映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

Vision

2019年07月31日 | 映画(は行)

再生への祈り

* * * * * * * * * *


河瀬直美監督の生まれ故郷、奈良県でオールロケをしたという、
フランスと共同の異色作。



フランス人エッセイストで世界をめぐり紀行文を書いているジャンヌ(ジュリエット・ビノシュ)。
彼女は、“ビジョン”という薬草を探し求め、奈良、吉野の山を訪れます。
そこで彼女は山守の男・智(永瀬正敏)と出会う。
実は、山に暮らすアキ(夏木マリ)という老女が
その日、智にこの出会いを予言していたのでした。



1000年に一度姿を見せる幻の植物、ビジョン。
アキはジャンヌに問われても、ビジョンなど知らないというのですが、
どうも知っていそうな気配。

そしてある日突然、アキは姿を消してしまいます・・・。

山の静寂をそのまま写したような、静かな作品です。
時折現実の中に重なり合う男(森山未來)の幻影。
一体これは誰なのか、作中に説明はありません。
1000年に一度胞子を散らし、生き返りを図るビジョン。
そのように人の命も営みも、繰り返して行く。
死は消滅ではなく、新たな命を生み出すもの。



森のなかで静かに踊る夏木マリと森山未来の姿。
これこそが死を目前にした、去りゆくもののダンスなのではないかと思いました。
再生への祈りを込めたダンス。



私がぼんやり見ていたせいかもしれませんが、
結局の所、何がどうなって、誰と誰がどんなつながりにあったのかがよくわからない・・・。
でも謎は謎のまま、時の流れの中で繰り返されていく命と因果・・・。
そういうことが汲み取れればいいのかな・・・?と。
雰囲気のある作品です。

Vision (通常版)[DVD]
ジュリエット・ビノシュ,永瀬正敏
バップ

<WOWOW視聴にて>
「Vision」
2018年/日本・フランス/110分
監督・脚本:河瀨直美
出演:ジュリエット・ビノシュ、永瀬正敏、岩田剛典、美波、
森山未來、夏木マリ
森のなかでの迷子度★★★★★
満足度★★★★☆

 


アマンダと僕

2019年07月29日 | 映画(あ行)

守るべき人がそばにいると、強くなれる

* * * * * * * * * *


パリに暮らす24歳ダヴィッド(バンサン・ラコスト)は、
テロ事件により姉サンドリーヌ(オフェリア・コルブ)を亡くします。
サンドリーヌには娘アマンダ(イゾール・ミュルトリエ)がいて、
当面ダヴィッドがアマンダの面倒を見ることに。
ダヴィッドは姉を失った悲しみとともに、少女の親代わりという重荷を負うことになりますが・・・。

テロによる無差別殺人が、特異な事件ともいえなくなってしまっている昨今ですが、
こうして一人の犠牲者に焦点を当て、
その家族たちの物語を紡ぐことには意義があると思いました。



サンドリーヌとダヴィッドの姉弟は、幼い頃に両親が離婚して母が出ていき、
父子家庭で育ちました。
その父親も今は亡く、二人だけの身寄りということで
通常の姉弟よりも近い関係にあります。
その姉の突然の死。
ダヴィッドは24歳で立派な成人とはいえ、
まだいくつかの仕事を掛け持ちしてやっと生活を支えているという状態。
母を亡くしたアマンダを見るのも十分に不憫ですが、
親しい姉を亡くし、アマンダの学校の送り迎えなどに忙殺され
悲しむ余裕もないというダヴィッドの状況にもまた、切なさがこみ上げます。
父親の代わりになんかなれないと、友人の前でついに本心を吐露し、
泣き崩れてしまうダヴィッド。
アマンダを施設へ預けることに気持ちは傾いていきます。



そしてもうひとり重要な登場人物は、
同じ事件に巻き込まれて傷を負うも命はとりとめたレナ(ステイシー・マーティン)。
ダヴィッドの恋人です。

命が助かれば良いというものではないのですね。
彼女はすっかり心が萎えてしまい、少しの物音でもその時の恐怖が蘇ります。
ピアノの教師をしようにも、腕が動かない。
そんな彼女は、ダヴィッドを支えることなんかできないといって、
故郷の実家に帰ってしまいます。
ますます孤独を深めるダヴィッド。

このような悲しみの底からダヴィッドが立ち上がるのは
少しの時の流れと、やはりアマンダのおかげなのかもしれません。
アマンダはもちろん母を失い沈んだ心を隠せませんが、
それでもやはり、子供は生きる力を秘めているものですね。
毎日を健気に過ごすアマンダとともにいることで、
ひたすらダヴィッドを慕う彼女をなんとか守り通さなければ・・・
という気持ちがダヴィッドに芽生えてきます。
守る人がそばにいる方が、人は強くなれる。
そういうことです。

