映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「1日10分のごほうび」赤川次郎他

2020年12月31日 | 本(その他)

短編もあなどれない

 

 

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NHK WORLD-JAPANのラジオ番組で、
世界17言語に翻訳して朗読された小説のなかから、
人気作家8名の作品を収録。
好評シリーズ第二弾。
亡き妻のレシピ帳から在りし日の姿を想う老夫。
対照的な生き方をしている女友達からの贈り物。
大御所・赤川次郎×新鋭・田丸雅智のショートショート読み比べも愉しい一冊。
きっとお気に入りの作品が見つかるはず!

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ということで、シリーズ2冊目。
今回の執筆者は

赤川次郎、江國香織、角田光代、田丸雅智、
中島京子、原田マハ、森浩美、吉本ばなな(敬称略)

 

角田光代さん「旅する本」は、一冊の同じ本を、
年月を経て旅先(しかも海外)で再び、三たび手にするという物語。
同じ本なのに、読むたびに違う感慨が浮かんでくるその本。
本来本というのはそうしたものなのかもしれません。

 

中島京子さん「妻が椎茸だったころ」は、
仕事を定年退職した途端に妻を亡くした男性が、
料理を始めるようになる話ですが、
その亡くなった妻のレシピノートに
「自分が椎茸だったころ」という一文を見つけるのです。

 

実はこの2篇、以前それぞれの短編集で読んでいて、
中でも印象に残っていた作品でした。
この度この本を読んでも、やはりいちばん好きなのはこの2作。

短編って、あまり記憶に残らないと思っていたのですが、
こうしてみると短いながらも
しっかり胸の中に根を下ろす作品というのがあるものなんですね。

 

この2作はどこか不思議なようでいて、なんだかしっくりと納得できてしまう、
著者の感性が伝わるようなステキな作品なのです。

 

 

「1日10分のごほうび」赤川次郎他 双葉文庫

満足度★★★★☆

 


シャーロット・グレイ

2020年12月30日 | 映画(さ行)

自己の意思と愛を貫く

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第二次世界大戦下、ロンドン。
看護師シャーロット・グレイ(ケイト・ブランシェット)は
パイロットのピーター(ルパート・ペンリー=ジョーンズ)と出会い、恋に落ちます。
やがてピーターはナチス支配下のフランス戦線に赴き、行方不明に。
シャーロットは、諜報員として地元のレジスタンスに協力するためフランスへ。
そこでリーダーのジュリアン(ビリー・クラダップ)と知り合います。
そして、ユダヤ人の幼い兄弟を匿うために、
ジュリアンの父親の元で暮らすことになるのです。
また、そんな中でもシャーロットはピーターの行方を捜そうとしますが・・・。

 

ジュリアンはレジスタンスとして奮闘するも結局、
多くの仲間を失い、父も、ユダヤ人兄弟も連行されてしまいます。
失意の中、シャーロットに、共に逃げようと言うのですが・・・。

ジュリアンの苦しみに深く同情し愛情も芽生えているシャーロット。
彼女が同行を拒んだのは、ピーターのためではないのです。
何しろその時、ピーターは・・・。

彼女はせめて何か、この八方塞がりの状況の中で
たった一つでも何かできないかと思うのです。
それは結局、ごくごくささやかなことではありました。
けれど、必要なことだった・・・。
シャーロットの子どもたちへの思いに胸が熱くなります。

 

彼女はフランスに入り、ずっと本来の素性を隠し偽名を使っていました。
そんな彼女が偽名のままジュリアンの気持ちを受け入れることに
ためらいもあったのだと思います。
そんな彼女が、初めて彼に本名を告げる。
それがラストシーン。
そこで本作の題名が生きるのです。
なるほど~!です。

 

本作もこのブログ開始以前に見て好きだった作品。
とはいいながらストーリーはほとんど忘れていまして、
今でも私の好きなドイツ統治下のフランスの話。
改めて楽しみました。

 

意志の強い女、やはりケイト・ブランシェットがドンピシャリです。

 

<Amazon prime videoにて>

「シャーロット・グレイ」

2001年/アメリカ/121分

監督:ジリアン・アームストロング

原作:セバスチャン・フォークス

出演:ケイト・ブランシェット、ビリー・クラダップ、マイケル・ガンボン、
   ルパート・ペンリー=ジョーンズ

 

戦時下のロマンス度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


真珠の耳飾りの少女

2020年12月29日 | 映画(さ行)

無垢から漏れ出る艶めかしさ

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本作、以前に見ていたのですが、当ブログ開始前のことだったので、
ブログ記事になっていません。
そういう作品が結構ありますので、時々拾っていこうと思います。
ただし、必ずしもネット配信などで見ることができるワケではないようで・・・。
そこは残念なのですが。

 

17世紀オランダ。
画家フェルメールの名画「真珠の首飾りの少女」が描かれた背景に物語を構築し、
モデルとなった少女の目を通じて描かれています。

グリート(スカーレット・ヨハンソン)は、
画家フェルメール(コリン・ファース)の家の使用人として働き始めます。
フェルメールはグリートの色彩感覚を見抜き、
絵の具の調合なども任せるようになり、
さらには彼女をモデルに絵を描き始めます。

