映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「流浪の月」凪良ゆう

2022年04月29日 | 本(その他)

多様性のこと

 

 

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あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。
わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。
それでも文、わたしはあなたのそばにいたい――。
再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、
運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める。
新しい人間関係への旅立ちを描き、
実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。

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読み終えてから気づきました。「創元文芸文庫」?!
創元推理文庫には散々お世話になっていますが、これはいつから・・・?
と思ったら本巻がその創刊第一号なんですね。
2022年2月に創刊されていました。
今後が期待されます!

 

さて本巻、2020年本屋大賞受賞作ですね。
結局文庫が出るまで待ってしまった・・・。

ちょっと、ヒヤヒヤさせられる作品です。

更紗の両親はかなり独特の夫婦で、子育ても自由気まま。
しかし、父が亡くなり、壊れた母はある日突然、
まだ小学生の彼女を置いて出ていってしまいます。
取り残された更紗は親戚の家に引き取られますが、
気ままに育った更紗はどうしてもなじめない。
そして、そこでまた耐えがたいイヤな体験もします。

家に帰るのがイヤで仕方のない更紗を拾ってくれたのが、大学生の文(ふみ)。
雨に濡れそぼった更紗を文はマンションに連れ帰り、
いつまでも好きなだけいていい、といいます。
その言葉に甘えて、そこでようやく「自由」に、穏やかな日々を送る更紗。

しかしこれは端から見れば、
「若い男が少女を誘拐監禁している」ということになってしまいます。
実際、更紗には行方不明者として捜索願が出されており、
ある日とうとう、二人で出かけた先で更紗は発見され、
文が誘拐犯として逮捕されてしまうのです。

そしてそれから15年が過ぎて、更紗と文がまた出会うようになる・・・。

 

 

そんなことをしたら、あんなことになってしまう・・・という
こちらの杞憂がいちいちその通りになってしまうという、
読むのになかなかしんどい物語です。

更紗は少女の頃、どこにも行き場がなく安心して寝られる場所もなかった。
そんな彼女をただ受け入れて優しく、したいようにさせてくれる、
そしてもちろん性的な怪しい行動はない文。
警察に保護され、そのことを言ったにもかかわらず、理解してもらえなかったのです。
監禁され、いたずらされて、
しかもストックホルム症候群で犯人に親しみを覚えてしまった、かわいそうな女の子。
警察も、関わる大人たちも、世間一般も、その考えに凝り固まっています。
・・・そうだろうなあ、私だって、そういう少女の話を聞いたらそう考えると思います。
世間一般の常識とか良識とかいうものがいかに危ういか。
私たちは時には立ち止まって考えなければなりませんね。

しかし実は文の方にも小児性愛などではない、問題があった。
このことが終盤明かされます。

個人個人の生き方や在りようには様々な形があって、
それはたとえマイノリティであっても尊重されるべきだし、
堂々と胸を張って生きればいい。
そういう物語です。

 

少し前にNHKでやっていた「恋せぬ二人」を思い出しました。
アロマンティックとか、アセクシュアルということ。
男女だからといって必ずしもセックスが必要ではない関係。
ドラマ中ではそれを「家族」と言っていました。

恋しなくても、ひとりぼっちである必要はない。
互いに寄り添い、ぬくもりを感じられる人と共にいるだけで
どれだけ慰められるでしょう。

本作では、更紗にも文にもエロス的恋愛ができないことにはそれぞれの要因がある訳ですが、
たとえそんなものがなくても、やはり生き方はそれぞれ。
多様性を受け入れたいものです。

「流浪の月」凪良ゆう 創元文芸文庫

満足度★★★★★

 


「きたきた捕物帖」宮部みゆき

2022年04月28日 | 本(ミステリ)

楽しみな新シリーズ

 

 

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著者が生涯書き続けたいと願う新シリーズ第一巻の文庫化。
北一と喜多次という「きたきた」コンビが力をあわせ事件を解決する捕物帖。

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宮部みゆきさんの時代ものは、すべてを読んでいるわけではないのですが、
なんだか故郷に帰り着いたような、
ごちそう続きの後に、お茶漬に出会ったような、
なんだかそんなホッとする感じがします。

 

そんな中で、本作、また新シリーズなんですね。
16歳、北一は岡っ引き・千吉親分の本業だった文庫売りで生計を立てていました。
ここで言う「文庫」というのは、本ではなくて、本や小物を入れる小箱のこと。
ところがその千吉親分が亡くなってしまい、
状況は変わりながらも、なんとか文庫売りを続けることができるようになりました。
そんな彼を何かと周囲の人が気遣います。

未亡人となった千吉親分のおかみさん。
この人は盲目ながら実に鋭い感覚を持って、いくつかの謎を解き明かします。

親分と親しかった差配さん、通称・富勘。

武家屋敷の雑用係みたいな新兵衛さん。

北一はもう岡っ引きの弟子でも何でもないのですが、
なぜかちょっとした事件の下調べのようなことを頼まれてしまいます。
そしていろいろな人の力を借りて、謎が解けていく。
もちろんこんないい人ばかりではなくて、意地悪な人、腹黒い人もいます。
それは今も昔も変わりません。

そんな中で、北一は同年代くらいの不思議な少年と出会います。
オンボロの風呂屋で釜焚きをしている喜多次。
彼は見た目の貧相さとは裏腹に、鋭い洞察力を持ち格闘術の心得もあるようで・・・。
北一を助けてくれる存在になっていきます。
というのが本作の第3話。
北一と喜多次の「きたきた」コンビが、ようやくここで初披露になるとは・・・!

