映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「世にも奇妙な君物語」朝井リョウ

2019年08月31日 | 本(その他)

想像を超えた結末・・・「世にも奇妙な物語」が好きな方に。

世にも奇妙な君物語
朝井 リョウ
講談社

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異様な世界観。複数の伏線。先の読めない展開。
想像を超えた結末と、それに続く恐怖。
もしこれらが好物でしたら、これはあなたのための物語です。
待ち受ける「意外な真相」に、心の準備をお願いします。
各話読み味は異なりますが、決して最後まで気を抜かずに―では始めましょう。
朝井版「世にも奇妙な物語」。

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朝井リョウさんによる「世にも奇妙な物語」。
これは楽しめます。
短編集。全5話。

 

「リア充裁判」では、「コミュニケーション能力促進法」なるものが制定された世界が描かれます。
コミュニケーション能力に欠けるものはほとんど人間扱いされないという・・・。
現代社会を痛烈に皮肉る作品。

 

「立て!金次郎」は、幼稚園教諭を務める若き金山の奮闘記。
何やら普通のお仕事小説なみに、金山は悩みながらも
子どもたちの幸せを願い、仕事に励みます。
いやいや・・・、この本で、こんな話、まともに終わるはずがない・・・
と訝りながら読み進んでいけば、やはり・・・!! 
最後の最後でどんでん返し。
しかしこれは意外とあってもおかしくない話かも・・・と思ってしまった。


ラスト「脇役バトルロワイヤル」がめちゃくちゃ面白い。
テレビドラマや映画で、「脇役」として活躍している人ばかりがオーディションに集められます。
そこでドラマの「主役」を選ぼうとしているらしいのですが、
何しろ皆さん、すっかり脇役が身についてしまっている。
少しでも「脇役あるある」的な発言をしてしまったものから、
その場から消えてゆく・・・。
で、ここに登場する俳優たちの名前がいいのですよ。
溝淵淳平、勝池涼、八嶋智彦、渡辺いっぺい、桟見れいな、板谷夕夏・・・
どこかで聞いたことがあるような・・・。
でもまさにその人を思い描きながら読むと効果満点です。

「世にも奇妙な君物語」朝井リョウ 講談社文庫
満足度★★★★☆

 


純平、考え直せ

2019年08月30日 | 映画(さ行)

純すぎるがゆえに・・・

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新宿歌舞伎町、21歳、ヤクザの一番下っ端である純平(野村周平)。
ある時、対立する組の幹部の殺害を命じられます。
「これで一人前の男になれる」と覚悟をきめ、実行しようとする純平。
そんな時、純平はOLのカナと出会います。
純平がこれからしようとしていることを聞き、驚き呆れながらも
決行までの3日間をともに過ごすことに。
カナは自分と純平のことをSNSに綴ります。
すると、仮名の人々が始めのうちは茶化しながら、
次第にカナと純平の身の上を案じながら、
様々なメッセージを寄せ始めます。

純平の上層幹部は、仕事を命じた純平にピストルと幾ばくかの大金を渡します。
殺害実行の後は長いムショ暮らしになるので、
とりあえず2日ほどは遊んで暮らせ、というのですね。
しかし実のところ純平が返り討ちに合う可能性も大きいのです。
ムショ暮らしで済めばまだラッキーというくらい。



単なるチンピラでありながら、純平は義理人情に厚く、
「弱きを助け強きをくじく」ということをモットーにしています。
それだから、歌舞伎町で出会う人々はみな彼に気軽に声をかけ、親しみを表します。
純平はまた、彼の兄貴分をひたすら尊敬し憧れているのですが、
しかしそんな兄貴の、実は出世欲に歪んだ面に気づいてしまう・・・。
それでもなお、あくまでも己の務めは果たさねばならないと、
なおも固く覚悟を決める純平。


純平自身は、SNSで自分のことが噂され騒がれていることを少しも知りません。
皆が「純平、考え直せ」というメッセージを送っていることも・・・。

ヤクザ作品で、こんな切り口は始めてみましたね。
さすが、奥田英朗作品。
こんな一途な純平がなかなかステキなのですが、
一方、思い切りの良いカナもカッコいい。
ヒロインのはずなのに汚れ役、
それでもなお、そんなことも物ともしない強さ。
こういうの良いですね!!

