映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ザ・タウン

2011年02月27日 | 映画(さ行)
裏社会の事情がヒリヒリと伝わる



           * * * * * * * *

ベン・アフレックの監督及び主演作品、ということで期待が高まります。
原作はチャック・ホーガン「強盗こそ、我らが宿命(さだめ)」。

ボストンのチャールズタウンが舞台ですが、
ここは全米一銀行強盗発生率の高い街だとか。
・・・何とも物騒ですね。
そこで育ったダグは、やはり父と同じく銀行強盗の道を歩む・・・。
あるとき、強盗に入った先で、支店長クレアを人質に連れ出すことになってしまった。
元々ダグはお金は奪うけれども、人は傷つけない主義。
けれど仲間はそうではなく、そこでまた軋轢が起こったりするのです。
この時は何とかクレアを傷つけることなく、海岸で解放することが出来ました。
ダグたちは覆面をしていたため、クレアにも顔は見られていません。
しかしその後、クレアがFBIに不都合な情報を流したりしないかどうか探るため、
ダグは彼女に接近します。
むろん彼女はダグの正体を知るよしもない。
そしてダグは次第にクレアに強く惹かれていく・・・。



破綻は目に見えていますよね。
けれども、ストーリーに惹きつけられ、目が離せない感じです。
暴力、ドラッグ、売春・・・そういうものが日常茶飯事のダグの生活。
彼は何とかまっとうな生活をしたい、こんな街から抜け出したい、
と強く思っているのです。
そういう彼の目指す夢の象徴がクレア。
嫌ならさっさと抜け出せばいい。
単純にはそう思うのですけれど。
しかしそう簡単には行かない裏の事情というものが、やはりあるんですね・・・。
う~ん、確かにこれではどうしようもないのか。
見ている方も切なくなってきます。
もがけばもがくほど泥沼にはまり込む。



収入の格差が教育の格差を生むといいます。
そういうことがさらに進と、
こんなふうに裏社会のものは裏社会にしか住めないような状況を生み出していくのかなあ、
と思ったりします。
ともあれ、そういう裏社会の切ない事情がひりひりと伝わってくる力作でした。
ベン・アフレックは、結構こういう悪人役もはまりますね。
俳優兼監督として、この先も期待していいのではないでしょうか。

とはいえ、百戦錬磨、酸いも甘いも噛み分けたイーストウッド監督には及びません。
それはもう、経験の差なのでしかたありません。
40年、50年先の彼がさらに楽しみ。
って、考えてみたら、そんなには私は生きられないです・・・。残念。


「ザ・タウン」
2010年/アメリカ/123分
監督:ベン・アフレック
出演:ベン・アフレック、レベッカ・ホール、ジョン・ハム、クリス・クーパー、ブレイク・ライブリー

わんこ1

2011年02月26日 | 工房『たんぽぽ』
今回は、軽くわんこを一匹。
参考はこの本です。
羊毛フェルトのマスコットCOLLECTION
河出書房新社編集部
河出書房新社


こちらは、やや慣れた人向きかな?
作品の作り方は割とラフです。
でも、いろいろな方の作品が紹介されているので
バラエティ豊かで、羊毛フェルトの可能性が感じられます。
あんなこともやってみたい、こんなふうにも作ってみたい・・・
夢が広がりますね。

で、一番簡単そうなのを一つ作ってみましたが・・・


ちょっととぼけた感じのおすわりわんこ。


前から。


後ろから。

う~む、いや、カメラの腕も確かに悪いのですが
バカチョンカメラって、小さいものを近くでとるのが難しいですよね・・・

いずれにしてもまだまだ精進が足りない。

太陽を盗んだ男

2011年02月25日 | 映画(た行)
経済成長まっただ中の日本の熱気

           * * * * * * * *

以前から亮さんにオススメいただいていた今作品。
まあ、私はジュリーこと沢田研二見たさで見てみました。
中学校の理科教師、城戸。
彼は孤独で空虚な心を抱えていた。
東海村の原発からプルトニウムを盗み出し、アパートの自室で原子爆弾を製造する。
彼はその原爆をタテに、国家へ向けて無謀な要求をしようとする。
手始めは、いつも夜9時で終了してしまうテレビのナイター中継を延長すること。
長嶋監督の采配の元、王がホームランを打ったりする。
おお!そういう時代ですか!

だがしかし、彼はそれ以上の要求を思いつかない。
空っぽの男が原爆を持ったところで、彼にはそれ以上やりたいことが何もない。
あれば原爆など作るよりも先に、そちらのアプローチをするでしょうね。
今なら、まずテロ活動へと話が進むのでしょうけれど、全くそうはならない。
ドラマは、菅原文太演じる刑事と池上季実子演じるラジオパーソナリティーが絡み、
次第に過激な方向へと展開していきます。
正直言ってストーリーは、なんじゃこれは・・・?というシロモノ。
でも、経済成長まっただ中の日本の熱気が感じられる、
その時代の見本のような作品なんですね。


1979年。約30年前ですか。
電話はダイヤル電話だし、テープレコーダーはオープンリール。
城戸は自作のボイスチェンジャーを使います。
まあ、今で言うオタクでしょうか、
一人部屋にこもって原爆作成・・・。
今なら差し詰め、パソコンをいろいろ駆使しそうな感じの青年ですね。
しかし、まだアナログの時代だ・・・。
第1この人、れっきとした教師ですよ。
今の先生なら忙しくて原爆なんか作ってるヒマないと思う・・・。
つまりこの時代、今振り返るならば、誰もが前進あるのみ!と突き進んでおり、
その流れに乗れないというのは、なんのために突き進むのか見えなくなってしまった人。
だから心が虚ろで、周りのすべてが無意味で、自分の存在も実感できない。
どうでもいい。
つきつめれば破滅願望なのではないでしょうか。

