あるトンボの話し
オニヤンマは権現森の空の王者だった
夏の青い空に群れて飛び、突然急降下や急上昇をしては空中戦を展開していた。
時折吹く強い風をものともせず、きっぱりと権現森の制空権を守っていた。
つかの間の休息に羽を休める
空中戦に疲れたのか、随分遠くにオニヤンマが止まった。
私は驚かせないようにカメラを向けた。
また一匹 オニヤンマが止まった
警戒心が薄れたのか、少し近くに止まるようになった。
私はもっと近くへ来ないかとオニヤンマに語りかけた。
目の前の木に止まった
一匹のオニヤンマがすぐ目の前の木にとまって様子を伺っていた。
「心配するな・・・捕りやしないよ」と私は言った。
するとオニヤンマは疑いつつも羽を降ろし警戒を解いた。
そして「今日は暑いな」と語りかけてきた。
私が、「そっちの調子はどうだい?」と、話を向けると、オニヤンマは、「雨ばっかりで良くネェよ」と答えた。
「トンボも大変だなぁ~」と言うと「まったくだ。だが、ボヤボヤはしていられねぇよ。短い夏だからな」と、少し強い口調で言った。
「お前は暇そうじゃないか?」「まっ、人間は一夏ってことじゃ無ぇんで気楽か?」と言って、視界を過った蠅を追うように一瞬飛び立つ素振りを見せた。
私はその姿を見て「切ない性だな。動くものを見ると反射しちまうのか?」と揶揄するように言った。
オニヤンマは「まったくだ、餌をとって交尾して・・・来年もまたオレの次が同じ事をするんだよな・・・未来永劫同じ事を」と自分に言い聞かせるように語った。
「おう・・・哲学トンボょ、そんな事を考えても仕様が無いぜ。人間だって似た様なものさ。人に拠っちゃぁお前さんのように一夏だけで潔く生きるのを羨ましくさえ思うもんだ」とオニヤンマに言うと「オレ、前世は坊主だったんだ」と呟いた。
「ナンだってぇ? 哲学トンボよ、お前さんは輪廻の真っ最中か?それは魂消た。それで、坊主がオニヤンマじゃ、生臭していたのか?」と問うとトンボは答えて「おう、よ、生臭坊主でなぁ・・・娑婆は良かったなぁ~オニヤンマの雌とはえらい違いだぁ~」・・・。
私は缶ビール一本分の浅い酔いの中の覚醒の一つ手前で夢を見ていた。
そして、見上げた木に止まったオニヤンマに話し掛けていたのだった。
帰り道、焼けた歩道にオニヤンマがいた
私はオニヤンマを指先に留まらせ「なんだ、生臭かぁ?」と言うと「なんだか行けねぇ感じでよぉ・・・間もなく逝くんだが、頼みが有るんだ。オレを草むらに放り投げつつ、南無阿弥陀仏と一言、言ってやってくんねぇ・・・次は人間って事でよ、頼まぁ」と言って生臭のオニヤンマは事切れた。
う~ん・・・日光の手前 イマイチ!!!