疲れたとき、してしまうのがうたた寝(ね)だ。若い頃はそうでもなかったものが、年を重ねるにつれ、ついウトウトと…といった現象がよく起こるようになる。年だからまあ仕方がない・・と言ってしまえばそれまでだが、やっていることを忘れるのは余りよくないだろう。^^
午後5時40分、とある会社の警備員待機室である。いつもの常駐警備員が二名、座っている。夕方6時~翌朝6時までの半日勤[12時間]の勤務者達だ。
「そろそろ行くとしますか、顎川(あごかわ)さん…」
ウトウトしている顎川に眉山(まゆやま)が声をかけた。
「んっ! …ああ! つい、うたた寝をしてしまいました。そうですなっ! いつものように途中の自動販売機でコーヒーを飲みますと、ちょうど10分前ですからなっ!」
「相変わらず細かいっ!」
「ははは…眉山さんには負けますっ!」
「いやいや、顎川さんにはっ!」
「いやいやいや、とてもとてもっ!」
二人はお互いに牽制(けんせい)し合いながら警備員待機室を出た。この二人、いつも交互にうたた寝をし、声をかけるのも、ほぼ交互だった。 一方、こちらは勤務が終わろうとしている警備室の二名である。
「そろそろ交代ですな、肘崎(ひじさき)さん!」
ウトウトとうたた寝をしかけた肘崎に腰内(こしうち)が声をかけた。
「んっ! …ああ、もうこんな時間ですか、腰内さん」
「そろそろ交代要員が来ます」
「ですなっ!」
この二人もいつも交互にうたた寝をし、声をかけるのも、ほぼ交互だった。
しばらくして四名のうたた寝常習者四名が警備室で一堂に会した。
うたた寝はプロの警備員でも忘れることなく起こすのである。だが、彼らの名誉のために言っておく。うたた寝は休憩時間内だけであることを…。^^
完