しかるに、30年後の現在。
そうですね、さしずめ今は、
その日本社会全体がなんのために突き進むのかよくわからなくなってしまっている。
空虚な世の中の風潮にも乗れなければ、もう引きこもるしかありません。

この頃ジュリーは「カサブランカ・ダンディ」とか「OH!ギャル」なんかを歌っていて、
人気絶好調。
元祖ビジュアル系といってもいいかな。
毎週のベストテン番組を見て、誰もが同じ曲をヒット曲として認識出来た時代ですね。
このジュリーが孤独でニヒリスティックな青年役、
というところがまた良かったのでしょう。
マサカの展開で幕を閉じるこの作品。
こういう破れかぶれも、アリとしてしまう・・・
それがやはりこの時代の熱気ならではなのかも。


当たり前ですが他の登場人物も皆若くて、思わず笑っちゃいますよ。
ほんのちょっと出てくる水谷豊は交番のおまわりさん。
どれだけ知った顔が出てくるか、そういう見方でも楽しめそうです・・・

太陽を盗んだ男 [DVD]
長谷川和彦,レナード・シュレイダー
ショウゲート


「太陽を盗んだ男」
1979年/日本/147分
監督:長谷川和彦
出演:沢田研二、菅原文太、池上季実子、北村和夫、神山繁、西田敏行

「ピスタチオ」 梨木香歩

2011年02月23日 | 本(その他)
すべての事象はつながっている

ピスタチオ
梨木 香歩
筑摩書房


           * * * * * * * *

梨木香歩さんの新刊です。
「棚」というペンネームの女性が取材のためアフリカの旅をします。
そのための準備で資料を当たるうちに、
呪術医の「ダバ」という言葉が心に引っかかる。

<ダバとは何か>
<ダバは状態であり、その状況を引き起こした、そのものである。>
<どういう状況か。>
<間断なく尿意が起こる。そのため体がだるく、何をする気にもならなくなる。
体の中にあるものをすべて排泄したがる>
<どうやってその状態が引き起こされるのか>
<ダバが体の中に入っているからだ。拳ほどの黒い塊である>


実はちょうどそのとき、彼女の飼い犬マースが腫瘍でそのような病気の手術をしたばかり。
このことはほんの手始めで、
彼女の旅は、次から次へと運命の糸に導かれるように、
様々なことが連鎖的に符合してゆく"旅"となるのです。


棚がアフリカで会ったナカトという女性は、
双子の片割れ“ババイレ”と内乱のために離ればなれになってしまった。
そこで彼女の行方を捜したいので、棚に同行させて欲しいというのです。
取材のためのおおよその日程や道程は既に決めてあって、
人捜しに付き合うことは出来ないと思ったものの、
どうしてもと言うので同行することに。
私も、そのことはこの物語のほんの些細なエピソードに過ぎないと思っていました。
その後の鮮烈な結果を見るまでは。
でも、実はこのことがここでは最も大きなエピソードだったのです。
むしろ、この旅はそのためにあった。
この劇的な結末にうなってしまいます。


物事には原因があって結果がある。
だから一つ一つを繋ぐのは簡単なのですが、
いくつもの糸とその事象とのつながり具合のその結果はもう、奇跡と呼ぶしかない。
これが物語というものなんですねえ。
けれど、この本で著者が言いたいのはそのような希有な奇跡の神秘のことではない。
私たちの身の回りのものや出来事は、
すべてがつながり関連し合っている、
そういうことなのだと思います。
たとえば、今地球を悩ます各地の異常気象。
これは地球にとりついている"ダバ"の影響なのではないか。
人類発祥のアフリカの地で、
人々はまだ私たちのぐるりの世界のつながりを読み解く力を失っていない。
何だかそのようなことを感じさせられました。

ピスタチオは、あの、よくお酒の肴になるあのナッツのピスタチオです。
このストーリーでは最も重要なキーワード。
こんなふうに木に成るんですね。


「ピスタチオ」梨木香歩 筑摩書房 1600円

満足度★★★★★


ヒア アフター

2011年02月22日 | 映画(は行)
生死の狭間のドラマではなく、やはり「生きる」人のすばらしいドラマ



            * * * * * * * *

さて、お待ちかねクリント・イーストウッド監督の新作です!
ヒアアフターというのはつまり、死後の世界、来世のことなんですね?
そう、つまりスピリチュアルがテーマなのだけれど・・・。
ここのところ硫黄島、チェンジリング、グラン・トリノ、インビクタス・・・と
骨太作品が続いていたのに、また、ずいぶんと方向転換・・・?
という気がするけれど・・・。
うん、けれど彼は社会問題を扱っても、決してヒューマニズムとエンタテイメント性を置き去りにしない。
スピリチュアルは、私を含めてちょっと身構えてしまう人も多いと思うのだけれど、
この作品は見終えてみればやっぱりいつものイーストウッドだなあ・・・と思うよ。
あんまりスピリチュアルは気にしないで、見てみるといい。


さて、この冒頭からいきなりスペクタクルシーンで度肝を抜かれました。
南の島の大津波のシーンだね。
まだ記憶に新しい実際にあった大災害だから余計ドギマギしてしまったね。

パリ在住の女性ジャーナリスト、マリーがたまたま訪れていたこの地で、
大津波に巻き込まれ、臨死体験をするんだね。
一方サンフランシスコでは、元霊能者ジョージが自分の能力をもてあましている。
「元」というのは、今も死者との交流が出来ないわけではないけれど、
その能力のために以前自分の生活がすっかりダメになってしまったので、
もう誰かのために死者と話をするのは止めているんだ。
しかしうっかり女性とも親しくも出来ず、孤独で希望のない毎日。
これは才能なんかではない。呪いだ。と彼は言うね。
そして、ロンドン。
双子の兄を事故で亡くした少年マーカス。
彼は兄の死の痛手から立ち直ることが出来ずにいる。
何とか兄と話をしたいと、ネットで霊能者の情報を集めてはみるのだけれど・・・。



