映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

手紙

2014年03月31日 | 映画(た行)
兄弟の絆、友情の絆、人と人との絆



* * * * * * * * * *


東野圭吾原作のこのストーリー、
多分「原作を読んだからいいや」ということで、見ていなかったと思うのですが、
ご多分にもれず、ストーリーはすっかり忘れていたので、十分楽しめました。


強盗殺人の罪で刑務所に服役中の兄(玉山鉄二)を持つ、直貴(山田孝之)。
兄は、弟の学費のために強盗に入り、
誤って人を殺してしまったのです。
しかし直貴は、その兄のために、
夢も諦め、職も点々とせざるを得ないこれまでの日々。
そして更には愛する女性との幸せまでもが崩れていく・・・。
ひたすら人恋しくて刑務所からせっせと手紙を送りよこす兄と、
直貴は絶縁を決心するのですが・・・。


罪を犯したのは本人の責任であるはずが、
まるで家族までもが罪人のように世間から爪弾きにされていくのが、
なんとも理不尽で切なくなります。
でも本作中で、ある人物が「それは当然だ」といいますね。
「一般の人は犯罪から遠ざかろうとするものだ」と。
だけれども、ここから始めるんだ。
少しずつ周りの人とつながっていけばいい・・・と。



直貴はこれまで、少しでも兄のことを気づかれると、
そこを去るという生活を繰り返してきていたのです。
けれども、そうやっていつも逃げ出すのではなく、
しばし踏みとどまって耐えてみてはどうか、というのですね。
彼を本当に知る人たちは、
お兄さんのことを聞いても彼への信頼を揺るがしたりはしません。
彼の友人・祐輔(尾上寛之)や、由美子(沢尻エリカ)は、
むしろ積極的に力になってくれます。
世間の人々の冷淡さと同時にまた、
人と人とのつながりの大事さをも訴えているわけですが、
直貴にはこのように支えてくれる人が居て・・・。
しかし刑務所の兄は・・・ということで、
これは実に人と人との絆の物語。


ラスト、刑務所のシーンですが、バックに流れる小田和正。
これは反則でしょ~。
絶対に涙腺がゆるみます。
やられます。


うーん、でもどうしても違和感なのが、
見るからに寡黙そうなこの直貴くんが目指していたのが
“お笑い”の道というところでしょうか。
確かに、いつもバカばっかりやっている人がお笑いに向くというわけではないのはわかるのですが・・・。
刑務所に慰問に行くという結論ありきのため・・・
ということになっちゃいますかねえ。


約10年前の作品で、ちょっと驚いたのが沢尻エリカさん。
健気で可愛らしくて・・・。
今のイメージとは全然違う。
まあ、健気でかわいい女優さんはそこらにいくらでもいるので、
個性的な方向へ芽を伸ばしてきたというわけですね。
いやいや、女優なのですから、今だって多分そのような役だって完璧にこなすでしょう。
そういう役がつくかどうかは別として・・・。

手紙 スタンダード版 [DVD]
山田孝之,玉山鉄二,沢尻エリカ,吹石一恵,尾上寛之
日活


「手紙」
2006年/日本/121分
監督:生野慈朗
原作:東野圭吾
出演:山田孝之、玉山鉄二、沢尻エリカ、吹石一恵、尾上寛之

落涙度★★★★☆
満足度★★★☆☆

「ワタシの川原泉Ⅰ」 川原泉

2014年03月30日 | コミックス
こんな絵柄でなぜ泣ける???

川原泉傑作集 ワタシの川原泉I (花とゆめCOMICSスペシャル)
川原泉
白泉社


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昨2013年、川原泉さんデビュー30周年ということでまとめられた傑作集です。
いやしかし、実は私、全作読んでいて、本もちゃんとあるはずなのですが、
それでもやはり買ってしまいました。
とにかく、カーラ教授こと川原泉さんが大好きなもので・・・。


冒頭を飾るのは、読者投票1位の「美貌の果実―10月はゆがんでいる」。
いや~、わかります。
ワタシもこれが一番好きかもしれない。
以前「約束の葡萄畑」という映画のブログで本作に触れたことがあります。
興味のある方はこちらをどうぞ。
→「約束の葡萄畑」


結局その時も「こんな映画よりカーラ教授の漫画のほうがずっといいよ」
と、いいたかったわけ。
葡萄の精が、ワイン造りに奮闘する母子を助けるという話。
登場人物は皆どこかぼんやりお気楽。
絵柄もその通り。
しかし、この絵でなぜこんなに泣けるのかと不思議に思えるくらいに、
見るたびに泣かされます。


今回カーラ教授をたっぷり読んで気がついたのは、
彼女の描く主人公の家庭には「欠損」が多いということ。
この「美貌の果実」では父親と兄が事故で亡くなっていますし、
「森には真理が落ちている」で亀になってしまう雪村さんには両親が居ない。
「空の食欲魔人」の弘文くんも両親をなくしているし、
「フロイト1/2」の梨生ちゃんも母親をなくして、目下叔父さん夫妻と同居。
しかし、彼、彼女らは普段はそういう翳りをみせません。
のんびりのほほんと目立たない。
だけれど、どうしようもなく健気で一生懸命で実直
それは、彼女らの持つ「さみしさ」の裏返しなのだとわかってきます。
・・・だから頑張らなければ。
・・・だからちゃんとしなければ。
そういうところが、どうしようもなく私達の胸を揺さぶるのですねえ・・・。