余談ですが、「エルビスは建物を出た」。
作中でこんな言い回しが何度か出てきます。
それはエルビス・プレスリー人気絶頂の頃、
ファンたちがまだエルビスを見られるかもしれないと、
コンサートが終わっても残っているのを見て、
警備員が「エルビスは建物を出た」と言ったそうな。
つまり、もう待っても無駄、おしまいだ、ということ。
それで英語の言い回しとして「エルビスは建物を出た」というのが
「もうお終いだ」という意味を表すことになったのだそうです。
この言葉が終盤でものすごく効果的に使われるんですよ。
ステキです。

<シアターキノにて>
「アマンダと僕」
2018年/フランス/107分
監督:ミカエル・アース
出演:バンサン・ラコスト、イゾール・ミュルトリエ、ステイシー・マーティン、オフェリア・コルブ、マリアンヌ・バスレール

喪失感度★★★★☆
満足度★★★★★


「あい 永遠に在り」髙田郁

2019年07月28日 | 本(その他)

夫を支え抜く妻

あい―永遠に在り (時代小説文庫)
高田 郁
角川春樹事務所

* * * * * * * * * *


上総の貧しい農村に生まれたあいは、糸紡ぎの上手な愛らしい少女だった。
十八歳になったあいは、運命の糸に導かれるようにして、ひとりの男と結ばれる。
男の名は、関寛斎。
苦労の末に医師となった寛斎は、戊辰戦争で多くの命を救い、栄達を約束される。
しかし、彼は立身出世には目もくれず、患者の為に医療の堤となって生きたいと願う。
あいはそんな夫を誰よりもよく理解し、寄り添い、支え抜く。
やがて二人は一大決心のもと北海道開拓の道へと踏み出すが…。
幕末から明治へと激動の時代を生きた夫婦の生涯を通じて、
愛すること、生きることの意味を問う感動の物語。

* * * * * * * * * *

北海道にもゆかりのある方の話ということで手に取りました。
実のところ、私はこれまで知らなかたのですが、医師・関寛斎。
上総の貧しい農村の生まれ。
実在の人物で、司馬遼太郎氏などによるこの方の物語もあるのですが、
本作はその妻、あいの視点で描かれています。


あいもまた同郷の貧しい農村の生まれ。
寛斎とは幼なじみということになりますが、
当時のことですから実際に話しをしたこともほとんどなく、
しかし双方年ごろになるとトントンと話は進み結婚。


さて、それにしてもこの関寛斎。
かなりといいますか「超」高潔。
立身出世など目もくれず、貧しい人から治療費は取らないなど、
あくまでも患者のための医師であろうとする。
あいはひたすらそんな夫を敬い、付き従います。
今からするとちょっと歯がゆいくらいですけれど・・・。


艱難辛苦を経ながらも、寛斎は徳島の地で
地元の人々に敬われ比較的豊かで落ち着いた生活を得ます。
しかし、そろそろ引退かという70歳を超えてから、北海道開拓を決意。
しかも行き先は道東、陸別。
陸別といえば北海道でも最も寒いと言われる場所。
ひゃー、よせばいいのに・・・と、つくづく私は思ってしまいます。
しかし、あいは夫の決意を尊重し、むしろ喜び勇んで同行。
でも、実際には陸別の方の準備が整わず、
あいは札幌の滞在地にてその一生を閉じます。
陸別の地を夫とともに開墾することを夢見ながら。
でも、私は陸別まで行かなかったことがむしろ幸いに思えてしまう。
実際、その後寛斎は息子らと共に開拓に励みますが、その労苦たるや・・・。
本編はその具体的なところまでは触れていませんけれど。


あいは生涯十人以上の子を生み、その半数近くを子供の頃か、
あるいは若くして亡くしてしまいます。
出産と育児の繰り返し、夫に従いながら・・・まさに、妻の鏡。
けれど精一杯生きたという満足感に包まれて彼女は旅立ったのでしょうね。
今はこういう生き方に価値を重くは置かなくなってしまっているけれど、
多くの女たちがこうして生きてきたことも事実。
彼女たちが今のフェミニズムをどう見るのか、知りたい気もします。

「あい 永遠に在り」髙田郁 時代小説文庫
満足度★★★★☆


「肉弾」河崎秋子 

2019年07月27日 | 本(その他)

こ、怖いんですけど・・・

肉弾
河崎 秋子
KADOKAWA

* * * * * * * * * *

北海道のカルデラ地帯で孤立した青年が熊や野犬と戦い、人間の生きる本能を覚醒させてゆく―。
圧倒的なスケールで描く肉体と魂の成長物語。

* * * * * * * * * *


「颶風の王」で鮮やかに人と野生動物の生き様を描き出した著者。
ということで見ると、本作、やはりそのテーマが受け継がれたと言っていいでしょう。
ただし、こちらのほうがもっと強烈です。
登場するのは大学を休学中のニートである貴美也。
その父親である豪放でワンマンな男。
貴美也はその父親を嫌いぬいているのに、
結局その庇護から逃れようともしないでいるのです。
ある時、父親の強引の誘いで北海道での狩猟に連れ出される。
父子で分け入ったカルデラ地帯の森で、凶暴な熊と遭遇。
あっけなく父は熊の餌食となるも、貴美也は辛くもその場は逃げ出すことに成功。
ただしその後はたった一人で生き抜かなければならない・・・。

