マイケル・ルイスの話題の新著が今春に刊行されました。ウォールストリートを揺るがせた『フラッシュ・ボーイズ』。10億分の1秒の超高速取引(HFT=High Frequency Trading)で、並みの投資家よりわずかに先に取引を執行。合法的に勝率100%の金融取引を行う理系集団の実態を暴いた驚愕の書です。
米国での3月30日の発売前後、ウォールストリートは蜂の巣をつついたような騒ぎになりました。通常のコンピュータ処理能力、凡庸な通信回線で取引を行っている機関投資家、個人投資家は絶対に勝てないゲームをやっているのではないか?
そして10月10日には待望の日本語訳が文藝春秋より発売になりました。『フラッシュ・ボーイズー10億分の1秒の男たちー』渡会圭子・東江一紀訳、阿部重夫解説、本体1650円。日本でも大きな論争を呼ぶことは間違いない。FACTA発行人の阿部重夫氏が同書に寄せた解説文のダイジェストを紹介します。
天はときどき二物を与えるらしい。
プリンストン大学で学士号、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で修士号を得て、ウォール街を経験したノンフィクション作家、マイケル・ルイスがまた新しい鉱脈をみつけた。今度はアメフトでも野球でもなく、かつての本業である金融取引だが、リーマンショックを描いた前々作の『世紀の空売り』から一歩進んで、その裏で人知れず進んでいた最先端の「超高速取引」(HFT)である。(注:メジャーリーグの貧乏球団・オークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGMを描いた『マネー・ボール』もルイスの話題作。映画化されています。)
勝率100%! ギャンブラーとて、それが徒夢(あだゆめ)に過ぎないことは知っている。だが、超高速取引なら、100%という勝率が〝手品〞のように可能になるのだ。
まさか! だが、本書にも登場する米国の超高速取引業者ヴァーチュ・フィナンシャルが「創業5年半で負けは1日だけ。それも発注ミスが原因」と自慢して袋叩きにあい、2014年4月予定の上場を中止したほどだ。
<なぜ「不敗」を続けられるのか>
もちろん、「不敗」の手品にはからくりがある。要は、フロントランニング(先回り)の一種――顧客から注文を受けた証券会社などの仲介業者が、その売買が成立する前に注文情報をもとに有利な条件で自己売買して儲けるのに類した手口だからだ。
その仕組みはまさしく、東京大学工学部の石川正俊教授の研究室が開発した「勝率100%じゃんけんロボット」と同じだ。国際ロボット展2013に出展され、YouTubeにもアップして、1年余で386万回のビューを稼いだから、画像をご覧になった人もいるだろう。
人間の手のひらと、3本指の機械の手が対峙する。ジャンケンポン! 人間がグーを出しても、パーを出しても、チョキを出しても、ロボットは絶対に負けない。
その種明かしは――ポンのタイミングで人間の出した手の形を認識し、 1ミリ秒後にそれに勝つ手をロボットハンドが出す「後出しジャンケン」なのだ。悲しいかな、人間のニューロンを電気信号が伝わるスピードは、光ファイバーを伝わる機械の信号のスピードに及ばないから、後出しに気づかない。たったそれだけの錯覚から、無知な顧客を幻惑して「勝率100%」の非常識を編みだすところが、ウォール街の破天荒なところだろう。
さらに東大では、人間が手を出す前の筋肉の動きだけで、いち早くどの手を出すかを察知し、同時もしくは先にロボットが手を出すバージョン2も完成した。
まさしくここに「フラッシュ・ボーイズ」のミソがある。単純な後出し、つまりバージョン1のフロントランなら、日本でも金融商品取引法で禁止されている。だが、バージョン2だと、予め仕込んだ計算式(アルゴリズム)によって、仲介業者などのもたつきが予測でき、ミリ秒、マイクロ秒の空隙を突いて先回りが可能になる。
例えば本書にもあるように、ショットガンのように小口注文を大量に散らして、それを撒き餌に大口の魚影が浮かぶと、ピラニアのように先回りで買い占めるといった手口だ。このアルゴリズムに創意ありとみなせば、バージョン2を規制する法はない。
「超高速取引をする連中にとって、リスクなしで利益を上げるのに必要なのは正確な情報ではない。必要なのは、自分たちに有利になるよう、体系的にオッズを歪ませることだけだ」(本書98ページ)
オッズを歪ませて「壊れたスロット・マシン」(本書286ページ)のようにジャラジャラ出っ放しになっていても、現行法では違法と言えない。正直、困った!というのが、米証券取引委員会(SEC)や日本の金融庁などの偽らざる本音だろう。
<証取が提供するコロケーション>
「フラッシュ・ボーイズ」は日本にも上陸している。東京証券取引所は2010年1月、立会場を廃止して超高速の現物株式売買システム「アローヘッド」を導入した。同時に「売買システムや相場報道システムを設置してあるデータセンターを擁するプライマリーサイトにおいて、コロケーションサービスを提供する」と謳っている。東証と合併した大阪証券取引所も、2013年11月から先物売買でコロケーションサービスを始めた。
コロケーション。証取が取引所のデータセンターのすぐ傍に、超高速業者などのサーバーを有償で設置させるサービスのことである。日本のある大手証券会社によれば、「すでに約定(成約)の4割、発注の6割がコロケーション経由で占められている。そのすべてが超高速取引業者ではないにしても、実感ではマイクロ秒を争う業者のシェアは約定ベースでおよそ3割、欧米の水準に近づいている」という。