「フロイト1/2」も、すごい作品ですよ。
夢を共有する男女の話。
"夢"と言っても将来を見据えたあり方ではなくて、
寝ている時に見る本当の「夢」の方です。
小学生と大学生だった二人は10年を経て再開。
お金のことしか考えられなくなってしまったゲーム会社社長の彼と、
そこでバイトをすることになった彼女。
RPGゲームの話を交え、心理学者のフロイトまで登場する、
深淵なのだかお茶の間向きなのだかよくわからない不思議な味わいのある一作。
そしてこれがまた何故か切なくて泣けるという。


カーラ教授をご存じない方にも、以前からのファンにも
おあつらえ向きの珠玉の一冊。
「Ⅱ」に続きます。


「ワタシの川原泉Ⅰ」川原泉 白泉社
満足度★★★★☆

ローン・サバイバー

2014年03月29日 | 映画(ら行)
彼を救ったのは・・・



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米海軍特殊部隊ネイビー・シールズ創設以来最大の惨事といわれる
「レッド・ウィング作戦」を描いています。
2005年。
アフガニスタン山岳地帯。
偵察活動中の4人のシールズ隊員たちが、山中で3人の山羊飼いと遭遇してしまいます。

このまま解き放せばタリバン軍に通報され、すぐに自分達に追手がかかるだろう。
だからといって武装もしていない一般人の彼らを殺すというのか・・・。
しかもその内の一人はまだ子供だ・・・。
4人は口論の末、彼らを解き放します。
山中で無線が通じず、援軍も得られないままに、
彼らの過酷な逃走が始まります。
200人を超すタリバン軍が瞬く間に彼らに追い付いてくる・・・。



多くの戦争映画がありますが、たいてい味方には弾は当たりません。
よほど運の悪い数人を除いて、何故かうまく銃弾をくぐり抜けます。
でも本作、当たるんですよ。
ビシ・バシと。
むこうも当てるつもりで撃っているのだから当然なのですが。
そして弾が当たったからといってそれで即、命が絶たれるわけではない。
脚が撃ちぬかれても、指が吹き飛ばされても・・・・生きています。
もちろん衛生兵などいるはずもなく、傷口に泥を詰めたりします・・・。
(出血を抑えるため、でしょうか?)
銃弾を浴び、崖から転げ落ち・・・生きているのが不思議なくらいですが、
さすがに一人、二人と命を落とし、
ついにはマーカス・ラトレル(マーク・ウォールバーグ)ひとりきりになってしまいます。



作品冒頭にネイビー・シールズの命がけの過酷な訓練の様子が描かれていますが、
こうした訓練があってこそ、ここまで生き延びたということが実感として伝わってきます。
それにしても多勢に無勢。
もはやこれまでと思った時に彼を救ったのは、意外にも・・・。



事の始まりは、彼ら4人のヒューマニズム。
非武装の民間人を殺すことなどできない。
それは軍規ではあるかも知れないけれど、
明らかに自分達の危機を招くことになると知りながらそれを行うというのは、
立派なことではありますが正しいのか・・・?
しかし、最後にマーカスが救われたのもやはりヒューマニズムなのですね。
いや、それは単に「掟」だったのかもしれませんが、
これとても自分達の身の危険を犯してまで守るべきことなのかどうか。
いずれにしても、助かった命に比べあまりにも多くの犠牲が払われたわけですが、
それでも感動せずにいられない。
戦場という場所にもあるヒューマニズム。
この芽をもっと大きく広げていければいいのに・・・。
実話と聞かなければ、そんなことあるわけがない、と思ってしまいそうですが、
リアルな戦闘シーンの末のラストに
胸が熱くなってしまいます。


この日は「オール・イズ・ロスト」と2本続けてみました。
どちらも生死を賭けたたった一人の戦い。
・・・疲れた。

2013年/アメリカ/121分
監督:ピーター・バーグ
出演:マーク・ウォールバーグ、テイラー・キッチュ、エミール・ハーシュ、ベン・フォスター、アリ・スリマン

戦闘のリアル度★★★★★
危険度★★★★★
満足度★★★★☆

メッセンジャー

2014年03月27日 | 映画(ま行)
戦闘シーンのない戦争映画



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アメリカの映画でよくあるシーン。
ある日、戸を叩く二人の正装の軍人。
戸口に立つ二人は、夫の、あるいは息子の戦死を告げに来た。
まさに不吉の予兆の二人なのですが、
本作はこの、戦死した兵士の遺族に訃報を伝える通告官・メッセンジャーに焦点を当てています。



イラク戦争で負傷し、帰国した米軍兵のウィル(ベン・フォスター)は、
上官であるトニー・ストーン大尉(ウッディ・ハレルソン)とともに
メッセンジャーの任務につきます。
遺族たちの悲嘆や怒りをまともに浴びるこの仕事に、心は沈み込むばかり。
ウィルは戦争で受けた傷もすっかり癒えてはいないのですが、
それ以上に心に受けた傷を抱えている。
帰国してみれば恋人は他の男に奪われ、
おまけに就いた仕事がこれ。
ということでなかなか悲惨なのですねえ・・・。
しかし、自暴自棄にもならず淡々とした佇まいなのが、いいと思う。
内省的というか、決して激さず言葉少な。
こういう雰囲気は日本人の好みかもしれません。
とはいえ、やはり何かほのかなぬくもりとか優しさを
無意識のうちにも求めていたのでしょう。
夫が戦死し未亡人となったオリビアに惹かれていくのです。



