを受け入れたブリュワー家は、
最愛の息子を亡くした喪失感に沈んでいます。
ほとんど半狂乱の母。
家族を気遣う責任感のあまり、悲しみに向かい合えない父。
兄の事故の時には麻薬でハイになっていた自分を悔やみ続ける弟。
彼らは実の所、ローズを気遣う余裕がなかったとも言えます。
それぞれが負った大きな悲しみや喪失感を乗り越え、
家族の絆を取り戻していく再生の物語。


ありがちなストーリーではありますが、
このベネットとローズのみずみずしい初恋のエピソードが光っています。
高校時代、いつもすれ違うだけで話をしたこともなかった。
けれども互いをいつも意識していた二人。
意を決して、相手に話しかけたのは、高校生活最後の日のベネット。
初体験で妊娠してしまったローズでしたが、
彼を好きな気持だけは確か。
けれど彼のことをまだほとんど知らなかったのです。
ところが、この一家はまるで腫れ物に触るように、ベネットの思い出を語ろうとしない。
余りにも傷が生々しくて、思い出すのも辛い。
・・・切ないですね。
つい、涙を誘われてしまいます。
愛する家族を失った喪失感。
想像するのも辛い感じです。
そういった感情がリアルに伝わって来ました。


キャリー・マリガンの笑顔が好きです。
なぜだか、癒される感じ。

グレイティスト [DVD]
ピアース・ブロスナン,スーザン・サランドン,キャリー・マリガン,アーロン・ジョンソン,ジョニー・シモンズ
アメイジングD.C.


「グレイティスト」
2009年/アメリカ/100分
監督:シャナ・フェステ
出演:ピアース・ブロスナン、スーザン・サランドン、キャリー・マリガン、アーロン・ジョンソン


「さよならドビュッシー」 中山七里

2012年06月22日 | 本(ミステリ)
“ピアノにかける情熱”に気を取られると・・・

                   * * * * * * * * * *

音楽ミステリーとありますが、
これは想像以上に過酷な物語でした。


ピアニストを目指す遥、16歳。
祖父と従姉妹と共に火事にあい、
1人だけ生き残ったものの、全身大火傷を負ってしまいます。
この時亡くなった祖父というのが、
先に間違って読んでしまった「さよならドビュッシー 前奏曲」の探偵役、玄太郎。
うーん、ちょっとショックですね。
今作では早々にお亡くなりになってしまいます・・・。


かろうじて生き残った遥ですが、
皮膚移植というのも、そう簡単ではないようです。
皮膚が無事に生着しても、動かないままでいると皮膚が固まって縮んでしまうため、
リハビリが必要なのですが、それが激痛を伴うという。
松葉杖をつき、顔以外全身包帯姿となりながらも
ピアニストへの道を歩もうとする遥。
しかし、追い打ちをかけるように母の死、
そして遥自身にも何者かの悪意が振りかかる。

これらの事件には関連があるのか、
彼女に危険を及ぼすのは何者なのか???


このようなミステリ的要素ももちろんあるのですが、
遥の壮絶なまでのピアノに向かう執念と、
コンクールの行方が、事件の謎以上に私達をひきつけます。
彼女をいざなうのは、天才ピアニスト岬。
そして、この物語の探偵役でもある。
カッコイイです。

さらに、コンクールシーンをクライマックスとした後、
驚愕の真実が・・・!!
通常のミステリなら想像がついたかもしれないことなのですが、
遥のピアノに掛ける情熱にすっかり心を奪われてしまっていました。
そういえばこれはミステリだった・・・と、
虚を突かれるような大仕掛。
うまくはめられてしまいました。
さすがの「このミス大賞」受賞作です。


「さよならドビュッシー」中山七里 宝島社文庫
満足度★★★★☆

普通の人々

2012年06月21日 | 映画(は行)
誰もが羨むような家庭に潜む罠

             * * * * * * * * * 

ロバート・レッドフォード初監督作品にして、
1980年アカデミー賞4部門に輝いた作品。


中流家庭のジャレット一家は、夫婦と二人の息子、何一つ不足なく充足した家庭でした。
ところがある時、ヨットの事故で兄バックが亡くなり、
更には弟コンラッドが自殺未遂。
どんどんきしみ始める家族・・・。


