映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「おそろし 三島屋変調百物語事始」 宮部みゆき 

2010年07月30日 | 本(その他)
理屈では説明のつかない不思議

おそろし (新人物ノベルス)
宮部 みゆき
新人物往来社


            * * * * * * * *

叔父夫婦の元に預けられた、おちか。
彼女はある事件を境に心を閉ざしてしまっていました。
ある日そこへ訪ねてきたお客の恐ろしい体験談に、引き込まれていく。
叔父の計らいで、次々に来る客が不思議な話をしていくのですが、
次第におちかの心もとけていくのです。
一夜のうちにたくさんの怖い話をつなげていくいわゆる「百物語」とは趣が異なりますが、
それにしてもちょっとぞっとする話が続きます。

私が一番怖いと思ったのは、手鏡の話。
亡くなった女性の残した手鏡を、ある女性が覗くと、
そこに吸い込まれ、閉じ込められてしまう・・・。
人の情念というのは、理屈では説明のつかない不思議を呼び起こすことがある・・・、
これは先日読んだ「小暮写真館」にもあるテーマですね。
読み進むうちに、おちかの身に起こった、悲しい事件も明らかになっていきます。
彼女の親しい人が2人亡くなっているのですが、
おちかはそうなってしまった元々の責任は自分にあると思っている。
でも一連のことを思い出すのがあまりにも辛いので、
思い出すことにもフタをして来たのです。
こうした思いを整理して、自分なりに納得するのは、大事なことなのかもしれません。
ちょっと現実離れした怪異も、江戸を舞台にするととても生きてきます。
電気のない時代の仄暗い闇の中になら、
こんなことがあってもおかしくないような気がしてしまいます。


冒頭作には曼珠沙華の花のことが書かれていますね。
北海道には彼岸花は自生していないんですよ。
だから、その赤い花の群れにはちょっとあこがれていたりもするのですが、
縁起のいい花ではないのですね。
その赤い花の間から、人の顔が覗いている・・・なんて、
うわ~、くわばらくわばら。

夜中に1人で読みたくはない本です。

満足度★★★☆☆

小さな命が呼ぶとき

2010年07月29日 | 映画(た行)
無敵のアドベンチャーヒーローが挑むもの



         * * * * * * * *

この作品、予告編を見たときから注目していました。
ブレンダン・フレイザーにハリソン・フォード!!
こ、これは、ハムナプトラにインディ・ジョーンズじゃありませんか!!!
この無敵のアドベンチャーヒーローが2人がかりで挑むもの。
それは医薬業界。そしてポンペ病。
これは実話を元にしたストーリーです。


ジョン(ブレンダン・フレイザー)とアイリーン夫妻には3人の子供がいますが、
そのうち2人がポンペ病という難病です。
この病気は遺伝によるものなので、兄弟で起こってしまうことも多いのですね。
先日読んだ「ジーン・ワルツ」を思い出します。
私たちの細胞が分裂するとき、
遺伝子のコピーをほんのひとつでも間違えばどこかに異常が発生する。
この病気も、ほんの少しのコピーミスで生じたものなのかも知れません。
体の中の糖(グリコーゲン)をうまく分解することができず、
筋肉にたまってしまう。
そのため筋力が次第に衰えていって、
手足が動かせないばかりか呼吸さえもできなくなってしまう。
この病気の発生後の平均寿命は9年といいます。

未だ決定的な治療方法がないので、
ジョンはこの病気についていろいろと調べるうちに、ひとつの研究に行き当たります。
それが薬学者ストーンヒル博士(ハリソン・フォード)の研究。
ジョンは博士を訪ね、協力を求めるのです。
しかし、この博士が全くの学者馬鹿といいますか、
研究一筋なのはいいけれど、
人との協調性など全く持ち合わせていない。
そこがやっかいなところです。
2人はポンペ病の治療薬を開発するために、
バイオテクノロジーのベンチャー企業を興すのですが・・・。

理論を実現するためには、努力だけではダメで、
とにかく先立つもの、つまりお金が必要という、
世知辛く巨大な壁がそびえているのでした・・・。

ジョンと博士は治療薬を作ることが最終目的。
そこはぶれないのです。
だから結局、自分たちの興した会社が大手の製薬会社に吸収されてしまっても良しとする。
そういう潔さはいいですね。

それにしても、このような貴重な薬品を作るのにも企業論理。
当たり前のことなのかも知れませんが、
このような人命に関わることは採算度外視で行われているような妄想を、
私は勝手に抱いていたようです。
果たしてその薬を作って利益が期待できるのか
・・・そこから出発するというのは、なんだかショックです。
インフルエンザのワクチンなら多くの資金をつぎ込んでも絶対に回収できますよね。
けれどこういう症例の少ない病に対しては、二の足を踏むということか・・・。
それが現実なんだというのは、何とも割り切れません。




無敵のヒーローたちは医薬業界の砂漠で悪戦苦闘。
お金や効率を物差しにしてしまってはいけないことが
世の中には確かにあるのだと思います。
ただ、病気でありながら、なけなしの元気で明るくふるまう子供たちには、
救われる思いがしました。


2010年/アメリカ/109分
監督:トム・ボーン
出演:ブレンダン・フレイザー、ハリソン・フォード、ケリー・ラッセル

抱擁のかけら

2010年07月28日 | 映画(は行)
大切な人なのに傷つけてしまい、また、自分も傷つく



               * * * * * * * *

ペドロ・アルモドバル監督とペネロペ・クルス、
4度目のコラボレーションとなる作品です。
公開時に見損ねたのですが、あっという間にDVDが出ました。
うれしいですね。