ここには他に、数匹の犬たちも登場します。
人に捨てられ、この大自然の中でいつしか協力しあい
群れをなして生きるようになった犬たち。
彼らにとっては人も敵ですが、貴美也の死に物狂いの反撃により、
貴美也は彼らの群れのボスとして認められるようになるのです。
人の営みの中で生きていた犬たちが、またその人の勝手な行動により捨てられて、
自分たちだけで生きていく他なくなる。
でも、それは本来の生き物の姿。
しかし貴美也もまた、学校や父親という人間関係の中で生きられなくなっており、
この極限状況に至って自分の力で立つしかなくなってしまうわけです。
まさに、命をかけて。
人という動物の本来持っているはずの「生きる力」を取り戻す貴美也。


強く凛として、残酷だけれど美しく、そして悲しい。
そんな自然の生き物の姿がくっきりと浮かび上がります。
圧倒的な物語でした。
それにしても、やっぱりちょっと怖すぎでしたけど・・・。


図書館蔵書にて
「肉弾」河崎秋子 角川書店
満足度★★★★☆

 


ライオンは今夜死ぬ

2019年07月26日 | 映画(ら行)

70~80歳が人生最良のとき

* * * * * * * * * *


周防敦彦監督によるフランスが舞台の作品という異色作。


老齢の俳優ジャン(ジャン・ピエール・レオ)は、
映画のロケのために南フランスに来ています。
しかし、ある事情で撮影がしばらく休止となってしまったため、
近くのかつて愛した人のいた屋敷を訪ねることにしました。
屋敷は住む者もおらず荒れ果てていましたが、
ジャンはそこで若くして亡くなったはずの、若き元の妻と出会うのです。
また、近所の子どもたちがこの屋敷で映画の撮影をさせてほしいと、やって来ます。
子どもたちに協力して出演まですることになったジャンですが・・・。

老人の昔日の思いを綴る陰鬱な作品・・・?と思ったら、
子どもたちの登場で作品は一気に色づきます。
社会の生産活動から外れた子供と老人は、ウマが合うことになっているのです。
この取り合わせがなんともいいですよねえ。

「70~80歳が人生最良のときだ」というジャンはまた、
「死」は「出会い」であるとも言います。
最も「死」に近い彼だから、亡き妻とも出会えたのでしょうか。
妻は亡き人ではありますが、幽霊の怖さは全然ありません。



そしてまた、本作ではその「死」とは最も遠い子どもたちを配置してあります。
ジャンに比べると、なんと生命力に満ちて多くの未来を内包していることか。
なんだか眩しいくらいです。

でも、そんな中で父親の死を体験した一人の少年とジャンは、
いっとき心がつながるところがあるのです。
死という運命を、少年は見たような気がする。
それがあのライオンだったのかどうか・・・、
解釈は私たち一人ひとりに委ねられます。
あるいは、少年の亡き父親かもしれないし、
またあるいは、死に一番近いけれど恐れずに進んでいこうとする老人の姿なのかもしれない。
私には、ナルニア国の「アスラン」のようにも見えました・・・。

ユニークな作品だったな。

ライオンは今夜死ぬ [DVD]
ジャン=ピエール・レオー,ポーリーヌ・エチエンヌ,イザベル・ヴェンガルテン,アルチュール・アラリ
紀伊國屋書店

<WOWOW視聴にて>
「ライオンは今夜死ぬ」
2017年/フランス・日本/103分
監督・脚本:周防敦彦
出演:ジャン=ピエール・レオ、ポーリーヌ・エチェンヌ、モード・ワイラー、アルチュール・アラリ、イザベル・ベンガルテン

死を考える度★★★★☆
満足度★★★★☆


さらば愛しきアウトロー

2019年07月25日 | 映画(さ行)

さらば愛しきロバート・レッドフォード

* * * * * * * * * *

ロバート・レッドフォードが俳優引退宣言をしたという作品。
1980年代初頭~アメリカ各地で銀行強盗をし、
逮捕・脱獄を繰り返した実在の人物フォレスト・タッカーをモデルとしたストーリー。

刑事ジョン・ハント(ケイシー・アフレック)は、
たまたま私用で訪れた銀行で銀行強盗事件に遭遇するのですが、
なんと強盗がまんまと現金を手にして銀行から逃げ去るまで、
そのことに気づかなかったのです。
悔しい思いをしたジョンはその事件の捜査を進めるうちに、
同様の事件が各地で数十箇所も起こっていることに気が付きます。
一つ一つは小さな事件なので、新聞などに取り上げられることも少なく、
その全体像に気づく人が他にいなかったのです。

その強盗フォレスト・タッカー(ロバート・レッドフォード)は、
銃口を行員に突きつけながらも、発砲はなし。暴力もなし。
物腰が柔らかで紳士的。
「幸せそうに見えた」などという証言も。
ジョンはこの犯人を追いながらも、
次第に友情に似た親近感を覚えるようになっていきます・・・。

本ストーリー上はひたすら強盗を繰り返すことが主眼となっているのですが、
終盤で明かされるフォレストのもう一つの驚くべき過去、
これにも唸らされてしまいます。
こんな生活で、あそこまで「紳士的」な振る舞いができるというのが、やはりすごい!