明らかに取引所と超高速取引業者はグルなのだ。東証と大証が合併した日本取引所グループ(JPX)の2014年3月期決算でコロケーション利用料として営業収益に計上されたのは25億6600万円だが、前年度比38%増と急成長している。ところが、その利用状況も契約者数も内訳も、データセンターの所在地についても「一切明かせません」(JPX広報・IR)とひた隠しなのだ。
国家機密、と言わんばかりの箝口令だが、どうも〝黒目〞(日本人)のフラッシュ・ボーイズはまだいないらしい。1980年代からNASA(米航空宇宙局)で職を失ったロケット・サイエンティストたちが金融市場に流れこんで、アルゴリズム取引の基礎ができあがったアメリカとは、残念ながら理系の天才秀才の層の厚さが違うのだ。
「日本のフラッシュ・ボーイズ」とは、太平洋を渡って上陸したヴァーチュ、KCG、サントレーディング、クオンツラボなど、本書にも顔を出す外来種の〝猛者〞たち十数社のことなのだ。ただ、上陸したとはいっても、日本にオフィスもおかずに、JPXとコロケーション契約を結び、彼ら独自のアルゴリズムを仕込んだサーバーが、データセンター近くの一角に置いてあるだけだ。
オペレーターはアメリカやシンガポールなどにいて、遠隔操縦でサーバーのプログラムをときおり微調整している程度。売買注文はすべてこの〝青目〞の「無人ロボット」がプログラムに従って自動的に出している。海底に身を潜めるアンコウのように市場の動きに目を光らせ、大きな獲物がみつかるやいなや、東証や大証会員の日系証券会社を通じて大量の注文を浴びせかけては、広く薄く荒稼ぎしている。なのに、取引所が「国益」を主張するなど笑止の極みである。
コロケーションという「出島」を設けて、超高速取引業者という「黒船」の埠頭にしておきながら、「いやいや、あそこは日本でござる」と言い張る長崎奉行所のようなものだ。実は「利用料」という名目の貸座敷代で潤っているのは奉行所なのに、口をぬぐって知らん顔である。
<超高速取引は株価変動を緩やかにする?>
本書の衝撃が飛び火すると見てか、JPXは早くも予防線を張っている。2014年5月と7月、立て続けにワーキング・ペーパーを発表した。
要は、超高速取引が流動性を供給し、株価変動を緩やかにする、との結論先にありきなのだ。ブラックボックス化で人間の恣意が介入する余地がなくなり、かつてのように場立ちの囁きや、小耳に挟んだ電話情報から、フロントランやインサイダー取引に手を染める「原始的な」証券犯罪は成り立たなくなった、という効用論ばかり吹聴する。
だが、それでは2010年5月6日にニューヨーク・ダウ工業株30種平均が、10分で600ポイントも急落した「フラッシュ・クラッシュ」を説明できない。
実は取引所の売買記録は秒単位しかなく、マイクロ秒単位で起きたデータがないからだ。微視的にはオベリスクのように売買の一点集中が起きても、巨視的には凪の水面としか見えず、量子力学をニュートン力学で解くにひとしい。アローヘッド導入の前後を比較したJPXのペーパーも同じ轍を踏んでいる。本書の指摘にはグーの音も出まい。
「フラッシュ・ボーイズ? いやいや、アメリカだけが特殊なんです、先物のシカゴと現物のニューヨークその他の取引所が別々だから、ミリ秒以下のタイムラグが生じて、〝濡れ手で粟〞の超高速取引が可能になるんです」と日本の市場関係者は言い訳する。
日本では、取引の九割が東証に集中しているから、本書に書かれたような多数の取引所間の価格差やレイテンシーに乗じた先回りはしにくいという理屈だ。
しかしそれは手口の一つに過ぎないことは本書でつまびらかにされているとおりである。ルイスのウォール街摘発を「極論」と貶す人の正体は、たいがい超高速取引業者のお仲間である。……(以下略。本文をご覧ください。参考 http://toyokeizai.net/articles/-/49752)
<2014年10月15日 南浦邦仁>
職人だって、一族郎党を食わしていかなければなりませんから、運用には頭を悩ますわけです。
んで、考えたのはやはり長期投資ということです。グーグルとかテンセント、フェイスブック、アリババといったところです。アリババは先日の安値で買ったところですが、どうなるでしょうか?
わたしはアリババの大株主、ソフトバンクの株をそこそこの高値で持っております。
ところで、この週末に欧米の相場は底を打ったといいます。日本も週明けの月曜に大幅反発必至とか。
開けゴマ!と呪文をとなえるしかないように思っています。
今回は聴衆を絞り、主に文化庁や自治体、大学、マスコミ関係者向けですので、ちよっぴり緊張します。今年は7回目の講演?となりますが、企業ものは講演料が1ケタ違うのでつい引き受けてしまいますw その点、大学とか自治体は渋いですね。「お車代」とか言われると、本当に交通費に毛が生えたようなものだったりするw
来年京都でもやるらしいので、決まったらおしらせします。楽屋にでも遊びに来てください。
名刺は一応30枚あまり持参しましたが、危なく足りなくなるところでした。いつも同じパターンです。
『雨と生きる住まい』(LIXIL出版)の方もお陰さまで好評のようで、ホットしています。機会があればご高覧下さい。
余談ですが、アリババが110ドルまで行きました。うれしやw