純平、考え直せ [DVD]
野村周平,柳 ゆり菜,毎熊克哉,岡山天音,佐野 岳
キングレコード

<WOWOW視聴にて>
「純平、考え直せ」
2018年/日本/95分
監督:森岡利行
原作:奥田英朗
出演:野村周平、柳ゆり菜、毎熊克哉、岡山天音
一途度★★★★★
満足度★★★★☆


「スーツケースの半分は」近藤史恵 

2019年08月28日 | 本(その他)

幸運のスーツケースの旅

スーツケースの半分は (祥伝社文庫)
近藤史恵
祥伝社

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三十歳を目前にした真美は、フリーマーケットで青いスーツケースに一目惚れし、
憧れのNYへの一人旅を決意する。
出発直前、ある記憶が蘇り不安に襲われるが、
鞄のポケットから見つけた一片のメッセージが背中を押してくれた。
やがてその鞄は友人たちに手渡され、世界中を巡るうちに
"幸運のスーツケース"と呼ばれるようになり…。
人生の新たな一歩にエールを贈る小説集。

* * * * * * * * * *

青いスーツケースが様々な人の手に渡りながら、世界各地を巡ることになる。
それぞれの旅行者たちには人生の転機となるような出来事があって、
これは幸運のスーツケースなのでは・・・?と思い始めるのです。


私、本作を読んで、以前見た「旅するジーンズと16歳の夏」という映画を思い出しました、
(続編で「19歳の」ものもあります。)
そちらでは友人関係にある女子高校生4人が、いつになく別々の夏を過ごすことになり、
ジーンズを一週間ごとに順番に送って身につける・・・という話。
それも「魔法のジーンズ」のようで、彼女たちそれぞれにステキなことが起こります。


さて、本作は順番につ持つことになるのは青いスーツケース。
こちらは少女ではなくて30歳前後の女性たち。
高校生ならばどのようにでも未来は開けているけれど、
30歳ともなれば現在の自分の立場に覚悟をつけていく頃。
すでに結婚しているものもいれば、
フリーライターとしての生き方に見切りをつけるべきか迷うものもいる。
ここで決めたことはそうかんたんには撤回できないだろう・・・と、そういう年齢。
そして彼女たちも個性それぞれで、旅行の仕方も
観光のコースには乗らない貧乏旅行やら、
リッチなホテルに泊まることに意義を見出しているものなど、てんでんばらばら。
そんな彼女たちがまるでスーツケースに後押しされるように、
自分の生き方を見極めて行きます。


最後の方にはこのスーツケースの由来の話なども出てきて、とても興味深い物語でした。
自分の有り様を受け入れて前に進もうとする、女達にエールを!!

「スーツケースの半分は」近藤史恵 祥伝社文庫
満足度★★★★☆


止められるか、俺たちを

2019年08月27日 | 映画(た行)

アングラ文化の中で生きる若者たち

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2012年に逝去した若松孝二監督を、
若松プロ出身白石和彌監督が描いた作品。



・・・と言っても私自身、若松孝二監督をよく知りません。
1960~70年代、若松孝二監督の作るピンク映画が
若者たちを熱狂させ、時代の先端をゆくものとして脚光を浴びたのですね。
監督は元ヤクザの経験もあり、ド素人の立場から映画と関わるようになって、
性と暴力をテーマとして反権威・反権力を歌う。
当時の学生運動などの尖った時代背景の中で、
アングラ文化として成長していったもの。



そのころ私自身はまだ学生未満の年齢でしたので、
若松監督との接点がなかったのも無理はありません。
調べてみたら、若松監督作品で私が見ているのは「キャタピラー」のみ。
確かに痛烈な作品ではありました。


さて、余計なことを長々と書いてしまいました。
作品紹介。


本作は実際には若松監督本人を正面から描いた作品ではありません。
若松プロ、若松監督門下の若者たちの青春群像劇。
中でも、いきなりプロダクションに入って助監督を務める女性、
吉積めぐみ(門脇麦)を描いています。
当時女性で助監督などというのは珍しかったと思うのですが、
意外とセクハラめいたシーンはありません。
仕事をすすめる上で男も女もない。
チームで仕事をすすめる中で役に立てば良い、という感覚がいっそ潔いです。



せっかく様々な技術を得ながらもやめていく先輩たち。
自分は本当に映画が作りたいのか。
そんな力が自分にあるのか。
逡巡する彼女の姿こそは、現在のどんな仕事につく人にも共通するものですね。
しかしそのうち若松プロは政治活動に熱心な若者たちが多く出入りするようになって、
何かが違うと感じるめぐみ。
そしてまた、そこまでは問題なかったのに、
ついに女であるからこその障害が浮上。