これはミステリ仕立ての恋愛ドラマです。
14年前に車の事故で視力を失った映画監督マテオ・ブランコ。
その後はハリー・ケインの名で脚本家となりました。
物語はその14年前の事故に至るまでの顛末が描かれています。

14年前の彼の映画作品の主演女優がレナ(ペネロペ・クルス)。
マテオと彼女は恋仲になるのですが、彼女は実は富豪の愛人。
その富豪の嫉妬により妨害や事故が起こります。


様々な愛憎の中で生きていく私たち。
時に、人としてあるべきではない残酷な思いも浮かび上がってきてしまいます。
大切な人のはずなのに、傷つけてしまう。
そしてそのことで、自分もまた余計に傷ついてしまうという、感情の不思議さ。
こういうところをアルモドバル監督は実にうまく表現しますね。
ペネロペ・クルスはやはり適役で、
そのあでやかな顔立ちと裏腹に、
奥底の方に渦巻く情念とか哀しみなども感じさせる、まれな女優さんであります。



マテオを見守る風の助手の女性とその息子が、14年前にも現在にも登場します。
でも、実は大きな鍵を握っているのです。
ちょっとしたサプライズもあり、このストーリーに華を添えています。
私はこの方、好きだなあ。
息子もいいヤツで。


女優役のペネロペ・クルスはちょっぴり往年の女優さんも意識しているようで・・・

これはオードリー・ヘップバーン風

こちらはマリリン・モンローでしょうか。

抱擁のかけら [DVD]
ペネロペ・クルス,ルイス・オマール,ブランカ・ポルティージョ,ホセ・ルイス・ゴメス,ルベーン・オチャンディアーノ
SHOCHIKU Co.,Ltd.(SH)(D)




2009年/スペイン/128分
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:ペネロペ・クルス、ルイス・オマール、ブランカ・ポルティージョ

「ジーン・ワルツ」海堂尊

2010年07月27日 | 本(その他)
お母さんの中から5百分の一、
お父さんからは5億分の一の狭き門を突破してきた遺伝子のエリート

ジーン・ワルツ (新潮文庫)
海堂 尊
新潮社


         * * * * * * * * 

帝華大学医学部の曾根崎理恵助教は体外受精のエキスパート。
この本は、生命の発生や出産の神秘的で感動的な営みを描くと共に、
産婦人科を取り巻く医療行政の悲惨な状況を
例によって痛烈な語り口で語っています。


理恵は大学での研究の他、マリアクリニックという産院で5人の妊婦を受け持っています。
望まない妊娠をしてしまったヤンキー娘のユミなどの他、体外受精で妊娠をした2名。
そのうちの一人はなんと55歳、山咲みどり。
しかし、理恵の上司清川教授は、理恵が代理母出産に関わっているという噂を耳にする。
不妊治療を行った際、体外受精した卵子を本人に戻すというのが普通ですが、
そうではなく、別人の子宮に着床させてしまうというのが代理母出産。
まだ世間的に認められていることではありません。
もし本当に代理母出産が行われているとしたら、55歳山咲みどりが怪しいけれど・・・。
ほとんど、理恵の心情を描き出しながら物語は進行するのですが、
この肝心の部分は伏せたまま。
なかなか心憎い演出です。
ラストの4名同時出産はなかなか感動的です。


始めの方に、理恵が学生たちに発生学の講義をする形で、
妊娠の始まりを説明する部分があります。

「つまり皆さんはお母さんの中から5百分の一、
お父さんからは5億分の一の狭き門を突破してきた遺伝子のエリートたち、なんです。
・・・・・五体満足で生まれ落ちることがどれほどの奇蹟か、
半年の授業でわかってもらえるとうれしいです」


このような説明の後では、
私自身が今こうして生きていることも奇跡の様に思えてしまいますね。
全く、始めはたったひとつの卵子と精子が、
どうしてこんな複雑な体にまで変化していくのか。
神秘というほかありません。
だからどの命もとても貴重で大切というのが、実感を伴って感じられます。


私が気に入ったのはヤンキー娘のユミちゃん。
失敗してできてしまった子。
しかも父親も誰だかよくわからない。
当然堕ろすつもりでいたのですが、堕胎シーンのビデオを見せられて考えが変わる。
すっかり生む気持ちになってきたところで、
胎児に障害があることが解る。
やはり堕ろすべきなのか。
ユミの出した答えは・・・。

母は強し、ですね。
女は妊娠を自覚したときから少しずつ大きくなってくるお腹をかかえながら、
どんどんお母さんになっていくのです。
子供を産まないことも、今女性のひとつの生き方ではありますが、
子供を安心して産めて、育てられる環境があるとしたら、やっぱり産んでみては・・・?
と思うんですよね。
生命の神秘を自ら体験。
悪くないですよ。


この本の続編、「マドンナ・ヴェルデ」は、この妊娠した55歳山咲みどりが主人公とのこと。
とっても興味があります。
文庫化まで待ち切れなさそう。
55歳妊娠って、ちょっと考えられないです~。
しんどすぎます。
無理です。
と、ほぼその年の私は思う!