パリ、サンフランシスコ、ロンドン。
それぞれの場所に住むこの3者が、まるで運命の糸に導かれるように出会うわけです。
うーん、これぞドラマですよ。
とってつけたように、ではなくて、始めからきちんと計算されてますよね。
なんというか、この作品では死後の世界が本当にあるのかどうか、
それはあまり問題ではないような気がする。
映像でも、ジョージが相手の手に触れたときに、
ほんの一瞬彼らが逢いたいと望む死者の姿が垣間見えるだけで、
それ以上は描写していないよね。
そういう世界にあえて踏み込まないようにしている感じ。
宗教色も全くなし。
そういうところで、うさんくささを払拭しているんだ。

私は少年が心の癒やしを得るシーンなんか、泣けて泣けて・・・。
いつも傍らにいた人が亡くなってしまったときの喪失感。
そういうのが解るから・・・余計にね。
マリーは臨死体験が人生の転機となるし、
ジョージの救いようのない孤独もまた・・・。
これは結局、生死の狭間の物語なんかじゃなくて、
ちゃんと生きてる人のすばらしいドラマなんだよ。
人の感動のツボを知り尽くしているイーストウッド監督の勝利なんだなあ・・・。

「ヒア アフター」
2010年/アメリカ/129分
監督:クリント・イーストウッド
出演:マット・デイモン、ブライス・ダラス・ハワード、ジェイ・モーア、セシル・ドゥ・フランス

遥かなる大地へ

2011年02月21日 | 映画(は行)
アメリカン・ドリームは果たせるか

            * * * * * * * *

トム・クルーズとニコール・キッドマンのラブロマンです。
時は1892年、西アイルランド。
当時あまりにも農民の生活が貧しく、地主に対しての反乱が起こったのです。
ジョセフ(トム・クルーズ)は貧しい農家の3男坊。
地主に父を殺され家に火をかけられた復讐に、地主を殺してやる、と家を出た。
なんと、ロバに乗って。
馬なんて飼えないんですよ。
しかし、そのもくろみは失敗。
その地主の娘シャノン(ニコール・キッドマン)は、
このまま好きでもない人と結婚させられて、退屈な人生を送るのが嫌で仕方ない。
おかしな成り行きで出会った二人は、
自由の地アメリカへ渡って、無料で手に入るという土地をめざして、
故郷を後にします。
ところが、船が無事ボストンに着いたのはいいのですが、
お金に換えるはずだった銀のスプーンを盗まれて、無一文。
二人はやむなく、まずその地で働きお金を貯めることに・・・。

このあたりまでは、あくまでもシャノンはお金持ちのお嬢様。
ジョセフはただの行きずりの貧乏人です。
しかし働くために、シャノンはジョセフの妹ということにして、同室に住む。
ろくに洗濯も出来なかったシャノンが、次第にたくましくなっていきます。
一方ジョセフは酒場のボクシングでかなり稼ぐことが出来るようになってきた。
緑の美しい広い土地で、畑を耕し、馬を飼って・・・二人の夢は広がります。
しかし、良いことは続かない。
あたりを取り仕切る権力者に逆らったことで、仕事も住むところも失ってしまう二人。
二人の寄り添いかけた心は? 
夢は・・・?


これは「風と共に去りぬ」のような壮大な歴史ロマン?と思わせつつ、
それとは少し違う。
アクションもあり、またこの二人のやりとりもイキで楽しくて、
エンタテイメント的サービスがたっぷりなのです。
加えて、アイルランドからアメリカンドリームをつかむためにやってくるというドラマ性、
わくわくします。

二人は一度離ればなれになり、オクラホマの地で再会します。
そこでは本当に無料で土地が手に入るイベントがあった。
ホース・レースといって一斉に走りだし、
既に区画して旗が立っているところを探し出し、
自分の旗を立てればそこが自分の土地です。
あまりにも乱暴です。
そこで死人が出ようがなんだろうがおかまいなし。
そんな時代があったのですねえ・・・。
でも、ダイナミックなそのシーンは、すばらしかった。
しかし、元はといえばアメリカ先住民の土地でしょうに・・・。
おっと、ここでそれをいってはいけません。
それはまた別の話。


洗濯の仕方を教えるシーン。
一度死んだふりをして周囲の反応を見ること。
これらのシーンが、違うパターンで繰り返されるところがおかしい。
それから、シャノンのお父さん(アイルランドの地主)がなかなか憎めない人で、
好きですねえ、この感じ。
シャノンはきっとお父さんに似たのでしょう。


えーと20年前の作品ですか。
どおりでトム・クルーズが若くて、お肌が光り輝いています!!
こりゃ、文句なしにカッコいい。
この作品当時すでにニコール・キッドマンとトム・クルーズは結婚していまして、
イキがぴったりなのも当然ですね。
あまり深く考えずにドラマチックに楽しめる一作です。

遥かなる大地へ [DVD]
トム・クルーズ,ニコール・キッドマン,トーマス・ギブソン
ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン


「遥かなる大地へ」
1992年/アメリカ/140分
監督:ロン・ハワード
出演:トム・クルーズ、ニコール・キッドマン、トーマス・ギブソン、ロバート・プロスキー、バーバラ・バブコック