さて一方、本作はこの上官トニーの心情にも触れていきます。
彼もまたこのような仕事で平常でいられるのかといえば、そうではない。
彼はアルコール依存症となってしまっています。
しかし、ウィルと組むようになってから、彼もまた変わっていく。



実に何気なく行っているような「告知」という仕事も
実は色々と制約や決まり事があることを知りました。
新聞やテレビのニュースに載るよりも早く遺族に告知をしなければならない。
そのため常にポケベルを携帯し、呼び出しに応じなければなりません。
家の前まで車を乗り付けない。
ドアのチャイムは鳴らさず、ノックをする。
告げる相手は最近親者のみ。
そして最近親者に触れてはならない。
等など・・・



そうまで配慮しても、遺族には忌み嫌われ、
つばを吐きかけられたり、殴られたり。
そのため心を病んでいくなどといえば、
やはりこれも戦争の犠牲の一つではあるのです。
戦闘シーンはないけれど、これも一つの戦争映画なのでしょう。
私達に戦争の虚しさをじっくりと訴えかけています。



メッセンジャー [DVD]
ベン・フォスター,ウディ・ハレルソン,サマンサ・モートン,スティーヴ・ブシェーミ
アミューズソフトエンタテインメント


「メッセンジャー」
2009年/アメリカ/112分
監督:オーレン・ムーバーマン
出演:ベン・フォスター、ウッディ・ハレルソン、サマンサ・モートン、ジェナ・マローン、スティーブ・ブシェーミ

「ペテロの葬列」 宮部みゆき 

2014年03月26日 | 本(ミステリ)
テーマはそれなりだけれど、それを吹き飛ばしてしまうラストの驚愕

ペテロの葬列
宮部 みゆき
集英社


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今多コンツェルン会長室直属・グループ広報室に勤める杉村三郎は
ある日、拳銃を持った老人によるバスジャックに遭遇。
事件は3時間ほどであっけなく解決したかに見えたのだが―。
しかし、そこからが本当の謎の始まりだった!
事件の真の動機の裏側には、日本という国、
そして人間の本質に潜む闇が隠されていた!
あの杉村三郎が巻き込まれる最凶最悪の事件!?
息もつけない緊迫感の中、物語は二転三転、そして驚愕のラストへ!
『誰か』『名もなき毒』に続く杉村三郎シリーズ待望の第3弾。


* * * * * * * * * *

普段あまり値のはる単行本は購入せず文庫になるのを待ちますが、
お正月にはいただききものの図書カードなどを投入し、ちょっと奮発します。
お正月に買ったたにしてはずいぶん寝かせておいたものですが、
この度ようやく読むことができました。
ちょうどTVドラマにもなっていた杉村三郎シリーズで、タイミングもよし。
このボリュームがまた、ワクワク感を誘う。


杉村がバスジャックに遭遇するのですが、事件はあっけなく解決。
しかし、そのことで杉村は一つの課題を持たされてしまいます。
それは、その場で自殺を遂げた老人の正体。
そして、彼がバスの人質となった者たちへ送った"慰謝料"。
物語は「豊田商事」のような悪徳商法の問題を取り上げて、進行していきます。
このテーマの掘り下げ方についてはまあ、そこそこ・・・・。
けれど、本作あまりにもラストが衝撃的なために、
そういうテーマもすっかり吹き飛んでしまいます。


つまりは地位も名誉もお金もある名家の娘婿という杉村自身の身の上に関わること。
はじめの方に語られる「赤い自転車」のエピソードが、
結局はすべてを暗示していました。
前作までを読んだ限りでは、杉村はこんな生活でもそれなりに納得していたのだと思っていました。
でも自分でも見ないようにしていた本心では、
こんな自分らしさを捨てた囚われの身のような境遇に満足はできていなかった、
というか、外の世界を強く希求していたということになりますね。


私が初めから感じていたのは、
全くのお嬢様の妻に、まるでお人形さんのような・・・という印象。
どうにも"生きている"感じがしないし、魅力に乏しい。
そのお人形さんが、ここでは逆襲に転じるわけですが、
いかにも取って付けたようで理解不能だし、納得もできません。
結局は、杉村は赤い自転車を得てこぎだす・・・
ということで、良かったんでしょうね。
けれど"お人形さん"が隠し持っていた"毒"の後味があまりにも良くない。
そして、今後杉村が探偵業につくとしても、
今度は唯のバツイチ男の探偵譚では、面白みに欠けるのでは・・・?
と思ったりもして。
当シリーズはここで打ち止めにしたほうがいいと思う次第。

「ペテロの葬列」宮部みゆき 集英社
満足度★★★☆☆

オール・イズ・ロスト 最後の手紙

2014年03月25日 | 映画(あ行)
すべてを失った時



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自家用のヨットでインド洋を航海していた男(ロバート・レッドフォード)が、
海上を漂流していたコンテナと激突。
船体に穴が空き浸水。
無線機は故障し、悪天候の嵐が襲い掛かる・・・。