喜多次のおいたちの謎は、今後明かされることになるでしょう。
息の長い物語になりそうです。

 

「きたきた捕物帖」宮部みゆき PHP文芸文庫

満足度★★★★☆

 


不能犯

2022年04月27日 | 映画(は行)

証明不能の殺人

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都会で連続する殺人事件。
その現場では必ず黒スーツの男が目撃されています。
「電話ボックスに殺人の依頼を書いた紙を貼ると、実行してくれる」
そんなウワサがSNSで流れています。
この連続殺人は、そんな都市伝説が現実となったものなのか・・・?
刑事の多田(沢尻えりか)と百々瀬(新田真剣佑)が
この事件の捜査に当たります。

これら、連続殺人らしき事件、
死因は病死や自殺など、「殺人」が立証できないものばかり。
それは犯人・宇相吹正(松坂桃李)が、
人の思い込みやマインドコントロールを利用してターゲットを殺害するから。

たとえば、犯人が被害者に強い自己暗示をかけて、
「この瓶の中にスズメバチがいる」と言います。
実は枯れ葉が入っているだけなのですが。
しかし被害者はその中に本当のスズメバチを見ており、
そのスズメバチが放たれるとたちまち襲われ、悲鳴を上げて苦しみ始めます。
実は、何も起こっていないのに。
しかしそれが現実と思い込んだ被害者は、
実際に顔が刺されたかのように腫れ上がっており、心臓マヒで死んでしまった。

こんな風に、実際にはなんの証拠もなく、
立証不可能な犯罪を「不能犯」と呼ぶわけです。

だから犯人はこれが犯罪として立証できるはずがないと思っており、
犯罪現場で平気で姿を現すし、あっさりと警察に連行されたりもする。
しかし事情聴取に当たった刑事が、またおかしな暗示をかけられてしまったりもして・・・。
非常にやっかいですね。

しかしこの殺人は犯人のサイコパス的理由から起こるのではなくて、
あくまでも依頼人が居るのです。
そんな中には確かに、憎しみを受ける対象が実際にどうにもならない悪党とか虐待者であったりする。
悪人だから殺されていいというわけではないけれど、
中には人助け的な意味があったりするのも、
ひねりがきいていて、面白いと思いました。

松坂桃李さんの、影を抱いた感じ、悪くありません。

<WOWOW視聴にて>

「不能犯」

2018年/日本/106分

監督:白石晃士

原作:宮月新

出演:松坂桃李、沢尻エリカ、新田真剣佑、間宮祥太朗、矢田亜希子、安田顕

不能犯度★★★★☆

サスペンス度★★★☆☆

満足度★★★.5


英雄の証明

2022年04月26日 | 映画(あ行)

証明不能。小細工はすべて裏目。

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イラン。

ラヒムは借金を返済できない罪で投獄され、服役しています。
あるとき、彼の婚約者が落とし物の金貨を拾います。
それを換金して借金を返せば、その日にでもラヒムは出所できるのです。
まさに神様からの贈り物と、ラヒムは思います。
けれど、罪悪感からやはり落とし主に返すことを決意。
やがて落とし主が現れ、無事金貨を返すことができました。

そしてそのささやかな善行がメディアに報じられると、
大きな反響を呼び、ラヒムは一躍ヒーロー扱いされるようになります。
しかし、ラヒムの行為の偽装疑惑がSNS上であっという間に広まり、状況は一転。
吃音症のラヒムの息子までを巻き込む騒動へ・・・。

さて拾ったお金を持ち主に返したいと思ったとき、
私たち日本人ならまず交番に持って行こうと思うのでは? 
でも、よその国に交番はないようです。
そもそも、拾ったお金を返すなんてお人好しの考え方自体が、
諸外国では特異なものなのでは? 
昨今は日本でもそうなりつつあるような気もしますが、
まだまだ良心的考えは多く生きていると思う・・・。
(思いたい?)

いえ、そういうテーマの作品ではないのですが、
交番でなくても警察に届けるくらいの発想があれば、
本作のような面倒なことにはならなかったのになあ・・・と思ったものですから。

というのは、ラヒムは貼り紙をして落とし主に声かけをしたのですね。
(このとき、ラヒムは「休暇」で、出獄中!)
だから果たして金貨を持ち帰ったのが本当の落とし主かどうかも怪しいところ。
そして、その時に、名前も住所も聞いていなかった!

