映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ONODA 一万夜を越えて

2024年06月07日 | 映画(あ行)

長い孤独な戦争

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太平洋戦争終結後も任務解除の命令を受けられず、
フィリピン、ルバング島で孤独な日々を過ごし、
約30年後1974年51歳で日本に帰還した小野田旧陸軍少尉の物語。

前から見たいと思ってはいたのですが、
全体で174分という長さに怖じ気づいて、これまで見ないでいました。

私くらいの年齢だと小野田さんの帰還は当時リアルタイムでニュースで見ていまして、
実際驚いたものです。
今の若い方なら「小野田さん」と聞いても分らないのでしょうね。
であればなおさら、見る価値がある作品だと思います。

陸軍中野学校二俣分校で秘密戦の特殊訓練を受けた小野田寛郎。
フィリピン、ルバング島で援軍部隊が戻るまで、ゲリラ戦を指揮するようにと命じられます。
彼は出発前に教官から「玉砕は許されない。必ず生き延びなくてはならない。」
と言われたのです。

1945年8月。
終戦となってもこの島でその情報を得ることができず、
島内の日本兵は戦争のゲリラ戦を続けます。

小野田は4人のチームとなり、ジャングルに潜みながら
ときおり島民の畑や民家から必要なものを調達して生き抜き、
しかしおよそ30年後には彼1人となっていたのでした・・・。

本作はフィクションを交えているようですが、
事実に基づいている部分も多いようです。

小野田さんの帰還当時、私はごく一般の兵士と思っていたのですが、
陸軍中野学校と言えばエリートですよね。
その辺も、当時はニュースで伝えられたのでしょうけれど、
私自身にそこまでの理解が足りなかったというか
興味も持っていなかったというのが実のところかも知れません。

作中最後に任務解除の命令書が読み上げられるのですが、
その中で「別班」という言葉があって、おっと思いました。
つまり彼は陸軍「別班」の任務に当たっていた。
だからこその異常なほどの思い込みで仲間を引き連れて「戦争」を続け、
生き抜くことに執着していた・・・。
そうでなければとっくに投降していたのかも知れません。

それにしても、こんなところで「VIVANT」に繋がるとは・・・驚き。

 

結局、この島で生き抜いた30年を表わすのに、
約3時間の長さはやはり必要だったのです。
納得。

 

それとこの作品が日本人ではなくフランス人監督によって作られたというのは、
少し残念な気がするのです。
でも日本人には若干敗戦コンプレックスみたいなところがあって、
なかなか客観的にこの出来事を捉えられない気もします。
だからこれはこれで良しですね。

 

<Amazon prime videoにて>

「ONODA 一万夜を越えて」

2021年/フランス・ドイツ・ベルギー・イタリア・日本/174分

監督:アルチュール・アラリ

出演:遠藤雄弥、津田寛治、仲野太賀、松浦祐也、千葉哲也、カトウシンスケ、井ノ脇海、イッセー尾形

 

歴史発掘度★★★★★

不屈の魂度★★★★☆

満足度★★★★☆


エンドロールのつづき

2024年06月01日 | 映画(あ行)

情熱が道を開く

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パン・ナリン監督自身の実話を基にしています。

インドの田舎町ニクラス、9歳のサマイ。
学校に通いながら、父のチャイ店を手伝っています。
父は厳格で、映画などは低俗なものと考えていますが、
信仰するカーリー女神の映画だけは特別として、家族で映画を見に行きます。

初めて経験する映画の世界にすっかり心を奪われてしまったサマイ。
それが忘れられず、後に映画館に忍び込みますが、
バレて追い出されてしまいます。
それを見た映写技師のファザルがサマイに声をかけます。
料理上手なサマイの母の作ったお弁当と引き換えに、
映写室から映画を見せてくれるというのです。

サマイは映写窓から様々な映画を見て圧倒され、自分も映画を作りたいと思うのです。

映写室から多くの映画を見て、映画に魅せられる・・・。
「ニュー・シネマ・パラダイス」を思い出しますが、
インドのこの作品、これはこれで実に面白い。

サマイは、映画は「光」が物語を紡ぐのだと思います。
映画館を離れても、色ガラスの破片や、色のついた空き瓶を通して
風景や人々を眺め、映画を思う。

サマイは頭が良くて、そして近所の子供たちのリーダー格でもあるのです。
仲間たちをも、映画の魅力にひきずり込んでしまいます。

驚くべきは、廃品の中から使えそうなものを寄りだして、
映写機のようなモノを創り上げてしまう。
はじめ彼は、フィルムに光を当ててそのままフィルムを動かしてみたのですが、
それだと全く「動く」映像にならないのです。

そのわけを教えてくれたのはファザルで、
フィルムのコマとコマの間に暗闇がなければならない。
私たちは気づかずに、映画の半分は暗闇を見ているのだ・・・と。
この話、私が知ったのは、なんの本を読んだ時だったっけ・・・? 
まあともかく、サマイはそこも工夫して、
なんとか映像が動くマシン(手回しですが)を作り上げます。
スバラシイ!!