たった一人の登場人物が、大自然と向き合い、孤独と向きあうさまを描きます。
セリフはほとんどありません。
冒頭、彼が海に流す手紙を読み上げる声の後、
初めてのセリフは「ファック!」という悪態の言葉だったと思います。
(記憶に間違いがあったらごめんなさい。)
人は本当にひとりきりの時には「独り言」すら口に出さないのかも。
「独り言」って実は周りの誰かに聞かせるために喋ってるような気がします・・・・。



この男は多分、エリートサラリーマンか何かで、すべてが順風満帆の人生。
老境に入り、リタイアして、積年の夢のヨットの旅に出たのかもしれません。
何しろそうした彼の人生の追想シーンなどひとかけらもない本作、
そうしたことは想像する他ありませんが、
まあ、どうでもいいことではあるのですね。
彼が誰にともなく当てた手紙の冒頭が「オール・イズ・ロスト」。
つまり「すべてを失った。」
これまで得た地位や富が何になるだろう。
この状況では何の助けにもならない。
広大な海の只中で、彼は初めて自分自身と向き合うのです。



彼は、年齢が年齢だけに、“さっそうと”とはいえないのですが、
それでもなんとか生き抜くためにできる限りのことをします。
自暴自棄にもならず諦めもせず。
そうして自分を保つことが希望を消さないことでもあるかのように。
(沈みかけた船で髭をそっていました!)
私は「ライフ・オブ・パイ」を思い出しました。
あちらはなんと虎と共に少年が一つのボートで漂流するという・・・
まあ寓話的ストーリーでした。
しかし次第にパイと虎は命をわかちあう「同士」のような関係になっていく。
だから孤独ではないのですね。
本作は本当に孤独のストーリーです。



ときにカメラは水中へ潜って海底から船を見上げます。
魚がゆったりと泳いでいたり、時にはサメが群れていたり。
聞こえるのは波の音と風の音のみ。
ボート上の男の憔悴にかかわらず、自然はただあるがままにあるだけ。



さて、その手紙を書いた時点で、まだ彼は救命ボートや、六分儀や、
僅かな水を得る手段を持っていました。
ところがそれすらも失った時、
何もかもを失った果てに待っているのは・・・。
当然のことのようでもあるし、奇跡のようでもある。
一種言われぬ感慨がこみ上げます。
この非常にシンプルなストーリーは、
多分人生のいろいろな場面に置き換えることができるのだと思います。
例えば財産を失い、妻子も失った男。
いよいよ住む家まで失った時にどうするのか。


生きようとする気持ちさえあればまだ終わりではないと、
そんなふうな話でもあるような。
オール・イズ・ロスト。
すべてを失った時。
生きることの真価は、そこで初めて問われるのかも。


ロバート・レッドフォード、77歳。この体を張った演技。
これぞハリウッドスターの意地ですね。


「オール・イズ・ロスト 最後の手紙」
2013年/アメリカ/106分
監督・脚本:J・C・チャンダー
出演:ロバート・レッドフォード
「オール・イズ・ロスト 最後の手紙」
孤独度★★★★★
満足度★★★★☆


銀の匙 Silver Spoon

2014年03月23日 | 映画(か行)
原作コミックには勝てないけど



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少し前、当ブログでこの原作本を取り上げた時に、
「コミックスで十分なので映画は見ないと思う」
みたいなこと書いたのですが・・・
でもやっぱり好奇心に負けて見てしまいました。
何しろ出演陣がちょっと面白いですよね。
特にエゾノーの先生方。
中村獅童に吹石一恵、
あのちんちくりんの校長に上島竜兵の起用というのが苦肉の策。
駒場くん役の市川知宏さん、男っぽくてすてきでしたねー。
ピカイチでした。
中島健人くん、広瀬アリスさんはしっかりと乗馬で障害を飛び超えていました。
スタントはなしだったそうで、それってそう簡単なことではないはず。
よく頑張りました!!

 

 

さて、ストーリーは今さら説明するのもなんですが、
舞台は北海道の農業高校。
札幌の進学校に通いながらも、挫折し、
“逃げて”きた八軒。
全寮制だからここを選んだという彼は、
特に農業高校で何をやりたいという夢も希望も抱いては居なかったのですが・・・。
酪農の実習や部活に悪戦苦闘しながら
彼が成長していく姿を描きます。
また、酪農を単に夢のある仕事とはせず、
その厳しさもまた訴えているところがいい。



コミックスで8巻目くらいまでのところを2時間足らずの作品にまとめてあるわけで、
どうしてもダイジェスト版みたいにならざるをえないのですが、
それでも本作は、原作の雰囲気を壊さずうまくまとめてあると思います。
でも、本を読まずに映画を見た方には、やはり本物を読んでほしい。
八軒の友人たちはもっともっと個性豊かで、
八軒のお父さんはもっともっとキョーレツに怖い!!
タマコさんは時に驚くべきダイエットの成果を見せるし、
駒場くんは野球の夢も持っていた。
あやめさんはもっととんでもなく変人だし・・・。
あ、そういえばこちらも変人の八軒のお兄さんが全く登場してませんでした!
そして八軒と御影さんは、とてつもなく純情でじれったい、
というあたりもコミックではみどころですよ~。


