映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ

2015年02月27日 | 映画(は行)
危険なテイストを加えたハーレクイン



* * * * * * * * * *

ロンドン在住の一般女性が趣味でネットに投稿した小説が、瞬く間に大ヒット。
さらに全世界50カ国で出版され
瞬く間に空前のベストセラーとなったという・・・、
鳴り物入りのストーリーの映画化です。



恋愛経験ゼロの女子大生アナ・スティール(ダコタ・ジョンソン)が、
大企業の若きCEOクリスチャン・グレイ(ジェイミー・ドーナン)のインタビューに赴き、
二人はそこで知り合います。
アナは全く垢抜けないオンナノコなのですが、
グレイには返ってそんなところが新鮮だったらしい。
二人は急接近していきますが、
実はグレイには世間に隠している裏の顔があった。
「嗜好が人とは変わっていて、心から女性を愛したことがない」という
グレイの禁断の扉を、今、アナは開けようとする・・・・。



映像は甘く美しく、思っていたほど過激な感じはしませんでした。
つまりこれは、基本はハーレクインなのです。
そこに、セックスの危険な香りをまぶしただけ。
結局は甘く現実味のないシンデレラ・ストーリーです。
確かに女性には受けると思いますが・・・。
私は本作、「フォックスキャッチャー」に続けてみたので、
あの切実に真に迫る作品のあとでは、
なんとも絵空事に過ぎて虚しい気がしてしまいました。
まあ、見る順番を間違えた、ということですね。



二人の関係で、優位性が逆転していく、
と、ストーリー紹介などにはあるのですが、
私にはグレイのほうが始めから振り回されていたように思えました。
それで、ラストも「これで終わり?」というあっけない終わり方で、
実はもっと過激な逆転劇を想像していた当方としては肩透かし。



実はこれは“バンパイア”ストーリーの亜流なのではないでしょうか? 
グレイは、つまりバンパイアなのです。
女性の生き血を飲んで生きながらえている。
女性たちはグレイの魅力に負けて自らの身を差し出し、
被虐の中に喜びを見出している。
そのような日常の中で、毛色の違う何も知らないオンナノコ登場。
彼は彼女にバンパイアへの転身を促していく・・・。
ね、吸血が危ないセックスに変わるだけでしょ。
ま、そんなわけです。



「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」
2015年/アメリカ/126分
監督:サム・テイラー=ジョンソン
出演:ジェイミー・ドーナン、ダコタ・ジョンソン、ジェニファー・イーリー、ルーク・グイムス、マーシャ・ゲイ・ハーデン

ロマンス度★★★★☆
危険度★★☆☆☆
満足度★★☆☆☆

「グイン・サーガ 135 紅の凶星」 五代ゆう

2015年02月26日 | グイン・サーガ
詰め込みすぎ?

紅の凶星 (ハヤカワ文庫JA)
天狼プロダクション
早川書房


* * * * * * * * * *

イグ・ソッグの体をもってヤガの神殿に潜入したブランは、
その深奥でおのれの眼を疑うような、ミロクの神秘を体験する。
一方、クリスタルの災厄から逃れたリギアたちに迫る
不吉な足音の正体は?
そしていまだクリスタルに居座るイシュトヴァーンを
諌めるためにやってきた、宰相カメロンに襲いかかる忌まわしき敵とは?
さらに一方、スーティとスカールの、
黄昏の道を往く旅の行方に待つものは?
謎が謎を誘う幻惑の物語。

* * * * * * * * * *

さて、新作が出ましたねえ。
本巻は、色々なシーンがめまぐるしく交差していきます。

★前巻、その展開に思わずのけぞり、ぎゅっと引きつけられた、ブランのその後。
 ヤガでの出来事ですね。
 ミロクの中心部で一体何が起こっているのか。

★クリスタルから脱出したリギア、マリウス、
 そしてアッシャの魔導の力を制御する訓練を始めたヴァレリウス。
 しかし、アッシャの憎悪の力は暴発する危険も潜んでいて・・・

★パロの街をめちゃくちゃにしたイシュトヴァーンのもとに、
 ようやく辿り着いた宰相カメロンは、
 もうこんなことはやめて、故郷に帰って楽しく暮らそうと言うのでしたが・・・

★黄昏の国をゆく、スーティとスカール。
 思わぬ危機に襲われるが・・・


うーん、確かに見どころいっぱいなんだけどね・・・
なんだか先を急ぎすぎというか、詰め込みすぎというか。
 欲張りすぎというか。
もう少しじっくり進めてもいいのじゃないかなあ、という気はしました。
あっちもこっちも危機一髪では疲れてしまうよね。
 そんな中でも一大事は、あんた、なんとカメロンが!!
きゃー、ヒトゴロシー!!
いいの、ほんとにいいの?こんなことしちゃって。
 もう誰もイシュトを止められないじゃないの。
いや、もう誰も五代ゆうさんを止められないって感じ?
やっちゃったねえ・・・、ホントに。
パロの災厄はいつまで続くのか・・・


リギアとヴァレリウスのところは、なんとなくユーモラスタッチなのは、
 まあいいかという気はするね。

それと、最後のスーティとスカールのシーンには泣かされちゃいました。
スカールの最愛の妻リー・ファとのシーンだね。
 確かに、ここはシビれる。
結局この二人はどっちに行こうとしてるんだろう?
うーん、それは予想がつかないね。
 どこか思いもよらないところにつながっていくんじゃないかな。
 まあ、先を楽しみにしますか。
もう面倒臭いからやめようかなんていってたくせに・・・。
イヤもうグインの新刊を買うのは殆ど習慣なんで。
 けどやっぱり外伝は「パス」させてもらってます。

