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花組公演『雪華抄』&『金色の砂漠』の観劇メモ 今年最良の作品でした!

2016年12月26日 | 宝塚

ブログのエントリーとしては、観劇順に「雪まろげ」→「マーダーバラッド」となるはずですが、花組の「金色の砂漠」があまりにも面白かったので、前二者は紹介できないままとなってしまいました。

でも、「雪まろげ」も面白かったです。(←かなり取って付けている^^;)
とにかく出演者がみんな達者で、中でも榊原郁恵さんが本格派の演技で驚きました。
もちろん、主演の高畑淳子さんも、当たり役だった森光子さんに負けず劣らずの好演。今後、これが彼女の当たり芝居になるだろうと思いました。
でも、チケットを買った後に例の事件が発生して、芝居と関係のないとは頭で分かっていても、観るまでは複雑な思いでした。
そんな邪念も当日、幕が上がると見事にたちまち雲散霧消。すぐに舞台に引き込まれ、芝居巧者ぞろいの出演者と、これぞ大衆演劇の王道といった脚本の良さが相まって、ドップリ舞台で繰り広げられる世界に浸れました。

逆に「マーダーバラッド」の方はちょっと私には合わない舞台でした。
セリフは一切なくて、代わりに大音量の生演奏を背景にロック調の歌が次々に流れるという舞台なので、話のディテールはほとんど聞き取れず。
まあストーリーそのものは単純なので、大まかな流れは観ていたら分かるものの、出演者の細かい感情の襞ややり取りの機微が分からないのは辛かったです。なので、大音量の舞台なのに次第に睡魔が忍び寄ってきて、観劇中はそれとの闘いに苦労しました。(殴)
大音量でも眠くなるというのは、かつての「白昼の稲妻」でも体験しましたが。(殴)
でも隣のヨメさんには気付かれず、「寝てなかった?」という問いには「全然!」とシラッと答えることができたり。(殴)

余談はこれくらいにして、花組公演の感想です。例によって敬称略。
以下、少々ネタバレもあるので、未見の方はここでUターンが吉です。

雪華抄」は宝塚お得意の、チョンパで始まる日本物レビューです。


観劇当日は、修学旅行生が大勢観劇していましたが、真っ暗な舞台から一転、照明に照らされた舞台狭しと並ぶフルメンバーの豪華な幕開けを見て、それまでのガヤガヤは一瞬で感嘆の声に変わりました。

上演時間は50分と短いのですが、よく作りこまれた斬新な場面が多く、演出家の意欲がよく感じ取れました。舞台装置も今では常連の感がある松井るみによる、和のテイストを盛り込みながらも現代的な感覚が斬新なデザイン。
とくに印象に残った場面は、鷲の群れに鷹が戦いを挑む第3場。荒々しい岩場での熊鷹(明日海)と狗鷲(柚香光)の一騎打ちがみものでした。






続く七夕の幻想的な雰囲気から一転して、第5場の「波の華」では民謡メドレーとなります。瀬戸かずやの「大漁歌い込み」から始まって、




明日海りお芹香斗亜が「貝殻節」、「尾鷲節」、「佐渡おけさ」、「串本節」などの民謡を歌いつないでいくところでは、客席からも手拍子が起こって盛り上がりました。

そして尾鷲や串本の民謡から紀州熊野につないで、続く「清姫綺譚」は安珍清姫伝説がテーマ。花乃の清姫の早変わりもあって、ドラマチックなクライマックスでした。




そして開の桜の花びらのもとでの群舞でフィナーレ。
まあ題材は宝塚定番のものもありましたが、作・演出の原田諒の若々しい感性が光り、全く陳腐さの感じられないレビューでした。

その後いつもより早い休憩の後、いよいよ期待の「金色の砂漠」です。
久しぶりに買ったプログラムです↓


全体の感想ですが、とにかく脚本がすごい
私にとっては、今年のタカラヅカでは最良の舞台でした。

話としては「貴種流離譚」の一種とも言えますが、オリジナリティにあふれ、二本物とは思えない緻密な構成で、ストーリーは波乱万丈。

陳腐な例えですが、学生時代に、「赤と黒」とか「パルムの僧院」を手にした時のようなワクワク感を感じました。
スカステで放送された『月雲の皇子』を見て初めてこの新進演出家の名を知り、その後ドラマシティで『翼ある人々』を観劇して、その完成度の高さに驚きましたが、今回は、さらに充実した作品になっていました。

ストーリーがあまりにもよく出来ているので、観劇中なにかベースになった話があるのかなとか邪推していましたが、全くオリジナル作品ということで、感心しました。
話がどんどん広がっていくので、どんな結末になるのか心配になったりしたのですが、これまたうまく話を収めていました。結末までの伏線もちゃんと張られていてまったく破たんなし。
そして主人公のみならず、登場するすべての人物の造形も素晴らしい。なので、出演者みんなが生き生きとしていて、役になり切っていました。こんな脚本、そうそうお目にかかれないです。大したものです。でももう一度観たいと思っても千秋楽間近という日程だったので出来ず残念でした。

