生活をしていると、否応(いやおう)なく好きな時間と嫌いな時間が付いて回る。好きな時間はいくらでも続いて欲しいくらいのもので、時間が経つのも忘れるくらいに没頭できる時間である。そこへいくと、嫌いな時間は、自分の意に反して拘束(こうそく)される時間だから忘れることがなく、早く過ぎてくれっ! と願うくらいの時間だ。誰だって花見は好きな時間だろう。ずぅ~~っとこのまま飲めや歌えの時間が続いてくれっ! と望むが、そうは問屋が卸(おろ)さない。卸さなければ小売商は立ち行かなくなる。^^ 学生さんは授業が待ってるだろうし、大人はお金を稼(かせ)ぐために働かねばならない。もちろん、学校好きの学生さんもいるにはいるだろうし、働くのが好きという大人もいるにはいるだろう。だがそれは少数で、誰もが拘束時間と思える嫌いな時間のはずだ。それでも仕方なく好きな時間がくるのを楽しみに嫌いな時間を働く・・これが人の世なのである。私だって、家事やカキモノを放っておけないくらいのものだ。むろん、カキモノはボケ封じにもなり、嫌い・・という訳ではないのだが…。^^
久しぶりに晴れ渡った梅雨の中休みの昼間である。二人のお年寄りが並んで歩きながら散歩をしている。
「久しぶりに出歩けましたなっ!」
「そうそう! ほんとに、よく降りました。好きな時間が消えて、さっぱりでしたっ」
「私もです。それだけなら、まだいいんですが、息子の嫁に炙(いび)られる嫌な時間でしたよ」
「そうそう! 『あら? お義父(とう)さま、いらっしゃるんですかっ!?』みたいな目つきで見られたぶんにゃ! 思わず、『いたら悪いかっ!』って、吠(ほ)えたくなりましたな、ははは…」
「私の方はそうじゃなかったですが。『あらっ、お義父さま、丁度よかった! 樋(とい)の詰まり、直して下さいません?』と直撃弾ですわ。ははは…」
「ははは…それはお気の毒なことで」
「好きな時間は確保が難(むずか)しいですなっ!」
「戻り梅雨(づゆ)対策でも考えておきますかな」 「二人の将棋の会がある! ってのは、どうです?」
「おお、それは、いいですなっ! 将棋を指(さ)すのは好きな時間ですから、丁度、いいですなっ!」
それ以降、二人の好きな時間は、散歩から将棋を指す時間へと変更されたのである。
好きな時間を忘れることはないが、他から与えられるものではなく、自(みずか)らが工夫(くふう)して作り出す時間・・と言えるだろう。^^
完