「銀の匙 Silver Spoon」
2014年/日本/111分
監督:吉田恵輔
出演:中島健人、広瀬アリス、市川知宏、黒木華、吹越満、吹石一恵、中村獅童


「ニシノユキヒコの恋と冒険」 川上弘美

2014年03月22日 | 本(恋愛)
今様の光源氏
 
ニシノユキヒコの恋と冒険(新潮文庫)
川上 弘美
新潮社


* * * * * * * * * *

ニシノ君とのキスは、さみしかった。
今まで知ったどんなさみしい瞬間よりも。
女には一も二もなく優しい。
姿よしセックスよし。女に関して懲りることを知らない。
だけど最後には必ず去られてしまう…
とめどないこの世に、真実の愛を探してさまよった、
男一匹ニシノユキヒコの恋とかなしみの道行きを、交情あった十人の女が思い語る。
はてしなくしょうもないニシノの生きようが、切なく胸にせまる、
著者初の連作集。


* * * * * * * * * *

つい先ごろ竹野内豊さん主演で映画化作品公開。
竹野内豊さんは大好きなのですが、本作はなんだか内容がチャラそうな気がして
映画の方は全く見る気はなかったのですが、
なんと原作は川上弘美さんではありませんか!!
それで急に興味が出て、原作の方を読んでみることにしました。


ニシノさん、西野君、ユキヒコ、幸彦・・・
"ニシノユキヒコ"をいろいろな呼び方をする10人の女性が彼との交情を語ります。
なかなかの男前、
清潔、優しく礼儀正しい、
堅実な会社に勤めている。
女自身も知らない女の望みを、いつの間にか女の奥からすくい上げ、かなえてやる。
・・・とにかく理想に思えるこの男、
だから常につきあっている女は複数で、それぞれに気遣いを忘れないのだけれど・・・。
最後の最後にいつも女の方から逃げられてしまう。
それは彼が浮気だから? 
いえ、答えは割とはじめの方に提示されています。


それは若くして亡くなった彼の美しい姉の存在。
つまりはシスターコンプレックスというやつで、
彼の胸の奥底には常に"姉"がいる。
その"姉"を求めても得られない空虚を埋めるために
彼は多くの女性と付き合い愛を得ようとするのですが、
それは所詮彼が真に求めているものとは別のもの。
女性の方はそういう事情を知らずとも、
彼がまっすぐに自分を見ていないことに気づいてしまうのです。


この構図は、光源氏になぞらえられるかもしれません。
こちらの場合はマザーコンプレックスですが、
今は亡き母への愛を男女の愛にすり替え、
多くの女性を口説き、また、もてはやされもするのだけれど、
決して本当に欲しいものは得られない。
ニシノユキヒコ=今様の光源氏というわけです。


「なんだかチャラそう」という当初の印象とは全く違う、
切ない物語なのでした。
しかし、彼と関わった女性たちは、一時でも彼のような男性に愛されたことで、
女としての自信を持ち、成長していくように思うのです。
女は強い。
辛い恋の思い出も自らの糧としていくわけですが、
男の孤独は何によっても埋まらない。
そういう物語でした。


ニシノユキヒコについては、初めから竹野内豊さんのイメージで読めたのが幸いでした。
ちょっと他の人物は思い浮かびません。


「ニシノユキヒコの恋と冒険」川上弘美 新潮文庫
満足度★★★★☆

さわこの恋2  1000マイルも離れて

2014年03月21日 | 西島秀俊
プードル&ブロイラー

* * * * * * * * * *

さあ、これはほとんど20年前の作品ということで、西島秀俊さんが若いっ!!
なんたって20代ではありませんか。
 ちょっと掘り出し物ってかんじです。


幼い頃から、脚の美しさばかり注目されてきた、さわこ(喜多嶋舞)。
 それを活かして、脚タレントとなったのですが、
 体も胸も顔も無視され脚ばかり褒められる自分を
 まるでプードルのようだと感じています。
一方新進のTVドラマ脚本家吉山(西島秀俊)は
 大人気のドラマ「1000マイルも離れて」の最終前話と最終話にとりかかるのだけれど、
 全く構想が浮かばない。
 執筆のためにカンヅメにされた吉山は、自分を狭いところに閉じ込められたブロイラーのようだと思うわけ。
 ついに彼は隙をついて逃げ出し、
 入った居酒屋で、さわこの「プードル」の話を盗み聞きしてしまいます。
 思わず引きこまれた彼は、それをドラマのネタにしてしまうのです。
更なるネタのため、彼女の身辺を探る吉山。
そうこうするうちに、次第に二人は心惹かれていく・・・と。


まあ、そこら辺はありがちなストーリーではありましたが。
 さわこは、美脚を醜くするために高校の頃太っていた。
 そんな時に教育実習の先生に憧れ、同じく彼に憧れる親友と三角関係になってしまった・・・・
 というエピソードがなんだかもたついて、ぱっとしなかったなあ・・・。
というか、それは吉山のネタのためにあえてあるような感じだね。
 吉山が脚本家であるということを最後まで知らなかったさわこが、
 ドラマの収録現場で彼と出会うというところは、なかなかドラマチックで、よかった。
まあつまり、このシーンにたどり着くためのドラマだったような気がする。