実際に落とし主に金貨を受け渡したのはラヒムの姉と、ラヒムの息子。
この二人はラヒムの身内なので、実際に金貨の受け渡しがあったとする「証言」の
信憑性が薄いと思われてしまった。
すべてラヒムが売名行為で刑を逃れようとするインチキとの認識が広まってしまう・・・。
そしてラヒムが話を単純にしようと小細工したことがまた、
すべて裏目に出てしまいます。

善意で始まった些細な出来事が、SNSの力でねじ曲げられ増大されて、
人生の致命傷になってしまう・・・。
なんとも理不尽で苦い物語・・・。
世間の自分への評価に翻弄されるラヒムがお気の毒・・・。

 

<シアターキノにて>

「英雄の証明」

2021年/イラン・フランス/127分

監督・脚本:アスガー・ファルハディ

出演:アミール・ジャディディ、モーセン・タナバンデ、サハル・ゴルデュースト、
   マルヤム・シャータイ、アリレザ・ジャハンディデ

 

理不尽度★★★★★

満足度★★★.5

 


HOMESTAY(ホームステイ)

2022年04月25日 | 映画(は行)

第三者目線で、見てみれば・・・

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森絵都「カラフル」の実写映画化です。
確か、本は読んでいるのですが、例によって詳しくは覚えていないので、
十分に楽しみました。

死んで魂になったシロ。
“管理人”と名乗る謎の人物から、同じく死んでしまった高校生・小林真(長尾謙杜)の体に
“ホームステイ”するように言われます。

そして、真が死んだ理由を100日以内に突き止めるように、と。
それができなければ、真も、シロも、本当に死ぬことになるというのです。
戸惑いつつも、真として暮らし始めるシロ。
家族や幼なじみ、密かに憧れる先輩などと関わりながら、
シロは真の死の真相に近づいていきます。

とりあえず、真の死は自殺なのだろうということは容易に想像がつきます。
けれどそれだけではダメで、その理由を突き止めよ、という課題になっていきます。

実は私、当ブログの「カラフル」記事中で言っています。
「真が自殺に追い込まれた背景が、やや深みに欠ける感はあります」
あらやだ、本作を見てやはり同じように思ってしまった・・・。

真は、誰にも必要とされず孤独感に囚われた結果、自殺した
とまあ、いってみればそういうことだったのです。
でも、家族は確かにバラバラだけどネグレクトも虐待もなく、暮らし向きは豊か。
学校でいじめに遭っているわけでもない。
(少し嫌がらせを受けてはいたけれど)
ちょっと気になる美人の先輩もいて、その彼女から嫌われているようでもない。
そして何より、真のことをいつも気にかけている幼なじみの晶(あきら)がいる。
何でこれで、死にたくなるかなあ・・・。

結局、周りをよく見ず、きちんと人と向き合って話をしようともしない
自分のせいである、というのが答えなわけですが(うわ!思い切りネタバレしてる!)、
あまりにも自殺を図るには根拠が薄いなあ・・・と、思ってしまう次第。

ただし、煮詰まっている本人には、実はいい環境にいる自分が見えない。
まっさらで何も知らない第三者の目線で見ることが大切、というのは納得です。

 

<Amazon prime videoにて>

「HOMESTAY(ホームステイ)」

2022年/日本/112分

監督:瀬田なつき

原作:森絵都

出演:長尾謙都、山田杏奈、八木莉可子、望月歩、石田ひかり、佐々木蔵之介

 

青春度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


「新選組の料理人」門井慶喜

2022年04月23日 | 本(その他)

武士でも食べなくちゃね。

 

 

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戦に焼けた京の町で炊き出しをすることになった新選組、料理ができる者がいない。
滅法まずいその粥に文句をつけた菅沼鉢四郎は、
原田左之助の命により剣を握らぬ「賄方」として新選組に入隊することに。
菅沼は数々の難題に直面しながら、隊士の暮らしや愛憎、組織の矛盾を間近で目にしていく。
「まかない専門」隊士が炊事場から見た、新選組の暮らし、嫉妬、家族愛とは。
食べ、生き、戦い、やがて歴史の波間に消える新選組を新視点から描く。

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門井慶喜さんが描く新選組、というのに興味を持ちました。
ところが本作文庫の解説で「新選組颯爽録」が先に書かれているので
そちらを先に読んだ方が良い、とありました。
が~ん! 
でもまあ、実際は、こちらを先に読んでもなんの問題もありませんでした。

 

本作は、新選組の「賄い方」すなわち料理担当の
菅沼鉢四郎の視点から描かれています。
彼は剣術の腕などは全然ダメ、まさに料理だけが取り柄という男なので、
京の街の治安にも長州藩士の人斬りにも関係してしないのですが、
新選組の内部をよく知っています。

彼の直接の上司に当たるのが原田左之助で、彼のことも詳しく描かれます。
新選組がどんなことを考え、役目に当たっていたのか、生きていたのか、
そんなことが垣間見えます。

私が嬉しかったのは、終盤、渋沢篤太夫が登場したこと。
徳川慶喜に仕え、この度徳川昭武に同行しパリへ旅立つ寸前という所でした。
わ~い、お懐かしい。
会いたかったよ~、吉沢亮くん(違うっ!!) 
ここのところは2017年に書かれているので、
大河ドラマに影響されて出てきたわけではないですね。
著者の研究熱心なところがうかがえます。

五代さんもほんのちょっぴり登場。

新選組の物語は幕末期の様々な人物が現れてくるので、やはり面白い。
そして、隊員たちが滅びの道を歩むところがまた、
人々の心を捉えて放さないのでしょう。

 