しかし、フェルメールの妻は心穏やかではない・・・。

 

フェルメールの絵の色調と会わせるように、
映画全体の色調も柔らかな光と影に包まれるようです。
そしてセリフもごく少なく、静謐。

グリートとフェルメールの間には、具体的な接触は何もありません。
それなのに、絵とか色彩に関する思いは一心同体のようでもある。
そして、言葉にならない互いの感情が、官能的に揺らめくのです。

無垢な少女、沈黙、からみつく視線。

宗教上の習慣らしく、未婚女性はフードをかぶって髪を見せない。
そんな彼女が絵のモデルになるために、
一瞬見せたその豊かな髪はなんと艶やかなこと・・・。

 

フェルメールは妻との間に何人も子どもがいます。
本作中でも一人の子の出産シーン(声だけですが)がある。
そんなふうに実質フェルメールは男として正常以上(?)の機能を持っているのですが、
ありがちな話のように、モデルの若い女には決して手を出さない。
それは、グリートの無垢さ故の「美」を理解しているからなのかもしれません。
でも、グリート自身うずくのですよね・・・。
いかがわしいシーンなど何もないのに、(あ、なくはないのか)、
エロスの粋を極めるすごい作品だと思います。

<Amazon prime videoにて>

「真珠の耳飾りの少女」

2003年/イギリス/100分

監督:ピーター・ウェーバー

出演:コリン・ファース、スカーレット・ヨハンソン、トム・ウィルキンソン、
   ジュディ・パーフィット、キリアン・マーフィー

エロス度★★★★★

スカーレット・ヨハンソンの初々しさ★★★★★

満足度★★★★☆


ヲタクに恋は難しい

2020年12月28日 | 映画(わ行)

乙女心をくすぐる草食系メガネくん

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26歳OL成海(高畑充希)は、コミックやゲーム、コスプレ、BLを愛する腐女子。
そんな彼女が、転職先の会社で、幼なじみの宏嵩(山崎賢人)と出会います。
宏嵩はゲームオタク。
成海は自分が腐女子であることを会社では隠しているのですが、
宏嵩の前でなら本当の自分を晒し出すことができるのです。

そこで宏嵩は、ヲタク同士なら気楽に付き合うことができるのでは?
と提案し、二人は付き合うことになりますが・・・。

ミュージカル仕立てのラブコメ。
なんだか単純に楽しめて、こういうのもたまにはいいかな、と。
高畑充希さんは歌もしっかりしているので安心ですし。
中にはラ・ラ・ランドを意識したと思われる
夜景をバックにしたダンスシーンなんかもあって、しゃれています。

宏嵩の人物造形というのが、いかにも少女漫画に出てくるような胸キュン男子。
通常むっつりしていて、ため口をきく。
けれど本当は優しく主人公が大好き。
愛情表現は極めて不器用。
一見草食系メガネくん。

こんな彼が突然壁ドンなどしようものなら・・・ね、萌えるわ~。
おばさんまで舞い上がって胸キュンしちゃいます・・・。

途中から出てきた成海の上司は斎藤工さん。
これがまた通常の斎藤工さんのイメージを裏切る感じで、楽しめました。

<WOWOW視聴にて>

「ヲタクに恋は難しい」

2020年/日本/114分

監督・脚本:福田雄一

原作:ふじた

出演:高畑充希、山崎賢人、菜々緒、賀来賢人、今田美桜、ムロツヨシ、斎藤工

 

ミュージカル・ダンス度★★★☆☆

コミカル度★★★★☆

満足度★★★.5

 


「あなたの右手は蜂蜜の香り」片岡翔

2020年12月26日 | 本(その他)

「愛する」ということ

 

 

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ひとりぼっちのクマと、ひたむきな少女。
心がぽうっとあたたまる、究極の愛の物語。
あたしのせいで動物園に入れられたクマの「あなた」を、必ず救い出す。
どんなことをしても。
雨子はそう誓った日から、親友の那智くんとも離れ、飼育員になるため邁進する。
だが、それは本当に「あなた」の望むことなのか。
大人になった雨子が出した結論は――。
真っ直ぐに誰かを想う気持ちが交差する、切なく温かな物語。

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本作、自然に生きる生き物と人間との関わりを描く物語かと思ったのですが、
実のところは、解説文にもあるとおり、“究極の愛”の物語です。
そう表現するのがいちばん的確。

 

北海道の倶知安に住む小学生・雨子。
その日、近所にクマが出没したということで、集団下校し、
その後も外出禁止と言われていました。
しかし動物大好きな彼女は、興味に駆られてクマを探しに出かけます。
そして道ばたで一匹の子グマと遭遇。
そのあまりのかわいらしさに、近づき話しかけてしまう。
けれど、そのすぐそばに母グマがいたのです。
母グマが今にも雨子に襲いかかろうとしたその刹那、
銃声がとどろき、母グマは撃ち殺されてしまったのでした。

母グマの突然の死。
雨子には子グマの声が聞こえます。

「おかあさん。おかあさん。」

「ねえ、おかあさん。おかあさん。」

ぽとり。ぽとり。

まんまるの目から、大粒の涙が雨のようにこぼれ落ちていた。

 

