水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (25)残りもの

2020年05月09日 00時00分00秒 | #小説

 日々の食事だから、前日に食べた惣菜(そうざい)、要はオカズだが、その残りものは当然、出る。まだ記憶に残っている場合はいいが、ついつい忘れてしまう。忘れるつもりはないとはいえ、次の日に美味(おい)しい惣菜が出されれば、そちらへ気持が流れ、昨日(きのう)の残りものを忘れることになる。これは、古女房を忘れ、綺麗(きれい)な女性へ気が削(そ)がれる男性の姿によく似ている。^^ 古女房は言うまでもなく亭主(ていしゅ)の浮気(うわき)にお冠(かんむり)状態となり、少しづつ残りものが腐敗していくように関係が悪くなっていく。その浮気が長引き、離婚にまで至れば、これはもう残りものとはいえず、完全腐敗で生ごみとして捨てられるしかない。だから、残りものの古女房でも忘れずに食べよう! と結論づけられる訳だ。^^
 とある家庭の食卓である。ご主人が冷蔵庫の中を、アチラコチラと物色(ぶっしょく)している。
「おいっ! 俺の味噌カツ知らないかっ!?」
「知らないわよっ! そんなに大事なら、名前を書いて入れておいたらっ!」
「…」
 ご主人は瞬間、『それもそうだな…』と思え、押し黙った。
「お母さん、味噌カツ、私のお弁当に入れたって言ってなかった?」
 現われなくてもいいのに、そこへ茶々を淹(い)れに現われたのは長女だった。
「あっ! そうだったわね…。あなた、そういうことです…」
「なんだ、そうかっ!」
 ご主人は、忘れるのは危険! と判断し、次から食べてしまおう! と、固く心に誓うのだった。
 残りものは出来るだけ早く食べてしまおう! …などという気分は甘く、完全に食べ切って残りものを出さないようにしよう! …的な気分で食事に臨(のぞ)まないといけない! というお話である。^^
  
                                   


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