まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

宮脇檀さんの松川ボックス見学会

2023-11-11 18:42:43 | 建築まち巡り東京 Tokyo

アーティスティックディレクターとしてご活躍の清水敏男さんのご厚意で、「アニッシュカプーアin松川ボックス」の展覧会にご招待いただきました。

アニッシュカプーアというとシカゴで見た巨大なクラウドゲート(下の写真)を思い出します。日本でもよく公共空間に「環境彫刻」が置かれていますが、これはむしろ「環境体験彫刻」とでも呼ぶべきもので、人を包み込む環境との応答体験が味わえるエキサイティングな彫刻でした。こういうものであれば、日本の貧しい「公共空間のデザインの質」に強い刺激を与えてくれると思います。

ということはさておき・・・・

松川ボックスも刺激に満ちた体験となりました。2層分の高さを持つコンクリートのボックスの中に木造グリッドの構造体がはめ込まれていました。

このシンプルな空間構成の中に、小さな心地よい居場所と視線が仕掛けられているだけでなく、宮脇檀さんのセンスに満ちた、素材、色、ディテールがあふれているわけです。

恥ずかしながら、宮脇さんの住宅は初めての体験でしたが、実に細やかな仕掛けがあることにも驚きました。個室と、共用部(2層の吹き抜け)との間仕切りです。下の写真のように藍色(芹沢圭介さんの作品の色だそうです)の壁と同色のふすま(枠のない太鼓張りです)があります。すごいと思ったのはそのふすまの戸当たり部のおさまりです。

 

分かりにくいので、確認のためにスケッチしてみました。柱梁の構造体を見せる真壁的なデザインですが、ここの柱だけはふすま1本分の幅を残して藍色の壁で仕上げられています。ふすまがしまった時に、「邪魔な枠(柱)」を見えなくするためでしょう。参りました。

 

今頃気付くのもお粗末ですが、宮脇さんの住宅には、宮脇センスがぎっしり詰め込まれているんですね。ほかの建物もぜひ見ていきたいものです。

 

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

architecture/urban design

設計計画高谷時彦事務所


都市デザイン研究体『日本の広場』再読

2023-11-11 15:39:39 | 備忘録 memorandom

久しぶりに事務所(Studio TAK)をかたづけようとすると、いつものように本や雑誌に目が惹きつけられて、片付けの手が停まってしまう。私のサボリ癖ではなく、本や雑誌が私を呼ぶせいである。今回、片付けの邪魔をするのは『復刻版 日本の広場』(都市デザイン研究体 2009 彰国社)。

都市デザイン研究体は伊藤ていじのもとに集まる研究者たちのグループ。1960年代に3つの本(雑誌の特集号)を出している。

『日本の都市デザイン』1961、『日本の都市空間』1963、『日本の広場』1971。

どれをとってもエポックメイキングであり、またエキサイティングな都市デザイン論の展開がある。都市デザイン研究体のメンバーはその都度変わっているが、常にその中心にあるのが伊藤ていじ先生。民家研究の第一人者ということになるのだろうが、そこに収まらない建築評論、あるいは時代批評の鋭さが多くの人の耳目を集めるのだろう。

『日本の広場』では西欧の広場と違う、独自のコミュニティがときに顕在化する場所として日本の広場をとらえている。

そこでは「広場化という主体的な行動を通して、宗教的・社会的・経済的・政治的コミュニケーションの節点として利用される人工のオープンスペース」として日本の広場を定義する。その視点に基づいて、様々な場所縄文の空地からお寺の境内、そして銀座ソニービルのコーナープラザ迄がその広場化の過程とともに分析される。見事である。

一方、きちんと定義して、独自のものとして日本の広場を記述していこうという姿勢に貫かれているものの、例えば現代建築家の作った広場を分析する文章に「ほんとうの意味での広場」には成長していないという記述があるように、「西欧の広場」と比較する視点もまだ見え隠れする。ならば、素直に比較の視点をもう少し真正面に据えてもいいのではないか・・・などという思いもある。

しかし、いい本です。今これだけの質の高さを持つ本がどれだけあるのかなとも思う次第です。

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

architecture/urban design

設計計画高谷時彦事務所