 

サマイの学校の先生は言うのです。

「インドの身分の違いには二つある。英語が話せる者と、話せないもの」

「なにかになりたいのなら、この地を出なければならない」

・・・そうは言っても、チャイの売り上げで日銭を稼ぐ貧乏な自分の家。
そんなことはとてもムリと、サマイは思う・・・。

映画が好きで好きで・・・映画を作ってみたくて・・・。
でもどうして良いか分らない。
そんな少年の憧れ、挫折、何もかもがみずみずしく、そして力強いのでした。

いい作品だなあ・・・。

それと、サマイのお母さんが作るお弁当がと~ってもおいしそうでした!!

<Amazon prime videoにて>

「エンドロールのつづき」

2021年/インド・フランス/112分

監督・脚本:パン・ナリン

出演:バビン・ラバリ、リチャーミーナ、ディペン・ラバル、バベーシュ・シュリマリ

憧れ度★★★★☆

創意工夫度★★★★☆

満足度★★★★★


アイデア・オブ・ユー 大人の愛が叶うまで

2024年05月21日 | 映画(あ行)

アイドルとオバサン

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40歳シングルマザーのソレーヌ(アン・ハサウェイ)。
10代の娘の付き添いで野外音楽フェスに出かけます。
そこで運命的出会いをしたのは、人気のボーイズユニット「オーガスト・ムーン」
リードボーカルのヘイズ・キャンベル(ニコラス・ガリツィン)24歳。
ヘイズはソレーヌを見初め、ソレーヌはあまりの年の差に戸惑いながらも
ヘイズに推しまくられて付き合い始めます。

やがて互いの心は燃え上がりますが、スーパースターとして常に注目をあびるヘイズとの交際は、
ソレーヌにとっては予想以上に厳しい状況となり・・・。

秘密裏に交際しているうちはまだ良かったのですが、
一緒にいる場面がSNSで投稿され、
開き直って交際宣言をすれば、たちまちに炎上。
大いにバッシングを受けることになってしまいます。

ここでのヘイズの立ち位置というのは、
旧ジャニーズのチームメンバーみたいなところなんですね。
歌とダンスで若い女の子を魅了する。
特別な音楽的才能は必要とされていない。
ソレーヌの娘も、かつてこのグループの大ファンだったのだけれど、
高校生の今はすでにファンを卒業している、というくらいの。
でも逆にそういうのが、母親世代の女性に受けるというのも分るなあ・・・

そりゃね、憧れの「推し」が15も年上の人と交際してます、
なんて話になったら私だって穏やかではいられません・・・。
いやこの際、年齢は関係ないか・・・。

でもね、やっぱり本作はアン・ハサウェイだから成り立つ話。
そこらの普通のオバサンでは話にならない。
ということが身にしみる作品でありました!

でも、ソレーヌがプールサイドで水着姿の20歳前後の女の子たちを見て、
とても自分は水着姿などさらせないと思うあの敗北感は、切実。
そうなのよねえ・・・。
でもあと20年もすれば彼女たちも同じことになるのだから
・・・と、そういうことです。

花の命は短いけれど、その後でどれだけ充実した実を結ぶかが大事! 
と思うほかない。

 

<Amazon prime videoにて>

「アイデア・オブ・ユー 大人の愛が叶うまで」

2024年/アメリカ/117分

監督:マイケル・ショウォルター

出演:アン・ハサウェイ、ニコラス・ガリツィン、エラ・ルービン、リード・スコット

 

年齢差度★★★★☆

満足度★★★.5


イコライザー THE FINAL

2024年05月18日 | 映画(あ行)

安住の地?