コンラッドは、兄が亡くなった事故でトラウマを抱えていたのです。
誰にも明かせない心の奥の思い。
なぜ自殺しなければならなかったのか、
彼の心を解きほぐすのは精神科医のバーガー。


精神科医は、患者にあれこれ教え諭したり、指示を出したりはしません。
ただ患者の信頼を得て、
患者が心を開き、自らの心の奥底をさらけ出すのを待つのみ。
患者が抱え込んだ思いを吐き出した時に、それで治療完了なんですね。
そうしたプロセスがよく分かります。
でもこれがなかなか簡単ではなさそうです。
そこまで行く前に、患者が来なくなってしまいそうですもんね。


さて、コンラッドの混乱は兄のことばかりではありません。
彼の生まれ育った家庭、
特に母の心が大きく影響していることがわかります。
父は弁護士で、母も美しく教養があり魅力的な女性。
誰もが羨むようなそんな家庭にも、
罠が潜んでいるのですね・・・
なぜか母は、バックだけをひたすらに愛していたのです。
最愛の自分の分身とも思える息子バックが亡くなり、
どうでもいい方のコンラッドが生き残っている。
愛せないというよりはむしろ憎んでいる風。
幼少の頃から母の気持ちをコンラッドは感じ取っていたのでしょう。
兄が亡くなったことで母の気持ちはますます離れていく。


友人や彼女より何よりも、まず家族に認められること。
それが私達が生きていく上で必要なのかも知れません。
悩み多きコンラッドは、
それでもさすが若くて心がしなやかです。
そんな母でさえも最後には受け入れようとしますが・・・・。


今作は、コンラッドの悩みが中心のようで、
実は一番問題なのはこの母です。
なぜかあまり父と息子の葛藤というのは感じません。
『アメリカ文化は女性嫌悪の文化』という、内田樹氏の持論をまさに地で行く作品。

コンラッドの気持ちの変化をじっくり描く良作ではあります。

普通の人々 [DVD]
アルヴィン・サージェント
パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン


「普通の人々」
1980年/アメリカ/124分
監督:ロバート・レッドフォード
出演:メアリー・タイラー・ムーア、ティモシー・ハットン、ドナルド・サザーランド、ジャド・ハーシュ

タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密

2012年06月20日 | 映画(た行)
最新技術で語るノスタルジー



                   * * * * * * * * * 

ベルギーの漫画家エルジェによる「タンタンの冒険旅行」を3Dアニメ化したもの。
少年記者タンタンと白いフォックステリア、スノーウィの冒険譚は、
残念ながら私は読んだことがないのですが、
スピルバーグ氏はたぶん子供時代に夢中になって読んだのでしょうね。
そういう監督の愛情あふれる作品。


17世紀、洋上で忽然と姿を消した帆船ユニコーン号。
タンタンは偶然にその模型を手に入れます。
そして、その模型のマストには、ユニコーン号に積まれていた莫大な財宝の行方を示す秘密が隠されていたのです。
その秘密を手に入れようとする者たちとの、追いつ追われつの冒険譚。
3Dアニメという最新技法を用いながら、舞台は20世紀初頭当たりでしょうか、
ノスタルジックなその雰囲気がいいですね。
とりあえずは、大いに楽しんだのでした。



さて、でもこのリアルな3Dアニメというものについて、
少し考えてしまいました。
街の風景や、家具や道具、海の波、
これはもう実写と殆ど変わらないくらいにリアルです。
けれど気になるのは人の表情。
これもよくできています。
・・・だけれども、何かが足りない、
残念・・・という思いをぬぐい去れない。
えーと、たぶんこの人の表情も、
本物の役者さんの表情をコンピュータで読み取ってアニメ化しているのですよね。
けれども、なんだか偽物という感じがしてしまう・・。
どんなに頑張っても、本物の人の表情には勝てないのではないでしょうか。
ほんのちょっとした目線とか、まゆの動かし方、シワのでき方、
私たちは普段意識せずにそんな微妙なところを読み取っているのでしょう。
そしてそれは個人個人で違ったりもするのです。
デジタルではまだまだ対応しきれているとは言えません。
でも、結局これは行き着くところまでは行き着かない、というか、
行き着いては欲しくないような気がします。
生身の人間がやはりいい。