雨子は自分のせいで母グマが殺され、
子グマが一人ぼっちになってしまったことにひどく罪悪感を持つのです。
そしてやがてその子グマが仙台の動物園に引き取られたことを知り、
いつかきっと自分が子グマを救い出すと心に誓う。

そして雨子はその目的に向かってひたすらまっしぐら。
何が何でもその動物園の飼育員になると思い、ついに念願かなうのです。

雨子はクマに向かい「あなた」と呼びかける。
雨子には、「あなた」の声が聞こえる。
それは自分の思い込みなのかもしれないとわかってはいるけれど・・・。

でもクマを動物園から救い出すといっても一体どうやって? 
第一、子どもの時から動物園にいて、今さら自然の中で自分で生きていけるのか? 
クマにとっての幸せとは?
悩みながらも、雨子を支えたのは「あなた」の無垢なまなざしなのかもしれません。

まさか、と思うほどの雨子の決断と実行力で、
終盤のストーリーはあれよあれよというように進んで、ラストで気づくのです。
つまりこれは、究極の愛の物語を寓話的に描いたのだったのか・・・と。

雨子のことを必死で守ろうとする那智くんも良かったんだけどなあ・・・。

 

著者片岡翔さんは、北海道出身の主に脚本家。
私が以前見た映画「町田くんの世界」も、この方の脚本だったようです。
本作は小説としては2作目とのこと。
今後も楽しみです。

図書館蔵書にて

「あなたの右手は蜂蜜の香り」片岡翔 新潮社

満足度★★★★☆

 


「十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞」内館牧子

2020年12月25日 | 本(その他)

「源氏物語」世界への旅

 

 

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59もの会社から内定が出ぬまま大学を卒業した二流男の伊藤雷。
それに比べ、弟は頭脳も容姿も超一流。
ある日突然、『源氏物語』の世界にトリップしてしまった雷は、
皇妃・弘徽殿女御と息子の一宮に出会う。
一宮の弟こそが、全てが超一流の光源氏。
雷は一宮に自分を重ね、光源氏を敵視する弘徽殿女御と手を組み暗躍を始めるが…。
エンタメ超大作!!

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本作、伊藤健太郎さん主演で映画化、
しかし、公開寸前に例の事件がありました。
かろうじて無事公開となったものの、なんだか見る気をそがれ、
そうこうするうちに札幌市は外出自粛要請が出てしまったので、
結局見ないまま・・・。

ということで、せめて原作を読んでみようという気になりました。

 

本作の「十二単衣を着た悪魔」というのはつまり、
源氏物語に登場するところの“弘徽殿女御”のこと。
弘徽殿女御というのは桐壺帝の正妻にして、第一王子(一の宮)を生んだ女性です。
その側室、桐壺更衣が生んだ第二王子(二の宮)こそが光源氏。
ところが、桐壺帝は、桐壺更衣ばかりを寵愛。
そして、その子、二の宮は誰もがハッとする美貌と利発さを持っている。
夫に疎まれ、おまけにこのままでは一の宮ではなく
二の宮を跡継ぎの帝にされかねないと思う弘徽殿の女御は、
心穏やかではありません。

ということで、源氏物語上の弘徽殿女御は、無論脇役ではありますが、
意地悪で気の強いイヤ~な女として描かれているのです。

 

さて、高校生時代の内館牧子氏、源氏物語を読んで、
この弘徽殿の女御が気に入ってしまったというのです。
自我を持って強くたくましく生きる女、弘徽殿の女御が。
確かに、当時の女性はすべて男の意思次第。
男に従うしか生きるすべがない。
せいぜいが、「男を拒み出家する」くらいしか自分の意思を通すことができない。
そんな中で、なんというたくましさ、ずる賢さ・・・ということなのですね。

従いまして本作は、著者のそうした思いを小説にした、弘徽殿女御コードの物語。
源氏物語のストーリーを追っていますが、光源氏は脇役なのです。

 

さてしかしこの物語、奇想天外の設定から始まっていて、
まさに源氏物語をほとんど知らない私のような者でも
その世界観にすんなり入り込んでいけるように描かれているのです。

 

時は現代。
59もの会社から内定が出ないまま大学を卒業したさえない男、伊藤雷が、
ある日突然源氏物語の世界へ入り込んでしまうのです。

タイムスリップ? 
いや、源氏物語はれっきとした創作なので、
たとえタイムマシンができたとしても、そこには行けない。
でもまあ、そもそもタイムスリップ自体が想像上のものですもんね。
歴史上の事実であろうが創作物語だろうが、さして変わりはないか・・・。
光源氏が現代に現れるという物語もあったことですし。

それでこの伊藤雷は、弘徽殿女御付きの陰陽師としてその世界で生活し、
ナマの源氏物語世界を体験することになるのです。
そして、弘徽殿女御のキツい性格を魅力的だと思う。
そして、その息子一の宮が異母弟の光に対して持つコンプレックスを気の毒に思う。
というのも「あちらの世」で、雷は弟の水に対して
常にコンプレックスを持ち続けていたから。