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イコライザーシリーズの最終章となる第3弾。
そういえば「イコライザー」は嫌いではなかったな
・・・と思ってこの度拝見。

デンゼル・ワシントン演じるロバート・マッコールは、言ってみれば闇の仕事請負人。
瞬時に周りの状況を把握し、空間や使える物体を最大限に活用、
そして最小のムダのない動きで相手を倒す。
相手は1人に限らず数人でも。
かかる時間は9秒・・・と言う凄腕なのですが、
そこのアクションが実にカッコ良くて、シビれます。

さて本作冒頭では、イタリアのシチリアにて、
そんな感じで一仕事を終えるマッコール。
しかしその後ほんの一時の油断で、背後から銃弾を受けてしまいます。
なんとかたどり着いた車の中で倒れ込んでしまったマッコール。
しかし彼は全く見ず知らずの警官に助けられ、医師の元に担ぎ込まれました。
マッコールはこの医師の元でしばらく療養することになります。

風光明媚な土地。
警官も医師も銃創を負ったマッコールには何かがあったことは一目瞭然なのに、
詮索することなく、やさしく親しげです。

他の土地の人々もいかにも純朴でやさしい。
マッコールは次第にこの土地が好きになり、
もう仕事は引退してここに住みたいと思うように・・・。

さてところがこの土地で、麻薬密輸組織が国際的テロ組織と手を組み、
大がかりな裏の流通網を築こうとしているのでした。
そのことに巻き込まれそうな人々を救うために、マッコールは立ち上がる・・・。

シチリア島と言えばマフィア発祥の地なので、
こんな恐ろしげな組織があるのも肯けます。
けれど多くの人々は、美しいこの土地で平和を望んで暮らしている。
そんな島の情緒もたっぷりで、私は気に入りました。

マッコールの正体をつかみながらも、彼に協力しようとするCIAエージェント・エマが
なんとダコタ・ファニング(お久しぶり!)で、これも興味深かったです。

<Amazon prime videoにて>

「イコライザー THE FINAL」

2023年/アメリカ/109分

監督:アントワン・フークア

出演:デンゼル・ワシントン、ダコタ・ファニング、デビッド・デンマン、レモ・ジローネ

 

異国情緒度★★★★☆

サスペンス度★★★★☆

満足度★★★★☆


あしやのきゅうしょく

2024年05月08日 | 映画(あ行)

作る側の視点で

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給食がテーマの物語といえば、やはり「おいしい給食」なのですが、
本作は食べる側の楽しみよりも、作る側、栄養士さんや調理員さんの視点から描かれています。

 

舞台は兵庫県芦屋市の小学校。
芦屋市では自校式給食が運営されていて栄養士によるオリジナルメニューの展開など、
学校給食への取り組みが注目されているのです。

物語は、芦屋の小学校に新人栄養士、野々村菜々が赴任するところから。
彼女は、退任するベテラン栄養士から給食のイロハを引き継ぎます。

 

栄養士は単に給食の献立を立てるだけでなく、
予算のこと、子どものアレルギーのこと、子どもの親の宗教による食物の禁忌など、
考慮しなければならないことが多々。
そのような事を子供たちの様子を交えながら丁寧に描いていました。

大きな調理釜での調理は、へたをすると「エサ」のように見えてしまうものですが、
本作を見る限りは、それを見てもおいしそうなのです。
もちろん学校の規模にもよりましょうが、ここの学校では、
オムライスの卵焼きをフライパンで一枚ずつ焼いていまして、その手間が大変そう。
一つ一つ形を作らねばならないスコッチエッグなどというモノもありまして、
こういうのは栄養士さんのやる気だけではダメで、
調理員さんの思いも共になければ、できあがらないと思います。

こうして作られたモノはきっとおいしくて、食べるのも楽しそうだなあ・・・。

 

私もかつては学校職員(教員ではないよ)で、数十年間給食を食べ続けていたので、
学校の給食事情のことはよく分ります。
札幌市も割と学校給食のコンセプトは芦屋市に近いと思います。

今時の給食事情を知るにも、良い作品です。

 

<Amazon prime videoにて>

「あしやのきゅうしょく」

2022年/日本/86分

監督:白羽弥仁

出演:松田るか、石田卓也、仁科貴、宮地真緒、赤井英和、秋野暢子

 

今時の給食事情度★★★★☆

満足度★★★★☆


アラビアンナイト 三千年の願い

2024年05月04日 | 映画(あ行)

呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃん

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古今東西の物語や神話を研究する学者アリシア(ティルダ・スウィントン)。
講演先のイスタンブールで、美しいガラスの小瓶を購入します。
ホテルの部屋に持ち帰り、ビンを洗おうとブラシでこすると
中から巨大な魔人<ジン>(イドリス・エルバ)が飛び出しますが、
すぐにサイズ変更して通常の人間状の大きさに。
<ジン>は、ビンから出してくれたお礼に「三つの願い」をかなえるといいます。
物語の専門家アリシアは、願い事を描いた物語に
ハッピーエンドがないことを知っていて、素直に願い事をしようと思いません。
<ジン>は彼女の考えを変えさせようと、3000年に及ぶ自らの物語を語り出します。

