水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (42)土産(みやげ)

2020年05月26日 00時00分00秒 | #小説

 旅行などに行くと、観光地には必ずと言ってよいほど数多くの土産(みやげ)が売られている。さて、そうなると、観光客は買わなくちゃ! という気分にさせられる。^^ 忘れようとしても現に売られていれば、忘れることは出来ない。^^ そんなことで、観光客は買いたくなくても財布の紐(ひも)を緩(ゆる)めて土産を買わざるを得なくなる訳だ。^^
 大型連休さ中の、とある観光地である。ひと組の夫婦が土産を買おうと一軒の土産屋へ入った。
「いろいろあるなぁ~」
 「そりゃそうよ。お土産屋だもん…」
「だよな…。店があるから土産は忘れることがない」
 夫は、つまらないことを言った…と、上げ足を取られた自(みずか)らの過失を悔(く)いた。
「これなんか、いかがでっか?」
 そこへ、店主が、ひょっこり顔を出した。
「馬煎餅(うませんべい)か…。なんか鹿(しか)煎餅みたいですね」
「ははは…鹿煎餅は鹿が食べまっけどな、馬煎餅は人、専門ですわっ!」
「ははは…こりゃ、いいっ!」
「じゃあ、これ二(ふた)つ!」
「毎度(まいど)っ! 関東からでっか?」
「ええ、まあ…」
「連休でっさかい、100円だけ引かせてもらいまっさ!」
「ああ、どうも…」
 夫婦は、取り分けて持って行き先のない土産を買ってしまった。
 観光地には、土産を買わねばっ! という見えないオーラが漂(ただよ)っていて、観光客は買い忘れることが出来ないようである。^^ 
 
                                     


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