しかしなんというかもう、ここまで来るとビョーキとしか言いようがないのかもしれません。
その息づまる緊張感、スリル、そして成し遂げた時の達成感。
そうしたものが麻薬のように彼を虜にしてしまったに違いありません。
だから平穏な生活の中では生きられないのです。
だとすると悲劇のようでもあり、
しかし本人がそれで「幸せそう」に見えたのであればやはり幸福なのでしょう。



それだから私は思うのです。
ロバート・レッドフォード氏が本作で「引退」を宣言したとしても、
彼は映画づくりという緊張感のない生活には馴染めないのではないか。
いつかまた「やっぱりやめるのや~めた」と言って戻ってきても、私は歓迎します。


まあそれにしても、若き日のロバート・レッドフォードを知っていれば
今の彼の姿には若干ため息を付きたくなってしまうのは事実。
このへんで線引をするのは英断ではありますが、
それでもなお、だからこそできる役もあるわけで、
引き続き頑張ってみるというのも貴重な決断だと思う次第。
今回の宣言にこだわらず、やってみたい作品があればやってみればよいのでは・・・?


<シアターキノにて>
「さらば愛しきアウトロー」
2018年/アメリカ/93分
監督:デビッド・ロウリー
出演:ロバート・レッドフォード、ケイシー・アフレック、ダニー・グローバー、チカ・サンプター、トム・ウェイツ、シシー・スペイセク

ロバート・レッドフォードの魅力度★★★★☆
満足度★★★.5


「佐武と市捕物控 江戸暮らしの巻」石ノ森章太郎

2019年07月23日 | コミックス

石ノ森章太郎氏の真骨頂

佐武と市捕物控 江戸暮しの巻 (ちくま文庫)
石ノ森 章太郎
筑摩書房

* * * * * * * * * *

若き下っ引き佐武、盲目で剣の達人の市。
その二人が解決する江戸の難事件。
斬新な筆致と胸を打つドラマ。
マンガ史上に輝く最高傑作シリーズ。
江戸の風物を背景に、人々のこころの闇と生きる哀しさを描いた作品群を
セレクトした文庫オリジナル・アンソロジー。

* * * * * * * * * *

石ノ森章太郎さんの「佐武と市捕物控」は、
1966年~「週刊少年サンデー」、「別冊少年サンデー」に掲載されました。
私が以前読んで知っていたのはこちらの方ですね。
佐武と市のコンビで織りなす江戸の事件解決。
当時ではかなり渋くて、シビレました。
そしてその後、1968年に「ビッグコミック」が創刊され、
「佐武と市捕物控」はそちらへ舞台を移します。
こちらでは画風やテーマを一新し、ぐっと大人向けの物語となりました。
本巻はその「ビッグコミック」掲載の中から、
江戸の風物が丁寧に描かれているものを集めたアンソロジーとなっています。
裸体の女性や首の切断シーンなど描写も激しいですが、
大胆なコマ割りや情景描写、石ノ森章太郎氏が"やってみたかった"ことが
思う存分試されている感じがします。

私が好きだったのは・・・

「菊人形」
毎年美しい菊人形が飾られるご隠居さんの家。
今年はその中でも特に女性の菊人形が素晴らしい。
しかしなんとその人形は、ご隠居の孫娘の屍体を菊で飾り立てたものだった・・・。
ちょっとした猟奇殺人事件。
ご隠居は若くみずみずしい娘をそばに置くことで、
己の老いさらばえていく心や体の慰みと思っていたが、
あまりにも早く娘がその花を散らしていこうとするのが惜しくて殺したという・・・。
でも事の真相は、他にあったのです。
「老い」の心を描く、深~い作品。

「年の関」
大晦日の物語。
大晦日といえば借金取りがこれまでのつけをまとめて取り立てに来るというので、
いろいろな攻防戦があるようで、
市やんは借金取りと顔を合わせないように、
大晦日の夜というのに家に帰らず歩き回って時間を潰しているのです。
これぞ江戸の年の瀬。
そんな中、佐武の方はある事件の行方を追うことに余念がない。
その事件が回想として語られます。
そしてその犯人が、そろそろ家に帰ろうかという市やんとすれ違うのですが、
市やんのことですから、その男の殺気を感じ取ってしまう・・・。
うまいストーリー運びだなあ・・・。
やはりさすが巨匠です!


