水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (44)うたた寝(ね)

2020年05月28日 00時00分00秒 | #小説

 疲れたとき、してしまうのがうたた寝(ね)だ。若い頃はそうでもなかったものが、年を重ねるにつれ、ついウトウトと…といった現象がよく起こるようになる。年だからまあ仕方がない・・と言ってしまえばそれまでだが、やっていることを忘れるのは余りよくないだろう。^^
 午後5時40分、とある会社の警備員待機室である。いつもの常駐警備員が二名、座っている。夕方6時~翌朝6時までの半日勤[12時間]の勤務者達だ。
「そろそろ行くとしますか、顎川(あごかわ)さん…」
 ウトウトしている顎川に眉山(まゆやま)が声をかけた。
「んっ! …ああ! つい、うたた寝をしてしまいました。そうですなっ! いつものように途中の自動販売機でコーヒーを飲みますと、ちょうど10分前ですからなっ!」
「相変わらず細かいっ!」
「ははは…眉山さんには負けますっ!」
「いやいや、顎川さんにはっ!」
「いやいやいや、とてもとてもっ!」
 二人はお互いに牽制(けんせい)し合いながら警備員待機室を出た。この二人、いつも交互にうたた寝をし、声をかけるのも、ほぼ交互だった。  一方、こちらは勤務が終わろうとしている警備室の二名である。
「そろそろ交代ですな、肘崎(ひじさき)さん!」
 ウトウトとうたた寝をしかけた肘崎に腰内(こしうち)が声をかけた。
「んっ! …ああ、もうこんな時間ですか、腰内さん」
「そろそろ交代要員が来ます」
「ですなっ!」
 この二人もいつも交互にうたた寝をし、声をかけるのも、ほぼ交互だった。
 しばらくして四名のうたた寝常習者四名が警備室で一堂に会した。
 うたた寝はプロの警備員でも忘れることなく起こすのである。だが、彼らの名誉のために言っておく。うたた寝は休憩時間内だけであることを…。^^
 
                                     


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