「終戦集結の御聖断」保科善四郎(終戦時 海軍軍務局長) 原文のママですが、皇国史観の立場で書かれていますので批判的にお読みください。彼らの手記を読みますと、ポツダム宣言の内容を“つまびらか”に検討もせず、唯々国体護持(天皇制)だけに汲汲している姿が浮かび上がってきます。そして大東亜戦争は「自衛」のためだと認識し、敗戦後も岸信介に代表されるような大手を振って政権の中枢に居座りました。安倍総理の「戦後レジームからの脱却」とは岸、中曽根の「皇国史観に基づく対米従属レジーム」を取り戻すことだと考えます。
戦争終結の御聖断
「万世の為に太平を開く」御聖断を下され給うた天皇陛下臨御の終戟御前会議は、早くも二十数年前のこととなったが、昭和二十年八月九~十日と、同月十四日の二回、宮中でおこなわれた。
ポツダム宣言の受諾をめぐり、国体の護持に加うるに、連合軍は日本本土の保障占領をせぬこと、在外日本軍隊の自主的な武装解除と撤退、戦争犯罪人処分の国内処理、の三条件を絶対に要求すべしとする陸軍の強硬な主張に対し、平沼騏一郎枢密院議長を加えた最高戦争指導会議は、国体護持のみをもって即時受諾を是とする東郷茂徳外務大臣らの主張とが三対三のまま対立して結論を得ない。そこで鈴木貫太郎総理大臣はついに陛下の御聖断を仰ぐこととし、九日午後十一時五十分から第一回の御前会議が開かれたのであった。 私は吉積正雄陸軍省軍務局長、池田正純綜合計画局長官、迫水久常内閣書記官長とともに幹事として会議に列席していたのであるが、この御前会議は実質上、終戦への陛下の御聖断の下った歴史的な会議であった。御前会議でも意見はまっ二つに分かれて一致をみず、時計はすでに十日午前二時を回っていた。ここにおいて鈴木総理は御前に進み出て、「以上のとおり議は分かれて決せず、この上は御聖断を仰ぐほかなし」と奏上したのである。このとき、陛下の仰せられた御聖断のお言葉は、私のメモによれば、次のようであった。
「自分は連合国への回答については外相と同一の考え方である。自分は皇室と人民と国土とが残っていれば、国家生存の根基は残ると信ずる。是れ以上望みない戦争を継続することは、元も子もなくなるおそれが多い。彼我の物力、内外諸般の情勢を勘案するに、我れに勝算はない。
従来勝利獲得の自信ありと聞いておったが、これ迄計画と実行とが表していない。また陸相の言うところによれば、九十九里浜の築城が八月中旬には出来上るとのことであったが未だ出来上っていない。また新設師団が出来ても、これに渡すべき兵器が整っていないとのことだ。これでは機械力を誇る米英軍に対し勝利の見込みはない。朕の股肱たる軍人から武器を取り上げ、また戦争犯罪人として連合軍に引渡すことは、まことに忍びないが、明治天皇の三国干渉時の御決断に倣い、大局上忍び難きを忍び、人民を破局より救い、世界人類の幸福のためかく決心する。」
陛下はこのように仰せられて、畏れ多くも御涙を白手袋で拭わせられるのを拝したのである。時に午前二時三十分であった。
本来、天皇陛下は責任内閣の決するところに従われるというのが、大日本帝国憲法の趣旨であった。しかるに憲法を超越して御聖断を下されたということは、これによって戦争を終結させようとの堅い御決心の結果にちがいなかった。陛下は異常なる御決心をもって終戦の御聖断を下されたのである。
こうして御聖断が下り、ポツダム宣言受諾の通報に対し、連合国の回答の中にあった「天皇および日本国政府は、連合軍司令官にSubject toする」という文句が、再び問題をひき起こした。すなわち天皇大権の保持について連合国側に再照会すべしとする陸軍の主張と、外相らの即時終戦説とが再対立し、ひいて八月十四日の第二回御前会議が開かれることになったのである。この御前会議は、鈴木総理、迫水書記官長らの苦慮によって、緊急に天皇のお召しによる御前会議の招集となり、全閣僚、平沼枢相、最高戦争指導会議構成員ら、十三名が参列したのであった。この会議で、陛下は重ねてポツダム宣言受諾の御聖断を下されたのであるが、お言葉の中に「自分の身はいかようになろうとも、国民の生命を助たいと思う」 「この際、自分の出来ることはなんでもする、マイクの前にも立とう」とも言われ、列席していたもの誰一人声を出して働果しないものはなかった。私もその一人である。しかし、いまにして思う、これは何も日本が敗れたための悲しみの声ではなかった。陛下の思召しに従って、これから日本を再建しようとする、雄々しい再起の叫びであったと感じている。
終戦時、海軍省軍務局長
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