水は、ハンサムで頭も良くスポーツ万能。
何をやっても優秀で、おまけに性格もいい。
それに引き換え、特に優れたところは一つもなく、ひたすら凡庸な自分。
ついにはまともな就職もできなかった・・・。
良くできたご両親はあえて兄弟を比べようとはせず、
極力雷を立てるようにしていたけれど・・・、
逆にそれが心苦しくもあり、いたたまれなくなってしまっていた雷。

そんな雷だから、一の宮の苦しみはよくわかるのです。

そんな彼も、「この世」では人々から頼りにされ、
弟へのココンプレックスから初めて解放されるのです。
結婚もして子をなすも、心が引きちぎれるようなつらい出来事があり・・・。
「この世」で過ごして25年・・・。

もう「あちらの世」には戻れないだろう、
イヤ戻りたくもないと思うようになっていましたが・・・。

というふうに、雷の運命の先行きも気になり、どんどん読めてしまうのでした。

 

やはり映画も、そのうちレンタルで見られるようになったら、きっと見たいと思います。

 

この伊藤雷を伊藤健太郎さんが演じていて、弘徽殿女御は、三吉彩花さん。
で、光源氏は?と気になり調べてみたら、沖門和玖さん・・・? 
シリマセン・・・。

 

「十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞」内館牧子 幻冬舎文庫

満足度★★★★☆

 

 


しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス

2020年12月24日 | 映画(さ行)

ひたすら絵を描く妻、粗暴な夫

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カナダの女性画家モード・ルイスの半生を描きます。

カナダ東部の小さな町。
買い物中に見つけた家政婦募集の貼り紙を見て、
モード(サリー・ホーキンス)は、
エベレット(イーサン・ホーク)が暮らす町外れの小さな小屋に押しかけます。
モードは子どもの頃から重度のリウマチを患っており、動作がぎこちなく、
これまで仕事にも付くことができずに、兄や叔母から疎ましがられていたのです。

一方エベレットは孤児院育ちで学もなく、
魚の行商などをしながら電気も通わないごくごく小さな家で暮らしていたのです。

モードは家政婦には向かないとエベレットは思ったのですが、
帰るところもないモードを見てやむなく試しに、ということで、家に置くことになりました。
二人の同居はトラブルだらけではありましたが、
世間からのはみ出し者の二人は互いを認め合い、やがて結婚。

さて、モードは絵を描くことが好きで、
ひたすら家の壁や板きれなどに絵を描いています。
ある日、家を訪れた者がその絵を見て、その絵に惹かれ・・・。

モードの絵は、元々誰に見せようと思って描いたものではありません。
ひたすらに好きで描いていただけ。
作中にもありましたが「うちの子どもでも描けそうな絵」。
けれど、その飾らない素朴な絵は、明るくてなんだか心温まる気がする・・・。
これ見よがしな技巧も計算もない絵。
いいですよね。

さて本作で注目すべきはもちろんこの方の描く絵のことではありますが、
もう一つ、夫エベレットのこと。
彼は粗暴で無骨で不器用。
無骨で不器用なら高倉健さんだけれど、
健さんにはあり得なく、威圧的で乱暴でもあるのです。
そんな彼は絵のことなどはわからないけれども、
モードの絵は嫌いではなさそうなのですね。

彼は孤児院育ちで、彼だけに向けた愛というものを経験したことがないのでしょう。
だから優しさとか、愛の表現の仕方を知らない。
そんな彼が、モードによって少しずつ変わっていくのです。

家政婦としてやって来たはずのモードが、
絵が売れるようになってからはひたすら絵ばかり描くようになり、
彼が家事をこなすようになっていくというのもなかなかよい。

けれど次第に彼自身の立場が微妙になっていくことに、いらだつようにもなります。
モードがこの家の主人で、自分が付録でもあるかのような・・・。

こうした複雑な気持ちの変化を、さすがのイーサン・ホーク、すばらしく演じています。
というか、この粗暴な男がイーサン・ホークだなんて!!と、
初めのうちビックリしたくらいです。

これまで知らなかったモード・ルイスを描く良品でした。

 

<Amazon prime videoにて>

「しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス」

2016年/カナダ・アイルランド/116分

監督:アシュリング・ウォルシュ

出演:サリー・ホーキンス、イーサン・ホーク、カリ・マチェット、ガブリエル・ローズ

 

夫婦愛度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


AI崩壊

2020年12月23日 | 映画(あ行)

命が選別される・・・?

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2030年.天才科学者桐生浩介(大沢たかお)が開発した医療AI「のぞみ」は、
年齢、年収、家族構成、病歴など、
全国民の個人情報と健康を管理しており、
社会のインフラとして欠かせないものになっています。

ところが、あるとき突然「のぞみ」が暴走を始めます。
AIが生きる価値のない人間を選別して殺戮しようとするのです。
警視庁桜庭(岩田剛典)は、AIを暴走させたのは開発者である桐生と断定。

濡れ衣を着せられた桐生は事態の収拾を図りつつ、逃亡を続けますが・・・。
絶体絶命のピンチを切り抜ける近未来SFアクション。

桐生が夜の海にフェリーから飛び降りて、漁船に救われるなんて、
かなり無理筋なところもあるけれど、まあ、面白かったのでは・・・。

しかし、事件の黒幕は実は別のところにいて・・・というのも楽しめます。
そんな中で、IAにはあまりなじめないアナログ刑事(三浦友和)+その相方(広瀬アリス)の
コンビがいい感じです。
AIの予測よりも、ベテラン刑事の勘の方が正しい!!