「グイン・サーガ 135 紅の凶星」五代ゆう ハヤカワ文庫
満足度★★★☆☆

アメリカン・スナイパー

2015年02月25日 | クリント・イーストウッド
本国では迷子の子供のような・・・




* * * * * * * * * *

楽しみにしていたイーストウッド作品。
でも何だねえ、本作はかなり重いから、
 私ら ぴょこぴょこコンビでいいの?って気がするけど。
だってクリント・イーストウッド出演及び監督作品は私らで、
 ってことにしちゃったんだからさ、がんばろうよ。
はいはい。では気合を入れて。



これは、米軍史上最強の狙撃手と言われるクリス・カイルのベストセラー自伝を映画化したものだね。
先日の「フォックスキャッチャー」といい、本作といい、
 やっぱり“事実”の重みがモノを言う気がするね。
そうだねえ。どちらも、結末があまりにも予測不能で、
 これがフィクションだったら怒ってしまうところかもしれないね。
 でも、実際にあったことだから・・・。
だけれど、どうしてそんなことになってしまったのかは、
 ちゃんと納得できるようにじっくり描かれているわけだね、双方とも。
そういうこと。この二作は甲乙つけがたく、ガツンと心に響く作品でありました。



さて、このクリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)、
 2003年~2009年の間に4回もイラクに派遣されてるね。
 きっかけはあの9.11同時多発テロ。
 もともと「弱いものを守れ」と父に言われて育った彼は、
 アメリカは自分が守る、とばかりに米海軍特殊部隊ネイビー・シールズに入隊。
 結婚直後にすぐ1回めのイラクに行ってる。
彼は天才的な狙撃手でなんと160人を殺したという・・・。
別に殺人鬼じゃないよ。
 敵を倒さなければ味方がやられるから、正義感に燃えて弾丸を放ったわけだ。
 けれど自分だっていつ敵にやられるかわからない。
絶え間ない緊張感にさらされるんだね。
そんな彼が平和な米本国に帰還すれば・・・。全くの別世界。
 本来はその平和に浸りきれるはずなんだ。
 最愛の妻と子どもたちがいて。
これはね、絶えず危険に晒されて緊張感を保ち続けた生活を続けていると、
 この全く緊張のない生活は、空虚で現実味のないものに
 感じるんじゃないかなあ・・・と私は想像するわけだ。
少し前に見た「アルマジロ」もそうだったよね。
 せっかく生還した兵士たちが、また戦場に戻っていくケースが
 とても多いということだった。



実際、カイルは米国の社会には全然溶け込めない。
 戦場ではあんなに頼もしく見えるのに、
 アメリカに返った彼はまるで迷子の子供のようだ・・・。
戦争がどんなふうに人の心を蝕んでいくのかが、よく分かるよ・・・。
怪我のように目には見えないから余計たちが悪いね。



カイルにとって、最期の闘いの、あの砂嵐のシーンは凄かったねえ・・・。
というかほとんど何も見えなかったけどね。
 でもまあ、あの砂嵐のお陰で助かったようなもんだからね。
あんな銃弾の飛び交う中で、家族と電話できちゃうというのもすごいよねえ。
 二次大戦の映画なんかでは考えられないね。
電話してる最中に相手が撃たれて亡くなってしまったりしたら、
 電話の相手も救われないなあ。
すごく遠いのに、近いんだよ。
 なんだかおかしな世の中になっちゃったなあ。



そして、無音のエンディング・クレジット。
 これはね、すごく効果的だったような気がする。
どんな音楽もここは虚しいだけ。
実際、無音の中でも最期まで座っている人が多かったね。
 というか、放心して動けなかったんだよ、私なんかは。
いや、ホントにすごい作品でした。

「アメリカン・スナイパー」
2014年/アメリカ/132分
監督:クリント・イーストウッド
出演:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、ルーク・グライムス、ジェイク・マクドーマン、ケビン・ラーチ

緊迫度★★★★☆
満足度★★★★★

TOKYO TRIBE

2015年02月23日 | 映画(た行)
クレイジーな悪夢



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本作、あまりにもトンデモ作品なので、
 私らピョコピョココンビの登場となったようですよー。
園子温監督で、鈴木亮平さん出演というので、見たいなあとは思いながらも、
 解説を見ただけでもわかるその過激さに怖気づいて、劇場には見に行けなかったんだよね。
で、このたびDVD視聴でしたが・・・。
いやあ、ホントに、間違って劇場に見に行かなくてよかった、と、つくづく思いました。
 見に行っていたら、いたたまれなくて冒頭10分ぐらいで出てきたと思う・・・。
そんなこといいながら、このたびは、全編見てたじゃない?
いや、実際途中でやめようかと思ったんだけど、修行のつもりで(?)見ました。



バトル・ラップ・ミュージカルっていう触れ込みだね。
様々なトライブ(族)に属する若者たちが、暴力で街を支配し、縄張りを競い合う“トーキョー”。
 そんな中で、ブクロWU-RONZのヘッド、メラ(鈴木亮平)と
 ムサシノSARUに所属する海(カイ)(YANG DAIS)を中心に巻き起こる一大抗争を描きます。
 ま、あらすじはこれが全てでさ、
 延々とラップによる語りと粗野なエロと暴力シーンが続く。
でもさ、もともとラップはきらいじゃないんだよね。
 エミネムの「8mile」にハマって、その頃エミネムは結構聞いたなあ・・・。
いや、だからさ、本作中まともにラップに聞こえたのは
 オーディションで役に決まったというプロのラッパーのYANG DAISさんのところだけで、
 悪いけど、染谷将太くんのは、“お経”でした・・・。
でも、歌詞はちゃんと韻を踏んでいて、いい感じに仕上がっていたけどね。
うーん、せめて女性でもちゃんと正視できる作品であって欲しかったけど。
 少なくとも私は無理。
 悪趣味としか思えませんでした・・・。



だけど、鈴木亮平さんのメラは呆れるくらいのド迫力で、
 ただただ唖然としてしまった。
 こんな役をまじめに体づくりまでして挑んだという真摯さに、
 私は打たれた・・・。
この方が、NHKの朝ドラに出ていたなんて、ほとんど犯罪だよ~。
 というか、この方を起用したNHKの英断に拍手!