それからこれが、3Dではない普通のアニメなら・・・、
私たちはその単純な表情から想像力を駆使するのです。
例えば殆ど動きもない無表情のカットがあったとして、
私たちはストーリーの流れからその表情に、
怒りや悲しみを勝手に読み取ったりもするんですよね。



だからどうにも、今作のような中途半端なリアルさは、
かえって良くないような気がしてなりません。
ここまで、リアルに作るのなら、
いっそ実写にしては・・・などとも思えてきます。


ではタンタン役は誰がいいかな?とか、
酔いどれ船長は、誰がいいかな?とか、想像するのも楽しい。
どうなんでしょう。
3Dアニメの方向性。
この先もただリアルになるだけなのかな?
どうなっていくのか、もう少し見守りたいと思います。



ただ、とても良かったのは犬のスノーウィです。
これこそ、実写ならすごく大変なことを、自在にやってのける。
より私達が「犬らしい」と感じる動きをするわけです。
また、実際に犬がするはずのないアクションも。
これはいいですね。
私はこちらの可能性に期待したいです。

タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密 スペシャル・エディションDVD
ジェイミー・ベル,アンディ・サーキス,ダニエル・クレイグ,ニック・フロスト,サイモン・ペッグ
角川書店



「タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密」
2011年/アメリカ/107分
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演(声):ジェイミー・ベル、アンディ・サーキス、ダニエル・クレイグ、ニック・フロスト

「ヘヴン」 川上未映子

2012年06月18日 | 本(その他)
私たちは“受け入れて”いる 

ヘヴン (講談社文庫)
川上 未映子
講談社


                     * * * * * * * * * 

ずしりと重いこの一作。
軽々しくは語れない気がして、しばらく寝かせてありました。
14歳、同級生からのいじめに耐える"僕"。
ある時、同じくいじめを受けているコジマから手紙を受けるのです。
手紙のやり取りを通して、二人は密かに友情を育んでいくのですが・・・。


この少女コジマの精神構造がユニークといいますか、
ある種宗教めいているのです。

「私たちはただ従っているわけじゃないんだよ。
受け入れてるのよ。
自分たちの目のまえでいったいなにが起こっているのか、
それをきちんと理解して、わたしたちはそれを受け入れてるんだよ。
強いか弱いかで言ったら、それはむしろ強さがないとできないことなんだよ」

「君のその方法だけが、いまの状況のなかで唯一の正しい、正しい方法だと思うの」



"僕"の方法というのはつまり、
ひたすらいじめや暴力に耐え、親にも教師にも頼らないという、そのことを指しているのです。
そしてその正しさの"しるし"が、
"僕"の斜視であり、自分の汚れてよれた制服であると、彼女は言います。

そうなんだろうか。
それはどうにもならない現実を、無理やり自分に納得させるための理屈にすぎないような気もする。


"僕"は、コジマの理論を全面的に理解し納得したわけではないのですが、
彼女の孤独で強い魂に心惹かれていくのです。


さて一方、いじめる側の理論にも凄まじいものがあります。
いつもいじめを繰り出す同級生の中で、
決して自分では手を出さず、ただ冷めた目で見ているだけの百瀬。
彼には、ひとかけらもいじめの罪悪感がありません。

「べつに君じゃなくたって全然いいんだよ。
誰でもいいの。
たまたまそこに君がいて、
たまたま僕たちのムードみたいなのがあって、
たまたまそれが一致したってだけのことでしかないんだから」

