物事には)潮(しお)どきというものがある。この潮どきを逃(のが)せば引くに引けない事態となり、結果として敗(やぶ)れたり上手(うま)くいっていた物事が悪い方向へと向かってしまうのだから怖(こわ)い。ただ、この潮どきは目に見えず、ついつい忘れるというのが世間相場である。多くの人の上に立つ社会的地位の高い人にとって、この潮どきを見定めることこそが成否を分かつ鍵(かぎ)となり、重要である。私なんか、いつも潮どきを忘れる失態を犯しているから、人の上にはとても立てそうにない。^^
とある町の用品店である。店長と店員の二人が何やらゴチャゴチャと話をしている。
「あの商品、余り売れ行きがよくないんですよ…」
「そうか…。そろそろ潮どきだな」
「ええ、そう思います…」
「よしっ! 思いきって新商品と入れ替えるかっ!」
「…ですね。丁度(ちょうど)いいのがありました。コレなんかどうです?」
店員がファイルに入った一覧表を店長に見せた。
「おっ! コレね。いいじゃないか。それじゃコレを十ケースほど置いてみてよっ!」
「分かりましたっ!」
その半月後である。
「どう? コレの売れ行きはっ?」
「それが、今一よくないんです。実はこの前、替えたアレ、他の店じゃ飛ぶように売れて売り切れ続出だそうです…」
「なんだって! そりゃ、コトだっ! ホントかっ?」
「ホントもボンドもありません! 紛(まぎ)れもない事実ですっ!」
「馬鹿っ! ダジャレを言ってるときじゃないだろっ!」
「どうも、すいません…。お客が付いて離れないらしいです」
「ボンドのようにか?」
「ええ、まあ…」
「分かった! 前のアレと入れ替えてくれっ!」
「分かりました…」
その一週間後である。アレの売れ行きはピタリ! と止まり、入れ替えた商品のアレは、ほとんどが売れ残った。 このように潮どきを見忘れると、情けない事態に立ち至るというお話である。皆さん、潮どきには呉々(くれぐれ)も気をつけましょう!^^
完