「アラビアンナイト」を基にしたストーリーなのかと思えば、
基にしているのはツボから魔人が現れて願いを叶えるというところのみ。

アリシアが生きているのは現在で、
そして<ジン>が語る遠い過去の物語を聞くという筋立てです。
かつて<ジン>が封じ込められている小瓶を手にし、
<ジン>を呼び出した女たちと<ジン>とのストーリー。

シックな色調の画面と不可思議な映像が美しい。
なんとも粋なファンタジー。

それにしても現代は、医療やら科学技術の進歩も著しく、
これは中世以前の人々から見れば「魔法」ですね。

しかしこのような魔法の力を手に入れたものの、
人類は相変わらず戦争やテロを繰り返し、
平和とか幸福を手に入れられずにいるのです・・・。

<Amazon prime videoにて>

「アラビアンナイト 三千年の願い」

監督:ジョージ・ミラー

原作:A・S・バイアット

出演:イドリス・エルバ、ティルダ・スウィントン、アーミト・タラム、ニコラス・ムアワッド

ファンタジック度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


陰陽師0

2024年04月30日 | 映画(あ行)

若き安倍晴明の物語

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安倍晴明が陰陽師になる前の物語。
原作者夢枕獏の全面協力のもと製作された完全オリジナルストーリー。

呪いや祟りから京を守る陰陽師の学び舎であり、行政機関でもある
「陰陽寮」が政治の中心だった平安時代。

青年安倍晴明(山崎賢人)は、天才と呼ばれるほどの呪術の才能を持つも、
陰陽師になる意欲も興味もない変わり者。

ある時そんな清明の基に、貴族の源博雅(染谷将太)が訪れます。
皇族の徽子(よしこ)(奈緒)女王のもとで起こる怪奇現象を解明してほしいというのです。
清明と博雅は徽子の基を訪れ、衝突し合いながらも共に真相を追っていきます。

またそんな頃、陰陽寮ではある若者の変死があり、
それをきっかけに平安京を巻き込む凶悪な陰謀と呪いが動き出します。

まだ学生時代の安倍清明ということで、孤高でちょっとやんちゃでもある
清明のたたずまいが山崎賢人さんにピッタリ。
「キングダム」のシンも良いけれど、こちらももっと良いなあ・・・。
アクションシーンもありますがこれまた「キングダム」とは全く別物で、美しく魅力的です。

陰陽師といっても彼が行うのは魔法のような全くの絵空事ではなくて、
心理の隙を突くようなこととか、
また時には科学的根拠を見せるようなところもあって興味深いのです。

そして博雅と徽子の思いというか絆が美しい・・・。
人によっては不満に思うことがあるかも知れないけれど、
私はこういうのがあってもいいと思う。
好きです。

 

平安時代は現代以上の格差社会。
そもそも制度的にそうなっている。
制度がないのに、ほとんどがんじがらめになっている現代の格差社会の方が
どうかしているような気もします。

陰陽師の社会も帝付きの陰陽師こそがその最高峰。
それを目指して必死に努力するもの、あらゆる手段で這い上がろうとするもの・・・、
そうしたもの者たちの執念が世の中を狂わせていくわけで・・・。

万人受けするエンタメ作品、と、実はあまり期待していなかったのですが、
思いのほか興味深く見てしまいました。

 

<シネマフロンティアにて>

「陰陽師0」

2024年/日本/113分

監督・脚本:佐藤嗣麻子

原作:夢枕獏

出演:山崎賢人、染谷将太、奈緒、安藤政信、村上虹郎、板垣李光人

 

陰陽師の魅力度★★★★★

満足度★★★★☆


おまえの罪を自白しろ

2024年04月26日 | 映画(あ行)

政治家の罪とは

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政治家一族である宇田家の次男・晄司(中島健人)。
建築会社を設立したものの倒産し、
国会議員の父・清治郎(堤真一)の秘書を務めています。
しかしその父も今は政治スキャンダルの渦中に。

そんな時、宇田家の長女・麻由美(池田エライザ)の幼い娘が誘拐されます。
犯人の要求は身代金ではなく、
翌日の17時までに清治郎が記者会見を開いて「犯した罪」を告白するように、と。