「新選組の料理人」門井慶喜 光文社文庫

満足度★★★.5


裏ゾッキ

2022年04月22日 | 映画(あ行)

悲喜こもごものドキュメンタリー

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先に「ゾッキ」を見たわけですが、
こちらは、竹中直人さん、山田隆之さん、斎藤工さんがメガホンを取り、
大橋裕之さんの短編漫画を実写化した、その映画「ゾッキ」の
製作から公開までを追ったドキュメンタリーです。

そもそもは、愛知県蒲郡市の人々が映画誘致の活動を始めました。
それから8年後の2020年1月、ついに「ゾッキ」製作決定となったのです。
有志による誘致プロジェクトは、市も巻き込んで
市民総出で作品を全面バックアップする一大プロジェクトへ。

蒲郡市は原作者・大橋裕之さんの出身地。
監督もなじみの深い人気俳優。
出演者も豪華で、これで盛り上がらないわけがありません。

いわゆる撮影のメイキングシーンだけではなくて、
実現に向けて熱が上がっていくプロジェクトに関わる人々の
働きや言葉が収録されているところがミソです。

私が一番好きだった「伴くん」のエピソードの撮影風景が紹介されていましたが、
これがなかなか衝撃的。
冬のさなか、学生服の九条ジョーさんが雨に打たれてぬれそぼるシーン。
寒くて、冷たくて、九条さんは凍えて心折れそうになっていました。
それが一発でOKにはならずに何度も何度も・・・。
ちなみにこのエピソードの監督は斎藤工さんで、
この過酷なシーンをあえて設定を変えようともせず貫く。
鬼、鬼!!
俳優さんはこんな理不尽で過酷な撮影も耐えねばならない。
大変なお仕事ですね・・・。

それから、ほんの少しですがピエール瀧さんの出演シーンがあります。
本作が氏の復帰第一作なのだそうで。
だから見物の人混みに紛れて週刊誌の記者などがやってくるに違いない、
そう読んだスタッフは、厳重な警備体制を敷きます。

また、町でこの撮影が人気になりすぎて、見物人が多く集まるようになってしまった。
それで、撮影画面に見物人が映り込んでしまうことも多々。

色々とやっかいな問題も起こるものなんですね。

さてこれらの進行が2020年の2月くらい。
新型コロナウイルスがじわじわと感染拡大し始めた頃。
でもまだ人々はマスクをつけながらも普通に動いていました。
それで、無事クランクアップ。
よかった、よかった・・・。

ところが3月、第一回の緊急事態宣言がでます。
人々の動きはストップ。
映画館も休館するほどの・・・。
結局完成披露の会も延期して後日行うことに。
協賛してくれた様々な飲食店も経営が苦しくて大変そうです。
まさか、こんなところでプロジェクトの番狂わせがあるとは・・・。

というような悲喜こもごものドキュメンタリー。
むしろ本編より面白かったかも・・・。

ぜひ本編と合わせてご覧ください。

 

<WOWOW視聴にて>

「裏ゾッキ」

2021年/日本/116分

監督:篠原利恵

出演:竹中直人、山田孝之、斎藤工

 

町おこし度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


ゾッキ

2022年04月21日 | 映画(さ行)

チョッピリへんてこな日常

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大橋裕之さんのコミック初作品集「ゾッキA」、「ゾッキB」を実写映画化したもの。
愛知県蒲郡市を舞台として、複数のエピソードが混ざっています。
ごく普通のようでいて、チョッピリへんてこな人々がおりなす日常。
そして、彼らに訪れる少し不思議な奇跡。

チャリンコに寝袋だけをくくりつけて、あてのない旅に出た男(松田龍平)。
ちょっぴりステキなロードムービーを期待したけれど、
ほのぼののエピソードはありつつも、あっけなくも帰ってきたりする。

レンタルビデオのバイトをしている青年(鈴木福)は、
毎日毎日同じような日常を繰り返しているけれど、
ふと変わったことをしてみたくなり・・・。



一番印象的なエピソードは、牧田(森優作)と伴くん(九条ジョー)。
伴くんは牧田に姉がいると聞き、会ったこともないのに次第に彼女に恋い焦がれていきます。
ついには牧田に、
「姉ちゃんのパンティを5万円で売ってくれ」
と言ったりする。
しかし実は牧田に姉などいないのです。
居もしない人物に恋い焦がれるという、
このおかしな話の行き着く先がまた、常軌を逸していて・・・。
傑作です。

大橋裕之さんは、アニメ「音楽」の原作を書いた方でもありますね。
すごくユニークなこの本、読んでみたくなってしまいました。

ちなみに題名の「ゾッキ」は、書籍関係の業界用語。
新刊で販売された書籍が一定期間を経ても売れずに残った場合に、
出版社が定価の拘束を外すことができて、小売店側で自由に価格を設定できるのですね。
そんな、一度も読者の手に渡っていない新本で、
ワゴンセールなどにまわされるものをゾッキ本という、と。
著者が自身の本を自嘲的に「ゾッキ」と呼んだもののようです。

実にユニークな作品なのですが、実はその成り立ちがさらにユニーク。
と、その話は「裏ゾッキ」で。

 