「カレンダー・ボーイ」 小路幸也

2011年02月19日 | 本(その他)
子供時代にタイムスリップ! 過去は変えられるか

カレンダーボーイ (ポプラ文庫)
小路 幸也
ポプラ社


            * * * * * * * *

体は小学生、心は大人・・・、
どこかのアニメの主人公ではありませんが、
この物語、40代中年の男性二人が意識だけ小学生の頃に逆戻り、
一日交代に現代の大人の世界と過去の子供時代を過ごすというストーリーです。
小路幸也さんには珍しく、SF? 
いえ、ストーリーの設定はSF的ではありますが、
これはやはり家族と友情の物語なのでしょう。


38年前札幌に住んでいた幼なじみの二人。
現在は東京で同じ大学の事務局長と教授として勤務している。
ある日目覚めると突然意識だけが38年前、
5年生の子供の頃の自分に入り込んでいる。
何故突然こんなことに・・・と考えてみると、思い当たる一つの事件。
それはその38年前、1968年に起こった大きな事件、3億円強奪事件。
彼らと同級生で仲のよかった女の子が、
その事件に巻き込まれたらしい父親と道連れに一家心中で亡くなってしまった。
自分たちはこの事件を阻止するために、タイムスリップしたのではないか。
そのような使命感に駆られ、行動を起こす彼ら・・・。
さて、彼らは「過去」を変えることが出来るのか?


38年前、彼らの小学生時代の札幌。
私にも非常に懐かしく、興味深く読みました。

けれども、これは作品としてはどうなのでしょう。
最大クライマックスのはずの3億円事件時の顛末など、
彼らの回想で、実にあっさり記述されているだけで、拍子抜け。
アイデア倒れで、シチュエーションを活かしきれていないように感じました。
彼ら同様、意識だけタイムスリップした人物が他にも出てくるのですが、
その人の事情の説明も尻切れトンボです。
お定まりのハッピーエンドではなく、ややもの悲しく終わる当たりで
ようやく少々面目が保てた感じ。
リアルな日常の中の心の機微。
そうした作品の方が著者の特質は生かせそうです。

「カレンダー・ボーイ」小路幸也 ポプラ文庫 680円
満足度★★☆☆☆

オーシャン・オブ・ファイヤー

2011年02月18日 | 映画(あ行)
砂漠を馬で横断するサバイバルレース

          * * * * * * * *

アラビアの砂漠4800キロを馬で横断するサバイバルレースの物語です。
この作品、公開時にも見ましたが、
この度オマー・シャリフを見たくて再見です。
初めて見る前のイメージとしては、
インディージョーンズばりのアドベンチャー作品のように思えたのですが、
これがなかなか、はらはらドキドキを楽しみつつも、
バックボーンのしっかりした見ごたえのある作品なのです。
実話を元にしているというだけあります。


ヴィゴ・モーテンセン演じるフランクはアメリカ先住民と白人との混血という設定。
その彼が、愛馬ヒダルゴと共にアラビアに赴き、
このオーシャン・オブ・ファイヤーのレースに挑みます。
何日も灼熱の砂漠を行く過酷なレース。
それに加えて彼を妨害しようとする一味との戦いや族長の娘の誘拐事件など、
見所もたっぷりです。

フランクが最後に砂漠の中でもうダメだと思ったときに、みたまぼろし。
彼の中のインディアンの血が力をよみがえらせる。
いいシーンでした。

そして、愛馬ヒダルゴ。
いいですよね~。
まさに人馬一体。
気持ちが通じ合っている。
この馬はムスタングという種類です。
アメリカ先住民が乗る馬ですが、
野生馬とスペインの馬を掛け合わせたものだといいます。
ここでは混血のフランクと同じ境遇を匂わせているわけです。
ところでこの馬、演技するんですよ。
ちゃんと。
フランクとは、ほとんど犬のように気持ちが通じ合う。
途中もうレースを止めてしまおうかとフランクが思う場面があります。
明くる朝、起きてみるとヒダルゴがいない。
なんと、もうスタートラインにいて待っていたりするんですよ。
すばらしい馬です。
そういえば、ロード・オブ・ザ・リングのなかでも、
傷つき気を失ったアラゴルンを愛馬が助け、連れ帰るシーンがあったなあ。
馬が似合うお方なのですよ。
最後なんか裸馬で疾走。
誰にでも出来る事ではないのでは?
(スタントマンだったりして?)
でも、彼は、この撮影後この馬をもらいうけたという話です。
気持ちはわかります。
荒野をたくさんの馬が全速力で駆けるシーン。
迫力があってしびれます。


さて、ところでオマー・シャリフは、アラビアの族長の役。
もちろん、「アラビアのロレンス」や「ドクトル・ジバゴ」の頃からは
信じられないくらいお年を召されていますが(!)、
風格があっていい感じ。
この族長、西部劇が大好きなアメリカびいき。
他のみんなもフランクをカウボーイと呼びます。
そもそもこの砂漠のシーンはやはり「アラビアのロレンス」を連想してしまいます。
だから、オマー・シャリフなんでしょうね。

何度見てもいいものはいいなあ・・・。

オーシャン・オブ・ファイヤー [DVD]
ジョン・フスコ
ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント


「オーシャン・オブ・ファイヤー」
2004年/アメリカ/137分
監督:ジョー・ジョンストン
出演:ヴィゴ・モーテンセン、オマー・シャリフ、ズレイカ・ロビンソン、ヒダルゴ

太平洋の奇跡/フォックスと呼ばれた男

2011年02月17日 | 映画(た行)
現代の私たちにとっても“異邦人”の大日本帝国人



           * * * * * * * *

米国人ドン・ジョーンズによる実録「タッポーチョ『敵ながら天晴』大場隊の勇戦512日」
を映画化したものです。
太平洋サイパン島。
米軍の圧倒的大軍により、日本軍は壊滅。
しかし、敗残兵を集め、最後まで戦い抵抗を続けた47名の兵士たち。
それを率いたのが大場大尉。
クリント・イーストウッド監督の「硫黄島」二部作を思わせますが、
米軍の部分の描写は英語で米監督チェリン・グラックにより、
そして日本軍部分の描写が日本語、日本の平山秀幸監督により撮影されたとのこと。
アメリカ人から見た大場大尉。
最後まで戦い抜く姿勢、
敗残兵や民間人をまとめる統率力、
そして祖国日本への忠誠、
こういうところがアメリカ人からは敬意に値するとみられたようです。