宇田家は父と長男(中島歩)、娘婿(浅利陽介)が政治の道へ進み、
晄司はそれとは関わらず自分の道を歩もうとしていたのですが、
いやいやながら父の秘書をすることになってしまっていたのです。
それなので、政界の当たり前のように横行する不正めいたことも、
いちいち引っかかりを覚えてしまう。
父がもし後ろめたい行為に及んでいたのなら、
犯人の要求に応えて、本当のことを話したほうが良いと思うのです。

そして父も、孫娘のためならやむなしと思い、覚悟を決めるのですが・・・。
実は「罪」と言うべきなのは一つだけではなかったのです。

 

また、ことは清治郎1人に関わる問題ではない。
清治郎が白日の下に真実をさらけ出せば、他所の欺瞞もさらけ出され、
政界を揺るがすこととなってしまいます。
そのために様々な妨害が・・・。

こんなことで、真実を明かしてくれるのなら、実際にやってみたくなったりする
・・・などと過激なことを考えてしまいました。

 

尾野真千子さんが妙に地味な役をやっていると思ったら・・・。
おっと、これ以上は秘密・・・。
というか、配役でバレバレのパターン。

ケンティだから見たので、そうでなければみるほどのモノでもなかったかも。

 

<Amazon prime videoにて>

「おまえの罪を自白しろ」

2023年/日本/101分

監督:水田伸生

原作:真保裕一

脚本:久松真一

出演:中島健人、堤真一、池田イライザ、中島歩、山崎育三郎、美波、浅利陽介、尾野真千子

 

サスペンス度★★☆☆☆

満足度★★★☆☆


アフターサン

2024年04月17日 | 映画(あ行)

当時の父と同じ年齢になった自分

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11歳の夏休みを迎えたソフィ(フランキー・コリオ)。

両親は離婚し、普段は母と暮らしていますが、
この夏休みは父・カラム(ポール・メスカル)と共に
トルコのひなびたリゾート地で過ごすことになりました。

ユニークなのは、この作品が、このひと夏の様子を
そのままソフィの視点で描いているのではなく、
20年後、当時の父・カラムと同じ年齢になったソフィが、
その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、
父との記憶を蘇らせていくという体で描かれているところです。

その当時、子どもの自分にはよく分っていなかった父の内面が、今なら分る。
とはいえ、11歳といえばすでに思春期の入り口にはあるわけで、
当時整理がつかなかった自分の感情をもまた、同時に思い起こしてもいるわけですね。

当時の父は、離婚後孤独で仕事も順調ではなかった。
けれど、大事な娘のために、なけなしのお金をはたいて
このバカンスに挑んだのでしょう。

夜、1人で海へ歩み入っていくカラム。
いやあ、私はてっきりそのまま帰ってこないのでは?と思ってしまいました。
けれど、11歳の娘を1人残して行ってしまうほど無責任なヤツではありませんでした。
よかった、よかった・・・。

ただ楽しいだけではなくて、物憂くてけだるくもあるリゾート地の夏。
普段は離れて暮らしている父と娘。
特別な時間。
見事にそのような状況が切り取られていました。

<Amazon prime videoにて>

「アフターサン」

2022年/アメリカ/101分

監督・脚本:シャーロット・ウェルズ

出演:ポール・メスカル、フランキー・コリオ、セリア・ローソン=ホール

 

夏の倦怠感度★★★★☆

郷愁度★★★☆☆

満足度★★★★☆


オッペンハイマー

2024年04月02日 | 映画(あ行)

原爆の父の真実

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アカデミー賞7部門受賞の注目作。
「原爆の父」と呼ばれるロバート・オッペンハイマーの物語です。

第二次世界大戦中、核開発を急ぐ米政府のマンハッタン計画において、
才能あふれる物理学者・オッペンハイマーが原爆開発プロジェクトの委員長に任命されます。

彼は実験で原爆の威力を目の当たりにし、そしてまた実戦で投下されると、
恐るべき大量破壊兵器を生み出してしまったことに愕然とし、衝撃を受けます。
そのため、戦後さらなる威力を持った水素爆弾の開発に反対するようになりますが・・・。

まずは本作、モノクロ映像とカラー映像が入り乱れて出てきます。
私は始め、過去のことがモノクロでカラーが実際に原爆のプロジェクトに取りかかった時のこと?
などとぼんやり思いながら見ていたのですが、
どう見てもそれは違う。
明らかに戦後のことがモノクロで表わされたりしています。

本作で重要なのは、原爆の製造に関わる部分ではありますが、
もう一つ、米国における「赤狩り」のことでもあるのですね。
オッペンハイマーは水爆推進という国の方針に異を唱えたことから
政府の反感を買います。
かつてオッペンハイマーの妻や兄弟が共産党員であった。
それでオッペンハイマー自身も共産党につながりがあるのでは?と疑念を抱かれ、
あろうことか元々ソ連のスパイとして原爆開発に関わっていたのでは・・・?
などと言われてしまう。
そんなバカな・・・?