<WOWOW視聴にて>

監督:竹中直人、山田孝之、斎藤工

原作:大橋裕之

脚本:倉持裕

出演:吉岡里帆、鈴木福、森優作、九条ジョー、松田龍平、竹原ピストル

 

ユニーク度★★★★★

日常逸脱度★★★★☆

満足度★★★.5

 


ナイトメア・アリー

2022年04月20日 | 映画(な行)

まさに悪夢の・・・

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1946年に出版されたノワール小説「ナイトメア・アリー 悪夢小路」を原作としています。
過去にも「悪魔の往く町」(1947)として映画化されたことがあるとのこと。

青年スタン(ブラッドリー・クーパー)は、故郷を後にして、
とあるカーニバルの一座と知り合います。
それは、人間か獣か、正体不明の生き物を出し物にする怪しげな見世物興行。
そこにしばらく居着いたスタンは、読心術の技を学びます。
そして、人を引きつけ天性の才能とカリスマ性を武器に、トップの興行師となっていきます。
やがて、上流階級の人々ともつながりをもつようになり・・・。

ここでいう読心術は、無論、実際にテレパシーの技が使えるわけではありません。
巧みに相手を観察し、助手との暗号的やりとりも加えて、
ズバリと相手の思いを言い当てる。
それが資産家相手となれば大金も絡むので、次第にそれは「詐欺」の様相を呈してきます。
スタンは自分の「言葉」によって次第に自分も縛られ、闇に沈んでいく・・・。

そもそも始めから純粋な好青年ではなかったのです、スタンは。
冒頭に、そんなことをほのめかすシーンもあって、
ちょっと油断ならない、謎めいた人物でもある訳ですね。
そして、女たらしでもあるヤバいヤツ。

また、このカーニバルもいかにも不気味ですね。
くも女、全身に電流を流す美女、母親を食い殺した胎児のホルマリン漬け・・・。
中でも、ギークという獣人は、いやこれ、本当は普通の人でしょう・・・?
と思えるのですが、興業時間外も檻に閉じ込められて獣と同じ扱いを受けているのです。
なんだか、イヤーな予感がしましたよ。はい。
そしたらやはり・・・。
闇落ちのラストにうまく繋がっていきます。

ここで見世物になっているのはいかにも作り物で、タネも仕掛けもあります。
それは明らか。
けれど、実はある種の人の心こそが、怪物めいて醜い・・・ということですね。

 

<シアターキノにて>

「ナイトメア・アリー」

2021年/アメリカ/150分

監督:ギレルモ・デル・トロ

出演:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、
   ウィレム・デフォー、リチャード・ジェンキンス、ルーニー・マーラ

 

心の闇度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


ジョーンの秘密

2022年04月19日 | 映画(さ行)

50年前の行為が露呈して・・・

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スパイ容疑で逮捕された80代女性の数奇な実話を元にした作品。

夫に先立たれ、イギリス郊外で穏やかな一人暮らしを送っていた
ジョーン・スタンリー(ジュディ・デンチ)。
ある日突然、MI5に逮捕されてしまいます。
半世紀以上前、ロシアのKGBに核開発の機密情報を漏洩した、というスパイ容疑です。
ジョーンは始めそのことを否定しながらも、
約50年前の若かりし頃の出来事を語り始めます。

彼女は、大学で物理学を学んでいました。
そして卒業後、英国の原子爆弾開発チームに加わることになるのです。
始めは、研究内容を理解する秘書的な役割だったのですが、
彼女の能力はチームの一員として十分に通じるものでした。

あらら、先日「太陽の子」を見たばかり。
意図して選んだわけではなかったのですが、ここでも出てきた原子爆弾の開発・・・。
やはり、遠心分離が必要不可欠らしい・・・。

ジョーンには恋人がいて、それがソ連出身のレオ(トム・ヒューズ)。
彼は共産主義の先導者でもあります。
ジョーンはそのシンパというわけではないけれど、
当時の学生たちの風潮と同じく、ちょっとした興味半分くらいの気持ちで、
集会などにも出席していたのでした。

でも、研究内容を他に漏らしてはならないという誓約書にサインもしたジョーンは、
かたくなにレオにはその話はしないことにしていたのです、始めのうちは。
ところが、アメリカが先に原爆を完成させて日本に投下。
その恐ろしい威力をジョーンは目の当たりにするのです。
そして彼女は思う。
今、ソ連もこの原爆についての情報を切実に欲している。
核兵器についての情報は、特定の国だけが持っているよりも、
各国で共有した方がいいのではないか?
その方が互いに牽制作用が働いて、核を使用することがなくなるのでは・・・?
レオに情報を渡せば確実にKGBへ内容が伝わることを承知で、
彼女は機密を渡してしまうのです・・・。

結局その行為は表沙汰になることがなく半世紀が経過。
それがなぜ今頃取り調べられることになったかと言えば、
当時レオとともに関わりのあった人物、現在は外務次官のW・ミッチェル卿が亡くなり、
そのため見つかった資料からジョーンのことが発覚したというわけ・・・。
まあ、彼女がその時機密を漏らさなくても、
必ずどこかから漏れるか、もしくはソ連独自の研究が実って、
ソ連も核兵器を持つことになっただろうとは思いますが。
でも実際にこんな情報漏洩があったというのは恐ろしいことではあります・・・。