米軍の将校は、何故日本人は捕虜にならず自決をするのかと、
日本に留学経験のある兵に問います。
彼は将棋のコマを取り出して説明する。
これは、日本のチェスに似たゲームのコマだけれども、
このコマは敵に囚われると捕虜になるだけではない。
今度は相手方の大将に忠誠を誓い、敵方について闘わなければならない。
しかし、彼らは天皇への忠誠がとても強いので、
敵方につくくらいならば自ら死を選ぶのだ、と。

・・・へえ、そうなのか。
と、日本人が納得してどうするのさ、というところですが。
つまりは、私とて、戦後の民主教育を受けた身ですので、
この「自決」の心理が実感としては解らない。
戦前の日本人の心は、もう私たちにとっては“異邦人”のもののようです。

大場大尉の激昂しない物静かな態度、
そしてそれこそ狐のように狡猾であくまでも闘おうとする姿勢、
そういう部分は確かに尊敬に値する。
けれど、後半、既に日本は降伏し終戦となってもなお、
それを信じられないでいるところは、正直いらいらさせられます。
日本の歌を流したり、ビラを撒いたり、
実際にそういうことがあったのは知っていますし、
それを信じることが出来ず、疑心暗鬼に駆られるところも、良く理解できます。
でもなおあえて言わせてもらえば、この有様は、フォックスではない。
たとえば主人に忠実な犬が、主人以外のものの手から餌を受け付けずに衰弱死してしまう、
そんな愚直な滑稽さを思ってしまう。
そのような人の教育しかできなかったのが、
当時の最大の過ちなのではないかと思います。
だから今の教育がよいかと言えば、それはまた別の問題ですけどね・・・。
けれど、少なくとも彼は絶望に駆られて自決もしなかったし、
人にそれを強いたりもしませんでした。
それだけでも、充分に偉大と見るべきなのかな。


余談ですが、子供の頃夏休み中によくTVのワイドショーで
「子供に戦争体験を語る」みたいな企画をやっていました。
小学生の私は、子供らしくもなく(?)結構真剣に見ていたものです。
そんな中で覚えているのが、このサイパン島で生き残ったご婦人の体験談。
後に「バンザイクリフ」と呼ばれる断崖の上から、
民間人たちが天皇陛下バンザイと叫びながら海へ飛び込んで自殺したのですね。
その方も、もう少しで飛び込むところだった。
けれどその寸前、遥か下方の岩に打ち付ける波の間に、
子供の赤い下駄が一つ浮かんでいるのが見えたそうなのです。
ものすごい高度の崖ですから、
実際にはほんのかすかな赤い点でしかなかったのかもしれません。
けれどそのとき、おそらく彼女にはそれがクローズアップして見えた。
それを見たとたん、涙が次から次からあふれ出て、
もう飛び込むことが出来なくなってしまった、というのです。
私も、子供心にその赤い下駄のイメージが焼き付いてしまったようで、
未だに覚えているのです。

さて、しかし、もし万が一日本でも戦争が始まったとして、
私たちは一体何に忠誠を誓って命をかけようとするのでしょう。
そういう心の芯になるものが、無くて幸せなのか、
いや、それがあった方が強いようにも思える。
・・・そんな事態にならないことを祈るだけですかね。
なんとも軟弱な結論でした。



竹野内豊は、この役によく合っていましたね。
元々地理の教師であったという大場大尉。
そういうイメージにはぴったりです。
ただやっぱり、この方のどこがすごいのか???
というのはわかりにくい・・・。
これは役者の責任ではないように思いますが。
むしろ特筆すべきなのは唐沢寿明の堀内一等兵。
スキンヘッドに派手な入れ墨。
このヤクザ男、本人が一番楽しんだように見受けられます。
まあ、いいんじゃないでしょうか。

「太平洋の奇跡/フォックスと呼ばれた男」
2011年/日本/128分
監督:平山秀幸・チェリン・グラック
出演:竹野内豊、唐沢寿明、井上真央、山田孝之、中嶋朋子、阿部サダヲ

「オケ老人!」 荒木源

2011年02月15日 | 本(その他)
クラシック&サスペンス!?

オケ老人! (小学館文庫)
荒木 源
小学館


              * * * * * * * *

あの「ちょんまげぷりん」の著者、荒木源さんの作品です。
平均年齢おそらく世界最高のアマチュアオーケストラ「梅が岡交響楽団」。
高校教師の中島は、間違えてそこに入団してしまいます。
何しろメンバー同様、演奏もよれよれぼろぼろのオーケストラ。
再若手の中島はバイオリンをやりたいのに、
指揮者をやらされ、指導を任される始末。
すぐにも止めたいのにいい出すことが出来ずにずるずる付き合ううち、
次第に皆が上達して・・・と、そういうところは何となく想像がつきますよね。
ところがです。
この物語、こういうのどかな光景と同時進行で、
なぜかロシアのスパイが登場し、危険な雰囲気を漂わせます。
思いもよらないこの取り合わせ。
一体どのようにつながっていくのか、興味津々、つい引き込まれてしまいます。


登場人物がとても魅力的。
中島は学生時代にオーケストラでバイオリンをやっていたので、
またやってみたいと思うのです。
本当に入りたかったのはアマチュアでもレベルの高い梅が岡フィル。
その後願いかなってそちらへの入団も果たすのですが、
なんとそこは団員同士の競争をあおる、実に陰険なところだった。
必死の練習にもかかわらず、中島はそこから落ちこぼれて・・・と、
まず中島自身の悪戦苦闘がしっかり書き込まれています。
中島の力で老人オケを引っ張り上げるのではない。
皆共にいろいろな事件を乗り越えながら成長していくところが、何とも心地よいですね。
そして中島の恋の行方は・・・?