何が何でもそういう事実をでっち上げてしまおう、という諮問会(?)のような
薄ら寒い会議の様子がかなり長く描写されます。

 

結局帰宅後に調べて初めて知ったのですが、
本作はつまり、オッペンハイマーの視点によるものがカラーで、
そして、オッペンハイマーの視点によらないものがモノクロで描かれているとのこと。

うーむ、だからか。
過去現在が入り乱れている上に、カラー・モノクロも入り乱れているものだから、
私はよくわからなかったというのが正直なところです。

しかも全180分。
もう、降参・・・。

そんなわけで、私には赤狩りの馬鹿馬鹿しさの部分よりも、
原爆製造から投下までにいたる道筋と、その都度のオッペンハイマーの意中部分の方が心に残りました。

ときおり鳴り響く耳障りな効果音が、こちらの感情まで破戒されるような気がします。

原爆の投下シーンは、実際にオッペンハイマーが目にしてはいないということなのでしょう、
映像はなくて、ラジオのニュースでそのことを知るのみ。

 

核分裂が強大な破壊力を持つ兵器になる。
理論的にはすでに広まっている話。
ではどの国がその実用化にこぎ着けるのか、というのが当時の緊急課題だったのでしょう。

ドイツ、ソ連・・・。
日本でもその研究が進められていたというのは映画「太陽の子」にもありましたっけ。

結局アメリカが一番乗りとなったのは、
砂漠の真ん中に町を作り上げ、すべてをそこに集中させて原爆の製作に当たったという
財力のなせる技なのでは、と納得しました。
ともあれ、ナチスが先でなくてよかった・・・。

<TOHOシネマズ札幌にて>

「オッペンハイマー」

2023年/アメリカ/180分

監督・脚本:クリストファー・ノーラン

出演:キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、マット・デイモン、
   ロバート・ダウニー・Jr、フローレンス・ビュー、ジョシュ・ハートネット

 

歴史発掘度★★★★☆

震撼度★★★☆☆

満足度★★★☆☆


唄う六人の女

2024年03月20日 | 映画(あ行)

森の奥深くで

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父の訃報を受け、山奥の実家に帰省した萱島(竹野内豊)。
萱島の父が所有していた土地を売却するため、不動産業者・宇和島(山田孝之)と会います。
手続きを終え、2人同乗の車で山道を走る途中、事故に遭い、意識を失います。

目を覚ますと、2人は謎めいた6人の女性たちに、
森の奥深くの屋敷に監禁されていたのでした。

彼女らは、言葉を話しません。
が、何かを萱島にさせたがっているようでもある。
萱島には幼少期にこの場所へ来たことがあるような・・・おぼろげな記憶が蘇ります。
一方、一刻も早く町へ戻りたい宇和島は、森の中をさまよい歩きますが・・・。

 

山奥の美しい場所。
不可思議な女たち・・・。
幻想的で妖艶。

いってみればここは、「自然」自体が心を宿す聖地のようなもの、でしょうか。

「それ」は、萱島にある思いを託そうとしているのですが、
それと敵対するのがまさに宇和島なのです。

この地を巡って、どすぐろい陰謀がはかられている・・・という
人間界の生臭い問題が浮かび上がってきます。

人間の欲望が、どれだけ自然の調和を壊しているか。
いろいろなことが思い巡らされますね。

 

<Amazon prime videoにて>

「唄う六人の女」

2023年/日本/112分

監督:石橋義正

脚本:石橋義正、大谷洋介

出演:竹野内豊、山田孝之、水川あさみ、アオイヤマダ、服部樹咲、萩原みのり、桃果、武田玲奈

 

幻想度★★★★☆

不可解度★★★★☆

満足度★★★☆☆


アダマン号に乗って

2024年03月02日 | 映画(あ行)

セーヌ川に浮かぶ、デイケアセンター

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ドキュメンタリー映画です。

パリ、セーヌ川に浮かぶ木造建築の施設。
船になぞらえて「アダマン号」と名付けられています。
ここは、精神疾患のある人々のデイケアセンター。
文化活動を通じて、彼らの支えとなる時間と空間を提供しています。
彼らが社会と再びつながりを持てるようサポートしているのです。