彼女は自分の生き方に真摯過ぎたのかもしれません。
若松プロに実際に2年助監督を務め、亡くなった女性がいたそうです。
そこから生まれた物語は、時代を超えて若者の生々しい心を描き出します。

井浦新さん演じる若松監督。
そもそも若松監督を知らない私にはわかりようもありませんが、
若松監督作品にいくつか出演している井浦新さんなので、
知る人が見ればきっと「そっくり!!」と見える演技だったのでしょうね。
常なる井浦さんとはかなり雰囲気も違いましたし。

止められるか、俺たちを [DVD]
門脇麦,井浦新,満島真之介,渋川清彦,音尾琢真
Happinet

<WOWOW視聴にて>
「止められるか、俺たちを」
2018年/日本/119分
監督:白石和彌
出演:門脇麦、井浦新、山本こうじ、満島真之介、渋川清彦

時代性★★★★☆
満足度★★★.5


よこがお

2019年08月26日 | 映画(や行)

見えていない「半面」

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訪問介護師の市子(筒井真理子)は、周囲からの信頼も厚く、
充実した毎日を送っていました。
介護に通っている大石家では、その家の長女・基子(市川実日子)に
介護福祉士になるための勉強を見てやったりもしています。
ある日、基子の妹・サキ(小川未祐)が失踪。
一週間後にサキは無事に戻りましたが、
誘拐犯として逮捕されたのはなんと、市子の甥・辰男だったのです。
基子はそのことを知り、
「市子さんにはなんの責任もないのだから、家の他の者には何も言う必要はない」
と言っていたのですが、
まもなく市子が結婚すると聞いてから、態度が一変していきます。
それと同時に市子は苦境に立たされ、これまで築き上げた生活も崩壊してゆく・・・。

なんとも、グサグサと胸に刺さり込んでくる作品です。
タイトルの「よこがお」について考える。
つまりは、人の横顔というのは半面だけ見えて残りの半面が見えていない。
そんなふうに、人は人の一面だけを見て、もう片方の別な面を見落としている・・・、
あるいはあえて隠している。
そんなことを表しているようです。

作品は、市子が「リサ」と名乗り、ある美容師の青年(池松壮亮)につきまとい、
さり気なさを装いながら、絡め取ってしまおうという意図を感じさせるシーンから始まります。
そしてそれ以前の出来事と思われるシーン(市子が大石家に通うシーン)と、
交互に語られていくのです。
すると、どうやらこの青年は基子の恋人らしい事がわかってきます。
市子と基子の関係がどうしてこんなふうになってしまうのか・・・?と、
謎を秘めながら、その真相を描いていくわけです。

物語の最大の鍵は基子の心にあるわけですね。
彼女には恋人がいながらも、市子への信頼や尊敬の念が
いつしかそれ以上のものになっていたようなのです。
しかしそんな気持ちとは裏腹に、湧き上がる負の思いもある。
それこそが彼女のもう半面なのでした。
しかし、市子もまた自身の生活の崩壊のために、
負の半面が浮かび上がってくる。

見ごたえのある作品でした。

<シアターキノにて>
「よこがお」
2019年/日本・フランス/111分
監督・脚本:深田晃司
出演:筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、須藤蓮、小川未祐
負の半面度★★★★★
満足度★★★★☆


「俳句いきなり入門」千野帽子

2019年08月25日 | 本(解説)

俳句はスリリングな言語ゲーム

俳句いきなり入門 (NHK出版新書)
千野 帽子
NHK出版

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俳句は風流な「お芸術」でも自己表現でもなく、最高のスリリングな言語ゲームだ。
知識ゼロでも楽しめる句会の開きかたから、
「季語は最後に決める」「口語より文語で作るほうがラク」といった
目からウロコの作句法まで、きれいごと一切抜きで書かれたラディカルな入門書。

* * * * * * * * * *

以前読んだ「人はなぜ物語を求めるのか」の著者のものだったので、読んでみました。
この、紹介文「季語は最後に決める」というところに、惹かれたのです。


というのもこれも以前読んだ俳句の入門書で、
とにかくまず季語を学習して季語を決めるように、
と、あったことに少なからず引っかかりを覚えてしまった私なので。


とはいえ、本書はこれまでの「俳句」入門を覆す、過激な入門書であります。
長く俳句に親しんできたご年配の方が読んだら、怒り出しそうな・・・。


俳句はポエムじゃなくて、自己表現でもなくて、スリリングな言語ゲーム。
季語は最後に選べ。
文語で作るほうが口語の100倍ラク。
・・・今まで聞いたこともない話ばかり。