満足度★★★★★

インセプション

2010年07月25日 | 映画(あ行)
シュールな世界に遊ぶ



           * * * * * * * *

人が眠っているうちに潜在意識に潜入し、アイデアを盗む。
コブ(レオナルド・ディカプリオ)はチームでそういう仕事をしていますが、
特に彼はその中でもスペシャリスト。
潜在意識に潜入とは・・・つまりは人の夢の中に進入する。
潜在意識の奥底に、当人のアイデアがひっそりとしまわれているというのです。
このストーリーでは、盗み出すのではなく、
さらにそこにアイデアを植え付けようとするもの。
ターゲットの心の奥底にあるアイデアを忍び込ませて、
それは元々自分で考えついたことだと思わせるのです。
それが“インセプション”という最高難度のミッション。



さあ、このミッションではなんと、夢と、夢の中の夢。そして夢の中の夢の中の夢。
夢が3層になっているのです。
深く潜れば潜るほど、深層心理に近づいていく。
夢の中では実際に数秒でも非常に長い時が流れる。
だから3層めではさらに長大な時を過ごすことになる。
それぞれの層を同時進行させながら、話が進むのです。
たとえば一層めで、車が橋から落ちるというその刹那に、
二層め、三層めではさらに別の戦いが繰り広げられている
という風で、スリルたっぷり。


このような不思議な物語を、この作品、見事に映像化してくれました。
夢というのは実際リアルなものですが、時としてその内容はシュール。
そういう雰囲気がたっぷりでした。
夢の中では私たちはそれを現実と思っています。
だから実際には起こっていないことも
その時点では現実。
マトリックスを始めとしてこの手の話はこの頃多いですね。
そういえば、つい最近、
やはり眉間にしわを寄せたディカプリオ作品「シャッターアイランド」も、
結局は脳内の仮想空間の物語ではなかったか。
考えてみたらテレビや映画も、“夢”のようなものです。
自分自身で見たわけでもないのに見たような気になってしまう。
ニュースでやっていることは本当に、本当でしょうか・・・?
この先3Dがもっと発達したら、
いよいよ現実と仮想の区別がつかなくはならないでしょうか。
この作品中では、コブの妻が、現実と夢の区別がつかなくなってしまうのです。
実際、現実であるにも関わらず、夢だと思い込んでしまう。
また、夢の中の居心地の良さにおぼれ、現実を逃避し、眠り続ける人々もいます。
アイデアを盗むとか何とかより、こちらの問題の方が切実のような気もしますね。
コブは自分自身夢と現実を区別するために、コマをいつも持っています。
いつまでもそれが回り続けたら夢。
力尽きて回転が止まれば現実。

ああ、そういえば「レポゼッションメン」のジュード・ロウも、
コマを回してみると良かったかもしれませんね!
けれど永久に冷めない夢の中で生きるってのはどうなんでしょう・・・。


この作品のキャストは、渡辺謙さんはもちろんですが、見知った人がたくさん。
渡辺謙はすっかり国際俳優の貫禄がつきましたね。
世界のナベアツ、ならぬ、世界のナベケン。
カッコイイです。
ジョセフ・ゴードン=レビットは、なんだかこの頃気になっちゃうんです。
今回のオールバックのヘアスタイルもいいなあ。
マリオン・コティヤールは、エディット・ピアフだし、エレン・ペイジはジュノ!
個性たっぷりの面々、これぞ“夢”の共演。




2010年/アメリカ/148分
監督・脚本:クリストファー・ノーラン
出演:レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、ジョセフ・ゴードン=レビット、マリオン・コティヤール、エレン・ペイジ

カッコーの巣の上で

2010年07月24日 | 映画(か行)
自由を求める声は受け継がれていき、消えない。

カッコーの巣の上で ― スペシャル・エディション [DVD]
ケン・キージー
ワーナー・ホーム・ビデオ


             * * * * * * * *

この作品、確か公開時に見た記憶が・・・。
かなり若かりし頃です。
思わず遠い目・・・。
もっとも、ほとんど覚えていなかったので、初めてのように見ました。


刑務所の強制労働を逃れるために、
精神病を偽って精神病院へ送られてきたマクマーフィー(ジャック・ニコルソン)。
そこには、冷徹な看護婦長ラチェッド(ルイーズ・フレッチャー)の徹底した管理のもと、
無気力な患者たちがいました。
病院のルールに抵抗するマクマーフィーは患者たちに命を吹き込むのです。
でもそれは病院にとっては不都合なこと。
病院はマクマーフィーに電気治療を試みたりしますが・・・・。


カッコーの巣というのは、精神病院を指しています。
おぼろげながら見えてくるのは、
これは特に精神治療のあり方を問う物語ではなくて、
この病院は私たちの社会を暗喩しているということ。
徹底的に管理された自由のない社会。
時代が時代なので、共産圏の社会を指すのかもしれないし、
単に様々な制約の上に成り立っている現代社会を指しているかもしれない。
それは見る人によって様々でかまわないのだと思います。
人は本来、他者から制約されたり規制されたりすべきではない。
しかし、自由を声高に求めようとすれば、社会から抹消されてしまう危険がある。
これは今も変わらない世のありようかもしれません。

けれども、自由を求める思いは、
どんなに障害が大きくても、挫折しても、消えてしまうことはない。
それはきっと誰かの胸の内に引き継がれていくものなのです。
とても崇高な精神を歌う作品ですね。

原作本では、
この病院の患者であるネイティブアメリカンのチーフが語り手となっているそうです。
彼は大変重要な役どころ、なるほどと思います。
特にラストシーンは鮮やか。