「佐武と市捕物控 江戸暮らしの巻」石ノ森章太郎 ちくま文庫
満足度★★★★☆


ペリカン文書

2019年07月22日 | 映画(は行)

ひょうたんからコマの真実

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往年の名作。
といいつつ、見ていなかったようなのでこのたび拝見。


法学部の学生ダービー(ジュリア・ロバーツ)は、
最高裁判事の暗殺事件について、大胆な仮設を打ち立て、レポートにまとめます。
ダービーの教官であり恋人でもあるキャラハンは、
その「ペリカン文書」のユニークさに目を留め、ワシントンに持ち込みますが、
その後、車に仕掛けられた爆弾により死去。
ダービーは自身の身にも危険を感じ、身を隠しながら、
敏腕新聞記者グランサム(デンゼル・ワシントン)に連絡を取り、協力を求めます。
二人は多くの危機を回避しながら、事件の真相に迫ります。

権力と結びついた大企業の横暴・・・、なかなかリアルに怖いです。
巨悪を暴くというストーリー立てながら、そのスリルとサスペンスもたっぷり。
かろうじてパソコンはありながら、まだ携帯電話もない時代。
こういうのが、もはや郷愁さえ感じられるようになってしまいました。
ですが結局は本当に大事なことは1対1で、直接会って話すこと、
これに尽きるわけですねえ。
まして今ならなおさら・・・。


眼の前で、恋人と更にはその友人の死をも見てしまうダービー。
そのショック状態の様、
そしてそれをも正義感を持って乗り越え、強くなっていく様、
ジュリア・ロバーツはやっぱりかっこいいですよね。


こういう作品を見ると、旧作ももっといろいろ見てみたくなります。
若くピチピチの俳優さんたちを見るのもいい。

ペリカン文書 [DVD]
ジュリア・ロバーツ,デンゼル・ワシントン,サム・シェパード
ワーナー・ホーム・ビデオ


<WOWOW視聴にて>
「ペリカン文書」
1993年/アメリカ/141分
監督:アラン・J・パクラ
原作:ジョン・グリシャム
出演:ジュリア・ロバーツ、デンゼル・ワシントン、サム・シェパード、ジョン・ハード、トニー・ゴールドウィン
サスペンス度★★★★☆
満足度★★★★☆


天気の子

2019年07月21日 | 映画(た行)

雨の表現がすばらしい

* * * * * * * * * *

鳴り物入りで始まった新海誠監督新作「天気の子」。
たまたま初日に見たのですが、まわりは若い人ばかりで
若干肩身が狭かったオバサンであります・・・。

離島から家出し、東京へやってきた高校生・帆高。
バイトも見つからず、さっそく行き詰まってしまいますが、
怪しげなオカルト雑誌のライター助手の仕事に、なんとかありつきます。
そんな時の東京は連日雨ばかり。
そんなある日、帆高は陽菜という少女と出会い親しくなっていきます。
彼女は小学生の弟と二人暮らし。
そして彼女には祈ることで空を晴れにできる不思議な力がありました。
二人はこの「晴れ女」の力を利用してビジネスを始めることに。



フリーマケットや結婚式。
つかの間でもいいから明るい日差しがほしいということはたしかにあります。
二人の商売は予想位以上の人気を呼びますが、次第に陽菜が疲れを見せ始めます。
そして、東京を覆う異常な雨雲は一向に衰えを見せません。

雨の日が続き日照時間が極めて短いと聞く、
ここのところの東京の天候と重なり合うようなこの背景。
「晴れ女」が実際にいるなら頼みたいと思う人も多いのでは?



雨や水の表現に長けた新海監督、まさに真骨頂の映像美。
廃墟のビルの光景もまた、雰囲気を掻き立てます。
どんより重く垂れ込めた雲の合間から差し込んでくる光。
いいものですよねえ。



・・・と、この世界観は十分に堪能しましたが、
ストーリーとしてはイマイチと思いました。
あの、男女入れ替えや時間や出会いの不思議、
幾重にも驚きがしくまれていた「君の名は」に比べると
どうしても単調に思えてしまいます。
期待値が高すぎたのかもしれません。
下世話なことながら、洪水はあんな綺麗事じゃないよな・・・ともつい思ってしまう。



まあそれでも付近の若い方々は満足していたようなので、
これ以上言うのはやめておこう。

「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の本でカップヌードルのフタをおさえていたシーンは気に入りました!!

<シネマフロンティアにて>
「天気の子」
2019年/日本/114分
監督・脚本:新海誠
声:醍醐虎汰朗、森七菜、本田翼、小栗旬、賠償千鶴子、平泉成
映像美★★★★★
満足度★★★☆☆


「坂の上の雲 五」司馬遼太郎

2019年07月20日 | 本(その他)

ロシアはなぜ負けるのか

坂の上の雲 五
司馬 遼太郎
文藝春秋

* * * * * * * * * *


考えてみれば、ロシア帝国は負けるべくして負けようとしている。
―旅順陥落。
世界の関心は「ロシアはなぜ負けるのか」にあった。
しだいに専制国家としての陋劣さを露呈するロシア、
「旅順艦隊全滅す」の報は、マダガスカル島の漁港に留まり続けるバルチック艦隊にも届いた。
そして最大規模の総力戦、奉天の開戦で両軍は死闘する。