染谷将太さんは、いわば進行役って感じ?
まあ、役回りとしては悪くなかった。
 ラップ以外はよかったよ。
窪塚洋介さんのクレイジーな役も面白かったけどね。
部分的には見るべきところはあるけれど、
 やっぱり、私が見るべき作品ではなかった。・・・
まあ、強烈なインパクトがあるってことだけは確かだね・・・



TOKYO TRIBE/トーキョー・トライブ [DVD]
鈴木亮平,YOUNG DAIS,清野菜名,大東駿介,石田卓也
Happinet(SB)(D)


「TOKYO TRIBE」
2014年/日本/116分
監督・脚本:園子温
原作:井上三太
出演:鈴木亮平、YANG DAIS、清野菜名、大東駿介、染谷将太、窪塚洋介

クレイジー度★★★★★
満足度★☆☆☆☆

「ダンジョン飯 1」 九井諒子

2015年02月22日 | コミックス
ホントにお腹こわさない?

ダンジョン飯 1巻
九井 諒子
KADOKAWA / エンターブレイン


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九井諒子、初の長編連載。待望の電子化! 
ダンジョンの奥深くでドラゴンに襲われ、
金と食料を失ってしまった冒険者・ライオス一行。
再びダンジョンに挑もうにも、
このまま行けば、途中で飢え死にしてしまう……。
そこでライオスは決意する
「そうだ、モンスターを食べよう!」
スライム、バジリスク、ミミック、そしてドラゴン!! 
襲い来る凶暴なモンスターを食べながら、
ダンジョンの踏破を目指せ! 冒険者よ!!


* * * * * * * * * *

「ひきだしにテラリウム」で知った九井諒子さんですが、
今度の新作がすごい!
RPGゲームなどでお馴染みのダンジョンを冒険するといえば、
ごくふつうの物語ですが、
なんとそのダンジョンに出現するモンスターを食べてしまおうというもの。
確かに、奥深いダンジョンを旅するためには、
それなりの装備と食料が必要ですが、
そのためには資金も必要。
現実的ですねえ・・・。
水や食料が不足して立ち往生するRPGゲームのパーティなんて
聞いたことがないけれど・・・・。
しかし、出会ったモンスターを食料にするとなれば
非常に合理的です。
本当に食べられるのかとか、美味しいのかは別として・・・。


本作の冒険メンバーは勇者のライオス、
魔法使いのマルシルと鍵師のチルチャック。
実はライオスの妹がダンジョン奥深くでドラゴンに食べられてしまったので、
なんとしても救出に向かわなければならないのです。
(死者は、ちゃんと体さえあれば蘇らせることができる・・・という、
まあ、お約束があるので。)
そこにモンスター料理の達人センシが加わり、
いかにもまずそうなモンスターを、高級食材に変えていく・・・と。
マルシルは女の子なので、モンスターなんか絶対に食べられない、
と、がんばるのですが、
空腹には勝てず、恐る恐る食してみれば、これが意外とイケる。
この料理の仕方が実にリアルに描かれていまして、
妙に食べてみたくなってしまいます。


例えば「スライム」の料理法。

「このままではとても食えないが、柑橘類の果汁を加えた熱湯でよく洗い、
水分をよく拭きとるかあるいは塩をもみ込み、
じっくり天日干しすれば高級食材の完成だ。」

ははあ・・・クラゲとか、ナマコとか、そんなイメージでしょうか。
食べ物ばかりでなく、さすがに九井諒子さん、
魔物についても素晴らしくイマジネーション豊かです。
例えば「動く鎧」というモンスターが登場します。
あの西洋の甲冑が、中がカラなのに動きまわり襲い掛かってくる。
これは何かの魔法で動いているのだ、と彼らは思っていたわけです。
そして当然、ヨロイはいくらなんでも食べられるわけはない、と。
しかーし! 
なんとこれは貝のようなカラを持った生物の集合体であった・・・というのですよ。
だからカラから外すのが大変なのだけれど、
食すれば、これもまたヨシ・・・。
なんてユニークなんでしょ。
こんなこと今まで誰も考えつきませんでしたね。
続きも楽しみです。

「ダンジョン飯 1」九井諒子 KADOKAWA ビームコミックス
満足度★★★★☆

フォックスキャッチャー

2015年02月21日 | 映画(は行)
結末を知っていながらもどんどん強まっていく“嫌な予感”



* * * * * * * * * *

1996年、デュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンによる、
レスリング五輪金メダリスト射殺事件を映画化したものです。



ロス五輪でレスリングの金メダリストであるマーク・シュルツ(チャニング・テイタム)は、
大富豪ジョン・デュポン(スティーブ・カレル)から
ソウル・オリンピックでのメダル獲得を目指すレスリングチーム
「フォックスキャッチャー」に誘われます。
これまで、同じく金メダリストの兄デイブ(マーク・ラファロ)に指導を受けていたマークは、
実は、兄に対してコンプレックスを持っており、
これを機会に兄と離れるのも良いと思い、この話に乗ったのです。
何しろマークは他のメンバーよりも破格の好待遇。
練習のための施設も素晴らしく整っている。
しかし次第にデュポンのエキセントリックな行動に振り回されるようになっていきます。
そして、やがて兄デイブもチームに参加することになる・・・。