そこでは訪れる人々の自主性を重んじ、
絵画や音楽、詩など、各々が自らを表現。
そして看護師や職員らが患者たちに寄り添い続けます。

ともすると精神疾患を持つ人々の病棟というと、
閉鎖的で陰鬱なイメージがありますが、ここは明るく開放的。
もちろんある程度一般社会になじめる人を対象としているのでしょうけれど、
時には暴力的な発作を抑える薬を用いながら、
極力一般社会になじめるように、自分らしさを保ちながら、
生きる力を得ることができる・・・そんな場所のようです。

ここを訪れる人々は、これまでの人生の大半をこの病のために
つらい思いで過ごしてきた人々がほとんど。
周囲の人に気味悪がられたり恐れられたり・・・。
そんな彼らが、安心して居られる場所。



そして時にはワークショップを開いて、一般の人々との交流も行います。
多分私たちはこうした人々のことをよく知らないから恐れているのでしょうね。
彼らのことを知れば、ちょっと変わった友人として付き合っていくことは十分可能です。

こんな場所が街角の所々にある、そんな世の中になれば良いなと思います。

<WOWOW視聴にて>

「アダマン号に乗って」

2023年/フランス・日本/109分

監督:ニコラ・フィリベ-ル

解放度★★★★☆

満足度★★★★☆


哀れなるものたち

2024年02月06日 | 映画(あ行)

新たな生を受け、生きていく

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アカデミー賞候補の話題作。
ヴィクトリア朝イギリスらしき舞台ではありますが、
どこか寓話めいて不思議な世界感が繰り広げられます。

不幸な若い女性が橋から飛び降りて自殺。
風変わりな天才外科医ゴッドイン・バクスター(ウィレム・デフォー)が
その死後間もない遺体を引き取り、
妊娠中の遺体の胎児の脳を遺体に移植し、奇跡的蘇生に成功します。
大人の体を持ちながら、頭脳は新生児というベラ(エマ・ストーン)の誕生です。

ベラは、みるみることばや知識を吸収していきます。
赤ん坊→幼女→少女くらいに知恵を身つけていく頃には、
学問的な知識は下手な大人以上になっています。
けれど、屋敷から外に出たこともなく、世間的な生活能力もない。
全く無垢でありながら、知識は人一倍、
そして世の中のことが何もわかっていないという、アンバランスな状況に・・・。

そんな時に、放蕩者の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)に誘われ、
大陸横断の旅に出ることに。

初めて見る世界と、あけすけなダンカンとの性の快楽に幸福を見出すベラですが、
ある時、地上の食うや食わずで貧困にあえぐ人々の生活を見てしまいます。
これまでベラは上層階級の暮らししか知らなかったのでした。

ベラはダンカンの財産を貧しい人々に寄付(実はだまし取られた)してしまい、
ダンカンとは破局。
ベラはパリの街で1人身を立てていかなければならなくなりますが・・・。

通常は20年近くかけて、子供から大人へと知識や良識を身につけていくものですが、
ベラはごく短期間のうちにそれを成し遂げます。
だからその過程で見聞きしたモノの影響がとても大きい。
ひとたび性の快楽を味わえば、ほとんどそれこそが生きる意味くらいの認識が芽生えます。
けれど、思いのほかベラは聡明で、善悪や正義の判断力をもまたしっかり身につけていく。
だからこそ、経済的格差にあえぐ下層階級の人々のことを知れば、
ひどくショックを受けてしまう。

とてつもない奇妙な生い立ちを経ながらも、
しっかりと自立へと目覚めていくベラの成長ぶりに胸が躍ります。

顔がつぎはぎだらけの、まるでフランケンシュタインみたいなバクスター博士の
人物造形がなんともユニーク。
R18のなかなか刺激の強い作品ではありますが、
映画の面白さをじっくり味わえる作品でもありました。

 

<シネマフロンティアにて>

「哀れなるものたち」

2023年/イギリス/142分

監督:ヨルゴス・ランティモス

原作:アラスター・グレイ

出演:エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー、ラミー・ユセフ、クリストファー・アボット

異界度★★★★☆

満足度★★★★☆


アステロイド・シティ

2024年02月03日 | 映画(あ行)

砂漠の街で

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1955年。
アメリカ南西部、砂漠の中にぽつんとある街アステロイド・シティ。
隕石が落下してできた巨大なクレーターが観光名所で、そのため研究所もあります。
そこへ、化学賞を受賞した5人の少年少女とその家族が招待されます。

子供たちに母親がなくなったことを言い出せない父。

映画スターのシングルマザー。

天才少年少女の家族にもいろいろな事情があるのでした。

さてそんな時、授賞式に参加した人々の目前に突如宇宙人が現れ、
あるものを持ってすぐに去って行ってしまいます。
軍は宇宙人到来を隠蔽するため、町の人々や来訪者たちを隔離。
全員街を出られなくなってしまいますが・・・

その宇宙人というのがなんともオトボケでユーモラス。
凍り付いたような人々の前に現れ、すぐに去って行く。
傑作なシーンでした。

ウェス・アンダーソンらしい、真面目になればなるほどおかしみを感じる人々の様子、
良い味出てますねえ・・・。
出演陣も、豪華!!