* * * * * * * * * *

「坂の上の雲」、第5巻です。
日露戦争について、かなり詳しい考察が繰り広げられていく本作。
バルチック艦隊は未だマダガスカルにいます。
折しも本国ロシアでは革命の動きもあって混乱の中、
何やらバルチック艦隊のことも忘れられかけているような・・・。
何のための苦難の大航海なのか・・・。
読んでいても気の毒になってしまうくらい。
結局、2ヶ月もの間、バルチック艦隊は虚しくマダガスカルで時を過ごしたようです。
その間日本の艦隊は旅順のロシア艦隊を打ち負かした後、
一旦日本へ戻り、秋山真之などは東京に帰ったりもしている。
これはやはり、地の利でしたねえ・・・。

さて一方満州の地ではまた熾烈な戦闘が幕を開けます。
前巻で黒溝台の戦闘が中心に語られましたが、
今度はそれよりも北上して、奉天を巡る争い。
著者は厳しくも、そもそもこの戦争でロシアが負けたのは
ロシアの専制国家という体制のため、と言い切っています。
そしてこの奉天の戦いに関してはひとえにロシア軍指揮官、
クロパトキンの無能さのためである、と。


そもそも軍勢の上ではロシアのほうが圧倒的に有利だったのです。
けれどクロパトキンは攻撃を受けると疑心暗鬼に駆られ恐怖してしまう・・・。
積極的に攻撃を仕掛けていけばあるいは違う結果になったかも・・・ということのようです。
戦争というのはその時々の人的・物的要素で、どのようにも様相を変えていく。
そのような果てに今現在の日本があると思うと恐ろしい・・・。

ようやく5巻を読み終えたところですが、実のところもうギブアップしたい気分。
もう戦争は懲り懲り・・・。
歴史の教科書ならほんの数行の日露戦争。
けれど実際はそう簡単ではないわけですね。
でもせっかくここまで読んだのだし、
バルチック艦隊の行く末も見届けたい気持ちはありまして・・・。
(もちろん、結果はわかっているわけですが)
少し間が開くかもしれませんが、必ず次に行きます(^_^;)

図書館蔵書にて (単行本)
「坂の上の雲 五」司馬遼太郎 文藝春秋
満足度★★.5


復讐のドレスコード

2019年07月19日 | 映画(は行)

アイデンティティ回復の物語

* * * * * * * * * *


オーストラリアの田舎町。
25年前、友達の少年スチュワートを殺害した疑いをかけられ
街を去ったティリー(ケイト・ウィンスレット)。
認知症の進んだ母の世話をするために、25年ぶりに帰郷します。
なぜいまさら戻ったのかとティリーに不信感を抱く町の人々。
しかし、ティリーがデザイナーであることを知った町の女性たちは
ドレスの制作を依頼するようになります。
そんな中で、ティリーはテディという青年と親しくなりますが、
プロポーズされても「私は呪われているから」と受け付けません。
そしてある時、ティリーは過去の事件の真相を見出す・・・。

25年前の少年の死の真相。
その時のことをティリー自身覚えていなかったのです。
全く身に覚えのないことだからなのか、それとも、本当に忘れてしまっているのか・・・。
ということで本作はそうしたミステリ作品なのかと思えば、そうでもないのです。
イケメンでナイスバディなテディ(リアム・ヘムズワース)には
思わぬ運命が待ち受けていたりする。
一体この物語はどちらへ行こうとしているのか・・・? 
若干戸惑うところもあるのですが、つまりはティリーのアイデンティティの物語なのだと思います。


ある日突然町からも母からも引き離され、成長していったティリー。
そしてデザイナーとしての腕も技術も身につけたけれども、
何か身が定まらず落ち着かない思いを抱えていたのではないでしょうか。
そもそもなぜ自分が街を出なければならなかったのかがよくわからない。
もしかしたら本当に自分は少年を殺してしまったのか・・・?
不安を抱えたままの自分と対決するために彼女は帰ってきた。


そんな中で事件の真相や彼女の父親の事がわかったりするわけです。
そして、何も見なかった、知らなかった風を装いつつ、
母や自分と接してきた欺瞞に満ちた町の人々。
彼女が自分らしく新たに歩むためには、
恋人も母も亡くし、きっぱりと過去と決別することが必要だったのです。
なんて厳しいアイデンティティ回復への道のり。
しかしそうしてでも守り抜くべきものである、ということか。
日本では劇場未公開。
でもなかなか興味深い物語でした。
1950年代くらいが舞台でしょうか。
その頃のファッションを見るのも楽しかった。

 

<WOWOW視聴にて>
「復讐のドレスコード」
2015年/オーストラリア/119分
監督:ジョスリン・ムーアハウス
出演:ケイト・ウィンスレット、リアム・ヘムズワース、ジュディ・デイビス、ヒューゴ・ウィービング、キャロライン・グッドオール

 


「東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ」 遥洋子

2019年07月17日 | 本(エッセイ)

