① ""アルマ望遠鏡、「視力2000」を達成!— 史上最高解像度で惑星誕生の現場の撮影に成功””
2014年11月 7日 |研究成果
概要
📹 アルマ望遠鏡が、今後天文学の様々な分野において革命をもたらすことを予期させる、画期的な画像の撮影に成功しました。
👀2000! 若い星おうし座HL星を取り囲む塵の円盤を「視力2000」に相当する史上最高の解像度で写し出したのです。
惑星誕生の現場である塵の円盤がこれほどの高解像度で撮影されたのは、今回が初めてのことです。アルマ望遠鏡によって超高解像度撮影が可能となり、惑星の誕生・成長過程の理解が飛躍的に進むと期待できます。多くの天文学者が抱いてきた長年の夢がついに結実したのです。
アルマ望遠鏡による史上最高解像度の観測
📡 📡 📡 アルマ望遠鏡のように複数のパラボラアンテナを結合させて一つの望遠鏡とする「電波干渉計」では、アンテナの間隔を離せば離すほど解像度(視力)が向上します。
この史上最高の解像度で撮影されたおうし座HL星の画像には、星のまわりに同心円状の塵の円盤が幾重にも並んでいるようすがくっきりと写し出されていました。

図1. アルマ望遠鏡が観測したおうし座HL星の周囲の塵の円盤。間隙に隔てられた同心円状の細い環が幾重にも並んでいる様子がはっきりと見て取れます。 Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

図2. アルマ望遠鏡が観測したおうし座HL星の周囲の塵の円盤(左)と、太陽系の大きさ(右)を比較した図。右の図では、太陽系の最も外側を回る惑星・海王星の軌道が一番外側に描かれています。おうし座HL星のまわりの円盤は、太陽系の3倍程度の大きさがあることがわかります。 Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)(大きなサイズ(520KB))
👤👥 「最初にこの画像を目にしたときには、私たちはそのあまりの高精細さに言葉を失うほど驚きました。おうし座HL星は100万歳に満たない若い星ですが、この画像を見るとこの星のまわりでは明らかに惑星ができているように見えます。
このたった1枚の画像が、惑星形成の研究に革命をもたらすでしょう。」と、アルマ望遠鏡『長基線試験観測キャンペーン』のプログラムサイエンティストを務めるキャサリン・ヴラハキス氏は語っています。
📡 📡 また、合同アルマ観測所のピエール・コックス所長は、「15キロメートルも離れたアンテナを結合させた観測を実現できたのは、世界中から集まった技術者と科学者が手を取り合って懸命に努力を続けてきたおかげです。
今回の観測成果は、アルマ望遠鏡の大きな目標の一つが達成されつつあることを示しており、技術的にも科学的にもきわめて大きな一歩であると言えます。」と、20年以上にわたりアルマ望遠鏡の建設と運用に尽力してきたすべてのスタッフを称え、その喜びを語っています。
☆彡 星は、宇宙に漂うガスや塵の雲の中で誕生します。生まれたばかりの星のまわりにはガスや塵でできた円盤があり、1千万年以上の時間をかけて円盤内の物質が衝突合体を繰り返して惑星が作られると考えられています。
こうした場所は密度の高いガスや塵に覆われているので、可視光や赤外線ではその中を見通すことができません(注4)。しかしアルマ望遠鏡が観測するミリ波・サブミリ波はこうした物質に吸収されないため、星や惑星が誕生するまさにその現場を観測することができるのです。
📗 今回の画像を見ると、おうし座HL星を取り囲む円盤の中には少なくとも3本のはっきりした間隙があることがわかります。こうした間隙は、円盤の物質を掃き集めながら大きな惑星が成長しつつある証拠だと考えらえています。
100万歳に満たないほど若い星のまわりで既に大きな惑星が形成されつつあるというのは、これまでのどんな理論でも想定されていませんでした。アルマ望遠鏡によって初めて「まさに惑星が作られている現場」の画像を取得できるようになり、惑星形成の研究の流れに大きな変革が起きることでしょう。
👤 惑星形成の研究者でもある林正彦 国立天文台長は「惑星系ができていくようすが手に取るように見てとれる画像が、こんなにも早くアルマ望遠鏡で観測できるとは思いもよりませんでした。
学生時代に太陽系形成の京都モデル(注5)を勉強したとき、私が生きているあいだに惑星系が形成されていくようすが実際に見えるようになることはないだろうと思っていました。次はいよいよ宇宙における生命の兆候の発見に向かいます。私が生きている間に実現できるかもしれないと思っています。」と今後の期待を語っています。

