水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (37)根腐(ねぐさ)れ

2020年05月21日 00時00分00秒 | #小説

 日増しに暖かくなってきた…と思う陽気を過ぎれば、日増しに暑くなってきた…という気分になる。まあ、四季がある我が国だから当然だが、そうなると、それぞれの頃合いに最適な対応が求められる。人の場合だとクールビズとか呼ばれる対応だが、植物も同じことが言える。特に鉢物の場合は、高温で根腐(ねぐさ)れを起こす危険性もあり、注意が喚起(かんき)される。さらに数年に一度は伸びた根を切り、新しい用土に植えかえないと枯らしてしまう危険性があり、要注意だ。人だと、数年に一回の人事異動だろう。ただ、人事異動させたからといって? という疑問なケースも多々あり、上層部の管理能力の欠如(けつじょ)が露呈(ろてい)する。これは上層部のさらに上の上層部の失態(しったい)ということになる。^^
 世界を股(また)に掛けるとある総合商社である。
「専務、全面撤退ですかっ! 専務っ!」
「そう、専務専務と言うなっ! 部長!」
「すみません…。少し海外に足を伸ばし過ぎましたかっ?」
「だなっ! 根腐れだよ、君っ!」
「我が社はどうなります、専務っ!」
「また、専務専務だっ!」
「あっ! すいません…」
「まあ、いい…。とにかく、はやく植え替えせんとな…」
「植え替え? というと?」
「だからっ! 全面撤退と規模縮小だろうがっ!」
「具体的にはっ?」
「部長! 君はほんとに根腐れしたような男だなっ! 分からんのかっ!?」
「はい、分かりません…」
「まず、海外事業部を廃止。で、人員削減は樹勢を失くすから、ジョブ・シェアリングだろうなっ!」
「ワーク・シェアリングですか?」
「ワーク・シェアリングじゃないっ! ジョブ・シェアリングだっ! ジョブ・シェアリングはイギリスから派生した経営用語だっ! 国会のような間違った造形語を口にしないようにっ!」
「はい、専務…。それで根腐れは、専務?」
「まあ、首尾よくいくかは我が社の樹勢次第だが、ともかく治療してみる他はない!」
「はいっ! 専務!」
「また、専務専務と…。部長っ!」
 こうして、会社の再建策は実施される運びとなった。その後、会社更生法の申請が無かったところをみると、再建策は実り、会社経営は再び軌道に乗ったようである。よかった、よかった。^^
 根腐れは、忘れることのない早期発見と治療が必要なようだ。 ^^
 
                                     完 

 ※ 少し難しくなりました。どうも、すみません。^^


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忘れるユーモア短編集 (36)長閑(のどか)さ

2020年05月20日 00時00分00秒 | #小説

 慌(あわ)ただしい日々を過ごしていると、人はどうしても長閑(のどか)さを求めたくなる。雑踏を忘れて落ちつきたいっ! と脳内が深層心理で命じている訳だ。地方ならまだしも、都会の人々は特にそう思うに違いない。まあ、都会の人々といってもそれは人それぞれで、全員が必ず長閑さを求めたい訳ではないのだろうが…。私なんか、別に暇(ひま)という訳ではないが、時間を忘れるほど、ずぅ~~っと長閑さに取り囲まれている。^^
 連休さ中のとある駅である。多くの観光客が別に出かけなくてもいいのにザワザワと出かけている。これでは人混みを見るだけで、とても長閑さは望めそうにない。だが、長閑さを求めることとは関係なく、どこかに連休≒観光という不等式が成立しているかのようだ。^^
 一人の男が駅構内で倒れて呻(うめ)いている。
「どうされましたっ!」
 近くにいた駅員が駆け寄って訊(たず)ねた。
「ぅぅぅ…もう、動けませんっ!」
「大丈夫ですかっ!」
「いや、ちっとも大丈夫じゃないんです。腹が減って減って! もう死にそうなんですっ!」
 駅員は、なんだっ、病人じゃないのかっ!  腹は誰でも減るわっ! 私だって減ってるんだっ! …とは思ったが、そうとも言えず、手を貸してその男を立たせた。
「なにか食べればいいじゃないですかっ!」
「こういう長閑さのないところでは私、ダメなんですっ! 食べられんのですっ!」
「空腹なんでしょ? 怪(おか)しいじゃないですかっ!」
「いや、ほんとにダメなんですっ! …これで、食べる物を買って、私を人のいないところへ連れてってもらえませんか?」
 男は駅員に紙幣を渡そうとした。駅員は、偉いのに捕(つか)まったな! と思ったが、そうとは言えず、「ははは…職務中ですからっ!」と、軽く遠ざかろうとした。
「そ、そこをなんとかっ!」
 男は駅員を追おうとしたが、不意に立ち止まった。空腹感を忘れる尿意を突然、感じたのだ。こうなれば、長閑さもへったくれもない。男はトイレへと一目散に駆け出した。  長閑さはゆとりのある感情で、それを忘れるほど生理的欲求は強い訳だ。^^ 
  