いくら世界の未来を考えたといっても、
個人の考え一つでこんなことをしてしまうというのは
軽はずみとしかいいようがないかも・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「ジョーンの秘密」

2018年/イギリス/101分

監督:トレバー・ナン

原作:ジェルー・ルーニー

出演:ジュディ・デンチ、スティーブン・キャンベル・ムーア、ソフィー・クックソン、トム・ヒューズ、ベン・マイルズ

歴史発掘度★★★★★

満足度★★★.5

 


「童の神」今村翔吾

2022年04月17日 | 本(その他)

辺境の、差別される一族

 

 

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「世を、人の心を変えるのだ」「人をあきらめない。それが我々の戦いだ」
――平安時代「童」と呼ばれる者たちがいた。
彼らは鬼、土蜘蛛……などの恐ろしげな名で呼ばれ、京人から蔑まれていた。
一方、安倍晴明が空前絶後の凶事と断じた日食の最中に、
越後で生まれた桜暁丸は、父と故郷を奪った京人に復讐を誓っていた。
そして遂に桜暁丸は、童たちと共に朝廷軍に決死の戦いを挑むが――。
差別なき世を熱望し、散っていった者たちへの、祈りの詩。

第10回角川春樹小説賞(選考委員 北方謙三、今野敏、角川春樹 大激賞)受賞作にして、
第160回直木賞候補作。

* * * * * * * * * * * *

 

今村翔吾さんは「塞王の楯」で第166回直木賞を受賞していますが、
本作はそれ以前の作品です。

平安時代。
ここで言う「童」とは。
元からその地に住まう者、あるいは貧しい者。
京の人々が驕り、蔑みの対象とした人々。
夷(えびす)、滝夜叉、土蜘蛛、鬼、犬神、夜雀など、
侮辱した呼び名で呼ばれている者たち。
そんな中の1人、桜暁丸(おうぎまる)は、父親も故郷も京人に奪われ、復讐を誓っていました。
力をつけ、各地の「童」たちと手を結び、攻撃してくる朝廷の軍と戦う。
その闘いは、一度や二度ではなく、各地で散発的に数十年にも及びます。

やがて、桜暁丸は人々から酒呑童子と呼ばれるようになる。
対する朝廷軍の面々として、源頼光、渡辺綱、坂田金時など・・・。
歴史伝承などに疎い私はそこでようやく気づいたのです。
つまりこれは、源頼光が鬼を退治したという、
あの伝説を「鬼」側から描いたものがたりだったのか、と。
鈍すぎて、ゴメンナサイ!ですね。

それにしても、「鬼」というのが、
京の人々から辺境の野蛮な一族と蔑まれていた人々を指している
という設定が秀逸な物語です。

本作中の桜暁丸は、どうやら母が、どこから流れ着いたのか金髪碧眼の美女だったらしく、
彼自身も茶髪で緑がかった目をしていて、人々から忌み嫌われていたようなのです。
今ならイケメンでモテまくりだと思いますが。

同じ人間なのに、どうして差別され、忌み嫌われるのか。
せめて皆が等しく暮らせる世の中ならいいのに・・・というのが彼の望み。

そして戦で何度も顔を合わせることになる坂田金時やその息子、渡辺綱なども
実に勇猛果敢に描かれていて、双方に不思議な連帯感のようなものも芽生えていきます。
ただし、互いの立場は動かすことができないので、敵同士というのは変わらないのですが。

もしかして、こんな風に都の「権威」と闘い敗れて、
歴史に埋もれてきた者たちが多くいたのかも知れない・・・。
そんな風に思いを巡らしてしまう一作です。

 

図書館蔵書(単行本)にて

「童の神」今村翔吾 角川春樹事務所

満足度★★★★☆

 


ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償

2022年04月16日 | 映画(や行)

ブラックパンサー党のユダ

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1960年代後半~70年代、アメリカで急進的な黒人解放運動を展開した政治組織
ブラックパンサー党の指導者、フレッド・ハンプトンが暗殺されるまでの実話を元にした作品です。

窃盗犯のウィリアム・オニール(ラキース・スタンフィールド)は、
刑を猶予する代わりにFBIの情報提供者にならないかと、話を持ちかけられます。
その話に応じて、ブラックパンサー党のイリノイ支部に潜入したオニール。
FBIは、革命を提唱する党の指導者フレッド・ハンプトン(ダニエル・カルーヤ)を
危険因子とみなしているのです。
オニールはブラックパンサー党とFBIの間を巧みに立ち回りますが、
次第に心の内に葛藤が芽生えてきます・・・。

アメリカの公民権運動が静まったころでしょうか。
しかしそれでもほとんど変わらない黒人差別に業を煮やしたのかも知れませんね。
資本家に対して武力を行使しても、自分たちの生活を向上させようと目指すブラックパンサー党。
言っていることは確かに過激なのですが、
貧困層の児童に食事を給したり、治療費が無料の病院を建てたり、
白人の貧困層組織と共闘したり、
見るべき所のある活動もしています。

オニールは特別な思想があったわけではないのですが、
党の一員として過ごすうちに、その思想に共感し、
また、党のメンバーとも気心が知れていくうちに、
情報をFBIに流すことにためらいを覚えるようになっていきます。
中でも皆のリーダーであるハンプトンの思想・指導力・行動力に
傾倒していくのは当然のことにも思えます。