また、最後の最後、
最大のサスペンスと最大のオーケストラの盛り上がりを同時に持ってくる。
いやはや、実に良く練られたストーリーなのです。
感服。
これはきっとどなたにも楽しめるオススメ作品です。


この作品、「ちょんまげ・・・」よりもむしろ映画向きなのではないかと思いました。
というのは音楽シーンがあるからです。
もちろん音楽描写もしっかりしていますが、
こちらの音楽の知識の方が心許ないですからね・・・。
実際の音入り映像で見れば、おもしろさ倍増間違いなし!

「オケ老人!」荒木源 小学館文庫 695円
満足度★★★★★

トロン

2011年02月14日 | 映画(た行)
30年前の最先端

              * * * * * * * *

現在公開中の「トロン:レガシー」の元になるストーリーです。
元になる・・・というのは、
「レガシー」はリメイクでなくて、この「トロン」の30年後の物語ということになります。
つまりこの「トロン」は1982年のものなので、当時のリアルタイムストーリー。
現実に30年を経て、その続き30年後の物語「レガシー」が出来たという、
ある意味壮大なストーリーではあります。


この作品、世界初のコンピュータ・グラフィックを導入したということで、
当時では非常に画期的な作品だったわけです。
それは「トロン・レガシー」が現在最先端の3D技術を取り入れ、
驚異的な映像を生み出したのと同じ。
だから、今30年前の「トロン」を見てヘボいかというと、さにあらず。
まあ、実際おとなしめであるのは確かですが、思ったほど遜色はないと思います。
それで、当時のデジタルの世界のイメージが、
まだ創始期であったその頃のTVゲームの映像に近いというのが納得出来ました。
それを受け継いだので、「レガシー」の世界はあんなにも無機質ということなんですよ。
今のTVゲームのイメージはもっと豊かな感じがしますけれど・・・。


それから、私が「レガシー」を見て謎だらけだったところが少し解ってきましたよ・・・。
もともとフリンはエンコム社のエリートエンジニアだったんですね。
そしていくつもの画期的なゲームソフトを開発中だったのですが、
デリンジャーという男にそのデーターを盗まれてしまった。
それで、会社はデリンジャーのものになってしまい、
フリンは会社を追われて「フリンズ」というゲームセンターを開くわけです。
その「フリンズ」の建物は「レガシー」にも出てきましたね。
あの、ほこりだらけの廃墟になっていたゲームセンターです。
盗まれたデータがもともとフリンが作ったものだということは、
会社のMCP(マスター・コントロール・プログラム)の記録を調べれば
解るはずのことなのですが、
そのMCPへ接続することが不可能になってしまっている。
フリンは友人アランとローラの力を借り、
エンコム社に忍び込み、MCPへの進入を図ります。

一方その頃エンコム社では、物質をデータに転換するシステムが開発されていました。
物体にビームをあてて、その分子構造を読み取り、データ化するというもの。
たとえばオレンジにそのビームをあてると、オレンジは消滅。
そのオレンジはデータとしてコンピュータの中にあることになります。
そのデータを逆に実体化することも出来る。
そんなばかなー!と思わなくもないけれど、
これはよくSFにもある物質電送機なんかと同じ理屈なのかも。
ということで、デジタルの世界に侵入、という意味は
おぼろげながら解ったような気もするのです・・・。
つまりこのフリンも、これは敵方の陰謀だったのですが、
そのビームを浴びてしまい、
データ化されてデジタルの世界へ入り込んだというわけだったのですね。
ところで、そのMCPの中では、すでに人(ユーザー)のコントロールが及ばず、
MCP自体が思考し暴走を始めていた・・・・

というようなわけで、これは先にこの作品を見てから「レガシー」を見るべきでした。
そうすればもう少しは納得しながら見られたのかも・・・。


それで、この作品では30年前のジェフ・ブリッジス、
ほんものの若いジェフ・ブリッジスを拝むことが出来ます。
おそらく、この「トロン」の冒険の後、
ケヴィン・フリンは結婚し、息子サムが生まれるわけですね。
で、フリンはしばしばデジタル世界に遊びに行っていた。
そして息子サムが7歳になった頃に、デジタル世界から出られなくなってしまった。
そのまま20年が過ぎて、「レガシー」に突入。ということです。
30年前フリンと共に闘ったアランがフリンに成り代わり、
サムの後見人のような立場になっていたわけです。
このアランもブルース・ボックスレイトナーで、「トロン」と同じ方なんですよ。
スタッフの並々ならぬこだわりが見えます。
新旧2本並べるとなかなか興味深い点が見えてきました。
これから「レガシー」を見ようとする方は、先にこちらを見ることをオススメします。
たぶん、より楽しめます。
技術の進歩を目の当たりにするのも、またよろしいのではないでしょうか。

トロン [DVD]
スティーブン・リズバーガー
ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント


「トロン」
1982年/アメリカ/96分
監督:スティーブン・リズバーガー
出演:ジェフ・ブリッジス、ブルース・ボックスレイトナー、デビッド・ワーナー

ニューヨーク、アイラブユー

2011年02月13日 | 映画(な行)
混沌としたニューヨークの街、人、恋

             * * * * * * * *

世界各国の11人の映画監督による、様々なショートストーリーが繋がれています。
舞台はニューヨーク。
そこで出会う男女のいろいろな形の愛。
出演陣がまた豪華で、宝石箱を覗くような楽しみがあります。


