まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

甑葉(しょうよう)プラザをお祭りのときに見てみたい

2011-06-14 20:41:49 | 建築まち巡礼東北北海道 Tohoku, Hokkaido

所用を終え山形から鶴岡に向かう途中、ふと村山で下車し、甑葉(しょうよう)プラザに立ち寄りました。

    

甑葉(しょうよう)プラザは高宮真介氏の設計です。コンペで選定され、設計を進めている最中に、当時竣工したばかりの藤沢周平記念館を見に来てくれました。高宮さんは村山市の出身で、最上川を望む真下慶二美術館という素敵な個人美術館も設計されています。

      

村山駅に降りるのは真下美術館以来です。鉄道沿いの寂しい道を歩いていくと突然プラザが現れます。

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高宮さんらしいシャープな切れ味が期待されます。

隅々まで緊張感の走る、端正な表情の広場です。

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中もきちんと居住まいを正したくなるような、計算された美しい場面が作られています。

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といっても決して窮屈な居心地ではなく、むしろ使う側には日常性を離れた一種の自由さを感じさせます。

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無機的な素材ですきなく構成された空間ですが、ディテイルにこめられた設計者の気遣い、感受性みたいなものが空間に、人間的な雰囲気を与えているように思います。

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私がとくに気に入ったのは、側面のファサードです。

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50×100の杉を打ち放しの壁に突きつけています。一見無造作のようですがディテイルを知り尽くした方の手になると大変美しいものとなります。

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すべての部分に設計者の思いが貫徹しています。羽目板が取れている部分はこの建築にふさわしくありません。早く直していただけますか。お願いします。

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ショートレクチャーから出た駒

2011-06-12 21:03:48 | 建築・都市・あれこれ  Essay

工学院大学K先生の設計スタジオで教えています。

普段は学生に1週間の成果を発表してもらいますが、時には先生方も学生の前で自分の作品や研究成果を発表し、参考にしてもらいます。先週は私の番でした。

          

設計課題の授業も時代を反映します。昔は、与えられた敷地=更地と考えたものですが、最近は敷地に今ある建築を前提に「保存的再生」に取り組みたいという殊勝な学生も散見されるます。そういった人に多少参考になるかと思い、まちキネについてショートレクチャーをしました。

         

その折今取り組んでいる木造3階「イチローヂ商店」のスライドも紹介しました。たまたま、東奔西走超ご多忙のF先生もいらっしゃたので、「イチローヂ」は昭和初期の民家で、スパンが飛んでいるわけでもないのに小屋組みがトラスで出来ているという話をしてみました。この地域にはほかにも民家のトラス構造が見受けられます。このあたりをどう考えたらよいのでしょうか、という話をスライドを見ながらしました。

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早速、こういう方面に造詣の深いF先生から明治27年の庄内地震(酒田地震)との関連があるとの有益なご指摘をいただきました。

          

F先生のアドバイスを頂いた後、以前読んだ源先生の本『木造軸組み構法の近代化』の脚注を丁寧に再読するとF先生の次のコメントが出ていました。

        

震災後出された耐震化についての指導は「よく守られたらしく、今でもこの地方に行くと純伝統木造住宅なのに妻壁に斜材が入り、ちゃんとした洋式トラスになっている例をしばしば見かける」(藤森照信「佐野利器論」 所収 鈴木博之他編『シリーズ都市・建築・歴史 九 材料・生産の歴史』)。

       

また、源先生も、本文の中で山形のある町家の改修でトラス梁が採用された事例を紹介しています。やはり、耐震化の指針やそれに関連する調査などを丁寧に調べていけば、この地方の民家トラスのことがいろいろ分かりそうです。

        

これまで明治27年の庄内地震が建築学会の在来構造の耐震化の取り組みに大きな影響を与え、またこの地域の一部の建築に影響を与えたことは、源先生の『木造軸組み構法の近代化』や重要文化財「丙申堂」の小屋組みなどから分かっていました。丙申堂の台所広間は大スパンであり、地震のことを考えた小屋組み構造を採用したことが解説されています。

         

しかし、小径間の民家の小屋組みまで耐震指針の影響があったかどうかをどう考えてよいのか分かりませんでした。また、地震対策の議論も基本は壁、筋交い、貫き、指し鴨居などの作り方ですので、小屋組みの改良はむしろ、この地方に多い公共建築あるいは明治期からの先進的な建築文化、気風の影響としたほうがよいのかなと思っていました(例えばイチローヂと同時期の旧図書館(大正末)もそれほど大きいスパンではありませんがトラスでした)。

       

しかし、これからは耐震指針との関連で調べていったほうが良い結果に繋がりそうです。

        

ところで、地元の大工さんにヒアリングをしましたが、住宅のトラスについては見たことがないという話でした。また、地元のみならず各地で伝統構法の家作りを続ける大工さんにもイチローヂを見てもらいましたが、民家のトラスはあまり見たことがないようでした。そもそも皆さん民家とトラスの関係には興味がないようです。

      

これはこれでどう考えたらよいのか、いづれにしても「イチローヂ商店」とは長くお付き合いすることになりそうなので、いろいろ調べてみたいと考えています。


まちキネが1周年:まちは変わりつつある?

2011-06-06 00:03:49 | 民間建築 Private Sector Building

鶴岡まちキネが会館1周年を迎えました。

      

最近とみに映画の内容も充実し、駐車場が満杯になることも多いと聞いています。

       

今日は、夜になって会員権の書き換えに行きましたが、映画館に近い山王商店街でもまちをぶらりと散策する人々の姿が多くなっているような気がします。1周年を期に人の動きなども調査したほうがよいのかもしれません。

      

さてわたしは、まちキネに来たついでにヒラボク食堂で三元豚ラーメンを食べ、レートショウで「ダンシングチャップリン」を見ました。手塚治の「ブッダ」にしようかと迷いましたが、一番小さいシネマ4(40席)で見たいという思いから、「ダンシングチャップリン」にしました。

       

「ダンシングチャップリン」はローランプティの振り付けによる舞台を、ルイジボニーノ、草刈民代他の出演で周防正行が映画にしたものです。1部はメイキングビデオ風に映画製作にいたるまでの交渉や練習風景をまとめたもの、2部が完成した映画という構成です。

     

2部の冒頭でチャップリンについての語り(ローランプティのナレーション?)を背景に、派手な動きもなく細部の動きで「チャップリンとはなにか」を表現するルイジボニーノというダンサーの才能には驚きます。高齢になっても若いダンサーに混じり、自身は手の動きだけで大きな存在感を示していたマースカニングハムを思い出しました。もちろん振り付けのローランプティという人がすごいということでもあるのでしょう。

     

映画では他の場面でもダンサーの動きの一つ一つがいきいきと美しく、かつユーモラスに表現されています。バレー映像としては大変優れたものだと思いました。ただ、「映画」作品としての「周防監督的味わい」を期待した私としては若干肩透かしにあったような感も残ります。

     

ところで今日は映画24区の方々もまちキネにこられたそうです。いい雰囲気の映画館だと皆さんおっしゃってくれたとSさんが、教えてくれました。うれしいことです。

   

まちキネの一年が、「木造絹織物工場の産業遺産・文化財で映画が楽しめるまち鶴岡」に向けての着実な1年間であったことを実感しています。