それにしても、あのラチェッド看護婦長はこわかったですね~。
常に冷静で、言葉使いも丁寧なんですよ。
決して激昂しない。
にも関わらずと言うか、だからこそというか、その目が怖い。
冷え冷えとしています。


1975年/アメリカ/134分
制作:マイケル・ダグラス
監督:ミロス・フォアマン
出演:ジャック・ニコルソン、ルイーズ・フレッチャー、ウィル・サンプソン、クリストファー・ロイド、ダニー・デビ-ト

「やってられない月曜日」 柴田よしき 

2010年07月23日 | 本(その他)
様々な出会いと感情が渦巻く“会社”という社会の縮図

やってられない月曜日
柴田 よしき
新潮社



           * * * * * * * *

これは以前読んだ「ワーキングガール・ウォーズ」の姉妹編となっています。
        興味のある方はこちらをどうぞ→「ワーキングガール・ウォーズ」

さて、これはつまり、OLとして働く女性たちの物語。
この本の主人公は高遠寧々、28歳。
一応大手の出版社経理部勤務。
コネ入社だったのを引け目に思っています。
名前とは裏腹にちっとも女っぽくなく、彼氏もナシ。
彼女の楽しみは、模型を作ること。
プラモデルとかではなくて、小さな家などの模型なんですね。
かなりオタクっぽい。
仕事には特に不満はないけれど、パワハラがあったり、不倫があったり。
会社の中で様々な人が出会い、いろいろな感情を抱え込んでいる。
そうしたことが見えるにつれ、
彼女は、この会社のすべての部屋の模型を作ろうと決心するのです。
机やいす、事務機器、人物も。
大きな会社なのでそう簡単にはできません。
ライフワークです。

この作品では、特に女性が一人で生きるという気負いはないように思えるのです。
そこはもう強調するまでもなく普通になってきた、ということなのかもしれません。


一番始めに、経費をごまかそうとする社員と壮絶なやりとりがありまして、
これがこの物語に私たちをあっという間に引き込んでしまいます。
このように、ぽんぽんと言葉が出れば気持ちいいのだけれど、と、
ちょっとうらやましくなってしまう。
しかし、この相手の男性の意外な一面を見たり、
また後には結構親しくなっていくと言う流れがなんだかうれしいですね。
それも、安直に恋仲になったりしないところもよろしい。
結婚がゴールではないのは大いに結構。

そうそう、ここにはワーキングガール・ウォーズの翔子さんが出てきます。
この寧々の叔母さんと言う役どころ。
寧々はこの威勢の良い翔子さんにあこがれているのです。
なんにしても、せっせと仕事し、
プライベートも好きなことがあって、活き活きと生活している。
これが一番です。
私ももう少しがんばってみよう、とちょっぴり思います。

満足度★★★★☆

「雨無村役場産業課兼観光係2・3」 岩本ナオ 

2010年07月22日 | コミックス
俺、その人がいない世界が想像できない

雨無村役場産業課兼観光係 2 (フラワーコミックス)
岩本 ナオ
小学館


雨無村役場産業課兼観光係 3 (フラワーコミックス)
岩本 ナオ
小学館


          * * * * * * * *

さて、残りは一気に行っちゃいましょう。
3巻で完結です。
スミオは銀一郎に思いを告げたきり、東京へ出て役者になってしまった。
メグはスミオをたずね、思い切って告白・・・!
スミオは言う。

「ごめんメグちゃん
俺、その人がいない世界が想像できない。」


衝撃・・・。
失意のメグをそっとカバーする銀一郎も、なかなかつらいですね。

さて、銀一郎の提案した桜祭りですが、何とか村の人たちの同意を受けて、実施が決まる。
そうなるとまたいろいろ準備が大変で、銀ちゃんはちょっと弱気。
こんなに大勢の人たちを巻き込んで、失敗したらどうしよう。
本当にこれで良かったのだろうか・・・。
そんな中で、メインとなる樹齢300~500年という桜の木を、樹木医の方に見てもらうのですが、腐って空洞になっている部分があることが解ります。
でも、きちんと手当をすれば大丈夫。
樹木医さんはいいます。

「助かったのー、おまえ。
村の人が桜祭りするゆうてくれて。」


銀一郎の提案の最大の功績です。
人が来なかろうとなんだろうと、それだけで十分に意義があった。
いいシーンです。

思うに、村の人たちは本当は桜祭りなんて、失敗してもいいと思っているようです。
それよりも、一生懸命がんばっている若いもんに協力したい。
どんどん、やりたいことをやれ!
そんな気持ちが見えますね。
だから銀ちゃんもがんばることができる。

そして今まではなーんにもできなかったスミオくんが、
堂々と舞台に立って演技をしているのを見て、度肝を抜かれるメグと銀一郎。


前回はさりげなく前向き・・・と書きましたが、この辺はかなりの前向きになっています。
自分がすべきことが見えてきたら、突き進む。
やはりこれが若さだなあ・・・。
それも、自分一人じゃなくて、
周りの人の励ましがあったり、
人のがんばる姿に刺激されたり。
自分一人だけでは、勇気は出ない。

でもこういうのは、何も田舎でしかできないことではないですね。
都会が故郷になっている多くの若者。
自分たちの故郷を盛り上げる新たな仕組みが、これからできてくるのかもしれません。


一巻目、題材が新鮮ですごく面白いと思いましたが、
2・3巻目はまあ、普通に面白い・・・。
最後の最後に、垣間見える6年後の銀ちゃんとメグ。
ほほう。
やっぱりそうなりますか。
普通に生活して普通に幸せ。
これも貴重ですね。