日本人監督としては、岩井俊二氏が参加。
この部分がまたとびきりステキなストーリーでした。
映画作曲家のデイヴィッド(オーランド・ブルーム)は自宅で仕事中、
監督としばし電話で連絡を取るのですが、
いつも電話で対応するのは
会ったことのないアシスタントのカミーユ(クリスティーナ・リッチ)。
監督はドストエフスキーの本を読んで曲を作れというのですが・・・。
分厚い本の上下巻。
忙しいし、とても読む気になれません。
そんなグチをカミーユに話していると、
私が本を読んで、内容を教えてあげましょうかと、カミーユ。
あのオーランド・ブルームが、ぼさぼさの髪に無精ヒゲ、
穴の開いたTシャツに散らかり放題の部屋・・・と、
とても親しみの持ててしまうスタイルで登場。
本当にささやかな恋の始まりのストーリーなのですが、
何だか瑞々しくて、しかも都会的。
他の監督作品と比べても、ダントツだと私は思います。


他に私が好きだったのは、ホテルのボーイと元オペラ歌手の老婦人の話。
ボーイはなんとあのシャイア・ラブーフ。
彼は足が不自由なのです。
老婦人はとても品の良い方で、でも少しさみしげ。
彼女は実はこのホテルで自殺をしようと思っているようなのですが・・・。
静謐で上品で美しく、そして幻想的。
他の作品と比べると異彩を放っていて、すばらしく印象的です。
シャイア・ラブーフといえば、「トランスフォーマー」などを連想し、
陽気でやんちゃな青年・・・という印象を持っていたのですが、
ここでは何か愁いをたたえた瞳で不思議な魅力を放っています。
いやあ、やはりこういうところが役者さんの力というものなんだなあ・・・。


これらがすべてニューヨークという縛りの中で描かれていることには
意味があると思うのです。
その街のイメージというものは確かにありますよね。
ニューヨークは、皆忙しくて、
ちょっぴり他人のことには冷淡で、孤独で、
でもだからこそ人恋しくなることもある。
スタイリッシュな一方ごみごみしていて・・・
それぞれの作家のイメージを重ね合わせることで、
そんなニューヨークのイメージが確かに伝わったような気がします。

ニューヨーク, アイラブユー [DVD]
Amuse Soft Entertainment =dvd=
Amuse Soft Entertainment =dvd=


「ニューヨーク、アイラブユー」
2009年/アメリカ/103分
監督:イバン・アタル、アレン・ヒューズ、岩井俊二、チアン・ウェン、ジョシュア・マーストン
出演:オーランド・ブルーム、クリスティーナ・リッチ、ナタリー・ポートマン、ヘイデン・クリステンセン、シャイア・ラブーフ


「エアーズ家の没落 上・下」 サラ・ウォーターズ 

2011年02月11日 | 本(ミステリ)
隠されている答えのない真相

エアーズ家の没落上 (創元推理文庫)
中村 有希
東京創元社


エアーズ家の没落下 (創元推理文庫)
中村 有希
東京創元社


           * * * * * * * *

サラ・ウォーターズの新作。
やっと読むことが出来ました。
時は第二次世界大戦終結後間もない頃。
かつて隆盛を極めたエアーズ家。
その、ハンドレッズ領主館が舞台です。
エアーズ家はかつての面影もなくすっかり没落し、
経済的にも逼迫しています。
それと合わせてその壮大な屋敷も、手入れが行き届かないまま、荒れ果てるばかり。
そこに住むのはエアーズ家の若き当主ロデリック。
その姉キャロライン。
この二人の母アンジェラ。
そして飼い犬ジップ。
住み込みのメイド、ベティと通いの家政婦が一人いるだけ。
そんなところへ、このストーリーの語り手であるファラデー医師が、
たびたび訪問し、この一家と親しくなっていきます。
彼の母が昔この家で働いていたことがあり、
この豪華で壮大なお屋敷は、彼の子供の頃のあこがれだったのです。
しかし、エアーズ家があまりにも貧窮し、侘びしい生活をしているのを見かねて、
時々立ち寄り様子を見に来る。
実はちょっぴりキャロラインのことが気になってもいるようなのですが・・・。


でもこれはサラ・ウォーターズですから、単なる斜陽の一族とそのロマンス
・・・のわけがありません。
さっそく一つの事件が起こります。
珍しく人を招いてお茶会を開いたその日。
なんと、あの実に人なつっこくおとなしい老犬のジップが、
ゲストの小さな娘の頬に噛みついてしまったのです。
噛みちぎられる寸前、頬がべろんと垂れ下がるほどの・・・。
犬が何かに驚いたとしか思えない、信じがたいことだったのですが。
こうなってしまってはこのまま犬を飼い続けるわけに行きません。
泣く泣く犬を処分しなくてはならないことに・・・。
でもこれはこの家の悲劇のほんの始まりに過ぎなかったのです。


まだほとんど子供のようなメイドのベティはいいます。
「この家には何かがいる・・・。」
悪意ある何者かが、この家にとりついているとでも言うのか・・・。
好青年のロデリックは次第に精神に異常を来たし、母もまた・・・。
読んでいくうちに、この話は一体どのように帰着しようとしているのか、
解らなくなってきます。
これは何かの「魔」がもたらすホラーなのか。
それとも、ポルターガイストのような超常現象の話なのか。
いやいや、やはり誰かの陰謀なのか・・・。
どこかに落とし穴がありそうで、つい疑心暗鬼に駆られてしまいます。
もちろん、この気の毒な一家の行く末が気がかりで、ページをめくる手も早まる・・・。
そしてまた、怖かったのです、非常に!!
特に、エアーズ夫人が、ずっと使われていなかった3階の子供部屋に入るシーン。
そこは幼くしてなくなった第一子スーザンの部屋。
そこで起こったことは・・・。


