(悪魔の辞典表紙)
① 悪魔の辞典(wikipedia)
(1)(あくまのじてん, The Devil's Dictionary)は、1911年にアメリカ合衆国で 発表された書籍。アンブローズ・ビアス著。ふつうの辞典の体裁をもってさまざまな単語に再定義を行ったものだが、その定義が痛烈な皮肉やブラックユーモアに満ち溢れており、辞書パロディの元祖的存在となっている。
(2)起源
『悪魔の辞典』の起源は、ビアスが『ニューズレター』のコラムニストだった頃にまでさかのぼる。フレデリック・マリオットが1850年代後半に創刊した『ニューズレター』は、サンフランシスコを拠点とし、ビジネスマンをターゲットにしたまじめな週刊経済誌だったが、同時に『タウンクライアー』という、格式ばらない風刺を売りとするコーナーもあった。ビアスはこのコーナーの執筆者として1868年12月に採用され、その情け容赦のない風刺によってサンフランシスコの「嘲り笑う悪魔 (laughing devil)」として知られるようになっていった。
通常、1881年が『悪魔の辞典』の起源とされるが(これはビアス本人がそう述べているためである)、その構想は1869年の夏頃に端を発する。当時ビアスは、話題の不足と、ウェブスターの辞書の新版を購入したばかりであったことから、「コミック辞書」を書ける可能性がないだろうかという提案をした。そのときはウェブスターズの「代理人 (Vicegerents)」という項目を引用し、該当部分を斜体にして次のように書いている。
「Kings are sometimes called God's vicegerents. It is to be wished they would always deserve the appellation
王はときに神の代理人と呼ばれる。常にその名に値するとは限らない 」
加えて、ノア・ウェブスターはその才能をもっとコミカルな形で発揮すべきだったのではないかと述べた。この時点で「コミック辞書」の構想が生まれたのである。
この構想が公にされたのは1875年のことである。『タウンクライアー』の担当をやめ、ロンドンで3年を過ごした後サンフランシスコにもどったビアスは、『ニューズレター』の『タウンクライアー』担当への復帰を希望していた。ビアスは偽名で書いた2つの原稿を『ニューズレター』の編集者に送った。その1つが『魔物の辞典 (The Demon's Dictionary)』である。『魔物の辞典』では48の単語がビアスのトレードマークである辛辣な機知によって新しい定義を与えられた。これらの単語と定義は、『悪魔の辞典』の編集の際には選から漏れているが、1967年に出版された『増補版 悪魔の辞典 (Enlarged Devil's Dictionary)』には採録されている。
(3)出版
※ 翻訳者・関連図書が凄いです。
日本語訳は、奥田俊介訳、西川正身訳、郡司利男訳、筒井康隆訳などが出版されている。
また、安野光雅・なだいなだ・日高敏隆・別役実・横田順彌『噴版 悪魔の辞典』、トラ・アンジェリコ『天使の辞典』、別役実『当世 悪魔の辞典』、吉田直央『平成 悪魔の辞典』、石平『中国「悪魔の辞典」』、筒井康隆『乱調文学大辞典』『欠陥大百科』『現代語裏辞典』、畑田国男『悪魔のことわざ辞典』『天使のことわざ辞典 Joke&cartoon』、愛川今生『悪魔の教育用語辞典』等々、同趣向の著作も多数出版されている。
② 悪魔の辞典・内容(あ行のみ引用)
【あ】
★ 愛国者(patriot.) 部分の利害のほうが全体のそれよりも大事だと考えているらしい人。政治家に手もなくだまされるお人好し。征服者のお先棒をかつぐ人。
愛国心(patriotism) 自分の名声を明るく輝かしいものにしたいと野心を持つ者が、たいまつを近づけると、すぐに燃え出す可燃性のもの。
悪人(malefactor) 人類を進化させていく最も重要な要因。