満足度★★★★☆

借りぐらしのアリエッティ

2010年07月20日 | 映画(か行)
サバイバルの「借りぐらし」



              * * * * * * * *

ある夏、少年翔が大叔母さんの家に静養にやってきます。

広いその屋敷には大叔母さんとお手伝いさんがいるだけ。
庭も手が行き届かないようで、様々な草木が生い茂っている。
そんな中で、彼は身長10センチほどの小さな人を見かけるのです。
彼女はアリエッティ。
この家の床下に父母と共に住んでいて、時々家のものを「借り」て暮らしている。


アリエッティの初めての「借り」の日


10センチの身長が意味するもの。
それはメルヘンやファンタジーが語るよりもずっと過酷です。
植物のジャングル。
猫や鼠などの巨大な生物。
虫も怖い。
家の角砂糖を「借りる」のでさえ、食器棚から降りたりテーブルに登ったりは、
とてつもない絶壁を上り下りするのと同じ。
私たちが過ごしているごく普通の日常の場が、彼らにとってはサバイバルの場。
これは「借り」というよりはむしろ「狩り」なのです。
そこでは父親が狩りのつとめを果たしていて、
たくましく頼りになるカッコイイお父さんだ。
・・・うーん、遠い昔から人々はずっとこういう暮らしをしてきたのでしょうね。
ちょっとノスタルジーも感じたりします。


通常はこのように壁の裏側を移動します。私たちの知らない世界。


さて、彼らが最も神経を使うのは、決して人に見られてはいけない、ということ。
もし、人に見つかったときにはすぐに引っ越しをしなければならない。
それが自分たちの身を守ること。

けれどアリエッティと翔は、お互い意思疎通を図るというタブーを犯してしまいました。
何も引っ越しまでしなくても、友好は保てるはず。
私たちはそう思います。
でも結局は、二人が交友を持ってしまったことがきっかけで、
事態は良くない方へ進展してしまいます。



光と影が美しい



このあたりは、自然と人間の関係をいっている様にも思います。
私たち人間は、自然を踏み荒らしたりする一方、
自然を救うつもりでお節介もします。
しかしそのことが、結局生態系を壊してしまう。
いっそ関わらない方がいい。
私たちが自然をどうにかできるというのが、思い上がりであると思えてきます。
けれど、こびとたちが「借り」ぐらしをするためには、
人間の生活している家の近くに住む必要があるのです。
好むと好まないとに関わらず、共生していく人と自然。
宮崎作品がずっと語りかけてきたテーマですね。

この作品では、10センチの身長に自分を重ね合わせて、
すごくスリリングな体験をさせてもらいました。
こうなると、人は怖いですね。
みなウルトラマン並み。
ダンゴムシを丸めて、ぽーん、ぽーんとボールのようにほおり投げて遊ぶアリエッティ。
ダンゴムシがちょうどイヌ・ネコサイズだったりするわけです。
想像すると、悲鳴を上げたくなりますが、アニメだとかわいい。

小人の少年も登場しますが、これが全くの野生児で、久々に宮崎アニメっぽいキャラです。
こういうオトコノコは好きだなあ。
小人たちの生活がとても丁寧に描かれていて、その世界にはまります。
滅び行くものたちへの哀愁を織り交ぜた音楽もとてもよくマッチしており、
私としては「ポニョ」よりも、ずっといいと思います。


美しく生い茂る野草。これぞジブリの世界。


原作はメアリー・ノートン「床下の小人たち」。
日本でも、ステキな小人たちの話がありますよ。
佐藤さとる氏の「だれも知らない小さな国」からはじまるコロボックルシリーズ。
かつての私の愛読書でもありました。
できればこちらをアニメにして欲しかった・・・。

だれも知らない小さな国―コロボックル物語 1 (講談社青い鳥文庫 18-1)
村上 勉
講談社



2010年/日本/94分
監督:米林宏昌
企画・脚本:宮崎駿
声:志田未来、神木隆之介、大竹しのぶ、竹下景子、藤原竜也

踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!

2010年07月19日 | 映画(あ行)
事件は署内で起こっている


           
             * * * * * * * *


えーと、7年ぶりとのことですね。この作品。
ちょっと前に見たような気がするのに、もう7年も経っているなんて・・・。
「2」も7年前、劇場で見たはずなので、記録を探してみました。
ブログはまだ始めてなかったのですが、かろうじてこんなメモみたいなのが。
平成15年7月のものですよ~。


おなじみの作品。
こういうシリーズものは、キャラクターがおなじみなので、
するりと入っていけるので、見やすいといえば見やすい。
何年も経っているのに、皆さん昇格もせず、転勤もせず、相変わらず湾岸署にいらっしゃる。
まあね、楽しめればいいかってことで。
今回は、組織化されない犯罪グループと言うのが主題。
でもね、最後は一塊になってたけど、
私は、あれはネット上だけで実際的には全く見ず知らずのグループとしたほうが、
現代にマッチすると思う。
ほんとに、そんな人たちの集団自殺もアリの世の中だからねえ…。
今度は、すみれさんが死にかけると言う山場もあって、盛り上がったと思いますよ。
とりあえず、時間を忘れて楽しめる2時間。


