水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (30)得意科目

2020年05月14日 00時00分00秒 | #小説

 得意科目は、どういう訳か教えられたことがスゥ~っと左の耳から入って記憶に留め置かれる。要は、忘れることがないのだ。ところが、不得意科目は、得意な科目と同じようにスゥ~っと左の耳から入っても、またスゥ~っと右の耳から出て忘れてしまうことになる。学生諸君なら、心当たりがあるに違いない。^^ 得意ということは自分の好きな分野とか持って生まれた能力ったりする。不得意は、その真逆で、すぐ忘れる。^^ まあ、これは持って生まれた個人の特性だからしかたがないだろう。僕はすぐ忘れるっ! とお嘆(なげ)きの生徒さん、そう悲観しないで欲しい。そのぶん手先が器用とか運動神経がいいしとかあるからだ。えっ? ないって? それは君が自分の特性に気づいていないだけのことだ。よ~~く自分を見つめ直せば、必ず見つかるから安心しなさい。^^
 ここは、とある小学校の教室である。今、二年生の国語の授業が行われている。
「はい! 鷺宮(さぎみや)君! どちらの言い方が正しいか、分かりますか?」
「…いさましく、です」
「なるほど! 夕陽がいさましく光る。お日さまがいさましいのはいいことですが、この場合は、うつくしく光る、が正しいですよ。この前、教えたところですが、忘れましたか?」
「はい、僕は国語が苦手(にがて)で、すぐ忘れるんです。得意科目は算数です。絶対に忘れません!」
「鷺宮君、誰も、そんなことは訊(たず)ねていませんよ」
 教室内が爆笑の渦(うず)になった。
 さて、ここで皆さんにお訊(き)きしたい。鷺宮君がよく忘れる国語は、本当に不得意科目だと思われるだろうか? 実はそれは大きな間違いで、彼は後々(のちのち)、芥川賞を受賞し、我が国の大作家となる逸材だったのである。算数が得意だった彼も、やがて中学から高校へ進むにつれ、苦手になっていった・・というのだから、人の特性は分からない。その結果から考えれば、お日さまがいさましく光る・・という判断は、彼の持って生まれた天性の芸術的センスと考えられなくもない。^^
 このように、小さい頃よく忘れる不得意科目は得意科目かも知れず、当てにならない・・ということになる。^^
 
                                    


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