もし今こんな医療AIが普及していたとしたら、この度のコロナ禍をどのように裁いたのかな・・・?
と思わずにいられません。
いち早く感染の疑いを持つ者を選別して隔離・・・ってことができるかな?
ただしやはり、あまりにも濃密な個人情報を本当に守れるのか?
というところが問題になるでしょうね・・・。
そんなふうに管理されるのはイヤ、という感情の方が強そうですし。

<WOWOW視聴にて>

「AI崩壊」

2020年/日本/131分

監督・脚本:入江悠

出演:大沢たかお、賀来賢人、広瀬アリス、三浦友和、岩田剛典、松嶋菜々子、毎熊克哉

 

サスペンス・スリル度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


エイプリルフールズ

2020年12月22日 | 映画(あ行)

嘘から出た奇跡

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戸田恵梨香さんと松坂桃李さん出演の本作、
もちろん、ミーハー的興味から見ました!
5年前の劇場公開時には、なんだか下らなさそう・・・と思って
見ないでしまっていたものですが。

 

 

4月1日、エイプリルフールの大都市を舞台としています。
この特異な日、様々な人々の群像劇。

★セックス依存症の天才外科医と自称する男(松坂桃李)と、
 彼との一夜の関係でできた子を身ごもる対人恐怖症の妊婦(戸田恵梨香)。
 彼女は銃を持って子どもの認知を男に迫り、レストランに立てこもります。

★何やら不器用な少女誘拐犯。

★自分は宇宙人と信じる中学生

★仲の良い大学生男子のコンビ。
 エイプリルフールなので、からかって愛の告白をしてみたら・・・。

★いかにも裕福で品の良い夫婦がタクシーで街に出て・・・

等々・・・、それぞれの場所で怒る騒動。
けれど、直接的には関係のないこれらの出来事が
実は少しずつつながっていたり、関係していたりすることが最後に見えてきて、
なかなか凝った作りとなっています。
豪華出演陣とユニークな脚本をしっかり楽しみました。
公開時に見れば良かった。

メインのストーリーはやはり戸田恵梨香さんと松坂桃李さんのレストラン立てこもり事件。
自暴自棄に駆られる妊婦(妊娠はウソのようだけど・・・?)と、
女たらしの嘘つき男の運命やいかに。

 

作中で誘拐されていた少女は浜辺美波さんじゃありませんか!!

ウソは時々奇跡を呼び起こす。
面白いです。
見逃していた方はぜひ。

 

Amazonプライムビデオにて

「エイプリルフールズ」

2015年/日本/120分

監督:石川淳一

脚本:古沢良太

出演:戸田恵梨香、松坂桃李、ユースケ・サンタマリア、菜々緒、戸次重幸、
   浜辺美波、富司純子、里見浩太朗、滝藤賢一

 

嘘から出た奇跡度★★★★★

満足度★★★★☆


「1日10分のしあわせ」朝井リョウ他

2020年12月20日 | 本(その他)

大切にしたい粒選りのストーリー

 

 

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全世界で聴かれているNHK WORLD-JAPANのラジオ番組で、
世界17言語に翻訳して放送された、人気作家8名の短編を収録。

几帳面な上司の秘められた過去。
独り暮らしする娘に母親が贈ったもの。
夫を亡くした妻が綴る日記……。
海の向こうに暮らす人々に、私たち日本人の愛すべき姿を細やかに伝えた好編が、
オリジナル文庫として登場!

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全世界で聴かれているNHK WORLD-JAPANのラジオ番組で、
世界17言語に翻訳して放送された、
人気作家の短編集というのに興味を持ちました。
何しろ豪華執筆陣、しかも選りすぐり。
本巻では、朝井リョウ、石田衣良、小川洋子、角田光代、
坂木司、重松清、東直子、宮下奈都(敬称略)。
さらにはどれも10分で読める程度の短編ということで、
手軽でもあり、手に取りやすいですね。
この文庫の同シリーズが他にも2巻出ているので、
私は思わずそちらも合わせて買ってしまいました!!