「たまたまっていうのは、単純に言って、この世界の仕組みだからだよ」



この彼の理論によれば、コジマの言う"しるし"には
なんの意味もないことになってしまいます。


両極端の論の中で、"僕"は自分なりに答えを出していく、
そんな物語なのだと思います。

でもそのために必要なのは、やはり家族だった。
家族という言い方がしっくりこなければ、
しっかり自分によりそって、理解しようとしてくれる人。


コジマの論は確かに強いのかも知れないけれど、
闇に向かっていく危うさがある。
彼女の孤独を救い上げられなかったのは残念なのですが・・・。


人の尊厳も何もかも踏みにじるいじめシーンに、戦慄を覚えながら、
どうかこんなことが、どこの学校からもなくなってほしい・・・と、祈ってしまいました。


「ヘヴン」川上未映子 講談社文庫
満足度★★★★☆

ロンゲスト・ヤード

2012年06月17日 | 映画(ら行)
男たちの血沸き肉踊る


                 * * * * * * * * * 

かつてアメフトの花形選手だったポール。
チームを辞めて自堕落な生活を送っており、
ついには車を盗んだ罪で刑務所入りとなります。
その刑務所では、看守たちのセミプロのフットボールチームがあり、
所長がチームの育成に躍起になっているのです。
ポールは看守チームの相手役として、
囚人チームを結成し率いることになるのですが・・・。
寄せ集めの荒くれメンバーのチームですが、次第に白熱し・・・。
もともと負けるために作られたチームだったのですが、彼らは盛り上がる・・・!


囚人チームを裏切るタレコミ屋や、刑期と引き換えに「21点差で負けろ」との所長の汚い圧力があったりして、
目が離せません。

白人と、黒人が反目しあっていて、双方が協力関係を結ぶまでが一苦労、という部分は、
少なくとも、今なら省けそうです。


いやあ、でもしかし、熱いですね。
男たちの血湧き肉踊る・・・。
なんとも荒っぽいゲームでした。
やはりアメフトというのは、肉食人種のスポーツですよね・・・。
草食系の日本人が野球のほうが好きというのが、納得できてしまいました。


今作は2005年にリメイクされていまして、
主演はアダム・サンドラー。
こちらの主演のバート・レイノルズも出演しているんですね。
なんだか、そちらの方も、見てみたくなりました。


ロンゲスト・ヤード [DVD]
バート・レイノルズ,アルバート・S・ラディ,ロバート・アルドリッチ,エディ・アルバート,エド・ローター
パラマウント ジャパン


「ロンゲスト・ヤード」
1974年/アメリカ/121分
監督:ロバート・アルドリッチ
出演:バート・レイノルズ、エド・ローター、マイケル・コンラッド、エディ・アルバート

ミッドナイト・イン・パリ

2012年06月16日 | 映画(ま行)
1920年代のパリへGO!



                * * * * * * * * * 

ハリウッドの脚本家ギルは、
婚約者イネズと共に彼女の両親とパリへ来ていました。
憧れのパリ。
彼はこのままパリに移り住んで小説を書きたいと思うのですが、
現実的なイネズは取り合いません。



さて、パリの町をギルが1人でさまよい歩いているうちに、
深夜0時の鐘が時を告げると・・・。
なんと、彼は芸術と文化が花開いた1920年代のパリにタイムスリップしていたのです。
ウッディ・アレンにしてはなんとも予想外の展開ですが、
まあ、これはSFというよりも、単に憧れの世界への夢の旅のようなものですね。
ギルはそこで様々な人に出会います。
フィッツ・ジェラルドにコール・ポーター。
ジャン・コクトーにヘミングウェイ。
そして、ダリにピカソ!!
ははあ・・・、全く夢のようですね。
こういう人達がサロンに集まるパリ・・・。
ダリ役はエイドリアン・ブロディで、つい笑ってしまいます^^;
そして、ピカソの愛人であるアドリアナという女性にギルは心惹かれて行きます。
どうしてか、朝になるとギルはきちんと現代に帰り着いており、
そこでは婚約者とその両親の退屈な一日に付き合わなければなりません。
そして深夜0時にまた20年代へ・・・。



アドリアナは、更に20年くらい前の、ベル・エポックのパリに憧れています。
そしてそのベル・エポック時代の人々はルネサンス期に思いを馳せる。
いつの世も、人は古き良き時代に憧れるもののようです。
私達が特に近年、昭和の日本を懐かしむように・・・。


セピア色のノスタルジーに満ちた過去のシーンが素敵です。
回想する過去は特に美しいものですが・・・、
こうしたタイムトラベルはつまり、ウッディ・アレン監督の夢なのでしょう。
実の所はその時々に、様々な問題がどこにでもごろごろ転がっていたに違いないのですが、
あえて美しい過去をそのまま描き出してくれました。
どのみち、こういうものへのあこがれを共有できない人とは
結婚してもうまくいかないのだろうな・・・
と、思ったりします。