そして、もう密告は止めたいと思うようになるのですが、
恐ろしいのは対するFBIの方。
やめるなら服役してもらう、というのはまあ当然だとして、
しまいには「仲間にバラす」と脅しをかけてきます。
以前、内通者がバレて拷問の末殺されていたのです。
ところが実はそれはFBIがしかけたフェイクの内通者。
本物の内通者は無事で、全く無関係の男が殺されてしまった・・・
というのがまた、余計に恐い。

 

そんなことで、尊敬し大切に思っている人物を裏切り、
結果として死にまで至らしめてしまったという
「ユダ」と同様の役割をオニールは担ってしまうわけですね。
苦いです・・・。

 

それにしても、FBIのやり口の汚さよ・・・。
時の権力は、どこの国でも、国の内外でも、
イヤラシイやり方で自己保身しようとするものですね・・・。

<WOWOW視聴にて>

「ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償」

2021年/アメリカ/125分

監督:シャカ・キング

出演:ダニエル・カルーヤ、ラキース・スタンフィールド、ジェシー・プレモンス、ドミニク・フィッシュバック

 

緊迫感★★★★☆

裏切り度★★★★★

満足度★★★.5

 


ぶあいそうな手紙

2022年04月15日 | 映画(は行)

老いて一人暮らしも良し

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ブラジル南部、ポルトアレグレ。

隣国ウルグアイからブラジルにやって来て46年になる78歳エルネスト。
妻は先に亡くなり、一人息子は今はサンパウロで仕事をしていて、一人暮らし。
最近目がよく見えなくなってきていて、
心配した息子は、サンパウロで一緒に暮らそうと言っているのですが、
エルネストにその気はありません。



そんな彼の元に一通の手紙が届きます。
それはウルグアイ時代の友人の妻からのもの。
ところが、エルネストは目が悪くてそれを読むことができません。
たまたま知り合ったブラジル娘・ビアに読んでもらいます。

エルネストの親しかった友人が亡くなり、今は一人寂しく暮らしているという、
友人の妻からの手紙でした。
3人はとても親しくしていて、実はエルネストも彼女のことを好きでもあったのです。
この手紙がきっかけで、二人は手紙のやりとりをするようになります。
そして、手紙の代読と返事の代筆のために、ビアはエルネストの部屋を出入りするように。
ところがビアはあまり良い暮らしをしておらず、エルネストのお金を盗んだりします。
それに気がつきながらも、ビアを家に置くようになったエルネスト。

これは恋心というよりも、彼女といるとなんだか生きることが楽しく感じられるからでしょう。
若くて、率直で、感性豊か。
エルネストの灰色の毎日が色づくようです。

老いて一人暮らしになったときの孤独や所在なさ。
他人ごとではないなあ・・・。
そんな時、そばに寄り添う人がいるといいと思うけれど、
それは不自由な体で不便だから、という理由になってしまってはダメ。
そこが難しいところなのであります。

エルネストは目がかなり不自由だけれど、頭はしっかりしていて、体も元気。
カッコイイぞ。
とりあえずさしあたってこんな風に元気で年をとりたいものです・・・。
ロマンスはなくてもよし。

<WOWOW視聴にて>

「ぶあいそうな手紙」

2019年/ブラジル/123分

監督:アナ・ルイーザ・アゼベート

出演:ホルヘ・ボラーニ、ガブリエラ・ポエステル、ジュリオ・アンドラーヂ、ホルヘ・デリア

 

老いを考える度★★★★☆

満足度★★★.5

 


再会の夏

2022年04月14日 | 映画(さ行)

戦争の英雄が起こした事件とは

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1919年。
第一次世界大戦が終え、平和が訪れたフランスの片田舎。
戦争の英雄であるはずのジャック・モルラックが事件を起こし、
ひと気のない留置場に留め置かれていますが、かたくなに黙秘を続けています。
彼を軍法会議にかけるか否かを決めるため、
パリから来た軍判事、ランティエ少佐が聴取を開始します。
そして、留置所の外で吠え続けている一匹の犬のことが気になります。
それはモルラックの飼い犬で、彼が留置所に入ってからずっと何日もそこを動かず、
吠え続けているというのです。

ランティエ少佐は、以前モルラックと付き合っていたという女性・ヴァランティーヌの元を訪ねますが、
はかばかしい回答を得られません。
モルラックはどうして事件を起こしたのか・・・?

