水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (31)そのまま

2020年05月15日 00時00分00秒 | #小説

 そのままにして忘れることは誰でもよくある。物事をしていた途中で俄(にわ)かに他(ほか)の物事が出来た場合などに起きやすい。私なんか毎度のことで、恥ずかしながら、いつも探し捲(ま)くっているような体(てい)たらくだ。^^ ただ、どういう訳か食べることだけは忘れないから、それが不思議といえば不思議といえる。^^
 昭和30年代後半のとある小学校の給食風景である。給食当番の数人がクラス全員の準備をしている。全員の配膳が終ったところだ。
「では、いただきますっ!!」
 代表して言ったのは、おそらくクラス委員かなんかだろう。その大きな声が響いた。
「ちょっと、ちょっと! 焼いてたよ?」
「あっ! そうだ、そうだ! しまった、忘れてたっ!」
 給食係はクラスで幾(いく)つかの班(はん)に分かたれ、石炭ストーブで食パンを焼ける特典があった。慌てて給食係の一人はストーブに駆け寄った。だが、食パンの半面は、ほぼ黒コゲになっていた。
「そのままだったよ…」
「いいじゃん! まだ、二枚あるから」
「まっ! そうだなっ! それに、黒コゲパンの苦味(にがみ)も味わっておきたいっ!」
「フフッ、また格好(かっこ)つけてるわっ!」
 給食係のリーダーの女子生徒が、そのまま忘れた生徒を窘(たしな)めた。
 今の時代と違い、長閑(のどか)だった昭和30年代でも、そのまま忘れる生徒もいた・・というお粗末なお話である。^^ 

                                    


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