何しろ本作、結論は初めからわかっているのです。
ネタばらしになってしまうかとも思ったのですが、
とにかく殺人事件に発展するのは周知の事実として本作は作られているわけです。
しかし、その結末を知っていてさえも、
当初から底辺に流れる緊張感が
じわじわした “怖さ”で私達を包み込みます。
怖さ・・・というよりも、きっと何か良くないことが起こるという嫌な予感でしょうか。
そう感じさせるものは何か。
それはデュポンの精神の異常性に他なりません。

一見物静かのようでありながら、どこか壊れた感じがする。
いかにも唐突になにか思いもよらない事を起こしそうな・・・。
彼が銃を手にするシーンはホントに、ヒヤヒヤもの。
そして次第にその異常性は、
彼と母親との関係性に原因があることがわかってくるのです。


息子よりも馬に関心があって、馬をより愛している母親。
一方、母から関心を得て、母に認められたい息子。
デュポンが異常なほど一般社会の中での名声や地位に執着するのは、
そのことによって母の承認を得ようとするため。
しかし、認めるも何も、そもそも母は息子に無関心なのです。
おそらく彼が子供の頃から・・・。
どんな大富豪でもこれでは・・・。
やがてこの母が亡くなるのですが、
そうすれば実はデュポンは開放されるのかと思ったのですよね。
もう母のことは気にする必要がなくなった。
それなのに・・・。
彼はその空白を埋めるかのように、
今度は本当に社会へ向けて自分の“承認”を求めていくように私には思えました。
確かに世間は彼に対してちやほやするのです。
誰もが彼には賞賛を惜しまないけれど・・・
でもそれは彼に対してではなく、彼の持っている「お金」に対してなのです。
だからどんなに彼が頑張ったとしても、
彼が富豪であるかぎり、本当の承認は得られない・・・。
このように考えれば実に気の毒な人物ではあるのですが、
しかし作品を見ている最中にそこまでは考えられない。
ひたすら不気味さと嫌悪感を感じさせるスティーブ・カレルの演技と、
映画の演出に舌を巻くばかりです。


一方マークがまた、あんな立派な体格を持ちながら、
「おい、しっかりしろよ~!」といいたくなる情けなさ、心もとなさ。
これがまた、早くに両親をなくし、兄が父親代わりであったという
生い立ちから来るものでありそうなのです。
あまりににも兄がよくできているので、よりかかりすぎて自立出来ていない。
最後の最後にあったワンシーン。
彼はその後プロレスに転向するようなのですが、
兄から解き放たれた彼は、かえってサバサバしたようにも見受けられます。



そして本作中ただ一人、まともな「オトナ」であったデイブ。
私は彼が出てくるとほっとしてしまうのでしたが・・・。
妻子を愛し、弟を愛し、レスリングも強くて指導も上手い。
権威にも媚びなくて、そしてなにより正直だ。
・・・それがアダになってしまったわけですが、
まことに惜しい方を亡くしました・・・。



マークが試合に勝つシーンですらも浮き立つような高揚感がない、
情感を抑えた演出でありながら、
なぜが目が離せずグイグイ引き込まれる感じ。
これぞ映画力。
すごい作品でした。


「フォックスキャッチャー」
2014年/アメリカ/135分
監督:ベネット・ミラー
出演:スティーブ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、バネッサ・レッドグレーブ

危ない男度★★★★★
満足度★★★★★

花とアリス

2015年02月19日 | 映画(は行)
少女の恋と友情



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近々、岩井俊二監督によるアニメ長編「花とアリス殺人事件」が
劇場公開されるという報に触れまして、
慌てて本作のほうを見ました。
アニメの方は本作の前日譚であるとのこと。
そちらも楽しみですが。


幼なじみで親友同士の花(鈴木杏)とアリス(蒼井優)は
同じ中学から同じ高校へ進みました。
花は宮本先輩(郭智博)に憧れます。
ある日頭をぶつけて倒れた先輩に、
「先輩は私のこと好きと告白したのに覚えてないの?」
と、無理やり彼を記憶喪失に仕立てて付き合い始めます。
半信半疑の宮本でしたが、
花に「元カノ」と紹介されたアリスのほうが何故か気になり始め・・・。



少女の恋と友情。
・・・となればやはり恋のほうが勝ってしまうのかな?と思わせながら、
でも、花とアリスの関係性の根っこのところが明かされると、
恋よりも大事なものも見えてきます。
みずみずしい感性で綴る三角関係。
素敵です。
それにしてもこんな奇想天外のウソもありですかね。
そこまで思われて付き合い始めるのも悪くはないのかな、という気もします。
アリスにはチョピリ普通の女の子とは違った、
何か特別のヒラメキのようなものがあって、魅力的です。
まあ、悪いけれど、花ちゃんとは勝負にならない。


二人が通っていたのが、石ノ森中学校。
高校は手塚高校。
もろに「趣味的」命名なのが気に入りました。
巨大な鉄腕アトムの風船が窓から覗く教室で対峙する花と宮本。
なかなかシュールです。
「花やしき」のことは、新作アニメで触れられるようですよ。
俄然楽しみになってきました。

花とアリス 通常版 [DVD]
岩井俊二
アミューズソフトエンタテインメント


「花とアリス」
2004年/日本/135分
監督・脚本:岩井俊二
出演:鈴木杏、蒼井優、郭智博、相田翔子、阿部寛、大沢たかお

恋と友情度★★★★★
満足度★★★★☆

「赤猫異聞」浅田次郎

2015年02月18日 | 本(その他)
彼らは本当に戻ってくるのか・・・?