しばし私達も夢の時間旅行にお付き合い。
こんなのも、時にはいいですね。

2011年/スペイン・アメリカ/94分
監督:脚本:ウッディ・アレン
出演:オーウェン・ウィルソン、マリオン・コティヤール、レイチェル・マクアダムス、キャシー・ベイツ、エイドリアン・ブロディ

「さよならドビュッシー 前奏曲」 中山七里

2012年06月14日 | 本(ミステリ)
行動派の車椅子探偵

さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード)~要介護探偵の事件簿 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
中山 七里
宝島社


               * * * * * * * * * 


『このミス』大賞受賞作である「さよならドビュッシー」には以前から興味があり、
この本を見かけてイソイソと購入。
さっそく読み始めました。
ところが・・・、あれ? 
少なくとも音楽、それもクラシックに関わる物語なのでは?と思っていたのですが、
主人公は頑固な車椅子の老人で、
一向に音楽が出て来ません。
首を傾げつつ、本の表紙を改めて眺めてみれば、
「さよならドビュッシー」の"前奏曲"
しかも"要介護探偵の事件簿"とあるではありませんか!!
しまった~!
完全に私の勇み足、というか単にドジで間違えたのでした。


本作は、「さよならドビュッシー」より後に書かれたものですが、
ストーリーはその前日譚に当たるとのこと。
「さよなら・・・」のヒロインのお祖父さんが探偵役となるミステリ。
脳梗塞で半身不随となった玄太郎は、
要介護認定を受けたあとも精力的に会社を切り盛りしています。
そんな彼が鋭い洞察力で身の回りで起こった事件を解決していきます。
アームチェアディテクティブと言えば自身はあまり動きまわらず、
人から話を聞くだけで推理を繰り広げたりするのが常ですが、
この要介護探偵は介護師みち子の力を借りて、
車椅子でどんどん現場に乗り込んでいくのです。
なるほど、安楽椅子ではなく、車椅子ですもんね。
何しろこの爺さんの頑固さワンマンさは筋金入り。
けれど、きちんと礼儀をわきまえた人には、それなりに礼儀をわきまえた態度で対応したりして、
なかなか興味深い人物なのです。
行動力がモノを言う。
頼りになります。
5話からなる短篇集となっていますが、
2作目「要介護探偵の生還」では、
玄太郎が脳梗塞で倒れてからの、凄まじいリハビリの様子が描かれていて、圧巻でした。
勘違いで読んだ本ではありますが、
なかなかいけるのであります。


さて、そんなわけで、このあとすぐに元作の「さよならドビュッシー」を読み始めたのですが・・・。
むしろこの順番で良かった気がします。
こんなに元気のいい玄太郎氏に、
悲惨な未来が待ち構えています。
それについてはまた後日・・・。


「さよならドビュッシー 前奏曲」 中山七里 宝島社文庫
満足度★★★☆☆

幸せへのキセキ

2012年06月13日 | 映画(さ行)
Why not?



               * * * * * * * * * 

閉鎖されていた動物園を買い取り再建した英国人ジャーナリスト、
ベンジャミン・ミーの実話を元にした作品です。


最愛の妻を亡くしたベンジャミンには、14歳の息子ディランと7歳の娘ロージーがいます。
町のどこを見ても亡き妻が思い出され、
ディランの素行は荒れ、仕事への情熱も失ってしまった。
このままでは駄目だと、家族の生活を立て直すため越してきた家には、
なんと動物園がついていた!!
この動物園を立て直すことで、彼ら家族が悲しみを乗り越えていくさまを描きます。



はじめの方では、ことさらに亡くなった妻の思い出は語られないのです。
ベンジャミンはむしろ思い出すことを封印しているようにも思われる。
失われた幸福の時間を思い出すことがあまりにも辛かったのでしょう。
けれども、終盤、生きる力を取り戻した彼らは、
美しい思い出として、彼らの胸のうちに生きる妻を、母を、
しっかり語ることができるようになっています。
特に大事件が起こるわけではありません。
でも彼らの心情が細かに描かれていて、
説得力があり、胸が熱くなります。
特に、父と息子の思いがなかなか通じないというアメリカ映画の定石を踏まえつつ、
仲直りをあまりにもオーバーな事件をきっかけにしない、
自然体なのも感じがいいのです。

