水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (20)都合

2020年05月04日 00時00分00秒 | #小説

 人は始末が悪いことに、都合のいいことはいつまでも憶(おぼ)えていて、都合の悪いことはすぐ忘れる傾向がある。嫌(いや)なことは早く忘れろっ! と脳内の潜在意識が命じているのか? まではよく分からないが、ともかくその傾向がある。早い話、人は都合よく生活する生き物ということになるだろう。^^ そのお蔭(かげ)でいい迷惑を被(こうむ)っているのが人以外の地球上の生物達である。絶滅種、絶滅危惧種は枚挙に遑(いとま)がない。むろん、動植物を含めての話だ。反省をっ!^^
 宝くじ売り場の前である。
「やあ! 鋤田(すきた)さんもお求めですかな?」
「ああ、これはお隣(となり)の鍬畑(くわはた)さん! まあ、そんなとこです」
「妙なもので、外(はず)れても外れても宝くじの発売日は忘れることがありません。いやはや、困ったものです、ははは…」
「ははは…当たれば額が大きいですからなっ! その額が忘れることなく買わせる訳です」
「ですなっ!」
「ところで、確かこの前、立て替えて私が買いましたな?」
「さよでしたか? 記憶にないんですがな…」
「またまたっ! お人が悪いっ! 都合が悪いとすぐお忘れになる」
「いや、そうでもないんですがな…」
「またまたまたっ!」
「ああ! そのあと、レストランで食事しましたな。そのお代は私が立て替えたと記憶いたしておりますが…」
「さよでしたか? 記憶にないんですがな…」
「またまたっ! お人が悪いっ! 都合が悪いとすぐお忘れになる」
「いや、そうでもないんですがな…」
「またまたまたっ!」  話は持久戦の様相を帯び、いつまでも続いていった。
 都合が悪いことでも、忘れることなくきっちりと記憶しておきたいものだ。^^

                                   


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