                                    


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忘れるユーモア短編集 (35)一夜漬け

2020年05月19日 00時00分00秒 | #小説

 日本人にとって食事の最後は、やはり香(こう)の物てある。香の物とは言うまでもなくお漬物のことだが、ついうっかり買い忘れることも主婦の方ならお有りだろう。そこで、どうするっ! という話になるが、少しの野菜があれば、それで一夜漬けを製作することが可能となる。製作などと言えば大げさだが、あっ! 余ったお野菜があったわね…などという少しの閃(ひらめき)きや判断力、調理技術などが必要となるから、やはり製作と言えるだろう。^^
 とある家庭の夕食風景である。
「おいっ! 琢磨は?」 「明日、急なテストがあるから一夜漬けするんですって」
「ふ~~ん。一夜漬けか…。で、夕飯は?」
「あとから食べるって…」
「なんだ、そうか…。? 漬け物が出てないぞっ!」
「あっ、そうそう! 忘れて切らしたから、一夜漬け作ったんだった…」
 妻は冷蔵庫から一夜漬けの小鉢(こばち)を取り出した。
「たまには一夜漬けもいいな…」
「テストの一夜漬けは、すぐ忘れるけどね」
「お前だって忘れて作ったんだろっ?」
「フフッ、そうだったわ」
「ははは…今夜は一夜漬けデーだなっ!」
「そうね」
 こうして、一夜漬けの夜は更けていくのであった。
 孰(いず)れにしろ、一夜漬けには忘れる・・という事実が付き纏(まと)うようだ。^^  
  
                                    


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忘れるユーモア短編集 (34)遣(や)りきる

2020年05月18日 00時00分00秒 | #小説

 しようとしていた物事を忘れるのと遣(や)りきるのとでは雲泥(うんでい)の差がある。忘れるというのは、心がどぉ~~でもいい…と思っている状態で、物事は達成されにくい。そこへいくと遣りきる方は、心が何が何でもっ! と意気込んでいるから達成されやすくなる。いや、意気込みが強ければ、恐らく達成されるに違いない。^^ 世の中でコトを成すには、この遣りきる心が大事ということになる。^^
 選挙戦、真只中(まっただなか)のとある選挙事務所である。
「いやいや、何が何でもこの区画(くかく)の票を取り崩(くず)すには無理を押して回りましょう、先生! ここは、遣りきるしかありませんっ!」
「…君がそこまで言うなら、回るとするかっ! あの店の美味(うま)い定食が食べたかったが…。まっ! 当選すれば、いくらでも食べられる訳だ。ははは…」
「そうですともっ! 今、食い気は忘れましょう! ここ三日ばかりが正念場(しょうねんば)ですっ! 家(うち)のカミさんに作らせた魔法瓶のポタージュスープとサンドウイッチがあるじゃないですかっ!」
「ああ…アレは美味(うま)いっ! 君もいいのをもらったなっ!」 「いやですよ、先生! からかいっこなしにしましょう」 「ははは…悪い悪いっ! それじゃ、もうひと踏ん張り、遣りきるかっ!」
「はいっ!」
 昼食休憩は急遽(きゅうきょ)、対立候補の選挙地盤取り崩しに切り替えられた。
 この効あってかどうかは分からないが、見事、この候補は当選を果たしたのである。
 忘れることなく継続して遣りきる力こそが真の実力なのだ。^^ 
  
