人骨の会(軍医学校跡地から発見された人骨問題を究明する会)で活躍している根岸恵子さんから管理人に日本共産党の大山とも子都議を紹介してと依頼があった。訳を聞くと現在アルバイトとして働いている東京都の雇傭条件があまりにも劣悪なので東京都議会に陳情書を提出したいとのことであった。 根岸さんから「自治体労働運動研究 2009、8 VOL.33」 の投稿文を頂いたのでアップします。
私は透明人間
-東京都臨時職員として働いて-
根岸 恵子
私たち東京都臨時職員は「バイトさん」などと呼ばれ、職場によっては名前さえ覚えてもらえず、まるでそこに存在していないかのように扱われている。
カナダ最大の労働組合CUPEのニュースのなかで「労働者の権利は人権と同じ意味を持つ」という言葉があった。私たちには労働者の権利も人権もなく、その言葉の重さに涙がでる思いがした。
昨年、東京都の男女参画センターとして機能する都所管の施設で働いたとき、先任の臨時職員が流産した話を聞いた。彼女はなかなか子どもが授からなかったそうだから、妊娠を知ったときの喜びようは大変なものだったという。しかし、2ヶ月の任用期間の最後に彼女は流産した。その話を聞いて思ったことは、「もし彼女が正規職員だったら」である。
正規職員は妊娠するとさまざまな制度によって守られる。まず、「妊婦通勤時間」は交通の混雑を避けるために、出勤日は60分以内の休暇が認められている。ほかにも「妊娠症状対応休暇」「妊娠出産休暇」「早期流産休暇」などなど。また生まれてからも3年間の育児休業が与えられ、対象は一般職の男女のみの特権である。職員の中には制度を利用して3年ごとに妊娠をするものもいる。
ところが臨時職員には何の優遇措置もなく否応なしに8時間労働は徹底される。1時間でも早く帰ればその日の給料はない。妊婦であろうがなかろうが週5日、8時間労働。職員によっては気にかけてくれる人もいるかもしれない。しかし、私たち臨時職員に配慮する正規職員はあまりいない。妊娠していようがしていまいが、「これはバイトの仕事」と山のような仕事を押し付ける。嫌なら辞めるしかない。人権も労働者の権利もない。これが東京都の女性のための施設で起きたことである。
4月26日に行われた「官製ワーキングプア」の集会に寄せられた川柳である。
非正規の子 お腹の中から 差別され
東京都臨時職員は地方公務員法22条に当たる臨時的任用で働かされている。任用期間はわずか2ヶ月間。1ヶ月の場合も多々ある。そして、ほとんどの臨時職員は臨時的でなく、恒常的に2ヶ月ごとに同じ職場で働いているのが現状である。そして私たちは6ヶ月働いたら1ヶ月強制的に休まなければならない。いわゆる「中断」である。この中断のために、不安定な収入を余儀なくされているのである。
今年、年間6ヶ月働いていた職場から強制的に5ヶ月のみの任用しかできないと通告された。職員は予算がないというが、臨時職員の報酬額は低く、雇用保険逃れと疑われても仕方がない。
就業時間は正規職員と同じ8時間。しかし、正規職員のように時間休が取れないので、病院などに行くために遅刻や早帰りはできない。正規職員は買い物や趣味のために早帰りしているが、私たちはそれを横目で見ているだけである。1時間でも休む場合はその日丸ごと1日休まなくてはいけない。
また、臨時職員は1ヶ月の就労日数が、正規職員の出勤日より1日少ない日しか働けない。強制的に1日休まされるのである。もちろんお金など出ない。正規職員は多くの有給が取れるので実際には臨時職員のほうが働いている日数は多い。
私たちには有給休暇などもちろんない。病気休暇や看護休暇、ましてや条例16条の特別休暇など論外である。今年息子がインフルエンザで40度の熱を出したとき、ある正規職員の子も同じように病気になった。その職員は看護休暇を取って休んだが、私は休むと日給が出ないので出勤した。同じ親なのにどうして差別されるのかと悔しくて涙が出た。
私たちはあらゆる社会保障の恩恵には被れない。交通費でさえ出ない。賃金格差も酷い。日給7190円(職場によって違う。もっと安いところもある)。年間中断月もあることから、10ヶ月ほどしか働けないとして、年収は120万あるかないかである。仕事内容はさまざまであるが、正規職員より働かされている職場も少なくない。年配の職員の中にはパソコンが使えない者もいて、代わりに入力作業させられる事もある。そういう職員は、「私がパソコン使えないから、あなたを雇ってあげているのよ」という態度をとる。どんなに有能な臨時職員でも、長年勤めていようが、昇給もなく、生活賃金に程遠いお金しかもらえない。
私たち東京都臨時職員は、賃金格差や制度的な差別を受けながら、正規職員からは人間的な差別も受ける。
長年同じ職場で働いていても、そこの職場で開かれる親睦会などに招かれる事はない。たいていは会話の外に置かれ、そばにいても無視される。正規職員は私たちをまるで見ようとしない。
同じ職場にいて、一緒に仕事をしているのに回覧が回ってくる事もなく、職場によっては電話に出るな、名前を告げるなといわれる。電話を受ける職場では、職員からかかってくる電話に「あんたに言ってもわからないから、代って」と尊大な口の聞き方をされる。臨時職員を担当する管理課の職員は「雇ってやっている」という態度で接してくる。仕事が山のようにあるのに、次から次へ一方的に仕事を押し付け、拒否すると「バイトの仕事でしょ」と嫌な顔をする。たてつけば次はない。
非常勤 声を上げたら 首切られ
私たちには人間としての尊厳もなく、卑屈な思いをするだけの、まるで透明人間である。
ILOは「自由、公平、保障、人間としての尊厳が確保された条件の下で、人々にディーセントで生産的な仕事を得る機会を促進する」とディーセントワークを謳っている。先進国である日本のそれも東京都で、なぜ私たちのような「不安定な所得」で、「権利が認められていない仕事」が存在しているのか。
なぜ私たちは同じ職場で働きながらこのような差別を受けなくてはならないのか。正規職員は必ず「私たちは試験で受かったのだから」という。試験で入らなければ労働者の権利はないのですか?
また、規則だからとか法律で決められているからともいう。本来法律は何を守るのか。法整備ができてないなら、法を改正すればいい。小泉構造改革から増え続ける非正規職員。現実に即した法整備ができないなら国際社会での日本のありようが問われるべきだ。公正で平等な社会にするために何が必要なのか、まず官から取り組んではいかがですか?
【東京都の臨時職員が酷い条件で働かされている事に関心がもっと大きくなることを 願っていますので、この文章をペーストして多くの方々や団体に転送して頂けるとありがたいと思っています。現在都議会にこの問題を訴えています。多くの都議会議員に関心を持っていただき、東京都の官製ワーキングプアの問題を都が真剣に考えてくれる事を期待しています。 根岸恵子 ご質問やご意見はicc12922@nifty.comにお寄せください。】