 

本作一作目は、朝井リョウさん「清水課長の二重線」

会社の総務部に配属された岡本。
すなわち、事務方であります。
もっとクリエイティブな仕事がしたかった・・・と、気落ちしています。
地味だし、退屈だし・・・。
そんな中で清水課長はやたらと四角四面で融通が利かない。

私もそんな仕事をずっと続けていたので、
この岡本くんの気持ち、すごーくよくわかるのです。
けれど、どんな仕事にもその仕事の意義があり、
それをきちんとやり遂げることには熟練が必要。
何よりも、整然と仕事することは気持ちがイイ。
そんなふうに気持ちが変わっていく岡本のささやかな一幕を描いています。
仕事をするということのほんの一面ではありますが、
何やら爽やかな風が吹くような・・・、さすがの一作でした。

 

巻末は宮下奈都さん「アンデスの声」

「私」の祖父母は農家で、ひたすら畑仕事をし、一生を終えようとしています。
二人で海外旅行はもちろんのこと、せいぜい行ったことがあるのは県内の温泉くらいで、
国内旅行をしたという話も聞いたことがない。
祖父の危篤の知らせを聞いて田舎へ向かう「私」。
そして、幼い頃にここで見た風景を思い出すのです。
バックに高い山がそびえ、澄んだ湖が広がっていて、
そして鮮やかな赤い花が咲き乱れている・・・。
でもこの近辺にそんな風景が見える場所などないのです。
この記憶は一体何・・・?

その答えは、若かりし頃の祖父母の意外な「趣味」に関係するものでした。
それが本巻の成り立ちであるラジオと関連しているという、
なかなか心憎い一作。
地道で代わり映えのしない祖父母のイメージが、
一転して華やかなもの変わる、魔法のような一作でもありますね。

 

最初と最後だけ、ご紹介しました。

「1日10分のしあわせ」朝井リョウ他 双葉文庫

満足度★★★★☆

 


「夏の坂道」村木嵐

2020年12月19日 | 本(その他)

新しい世の中のために、若者を導く

 

 

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戦後最初の東大総長として、敗戦に打ちひしがれた日本国民を鼓舞し、
日本の針路の理想を示した男!
原動力となったのは、幼き日の母との約束。
一高時代の新渡戸稲造、内村鑑三との出会い。
東京帝大教授として反戦を目指しながらも、
教え子たちを戦場に送り出す苦悩を味わいながら戦争と対峙していった。

* * * * * * * * * * * *

戦後最初の東大総長を務めた南原繁氏の生涯を描きます。

 

南原氏は明治22年(1889年)の生まれ。
この年、明治憲法が発布されたということで、
後に政治学者となる氏には、暗示的な年でもあります。

明治末期~大正期、比較的思想も自由な時期に青年期を過ごし、
哲学や政治について、貪欲に学び、
大正10年には東京帝国大学(東大の前身)の助教授に就きます。

そして時代は次第にきな臭い方向へ動き始める。
軍部がその力を肥大させ、権力をにぎり、日中戦争から太平洋戦争へ・・・。

南原氏は、この日本の動きを誤っていると確信しています。
しかしそれを声高に言ったために職を追われた同僚も多く見ている。
こうして、まともな考えを持つ教育者がいなくなってしまったら、
誰が学生たちに「真理」を教えるのか・・・。

そして、いよいよ押し迫った時期にはついに学徒出陣が始まります。
帝大生も例外ではなく戦地に送り込まれるようになる・・・。
南原氏の教え子たちは、この戦争が過ちであることも良く理解している。
けれども彼らは黙って出陣していき、ついに戻らない者も多くいた。

自分はこのことを止めることができなかった、
ということがその後も南原氏を苦しめるのです。
でも、というかだからこそというべきか、
終戦後に氏は、新しい日本のあり方に情熱を燃やすわけです。
新憲法のなりゆきを心配し、教育基本法の成立に関わる。

 

教育基本法の前文は力強く、このようにうたわれています。

「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、
民主的で文化的な国家を建設して、
世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。
この理想の実現は根本において教育の力に待つべきものである。

われらは、個人の尊厳に重んじ、
真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、
普遍的にしてしかも個性豊かな文化の創造を普及徹底しなければならない。」

 

いま読んでもそのまま納得できる美しい文章ですね・・・。
少なくとも今の教員養成時に、この精神をしっかり植え付けてほしいものです。

とはいえ、

個人の尊厳に重んじ、真理と平和を希求する人間。
普遍的にしてしかも個性豊かな文化。

今、できてますかねえ・・・?

 

 

ちなみに、教育基本法は後の改正によって、この前文も書き換えられているようです。
が、そちらを見ても、この前文の方が格調高いと私は思う・・・。

 

個々の思想によっては納得できない点はあるかもしれませんが、
自らの信念に基づき、多くの学生たちに教え、
それによって新しい世の中を導き出そうとする・・・、
これもまた尊く希有な人生だなあ・・と、感銘を受けた次第。

 

「夏の坂道」村木嵐 潮出版社

満足度★★★★☆

 


ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー

2020年12月18日 | 映画(は行)

ガリ勉さんの覚醒

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高校卒業目前のエイミー(ケントリン・デバー)とモリー(ビーニー・フェルドスタイン)。
仲良しの二人は、成績優秀の優等生であることを誇りに、
これまで真面目に勉学に励んできたのです。
ところが、遊んでばかりいるように見えたクラスメイトたちも、
自分たち同様のハイレベルの大学に行くことになっていたり、
有名企業に就職が決まっていることを知って、ショックを受けます。
これまで、自分たちは勉強のためにすべてを犠牲にしてきた・・・。
せめて楽しい時間を最後に挽回しようと、卒業パーティーに行くことを決意。
しかしもとより行くつもりでなかったため、パーティーの場所すらも知らないのです・・・。