相手にとどめを刺しちゃいけません

東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ (ちくま文庫)
遥 洋子
筑摩書房

* * * * * * * * * *


教授は言った。
「相手にとどめを刺しちゃいけません。
あなたはとどめを刺すやり方を覚えるのでなく、
相手をもてあそぶやり方を覚えて帰りなさい。
そうすれば、勝負は聴衆が決めてくれます」
タレントは唸った。
「本物は違う!」
今、明される究極のケンカ道とは?
フェミニズムの真髄とは?
20万人が笑い、時に涙し「学びたい」という意欲を燃えたたせた
涙と笑いのベストセラー。

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著者遥洋子さんは、1997年から3年間、
東京大学大学院の上野千鶴子ゼミを特別ゼミ生として受講。
本作にはその時のことが描かれています。


そもそも著者がこのことを決意したのは、
しばしば出演するTV討論会で、フェミニズム的立場で物を言っても
男たちにことごとく粉砕されてしまう・・・という悔しさからのようです。
その気持は良くわかります。
いくら言っても糠に釘というか、まともに受け止めてもらえない感じ・・・。
なんとかしっかり学んで力をつけて、男どもを打ち負かしてやりたい、と。


しかし教授が「相手にとどめを刺しちゃいけません。」といったのは、上記紹介文の通り。
しかしそもそも、まずこの上野ゼミについていくことが至難の技であった、
というところから話は始まるのです。
東大大学院と聞くだけでもビビりますが、まさにその通り。
資料がどっさり、しかもどれも難解でいくら読んでも頭に入っていかない。
しっかり準備をしなければ授業についてもいけない・・・。
こんな状況をよくぞ3年間も・・・と、
私はそれだけで著者を尊敬してしまいます。


上野千鶴子さんは、相手によって言葉を使い分けされているようで、
私がこれまでいくつか読んだ本の中でも特別に難解と感じたことはありません。
それは上野教授があえて一般庶民にわかる言葉に翻訳して書いていてくれていたからだったようです。

著者が上野教授の「家父長制」を定義する文章として挙げたのが、
『女が自分の胎から生まれた生きものを、
自分を侮蔑するべく育てるシステムのこと』。
まさに、こうしたシステムが連綿と引き継がれてきた結果の今日であります。
過激な表現の底にはそれを支える膨大な理論がある。
その裾野に広がるであろう広大な理論の海を著者は感じるわけですが、
私も、その海を頼もしく思わずにはいられません。

ところでこの本が単行本で刊行されたのが2000年1月。
それから20年近く経つというのに、
女性たちを取り巻く環境にそう変化があったようには思えない・・・。
上野教授が大学の入学式の挨拶で残念な内容をスピーチしなければならなかったくらいに・・・。
女性たちよ、もっと「普通」を疑おう!


「東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ」 遥洋子 ちくま文庫
満足度★★★★☆

 


イコライザー2

2019年07月16日 | 映画(あ行)

パワーアップの続編

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「イコライザー」続編です。
元CIAエージェントのマッコール(デンゼル・ワシントン)は
タクシー運転手をしていますが、実は「闇の仕事人」という裏の顔を持っています。
ある時、CIA時代の元上官であり親友でもあるスーザンが何者かに殺害されます。
その死の真相を探ろうとするマッコール。
そしてついに彼は、元同業者でチームとして仕事をしていたメンバーたちと対決することになる・・・。

「続編」というのは、安直な人気狙いで二番煎じになってしまうことも多いものですが、
本作については、前作を踏まえて更にパワーアップ。
見る価値のある続編となっていると思います。



前作ですっかり「闇の仕事人」稼業に生きがいを見出したマッコールは、
職業をタクシー運転手に変え、巷の情報収集をします。
そこで知った「困った人々」やご近所の人々との交流も欠かさない。
そうしたちょっとした「仕事」をこなしつつ・・・、
本筋となるのはベルギーで起きたある事件です。
スーザンはその真相に迫ったために殺されてしまったのです。
そうしてマッコールは、CIA時代の仲間と命がけの戦いをすることになってしまう。
手の内を知り尽くした仲間数人対たった一人。
そこが彼の腕の見せ所というわけですが、なんともかっこいいですねえ。
まさに、孤高の戦士。
私、結構気に入りました!

 

イコライザー2 [AmazonDVDコレクション]
デンゼル・ワシントン,ペドロ・パスカル,アシュトン・サンダーズ,オーソン・ビーン,ビル・プルマン
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

<WOWOW視聴にて>
「イコライザー2」
2018年/アメリカ/121分
監督:アントワン・フークア
出演:デンゼル・ワシントン、ペドロ・パスカル、アシュトン・サンダース、ビル・プルマン、メリッサ・レオ

孤高の戦士度★★★★★
満足度★★★★☆


イコライザー

2019年07月15日 | 映画(あ行)

正義を実行する、闇の仕事人

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元CIAエージェントのマッコール(デンゼル・ワシントン)は、
その前歴を隠して、ホームセンターで働き、地味に暮らしています。
馴染みのカフェで娼婦の少女テリー(クロエ・グレース・モレッツ)と出会い、
親しく会話を交わすようになります。