                                    


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忘れるユーモア短編集 (33)潮(しお)どき

2020年05月17日 00時00分00秒 | #小説

 物事には)潮(しお)どきというものがある。この潮どきを逃(のが)せば引くに引けない事態となり、結果として敗(やぶ)れたり上手(うま)くいっていた物事が悪い方向へと向かってしまうのだから怖(こわ)い。ただ、この潮どきは目に見えず、ついつい忘れるというのが世間相場である。多くの人の上に立つ社会的地位の高い人にとって、この潮どきを見定めることこそが成否を分かつ鍵(かぎ)となり、重要である。私なんか、いつも潮どきを忘れる失態を犯しているから、人の上にはとても立てそうにない。^^
 とある町の用品店である。店長と店員の二人が何やらゴチャゴチャと話をしている。
「あの商品、余り売れ行きがよくないんですよ…」
「そうか…。そろそろ潮どきだな」
「ええ、そう思います…」
「よしっ! 思いきって新商品と入れ替えるかっ!」
「…ですね。丁度(ちょうど)いいのがありました。コレなんかどうです?」
 店員がファイルに入った一覧表を店長に見せた。
「おっ! コレね。いいじゃないか。それじゃコレを十ケースほど置いてみてよっ!」
「分かりましたっ!」
 その半月後である。
「どう? コレの売れ行きはっ?」
「それが、今一よくないんです。実はこの前、替えたアレ、他の店じゃ飛ぶように売れて売り切れ続出だそうです…」
「なんだって! そりゃ、コトだっ! ホントかっ?」
「ホントもボンドもありません! 紛(まぎ)れもない事実ですっ!」
「馬鹿っ! ダジャレを言ってるときじゃないだろっ!」
「どうも、すいません…。お客が付いて離れないらしいです」
「ボンドのようにか?」
「ええ、まあ…」
「分かった! 前のアレと入れ替えてくれっ!」
「分かりました…」
 その一週間後である。アレの売れ行きはピタリ! と止まり、入れ替えた商品のアレは、ほとんどが売れ残った。  このように潮どきを見忘れると、情けない事態に立ち至るというお話である。皆さん、潮どきには呉々(くれぐれ)も気をつけましょう!^^
 
                                    


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忘れるユーモア短編集 (32)ボケ

2020年05月16日 00時00分00秒 | #小説

 誰もが来て欲しくないものの一つにボケがある。このボケナスっ! と、若い人が怒られるボケは、確かにボケなのだろうが、うっかり忘れることで生じるミスで、老人性のボケとは、また異質だ。ここで取り上げるボケは、ついうっかりでもなく、身体的衰えで本当に忘れる正真正銘のボケだから具合が悪い。ただ、これを逆手に取って、不都合なことはすぐ忘れたことにするチャッカリしたお年寄りもいるから要注意だ。^^
 とある病院である。年老いた医者が患者を診察している。
「軽度の老人性痴呆症ってやつですなっ! ははは…実は私も老人性痴呆症のようなもんで、よく忘れるんですわっ! で、今はメモとパソコンに頼りきりです。ははは…」
「はあ…」
 患者は、誰もそんなことは訊(き)いてませんっ! 早く、診て下さいっ! とは思ったが、とてもそうは言えず、思うに留(とど)めた。
「まあ幸い、電子カルテに変わりましたからな。これ幸いです。さてと…」
 医者はシャウカステンに映るCTスキャンの映像から目を離し、電子カルテになにやらイン・プットした。患者は、やっと診てもらえるんだっ! と意気込んだ。
「アルツハイマーじゃなく、ただのボケでよかったじゃありませんかっ! ははは…」
「はあ…」
 なにがボケだっ! と患者は思ったが、とてもそうとは言えず、ふたたび思うに留めた。
「まあ、余り気にされず、アレコレと頭を巡らすことですな、お大事に…」
「お薬とかは?」
「私もそうですが、ボケに付ける薬は、ありゃしません、ははは…」
「ははは…」
 患者は、何がははは…だっ! と一瞬、怒れたが、医者もボケ仲間か…と思い直し、ニッコリ笑い返した。
 まあ、年老いたボケは、若者のボケナスっ! ではないのだから、忘れる場合があっても仕方がないだろう。^^
  