そして、句会をやるべし!という。
でも、この句会というのが、今まで聞いてた句会とは少し違うのです。
自分では一句も作らない、「作らない句会」もありだというのです。
つまり、出し合った句の中からいいと思うものを選ぶのは同じですが、
その後の、区の解釈についてああだこうだと意見を出し合うことこそが
句会の醍醐味であり、意義であるというのです。
誰の句がいいとかより、どんな言葉でどんな発想が得られるのか、
時には自分で思ってもみなかった解釈を他の人が見出してくれたり・・・、
そういう知的ゲームこそが句会である、と。
だから千野氏は「公開句会」を企画したりもするそうです。
うん、それは面白そう、私も聞いてみたいです。


本巻、巻末に行くほど辛辣になってきまして、
これまでの俳句は
「・・・こんな私ってステキでしょ、ステキな私を見て!」
的なものが非常に多いし、
「だからどうした」と思うだけのものも多いといいます。
著者曰く「でっていうポエム」。
これを読むと、逆に俳句を作るのが怖くなってしまいそうですが、
つまりはこれまでの「俳句」のイメージなどすっかり忘れて、
自由に作れば良いということに尽きるかも。


例えば著者の一句。

よりによって花火の晩にそれ言うか

なるほど~。
心を柔軟にする、俳句の入門書でした!!


図書館蔵書にて
「俳句いきなり入門」千野帽子 NHK出版
満足度★★★★☆


走れ!T校バスケット部

2019年08月24日 | 映画(は行)

弱小バスケ部の心意気

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バスケット強豪校の白瑞高校バスケット部に入部した陽一(志尊淳)。
しかし部内でいじめに会い自主退学します。

もう二度とバスケはしないと誓った陽一でしたが、
編入先の多田野高校バスケット部に入部を乞われます。
逡巡したのち、あることがきっかけで、入部。
多田野高校バスケ部は弱小チームながら、バスケの楽しさを陽一は思い出していきます。

チーム全体も力をつけていき、
ついにはウィンターカップ決勝で白瑞高校と対決することに・・・!

他愛ない青春スポーツもの、とさほど期待せずに見たのですが、
これが案外面白かった。
陽一がいじめられた友人をかばったために、逆にいじめの標的となったこと。
そこまではまだ耐えていた陽一でしたが、
彼がかばったはずの友人までもがいじめグループに加担しはじめたことで
彼の心は折れてしまいます。
そんなことを知った陽一の父(椎名桔平)は学校に抗議に行ったものの、
話にもならない学校の対応に、さっさと見切りをつけ、
陽一の退学の希望に同意。
新たな地でバスケを始めた陽一ですが、いじめを受けたことはトラウマとなっていて、
白瑞高校のバスケ部員とすれ違うにも恐怖を感じてしまう。
また、T校バスケ部内でいじめに近いからかいがあった時に、
それを止めたキャプテンに信頼感を持つ。



・・・と、こんな具合に、「いじめ」が単に転校の理由になっているのではなくて、
しっかりストーリーの中心を貫いているところがすごくいいのです。
まあ、実際にはこんなにかっこいい志尊淳くんのような子が
いじめにあうなんていうのが、一番現実離れしている気がしますが・・・。



それから始めのうち、陽一が父に「もう部活はしないで学習に力を入れる」
と約束してしまったので、バスケ部入部のことを父に言えないでいるのです。
でもお父さんの様子を見る限りには、
陽一が約束を破ったことよりも、そのことを話さないでいることの方を
残念がるだろうなあ・・・と思えるのですが、実際その通りでした。
陽一の母親は彼が小学生の時に亡くなっていて、二人きりの家族なのです。
陽一を見守る父・・・椎名桔平さん、いい感じです。



ラブストーリーはかなり控えめなのもいいし、
T校のみんなのチームワークの良さも心地よい。
竹内涼真さんもちょい出でしたが、かっこよかった~♡

走れ! T校バスケット部 [DVD]
志尊淳,佐野勇斗,早見あかり,戸塚純貴,佐藤寛太
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)

<WOWOW視聴にて>
「走れ!T校バスケット部」
2018年/日本/115分
監督:古澤健
原作:松崎洋
出演:志尊淳、佐野勇斗、早見あかり、竹内涼真、YOU、椎名桔平
いじめの描き方★★★★☆
友情度★★★★☆
満足度★★★★.5


「慈雨」柚月裕子

2019年08月22日 | 本(ミステリ)