本作、具体的にモルラックがどんな事件を起こしたのかは、
最後に明かされるという、ちょっとひねった作りをしています。
でもそれは殺人とか、それほど生臭い犯罪ではありませんので、ご安心を。
けれど、モルラックが体験した戦争での出来事のほうがよほど悲惨で残酷なのです。
そしてそれは彼一人が味わったものではない。
戦場に駆り出された兵士なら誰もが体験したこと・・・。

モルラックは農家の生まれで、さしたる教養もない、ごく平凡な男。
国の方針のままに徴兵されたのです。
そのとき、モルラックの恋人が飼っていた犬が付いてきてしまったのですが、
当時、犬を引き連れた従軍もなくはなかったようで・・・。
膠着状態となった戦況の中、モルラックはフランス軍と友軍の
ロシア軍の兵士たちとも交友ができます。
そしてなんと敵方のブルガリア兵たちとも。

そんな時、ロシア革命が起きて、盛り上がるロシア兵たち。
共に喜ぶモルラック。
別に特別な「思想」を学んだわけではないのですが、
そんな中で彼の中に支配者と被支配者の断絶のようなものを
感じ取っていったようでもあります。

そしてまた、そんな時に起こってしまった大きな悲劇。
それは彼が連れていた犬のせいで起きたのでしたが・・・。

 

けれど結局の所、モルラックが革命記念日にその「事件」を起こしたのは、
そうした「思想」のためではなく、恋人に裏切られたと思った「心」のためだった・・・
という結論は、ホッとするような、残念なような、
何やらモヤモヤしてしまうのですが、まあ、人の心というのはそうしたものなのかも知れません。

小さなことだけれど、真剣に真相を突き止めようとする軍判事さんがステキでした。

<Amazon prime videoにて>

「再会の夏」

2018年/フランス・ベルギー/83分

監督:ジャン・ベッケル

原作:ジャン・クリストフ・リュファン

出演:フランソワ・クリュゼ、ニコラ・デュボシェル、ソフィー・ベルベーク、
   ジャン・カンタン・シャトラン、パトリック・デカン

 

満足度★★★★☆

 


コーダ あいのうた

2022年04月13日 | 映画(か行)

聞こえない家族へ向けて、歌う

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この度のアカデミー作品賞に輝いた作品です。

本作は、2014年フランス作品「エール!」のリメイクなのです。
私、そちらを見て、いたく感動した記憶があって、
なんでわざわざリメイクしなければならないのか・・・と思うと同時に、
リメイクでもアカデミー賞作品賞ってアリ?と思ってしまった。

しかしまあ、見るとまた感動に包まれて、
わかりやすくてラストは多幸感たっぷり。
マスクがしっとり湿ってしまいましたし・・・。
そんなわけで「ドライブ・マイ・カー」が敗れたのは仕方ないのかな・・・
と思ったりもします。
まあ、アカデミー賞に何を求めるのか、人ぞれぞれですもんねえ・・・。
近年、多様性のテーマが重視されているので、そういう意味でもこっちが有利だったのか・・・。

 

とある港町。
高校生ルビー(エミリア・ジョーンズ)は両親と兄との4人暮らし。
ところが、ルビー以外の3人はみな聴覚障害があって、
耳が聞こえるのはルビーただ一人。
そのため、幼い頃から家族の耳となり、家業の漁業も手伝います。

ルビーは歌うことが好きで合唱クラブに入部するのですが、
その才能に気づいた顧問の先生が、都会の名門音楽大学の受験を強く勧めます。
しかし、ルビーの歌声を聞くことができない両親は、娘の才能を信じられず、
またルビーがいないと家業もうまく回らなくなってしまうことから、進学には反対します。
家族が困ってしまうことを知りながら、自分の夢を貫き通すことはできないと、
ルビーは進学を諦めますが・・・。

耳の聞こえない家族の中にあって、歌の才能を持つというのはなんとも皮肉で、
家族が歌うことに夢を見出す娘を後押ししようという気にならないのも、無理はないですね。
でも、娘を愛する気持ちはたっぷりあるので、
やがて娘によりそい、応援するようになっていきます。

合唱部のコンサートのシーンで、映画ではしばし無音の場面を作ります。
ステージで歌うルビー。
でも私たちはルビーの家族同様、その歌声を聞くことができません。
けれども、周囲の客席を見渡せば、
うっとりする人、かすかにリズムをとる人、涙を流す人もいます。
ルビーの歌が、人々の心を動かしている。
そのことがまた彼ら家族の心をも動かすのです。
ステキなシーンですね。
もちろん、フランスの原版にも同様のシーンがあります。

本作の家族を演じたのは実際に聴覚障害のある俳優さんたち。
お父さんのスラングの手話がなんともイカす!

コーダ(CODA)とは、Children of Deaf Adultsの略で、
耳の聞こえない両親に育てられた子どものことを指します。

こういう子は、自ずと家族の耳の役割を担うことになってしまうので、
早くから大人びてしまいます。
そして両親の言葉がはっきりしていないので、
よほど意識して訓練しないと、言葉の発音が不明瞭になりがち。
本作中でも、ルビーは学校に入ってから周囲に「言葉が変だ」といわれたようです。
だからルビーは自分一人で歌うのは好きなのですが、
人前で歌うことには抵抗を持ってもいたのです。

私、コーダの様々な問題は、丸山正樹さんの小説「デフ・ヴォイス」のシリーズで知りました。
こちらの本もオススメですよ。

 

フランス版はこちら→「エール!」

 

<シアターキノにて>

「コーダ あいのうた」

2021年/アメリカ・フランス・カナダ/112分

監督・脚本:シアン・ヘダー

出演:エミリア・ジョーンズ、トロイ・コッツアー、マーリー・マトリン、
   ダニエル・デュラント、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、エウヘニオ・デルベス

 

家族愛度★★★★☆

歌唱力★★★★★

満足度★★★★★