※ 本日、最後の記事のUPです。
① ""サヨナラ,リュウグウ””
国立天文台 / RISE
·2019年11月20日水曜日·
🚀 2019年11月13日に「はやぶさ2」探査機は小惑星リュウグウから離脱するためのエンジン噴射を行いました.レーザー高度計(LIDAR)は探査機が高度20 kmから徐々に遠ざかって行く様子をとらえていました(図1).
📘 振り返れば1年半前,リュウグウに近づきつつある探査機からレーザー光を発射し,反射光がレーザー高度計にとらえられるのを今か今かと待っていました.レーザー高度計は他の光学機器と違って,地球からリュウグウに向かう途中で試験やチェックを行うことができなかったので(※1),
リュウグウから返ってくる光が初めての距離測定データになるはずでした.しかし,小惑星リュウグウは私たちの予想以上にまっ黒な天体で,中々反射光をとらえることができませんでした.1日,2日とジリジリしながら待っている間に宇宙科学研究所の水野貴秀先生がレーザー高度計を調整して,微弱な反射光をとらえることが出来るように少しずつ感度を上げていきました.その甲斐あって初めての距離データが得られたときは,レーザー高度計の開発に携わった関係者一同,感慨がひとしおでした( 過去記事1).
※1 惑星間空間にレーザー光を照射しても,反射させる物体がなければ,距離を測ることができない.
★ その後は着実に距離観測データが獲得できるようになり,まずは粗い全球地形を獲得することができました(過去記事2).安心したのもつかの間,第1回タッチダウンのリハーサルでは遠距離系から近距離系にレーザー高度計が切り替わった段階で距離測定できなくなりました.
低高度降下観測運用(ピンポイントタッチダウンのためのターゲットマーカー投下)においても,高度50 mまで降りた段階で感度を上げたためにノイズが増えて距離測定ができなくなりました.いずれの場合も探査機が自律的に危険を察知して,運用は中止になりました.
👤 探査機は大事に至らなかったとは言え,非常に多くの方々の時間とエネルギーを無駄にしてしまったという慙愧の念は今でも消えていません.あらゆるケースを想定できなかった自分の準備不足は,将来への教訓として後進の研究者に伝えていかなければならないと思っています.
☁ そんな未熟な運用者にもかかわらず,レーザー高度計はリュウグウの地形データをしっかりと獲得しました.2018年10月30日と2019年7月25日には高度を5~7 kmまで下げて,探査機の向きを南北にふって,北緯20度から南緯40度までの赤道・低緯度地域をくまなく走査しました(過去記事3).
「しかし,このままでは高緯度地域の詳細な姿をとらえるには至らないままで近傍観測が終わってしまう」と内心悶々としていたところ,最後のチャンスがやってきました.第2回タッチダウンが終わってリュウグウを離脱する前に,もう一度低高度観測を行うことになりました.LIDAR科学チームは,北半球と南半球の高緯度地域を走査して,リュウグウ全体の高分解能地形データを獲得することを提案しました.
📘 その間は他の観測装置は待機していなければならないのですが,他の科学者は私たちの提案を認めてくれました.探査機を運用するエンジニアの方々も観測時間を確保するために素晴らしいアイデアを出して協力してくれました.おかげで,最後の最後にリュウグウの高分解能地形をレーザー高度計データとして把握できました(図2).
📘 リュウグウ離脱後もレーザー高度計は距離測定を続け,最後は32.589 kmの距離を測ることができました(図1).この距離では100回のレーザー光照射に対して,やっと1回の反射光をとらえることができたくらい難しい測定になっていました.レーザー高度計は打ち上げ後の初期チェックアウトも含めて,合計707万発のレーザー光を照射しました.その最後に最長距離の測定ができました.
📚 この測定結果は,単なる『記録』ではありません.「はやぶさ2」は地球にサンプルを送り返した後に,残存燃料を使って新しい探査地点に向かう計画が現在検討されています.その時に,どれくらい遠くからレーザー高度計が使えるようになるか,という重要な情報です.レーザー高度計は2019年11月18日23時37分(世界標準時)に電源オフされましたが,まだまだ終わらない「はやぶさ2」の冒険をどうぞ皆さん,見守って下さい.
(文責 レーザー高度計科学チーム主任 並木則行)
(図1 「はやぶさ2」が11月13日以降にリュウグウから遠ざかる様子.縦軸はリュウグウからの距離,横軸は時刻.)

(図2 合計4回の走査観測で得られたリュウグウの全体像 (Credit: 国立天文台, JAXA, 千葉工大, 会津大, 日本大, 大阪大))