16年前の事件が呼び起こすもの

慈雨 (集英社文庫)
柚月裕子
集英社

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警察官を定年退職し、妻と共に四国遍路の旅に出た神場。
旅先で知った少女誘拐事件は、16年前に自らが捜査にあたった事件に酷似していた。
手掛かりのない捜査状況に悩む後輩に協力しながら、
神場の胸には過去の事件への悔恨があった。
場所を隔て、時を経て、世代をまたぎ、織り成される物語。
事件の真相、そして明らかになる事実とは。
安易なジャンル分けを許さない、芳醇たる味わいのミステリー。

* * * * * * * * * *

警察を定年退職した神場が妻とともに四国遍路の旅に出ます。
総て徒歩で、全行程2ヶ月かかるというその旅の合間に、
少女誘拐殺人事件を知り、後輩からの協力依賴を受けることに。
と言っても、事件の進捗状況の報告を時折電話で受けるだけなのですが。
しかし神場は、この事件に見捨てられない強い思いを感じる。
というのも16年前、神場が関わった少女誘拐事件と本件が酷似しているのです。
その時の犯人は逮捕され、現在も服役中。
でも神場は知っている。
かなりの確率でそれは冤罪で、真犯人は別にいる。
けれど行動に出られなかった自分を、神場はずっと責め続けていたわけです。
この度の四国遍路の旅も、そうした思いの果てのこと。
そして今、彼は恐れる。
その真犯人こそが今回の事件の犯人なのではないか・・・。

 

警察官という仕事に誇りを持ち人生を捧げた男の物語。
自分や当時の警察の欺瞞が暴かれれば、自らは苦境に立つことになる。
しかしそれでも、覚悟を決めて真相を暴こうとする・・・、
高潔です。
感動作。


・・・ではありますが、若干天の邪鬼な私は
こういうあまりの「高潔さ」には引いてしまうところがありまして・・・。
確かにご立派なのですけれどねえ・・・。
それとこの奥様があまりにも「男」に都合の良い女なのが、またちょっとイヤ・・・。
女性の作者なのになあ。

お遍路さんの旅はちょっと憧れるところもあったのですが、
これを読むとやはりいかにも大変そうなので、やっぱり私には無理みたいです(^_^;)

「慈雨」柚月裕子 集英社文庫
満足度★★★☆☆


リベンジgirl

2019年08月21日 | 映画(ら行)

イタい女、イタい映画

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東大を主席で卒業し、ミスキャンパスでグランプリを獲得した
24歳、宝石(たからいし)美輝(桐谷美玲)。

しかしいかにもタカビーでイタい女・・・。
そんな彼女が大失恋をして、リベンジを誓います。
彼女を振ったのは政治家の御曹司・裕雅(清原翔)。
将来は総理大臣を狙うと噂されています。
そんな彼に対抗心を燃やした美輝は自分こそが総理大臣を狙うと決意し、
まずは議員となるための選挙活動を始めますが・・・。

いや・・・、なんともはや。
全く理念なき選挙、立候補・・・。
作中では彼女が政治家となってやりたいことの話は一言も出てきません。
とにかく知名度を上げて、人受けさえ良ければ良い。
そういうノリで、選挙活動が進められていきます。
まあ、そこを詳しく具体的にしてしまえば、見るものを選ぶかもしれないですし・・・、
あえて触れないという意図はあったのだろうとは思いますが・・・。



しかし逆に思ってしまいます。
実際に行われている選挙もこんなものなのかもしれない、と。
理念なんかないんですよ。
現に、なんでこんな人が?という議員が時々不祥事を起こしてニュースになったりしますもんね。
そういう皮肉だとすればたいした作品なのか・・・?



そもそも、この美輝がちーっとも頭良さそうに見えません。
どこが東大の主席? 
これはいくらなんでも東大生に失礼だろう。
振られた男への対抗心で政治家を目指すことにした・・・、
と、きっかけはそれでも構わないのだけれど、
せめてもう少し、「政治」に真摯に向かい合うという目覚めの部分がほしかった。

本作の収穫は、清原翔さんが見られたことのみ。
(ろくでもない男の役だったけれど・・・)

リベンジgirl [DVD]
桐谷美玲,鈴木伸之
バップ

<WOWOW視聴にて>
「リベンジgirl」
2017年/日本/110分
監督:三木康一郎
原作:清智英、吉田恵里香
出演:桐谷美玲、鈴木伸之、清原翔、馬場ふみか、斎藤由貴
理念なき政治度★★★★★
満足度★★☆☆☆

 