アメリカの青春映画には良く出てくる高校卒業時のパーティー、プロムですね。
遊びほうけているように見えた級友たちも、
知らない間にちゃんと勉強したり就職活動をしていた、
ということに動揺してしまう二人。
なんのために遊びもせずに必死で勉強ばかりしていたのかと、2人は思うわけです。
でも、おかげで自分たちも希望通りの大学へ入ることができたのだから、
それでいいじゃない、という話ではあるのですけれどね。
でも二人には実は意中の人がいて(エイミーはレズビアンなので、相手は女性ですが)、
パーティーに行ってせめて話をしたい、あわよくば告白したい、
という思いが爆発するわけです。

すごいなあ・・・と思うのは、やはりアメリカ。
それぞれの個性が強烈です。
他の級友たちを知ろうとしなかったのはエイミーたちの方。
他のクラスメイトは、ガリ勉の2人を馬鹿にする者も確かにいるのですが、
パーティーに来た2人を見ても意外と歓迎ムード。
2人の感じ悪さを理由に、拒否したりしません。
日本と比べると本当におおらかで、皆個性豊か、
あまり程度がひどすぎない限りは誰でもウェルカムという感じ。
こういうのがアメリカだなあ・・・と、妙に納得したりします。
勉強一筋というこの2人ですらも下ネタ満載ではありましたし・・・。

青春映画としてはまあまあ・・・かな?

表題Booksmartは、本で詰め込んだ知識ばかりで実体験を伴わない人、
すなわち頭でっかちの人という意味で、この2人を指すわけです。

<WOWOW視聴にて>

「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」

2019年/アメリカ/102分

監督:オリビア・ワイルド

出演:ケントリン・デバー、ビーニー・フェルドスタイン、ジェシカ・ウィリアムズ、
   リサ・クドロー、ジェイソン・サダイキス

 

下ネタ度★★★★☆

青春度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


ドラゴンクエスト ユア・ストーリー

2020年12月17日 | 映画(た行)

ドラクエファンに捧ぐ

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ドラゴンクエストの5作目、
「ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁」(92年)を原案とした3DCGアニメです。
オリジナルゲームの生みの親、堀井雄二監修、すぎやまこういち音楽。

少年リュカは、ゲマ率いる魔物たちに連れ去られた母マーサを取り戻すため、
父パパスと旅を続けていました。
しかし父が魔物たちとの戦いに敗れ、目の前で殺されてしまいます。
ゲマのもとで奴隷として働かされて10年。
脱出に成功したリュカは、故郷の家で
「天空の剣と勇者を探し出せば、母を救い出すことができる」
と書かれた父の日記を発見します。
父の意思を受け継ぎ、リュカは冒険の旅へ・・・!

ドラクエのゲームをしたことがある人なら、
音楽を聴いただけでも懐かしい思いがこみ上げてくるはず。

 

私、多分この年代としては珍しくドラクエにハマった経験を持っています。
当時娘がハマっていたのを一緒になって楽しんいました。
スーパーファミコンの時代までですけれど。
だからこの「天空の花嫁」もちゃんとやりましたよ!
それで思い出しました、ビアンカか、フローラか、究極の選択があったことを。

当時のゲームは、無論今のように緻密なビジュアルがある訳ではありませんでした。
ごくごく単純に表された登場人物たち。
そんな映像ながらも、私たちはすっかり登場人物に感情移入して、
時には涙すらも流したものです。
そんな感覚を久しぶりに思い出したのでした。

長い時間を旅する物語というのも興味深いですし、
勇者とはすなわちリュカなのだろうと言う予想を裏切りつつも、感動の展開。
そういうところも面白い。
そして、最後のオチもまた決まっている。
いいんじゃないでしょうか。

そして、本作、声にあてた俳優がすばらしく豪華なのです。
佐藤健さん、有村架純さん、波瑠さん、
坂口健太郎さん、山田孝之さん、安田顕さん。

透き通ってぷにゅぷにゅのスライムがカワイイ!!

リュカはどことなく佐藤健さんに似てる感じすらしてきます。
良いわ~。

というわけで、私には申し分なく楽しめた作品なのですが、
実のところさほどヒットはしなかったみたいなんですね・・・。
今時の子どもたちには、物足りないのかなあ・・・。

ドラクエが好きだった30年前の少年少女(または少年少女の心を持っていた大人)
のための作品なのかもしれません。

 

<WOWOW視聴にて>

「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」

2019年/日本/103分

総監督:山崎貴

原作:堀井雄二

声:佐藤健、有村架純、波瑠、坂口健太郎、山田孝之、安田顕

 

ノスタルジー★★★★★

満足度★★★★☆

 


サヨナラまでの30分

2020年12月16日 | 映画(さ行)

カセットテープでつなぐ絆

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バンド「ECHOLL」がメジャーデビュー目前に解散してから1年後。
メンバーの前に突然見知らぬ大学生颯太(北村匠海)が現れます。
颯太は、バンド再編成をするようにとメンバーに呼びかけるのですが、
実はこの颯太とは、1年前に事故死したボーカルのアキ(新田真剣佑)なのです。

