置いておいたはず…と、いざ、その場所へ行くと、その目的の物がその場所に無いことがある。おやっ? とは思うが、確かにここへ置いたんだ…と意固地(いこじ)になり、その場所の辺(あた)りをゴチャゴチャと探す。要は、どこかへ置き忘れた訳だ。^^
とある町の集会場である。集会はとっくに終わり、出席者のほとんどが、すでに帰途(きと)についていた。そんな中、一人の老人が待合場の座椅子の下をアチラコチラと探し回っている。
「どうされました?」
訝(いぶか)しく思えたのだろう。帰ろうとしていた別の老人が徐(おもむろ)に声をかけた。
「いや…この辺(あた)りに折り畳(たた)み傘は無かったですかな?」
「折り畳み傘ですか? いや~どうでしたか。私はこの辺りには座っておりませんでしたので…」
「さようで…」
探す老人は首を捻(ひね)りながら腑(ふ)に落ちない態(てい)で、朴訥(ぼくとつ)に返した。
「お気の毒な…。私も探させていただきましょう。その辺りですか?」
「はい…。いや、ご足労をおかけしますから…」
「ははは…。実は私もよくあるんです、置き忘れが…」
「さようで…。置き忘れ仲間ですな、ははは…」
二人はその後しばらく、座席の周辺を探し回ったが、とうとうその折り畳み傘は出てこなかった。
さて、皆さんはその折り畳み傘がどこへ置き忘れられたのか、お分かりだろうか?^^ 正解は、ちっとも置き忘れられてはいなかったのである。その老人は折り畳み傘を持って出たと錯覚していたのだ。以前その傘を持って家を出た記憶がふと、甦(よみがえ)ったのである。置き忘れではなく、物忘れだった・・という落ちです。チャンチャン!^^
ご高齢の皆さん、置き忘れないようメモ書きしましょう!^^
完