水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (41)出世

2020年05月25日 00時00分00秒 | #小説

 妙なもので、出世しようしよう! と意気込むほど出世できないのがこの世である。逆に、出世なんかどこ吹く風…くらいに軽く生きている人ほど出世するのだから、この世は複雑怪奇で面白いと言わざるを得ない。^^ これは、お金に執着(しゅうちゃく)しない人のところへお金が集まる現象に似通(にかよ)っている。まあ、私のところは出世に縁(えん)が乏(とぼ)しく、お金も素通りされているのだが…。^^
 出世を目論(もくろ)むとある大物政治家がいた。
「先生! ナニですが、いかがいたしましょう?」
 私設秘書の一人が大物政治家に伺(うかが)いを立てた。
「ああ、ナニか…。ナニよりアレの方が大事だろ? ナニは呼び込まれてからの方がいい…」
「分かりました。では、そのように…」
 改造内閣の呼び込みが始まろうとする矢先だった。大物政治家はすでに自分の出世を見越し、そう告げたのだ。ところがその頃、首相官邸ではこの大物政治家の名は忘れられ、全然、出ていなかった。大物政治家の出世の道は完全に閉ざされていたのである。そうとは知らない大物政治家の事務所には、出世を見越した代議士からの献上の品があとを絶たなかった。
「先生、そろそろですね…」
「ははは…まあなっ!」
 それから二時間が経過した大物政治家の事務所である。官邸からの呼び込みがなかった事務所は重苦しい雰囲気のお通夜状態になっていた。大物政治家は立つ瀬がなく、自室の椅子にジイ~~っと座っていた(ダジャレです^^)。  出世は望むものではなく、忘れることで望まれてやって来るもの・・という色彩が濃い。^^

                                     


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