◎◎ ポスト安倍へ動く日本株、短期深押し好機の声-総裁選方式が焦点
長谷川敏郎
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自民党総裁選は9月14日に投開票、17日には新首相選出の報道
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短期はアベノミクス終えんリスク意識も、政策方向性変わらずの見方
◐◐ 安倍晋三首相の退任後の日本株は、短期的には政治要因から株価の下げが持続すると想定する市場関係者は少なく、下げる場面は買い遅れていた投資家にとって魅力的だとの見方がある。
◆◆ 安倍首相が退任を表明し、自民党は新総裁選出に向けた準備が進む。共同通信によると、二階俊博幹事長は国会議員と各都道府県連3票による投票で実施する方針を固め、9月1日の総務会で決定する。総裁選は同8日告示、14日投開票とする日程で最終調整に入った。17日に臨時国会を召集し、新首相を選出する方向で検討しているという。
¤¤¤⇨ いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員は経済活動再開と金融緩和効果から、株価が大きく下落すれば「絶好の買い場」になりそうだとみる。「現状の日本株はアベノミクスで上がっているわけではない。誰が後継首相になっても現状の政策は変わらず、株価への影響は限定的」と述べた。
⇨⇨ 安倍首相の退任観測が高まった28日は、日経平均株価は326円(1.4%)安の2万2882円と8月で最大の下落率を記録するなど、市場は「株安、円高、債券安」で反応した。みずほ証券株式会社の小林俊介チーフエコノミストは「大規模な金融緩和と適時的な財政政策により経済の拡張路線を選んだアベノミクスの路線が次期総裁にどの程度引き継がれるのか」という不確実性が増したことなどがその背景とみる。
¤¤¤⇨ 後任候補として党内では石破茂元幹事長や岸田文雄政調会長、河野太郎防衛相のほか、菅義偉官房長官らの名前が後継候補として名前が挙がっている。共同通信によると、菅官房長官は総裁選に立候補する意向を二階幹事長に伝えた。株式市場では菅氏や岸田氏ならアベノミクスの継承期待が高まりやすい半面、安倍首相に不満を持つ層の支持が優勢な石破氏はアベノミクスの終えんが意識されやすくなるとみられている。
¤¤¤⇨ 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘チーフ投資ストラテジストは「今回は総裁選の形式がどうなるかが重要。緊急的なものなら安倍政権の重要閣僚や党三役が有利で、通常のパターンなら地方票に強い石破氏が有利になる」と分析。通常方式の投票になれば「超低金利政策は光と影があると主張する石破氏の確率が高まり、日銀との関係が不安定になって為替の円高や株価のボラティリティー(変動性)上昇につながりかねない」が、議員票が多くを占める緊急的な形式なら誰がなってもアベノミクスが維持されて政治要因が株価を左右する状況から脱すると予想する。
¤¤¤⇨ 現在は新型コロナウイルスによる景気悪化から、政治や対策の混乱につながるような早期の政策変更の可能性は低いとの見方が市場では大勢だ。日銀は安倍首相退陣でも現在の金融緩和政策を継続する考えで、関係者は黒田総裁が2023年4月までの任期を全うするだろうとしている。ゴールドマン・サックス証券のキャシー・松井氏らは、「短期的には『アベノミクス』の終えんが懸念されて株式市場に悪影響が及ぶ可能性もあるが、積極的な財政・金融緩和を軸とする経済政策全体の方向性が大きく変化するとは考えにくい」と見込む。
◇◇ デリバティブ市場でもリスク回避の動きは小さい。28日の日経平均ボラティリティー・インデックス(VI)の終値は16%高の25.93と心理的節目の30は超えなかった。新型コロナ禍で経済活動の再開が進展し、グローバルでも景況感は底入れの兆しが強まりつつあるなど、世界景気敏感株としての日本株が見直されつつあることが底堅さにつながっている。
¤¤¤⇨ 1日にも総裁選の方式が決まれば、株式市場はアベノミクスの継続を織り込み、政治要因から離れやすくなる。CLSAの株式ストラテジスト、ニコラス・スミス氏も、今は日本株を買う好機だとみる1人だ。「日本のコロナウイルス対策は割と成功していて、後任がもう進行中の政策を変えるとは考えにくい」という。
31日の東京市場で株価指数はアベノミクス継続期待を背景に急反発した一方、ドル・円相場は1ドル=105円台半ばの円高水準で動きは鈍い。
¤¤¤⇨ フィデリティ投信の運用本部長兼最高投資責任者、丸山隆志氏は為替の動きがカギになるとみる。次の首相が決定するまで波乱はあるかもしれないが、「円高の進行が104-106円程度で収まれば、市場心理が悪化することもなく、株価への影響も限定的であろう」との見方を示した。
¤¤¤⇨ ただ長期安定政権が終わり、株価の上値は重くなるとの見方もある。三菱モルガンの藤戸氏は「今回の総裁は国民支持率が石破氏より圧倒的に低い人物の可能性があることで政治が流動化するかもしれない。日米通商関係など外交手腕では疑問符がつく」と語る。
◆◆ 将来的にはアベノミクスの大枠が変わりかねないと市場がやがて懸念するような事態となれば、日銀の上場投資信託(ETF)買い入れ政策の行方にも不透明感が強まる。足元では構造改革の停滞からアベノミクスによる政策面より株式需給への期待が根強かっただけに、株価の下支え要因が薄らぐだけでなく、ファーストリテイリングやアドバンテストなど日銀による保有比率が高いとみられる銘柄群には長期的に需給期待が後退する可能性がある。