早くも終演から17時間が経つ。
「夢のような」とは、よく聞く話しだが、気が付くと一瞬のように演奏は終わっていた。指揮をしながら「これが現実だろうか?」という不思議な感覚に襲われたりもした。
シュテファン大聖堂でモーツァルトの命日に毎年開催される「モーツァルト追悼記念演奏会」は、大作曲家の霊を慰めるため、終演後に一切の拍手はない。静まり返った堂内に、モーツァルトの葬儀のときと同じ鈴の音が鳴り響き、葬列に参列するかのように、指揮者、ソリスト、オーケストラ、そしてコーラスは退場する。
しかし、その凛と張り詰めた空気の荘厳さから、わたしたちの演奏はウィーンの人々に受け入れられたことを実感した。すべての聴衆はコーラスの最後のひとりが退場するまで、身じろぎもせず着席したままであった。
終演後、4人のソリストからは口々に、このコンサートに参加できた歓びと演奏への讃辞を頂き、オーケストラ奏者たちからも拍手を頂いた。
ソリスト席に立つのは、チューリヒ歌劇場専属のソプラノ:トラットニックさん、フォルクスオパー専属のアルト:ミケリッチさん、ハプスブルク家の葬儀で独唱者に抜擢されたテノールのハインリヒさん、ウィーン宮廷歌手バンクルさんという、まさにヨーロッパの第一線に立たれる4者。彼らの射抜くような視線を受け止めつつ、それに応えながら、或いは道を示しながら指揮するという歓びは、官能的とも呼べるもので魂が震えたものである。
さらに光栄なことに、シモーネ・ヤング先生の祝福も受けることができた。シモーネ・ヤング先生は、「ダフネ」の指揮を終えた直後にシュテファン大聖堂に駆け付けてくださったのだ。「ファンタスティック。 素晴らしい演奏に魅了されました。おめでとう!」
とのお言葉、録音しておきたかったなぁ。