悪魔(Devil ) われわれ人間のあらゆる災いを創始した者、この世のあらゆる良きものを所有する者。
麻縄(hemp) 植物の一種類で、その繊維質の皮から作った首巻きは、戸外で公開演説の後、しばしば人の首に巻きつけられ、巻きつけられた者はその後風邪をひかない。
阿片(opiate) 「自己認識(アイデンティティ)」という牢獄に見られる鍵のないドア。そのドアは牢獄の運動場に通じている。
アマチュア(amateur) 趣味を技量と思い誤り、野心を能力と混同している世間の厄介者。
過ち(fault) 自分の犯す違反の一つであって、他人の犯す違反の一つとは区別される。なぜなら、後者は犯罪という。
あら捜し屋(caviler) わたしの仕事を酷評すね者。
★ 安心(comfort) 隣人が不安を覚えているさまを眺めることから生ずる心の状態。
安堵の思い(relief) 寒いの朝早く目を覚ましたら、日曜日だったと知ること。
【い】
言い紛らす(prevaricate) ぼくの彼女いいだろう?と友人に問われたとき、「表情豊かな眼をしているね」と答える。
いかさま医者(quack) 免許を持たない殺し屋。
★ 医者(physicisn) 病気の時にはしきりと望みをかけ、健康な時には近づきたくない者。
一刻者(bigot) あなたが抱いていない見解を、頑固に、かつ熱狂的に固執する者。
いとしい人(darling) 未発達の段階にある、うんざりするほど退屈な異性。
犬(dog) 付加的な、あるいは補助的な、ともいうべき一種の神であって、この世の人々が神を礼拝する心の過剰な部分および余剰の部分を受け入れるように定められている。
犬畜生(brute) ⇒良人
★ いんちき(sham) 政治家の言明、医者の学問、評論家の知識、俗受けを狙う説教師の信仰。
引用(quotation) 他人の言葉を繰り返す行為。繰り返される言葉。
引力(gravitation) あらゆる物体が、それぞれを構成している物質の量に比例する力で、お互いに近づき会おうとする傾向を言い、それぞれを構成している物質の量は、その力によって、確実に知ることができるが、これは、科学が、AをもってBの証明とした上で、次にBをもってAの証明とする、まことに結構千万な教訓的な例証であると言える。
【う】
飢え(hunger) 人類のあらゆる階層の者を苦しめる一種独特の病気で、その治療は、通常、食事の摂取ないし食餌療法によって行われる。
★ 嘘つき(liar) 自由旅行ならぬ自由悪口の権限を与えられている弁護士、ジャーナリスト、その従事する職業、商売。
自惚れ(conceit) こちらが嫌っている者に見られる自尊心。
★ 噂(rumor) 人の名声を抹殺しようとする暗殺者たちが好んで用いる武器。
★ 運命(destiny) 暴君が悪事を行う時に利用する典拠。愚者が失敗をしでかした時に持ち出す口実。
【え】
絵(picture) 三次元にある何か退屈なものを二次元で表現したもの。⇒絵画
★ 餌(bait) 釣り針の味を一層よくするために作った料理。その最上のものが美貌。
★ 厭世観(pessimism) 見え透いた希望と見苦しい微笑とを特徴とする楽天主義者が、うんざりするほどのさばっているところから、その様を眺める者の確信の上に、否も応もなく押し付けられる人生観。⇒楽天観
【お】
追剥(robber) 率直な実務家。
横隔膜(diaphragm) 胸の疾患と腸の疾患を分けている筋肉でできた仕切り。
王子さま(prince) ロマンスの世界では田舎娘に、現実の生活では友人たちの細君に愛情を施す青年紳士。
★ 臆病者(coward) 危険な非常事態に際会すると、脚で考えようとする人。
恩知らず(ingrate) 他人から恩恵を受けるか、そうでなければ慈善を施される対象となる人。⇒忘恩
※ 穿った見方が逆に真実!?