命みじかし恋せよ乙女

2019年08月20日 | 映画(あ行)

あるべき自分と、ありのままの自分

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ドイツ作品にして、樹木希林さん出演の初めての海外制作作品、
そして樹木希林さんの遺作ということになります。
なかなか貴重です。

ミュンヘンに暮らすカール(ゴロ・オイラー)は
酒に溺れ、仕事を失い、妻は子どもを連れて家を出てしまっています。
絶望と孤独の縁にいるカール。
そんな彼のもとにユウ(入月絢)という日本人の女性が訪れます。
彼女は10年前、東京を訪れていたカールの父・ルディと親交があったのです。
二人でルディの墓参りに行ったりするうちに、
カールは次第に彼女に惹かれていきますが・・・。

ネタバラシではありますが、ユウはどうやら生身の人間ではないらしい、
と、私たち視聴者もカールも気づいていきますね。
けれど怖さはない。
でも、カールの孤独な心がユウを呼び寄せたのであり、
彼女と親しくなることはやはり危険なことではあったのです。
そうして、カールの身の上に大変なことが起こる・・・。


カールの絶望の根源は、彼自身が「~でなければならない」「~であるべきだ」
という理想像に、がんじがらめになっていたためだったわけです。
全くそういう理想像になれない自分。
それは家族との関係で余計に際立ちます。
でも彼は彼自身の体の変化で、「あるべき自分」と「ありのままの自分」に
折り合いをつけることができるのです。



一段落ついたところで、カールは日本を訪れ、
やがてユウの祖母だという女性と出会うことになります。
それが樹木希林さん。
いや、サスガにこの風格。
普通の気さくな老婆のようで、
しかし、あるところでの感情の表出の仕方がタダモノじゃない。
もし、カールが“変化”しないままこの地を訪れていたなら、
彼はそのまま茅ヶ崎の海に沈んでいたかもしれませんね・・・・

本作に描かれる日本は、少し謎めいた江戸の風土が残っている日本。
日本人にはできない発想かもしれません。
ユウが浴衣と洋服を重ねてきていたのもユニークなのですが、
カールの着る浴衣もなかなか良いですよ。


<シアターキノにて>
「命みじかし恋せよ乙女」
2019年/ドイツ/117分
監督:ドーリス・デノエ
出演:ゴロ・オイラー、入月絢、フェリックス・アイトナー、フロリアン・ダニエル、樹木希林

不思議の国日本度★★★★☆
満足度★★★★☆


「東京藝大物語」茂木健一郎

2019年08月19日 | 本(その他)

行動するものは愚かだが、しかし、尊い

東京藝大物語 (講談社文庫)
茂木 健一郎
講談社

* * * * * * * * * *

全国から才能が集う東京藝術大学。
しかし、アーティストとして名をなすのは十年に一人ともいう。
感動すると鼻水が出るジャガー、
鳩ばかり描くハト沼、
迸る情熱を制御できない杉ちゃん。
何者かになろうとあがく彼らの悪戦苦闘、波瀾万丈の日々を、
六年間、講師として過ごした著者が万感の思いで描く青春小説!

* * * * * * * * * *

少し前に茂木健一郎氏の講演を聴く機会があり、そのときに買い求めた本です。
6年間著者が東京藝術大学で講師を務めた時の経験を生かした、青春小説。


何しろそこに登場する学生たちがユニークというか、
いえ、ユニークなどすっかり通り越して変人。
ものすごい難関を突破してこの学校に入学したとしても、
アーティストとして名を成すのは10年に一人・・・。
そんな中で、学生たちはどのように過ごし、未来を見つめるのか。
毎週の(たぶん)講義の終わったあとの大宴会。
これはやはり、茂木健一郎氏だからこそ引き出せた
学生たちの本音、真の姿と思われるのですが、
確かに学生時代でしかありえない「時間」なのかもしれません。

講演の中で、氏はおっしゃっていました。
「行動するものは愚かである。しかし、尊い。」
まさに、そういう作品です。

「東京藝大物語」茂木健一郎 講談社文庫
満足度★★★☆☆


響 HIBIKI

2019年08月18日 | 映画(は行)

タカビーで過激な少女

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文芸雑誌「木蓮」編集部に一編の新人賞応募作が届きます。
それは応募要項を無視していたためにそのまま破棄されるところだったのですが、
編集者花井ふみ(北川景子)が目を留めます。
「お伽の庭」という題名のその小説は、
15歳の女子高生・鮎喰響(あくいひびき)(平戸友梨奈)によって書かれたものですが、
ふみはそこに類まれな才能を見出すのです。
ところが、その響は、まさに天才少女ではあるけれど、
なんとも過激で危険な少女でもあった・・・。