それと、セットがまたよかった。力作の脚本にふさわしい出来で、「王家~」よりも豪華に感じたほどです。劇中の歌も耳に残るいい曲で、聞きほれました。

プロローグは、夜の砂漠を全身マントで覆った旅人の列が進んでいくところから。
王国を追われた人々が、葬送の列のように力なく歩いていきます。
その後、主人公ギィが古代ペルシャの楽器バルバトを手に静かに歌い出すというところから、王国イスファンの華麗な舞踊の場面に変わっていく導入部が本当にいい!!これだけでもう大作の予感。(笑)
上田久美子の作品を観ていると、初期の黒澤とかスピルバーグの映画作品のような、作り手自身が、楽しんで作品に挑んでいるような新鮮な意欲が伝わってきます。
それと、今回の作品にも、全編に「翼ある人々」にも通じる哀愁が通底していて、話になんともいえない深みを感じました。なぜかアラゴンの「オーレリアン」を連想したり。

ということで、出演者ごとに。

まずギィ役の明日海りおから。

彼女の演技力を改めて感じました。
でも驚いたのは、主人公ギィが奴隷という設定。

冒頭から、幼少時から仕える王女タルハーミネに踏みつけにされる場面とか、「奴隷は石や砂と同じで感情を持たないのよ」と蔑まれる場面が続いて、ギィに感情移入しているこちらも一緒にいじめられ続ます。(笑)




明日海りおは奴隷生活を送る間の、絶望と諦観に支配された演技から、後半一変して復讐に立ち上がる強い男に変わる対比が見事でした。場面としては弦楽器バルバトを弾いているときのギィの感情を押し殺したような表情が印象的でした。
少年時代を全く違和感なく演じていたのにも感心しました。








王女タルハーミネ役の花乃まりあも、彼女のタカラヅカ生活の集大成といえる演技で、ギィとの波乱に満ちた生涯をよく体現していました。

これまでどちらかといえば庶民的な役が似合う容貌だと思っていましたが、今回は王族の衣装が合っていて、気品も表現できていて、見直しました。

上に書いたように、男トップを踏みつけにするという仰天の演出や、「奴隷なんて感情を持たない砂みたいなもの」と言い放ちながら、実はギィを憎からず思っているという複雑な人物像をよく表現していました。

芹香斗亜は、第二王女ビルマーヤ(桜咲彩花)の奴隷「ジャー」役で、狂言回しの役を兼ねたおいしい役をもらっていました。





ジャーの語りで話が進行し、この物語が、ジャーとともに生きた、すべての人々を弔う叙事詩になっているという心憎い設定です。役柄も優しくて思いやりのある好青年でピッタリ。
与えられた役に十二分に応える歌と演技で、二番手の存在感を示していました。何度も言っていますが、この人は本当に成長しましたね。

ガリア国の王子「テオドロス」役の柚香光ももうけ役でした。

外見に似合わず(殴)、常識をわきまえたいい人で、この人の台詞を聞くとホッとしたり。(笑)

ギィにメンツをつぶされても穏当な対応で、大人です。でも出番も多く、王子にふさわしい品格と爽やかな風貌で目立っていました。

この4人以外も役が多く、しかもみんな適材適所で、役が多いのに個性が際立っていて、それぞれの人物の個性がよくわかりました。
まず奴隷プリーの瀬戸かずやが彼女の持ち味を生かした演技で楽しそうでした。(笑)

ブリーと、その主人である第三王女シャラデハ(音くり寿)の応酬も面白いし、イスファン国王シャハンギールの鳳月杏も威厳と貫禄があり適役。
狩りの場面で

矢に当たった鳥がドサッと落ちてくるのも面白い!


その妻で、王妃アムダリアの仙名彩世も、波乱に満ちた人生を熱演していました。歌が印象的でした。
英真なおきのピピや、高翔みず希のナルギスも安定した演技で、出番は少ないものの、花野じゅりあの女盗賊ラクメも、野性的な魅力たっぷりでよかったです。一本ものだったら、ラクメとギィの場面ももっと膨らませることができて、さらに面白くなったでしょうね。

何度も言いますが、二本物でこれだけ多彩な人物を登場させて、どれもリアルに生き生きと描いている演出家の力量には脱帽です。
フィナーレも見ごたえがあり、今年最後の大劇場公演にふさわしい力作でした。本当にリピートできなかったのが残念です。

これ↓はおまけです










というわけで、今年のタカラヅカ観劇は終わりました。最後に有終の美を飾る秀作を楽しめてよかったです。


コメント
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