さてさて、本作はそういうストーリーよりも、
 実はすごくミーハー的な興味で見てしまったんだよね。
ハイ。
 喜多嶋舞さんといえばつい最近話題になりました、あの、息子さんの父親疑惑・・・。
この作品で共演したがゆえに、西島秀俊さんまでもが父親候補にされていましたよねえ・・・。
それがね、たしかに結構濃密なベッドシーンがあったのですわ・・・。
 キスシーンもなんだかエロい・・・。
だからといって実生活とイコールと思うのは安直すぎだよね~。
その通り!
でも、この手のコメディタッチのラブストーリーで
 この濃密描写は違和感を覚えるんだけど。
監督は斬新さを狙ったのかもねえ・・・。
でもいかにも時代を感じさせる、肩を怒らせウエストを絞った当時のスーツファッション。
 そんなところも面白かったね。
 さわこの憧れの教師が吹越満さん、ってのがまたいいよね。
古き日を懐かしむ・・・という点に於いては、良い作品です。
 さわこの恋2というからには1もあるはずなのですが、本作と直接つながりはなく
 登場人物も全く別、つまり西島秀俊さんは出てこないというわけで
 そちらは見るつもりはありません。

さわこの恋2 1000マイルも離れて [DVD]
村上修
ケイエスエス


「さわこの恋2 1000マイルも離れて」
1995年/日本/104分
監督・脚本:村上修
出演:喜多嶋舞、西島秀俊、沖直美、滝沢涼子、デビッド伊東、吹越満

時代を懐かしむ度★★★★☆
満足度★★★☆☆

それでも夜は明ける

2014年03月19日 | 映画(さ行)
“人権”という言葉の重み



* * * * * * * * * *

この度の第86回アカデミー作品賞受賞作。
ということで、通常ならガラガラと思える向きの作品ですが、
さすがに、ほぼ満席となっていました。
本作は実話を記録した本「12Years a Slave」が1853年に出版され、
ベストセラーとなったそうです。
リンカーンの奴隷解放宣言が1863年のことですから、
この本は奴隷制度廃止の大きな後押しになったものと思われます。



1841年。
奴隷制度廃止前です。
ソロモン・ノーサップはニューヨーク州サラトガで
自由証明書によって認められた自由黒人として、
妻子とともに不自由ない生活を送っていました。
ところが悪い白人に嵌められ、南部の農園に奴隷として売られてしまったのです。
それから12年、彼は壮絶な奴隷生活を体験することとなる・・・。



奴隷ではない、“自由黒人”を主人公に据えたことで、
ある日突然、衣服も身分も、そして名前までも取り上げられ、
奴隷になってしまうことの理不尽さを私達に強く共感させることに成功しています。
人は一皮むけば皆同じ。
ソロモンの自由を保証していたのは
結局のところ「自由証明書」というたった一枚の紙切れ。
それがなければ、彼がこれまでに得た知識や学問は
逆に彼の立場をより悪くする凶器にもなりかねない。
奴隷というのはお金で売り買いするものなので、
彼を自由にするということは、買ったお金をまるまる損することと同じ。
だから、本当はソロモンの身の上を薄々感づいている農場主たちも、
知らないふりを決め込むという構図です。
人を買う、ということはこういうことなのか。
そしてそれは主人の所有物であるから、
どのように痛めつけようと、死に至らしめようと、罪にはならない。
本作のようにサディスティックな農場主の元では、
ひたすら主人に逆らわず隷属するしかない。
また性的に陵辱を加えられる女性奴隷についても、
語る言葉をもてないくらいに憤りを感じてしまいます。
“人権”という言葉の重さ、大切さを今更ながら痛感しました。



このような作品はこれまでも多々あったわけですが、
本作は、これでもかという風に現実を突きつける力を持つ
稀有な作品の一つといっていいと思います。
ストーリーとしては一応ハッピー・エンドなわけですが、
ちっとも心は晴れず、重苦しいままの終演となりました。
確かにソロモンにとっては悪夢の終わりではありましたが、
他の大多数の黒人奴隷たちはそのままだったわけですから・・・。
それでも夜は明ける・・・? 
奴隷制度が廃止となっても長く差別は続き、
ようやく“夜明け”を感じられるようになったのは、つい最近ではないでしょうか。



近年アカデミー賞で取り上げられるのに、
このような黒人差別を扱った作品が多いですね。
アメリカが「良心」を対外的にアピールしているというのが、
やや鼻につかなくもないのですが、でもないよりまし。
そう思うことにします。



2013年/アメリカ・イギリス/134分
監督:スティーブ・マックイーン
出演:キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ルピタ・ニョンゴ、ブラッド・ピット
歴史発掘度★★★★☆
メッセージ性★★★★★
満足度★★★★☆

「輝天炎上」 海堂尊

2014年03月18日 | 本(その他)
「ケルベロスの肖像」と表裏の物語

輝天炎上 (角川文庫)
高柳 雅人
KADOKAWA/角川書店


* * * * * * * * * *

桜宮市の終末医療を担っていた碧翠院桜宮病院の炎上事件から1年後。
東城大学の劣等医学生・天馬は課題で「日本の死因究明制度」を調べることに。
同級生の冷泉と取材を重ねるうち、制度の矛盾に気づき始める。
同じ頃、桜宮一族の生き残りが活動を始めていた。
東城大への復讐を果たすために―。
天馬は東城大の危機を救えるか。
シリーズ史上最大の因縁がいま、解き明かされる。
メディカル・エンタテインメント、驚愕の到達点!