でも、本作、舞台劇「アステロイド・シティ」を制作する
スタジオ内のメイキング風景という体で、
二重の舞台設定が交互に描かれるのですが、
私にはそこがなんだかわかりにくくて、混乱してしまいました。
この設定、必要でしたかね?

<Amazon prime videoにて>

「アステロイド・シティ」

2023年/アメリカ/104分

監督・脚本:ウェス・アンダーソン

出演:ジェイソン・シュワルツマン、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、
   ジェフリー・ライト、ティルダ・スウィントン、エドワード・ノートン、
   エイドリアン・ブロディ、リーブ・シュレイバー

 

ユニーク度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


アルマゲドン・タイム ある日々の肖像

2024年01月17日 | 映画(あ行)

少年の心に落ちる影。格差、差別。

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ジェームズ・グレイ監督が自身の少年期の体験を元に脚本を書いたもの。

1980年、ニューヨーク。
白人の中流家庭に生まれた、公立学校に通う12歳の少年、ポール(バンクス・レペタ)。

PTA会長を務める教育熱心な母(アン・ハサウェイ)。
働き者で、厳しくもある父(ジェレミー・ストロング)。
私立学校に通う優秀な兄。
一応穏やかな家族ではありますが、
ポールはこのごろ、家族に対して苛立ち、居心地の悪さを感じています。
そんな中でも、祖父アーロン(アンソニー・ホプキンス)だけは心を許せる相手。
アーロンは、ウクライナ系のユダヤ人で、
移民としてアメリカに渡ってきて成功を収めていますが
その間の苦労は並大抵ではない。
そうした経験の果ての度量の広さがあるわけです。


ポールは絵を描くことが好きで、若干夢見がち。
そんなところから普通の子どもたちや家族との関係性から浮き上がりがちなのでしょう。
クラスの問題児、黒人のジョニーだけが唯一打ち解けられる友人なのです。

ところが祖父が亡くなり、ポールは心の支えを失ってしまいます。
また、両親がポールについての困りごとを話しているのを聞いてしまい、
いよいよ捨て鉢になってある悪事を思いつき、ジョニーを誘います。

 

 

ポールの家族は教育熱心であり、親も何かしらの世間的ステータスを得ようと一生懸命。
というのも、下手をすると格差社会に飲み込まれ下層に滑り落ちてしまいそうだから・・・。
父は、自らの配管工という仕事に誇りを持ってはいるけれど、
社会の中では見下されていることにコンプレックスを抱いています。
母はPTA会長を務め、次は教育委員に立候補しようと思っている・・・。
そんなだから、息子が黒人の少年と付き合うこと自体がもう、タブーと思うわけです。

実際、ジョニーに関係して問題が起きて、
ポールは公立学校をやめて私立学校に転校することになってしまう。
けれどそこはまさに「格差社会」の縮図。
社会の頂点を目指す人材育成を目指す学校なのです。

この学校の有力支援者として、フレッド・トランプという人物が登場しますが、
実はこれがドナルド・トランプの父ということで・・・。

つまりはこの時代からある格差社会や、人種差別は、
同じかまたは形を変えつつもなくならず現在に繋がっているわけで。

ポールは頑として目の前にある格差や差別を否応なく認識させられてしまいます。
そしてそれを見据えたまま、前に進むほかないのだという覚悟を決める。

少年にはつらい出来事なのだけれど、多かれ少なかれそういう風に人は皆生きている。
ならば、そこから繋がる現在は本当はもう少しマシになっていてもよいはずなのですが・・・。
そうはうまくいかないのが世の中ということか・・・。

 

アン・ハサウェイが疲れたお母さん役というのに、年月の流れを感じてしまいました・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「アルマゲドン・タイム ある日々の肖像」

2022年/アメリカ/115分

監督・脚本:ジェームズ・グレイ

出演:アン・ハサウェイ、アンソニー・ホプキンス、ジェレミー・ストロング、バンクス・レペタ、ジャイリン・ウェッブ

 

格差社会度★★★★☆

少年の挫折度★★★★☆

満足度★★★★☆