水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (47)死後

2020年05月31日 00時00分00秒 | #小説

 死後のことは誰も分からない。いや、おそらく分からないはずだ。死ねば当然、生前のことを忘れてしまう・・とは、まあ一般的な人の世の見解である。来世があるとすれば、生前のことを忘れることで転生(てんしょう)するのに違いない。私も生まれる前のことは忘れてしまっていて、サッパリ分からない。^^
 とある霊媒師(れいばいし)を生業(なりわい)とする古下(ふるした)という男がいた。こんな仕事が商売になるとは到底(とうてい)思えないが、世の中とは妙なもので結構、それなりに儲(もう)かっていた。そして、この日も古下は一件の依頼先の家へ来ていた。
「お亡(な)くなりになれたご主人の霊でございますね?」
「ぅぅぅ… よ、よろしくお願いたしますっ!」
「分かりました。ではっ!! …『♪あ~の世はぁ~楽しぃ~ドォ~タラ、コォ~タラァ… ウッ!!」
「あなたっ!!」
「お、お前は鱈子(たらこ)っ!」
「そうよっ! 美味(おい)しい美味しい鱈子よっ!! ぅぅぅ…あなたぁ~!!」
 霊媒師、古下と依頼先の女性は、しっかと抱き合った。このとき、霊媒師、古下は女性のいい匂いに、思わず仕事を忘れる破目になった。それがいつものパターンを狂わせてしまった。
「死後も鱈子には暖かいご飯がぁ~~」
「えっ!? なに言ってるのよっ? あなたは魚が苦手(にがて)だったでしょ!?」
「…」
 古下は、この日の仕事をすっかりしくじってしまった。
 霊媒師、古下が仕事を忘れるほど死後のことは難解なのである。^^
 
                                     


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