死後のことは誰も分からない。いや、おそらく分からないはずだ。死ねば当然、生前のことを忘れてしまう・・とは、まあ一般的な人の世の見解である。来世があるとすれば、生前のことを忘れることで転生(てんしょう)するのに違いない。私も生まれる前のことは忘れてしまっていて、サッパリ分からない。^^
とある霊媒師(れいばいし)を生業(なりわい)とする古下(ふるした)という男がいた。こんな仕事が商売になるとは到底(とうてい)思えないが、世の中とは妙なもので結構、それなりに儲(もう)かっていた。そして、この日も古下は一件の依頼先の家へ来ていた。
「お亡(な)くなりになれたご主人の霊でございますね?」
「ぅぅぅ… よ、よろしくお願いたしますっ!」
「分かりました。ではっ!! …『♪あ~の世はぁ~楽しぃ~ドォ~タラ、コォ~タラァ… ウッ!!」
「あなたっ!!」
「お、お前は鱈子(たらこ)っ!」
「そうよっ! 美味(おい)しい美味しい鱈子よっ!! ぅぅぅ…あなたぁ~!!」
霊媒師、古下と依頼先の女性は、しっかと抱き合った。このとき、霊媒師、古下は女性のいい匂いに、思わず仕事を忘れる破目になった。それがいつものパターンを狂わせてしまった。
「死後も鱈子には暖かいご飯がぁ~~」
「えっ!? なに言ってるのよっ? あなたは魚が苦手(にがて)だったでしょ!?」
「…」
古下は、この日の仕事をすっかりしくじってしまった。
霊媒師、古下が仕事を忘れるほど死後のことは難解なのである。^^
完