水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (21)事情

2020年05月05日 00時00分00秒 | #小説

 忘れるつもりではなかったが、事情により結果として忘れたことになる場合がある。例(たと)えば、デートの約束があり、ウキウキと出かけたまではよかったが、交通事情で遅れてしまッた場合がそれだ。相手にしてみれば、そんな事情とは知らないから当然、怒るという事態に立ち至る。デートはご破算ということだ。ならば、どうすればよかったか? ということになるが、より完全に間に合う方法を考えるべきだったと結論付けられる。要は、交通事情を見据(みす)え、ゆとりのある時間に出るなどの手段を取るべき・・ということになる。そこまでしなくても…と思われるだろうが、時間に間に合う確率を100%に近づけることこそが事情に打ち勝つ手段・・ということに他(ほか)ならない。そうすれば結果として忘れる事態は未然に避(さ)けられる・・ということになる。^^
 とある卸売市場である。市場関係者の言った側と言われた側の遣(や)り取りの一部始終だ。
「妙だな? ナニはまだ入らないのっ!?」
「ナニですか? ナニってアレですよね?」
「アレ? アレじゃないよ君。ナニだよっ!」
「ナニ? …ナニというと?」
「ナニはナニだよっ! 言っただろっ!」
 言われた側は、分かってもいないのに分かったことにした。別の用事で言われたナニをすっかり忘れていたのだが、そんな事情を、うっかり忘れていたのだ。^^
「ああ! 今日は入荷が遅れるということですっ!」
「なんだ、そうか…。なら、いいよ。そのうち入るだろうから、入ったら言ってくれっ!」
「分かりました」
 そのとき、すでにナニは入荷していて、競(せり)にかけられ競り落とされていた・・と、話はまあこうなる。^^
「怪(おか)しいな…」
 言った側は訝(いぶか)しげに首を傾(かし)げた。
 このあとどうなったか? 推理の得意なお方なら、もうお分かりだろう。言われた側は事情でナニを忘れることになり、さんざん怒られたのである。言っておくが、ナニとはアレでもソレでもない。^^ 
 
                                   


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