毎年、年に二度ずつ繰り返される芥川賞・直木賞受賞を巡っての悲喜こもごも。
そんな事情を交えて、「小説」に向けた様々な人々の思いが表されています。
小説家を志す者にとって、この“響”は、理想像なのかもしれません。



ストーリーは溢れ出るように浮かんできて、誰もが感動を口にする。
本人はただ読んでもらって感想が聞ければ良いと思っているので、
賞とかにはさほど興味がない。
しかし自分に踏み込み、自分に敵意をむき出すものについてはあくまでも戦う。
暴力も辞さないし、そうしたことの周りの評判なんか気にしない。
こんなふうに強くなれたらいいなあ・・・と、思う。
そういう少女像。

タカビーで過激、けれどやはり少女。
そんなところがステキだし、また彼女に常に寄り添おうとするふみさんも、
大層大人で心地よいのでした。


結構気に入りました。

響 -HIBIKI- DVD通常版
平手友梨奈,北川景子,アヤカ・ウィルソン,小栗旬,柳楽優弥
東宝



<WOWOW視聴にて>
「響 HIBIKI」
2018年/日本/104分
監督:月川翔
原作:柳本光晴
出演:平戸友梨奈、北川景子、アヤカ・ウィルソン、柳楽優弥、小栗旬

芥川賞・直木賞の悲喜こもごも度★★★★★
満足度★★★★.5


家族にサルーテ! イスキア島は大騒動

2019年08月16日 | 映画(か行)

人数多すぎ・・・

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イタリアのイスキア島。
金婚式を迎えたピエトロ・アルバ夫妻を祝うため、親戚一同19人が集まりました。
ファミリーのにぎやかで楽しい食事会で散会となるはずのところでしたが、
嵐のためフェリーが欠航。
家族たちは2晩を同じ屋根の下で過ごすことに・・・。
一見幸せそうで和やかにしていた家族たち。
しかし、浮気や借金、認知症の介護・・・様々な問題が明らかになっていきます。
そしてついには、それぞれに抑えていたものがパンク!!

私、この映画は選択を間違えたと思います。
登場人物が多すぎて誰が誰やらわからなくなってしまう。
こういうの、苦手なのです。
子どもたちもいるので、区別すべき人物は19人までにはならないのですけれど・・・。
えーと、これは誰だったっけ・・・?などとシーンが変わるたびに考えてしまい、
それがストレスになって、うまく作品に入り込めません。



結局、日常どんな家族もなんの問題もなく「幸福」に暮らしているわけではない・・・。
たとえ親族一同であっても、そんな内心をかんたんに話したりはしないのだけれど、
長く一緒にいるとなれば話は別。
おのずからそれぞれの状況は浮かび上がってきてしまいます。
それぞれ日常生活を離れたところで余計に耐えきれず爆発。
つまりはそれがガス抜きになってまた皆平常の生活へ戻ってゆく・・・と、
結局そういう話なのだと思います。
人の区別はつかなくてもそれがわかればいいか・・・。



それにしても、イタリア人の感情表現のオーバーなことと
恋多きことは、日本人にはついていき難い・・・。
イタリアではかなりのヒット作らしいのですが、
私には苦手感のつきまとう作品・・・。

<シアターキノにて>
「家族にサルーテ! イスキア島は大騒動」
2018年/イタリア/107分
監督・脚本:ガブリエレ・ムッチーノ
出演:ステファノ・アルコシ、カロリーナ・クレシエンティーニ、エレナ・クッチ、ピエルフランチェスコ・ファビーノ、クラウディア・ジェリーニ

大騒動度★★★★☆
満足度★★.5


「ポーの一族 ユニコーン」萩尾望都 

2019年08月15日 | コミックス

構成力!!

ポーの一族 ユニコーン (1) (フラワーコミックススペシャル)
萩尾 望都
小学館

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旧作のラストに直結する新エピソード開幕!