図3. アルマ望遠鏡が観測したおうし座HL星と、ハッブル宇宙望遠鏡で撮影したその周囲の様子。大量のガスがおうし座HL星の周囲を取り囲んでいるため、ハッブル宇宙望遠鏡ではその中を観測することができませんが、アルマ望遠鏡はそのガスの奥深くに埋もれた星のすぐ近くの様子を詳しく観測することができました。 Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/NASA/ESA

図4. 国立天文台野辺山ミリ波干渉計(NMA)で1993年に観測されたおうし座HL星の周囲の様子とアルマ望遠鏡画像の比較。NMAでは星の周囲を取り囲む一酸化炭素ガスの分布(カラー)が捉えられています。
この時の解像度はおよそ5秒角(角度の1度の720分の1)ですが、今回のアルマ望遠鏡の画像はこれに比べて140倍の解像度を実現しました。図中の等高線は、可視光で撮影された星から噴き出すジェットです。 Credit: 国立天文台
注
注1:アルマ望遠鏡は2011年から科学観測を行っていますが、その中で使われているアンテナの展開範囲は現在最大で1.5キロメートルに限られています。アルマ望遠鏡と同じくミリ波・サブミリ波を観測する他の電波干渉計では、アンテナ間隔(基線長)が2キロメートルを超えるものは存在しません。
これは、ミリ波・サブミリ波では遠くに設置したアンテナでとらえた信号どうしを組み合わせて画像にすることが難しいためです。2キロメートルを超えるアンテナ間隔でのミリ波・サブミリ波干渉計観測はそれ自身が挑戦的な試みであり、装置や観測手法がうまく機能することを確認しながら徐々にアンテナ間隔を広げていく必要があります。
このため、2014年9月から3カ月の予定で『長基線試験観測キャンペーン』が行われています。この試験観測において観測が問題なく実行できることを確認したのち、世界中の天文学者がアルマ望遠鏡で超高解像度観測を行えるようになります。
注2:視力2000は、500キロメートル先(東京から大阪までの距離に相当)に置かれた野球のボールの大きさが見分けられる視力に相当します。この解像度では、おうし座HL星において太陽と木星の間の距離が見分けられる計算になります。
注3:望遠鏡は、観測する電磁波の波長によっても解像度が変化します。今回アルマ望遠鏡が観測したのは波長およそ1.3ミリメートルの電波(アルマ望遠鏡バンド6)でした。観測する波長が短くなるとそれに比例して解像度は向上します。日本が開発したバンド10受信機ではこれよりも約3.5倍短い波長の電波を観測できるため、バンド10受信機を使った観測では解像度はさらに3.5倍程度向上します。
注4:例えばおうし座HL星のまわりでは、濃いガスや塵によって1等星が26等星に見えてしまうほどの激しい減光を受けてしまいます。
注5:京都モデルとは、京都大学の林忠四郎名誉教授が1980年ごろに提唱した惑星形成についてのモデルです。このモデルでは、惑星は太陽の数%の質量しか持たない低質量のガスと塵の円盤の中で形成されると考えます。
アルマ望遠鏡について
📡 アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)は、ヨーロッパ、東アジア、北米がチリ共和国と協力して建設する国際天文施設である。
ALMAの建設費は、ヨーロッパではヨーロッパ南天天文台(ESO)によって、東アジアでは日本自然科学研究機構(NINS)およびその協力機関である台湾中央研究院(AS)によって、北米では米国国立科学財団(NSF)ならびにその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院国家科学委員会(NSC)によって分担される。
ALMAの建設と運用は、ヨーロッパを代表するESO、東アジアを代表する日本国立天文台(NAOJ)、北米を代表する米国国立電波天文台(NRAO)が実施する(NRAOは米国北東部大学連合(AUI)によって管理される)。合同ALMA観測所(JAO)は、ALMAの建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とする。