赤猫異聞 (新潮文庫)
浅田 次郎
新潮社


* * * * * * * * * *

時は、明治元年暮。
火の手の迫る伝馬町牢屋敷から解き放ちとなった訳ありの重罪人たち―
博奕打ちの信州無宿繁松、
旗本の倅岩瀬七之丞、
夜鷹の元締め白魚のお仙。
牢屋同心の
「三人のうち一人でも戻らなければ戻った者も死罪、三人とも戻れば全員が無罪」
との言葉を胸に、自由の身となった三人の向う先には…。
幕末から明治へ、激動の時代をいかに生きるかを描いた、傑作時代長編。


* * * * * * * * * *

本作、題名の「赤猫」というのは、残念ですが(?)ネコとは関係なくて、
近隣の火事の際に牢に入れられた罪人たちが、
危険を避けるために一時解き放たれることをいいます。
定められた時までに戻れば刑を軽くし、
戻らない場合は、どこまでも探し出して死罪。
火事と喧嘩は江戸の花・・・などといいますが、
こんな「赤猫」という風習も、
はたで見るからには、お祭り騒ぎのようなものだったかも。
さて、時代は明治元年。
幕府は解体され、明治の新政府は起こったものの、
実際のお役所の現場は混乱状態。
この監獄といいますか牢屋敷の運営も、
上層部から何の指図もないままに江戸の体制そのままに行われていたのです。
この時の火事がいたずらに大きくなってしまったのも、
江戸の火消しの組織がきちんと機能していなかったため・・・。
う~ん、時代背景だけ見るにも、すごく興味深いです。


物語にはこの解き放たれた中でも特にワケありの重罪人である三人、
博奕打ちの信州無宿繁松、
旗本の倅岩瀬七之丞、
夜鷹の元締め白魚のお仙のことが語られています。
彼らはそれぞれ胸に秘めた思いがあり、
この解き放たれた時を幸い、どうしてもやらなければならないことがあった。
「三人のうち一人でも戻らなければ戻った者も死罪、三人とも戻れば全員が無罪」と言われ、
解き放たれた3人は果たして戻ってくるのや否や。
これが大きな山場なのですが、
実はその影にまた大きな秘密が隠されているのです。
実はこの三人の解き放しを提案した役人は
「彼らが一人も戻らなかった時には切腹をする」
ことになっていたのです。
そういうこの人物がとった行動がまた、実に意外。


なんてドラマチックなストーリーなんでしょ。
さすがの浅田次郎作品。
・・・これ、映画で是非みたいです!!

「赤猫異聞」浅田次郎 新潮文庫
満足度★★★★★

チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密

2015年02月17日 | 映画(た行)
さらば、ジョニー・デップ



* * * * * * * * * *

ジョニー・デップ演じるチャーリー・モルデカイは、
ちょびひげでナルシストの怪しい美術商。
しかし、実は今、破産寸前なのです。
そんな時ゴヤの名画が何者かに盗まれる。
英国諜報機関MI5のマートランド警部補(ユアン・マクレガー)は、
チャーリーの大学時代の恋敵なのですが、
一応美術には詳しいチャーリーに調査を依頼。
その絵には、ある財宝の秘密が隠されているらしいことがわかってきます・・・



本作、予告のチラシやポスターのジョニー・デップのひげを見た時から、
実はあまり気が進まなかったのです・・・。
彼の妻ジョアンナ(グウィネス・パルトロウ)が、
チャーリーのひげを大嫌いでしたが、
それと同じく私も大嫌い。
でも一応ジョニー・デップですから・・・。
しかし、第一印象を信じるべきでした。
ひたすら奇人変人に徹するジョニー・デップに、
最近はちっとも魅力を感じません。
ストーリー展開に特別な驚きがあるわけでもなく・・・
笑えないギャグが続くばかり。
眠気さえもよおして・・・。


用心棒ジョック(ポール・ベタニー)が
何故か007並みにかっこ良く強くて女にもてるのでしたが、
なんでこんな人がチャーリーなんかの下で働いているのか分からない。
というか、チャーリーに撃たれたりして、散々なのに・・・。

まあ、それを言えば、あの美しく頭の良い妻が
なんでチャーリーの妻だったりするのかも最大の謎なんですけどね。



本作はジョニー・デップでなければ見なかっただろうし、
しかし、見たからといって、特別ジョニー・デップの魅力を楽しめるわけでもない、
がっかりに尽きる作品でした。



私は、シリアスなジョニー・デップが見たい。
シリアスな中でもそこはかとなくにじみでる変人性、
そんな所が面白いのに、
ここまであからさまな変人では単なるおバカです。
この先も奇人変人役であるならば、もうジョニー・デップは見なくてもいい。
私はついにそう結論しました。

「チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密」
2015年/アメリカ/107分
監督:デビッド・コープ
原作:キリル・ボンフィリオリ
出演:ジョニー・デップ、グウィネス・パルトロウ、ユアン・マクレガー、オリビア・マン、ポール・ベタニー

奇人変人性★★★★☆
満足度★☆☆☆☆

エヴァの告白

2015年02月15日 | 映画(あ行)
微妙な愛憎のバランス



* * * * * * * * * *

1921年、ポーランドから希望を胸に
新天地アメリカへ渡ってきたエヴァ(マリオン・コティヤール)。
しかし、妹が胸の病で入国審査を通ることができず、隔離されてしまいます。
また自身も理不尽な理由で入国を拒否されてしまいます。
強制送還されそうになったエヴァは、
ブルーノ(ホアキン・フェニックス)という男に助けられます。
一見紳士の様に思われた彼は、
実は移民の娘たちをいかがわしい酒場で働かせ、売春を斡旋していた。
妹を救い出すためにはなんとしてもお金が必要だ。
厳格なカトリック教徒から売春婦へと身を落としながらも、
どこか気高い意志を保ちながら強く生きていこうとするエヴァ。
そんな時、彼女に思いを寄せるマジシャン、オーランド(ジェレミー・レナー)が接近してきます。
しかし、彼とブルーノの間には、ある確執が・・・。