           * * * * * * * *

なんだかこれが今回の感想です、といっても通りそうな感じです。
さてそれで、今回はようやく青島くんも係長に昇任ということですが・・・、
遅すぎるような気も。
そもそもこの作品、7年前に同じこと言っていますが、
お馴染みのキャラクターが出てきて入り込みやすい。
でもさすがに今回はマンネリ気味で、
別に無理して「3」を作る必要はなかったのではないかしらんと思ってしまいました。



ストーリーは・・・
まず湾岸署の引っ越し。
署内はてんやわんや。
そんな時に、金庫破りやバスジャックの事件があるけれども、
そのどさくさのうちに、銃が紛失。
そして盗まれた銃による殺人事件が起こる。
引っ越しの荷物を詰めながらも本庁の捜査に協力。
しかし、さらにこの混乱に乗じて署内に、テログループが潜入してしまうのですね。
そして、新署内に時限装置付き毒ガスを仕込んだ上で、建物ごと占拠。
中に大勢の署員を閉じ込めたまま人質として、数名の受刑者の解放を要求。
その顔ぶれは、かつて青島が逮捕に関わったものばかり。
この解放の目的は・・・?

という感じです。
ストーリーは以前の作品に関連していく。
どんなシーンもなんだか既視感が漂い、7年ぶりの割には全然新鮮みがない。
強いて言えば和久さんの甥役の伊藤淳史、
本店と所轄の調整役、管理補佐官役の小栗旬。
そのところはよかったですね。




そして、さすがなのは小泉今日子。
この方は、以前の作品の時も怖かったのを良く覚えていますが、今回もやってくれます。
彼女が出るシーンは体感温度が下がる感じで、ぞーっと寒気がしました。
まあ、見所はそこくらいですね。
青島くんが一人でシャッターを壊そうとするところ、
すみれさんがそれに答えて放送で語りかけるところ。
盛り上がるべきところなんでしょうけれど、
どうも盛り上がりきれず、なんだかなあ・・・という感じです。
もう、同じ柳の下のドジョウを狙うのはやめにしたほうがいいのでは・・・。


この方はいつもこんな顔


こちらも相変わらずの面々


2010年/日本/141分
監督:本広克行
脚本:君塚良一
出演:織田裕二、深津絵里、柳葉敏郎、ユースケ・サンタマリア、小栗旬、小泉今日子、伊藤淳史、内田有紀


「ダーティ・ワーク」 絲山秋子

2010年07月18日 | 本(その他)
ストイックでハードボイルド

ダーティ・ワーク (集英社文庫) (集英社文庫 い 66-1)
絲山 秋子
集英社


          * * * * * * * * 

私には初めての作家さんです。
この物語は、7つの短編からなっています。
一見別々の話のように思えたのですが、
次第にそれぞれの登場人物のつながりが見え始め、
深みと広がりを増していきます。


一番始めに登場するのはギタリストの熊井。
病院嫌いの熊井は、始め私はてっきり男性だと思ったら、実は女性でした。
女性というか中性っぽいですね。
でも、この感じ好きです。
そんな彼女は以前一緒にバンドを組んでいたけれどもう何年もあっていない
TTという人物に思いを寄せている。

後の方の話で今度は遠井という人物が登場するのですが、
この人こそ、熊井の言うTTであることが解ります。
その遠井はもう3ヶ月も会社に行っていないという引きこもり傾向・・・。
この2人が、ある人とのつながりで再会することになり・・・。


なんだかこのように書くとありきたりの恋愛小説みたいになってしまいますね。
そういうべたべたした甘さはないのです。
この文庫の解説者佐々木敦氏は言っています。

構成も文体も、あらゆる面で、何気ないようで毅然とした、
ストイックでハードボイルドな佇まいを守っている。


なるほど、うまいこと言うなあ、と感心しますが、
ストイックでハードボイルド。
まさにその感じです。


この本、それほどのボリュームではないのですが、
私は毎夜睡魔と闘いながら読んだおかげで
読了まで何日もかかってしまいました。
それで、どうも途切れ途切れで、
当然気づくべき人物のつながりが良く解らなくなってしまった。

この本はもっと一気に読むべきです。
ということで個人的に
満足度★★★☆☆
になってしまったのですが、
本来、もっといい話なんじゃないかと、自分の感覚を疑っております・・・。
失礼しました・・・・・


アデル ファラオと復活の秘薬

2010年07月17日 | 映画(あ行)
パワフル&チャーミング、小粋なヒロイン



         * * * * * * * *

1911年エジプト。
秘境専門のジャーナリスト、アデルが王家の谷を訪れました。

彼女には事故で意識を失ったままの双子の妹がいるのですが、
その妹を救うため、エジプトに伝わる復活の秘薬を求めてやってきたのです。
黄金を狙う盗賊や宿敵デュールブーの妨害をかわし、
ミイラを手に入れてパリへ持ち帰ります。
ところがパリでは、絶滅したはずの翼竜プテロダクティルスが人を襲い、大騒ぎに・・・。




この作品、女性版「インディー・ジョーンズ」とか
フランス版「ナイト・ミュージアム」などという評があるようです。
でも、ハリウッド作品とはやはり趣が異なります。
そうですね、主役が女性だけあって、力わざではない。
さすがフランス、何とも小粋なアドベンチャー作品となっています。
危機は勇気と機知で乗り切る。
ニューヒロインの誕生です。


この方、ルイーズ・ブルゴワンは、テレビのお天気お姉さんだったそうで・・・、
この映画中では男装したり、肥満体になってみたり、
コスプレまがいのシーンも楽しめます。
遊び心が心憎い。
パワフル&チャーミング。

チャーミングと言えば、アデルがエジプトから連れてきたミイラがまたチャーミング(?)