う~ん、こんな大きくて崩壊寸前の屋敷に住むなんて・・・。
信じられません。
しかもお金がなくて電気もストップとなれば・・・。
不気味過ぎます。
とにかくそういう陰鬱な“滅び行くものの美”という雰囲気が、嫌というほどたっぷり。


そして、最後まで読んでまた愕然としてしまいます。
これはたしかに、滅び行くものの物語。
それ以上でもそれ以下でもない。
ただそれだけなのですが・・・。
でも、ここにはどうも、あえて書かれていない真相がありそうなのですね。
答えがない。
だからこそ余計に気になってしまって、いつまでも考え込んでしまう。
そういう企みに満ちたストーリーです。
まあ、それをここにくどくど書いてしまうのは興ざめというものですから、
是非ご自身で読んでみていただきたい。
翻訳物でもすごく読みやすいですし、
とにかく先が気になって止められない。


余談ですが、私、
この家の愛犬ジップが死んだ後の下りに、やたらと感情移入してしまったんです。
まあ、私も犬を失って間もないこともありますが。
いつも足元をとことこついてきた、愛すべき存在がなくなった後の喪失感。
もういないのに、ふと、チャカチャカと犬の爪が床にあたる音が聞こえるように思ったり、
目の隅をちいさな影がよぎったり・・・。
それは確かに私も経験したことなのです。
きっと著者も、愛犬を亡くした経験があるに違いないと確信しています。

「エアーズ家の没落 上・下」サラ・ウォーターズ 創元推理文庫
満足度★★★★★

カモ・かも・鴨

2011年02月10日 | 工房『たんぽぽ』
無謀にもさっそくマスコット人形

          * * * * * * * *

さて、前回はブサイクな練習品をお目にかけましたが、
つまり作ってみたいものを作らなくてはつまらない!
ということで、この際はキットを購入し、
作り方に従って作ってみることにしました。

モノは、これです。
ハマナカ カルガモ親子
ハマナカ
ハマナカ




まずは、このようにパーツを作ります。
同じ形、同じ大きさのものを作るのは案外難しい。
このように、一体ずつ仕上げずに
それぞれのパーツをまず作った方がよさそうです。


パーツをつなげて、とりあえず鴨の形にはなりましたね。


模様を入れて、くちばしも色を重ね、
目の部品を差し込んで、お母さんガモ完成!


子供たちもそろいました。


三羽並んで・・・

ということで、なかなか楽しく出来上がりました。
気をよくして、また近々お目にかかりましょう。




おっぱいバレー

2011年02月09日 | 映画(あ行)
純朴な中学生男子が、おかしくてやがて爽やか



            * * * * * * * *

「おっぱいバレー」、どうもいかがわしい感じがしてしまう題名ではありますが、
これは意外にもすばらしく爽やかな感動作です。

ある中学校に赴任してきた新米教師の美香子(綾瀬はるか)。
彼女は男子バレー部の顧問を引き受けることになったのです。
でもそれは、バレー部とは名ばかりで、
全く練習をしたこともなく、ただダラダラしているだけの弱小部。
試しに女子と試合をしてみれば、あっけなく負けてしまう。
元々バレーに詳しいわけでも何でもない美香子なのですが、
このままではいけないと、少年たちにハッパを掛ける。
ところが何故か、地区大会で一度でも勝ったら、
おっぱいを見せてあげると約束させられてしまった。
突然やる気を出して、猛烈に練習を始め、実力をつけていく少年たち。
彼らを勝たせたいけれども、おっぱいは見せたくない。
葛藤する美香子。
さあ、その顛末は・・・。



この作品、実話を元にしているそうで、
その話も、そう古くないことのようなのですが、
映画では1979年を舞台に設定してあります。
というのも、このバレー部の少年たちがとってもかわいらしい・・・。
純情バカといいますか、
エッチな本や言葉に異常に反応してしまうその姿は、
逆になんの経験もない純朴さを露呈してしまっています。
作品中やたらにおっぱい、おっぱい・・・と、言葉が連発されますが、
次第におかしくて、爽やかに響いてくるのです。
ところで、今時の中学生は・・・?
と考えると果たしてそこまで純情かなあ・・・、と思えてしまうのですね。
おっぱいくらいで、そんなに盛り上がるかしらん?・・・と。
だからあえて、この作品は少し舞台設定を古くしたのだと思います。
また、場所も東京ではなく、北九州市。
そうですね。大都会の子供たちでもなさそうだ。
使われている音楽も、何だか懐かしい曲ばかり・・・と、
今気がつきましたが、これは当時はやっていた曲だったんですね!! 
明るくて元気が出る曲ばかりです。


さて、一方この美香子先生も、
単に適当な約束をしてしまうお調子者というわけではない。
彼女は前任校で、辛い経験をしました。
生徒と何気なく交わした約束を果たすことが出来ず、
それ以来、生徒たちとうまくいかなくなってしまったのです。
おっぱいの約束自体は確かに、弾みでそういう話になってしまったのだけれど、
「約束」したからには大きな責任がある。
そう自覚もしている美香子。

そしてまた、彼女が教師を目指した理由も語られていて、
しっかりとしたバックボーンのあるストーリーとなっています。
まあ、だまされたと思って、是非ご覧ください。
楽しいですよ。

おっぱいバレー [DVD]
綾瀬はるか,青木崇高,仲村トオル,石田卓也,大後寿々花
VAP,INC(VAP)(D)


「おっぱいバレー」
2009年/日本/106分
監督:羽住英一郎
出演:綾瀬はるか、青木崇高、仲村トオル、石田卓也、大後寿々花