ブルーノは卑劣で唾棄すべき男ではあるのですが、
次第に見返りを求めない真の愛を持つ様相が見えてくるのが心にくいのです。
この男の純情に、ついホロリ。
エヴァは自分を苦境に陥れたこの男を憎むのですが、
でも自分が生き、また妹を救い出すためには、この男に頼る他ない。
そう思えばこそ、彼についていくのですが・・・。
彼が自分に寄せる思いも伝わる。
微妙な愛憎のバランス。
この辺りが実に上手い。
さすがの存在感と演技力のマリオン・コティヤールなのでした。
結局はメロドラマなのか。
でも結構好きですねえ、これ。



原題はThe Immigrantで、単に「移民」なのですが、
「エヴァの告白」としたのは、
エヴァが教会で告白(いわゆる告解というか懺悔)をするところからとったようです。
この時、ブルーノがこっそりそれを聞いてしまい、
エヴァが自分といることを「罪」と思っていることを思い知るという、
なかなかいいシーンです。
良い邦題だと思います。

エヴァの告白 [DVD]
マリオン・コティヤール,ホアキン・フェニックス,ジェレミー・レナー
ギャガ


「エヴァの告白」
2013年/アメリカ・フランス/118分
監督:ジェームズ・グレイ
出演:マリオン・コティヤール、ホアキン・フェニックス、ジェレミー・レナー、アンジェラ・サラファイン

時代性★★★★☆
男の純情度★★★★☆
満足度★★★★★

はじまりのうた

2015年02月14日 | 映画(は行)
PCと編集ソフトと高性能のマイクさえあれば・・・



* * * * * * * * * *

イギリスから来たシンガーソングライターのグレタ(キーラ・ナイトレイ)は、
恋人デイブ(アダム・レビーン)に裏切られ、
失意のその気持のままをライブハウスで歌っていました。
そこにちょうど居合わせた落ち目の音楽プロデューサー、ダン(マーク・ラファロ)が目をつけます。
二人で組んで、いっそ、アルバムを作ってしまおうということになりますが、
全く資金がなく、スタジオを借りることもできません。
そこで、ニューヨークの街角で、ゲリラレコーディングをすることに。



本作、当初わずか5館の上映が口コミパワーで人気上昇、
1300館まで広がったという作品です。
実際見てみるとそれも納得。
グレタの作る曲は、決してうるさ過ぎずに、
ニューヨークの街角にも馴染むし、また私達の耳にも馴染みます。
見終わったあとも、静かな感動が胸の中に残ります。



これは、売れなくてどん底のミュージシャンが、
一念発起してCDをミリオンセラーにするというような根性物語ではないんです。
グレタは「とにかく売りまくりたい、有名になりたい」というよりは、
ただ自分の気持を歌にすることを大事に思っているのです。
そして、仲間と街の空気を楽しみ、音楽を楽しみ・・・
そういう自然体の音楽の楽しみ方が、
するっと私達の中にも入ってきて、実に心地よい。
そんなグレタだから、彼女がした最後の決断もとても納得がいきます。



シンガーとしては素人のキーラ・ナイトレイですが、
このニューヨークの街角で歌うのにはピッタリの歌声でした。
これが朗々としたプロの歌声だとやっぱりちょっと雰囲気が違う。
あのなんとも人のいい、友人の売れないミュージシャンは、
「ワン・チャンス」のジェームズ・コーデンでしたね。

今は落ち目で、ホームレス寸前のダンは、それでもやっぱり音楽が大好きで、
初めてグレタの歌を聞いた時には、
ピアノやヴァイオリン、パーカッション、
彼の頭のなかでどんどんアレンジが出来上がっていく・・・
すごくステキなシーンでした。


それから、一つのiPodで、
互いのプレイリストを聞きながら街を歩くシーンも心に残ります。
iPodで音楽に浸るのも良いけれど、どうしても「自分だけの世界」になりがち。
そうか、でもこんなふうに二股のヘッドホンがあれば、
「二人だけの世界」がそこに登場するわけです。
音楽を楽しみつつ“共感”をも味わう。
親しくなりたい人とこんな風にしてみるのはいいかもしれません。
ただし、音楽の趣味が合わなければ最悪なことになるかも・・・。
「音楽があれば、見慣れた街角の風景もドラマのワンシーンになる」というのは名言でした。
本当にそのとおりでした。



グレタとダンとデイブの、微妙な心のすれ違い。
これが変なハッピー・エンドにならないところもまた良かったなあ。
グレタはきっと今、
恋人と心を交わせるよりも、音楽で皆と通じ合いたい
・・・と思っているのではないかな。

「はじまりのうた」
2013年/アメリカ/104分
監督:ジョン・カーニー
出演:キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロ、ヘイリー・スタインフェルド、アダム・レビーン、ジェームズ・コーデン

ニューヨーク度★★★★★
満足度★★★★★

「その日東京駅五時二十五分発」 西川美和

2015年02月13日 | 本(その他)
ぼくは一度もそれについてまじめに考えていない。

その日東京駅五時二十五分発 (新潮文庫)
西川 美和
新潮社


* * * * * * * * * *

終戦の日の朝、19歳のぼくは東京から故郷・広島へ向かう。
通信兵としての任務は戦場の過酷さからは程遠く、
故郷の悲劇からも断絶され、ただ虚しく時代に流されて生きるばかりだった。
淡々と、だがありありと「あの戦争」が蘇る。
広島出身の著者が挑んだ入魂の物語。