彼女はてっきり医師だと思って連れてきたのに、
よみがえってみれば、学者さんでした・・・。
不気味なはずのミイラなんですけど、なんだかいい感じなんです。
私は好きだな。
ハリウッド版アクション・アドベンチャーのような
危機一髪シーンの連続を期待した方にはちょっと期待はずれかもしれませんが、
ユーモアとウイットに富んだ方ならこの作品の楽しさは伝わるはず。



エッフェル塔やルーブル美術館、パリの見所もたっぷりです。
さてしかし、あ然とさせられるのはラストシーンなのです。
一連の騒動も終わって、旅に出たアデルに次の災難が・・・。
もしかしてこの作品、続編アリなのでしょうか。
是非みたい気がしますが・・・。

2010年/フランス/107分
監督:リュック・ベッソン
出演:ルイーズ・ブルゴワン、マチュー・アマルリック、ジャッキー・ネルセシアン、ニコラ・ジロー

「雨無村役場産業課兼観光係1」 岩本ナオ 

2010年07月15日 | コミックス
さりげなく前向きの若者たち

              * * * * * * * *

雨無村役場産業課兼観光係 1 (フラワーコミックス)
岩本 ナオ
小学館


             * * * * * * * *

少し前に、何かの紙面で紹介されていたので、このたび手に取ってみました。
東京の大学を卒業して、故郷の雨無村役場に就職することになった銀一郎。
ところがこの村の高校生以上の若い者は、
彼と幼なじみのメグミ、コンビニのバイト店員澄の3人だけ。
銀一郎はこの特産も名所もない村で観光係を命じられるのですが・・・。


今風の若者像なのだろうと思います。
決して熱血過ぎず、さりとてやる気なくぐうたらではない。
しらけてもいない。
淡々としているけれど、さりげなく前向き。
いいですよね。
こういう男子は好きです。
こういう男子は結婚しても、仕事一筋、家のことは知らんぷり、
などということにはならないだろうし、
家庭と仕事のバランスをうまくとるんじゃないかという気がします。

何しろ私がこれまで見たり読んだりしてきた漫画にしても本にしても、
団塊世代を照準としたものばかり。
その中の主人公たちは、熱血であるか、ぐうたらであるか、冷め果てているか、
どれかでした。
銀一郎のような等身大っぽい人物像を今の若い方はさりげなく描く。

そうして、「さりげなく前向き」が「やや力の入った前向き」になっていくあたりも自然で、
仕事のやりがいは何も大企業の一員でなくても十分にあるのだと言うあたりも、
うれしいのです。
若い人たちが地方で元気に活き活きと働くことができる。
そういう世の中がいいですね。


さて、これは少女漫画ですので、やはりあるのですよ。
ロマンスが。
この村では貴重な若い3人。
恋愛感情に発展しない方がウソですが、
これがまた、どうしようもなく一方方向オンリーの三角関係。
銀一郎は、ちょっと太めだけれど、気の利く世話女房タイプのメグミをいいなあと思う。
そのメグミは、澄緒にあこがれるけれど、彼は気づかない。
道行く誰もが振り向くイケメン草食系の澄緒くんは、実は銀一郎が好き(!?)
このどうにもならない三角関係を織り交ぜながら、
村おこしが進行していくのですね。
この巻ではまだ、やっと銀一郎の構想が浮かんだばかり。
とっとと次巻へ進むことにしましょう。

満足度★★★★☆

目撃

2010年07月14日 | クリント・イーストウッド
絶対権力に反抗する男

目撃 [DVD]
クリント・イーストウッド,デヴィッド・バルダッツ
ワーナー・ホーム・ビデオ


             * * * * * * * *

これはなかなかドキドキハラハラするシーンたっぷりのサスペンスでした。
アクションシーンは特にないのですけどね。
そんなのはなくても、これだけじっくり見せ所があって、見るものを引き付けることができるというのはさすが。


クリント・イーストウッドは、プロの泥棒、ルーサーという役どころですね。
資産家の屋敷にセキュリティを破って忍び込み、宝石や札束を奪う。
しかし人を傷つけたことはない、と。
この物語でも、まずさっそくある屋敷に忍び込むんですね。
ところが、もう引き上げようというときに人が来る。
この豪邸の持ち主サリバンの妻とその間男。
慌てて隠し部屋に隠れて様子をうかがうルーサー。
ところが男は酔って女に乱暴し、逆上した女はナイフを持ち出す。このままでは逆に男が危ない、と、そのとき銃声がして、女は撃ち殺されてしまった。
なんとなんと、この間男は実は米大統領だったのです!!
2人の護衛官と大統領補佐官が現れ大統領を守るために女を射殺。
そしてこの事件の証拠隠滅をはかる。
そりゃーもう、本当に見てはいけないものを見てしまったんですねー。くわばらくわばら。
そしてルーサーはかなり危険な立場に追い込まれてしまうわけですね。
警察からは殺人犯と疑われ、大統領一派からは危険な目撃者として追われ、妻を亡くしたサリバンからは復讐のために狙われる。


とりあえず盗みに成功したルーサーは、何も見なかったことにして海外逃亡を図ろうとしたんだよね。
そう、ところが、テレビで当の大統領が、白々しくタリバンに同情し抱きしめ、逆に自分のPRにしているのを見て、彼の正義感に火がついてしまった。
彼の戦いが始まる・・・と。