40年ぶりの新作発表で話題となった『ポーの一族 春の夢』の続刊。
旧作のラストエピソード「エディス」で炎にのまれたアランとその後のエドガー
そしてバンパネラ一族の運命が紡がれる衝撃の新エピソードです。

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40年ぶりに新作が発表された「ポーの一族」。
その2冊めが出ました。
しかし、おどろくではありませんか、この冒頭、2016年。
私、前巻「ポーの一族 春の夢」のブログ記事で、
今「現在」に生きるエドガーを見たい、などと書いていたのですが、
まさに、そのとおりとなりました。


実は40年前、この物語のラストエピソードというのは、当時の「現在」が舞台で、
エドガーとアランが炎に包まれる、というところで終わるものだったのです。
本作はそこから直につながる物語。
この40年間、エドガーはどうしていたのか、あのときどのようにして助かったのか、
その事がわかります。
・・・つまり、あるところでひたすら眠っていた・・・というより
死んでいたと言ったほうがいいのかも。
アランの遺骸を胸に抱きしめたまま・・・。


考えてみたらその40年間というのは、ちょうど私が就職してから退職するまでの期間。
若くハツラツとしていたはずの乙女も、すっかりおばちゃんとなってしまいました。
しかし、エドガーは変わらないのです。
永久を生きるもの・・・。
うーん、実感しますねえ。


さて、でも新シリーズのはじめになぜこのことが語られなかったのか。
「春の夢」は第二次世界大戦下の物語だったのですよね。
しかしそこでファルカが登場し、エドガーが「テレポーション」能力を取得することが、
本作には必要だったわけなのです。
本作に必要な登場人物やシチュエーションを語ることと合わせて。
うーむ。
何という構成力。
さすがとしか言えません。


「現在」に目覚めたエドガーですが、本作で主に語られるのは1958年、
「春の夢」につながるストーリーです。
永久を生きる様々な者たちそれぞれに焦点を合わせれば、
物語はどんどん裾野を広げていく。
この先が楽しみです。
とりあえずアランは復活するのや否や。
それについてはまだまだ先のことになりそうですね。


今年は萩尾望都さんデビュー50周年。
札幌にも「ポーの一族展」来ないかな・・・。

「ポーの一族 ユニコーン」萩尾望都 小学館
満足度★★★★☆


陪審員

2019年08月14日 | 映画(は行)

無理難題に挑む「母」

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11歳の息子と暮らしているシングルマザー・アニー(デミ・ムーア)は、
裁判の陪審員を務めることになりました。
彼女が関わる裁判は、マフィアのドンと孫の少年の殺害事件で、
被告人はファミリーのボス、ボファーノ。
一般的な進み方なら、有罪は間違いないというところ。
ところが、ボファーノの配下でティーチャー(アレック・ボールドウィン)と呼ばれる殺し屋が
アニーに接近し、陪審で「無罪」に入れなければ、息子に危害を加えると脅すのです。
アニーの生活は常にティーチャーに監視されるようになり、
これは単に脅しだけではない、と実感するアニー。
やむなく陪審員の話し合いでは「無罪」を主張し、他のメンバーにいぶかしがられるアニーでしたが、
ティーチャーは更に要求をエスカレートさせ、
「無罪判決」を勝ち取るようにと言うのです・・・。

 

陪審員の出す結論は全員一致でなければならないのですね。
だからとにかくアニーが一人でも無罪を主張し続ければ、結論は出せない。
しかしそこをあえて全員に「無罪」を納得させよというのですから、これはめちゃくちゃです。
ところが、アニーは人並み以上に頭がよく、人を納得させることに長けている。
(本当は芸術家なんですけどね・・・。)
本心ではマフィアのボスなど死刑にしてしまえ、くらいに思っているのですが、
巧みに、「マフィアといえども確とした証拠なしに有罪にはできない」と、
皆の気持ちを動かすのです。
息子の命がかかっているので背に腹は変えられません。


さて一方、このティーチャーという殺し屋が、ちょっとした性格異常。
若きアレック・ボールドウィンです。
一見温和そうに見えるこの男。
勝手にアニーの知性や強い意志に親愛の情を見せつけつつ、
実は微笑んだままでも人を殺すタイプ。
うわー、ヤダ!!
こんな男を、どのように出し抜くかが、アニーの腕の見せ所です。


あ、アニーの息子、11歳少年はジョセフ・ゴードン=レビット。
笑っちゃうくらい、顔は今と同じ。
90年代の映画、私はその頃殆ど見ていなくて、これは宝の山かもしれません。
20年以上前の今活躍する俳優さんたちを見るのも楽しい!!


<WOWOW視聴にて>
「陪審員」
1996年/アメリカ
監督:テッド・タリー
出演:デミ・ムーア、アレック・ボールドウィン、ジョセフ・ゴードン=レビット、アン・ヘッシュ、ジェームズ・ガンドルフィー
サスペンス度★★★★☆
満足度★★★★☆