* * * * * * * * * *


「バチスタシリーズ最終話」と前回「ケルベロスの肖像」で書いたはずが、
なぜまたここに続きが???
と、この本を見て思いました。
でもこれは確かに同じく最終話なのです。
「ケルベロス---」の方は田口医師つまり東城大側からのストーリーでしたが、
本作は医学生である天馬ほか碧翠院側から語った
表裏の関係にあるストーリーだったのです。
だから起こる出来事は同じ。
当たり前ですが同じセリフもたくさん出てきます。
でもその時々の互いの気持ちがよくわかってこれがまた面白い。
特に、田口と天馬の出会いのシーン。
注目です。
まあ、そんなわけで、ラストのスペクタクルは、驚きにはならなかったわけですが、
どのような陰謀や経緯があってこんなことになってしまったのか、
伺えるのがまた興味深い。


でもやはり私としては、田口医師の方が好きかなあ・・・。
小百合とすみれのドロドロの思いとか怨嗟とか・・・ちょっと重いです。
が、Aiセンターはこういう末路を迎えるのが当然だったなあ・・・と、
本作を読むと納得出来ました。


ところで、現在新刊で出ている「カレイドスコープの箱庭」は、
「バチスタシリーズ真の最終章」とありました・・・。
結局、全然終わらないわけですね。
海堂ワールドはそもそも同じ人物があちこちに登場するわけで、
終わるということがないのだと思います。
最終話とか、最終章という言い方で煽るのはやめてほしい・・・。


「輝天炎上」海堂尊 角川文庫
満足度★★★☆☆

トランス

2014年03月17日 | 映画(た行)
ジグソーパズルのピースをはめるように



* * * * * * * * * *


競売人のサイモン(ジェームズ・マカボイ)は、
ギャングと結託してオークション会場から
ゴヤの名画「魔女たちの飛翔」を盗み出そうとします。

しかしなぜか彼が計画と違う行動をとったために、
ギャングのボス・フランク(バンサン・カッセル)に殴られ、
その衝撃で記憶が消えてしまい、
絵画の隠し場所がわからなくなってしまうのです。
やむなく、催眠療法でサイモンが絵画を隠した場所を探ろうとしますが・・・。
サイモンの心のなかにはいくつかの隠された扉があるようです。
その深層心理に絡む催眠療法士エリザベス(ロザリオ・ドーソン)の真の思惑は・・・?



実は本作、公開時に劇場で見たのですが、
あえなく陥落し居眠りをしてしまい、
何がなんだかよくわからないままで、とても記事にはできませんでした。
(こういう時の映画館を出るときの虚しさと自己嫌悪ときたら・・・!)
このたび見なおして、なるほど、よくできたストーリー。
ただし、居眠りすれば確かに、何がなんだかわからなくもなるはず。
巧みに真実を織り交ぜたサイモン本人にもわからない頭中の断片が、
ジグソーパズルのピースを当てはめるように次第にはっきりとしていくのが面白い。



はじめに見た時に、エリザベスが二人の男性を手玉に取りながら、
でも主人公を差し置いてフランクの方に気持ちがあるのが釈然としなかったのですが、
今回しっかり見て納得しました。

サイモンはギャンブル依存症ばかりでなく、一種の人格破綻者なわけですね。
しかし、こんなに色々と頭のなかを撹乱されては、ますます変になりそう。
お気の毒。
そして最後に浮かび上がるのは、したたかな女性の姿
こういうところも気に入りました。


トランス [DVD]
ジェームズ・マカヴォイ,ヴァンサン・カッセル,ロザリオ・ドーソン
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


「トランス」
2013年/アメリカ・イギリス/101分
監督:ダニー・ボイル
出演:ジェームズ・マカボイ、ロザリオ・ドーソン、バンサン・カッセル、ダニー・スパーニ、マット・クロス
秘密の表明のしかた度★★★★★
満足度★★★★☆

スプリング・ブレイカーズ

2014年03月15日 | 映画(さ行)
そしてオバサンは途方に暮れる・・・



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レストラン強盗で手に入れた資金で
春休みにフロリダのバカンスに出かけた女子大生4人組。
ドラッグとアルコール、そしてセックス漬けの毎日。
一番まともそうな女の子・フェイス(セレーナ・ゴメス)は、
この「自由」で「楽しい」毎日こそが、自分の求めていた本当の居場所だ・・・
などと思っています。
しかし、麻薬ディーラーの男・エイリアン(ジェームズ・フランコ)と出会うことで、
彼女らは裏社会へと踏み出していく・・・。



私ははじめのうち、あの「ブリングリング」を連想していました。
これもやり場のない空虚を抱えた少女たちの犯罪の物語なのであろう。
まあ、先も想像つくなあ・・・などと思いつつ。
予想通り、二人の女の子は現実をわきまえ途中で怖くなって、
失意を抱きながらバスに揺られて帰っていきます。
ここまでは極めて現実的な物語。



そもそもこのエイリアンという男、
キンキラキンの歯をしたいかにも胡散臭くアブなそうなヤツ。

こんな男の元に残った二人の命運はもはや尽きた
・・・と思ったのが大間違い。
なんというか、この二人の心の空虚さは
単なるうつろを超えてブラックホールだ!
エイリアンをも手玉に取ってやりたい放題。
周囲の思惑などお構いなし、ただやりたいことをする。
しかし、本人たちはそれを特別楽しいと思っているわけでもなく・・・。