* * * * * * * * * *

映画監督、西川美和さんの著作です。
「その日」とは、昭和20年8月15日、終戦の日。
本作は氏の父方の伯父の体験談を綴ったものだそうです。


「ぼく」は、昭和20年の春に召集され、
終戦を迎えるまでの約3ヶ月間、陸軍の特殊情報部の傘下で
通信兵としての訓練を受けていました。
だから実際に戦地へ赴いたこともなければ、
銃を人に向けたこともありません。
情報部にいたため、日本が無条件降伏をし、戦争に負けたことを
日本中の誰よりも早く知っていたのです。
彼らの部署は文書等をすべて燃やし処分したあと、
解体され、開放されます。
そうして、東京駅から里の広島へ帰ろうとする
その列車が5時25分発。


彼が戦争について語っている部分があります。

「どんなものを読んだり、歌ったり、暗記させられたりしたけれど、
ぼくは結局戦争のことはよくわかっていないと思う。
飛行機が好きだ。戦闘機も好きだ。
零戦は優れた飛行機だ。
そしてB-29の翼もまた美しいと思う。
軍隊は好きじゃない。
点呼も行進も嫌いだ。飯もひどい。
けれどずっとぶたれたり蹴られたりし続けるのはたまらないから、
下士官になって出世して、軍人として生きていくのも悪くないと思った
・・・中略・・・
このまま本土決戦になって銃剣一本で戦えと言われれば戦うだろう。
でもなぜ戦わなくてはいけないのかはよくわかっていない。
ぼくは一度もまじめにそれについて考えていない。
一度も。」


長くなりましたが、このモノローグは、
当時の人々の多くの心境そのものなのだろうと思います。
車窓から見える、空襲で焼けただれた街、
行き場のない人々、
そして壊滅したと聞かされた広島の街、家族たちの安否への不安。
しかし彼自身は、そんな悲惨さからは遠く離れた地にいたわけです。
何かぼんやりした疎外感のようなもの。
あるいは、現実感のない空虚さ。
これまで自分がしていたことの無意味さ。
自分が何もできない無力感。
そうした気持ちがそこここに、かいま見えます。


確かに過去の出来事。
だけれども、これからあるかも知れない出来事のような気がしてなりません。
自分で武器をとるでもなし、
だからといってそれについて真剣に自分で考えるでもなしの私たち自身に。
中東で起こっていること。
ウクライナで起こっていること・・・。
ニュースでは見知っていても、少なくとも現実感のない私の心境にはとても似ている。


「その日東京駅五時二十五分発」西川美和 新潮文庫
満足度★★★★☆

ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂

2015年02月11日 | 映画(は行)
それでも行くのか・・・



* * * * * * * * * *

1953年、陸軍大佐ジョン・ハント率いる英国の遠征隊が、
前人未到の地エベレストの初登頂を成し遂げました。
本作は当時のアーカイブ映像や本人たちへのインタビューを交えた再現ドラマです。
とはいっても、実際にエベレストで撮影されているので、
その厳しく雄大な山の雰囲気は十分に表されています。
2013年作品なので、ちょうどエベレスト初登頂60周年を記念して作られた作品なのですね。
それで、本当は3D作品なのだそうですが・・・。
3Dだと高所恐怖症気味のわたしは、怖くて観ることができないかもしれません・・・。
でも、ちょっと興味はありますね。
どうせならアイマックスシアターの3Dで、
冬に暖房も切って見たら、ものすごい臨場感があるかも・・・。



この当時、各国がエベレストの初登頂を狙っていたのです。
しかし、失敗に次ぐ失敗。
その時までに13名がこの山で生命を失っていたのだとか。
それで標高8843メートルもの高所では
人間は生きることができないのでは、などとも言われていたそうです。
しかしそれを押して、この英国の遠征隊も、
国の威信を賭けてのアタック。

天候が成功の鍵。
比較的天候が安定したこの5月下旬という時期を逃せば、もうアトがない。
何が何でも成功しなければ・・・というプレッシャーも相当なものだったようです。
第1次登頂アタックのメンバーに選ばれたのは、英国人の二人。
しかし、体力を消耗し、酸素も足りなくなってしまったため、
登頂を断念し、途中で引き返してきました。
けっきょく次の第二次アタック隊として、
ニュージーランド人のエドモンド・ヒラリーと
地元のテンジン・ノルゲイのコンビで成功というのは
ちょっと皮肉な気はします。

(だから本作はニュージーランド制作作品なのでした!) 
けれどこの世界初登頂の知らせが、
ちょうど祖国イギリスのエリザベス女王の即位式の日に届いたそうで、
それはさぞ盛り上がったことでしょう。



現在は当時よりも登山の装備は断然に進化し、
登山ルートの整備も進んだので、当時ほどの難しさはないそうですが・・・。
雪と氷に覆われ、低温と薄い酸素との闘い。
一歩一歩の歩みが平地では考えられないほどに苦しい。
それでもやはり、人々は行くのです
私ならもっと下の方にあるクレバスのところで
もう断念してしまうと思いますが、
あの山頂から見る360度の眺望は、やはり素晴らしいの一言に尽きると思います。
実際に見ることはまず無理なので・・・
やはり、せめて3Dの映画で見たかったですね!



ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂 [DVD]
チャド・モフィット,ソナム・シェルパ,ジョン・ライト,ジョシュア・ラター
KADOKAWA / 角川書店


「ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂」
2013年/ニュージーランド/91分
監督・脚本:リアン・プーリー
出演:チャド・モフィット、リナム・シェルパ、ジョン・ライト、エロール・シャント
チャレンジャー度★★★★★
満足度★★★☆☆

年末年始に見た旧作映画の記事がだぶつき気味だったので、
この1ヶ月、怒涛の毎日更新をしていました!!
でもそろそろこの辺で、以前のペースに戻りたいと思います。
予約投稿とはいえ、休みなく毎日更新というのは、
それなりに煩わしい物でした・・・(^_^;)
ふう、・・・では明日はお休みします。



ファインド・アウト

2015年02月10日 | 映画(は行)
犯人に会うわけなんかない。だって私の妄想だもの。



* * * * * * * * * *

ジル(アマンダ・セイフライド)は、1年前、何者かに拉致監禁され、
辛くも逃げ出したという体験があるのですが、
その時、警察の捜査では証拠が見つからず、
ジルの心の病からくる虚言だと決めつけられてしまいました。
そんな時、今度は同居しているジルの妹が失踪。
ジルはあの時と同じ犯人だと主張するのですが、
警察は全く聞く耳を持ちません。

やむなくジルは孤立無援のまま、妹の行方を探そうとします。
ところが、精神病者が銃を持つのは違法ということで、
警察は妹の行方を探そうとしないばかりか、
ジルの行方を阻み、捕まえようとするのです。



四面楚歌の中を、ただ一人闘いぬこうとするジルがカッコイイ!
彼女は拉致事件の後、無理やり精神病院に入れられ治療を受けさせられ、
未だにカウンセリングと投薬を続けさせられているという身の上。
しかし、自分だけが知っている真実を曲げることはできない
護身術を身につけ体を鍛え続けていたのです。
そういうところが本作では役に立つ。


犯人に行きつくまでのヒントが、
あまりにも都合よく見つかりすぎるという気がしなくもありませんが、
まあ、妹の命がかかっているとなれば、そうのんびりもしていられないか。
ラストが、結構ふるっているというか・・・。
ちょっとやり過ぎ?と思わなくもないですが、
全く役に立たずむしろ障害にしかならなかった警察を
手玉にとるあたりは、なかなか痛快。
つい引きこまれてしまうサスペンスストーリーでした。



ファインド・アウト [DVD]
アマンダ・セイフライド,ジェニファー・カーペンター,キャサリン・メーニッヒ,エミリー・ウィッカーシャム
ワーナー・ホーム・ビデオ


「ファインド・アウト」
2012年/アメリカ/94分
監督:エイトール・ダリア
出演:アマンダ・セイフライド、ダニエル・サンシャタ、ジェニファー・カーペンター、セバスチャン・スタン、ウェス・ベントリー、エミリー・ウィッカーシャム

孤立無援度★★★★☆
満足度★★★★☆

マエストロ!

2015年02月09日 | 映画(ま行)
心がひとつになった時、音楽もひとつになって



* * * * * * * * * *

さそうあきらさんのコミックが原作。
音楽モノは何といっても、
コミックではどうしても味わえない本物の音楽があるのがうれしいですね。


不況のアオリで解散した名門コーケストラが再結成するということで、
メンバーが久々に集められました。
しかし、練習場は廃工場。
集まったのは再就職先も決まらない「負け組」の楽団員たち。
そして、再結成を企画したのは、
これまで全く無名の指揮者、天道(西田敏行)。

彼は指揮棒の代わりに大工道具を振り回し、
ミスや技術の足りないところをもクソミソに指摘。
団員たちは不安と敵意をつのらせますが、
次第に天道の創りだす音楽の世界に引きこまれています。
さてしかし、才能ある若きヴァイオリニストでコンマスの香坂(松坂桃李)は、
天道の過去を知り、反発を強めていくのです・・・。



バラバラだった音楽がひとつになるのは、なんて心地よいのでしょう。
以前「のだめ」で味わったような感動が再び蘇りました。
本作で登場するのはベートーベンの「運命」。
そして、シューベルトの「未完成」。
交響曲5番「運命」の出だしはあまりにも有名ですが、
あの出だしは「ジャジャジャジャーン」ではなくて、
本当は休符から始まる「ンジャジャジャジャーン」だなんてこと、
知るよしもありませんでしたが、面白いものですねえ。



天道が、借金をして返済に苦しみながらも、本当にやりたかったこと。
それが涙を誘います。
脳天気そうに見えるあまね(miwa)も、大変な過去を抱えていた。
そういうことからすると、香坂はなんと恵まれていることか。
きっと彼はそういうことにも気づいていったのだろうと思います。



彼らが最後に聞いた(と思った)天籟・・・
これは多分、この映画よりも、
原作コミックのほうが私たちにも「聞こえる」のではないかな・・・と思いました。
いえ、原作を読んだわけではないのですが、
こういうところ、漫画家さんの表現力は素晴らしいですからね。
私、冒頭で「映画のほうが音があっていい」などと書きましたが、
現実の音では表すことができない何かを、
時にはコミックのほうが明確に私達の心に響かせる、
そんなこともあるものです。
原作の方を確かめてみたくなってきました。



いやしかし待てよ、
本作の脚本は奥寺佐渡子さんじゃありませんか! 
私は「八日目の蝉」の脚本に痛く感動したんですよね。
原作も良かったけれど、まさに映画化のために思い切った構成の再編成をしていて。
だから原作を読んでいてさえも、さらにまた感動したという稀有な作品でした。
となれば本作も、どう原作を切り崩して再構築したのか・・・
など確かめてみたい気もします。


若き日に、指揮者の道を挫折してしまった天道氏は
大工で生計を立てていたのでしょうか?
・・・これでオケ再結成の曲が「第九」だったら、笑えたかも。
それこそ、トンカチの指揮棒で。
(バカなこと考えてしまった!!)


「マエストロ!」
2015年/日本/129分
監督:小林聖太郎
原作:さそうあきら
脚本:奥寺佐渡子
出演:松坂桃李、miwa、西田敏行、古館寛治、大石吾朗、松重豊

オーケストラの楽しみ度★★★★☆
満足度★★★★☆