しかし彼女を囲うロシアン・マフィアの非情さに正義感を掻き立てられ、
事務所に乗り込んでいきます。
ところが思いの外この組織は巨大で、
彼は一人で巨悪と対峙することになってしまうのです・・・。

マッコールは孤高の戦士。
非常時にはまず周囲を鋭く観察。
そこにある何を使い、どのように動くべきか瞬時に判断し、
ものの数十秒で多数の敵を倒してしまいます。



謎の男、マッコール。
最愛の妻を亡くし一人暮らし。
ある事件を機に、自身は死んだことにして過去を葬り、穏やかな暮らしをしているのです。
仕事も極めて勤勉、同僚からも信頼を得ています。
しかし生来からもつ正義感。
弱者が虐げられているのには我慢できない。
人知れず正義を実行しようとする、闇の仕事人というわけですね。
かっこいい!!

娼婦の少女がクロエ・グレース・モレッツだとははじめ気が付きませんでした。
最後に、化粧がケバくない顔を見てやっと気づいた次第。


それにしてもマッコール、こんなに人を殺しまくって、
警察に目をつけられないわけがないと思ったりするわけですが、
実のところは、警察も誰の仕業かわかった時点でお目溢しというか、
自動的にお蔵入りにしているのかも・・・。
(映画でそう言っているのではなくて、私の勝手な妄想です)

続編「イコライザー2」もあるのですね。
すぐに、レッツゴーです。


イコライザー [AmazonDVDコレクション]
デンゼル・ワシントン,クロエ・グレース・モレッツ,マートン・ソーカス
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

<WOWOW視聴にて>
「イコライザー」
2014年/アメリカ/132分
監督:アントワン・フークア
出演:デンゼル・ワシントン、マートン・ソーカス、クロエ・グレース・モレッツ、デビッド・ハーバー、ビル・プルマン

アクション度★★★★☆
正義の味方度★★★★☆
満足度★★★.5


ゴールデン・リバー

2019年07月14日 | 映画(か行)

西部劇じゃなくて、ファンタジー

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ゴールドラッシュに湧く1851年。
殺し屋の兄弟イーライ(ジョン・C・ライリー)とチャーリー(ホアキン・フェニックス)は、
地元の権力者の依頼を受け、黄金を探す化学式を発見したという化学者を追うことになります。
連絡係・モリス(ジェイク・ギレンホール)は
一足先に化学者ウォーム(リズ・アーメッド)に追いつき、さり気なく接近。
やがてこの4人が成行きから手を組んで金を探すことになりますが・・・。



本作、西部劇には違いないのですが、これまでの西部劇とはなんだか手触りが違います。
それもそのはず、監督ジャック・オーディアール氏はフランスの方ですね。
あえて「西部劇」というくくりを意識せずに作ったという印象です。



まずこの4人というのがユニーク。
殺し屋兄弟は兄イーライ・シスターズと弟チャーリー・シスターズ、
つまり名字が「シスターズ」。
だから、シスターズ兄弟、“The Sisters Brothers”が原題です。
面白い!
でもこの二人、性格がぜんぜん違うのです。
粗暴で危なっかしいのは弟チャーリー。
兄イーライは心優しく、弟が心配で一緒にいるだけという感じです。
ただしその兄も、銃を手にして相手と対峙するときには非情に徹して凄腕。
一方化学者のウォームは理想郷を作ることを夢見ているのです。
その話を聞くうちにモリスは彼に同調してしまう。

私は本作、黄金を見つけた4人がその後、分け前を巡って殺し合いを始めるのかと思っていました。
ところがそうではなかったのですね。
結局欲にかられて事件が起こるというのはそのとおりなのですが。
そして私は思うのですが、これは「行きて帰りし物語」で、ファンタジーの作りなのです。
黄金を探す旅の仲間の物語。
黄金を見つける「魔法」も出てきます。
ただしこれは自分の身をも傷つける黒魔法だ。
苦難の旅の間に、彼らは自分の目指すべき方向を見定める。
イーライはホビットの村に帰り着いたビルボ・バギンズ。
(フロド、というよりはビルボのほうがイメージが近いもんで・・・)
このように考えるとちょっと面白い。



それと本作はこの時代の「生活」感がすごくよく出ているのです。
イーライが初めて歯ブラシと歯みがき粉を使うシーン。
馬が傷ついてついには死んでしまったり、髪を切るシーンがあったり。
夜でも明るく賑やかなサンフランシスコの街に驚く兄弟。
初めて見る海の感動。
そんな光景のおかげでこの時代性が妙にリアルで身近に感じてしまう。
豪華キャストも無駄じゃない。
ユニークな物語です。


<シアターキノにて>
「ゴールデン・リバー」
2018年/アメリカ・フランス・ルーマニア・スペイン/120分
監督:ジャック・オーディアール
出演:ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッド、レベッカ・ルート

生活感★★★★☆
ファンタジー度★★★★☆
満足度★★★★☆