                                    


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忘れるユーモア短編集 (31)そのまま

2020年05月15日 00時00分00秒 | #小説

 そのままにして忘れることは誰でもよくある。物事をしていた途中で俄(にわ)かに他(ほか)の物事が出来た場合などに起きやすい。私なんか毎度のことで、恥ずかしながら、いつも探し捲(ま)くっているような体(てい)たらくだ。^^ ただ、どういう訳か食べることだけは忘れないから、それが不思議といえば不思議といえる。^^
 昭和30年代後半のとある小学校の給食風景である。給食当番の数人がクラス全員の準備をしている。全員の配膳が終ったところだ。
「では、いただきますっ!!」
 代表して言ったのは、おそらくクラス委員かなんかだろう。その大きな声が響いた。
「ちょっと、ちょっと! 焼いてたよ?」
「あっ! そうだ、そうだ! しまった、忘れてたっ!」
 給食係はクラスで幾(いく)つかの班(はん)に分かたれ、石炭ストーブで食パンを焼ける特典があった。慌てて給食係の一人はストーブに駆け寄った。だが、食パンの半面は、ほぼ黒コゲになっていた。
「そのままだったよ…」
「いいじゃん! まだ、二枚あるから」
「まっ! そうだなっ! それに、黒コゲパンの苦味(にがみ)も味わっておきたいっ!」
「フフッ、また格好(かっこ)つけてるわっ!」
 給食係のリーダーの女子生徒が、そのまま忘れた生徒を窘(たしな)めた。
 今の時代と違い、長閑(のどか)だった昭和30年代でも、そのまま忘れる生徒もいた・・というお粗末なお話である。^^ 

                                    


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忘れるユーモア短編集 (30)得意科目

2020年05月14日 00時00分00秒 | #小説

 得意科目は、どういう訳か教えられたことがスゥ~っと左の耳から入って記憶に留め置かれる。要は、忘れることがないのだ。ところが、不得意科目は、得意な科目と同じようにスゥ~っと左の耳から入っても、またスゥ~っと右の耳から出て忘れてしまうことになる。学生諸君なら、心当たりがあるに違いない。^^ 得意ということは自分の好きな分野とか持って生まれた能力ったりする。不得意は、その真逆で、すぐ忘れる。^^ まあ、これは持って生まれた個人の特性だからしかたがないだろう。僕はすぐ忘れるっ! とお嘆(なげ)きの生徒さん、そう悲観しないで欲しい。そのぶん手先が器用とか運動神経がいいしとかあるからだ。えっ? ないって? それは君が自分の特性に気づいていないだけのことだ。よ~~く自分を見つめ直せば、必ず見つかるから安心しなさい。^^
 ここは、とある小学校の教室である。今、二年生の国語の授業が行われている。
「はい! 鷺宮(さぎみや)君! どちらの言い方が正しいか、分かりますか?」
「…いさましく、です」
「なるほど! 夕陽がいさましく光る。お日さまがいさましいのはいいことですが、この場合は、うつくしく光る、が正しいですよ。この前、教えたところですが、忘れましたか?」
「はい、僕は国語が苦手(にがて)で、すぐ忘れるんです。得意科目は算数です。絶対に忘れません!」
「鷺宮君、誰も、そんなことは訊(たず)ねていませんよ」
 教室内が爆笑の渦(うず)になった。
 さて、ここで皆さんにお訊(き)きしたい。鷺宮君がよく忘れる国語は、本当に不得意科目だと思われるだろうか? 実はそれは大きな間違いで、彼は後々(のちのち)、芥川賞を受賞し、我が国の大作家となる逸材だったのである。算数が得意だった彼も、やがて中学から高校へ進むにつれ、苦手になっていった・・というのだから、人の特性は分からない。その結果から考えれば、お日さまがいさましく光る・・という判断は、彼の持って生まれた天性の芸術的センスと考えられなくもない。^^
 このように、小さい頃よく忘れる不得意科目は得意科目かも知れず、当てにならない・・ということになる。^^
 