颯太が偶然拾ったカセットテープを再生すると、
その30分だけ、アキが颯太の体を借りて現れるのです。
そうでないときには、アキの姿は颯太にしか見えません。
アキが颯太の体を借りている時には、颯太は颯太の姿のままでいるのですが、
他の人には見ることができません。

どっちにしても、バンドのメンバーや周りの人々には、颯太の姿のまま。
ということで、アキの存在に気づく人はいなくて、
アキとしてはちょっと切ないわけです。

人付き合いの苦手な颯太でしたが、
アキによって強引にバンドに加わることになってしまい、
始めは渋々だったものの、次第に仲間と音楽を奏でるときの楽しさや
一体感を持つようになっていくのです。
でも、かつてのアキの恋人・カナ(久保田紗友)だけは、バンドに戻らず・・・。

私、最近DISH//の「猫」にハマっている身としては、本作うってつけの作品でした!

颯太がバンドのメンバーたちになじみ、親しくなっていくとともに、
彼らのアキの記憶が薄れていきます。
まるでカセットテープに上書きして、もとの音楽が消えてしまうみたいに・・・。
そのことを良しとしない颯太は、バンドから離れようともするのですが・・・。

誰もの思いが優しく切ない、ステキなストーリーです。

最近若い人たちにカセットテープがまた見直されているといいますが、
そういうブームに乗った作品でもある訳です。

私も昔、自分の好きな曲だけ集めたテープなど作ったことを思い出します。
そういえばまだカセットテープは残っているけれど、それを聴くことのできるプレーヤーがない!! 

イヤ、残っていたとしても、テープが劣化してもうダメかも、ですね。

とにかく、北村匠海さんと新田真剣佑さんのダブル主演というのがおいしすぎる!!

そして、清原翔さんもステキでした~。
・・・清原翔さんの病状について、その後の情報はやはりないようですが、
回復してまたお元気に活躍することを、祈っております!!

<WOWOW視聴にて>

「サヨナラまでの30分」

2020年/日本/114分

監督:萩原健太郎

脚本:大島里美

出演:新田真剣佑、北村匠海、久保田紗友、葉山奨之、上杉柊平、清原翔、松重豊

 

北村匠海の魅力度★★★★★

音楽★★★★☆

満足度★★★★☆

 

 


「さざなみのよる」木皿泉

2020年12月14日 | 本(その他)

一人の生きた跡の波紋

 

 

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富士山の間近でマーケットストア「富士ファミリー」を営む、
小国家三姉妹の次女・ナスミ。
一度は家出をし東京へ、のちに結婚し帰ってきた彼女は、
病気のため43歳で息をひきとるが、その言葉と存在は、
家族や友人、そして彼女を知らない次世代の子どもたちにまで広がっていく。
宿り、去って、やがてまたやって来る、
命のまばゆいきらめきを描いた感動と祝福の物語。

* * * * * * * * * * * *

本作、第14話までの章立てとなっているのですが、
なんと驚くことに、主要登場人物と思われる“ナスミ”が、第一話で死んでしまうのです。

小さなスーパーマーケットを営む小国家三姉妹の次女・ナスミ。
病のため、病院で息を引き取りますが、
その間際、途切れがちの意識の中でベッドの回りで
バタバタする人々の足音とか、
時々覆い被さってくる看護師の気配などを感じている。
妙にリアリティがあります。
そうして静かに旅立って行ってしまった43歳、ナスミ。

つまりは、本作はこの1人の死が周囲の人々の心にさざ波を起こす。
その一人一人に焦点を当て、それぞれの章立てが成り立っているのです。

 

例えば第2話では、姉・鷹子が、覚悟を決めていたけれどもついに来た、妹の最期の日。
ナスミが息を引き取ってから、呆然とする暇もなく、
その後の手続きやら葬儀のあれこれやらに心を飛ばす様子が描かれます。
今はまだ、悲しんでいる場合では無いと、気を張っている様子。

第3話は妹・月美。
彼女は結婚して家を出ていて、ナスミの死の連絡を受け、
様々な物思いにふけります。

第4話は、ナスミの夫、日出男。
日出男は東京でナスミと出会い結婚しましたが、
生活をやり直すため、夫婦でナスミの実家に戻ってきていたのでした。
葬儀の準備などに心は囚われながらも、
ぼんやりとナスミのことを思い出し、
まだその死を現実のこととしてとらえられていないような感じ・・・。

 

とここまでは、ナスミの死からすぐ後の出来事なのですが、
その後次第に過去へ、未来へ、時間の間隔が開いて行きます。
水の波紋が遠くへと広がっていくかのように。

人一人の「生」は、その人が亡くなったからと行って、
それで終わってしまうわけではないのですね。
このように、その人の周囲にあったさざ波が、
時にやんわりと、その人を心に生き返らせる。

最後の第14話には驚かされます。
ナスミの死からうんと時を超えて、
血はつながらないけれども「孫」のような存在である女性が主役。
しかしそれでもちゃんと出来事はつながっている。

じんわりと胸に迫る家族と時の物語なのでした。

 

「さざなみのよる」木皿泉 河出文庫

満足度★★★★★