誰もが来て欲しくないものの一つにボケがある。このボケナスっ! と、若い人が怒られるボケは、確かにボケなのだろうが、うっかり忘れることで生じるミスで、老人性のボケとは、また異質だ。ここで取り上げるボケは、ついうっかりでもなく、身体的衰えで本当に忘れる正真正銘のボケだから具合が悪い。ただ、これを逆手に取って、不都合なことはすぐ忘れたことにするチャッカリしたお年寄りもいるから要注意だ。^^
とある病院である。年老いた医者が患者を診察している。
「軽度の老人性痴呆症ってやつですなっ! ははは…実は私も老人性痴呆症のようなもんで、よく忘れるんですわっ! で、今はメモとパソコンに頼りきりです。ははは…」
「はあ…」
患者は、誰もそんなことは訊(き)いてませんっ! 早く、診て下さいっ! とは思ったが、とてもそうは言えず、思うに留(とど)めた。
「まあ幸い、電子カルテに変わりましたからな。これ幸いです。さてと…」
医者はシャウカステンに映るCTスキャンの映像から目を離し、電子カルテになにやらイン・プットした。患者は、やっと診てもらえるんだっ! と意気込んだ。
「アルツハイマーじゃなく、ただのボケでよかったじゃありませんかっ! ははは…」
「はあ…」
なにがボケだっ! と患者は思ったが、とてもそうとは言えず、ふたたび思うに留めた。
「まあ、余り気にされず、アレコレと頭を巡らすことですな、お大事に…」
「お薬とかは?」
「私もそうですが、ボケに付ける薬は、ありゃしません、ははは…」
「ははは…」
患者は、何がははは…だっ! と一瞬、怒れたが、医者もボケ仲間か…と思い直し、ニッコリ笑い返した。
まあ、年老いたボケは、若者のボケナスっ! ではないのだから、忘れる場合があっても仕方がないだろう。^^
完