                                    


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忘れるユーモア短編集 (29)度忘れ

2020年05月13日 00時00分00秒 | #小説

 別に病気ではなく物事を忘れるときがある。度忘れと呼ばれる状態だ。こうなると、なかなか思い出せないが、長い間、思い出せなかったことが、ふとした弾(はず)みで思い出すことがある。それがどういうきっかけで? かは分からないが、ともかく、とんでもないときに思い出すのである。度忘れとは、そんな完全に忘れるまでには至らない忘れる状態なのである。^^
 とある競技場で老人達による野球大会が行われている。遠い過去にはその名を馳(は)せた選手達だが、奈何(いかん)せん、どの選手も齢(よわい)八十の坂を越えていて、さすがに当時の姿は見るべくもない。
『代走、顎川(あごかわ)、顎川~』
 女性の場内アナウンスがウグイスの声のように響く。
「顎川さん! 代走らしいですよっ!」
「えっ!? 私? 私がなんですって?」
「だから、代走らしいですよ」
「代走? … 代走って、どうやるんでした、ちょっと度忘れしまして…」
「やるもなにも、アソコの塁(るい)に立てばいいんですよっ! あとは、アソコの塁を守っている選手に訊(き)いてくださいっ!」
 ダッグアウトの中でアドバイスした選手は、あんたは度忘れしたんじゃなくボケたんだよっ! と少し怒れたが、口には出さず、思うに留(とど)めた。
 トボトボと走るでなく、かつての名選手、顎川は一塁へと向かった。全員がはやく塁にいけっ! と怒れた。^^
「あの~、私、ここでどうすりゃいいんですかね?」
「アノ塁へ走るんですよ、お忘れですかっ!?」
「えっ!? ああ、まあ…度忘れですよ、ははは…」
 塁を守る選手は、度忘れじゃなくボケだよ、あんた…とは思ったが、言わずに思うに留めた。
 その後も試合にならない代走者は訊(き)き続けたが、幸いにもチェンジとなり、コトは終った。^^
 同じ忘れる状態でも、度忘れとボケは、まったく違うのである。^^ 
  
                                    


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忘れるユーモア短編集 (28)借りる

2020年05月12日 00時00分00秒 | #小説

 誰だって借りるより貸す方がいいに決まっている。だが、我が国のように国債依存体質が染(し)みつくと、借りること自体が当たり前となり、借りるのが余り悪いことに思えなくなるから困る。^^ 言わば、借りたことを忘れる体質になってしまう訳だ。これでは国の未来が大いに危うい。^^
 とある定食屋である。
「蚤村(のみむら)さん! そろそろお願いしますよっ!」
「えっ? なにをっ!?」
「いやですよ。お勘定(かんじょう)に決まってんじゃありませんかっ!」
「ああ、お勘定か…。忘れるとこだったよ、有難う!」
「有難うってあんた! うちはちっとも有り難くないんですよっ!」
「ははは…すまん、すまん! ツケで借りるのが、当たり前になってるからなぁ~」
「ツケを断ったら、毎回、払ってもらえます?」
 店主は手の平を広げて催促(さいそく)がましく蚤村の前へ突き出し、笑顔で溜(た)まったお勘定を請求した。蚤村は忘れるのも問題ありだな…と思いながらツケの支払いを忘れて店を出た。
 借りるのはいいが、返すことも忘れることなく憶えておこう! という教訓めいたお話である。^^

                                    
 


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