「20秒の勇気を持てば、きっと素晴らしいことが起こる。」

いい言葉ですね。
私も覚えておくことにしましょう。
たった20秒の勇気。
そして、この作品のもう一つのキーワードは“Why not?”
種明かしは、どうぞ作品で。



しかし、今作の邦題はこれでいいのでしょうか?
何でもかんでも幸せの・・・幸せへの・・・、
“幸せ”の大安売りはどうなのかと思ってしまいます。
原題は“We Bought a Zoo”。
確かに直訳ではミもフタもないかも知れませんが、
もう少し何とかならなかったのか。
しかもなんで「奇跡」が「キセキ」とカタカナなのか。
もしかして「軌跡」と掛けたのか?
これでは後で題名だけ見ても、
どんな作品だったか思い出すことが難しそうです・・・・。


ロージー役のマギー・エリザベス・ジョーンズは可愛らしかったですねえ・・・。
彼女を見ているだけで口元が緩んでしまいます。
動物たちの総出演もヨシ!
なんだか“幸せ”な気持ちになってしまうのでした。
あっ・・・!



「幸せへのキセキ」
2011年/アメリカ/124分
監督:キャメロン・クロウ
原作:ベンジャミン・ミー
出演:マット・デイモン、スカーレット・ヨハンソン、トーマス・ヘイデン・チャーチ、コリン・フォード、マギー・エリザベス・ジョーンズ、エル・ファニング

「ブラザーサン シスター・ムーン」恩田陸

2012年06月12日 | 本(その他)
放し飼いで、とりとめのない学生時代

ブラザー・サン シスター・ムーン (河出文庫)
恩田 陸
河出書房新社


                * * * * * * * * * *


高校時代の友人、楡崎綾音・戸崎衛・箱崎一のザキザキトリオ。
同じ大学に進みましたが、さほどの接点はないまま、それぞれの学生生活を過ごします。
三人三様、本と映画と音楽に費やす青春、
その思いを描いています。


この作品、多分に著者の自伝的要素が大きいのです。
特に、冒頭の綾音さんの語りの部分は、
小説家になるなんて思いもしなかったという著者の学生時代が、かなり色濃く反映されています。

「自意識過剰なのにコンプレックスの塊で、
やっとプライバシーを手に入れたのに人恋しく、
何者かになりたくてたまらないのに、足を踏み出すのは恐ろしかった。」


という文章にぎくりとしました。
まるで私自身の学生時代の事のようです。
こんな思いをくぐり抜けて来た著者に、なんだか勝手に親しみを覚えたりして。


次にはジャズに打ち込む衛。
これは著者とは別物・・と思いきや、
なんとこれも著者の学生時代が反映されているとのことで驚きました。
衛はベースなのですが、恩田陸さんは、アルトサックスをやっていたそうです。
う~ん、今まで割りと恩田陸さんの本は読んでいたつもりなのですが、
彼女がアルトサックスをやるなんていう雰囲気を感じたことがなかったので、意外に思いました。
多才な方なんですねえ・・・。
それでコンプレックスの塊だなんて、
私と同じなどと思ってしまったのが恥ずかしくなってしまいます。


最後の一は映画なのですが、この人物に特にモデルはいないとのこと。
・・・つまり著者も映画はよく見ていたということなのでしょう。
「ブラザーサン・シスタームーン」は1972年、イタリア映画。
このストーリー中ではこの3人が一緒に見に行った映画ということになっています。
私も、この題名には記憶があるのですが、たぶん見たことはないですね。
(今度絶対見よう!!)


人生の中で、放し飼いで、なんだかとりとめのない不思議な時代。
楽しくはあったけれど、苦しくもあり、自分でもその意味をはかりかねている・・・
そんな感覚を、見事に凝縮していたと思います。


「ブラザー・サン シスター・ムーン」恩田陸 河出文庫
満足度★★★★☆