イヤとにかくドキドキ緊張感を誘うシーンが多かったと思う。
隠し部屋で成り行きを見守るルーサー。
殺人が起こったとき、彼らは警察を呼ぼうか相談してましたよね。
それはまたルーサーにとっては命取りだし。
逃げるにも逃げられない。
刑事セスと語り合うシーンもなかなか・・・。
一見穏やかに親しげに話しながら、腹の底を探り合うってとこね。
最大は、カフェで娘に会いにやってくるルーサーを何重もの敵が待ち構えているところだね。
そう、いったいどうやってこの危機をくぐり抜けるのか。
実にハラハラさせられます。
それでいて、ルーサーと娘の絆がまたいい感じで描かれていますね。
滅多に家に居着かなかった前科者の父を娘は毛嫌いしているのだけれど。
嫌われながらも、実はきちんと娘を見守っていた父。
泣かせますねえ・・・。
その娘にほの字のエド・ハリスの刑事もなんかしみじみ来ます。

やはりこの時期、イーストウッドは監督としてまさに円熟してますねえ。
どこでどう観客を楽しませるか、そういうことがぴたっとツボにはまっている。
納得のいく作品です。

原題Absolute Power はすなわち「絶対権力」。
大統領のことですね。
この絶対権力に反抗する男の物語ってことだなあ。


1997/アメリカ/121分
監督:クリント・イーストウッド
原作;デビッド・バルダッシ
出演:クリント・イーストウッド、ジーン・ハックマン、エド・ハリス、ジュディ・デイビス、ローラ・リニー


「小暮写眞館」 宮部みゆき 

2010年07月13日 | 本(その他)
生きていくことは大変だけど、やっぱり生きていこうよ・・・

小暮写眞館 (100周年書き下ろし)
宮部 みゆき
講談社


              * * * * * * * *

ボリュームたっぷりのこの本。
宮部ファンとしては手に取っただけでわくわくしますね。

さてこの本、語り手は高校生花菱英一。
通称花ちゃん。
最近引っ越してきた家は、古い写真屋さん。
変わり者の両親は、この建物を壊して新しい家を建てることをせず、
スタジオがあったりするその写真館のままの建物に住むことにしたのです。
その写真屋の看板もそのままにしてあって、
だから「小暮写眞館」と、「眞」の字が旧字体なんですね。
今、文字を打って初めて気がつきました!!


そんなわけで、通りがかりの人はその写真館がまだ営業中だと勘違いしたりする。
そして、英一のところに、不思議な写真が舞い込むことになるのです。
この物語の前半は、こんな風に心霊写真まがいの不思議な写真を、
英一が解き明かしてゆくという心霊探偵(?)みたいな話なのですが、
しかしこれはほんの導入部。
英一には小学生の弟がいるのですが、実はその間にいた妹が幼いうちに亡くなっています。
家族皆は、この子を亡くしたことでそれぞれに深く傷ついているのですが、
それを口に出すことを避けてきたようなところがある。


英一の友人たち、弟、両親、親類たち。
そしてこの家を紹介してくれた不動産屋と、そこに勤める垣本順子。
プラス時折気配を感じさせる小暮老人!!
このような人たちとの交友を通したなかで、
亡き妹への封印された哀しみを再びよみがえらせ、昇華していく、
このような芯となるストーリーに
様々なエピソードが連なります。
最後の方は、ほとんどラブストーリーです。
しかも相当切ない。

読み進むうちに印象が変化していく、七色キャンディみたいな本だなあ。
・・・と、よく見たらこの本、
第一話、二話、三話、四話とはっきりくぎりがあるのでした。
ストーリーはしっかり時系列に並んで進行しているのですが、
つまりは章ごとのテーマがそれぞれにあるので、
印象が変わっていくのは当然ということでした!

さて、読み終えてから、改めてカバー表紙の写真を良く見ましょう。
ああ・・・! 
思わず感慨に浸ります。
これは物語の中で大変に意義のある写真なのです。
すばらしいですね。

結局生と死をじっくり見つめるストーリーなのだろうと思います。
今は亡き小暮老人の思い。
幼い妹の死がどんなにその後の家族の心に影を落としてきたのか。
生きていてさえも、その強い思いが写真にまで写り込んでしまう人々。
そして、生に背を向けようとする人。
様々な人々の思いの果てに今があって今の自分がある。
生きていてこそ、そのように感じられる今を
やっぱりいとおしく思う。

            * * * * * * * *

私はやはり垣本さんのストーリーが一番好きです。
その中でこんな話がありました。
自殺しようとした人がそうではないと言うのだったら、
周りの人も「自殺」と認めてはいけない、というのですね。
薬の量を間違えた、と言うのなら、その通りと認める。
走ってくる電車の正面を見てみたかった、というのなら、
もっと安全でじっくり正面から電車を見ることができるスポットを紹介してあげる
・・・というように。
辛辣でとげとげしいこの垣本さんのことを、何故か気になってしまう英一。
いいですねえ。
ストーリーのラスト付近では、すっかり"いい男"に成長した英一がいます。
友人たちがまた、コゲパン、テンコ、鉄道部の人たち・・・。
個性たっぷりで魅力的。
とにかく読み進むのが楽しく、
読み終わるのが惜しくなってしまう、そういう本なのでした。

満足度★★★★★★←ひとつオマケ