なんなのだこれは・・・。
これはもう現実を超越して、既にファンタジーの域ではありますが、
結局どういう話だったのか。
私は嘆かわしいとか恐ろしいとかいう感情よりも、
ただただ圧倒され取り残されたような気持ちになってしまっていました。
善とか悪とか言う価値判断なんて、意味が無いようにも思えてしまいます。
オバサンは途方に暮れるのみ・・・。
全く変だけれど、何やら力のある作品ではあります。

スプリング・ブレイカーズ [DVD]
ジェームズ・フランコ,セレーナ・ゴメス,ヴァネッサ・ハジェンズ,アシュレイ・ベンソン,レイチェル・コリン
東宝


「スプリング・ブレイカーズ」
2012年/アメリカ/93分
監督:ハーモニー・コリン
出演:ジェームズ・フランコ、セレーナ・ゴメス、バネッサ・ハジェンズ、レイチェル・コリン
価値観の粉砕度★★★★☆
満足度★★★☆☆

「銀の匙11」 荒川弘

2014年03月14日 | コミックス
本気には本気で返す

銀の匙 Silver Spoon 11 (少年サンデーコミックス)
荒川 弘
小学館


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ちょうど、本作の実写による映画化作品が公開されたところで、新刊発売。


時は2月。
北海道はまだまだ冬のさなかです。
バレンタインデーでチョコを期待したり、渡すのに逡巡したり。
今どき珍しいくらいに純情でウブな
八軒と御影のやり取りにほのぼのしてしまいます。


エゾノーは1年が全寮制で、その後は寮を出てもいいのですね。
八軒も寮を出る決心をします。
そもそも本作1巻からこの11巻まででようやく1年。
ものすごく中身の濃い1年でした。
八軒が作った人の輪は確かに彼の財産で、
そういうことが彼の今後に結びついていきそうなのが、楽しみです。
おぼろげながら目標の見えた八軒は、
ついにお父さんに自分の考えを告げますね。
うわあ・・・、なんだかこちらまで緊張してしまう。
しかし、玉砕ですよ・・・!!
私は、このお父さんは単に威厳を振り回すだけで、
息子の気持ちなんか何も考えていないダメな父親かと思っていました。
・・・でも、そうではなかったのでしょうか?

「本気には本気で返す、それだけのことだ」
と言い切る父。
こ、怖い・・・。
八軒をかばって思わず横から口を出した御影さんも
「目をそらしたら殺される・・・」とびびる。
この父を乗り越えるのは並大抵のことではなさそうですよ、八軒くん。
・・・が、頑張れ!!


一年間暮らした寮は、
団体生活でいろいろな制限があって煩わしくもあったけど、
いろいろな友人たちとの絆ができた。
その寮を去る時の開放感と寂しさ。
私達も八軒の思いに共感しました。
寮生活は様々な個性の寄せ集め。
まさに闇鍋のようですね。
こんなにごちゃごちゃ詰め込んだらまずいに違いないと思うのに、
何故か妙に美味しかったりする。


1年でぐんと成長した八軒の今後がますます楽しみです。


「銀の匙11」 荒川弘  少年サンデーコミックス
満足度★★★★☆

悲しみのミルク

2014年03月13日 | 映画(か行)
母乳を通して娘に伝わったもの



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本作はベルリン国際映画祭の金熊賞受賞作品。
ペルー作品というのが馴染みの薄いところではありますが、
金熊賞受賞というのも納得、
奥深い人の心の悲しみと微かな希望を感じさせる良作です。


60年代~90年代、ペルーの内戦時代、
ファウスタの母親はゲリラにより夫を殺され、レイプされた経験を持ちます。
その絶望的な恐怖と悲しみが、
母乳を通して自分にも伝わっていると彼女は思っています。
彼女は体の奥にじゃがいもを埋め込み、
外界から自分を守る盾としています。
母親から伝わった外界への恐怖のため、一人で外を歩くことができない。
しかし彼女が身を守るための盾は、
自分と周囲を遮断する塀でもあるわけです。
そんな彼女が、母が亡くなったため
故郷の村に埋葬する費用を稼ぐ必要にかられます。
やむなく女性ピアニストの屋敷でメイドをすることになりますが・・・。



彼女の母は、自分のやり場のない悲しみを、
歌の言葉に乗せることで昇華させていたのかもしれません。
そしてそのやり方は娘である彼女にも引き継がれている。
言葉少なで、ただ一人気持ちを歌で表現することだけ
でかろうじて自分を保っているファウスタ。
けれどもそんな彼女が少しずつ変わっていくのは、
やはり人とのふれあいの中で、ということになりますね。
ファウスタがようやく少し心を開くことができるのは、
普段物言わぬ植物を相手にしている庭師ノエであることは、
とても説得力があります。
本作は、一人の女性のわずかながらの生きる力の再生の物語であると同時に、
つらい過去を持つペルーの国自体の再生を願う物語でもあるのでしょう。



身勝手な女性ピアニストの行動などがありながらも、
淡々と受け止める彼女と、
それでもなお起き上がってのびて行こうという予感を感じさせるラスト。
心に残る名作です。

「悲しみのミルク」
2009年/ペルー/97分
監督・脚本:クラウディア・リョサ
出演:マガリ・ソリエル、スシ・サンチェス、エフライン・ソリス、マリノ・バリョン

ペルーの歴史度★★★☆☆
満足度★★★★☆